説明

樹脂組成物、透明複合基板および表示素子基板

【課題】硬化させて複合基板とし、これに湿熱処理等の信頼性試験を行ったとき、内部応力に起因する光学異方性の悪化が抑制された透明複合基板を提供可能な樹脂組成物、および、かかる樹脂組成物を用いて製造された透明複合基板および表示素子基板を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、硬化させて複合基板としたときに、透明な透明複合基板を製造可能なものであり、エポキシ系樹脂と、ガラスフィラーと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含むものである。また、エポキシ系樹脂には、グリシジル型エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂とを併用するのが好ましい。また、ガラスフィラーとしては、ガラス繊維布が好ましく用いられる。さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、リン系酸化防止剤とともに用いられるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、透明複合基板および表示素子基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子や有機EL表示素子等の表示素子に用いられる基板(表示素子基板)、カラーフィルター基板、太陽電池用基板等としては、ガラス板が広く用いられる。しかしながら、ガラス板は、割れ易い、曲げられない、軽量化に不向き等の理由から、近年、その代替材としてプラスチック素材からなる基板が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤および硬化触媒を含むエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化体からなる液晶表示素子用透明樹脂基板が記載されている。しかしながら、これら従来のガラス代替用プラスチック材料は、ガラス板に比べ線膨張係数が大きい。このため、特にアクティブマトリックス表示素子基板に用いられた場合、その製造工程において基板の反りやそれに伴う配線の断線といった問題が生じる。このため、これら用途への使用は困難である。
【0004】
そこで、線膨張係数を低減するために、樹脂材料にガラスパウダーやガラス繊維等の無機フィラーを配合する材料の複合化が行われている。しかしながら、樹脂材料と無機フィラーとでは屈折率が異なるため、樹脂材料を透過する光が樹脂材料と無機フィラーとの界面で散乱し、複合材料の透明性が損なわれる。
【0005】
かかる問題を解消するため、特許文献3には、酸無水物で硬化したエポキシ樹脂と実質的に同じ屈折率の充填材とからなる光透過性エポキシ樹脂組成物が開示されている。このような樹脂組成物では、エポキシ樹脂と充填材との間で屈折率差が小さく抑えられることにより、複合材料の透明化が試みられている。
【0006】
上述したような複合材料では、透明性が向上したとしても、複合材料特有の構造に基づくミクロレベルの光学異方性が生じる。具体的には、樹脂材料とフィラー(充填材)とで熱膨張係数が異なるため、両者の界面に微小な内部応力が生じ、それに伴って樹脂材料の分子の配向が生じることにより光学異方性が生じる。このような光学異方性は、複合材料を透過する光に位相差をもたらすことから、複合材料を用いて例えば表示素子基板を製造した場合、鮮明な表示を行うことが困難になる。特に近年、表示画素の精細化が進んでいることから、複合材料における光学異方性は、より重要な特性になりつつある。
【0007】
例えば、表示素子基板には、湿熱処理といった厳しい環境下での信頼性試験を行い、それに耐え得る耐久性が求められている。しかしながら、信頼性試験によって光学異方性が悪化することが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−337408号公報
【特許文献2】特開平7−120740号公報
【特許文献3】特開平4−236217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、硬化させて複合基板とし、これに湿熱処理等の信頼性試験を行ったとき、内部応力に起因する光学異方性の悪化が抑制された透明複合基板を提供可能な樹脂組成物、および、かかる樹脂組成物を用いて製造された透明複合基板および表示素子基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) 透明複合基板の製造に用いられる樹脂組成物であって、
エポキシ系樹脂と、ガラスフィラーと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【0011】
(2) 前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が、0.01質量%以上5質量%以下である上記(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
(3) 前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その融点が100℃以上のものである上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(4) 前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その分子構造中にネオペンタン構造を有するものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
(5) さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤100質量部に対して、リン系酸化防止剤を30〜300質量部の割合で含む上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
(6) 前記エポキシ系樹脂は、脂環式エポキシ樹脂とグリシジル型エポキシ樹脂とを含むものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
(7) 前記脂環式エポキシ樹脂は、下記化学式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂および下記化学式(2)で示される脂環式エポキシ樹脂の少なくとも一方を含むものである上記(6)に記載の樹脂組成物。
【化1】

【化2】

[上記式(2)中、−X−は−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CH−、−CH(CH)−、または−C(CH−を表す。]
【0017】
(8) 前記グリシジル型エポキシ樹脂の含有量は、前記脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部である上記(6)または(7)に記載の樹脂組成物。
【0018】
(9) 前記ガラスフィラーは、ガラス繊維布である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0019】
(10) 当該樹脂組成物は、300℃の温度で1分間加熱されたとき、前記酸化防止剤またはその分解成分がガスとして実質的に検出されないものである上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
(11) 上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする透明複合基板。
【0021】
(12) 上記(11)に記載の透明複合基板を備えることを特徴とする表示素子基板。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、硬化させて複合基板としたときに、内部応力に起因する光学異方性を低減させ、ガラス基板を代替し得る透明複合基板を提供可能な樹脂組成物が得られる。
【0023】
表示素子基板用途としては透明複合基板の長期信頼性が必要となり、信頼性試験での特性悪化が無いまたは小さい透明複合基板が求められる。本発明によれば、信頼性試験においても、光学異方性の悪化が小さい透明複合基板、および、光学異方性が小さい鮮明な表示を可能にする表示素子基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)実施例7で用いたヒンダードフェノール系酸化防止剤単体のアウトガスの評価結果(マススペクトル)と、(b)実施例7で得られた透明複合基板のアウトガスの評価結果(マススペクトル)とを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の樹脂組成物、透明複合基板および表示素子基板について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、成形し、硬化させることで、透明な複合体を製造するために用いられるものであり、エポキシ系樹脂とガラスフィラーとヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含むものである。
【0027】
また、本発明の透明複合基板は、上述の樹脂組成物を板状に成膜し、硬化させてなるものであり、光学異方性が小さいものである。
【0028】
また、本発明の表示素子基板は、上述の透明複合基板を備えるものであり、光学異方性が小さく、鮮明な表示を可能にするものである。
【0029】
<樹脂組成物>
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂とガラスフィラーとヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含むものである。
【0031】
(エポキシ樹脂)
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式多官能エポキシ樹脂、水添ビフェニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのエポキシ樹脂の1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0032】
また、上述したエポキシ樹脂は、グリシジル基およびエーテル結合を含むグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジル基およびエステル結合を含むグリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル基およびアミノ基を含むグリシジルアミン型エポキシ樹脂のようなグリシジル型エポキシ樹脂と、脂環式エポキシ基を有する脂環式エポキシ基に大別できるが、本発明では特に、分子内に2個以上のエポキシシクロヘキサン環を有する脂環式エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0033】
また特に、下記化学式(1)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ構造、または、下記化学式(2)で示される脂環式エポキシ構造が好適に用いられる。
【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

[上記式(2)中、−X−は−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CH−、−CH(CH)−、または−C(CH−を表す。]
【0036】
このような脂環式エポキシ樹脂は、低温での硬化性に優れることから、低温で硬化処理を行うことができる。これにより、硬化時に樹脂組成物を高温にする必要がなくなるため、その後樹脂組成物を室温に戻しても、温度の変化量を抑えることができる。その結果、本発明の樹脂組成物を用いて得られた透明複合基板では、温度変化に伴う熱応力の発生を抑制することができ、光学異方性を抑えることができる。
【0037】
また、上述したような脂環式エポキシ樹脂は、硬化後の線膨張係数が低いため、かかる脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂組成物を用いて得られた透明複合基板では、ガラスフィラーとエポキシ樹脂との界面における界面応力がほぼゼロとなる温度が室温に近くなる。このため、本発明の樹脂組成物を用いることにより、上記界面応力の小さい透明複合基板を得ることができ、かかる透明複合基板は、光学異方性の小さいものとなる。さらに、線膨張係数が低いため、透明複合基板では、反りやうねり等の変形が防止される。
【0038】
また、これらの脂環式エポキシ樹脂は、透明性および耐熱性に優れていることから、光透過性に優れ、かつ耐熱性の高い透明複合基板の実現に寄与するものである。
【0039】
また、本発明の樹脂組成物では、エポキシ樹脂として、脂環式エポキシ樹脂とグリシジル型エポキシ樹脂とを併用することが好ましい。これにより、エポキシ樹脂の光透過性を確保しつつ、エポキシ樹脂と酸化防止剤との相溶性が向上する。その結果、光透過性が高く、かつ光学異方性の低い透明複合基板を得ることができる。また、エポキシ樹脂と酸化防止剤との相溶性が高まった結果、酸化防止剤の揮発性が抑えられ、透明複合基板の耐熱性も高めることができる。
【0040】
この場合、グリシジル型エポキシ樹脂の添加量は、脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部程度であるのが好ましく、1〜5質量部程度であるのがより好ましい。これにより、光透過性の確保と、光学異方性の抑制とを高度に両立することができる。
【0041】
また、用いるグリシジル型エポキシ樹脂の中でも、カルド構造を有するグリシジル型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。すなわち、脂環式エポキシ樹脂にカルド構造を有するグリシジル型エポキシ樹脂を添加して用いることにより、ビスアリールフルオレン骨格に由来する多数の芳香環が含まれることになるため、透明複合基板の光学異方性を抑制するとともに、透明性、耐熱性をより高めることができる。
【0042】
このようなカルド構造を有するグリシジル型エポキシ樹脂としては、例えば、オンコートEXシリーズ(長瀬産業社製)、オグソール(大阪ガスケミカル社製)等が挙げられる。
【0043】
(硬化剤)
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤を含んでいてもよい。かかる硬化剤としては、酸無水物、脂肪族アミン等の架橋剤、カチオン系硬化剤、アニオン系硬化剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0044】
これらの中でも特にカチオン系硬化剤が好ましく用いられる。カチオン系硬化剤によれば、エポキシ樹脂を比較的低温で硬化させることができるので、硬化時に樹脂組成物を高温にする必要がなく、温度変化に伴う熱応力の発生を抑制することができる。その結果、光学異方性の低い透明複合基板が得られる。
【0045】
また、カチオン系硬化剤を用いることにより、耐熱性(例えばガラス転移温度)の高い透明複合基板が得られる。これは、カチオン系硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物の架橋密度が高くなるためであると考えられる。
【0046】
前記カチオン系硬化剤としては、加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出するもの、例えばオニウム塩系カチオン硬化剤、またはアルミニウムキレート系カチオン硬化剤や、活性エネルギー線によってカチオン重合を開始させる物質を放出させるもの、例えばオニウム塩系カチオン系硬化剤等が挙げられる。これらの中でも、熱カチオン系硬化剤が好ましい。これにより、より耐熱性に優れる硬化物を得ることができる。
【0047】
熱カチオン系硬化剤としては、例えば芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。具体的には、芳香族スルホニウム塩として三新化学工業製のSI−60L、SI−80L、SI−100L、旭電化工業製のSP−66やSP−77等のヘキサフルオロアンチモネート塩等が挙げられ、アルミニウムキレートとしてはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられ、三フッ化ホウ素アミン錯体としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素イミダゾール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体等が挙げられる。
【0048】
一方、光カチオン系硬化剤としては、例えば旭電化工業製のSP170等が挙げられる。
【0049】
このようなカチオン系硬化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば前記化学式(1)で示されるエポキシ樹脂を使用する場合は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜3重量部が好ましい。含有量が前記下限値未満であると硬化性が低下する場合があり、前記上限値を超えると透明複合基板が脆くなる場合がある。
【0050】
光硬化させる場合は、必要に応じて硬化反応を促進させるため増感剤、酸増殖剤等も併せて用いることができる。
【0051】
(ガラスフィラー)
ガラスフィラーは、無機系ガラス材料からなる繊維または粒子等で構成されたフィラー(充填材)である。
【0052】
具体的には、ガラスクロス、ガラス不織布等のガラス繊維布、ガラスフィラメント、ガラスチョップドストランド、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスパウダー、ミルドガラス等が挙げられ、中でも透明複合基板の線膨張係数の低減効果が高いことから、ガラスフィラメントおよびガラス繊維布が好ましく用いられ、ガラス繊維布がより好ましく用いられる。
【0053】
無機系ガラス材料としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Tガラス、Dガラス、NEガラス、クオーツ、低誘電率ガラス、高誘電率ガラス等が挙げられ、中でもアルカリ金属などのイオン性不純物が少なく入手の容易なEガラス、Sガラス、Tガラス、NEガラスが好ましく用いられ、特に30℃から250℃における平均線膨張係数が5ppm以下であるSガラスまたはTガラスがより好ましく用いられる。
【0054】
ガラスフィラーの含有量は、透明複合シートにおいて1〜90質量%となる量であるのが好ましく、より好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%となる量とされる。ガラスフィラーの含有量がこの範囲であれば成形が容易で、複合化による線膨張の低下効果が認められる。またガラスフィラー量が多ければ、単位体積あたりの樹脂量の均一性が向上し、応力の均一性が向上するからである。これらの均一性が向上すると透明複合基板のうねりが小さくなる。
【0055】
また、ガラスフィラメントおよびガラス繊維布は、その直径が100nm以下であるのが好ましい。このようなガラスフィラメントおよびガラス繊維布は、これらの屈折率とエポキシ樹脂の屈折率との差によらず、界面での散乱が生じ難いので、透明複合基板の透明性が比較的高くなる。
【0056】
一方、直径が100nm超である場合には、エポキシ樹脂の屈折率との差を考慮することが望まれる。この場合、ガラスフィラメントおよびガラス繊維布を構成するガラス材料には、屈折率が1.4〜1.6のものが好ましく用いられ、1.5〜1.55のものがより好ましく用いられる。これにより、広い波長領域において高い光透過性を有する透明複合基板が得られる。
【0057】
一方、ガラスチョップドストランド、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスパウダー、ミルドガラス等の平均粒径についても、100nm以下であるのが好ましく、80nm以下であるのがより好ましい。
【0058】
(酸化防止剤)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、BHT、2,2’−メチレンビス(4−メチルー6−tert−ブチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル −4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、カルシウムジエチルビス[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ホスホネート、ビス(2,2’−ジヒドロキシ −3,3’−ジ−tert−ブチル−5,5’−ジメチルフェニル)エタン、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオンアミド等のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0059】
具体的には、イルガノックス1330、イルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス3114(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーBHT、スミライザーBP−101(以上、住友化学社製)、ヨシノックスBHT、ヨシノックス250、トミノックスSS、トミノックスTT、ヨシノックス314、GSY−242(以上、エーピーアイコーポレーション社製)、アデカスタブAO−50、MarkAO−50、アデカスタブAO−60、アデカスタブAO−20(以上、アデカ社製)等が挙げられる。
【0060】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物の0.01質量%以上5質量%以下であるのが好ましく、0.01質量%超5質量%未満であるのがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下程度であるのがさらに好ましい。酸化防止剤の含有量を前記範囲内にすることにより、光学異方性の低い透明複合基板が得られ、かつ、信頼性試験においても光学異方性の悪化の小さい透明複合基板が得られる。
【0061】
このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤が添加されることにより透明複合基板における光学異方性の悪化が抑制される理由は明確ではないが、理由の1つとして、ヒンダードフェノール部位とエポキシ樹脂との相互作用が、エポキシ樹脂の劣化の起点となる部位を消滅または保護することにより、エポキシ樹脂の劣化が抑制されていることが挙げられる。また、ヒンダードフェノール部位は化学的安定性が高いことから、透明複合基板中においてヒンダードフェノール部位の割合が増すことで、光学的安定性の増大、すなわち光学異方性の悪化を抑制することができると考えられる。その結果、光学異方性の低い透明複合基板、および、信頼性試験においても光学異方性の悪化の小さい透明複合基板が得られる。
【0062】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その融点が100℃以上のものが好ましく、110℃以上のものがより好ましい。融点が上記範囲内であれば、樹脂組成物の硬化時に酸化防止剤が揮発することが防止される。すなわち、樹脂組成物の硬化時に酸化防止剤が確実に残存するため、上述した光学的安定性を高めることができる。その結果、上述したような融点のヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることにより、光学異方性が低く、かつ、信頼性試験において光学異方性の顕在化が抑制された透明複合基板が得られる。
【0063】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その重量平均分子量が200〜2000であるのが好ましく、500〜1500であるのがより好ましく、1000〜1400であるのがさらに好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の重量平均分子量が上記範囲内であれば、酸化防止剤の揮発性が抑制されるとともに、エポキシ樹脂に対する相溶性が確保される。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤は、湿熱処理のような信頼性試験を経ても残存し続けることができ、これにより光学異方性の悪化を抑制し得る透明複合基板を実現することができる。
【0064】
さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その分子構造中にネオペンタン構造またはイソシアヌレート構造を有するものが好ましい。これらの構造は、いずれも立体的または平面的に比較的大きく広がった構造であるため、多数の結合サイト(例えば水酸基)が広域に分布するように存在している。このため、これらの構造を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤と、エポキシ樹脂とが結合(相互作用)する確率が高くなり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、エポキシ樹脂との結合状態を長期にわたって確実に維持することができる。その結果、樹脂組成物を硬化する際に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が揮発したり、透明複合基板の耐熱性が低下するのを防止することができる。
【0065】
なお、上記ネオペンタン構造は、好ましくはヒンダードフェノール以外の部位に含まれることにより、その作用・効果がより顕著なものとなる。
【0066】
また、分子構造中にネオペンタン構造を含むヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、下記化学式(3)で示される酸化防止剤(例えば、イルガノックス1010等)が挙げられる。
【0067】
【化5】

【0068】
さらに、分子構造中にイソシアヌレート構造を含むヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、下記化学式(4)で示される酸化防止剤(例えば、アデカスタブAO−20等)が挙げられる。
【0069】
【化6】

【0070】
なお、本発明の樹脂組成物には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外にその他の酸化防止剤を含んでいてもよい。その他の酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0071】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、水酸基を挟むように位置する置換基の一方がメチル基等に置換されているセミヒンダード型のフェノール系酸化防止剤や、水酸基を挟む2つの置換基の双方がメチル基等に置換されているレスヒンダード型のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。これらは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤より少ない添加量で添加される。
【0072】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0073】
具体的には、GSY−P101、トミホス202(以上、エーピーアイコーポレーション社製)、Mark2112、アデカスタブPEP−36、アデカスタブPEP−24、アデカスタブPEP−45、アデカスタブHP−10(以上、アデカ社製)、スミライザーGP(住友化学社製)等が挙げられる。
【0074】
なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを併用することにより、それらの相乗効果が発揮され、エポキシ樹脂の酸化防止、および透明複合基板の光学異方性の抑制がより顕著になる。これは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とで、酸化防止のメカニズムが異なるため、両者が独立して働き、さらには相乗的な効果が生じているからであると考えられる。
【0075】
イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられ、これらの1種または2種の混合物が用いられる。
【0076】
具体的には、DLTPヨシトミ、LMTPヨシトミ、DSTPヨシトミ、DTTPヨシトミ(以上、エーピーアイコーポレーション社製)、アデカスタブAO−23(以上、アデカ社製)、スミライザーTPL、スミライザーTPM、スミライザーTPS、スミライザーTL、スミライザーTP−D(以上、住友化学社製)等が挙げられる。
【0077】
このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤(特にリン系酸化防止剤)の添加量は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤100質量部に対して、好ましくは30〜300質量部程度とされ、より好ましくは50〜200質量部程度とされる。これにより、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とそれ以外の酸化防止剤とが、それぞれの効果を埋没させることなく発揮し、相乗効果をもたらすことができる。
【0078】
なお、本発明の樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で必要に応じて、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のオリゴマーやモノマー、またはカップリング剤等を含んでいてもよい。なお、これらのオリゴマーやモノマーを使用する場合は、全体の屈折率がガラスフィラーの屈折率に合うように組成比が適宜設定される。
【0079】
さらに、本発明の樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で必要に応じて、紫外線吸収剤、染料、顔料、その他のフィラー等を含んでいてもよい。
【0080】
本発明の樹脂組成物は、以上のようなエポキシ樹脂、ガラスフィラー、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等を混合して得られる。
【0081】
また、本発明の樹脂組成物は、300℃の温度で1分間加熱されたとき、酸化防止剤またはその分解成分がガスとして実質的に検出されないものであることが好ましい。このような樹脂組成物は、前述したように硬化時に酸化防止剤の揮発を抑制し得るものであるため、得られる硬化物についても、光学異方性が低く、透明性の高いものとなる。
【0082】
なお、ガスの検出には、ガスクロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー質量分析器が用いられる。このうち、後者によれば、クロマトグラムからマススペクトルが直ちに得られるため、ガス成分の同定が容易であるので好ましい。すなわち、マススペクトル上で酸化防止剤またはその分解成分が検出されるか否かを評価することにより、酸化防止剤の揮発の有無を判断することができる。
【0083】
また、上記の酸化防止剤またはその分解成分がガスとして実質的に検出されないとは、例えばマススペクトルにおいてピークの存在が識別できない場合を言う。
【0084】
<透明複合基板および表示素子基板>
本発明の透明複合基板は、本発明の樹脂組成物の硬化物で構成されているものである。すなわち、本発明の透明複合基板は、上述した本発明の樹脂組成物を板状に成形し、硬化させてなるものである。
【0085】
成形方法としては、成形型に注型する方法、樹脂組成物を溶剤に溶解しキャストする方法が挙げられる。また、ガラスフィラーとしてガラス繊維布を用いる場合には、樹脂組成物のうち、ガラスフィラー以外の成分をガラス繊維布に含浸させ、板状に成形された樹脂組成物とする方法が挙げられる。
【0086】
樹脂組成物の硬化条件は、好ましくは加熱温度が150〜300℃程度、加熱時間が0.5〜10時間程度とされ、より好ましくは加熱温度が170〜250℃程度、加熱時間が1〜5時間程度とされる。
【0087】
本発明の透明複合基板は、例えば、液晶表示素子用基板、有機EL素子用基板、カラーフィルター用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、タッチパネル用基板等の各種透明基板に適用される。
【0088】
透明複合基板の平均厚さは、特に限定されないが、40〜200μm程度であるのが好ましく、50〜100μm程度であるのがより好ましい。
【0089】
また、本発明の透明複合基板は、30℃〜150℃における平均線膨張係数が40ppm以下であることが好ましく、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。例えば、この透明複合シートをアクティブマトリックス表示素子用基板に用いた場合、この上限値を超えると、その製造工程において反りやアルミ配線の断線等の問題が生じるおそれがある。
【0090】
本発明の透明複合基板は、上述した各種表示素子用の透明基板(表示素子基板)に適用される。
【0091】
この場合、表示素子基板の波長400nmにおける全光線透過率は、80%以上であるのが好ましく、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは88%以上である。波長400nmにおける全光線透過率が下限値未満であると表示素子における表示性能が十分でないおそれがある。
【0092】
また、本発明の透明複合基板を表示素子基板に適用する場合、表面平滑性を向上させるため基板の両側に樹脂のコート層を設けてもよい。コート層に用いる樹脂としては、例えば優れた耐熱性、透明性、耐薬品性を有していることが好ましく、具体的には透明複合基板に使用するエポキシ樹脂と同じ樹脂を用いるのが好ましい。また、コート層の平均厚さは、0.1〜30μm程度であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜30μm程度とされる。
【0093】
さらには、本発明の透明複合基板を表示素子基板に適用する場合、外部からの衝撃による基板の破損を抑制するため衝撃緩衝層を設けるようにしてもよい。層構成としては、透明複合基板の少なくとも片側に平滑層を設け、さらにその上に衝撃緩衝層を設ける構成、または、透明複合基板の少なくとも片側に衝撃緩衝層を設け、さらにその上に平滑層を設ける構成等が挙げられる。すなわち、複数層の任意の位置に衝撃緩衝層を設けることができる。
【0094】
また、本発明の表示素子基板は、元々ガラス基板よりも落球試験による耐衝撃性が優れているが、上記のような衝撃緩衝層を設けることにより、さらに耐衝撃性が向上する。
【0095】
以上、本発明の樹脂組成物、透明複合基板および表示素子基板について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば透明複合基板および表示素子基板には、任意の構成物が付加されていてもよい。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.透明複合基板の製造
(実施例1)
まず、下記化学式(1)の構造を有する水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業製、E−BP、Tg:>250℃)と、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、YX−8000、Tg:103℃)と、芳香族スルホニウム系熱カチオン硬化剤(三新化学製、SI−100L)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、イルガノックス1010、重量平均分子量1178)と、を表1に示す割合で混合し、樹脂材料を調製した。
【0097】
【化7】

【0098】
次いで、得られた樹脂材料をTガラス系ガラスクロス(厚み95μm、屈折率1.520、日東紡社製)に含浸させ脱泡した。これにより、樹脂組成物を調製した。このように樹脂材料を含浸させたガラスクロス(樹脂組成物)を、離型処理を施した2枚のガラス板に挟み込み、80℃で2時間加熱後、250℃でさらに2時間加熱し、厚さ97μm(ガラスフィラー含有量63質量%)の透明複合基板を得た。
【0099】
(実施例2〜22)
樹脂組成物の組成を表1、2に示すものに変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして透明複合基板を得た。
【0100】
なお、実施例20および21において用いた脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業製、EHPE3150)は、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシー4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(分子量2234)であり、その一般式は下記式(5)で示される。
【0101】
【化8】

[上記式(5)中、Rは有機基であり、nは1以上の整数である。]
【0102】
また、実施例22において用いた脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業製、E−DOA、Tg:>250℃)は、下記化学式(2)の構造を有する脂環式エポキシ樹脂であって「−X−」が「−CH(CH)−」であるものである。
【0103】
【化9】

【0104】
(実施例23)
ガラスクロスに代えてガラスパウダーを用いるとともに、このガラスパウダーを樹脂材料とともに混合して樹脂組成物とした以外は、実施例1と同様にして透明複合基板を得た。
【0105】
(比較例1)
酸化防止剤の使用を省略した以外は、実施例1と同様にして透明複合基板を得た。
【0106】
(比較例2)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤に代えて表2に示す量のリン系酸化防止剤を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明複合基板を得た。
【0107】
(比較例3)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤に代えて表2に示す量のレスヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明複合基板を得た。
【0108】
(比較例4)
ガラスパウダーを用いるとともに、このガラスパウダーを樹脂材料とともに混合して樹脂組成物とした以外は、比較例2と同様にして透明複合基板を得た。
【0109】
(比較例5)
ガラスパウダーを用いるとともに、このガラスパウダーを樹脂材料とともに混合して樹脂組成物とした以外は、比較例3と同様にして透明複合基板を得た。
なお、各実施例および各比較例で使用したヒンダードフェノール系の融点は、以下の通りである。
・イルガノックス1010 :110〜125℃
・アデカスタブAO−20 :220℃
・スミライザーBHT :69〜73℃
・イルガノックス1076 :50〜55℃
【0110】
2.透明複合基板の評価
2.1 光学異方性の評価
得られた透明複合基板について、それぞれ以下に示す2段階の湿熱処理を施した。
【0111】
<第1の湿熱処理の条件>
・処理温度 :85℃
・処理湿度 :85%RH
・処理時間 :1061時間
<第2の湿熱処理の条件>
・処理温度 :85℃
・処理湿度 :85%RH
・処理時間 :3015時間
【0112】
次いで、湿熱処理後の透明複合基板について、それぞれ以下に示す方法で光学異方性を測定した。
【0113】
この測定について詳しくは、まず、第1の湿熱処理後の透明複合基板をクロスニコルにした偏光顕微鏡で観察した。次いで、偏光顕微鏡の光軸を固定し、光源の強さを一定にした状態で透明複合基板を回転させ、基板の一部分あるいは全体が最も明るくなる角度にセットした。そして、2.4mm×1.8mmの観察部分を画像(画素数640×480)化してパーソナルコンピューターに取り込み、これを各画素が0〜255の階調を持つ白黒画像に変換した。得られた白黒画像中の各画素の階調を総和し、これを第1の湿熱処理後の光学異方性の評価値とした。
【0114】
次いで、第1の湿熱処理に供した透明複合基板を再び湿熱処理に供し、累積の処理時間が上記第2の湿熱処理の条件になるまで処理した。そして、上記と同様の方法で白黒画像を取得した。得られた白黒画像中の各画素の階調を総和し、これを第2の湿熱処理後の光学異方性の評価値とした。
以上、2.1の評価結果を表1、2に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
表1、2から明らかなように、各実施例で得られた透明複合基板は、いずれも各比較例で得られた透明複合基板に比べて、光学異方性の小さいものであった。
【0118】
2.2 アウトガスの評価
得られた透明複合基板について、ガスクロマトグラフィー質量分析器を用い、アウトガスの評価を行った。なお、評価環境は、300℃で1分間加熱した環境とした。
【0119】
その結果、各実施例で得られた透明複合基板においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤に由来する成分の揮発を認めることができなかった。
【0120】
図1は、(a)実施例7で用いたヒンダードフェノール系酸化防止剤単体のアウトガスの評価結果(マススペクトル)と、(b)実施例7で得られた透明複合基板のアウトガスの評価結果(マススペクトル)とを示すものである。
【0121】
図1(a)から明らかなように、実施例7で用いたヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ単体では300℃の加熱により揮発し、マススペクトル上にピークAとして検出されるのに対し、実施例7で得られた透明複合基板では、図1(b)から明らかなように、300℃で加熱した後でもこのピークAは検出されなかった。このことから、実施例7で得られた透明複合基板では、エポキシ樹脂とヒンダードフェノール系酸化防止剤とが相互作用し、単体であれば揮発してしまうような高温であっても、酸化防止剤の揮発が抑制され、酸化防止剤が残存し続けることが認められた。
【0122】
一方、各比較例で得られた透明複合基板では、酸化防止剤に由来する成分の揮発が認められた。このことから、これらの透明複合基板では、加熱により酸化防止剤が抜け出ることが認められた。なお、酸化防止剤が抜け出ることにより、光学異方性等の特性の悪化が進むと考えられる。
【符号の説明】
【0123】
A ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明複合基板の製造に用いられる樹脂組成物であって、
エポキシ系樹脂と、ガラスフィラーと、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が、0.01質量%以上5質量%以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その融点が100℃以上のものである請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、その分子構造中にネオペンタン構造を有するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤100質量部に対して、リン系酸化防止剤を30〜300質量部の割合で含む請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ系樹脂は、脂環式エポキシ樹脂とグリシジル型エポキシ樹脂とを含むものである請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記脂環式エポキシ樹脂は、下記化学式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂および下記化学式(2)で示される脂環式エポキシ樹脂の少なくとも一方を含むものである請求項6に記載の樹脂組成物。
【化1】

【化2】

[上記式(2)中、−X−は−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CH−、−CH(CH)−、または−C(CH−を表す。]
【請求項8】
前記グリシジル型エポキシ樹脂の含有量は、前記脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部である請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ガラスフィラーは、ガラス繊維布である請求項1ないし8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
当該樹脂組成物は、300℃の温度で1分間加熱されたとき、前記酸化防止剤またはその分解成分がガスとして実質的に検出されないものである請求項1ないし9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする透明複合基板。
【請求項12】
請求項11に記載の透明複合基板を備えることを特徴とする表示素子基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25935(P2012−25935A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124139(P2011−124139)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】