説明

樹脂組成物、波長変換組成物、波長変換層、及び波長変換層を備えた光起電装置

【課題】波長変換物質を均一に分散可能な波長変換組成物及びその成形体、その成形体を備えた光起電装置を提供すること。
【解決手段】樹脂中に2種以上のナノ粒子が分散した透明な樹脂組成物で、好ましくは、ナノ粒子の平均1次粒子径が1〜60nmであり、ナノ粒子が、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子、及びシリカ微粒子から選ばれた少なくとも2種以上の微粒子であり、半導体微粒子が酸化亜鉛半導体微粒子である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び波長変換組成物に関する。特に波長変換組成物は光起電装置に設けられ光の波長を変換して光起電装置の光起電層に供給する際の波長変換層に使用される。
【背景技術】
【0002】
光起電装置は、太陽光を光電変換して電気エネルギーを取り出す太陽電池として用いられる。この種の光起電装置としては、光を起電力に変換する光起電層に単結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いたものが主流である。これらの光起電装置の場合、分光感度が略可視光領域に限られており、太陽光線のうち紫外領域や赤外領域など可視光以外の領域を効率よく電気エネルギーに変換することができない。
【0003】
そこで、光起電装置において電気エネルギーへの変換効率を上げる技術として、特許文献1には、光起電装置において、光起電層の光の入射側の面に波長変換物質としてユーロピウム(Eu3+)、サマリウム(Sm2+)、テルビウム(Tb2+)などの希土類イオンが配合されたガラス板を設けることが記載される。これにより、太陽光線のうち紫外領域が可視光領域に変換されて、光起電層に供給される。
【0004】
また、特許文献2には、光起電装置において、光起電層の光の入射側の面に設けた無反射膜に波長変換物質としてユーロピウム(Eu3+)をドープすることが記載されている。この光起電装置において、無反射膜中にユーロピウム(Eu3+)を均一に分散させるために、無反射膜中の形成とユーロピウム(Eu3+)の注入とが複数回にわたって繰り返される。これにより、太陽光線のうち紫外領域が可視光領域に変換されて、光起電層に供給される。
さらに、特許文献3には波長変換物質としてCdSe、CdTe、GaN、Si、InP、ZnOなどの半導体微粒子やそれらをコアシェル型にした粒子を用いた記載がある。半導体微粒子の合成法としては、スパッタリング法、電気炉加熱法、エッチング法、噴霧熱分解法、陽極酸化法、噴霧乾燥法がある(特許文献4、5、6、非特許文献1参照)。非特許文献2にはゾル−ゲル法による酸化亜鉛半導体微粒子の合成について記載されている。非特許文献3には、酸化亜鉛半導体微粒子とシリカ微粒子の複合微粒子を噴霧乾燥法により作製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−142716号公報(0021段落,0022段落。及び図1)
【特許文献2】特開平8−204222号公報(0010段落及び図1)
【特許文献3】特開2006−216560号公報
【特許文献4】特開2006−70089号公報
【特許文献5】特開平6−90019号公報(0009段落)
【特許文献6】特開2003−019427号公報
【非特許文献】
【0006】

【非特許文献1】クリーンテクノロジー、 7、27−30(2007)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,113,2826−2833(1991)
【非特許文献3】J.Appl.Phys.,89(11),6431−6434(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のように波長変換層を設けて電気エネルギーへの変換効率を向上させるためには、波長変換層における光の透過性を損なうことなく、波長変換効率を向上させる必要がある。このため、波長変換層に波長変換物質を均一に分散させる必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の光起電装置では、ガラス基板を形成する際に波長変換物質が凝集する可能性があり、波長換物質を均一に分散させることが困難である。一方、特許文献2に記載の光起電装置では、波長変換物質をある程度均一に分散させることができるものの、無反射膜層の形成と波長変換物質の注入とを複数回にわたって繰り返す必要があるため、工程が複雑化し製造コストが増大するという問題があった。また、特許文献3に記載の光起電装置では、波長変換されるものの、有毒性の問題や、光取出し効率が低いため光起電装置のエネルギー変換効率を十分に向上させることができないなどの問題があった。
本発明の目的は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、製造コストを増大させることなく波長変換物質を均一に分散可能な波長変換組成物及びその成形体、その成形体を備えた光起電装置を提供することにある。同時に本発明の目的は、波長変換物質がナノ粒子の場合、ナノ粒子を均一に分散した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、樹脂中に、2種以上のナノ粒子が分散した透明な樹脂組成物である点にある。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、前記2種以上のナノ粒子の平均1次粒子径が1〜60nmである点にある。
【0010】
本構成のようにナノ粒子の平均1次粒子径が1〜60nmとすることにより、樹脂組成物の光の透過性を損なうことがない。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、前記ナノ粒子が、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子、及びシリカ微粒子から選ばれた少なくとも2種以上の微粒子である点にある。
【0012】
ナノ粒子が、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子、シリカ微粒子から選ばれた少なくとも2種以上の微粒子とすることにより、波長変換、発光、導電などの機能を付与することが可能となると共に、樹脂組成物の透明性が一層向上される。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、前記半導体微粒子が、酸化亜鉛半導体微粒子である点にある。
【0014】
半導体微粒子として酸化亜鉛半導体微粒子を選択することにより、紫外領域の太陽光線を緑色の可視領域の光に効率よく変換することができる。
【0015】
本発明の第5特徴構成は、前記希土類が、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ジスプロジウム(Dy)、及びネオジム(Nd)からなる群より選択される1又は2以上を含有する物質である点にある。
【0016】
希土類として上述の物質を用いることにより、紫外領域や赤外領域の太陽光線を可視光領域の光に効率よく変換することができる。
【0017】
本発明の第6特徴構成は、前記酸化物微粒子が、イットリウム、バナジウム、ビスマスから選ばれた少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物微粒子である点にある。
【0018】
本構成により、太陽光に含まれる紫外線の吸収を効率よく行うことができる。
【0019】
本発明の第7特徴構成は、前記シリカ微粒子が、コロイダルシリカである点にある。
【0020】
本構成により、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子の分散性が向上し樹脂組成物の透明性が向上する。
【0021】
本発明の第8特徴構成は、前記ナノ粒子を分散する方法が、2種以上の微粒子を均一に複合化した複合微粒子を作製し、それを樹脂に混合して、機械的に破砕し分散する方法である点にある。
【0022】
本構成により、複合微粒子中で異種ナノ粒子が均一に複合化されているので、ナノサイズの同一ナノ粒子が互いに凝集し分散しにくくなることを防ぎ、機械的に破砕し分散しやすくなる。これにより、ナノ粒子を樹脂に分散し透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
本発明の第9特徴構成は、前記樹脂が、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂である点にある。
【0024】
本構成により、樹脂組成物を光や熱で硬化させ成形することが可能となる。
【0025】
本発明の第10特徴構成は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂である点にある。
【0026】
本構成により、太陽電池に用いられる封止樹脂として使用できるようになる。
【0027】
本発明の第11特徴構成は、前記樹脂組成物中に、シリコン化合物を含有させる点にある。
【0028】
本構成により、樹脂とナノ粒子の親和性が改善される。これにより、ナノ粒子を樹脂に分散し透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
本発明の第12特徴構成は、前記シリコン化合物が、アミノシランカップリング剤である点にある。
【0030】
本構成により、樹脂とナノ粒子の親和性が改善される。これにより、ナノ粒子を樹脂に分散し透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
本発明の第13特徴構成は、前記アミノシランカップリング剤が、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランである点にある。
【0032】
本構成により、樹脂とナノ粒子の親和性が改善される。これにより、ナノ粒子を樹脂に分散し透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0033】
本発明の第14特徴構成は、前記樹脂組成物中に、アルミニウム化合物、ガリウム化合物、インジウム化合物、リン化合物、及びスズ化合物から選ばれた少なくとも1種以上を含有させる点にある。
【0034】
本構成により、前記樹脂組成物中に導電性を付与できる。これにより、透明導電膜を作製できる。
【0035】
本発明の第15特徴構成は、前記樹脂組成物が、吸収した光の波長を変換する機能を有する点にある。
【0036】
本構成により、太陽電池、照明装置、LED装置と併用し、光を有効利用できるようになる。太陽電池と併用することにより、太陽電池に利用されない紫外光や赤外光を太陽電池が利用する可視光領域に変換することができるようになり、太陽電池の変換効率を向上させることが可能となる。
【0037】
本発明の第16特徴構成は、前記波長変換組成物を成形してなる波長変換層である点にある。
【0038】
本構成により、太陽電池、照明装置、LED装置と併用し、光を有効利用できるようになる。太陽電池と併用することにより、太陽電池に利用されない紫外光や赤外光を太陽電池が利用する可視光領域に変換することができるようになり、太陽電池の変換効率を向上させることが可能となる。
【0039】
本発明の第17特徴構成は、前記波長変換層を備えた光起電装置である点にある。
【0040】
本構成により、光起電装置に利用されない紫外光や赤外光を光起電装置が利用する可視光領域に変換することができるようになり、光起電装置の変換効率を向上させることが可能となり、高効率太陽電池の作製が可能となる。
【0041】
本発明の第18特徴構成は、前記波長変換層が光起電装置の面内に凹凸構造を有する点にある。
【0042】
本構成により、太陽光の光吸収光率、照明装置やLED装置の光取り出し効率が向上し、さらに光の有効利用が可能となる。
【0043】
本発明の第19特徴構成は、前記凹凸構造の高低差が300nm〜100μmの凹凸構造である点にある。
【0044】
本構成により、太陽光の光吸収光率、照明装置やLED装置の光取り出し効率が向上し、さらに光の有効利用が可能となる。
【0045】
本発明の第20特徴構成は、前記凹凸構造の面内周期が300nm〜50μmである点にある。
【0046】
本構成により、太陽光の光吸収光率、照明装置やLED装置の光取り出し効率が向上し、さらに光の有効利用が可能となる。
【0047】
本発明の第21特徴構成は、前記波長変換層が、インクジェット方式により形成される点にある。
【0048】
本構成により、真空を用いることなく、常圧で塗布でき、各種凹凸形状、多層構造などを容易に作製できるようになる。これにより、低コストで高機能な波長変換層の作製が可能となる。
【0049】
光起電装置に使用される波長変換層が、インクジェット方式により形成される点にある。
本構成により、真空を用いることなく、常圧で塗布でき、各種凹凸形状、多層構造などを容易に作製できるようになる。これにより、低コストで高機能な波長変換層の作製が可能となる。したがって、低コストで高効率な太陽電池の作製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る光起電装置を示す図
【図2】波長変換層の詳細を示す図
【図3】本発明に係る光起電装置の別実施形態を示す図
【図4】本発明に係る光起電装置の別実施形態を示す図
【図5】本発明に係る波長変換層が凹凸構造を有する光起電装置の実施形態を示す図
【図6】本発明に係る波長変換層が凹凸構造を有する光起電装置の別実施形態を示す図
【図7】本発明に係る波長変換層が凹凸構造を有する光起電装置の別実施形態を示す図
【図8】本発明に係る波長変換層が凹凸構造を有する光起電装置の別実施形態を示す図
【図9】本発明に係る波長変換層が凹凸構造を有する光起電装置の別実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の樹脂組成物は各種の用途に適用できるが、主として波長変換組成物として使用した場合の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
本発明の樹脂組成物は透明であることを特長としている。樹脂組成物の厚み100μmの塗膜において、平行光線透過率が90%以上あるものを透明とする。
[実施形態1]
図1に本発明に係る波長変換組成物からなる波長変換層3を備えた光起電装置1を示す。この光起電装置1は、光により起電力を生じる光起電層2を備え、光起電層2の光の入射面側に波長変換組成物からなる波長変換層3が設けられている。
【0052】
光起電層2は、光により起電力を生じるもので、p型半導体層、真空半導体層、n型半導体層からなる半導体層と、EVA樹脂組成物などの封止材、半導体層の片面又は両側の面に設けられた透明電極層を備える。半導体層は、特に限定はされないが、例えば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体などを用いることができる。透明電極は、特に限定はされないが、例えば、ITOや酸化錫などによって構成される。なお、光起電装置1の構成はこれに限定されるものではなく、本発明の波長変換組成物は、種々の光起電装置1に適用することができる。特に市販の光起電層2に波長変換層3を設ける場合、光起電層2の上にさらにガラス、透明電極、無反射層、保護層等が形成される場合がある。この場合は、ガラス、透明電極、無反射層、保護層等の上又は下に波長変換層3が形成される。
【0053】
この実施形態において、波長変換層3は、紫外領域の太陽光線を可視光領域に変換する。図2に示すように、この波長変換層3は、樹脂5中に分散された第1のナノ粒子6と、第2のナノ粒子8及び必要に応じてその他のナノ粒子(図示せず)とを備える。2種以上のナノ粒子を均一に複合化した複合微粒子を作製し、それを樹脂に混合して、機械的に破砕し分散することにより、樹脂5中にナノ粒子が分散した透明な樹脂組成物を得ることができる。この波長変換層3は、前記透明な樹脂組成物を、例えば、光起電層2の表面に塗布して光硬化させることにより形成される。このため、例えば、市販の光起電装置1に透明な樹脂組成物である波長変換組成物を塗布して光硬化させるだけで波長変換層3を形成することができる。
【0054】
以下、波長変換層3を構成する透明な樹脂組成物である波長変換組成物の詳細について説明する。この波長変換組成物は、樹脂5中に2種以上のナノ粒子を含有して構成される。
【0055】
樹脂5としては、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が用いられ、光を透過するものであれば特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等が挙げられる。
【0056】
エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられる。直接、アモルファスシリコンなどの光起電層や反射防止膜を形成させるためなど、耐熱性を必要とする場合は、脂環式構造を有するものが好ましい。脂環式エポキシ樹脂としては例えば3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3‘、4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2,8,9−ジエポキシリモネン、ε−カプロラクトンオリゴマーの両端にそれぞれ3,4−エポキシシクロヘキシルメタノールと3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸がエステル結合したもの、水添ビフェニル骨格、及び水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0057】
アクリル樹脂としては2つ以上の官能基を有する(メタ)アクリレートであれば、特に制限されないが、直接、アモルファスシリコンなどの光起電層や反射防止膜を形成させるためなど、耐熱性を必要とする場合は、脂環式構造を有するものが好ましい。脂環式構造を有する(メタ)アクリレートとしては、特に、化(1)及び化(2)より選ばれた少なくとも1種以上の(メタ)アクリレートを重合したアクリル樹脂が好ましい。
【0058】
【化1】

(化(1)中、R1及びR2は、互いに異なっていても良く、水素原子又はメチル
基を示す。aは1又は2を示し、bは0又は1を示す。)
【0059】
【化2】

【0060】
さらに好ましくは、化(1)において、R1、R2が水素で、aが1、bが0である構造を持つジシクロペンタジエニルジアクリレート、一般式(2)において、Xが−CH2OCOCH=CH2、R3、R4が水素で、pが1である構造を持つパーヒドロ−1,4;5,8−ジメタノナフタレン−2,3,7−(オキシメチル)トリアクリレート、 X、R3、R4がすべて水素で、pが0または1である構造を持つアクリレートより選ばれた少なくとも1種以上のアクリレートであり、粘度等の点を考慮すると、最も好ましくは、 X、R3、R4がすべて水素で、pが0である構造を持つノルボルナンジメチロールジアクリレートである。
【0061】
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂としては、太陽電池用の封止材として使用する場合は、後架橋のため、VA含有量が20〜50%のものが好ましく、さらに好ましくは、25〜35%のものである。
【0062】
本発明に使用する2種以上のナノ粒子の平均1次粒子径は、1〜60nmであることが好ましく、更に好ましくは 2〜30nmである。平均1次粒子径が下限値未満では、波長変換機能や導電機能が十分発揮できない。また平均1次粒子径が上限値を超えると樹脂組成物の透明性が著しく損なわれる。
【0063】
また、ナノ粒子は、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子、及びシリカ微粒子から選ばれた少なくとも2種以上の微粒子であることが好ましい。これらを用いることにより、樹脂中に分散し透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0064】
半導体微粒子としては、化合物半導体微粒子やシリコン半導体微粒子などが挙げられる。化合物半導体微粒子としては、III−V族半導体微粒子、II−VI族半導体微粒子が挙げられ、中でも、コスト、毒性などの観点から、酸化亜鉛半導体微粒子が好ましい。
【0065】
希土類イオンをドープした酸化物微粒子に用いられる希土類としては、希土類であれば特に制限されないが、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ジスプロジウム(Dy)、及びネオジム(Nd)が好ましく、さらに好ましくは、ユーロピウム(Eu)が好ましい。希土類に、ユーロピウム(Eu)を用いることにより、紫外線を吸収し、赤色の可視光を発する機能が付与される。これにより、太陽電池などに用いた場合、光を有効に活用できるようになり、太陽電池の変換効率が向上する。
【0066】
希土類イオンをドープした酸化物微粒子の酸化物微粒子としては、酸化物微粒子であれば特に制限されないが、シリカ、ジルコニア、イットリウム、バナジウム、ビスマスから選ばれた少なくとも1種以上の元素を含有する酸化物微粒子が好ましく、さらに好ましくは、イットリウム、バナジウム、ビスマスから選ばれた少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物微粒子である。地上に到達する紫外領域の太陽光は、波長300nm〜400nmのものが大半である。イットリウム、バナジウム、ビスマスから選ばれた少なくとも一種以上の元素を含有させることにより、これらを有効に吸収し、可視光に変換することが可能となる。
【0067】
シリカ微粒子としては、シリカを主成分とする微粒子であれば特に制限されないが、コスト、取扱の観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0068】
2種以上のナノ粒子を、樹脂5中に分散する方法としては、2種以上のナノ粒子を均一に複合化した複合微粒子を作製し、それを樹脂に混合して、機械的に破砕し分散する方法が好ましい。通常、一旦ナノ粒子が凝集すると樹脂中に分散することは極めて困難である。しかし、2種以上のナノ粒子を均一に複合化した複合微粒子を作製することにより、同一のナノ粒子が異種のナノ粒子で包囲され、同一ナノ粒子同士の凝集を防ぐことができる。これにより、樹脂に混合して機械的に分散することにより、容易に破砕し、それぞれのナノ粒子が、ナノオーダーで分散する。
【0069】
複合微粒子の作製方法としては、特に限定はされないが、例えばゾルーゲル法、錯体重合法、PVA法、錯体均一沈殿法、逆ミセル法、コロイド析出法、ホットソープ法超臨界水熱法、ソルボサーマル法、スプレー熱分解法、噴霧乾燥法などが挙げられる。これらは、単独で用いても、併用しても良い。コスト、量産性の観点で、ゾルゲル法、逆ミセル法、スプレー熱分解法、噴霧乾燥法などが好ましく、さらに好ましくは噴霧乾燥法である。
【0070】
機械的な分散方法としては、せん断や衝撃などの機械的な破壊エネルギーを与える装置を用いた分散方法であれば特に制限されないが、ボールミル、ビーズミル、2軸混練機等を用いた分散方法が挙げられる。中でも、破壊エネルギーが高く連続的に処理できるビーズミル、2軸混練機を用いた分散方法が好ましい。
【0071】
2種以上のナノ粒子の複合微粒子中における配合比率は、目的に応じ調整することができる。全ナノ粒子の樹脂中における含有量が1〜50vol%が好ましく、さらに好ましくは、1〜30vol%である。
【0072】
2種以上のナノ粒子を樹脂中に均一に分散するため、樹脂組成物中に、シリコン化合物を含有させることが好ましい。シリコン化合物としては、シリコンを含有する化合物であれば、特に制限されないが、アミノシランカップリング剤が好ましく、さらに好ましくは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランである。
【0073】
また、導電性機能を付与するために、前記樹脂組成物中にアルミニウム化合物、ガリウム化合物、インジウム化合物、リン化合物、及びスズ化合物から選ばれた少なくとも1種以上を含有させても良い。樹脂中に酸化亜鉛半導体微粒子を含む場合は、その酸化亜鉛微粒子に、アルミニウムやガリウムをドープして使用しても良い。ドープする方法としては、非特許文献2と同様な方法で、酸化亜鉛半導体微粒子をゾルゲル法で作製するときに、アルミニウム化合物であるアルマトラン、アルミニウム(III)s−ブトキサイドや、以下の化合物を併用することにより作製できる。
M[N(OR)
ここでMは、Al、Ga、Inから選ばれた少なくとも1つ以上の元素、Nは、Al、Gaから選ばれた少なくとも1つ以上の元素、Rは炭素数1〜5の炭化水素である。
また、以上のアルミニウム化合物、ガリウム化合物、インジウム化合物、リン化合物、スズ化合物は、複合微粒子を機械的に破砕し分散する過程で添加しても良い。
【0074】
[実施形態2]
上述の実施形態において、図3に示すように、波長変換層3として、紫外領域の太陽光線を可視光領域に変換する第1波長変換層31と、赤外領域の太陽光線を可視光領域に変換する第2波長変換層32とを設けてもよい。この実施形態では、図3に示すように、光の入射側から順に第1波長変換層31、第2波長変換層32の順に形成されている。光は、波長が長いほど透過しやすくなる。従って、波長の短い紫外領域を可視光領域に変換する第1波長変換層31を光の入射側に設け、波長の長い赤外領域を可視光領域に変換する第2波長変換層32をその内側に設けることにより、波長変換の効率を高めることができる。
【0075】
[実施形態3]
また、波長変換層3として、紫外領域の太陽光線を可視光領域に変換する第1波長変換層3と、赤外領域の太陽光線を可視光領域に変換する第2波長変換層3とを設ける場合、図4に示すように、光起電層2の光の入射面側に第1波長変換層3を形成し、光起電層2の裏面に第2波長変換層3を形成し、さらに第2波長変換層3の光起電層2側とは反対の側に反射層7を設けてもよい。
【0076】
[実施形態4]
上述の実施形態において、波長変換組成物を光起電装置1に塗布し硬化させて波長変換層3を形成する例について説明したがこれに限られるものではない。例えば、波長変換組成物を硬化させたフィルムを形成し、これを接着剤等によって、光起電装置1に設けることにより波長変換層3を形成してもよい。
【0077】
[実施形態5]
上述の実施形態において、波長変換層3が光起電装置の面内に凹凸構造を有するように設置されても良い。これにより、光の透過ロス、波長変換層と光起電装置界面における反ロス等を削減することができ、波長変換層で変換された光を効率よく光起電装置に供給することができる。
【0078】
前記凹凸構造の高低差は、斜め方向からの太陽光の吸収とコストのバランスから、300nm〜100μmが好ましく、さらに好ましくは、1〜50μmであり、最も好ましくは、10〜50μmである。凹凸構造の高低差の測定には、原子間力顕微鏡、共焦点顕微鏡、レーザー顕微鏡等の顕微鏡を用いて測定することができる。
【0079】
また、前記凹凸構造の面内周期は、300nm〜50μmが好ましい。波長変換組成物の光吸収波長領域とほぼ同程度の周期にすることが好ましい。面内直角方向(X方向、Y方向)の凹凸周期は同じであっても異なっていても良い。また同じ方向における面内周期のばらつきがあっても良い。凹凸構造の面内周期は、原子間力顕微鏡、共焦点顕微鏡、レーザー顕微鏡等の顕微鏡を用いて測定した画像情報をフーリエ変換することにより求めることができる。
【0080】
前記凹凸構造の形状としては、ドット、マイクロレンズ、L&S、ハニカム、セル、四角錐、モスアイ、円錐形など、さまざまな形状を用いることができる。コストと効率の観点から、ドット、マイクロレンズ、L&S、セル、四角錐の形状が好ましく、さらに好ましくは、ドット、マイクロレンズの形状である。以上の凹凸構造の例を図5〜9に示す。
【0081】
前記凹凸構造は、光起電装置の面、光起電装置側と反対の面、又は両面に形成することができる。光起電装置側の面に形成する場合は、あらかじめ、光起電装置表面に波長変換組成物やその他の樹脂組成物で微細凹凸形状を形成した後、その上に波長変換組成物を塗布すると良い。また、この場合、光起電装置側の面の凹凸形状の面内周期は、300nm〜1μmの範囲にすることが好ましい。光起電装置と反対の面、光起電装置側の面の両面に凹凸構造を形成する場合は、光起電装置側の面の凹凸形状の面内周期を、光起電装置と反対の面の凹凸形状の面内周期より小さくすることが好ましい。
【0082】
前記凹凸構造は、隣り合う凹凸が同じ波長変換組成物であっても、異なる波長変換組成物であっても良い。波長変換組成物の光吸収波長範囲が比較的狭い場合は、光吸収波長範囲を広げるなどの目的で、隣り合う凹凸の波長変換組成物を異なるものに設定することにより、効率よく光起電装置の発電効率を向上させることができる。
【0083】
前記凹凸構造を形成した後、前記凹凸構造の上にさらに別の樹脂組成物をオーバーコートすることができる。これにより、耐汚性、耐久性などの低下を抑制できる。
【0084】
[実施形態6]
上述の実施形態において、前記波長変換層3の塗布方法には、スプレー、ディスペンサー、インクジェット等、さまざまな方法を用いることができる。塗布速度、装置コスト、微細形状描画精度等を考慮すると、インクジェット方式を用いた塗布が好ましく、中でも、比較的高粘度にも対応できるピエゾ方式のインクジェットが好ましい。
また、インクジェット方式では10μm以下の凹凸形状付与が困難な場合がある。このような場合は、ナノインプリントなどの技術を用いて、凹凸構造を形成することも可能である。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の内容を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
(1)2種以上のナノ粒子(酸化亜鉛半導体微粒子とシリカ微粒子)を含む複合微粒子
非特許文献2及び3記載の方法に準じて以下のように複合微粒子を作製した。先ず酸化亜鉛半導体微粒子のエタノール溶液を作製した。作製した溶液は紫外線(中心波長365nm)照射により、緑色の発光を示した。又、この酸化亜鉛半導体微粒子の平均1次粒径は約3nmであった。次いで、この酸化亜鉛半導体微粒子のエタノール溶液と平均1次粒径5nmのコロイダルシリカのエタノール溶液を用い、作製する複合微粒子の酸化亜鉛微粒子とコロイダルシリカの体積比率が1:1になるように、噴霧乾燥法により複合微粒子を作製した。作製した複合微粒子の大きさは、ミクロンサイズの大きさのものが主体であったが、中には1μm未満のものも含まれていた。
【0087】
(2)樹脂組成物
一般式(2)において、X、R3、R4がすべて水素で、pが0である構造を持つノルボルナンジメチロールジアクリレート[試作品番 TO−2111;東亞合成(株)製]、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、(1)で作製した2種以上のナノ粒子(酸化亜鉛半導体微粒子とシリカ微粒子)を含む複合微粒子をビーズミルにより約10分攪拌し分散した。ノルボルナンジメチロールジアクリレート、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、複合微粒子の配合比率は、体積比で8:1:1とした。分散処理後の樹脂組成物は、樹脂単体の透明性と同程度の透明性を有することを肉眼で確認した。
【0088】
(3)透明性評価
(3−1)透明性と線膨張係数
(2)で得られた樹脂組成物と光触媒とを混合し、ガラス板上に作成した厚み0.15mmの枠内に注入し、上部よりガラス板をのせ枠内に充填した。ガラス板の両面から約500mJ/cm2のUV光を照射して樹脂組成物を硬化させ、ガラスからシートを剥離した。得られたシートを、それぞれ、真空オーブン中で、約100℃で3時間加熱後、さらに約275℃で3時間加熱して、シート状サンプルを得た。得られたシート状サンプルの厚みをマイクロメーターで測定した結果、105μmであった。
上記シート状サンプルに関して日本電色工業株式会社製NDH2000を用いてヘイズ測定を測定した結果、0.5であり、分光光度計UV−2400PC(島津製作所製)で平行光線透過率を測定した結果、平行光線透過率は93%であった。肉眼で見ても、非常に透明なシートであることが確認できた。
【0089】
(3−2)発電効率
市販の結晶シリコン太陽電池セルの表面に、(2)で得られた樹脂組成物と光触媒とを混合し、ピエゾ方式のインクジェットを用いて図5に示されるようなマイクロレンズ形状に塗布し、UV光を照射して最終の太陽電池セルとした。顕微鏡観察により得られたマイクロレンズ形状の直径、凹凸構造の高低差、周期は、それぞれ、約30μm、約10μm、約40μmであった。このセルについて発電効率を測定したところ、約3%、発電効率が向上することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の樹脂組成物は、波長変換組成物として、光を電気エネルギーに変換する光起電装置に適用することができる。また、電圧の印加、電子線照射、太陽光の紫外線、近赤外線などにより可視領域の波長を有する光を発光するので、バイオイメージング、セキュリティ用塗料、ディスプレイ、照明等にも好適に利用できる。波長変換物質としてナノクリスタルを用いた場合には、光起電装置そのものにも活用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 光起電装置
2 光起電層
3 波長変換層
4 複合微粒子
5 樹脂
6 第1のナノ粒子
7 反射層
8 第2のナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に、2種以上のナノ粒子が分散した透明な樹脂組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子の平均1次粒子径が1〜60nmである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、半導体微粒子、希土類イオンをドープした酸化物微粒子、及びシリカ微粒子から選ばれた少なくとも2種以上の微粒子である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記半導体微粒子が、酸化亜鉛半導体微粒子である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記希土類が、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ジスプロジウム(Dy)、及びネオジム(Nd)からなる群より選択される1又は2以上を含有する物質である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸化物微粒子が、イットリウム、バナジウム、ビスマスから選ばれた少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物微粒子である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記シリカ微粒子が、コロイダルシリカである請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子を分散する方法が、2種以上のナノ粒子を均一に複合化した複合微粒子を作製し、該複合微粒子を樹脂に混合して、機械的に破砕し分散する方法である請求項1〜7の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂が、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂である請求項1〜8の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂である請求項1〜8の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂組成物中に、更にシリコン化合物を含有させてなる請求項1〜10の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記シリコン化合物が、アミノシランカップリング剤である請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記アミノシランカップリング剤が、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランである請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物中に、アルミニウム化合物、ガリウム化合物、インジウム化合物、リン化合物、及びスズ化合物から選ばれた少なくとも1種以上を含有させてなる請求項1〜13の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記樹脂組成物が、吸収した光の波長を変換する機能を有する請求項1〜14の何れか一項に記載の波長変換組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の波長変換組成物を成形してなる波長変換層。
【請求項17】
請求項16に記載の波長変換層を備えた光起電装置。
【請求項18】
前記波長変換層が光起電装置の面内に凹凸構造を有する請求項17に記載の光起電装置。
【請求項19】
前記凹凸構造の高低差が300nm〜100μmの凹凸構造である請求項18に記載の光起電装置。
【請求項20】
前記凹凸構造の面内周期が300nm〜50μmである請求項18又は19に記載の光起電装置。
【請求項21】
インクジェット方式により形成される請求項16に記載の波長変換層。
【請求項22】
波長変換層が、インクジェット方式により形成される請求項17〜20の何れか一項に記載の光起電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−186845(P2010−186845A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29425(P2009−29425)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】