説明

樹脂被覆補強繊維糸およびそれからなる熱可塑性樹脂成形品

【課題】簡便で生産性が良く射出成形可能な樹脂被覆補強繊維糸を提供する。
【解決手段】ビニロンフィラメントからなる繊維束をポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂で被覆した樹脂被覆補強繊維糸。該樹脂被覆補強繊維糸を裁断し、ペレット状とし、射出成形材料とすることができる。また該樹脂被覆補強繊維糸とマイカが含有された熱可塑性樹脂成型品とすることもできる。熱可塑性樹脂で被覆して保護しており、適度な柔軟性を有しているため、加工の工程において損傷を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニロンフィラメントで補強した熱可塑性樹脂成形品を成形するために用いる樹脂被覆補強繊維糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体が補強性能に優れるため多用されている。このようなガラス繊維補強熱可塑性樹脂成形体を成形する方法としては、通常、ガラス繊維を集束剤で集束後カットして集束糸とし、さらに該集束糸と熱可塑性樹脂とをコンパウンドし、加熱加圧して成形する方法(例えば、特許文献1参照。)、ガラス繊維を熱可塑性樹脂で被覆する方法(例えば、特許文献2参照)、ガラス繊維糸で形成された織物と熱可塑性樹脂フィルムとを交互に積層し、加熱加圧して成形する方法等が行われている。しかしながら、これらガラス繊維で補強した熱可塑性樹脂成形体は、該成形体を廃棄する際に離脱したガラス繊維が飛散する等、人体の影響に対する懸念があった。
【0003】
上記したようなガラス繊維の代替として、有機繊維の短繊維に集束剤で集束し、これをカットして集束糸とし熱可塑性樹脂とコンパウンドして繊維補強熱可塑性樹脂成形体を製造する方法が用いられているが、有機繊維の短繊維を樹脂に分散させることは困難であった。すなわち、集束剤の含有量が少ないと有機繊維が綿状となってホッパーの目詰まりを生じさせ、成形体製造工程において安定生産を阻害する問題があり、逆に集束剤の含有量が多いと樹脂中での有機繊維束が多く生じて分散不良となり、補強効果が得られないという問題があった。
【0004】
また、多数本の補強用連続繊維で形成した有機繊維束の外周に位置する繊維のみに接着し、内部にはほとんど含浸しないように、熱可塑性樹脂をコーティングする方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかし、上記した方法を用いた場合においても、得られる繊維補強熱可塑性樹脂成形体の補強性能は不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−251437号公報
【特許文献2】特開平9−267327号公報
【特許文献3】特開平8−336879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたもので、簡便で生産性良く射出成形可能な樹脂補強繊維糸、それをカットして得られるペレットおよびそれからなる熱可塑性樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、補強繊維としてビニロン繊維からなるフィラメントを用い、そして多数本のビニロンフィラメントからなる繊維束の外周に、外周に位置する繊維のみに接着し、内部にはほとんど含浸しないように熱可塑性樹脂をコーティングすることにより、射出成形材料として優れた特性を備えていることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、ビニロンフィラメントからなる繊維束を熱可塑性樹脂で被覆した樹脂被覆補強繊維糸であり、好ましくは該樹脂被覆補強繊維糸を裁断し、ペレット状にしたことを特徴とする射出成形材料であり、さらに好ましくは該樹脂被覆補強繊維糸とマイカが含有されてなる熱可塑性樹脂成形品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビニロンフィラメントからなる樹脂被覆補強繊維糸は、多数本の連続繊維からなる補強繊維束を熱可塑性樹脂が被覆して保護しており、かつ適度な柔軟性を有しているため、加工の工程において損傷を生じることがないので、繊維補強熱可塑性樹脂成形体用ペレットを製造するために好適に使用可能であり、しかも成形時には補強繊維に集束剤等を必要としないために繊維の分散性も良好で高品質の成形体を成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で補強繊維として用いられるビニロン繊維は、形態的には連続繊維であり、さらにフィラメント糸を多数に集束して形成された繊維束であることが必要であるが、あるいは撚りを加えたヤーンであってもよい。補強繊維束を構成する補強繊維の繊維径、フィラメント本数は特に限定されないが繊維径は3〜20μmであることが好ましく、より好ましくは5〜10μm、フィラメント本数は1000〜10000本であることが好ましく、より好ましくは1000〜4000本である。
補強繊維としてビニロン繊維を用いることにより、得られる熱可塑性樹脂成形体は従来のポリエステル、ナイロン等の汎用の有機繊維補強では達成できなかった耐衝撃性、曲げ応力、引張応力などの補強性能を有するものとなる。
【0011】
本発明に用いられるビニロン繊維の製法は特に限定されないが、ポリビニルアルコール系ポリマーを水または有機溶剤に溶解して調製した紡糸原液を、ポリビニルアルコールに対して固化能を有する水または有機溶媒を含有する固化浴に湿式紡糸方法または乾湿式紡糸方法にて繊維を製造するのが好ましい。なお、湿式紡糸方法とは、紡糸口金から直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、一方乾湿式紡糸方法とは、紡糸口金から一旦空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法のことである。本発明に用いられるビニロン繊維の構成は特に限定されないが、機械的特性、耐熱性等の点からは平均重合度1000以上さらに1200以上であるのが好ましく、5000以下、特に4000以下であるのが好ましい。また同理由からケン化度は99モル%以上、特に99.8モル%以上であるのが好ましい。繊維を構成するビニルアルコール系ポリマーは他の成分により変性されていたり、共重合されていてもよい。
【0012】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としてはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリビニルブチラ−ル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの熱可塑性樹脂を組み合わせて混合して用いてもよく、さらにこれら熱可塑性樹脂に着色剤や充填剤、難燃剤等を適当量添加してもよい。
【0013】
本発明の樹脂被覆補強繊維糸において、被覆した熱可塑性樹脂は補強繊維束の内部にはほとんど含浸せず、外周に位置する連続繊維に接着されていることが必要である。熱可塑性樹脂が補強繊維束の内部に含浸しないことにより、ビニロン繊維束の内部では繊維同士が固着されず、全体の柔軟性が保たれる。また被覆した熱可塑性樹脂が補強繊維束の外周に位置する連続繊維に接着していることにより、熱可塑性樹脂被膜が剥がれ難くくなるので、該樹脂被覆補強繊維糸を用いた工程において熱可塑性樹脂被膜が剥がれる等のトラブルを防止することができる。
【0014】
次に本発明の樹脂被覆補強繊維糸の製造方法について説明する。
本発明は、多数本のビニロン繊維束を走行させた状態で、その補強繊維束を包囲するように溶融した熱可塑性樹脂を押出し、芯部にビニロン繊維束を通過させ、熱可塑性樹脂を加圧下で前記繊維束の外周に接触させ、繊維を熱可塑性樹脂で被覆させる。
図1は本発明の樹脂被覆補強繊維糸の製造に用いるノズルの一例を示す概略側面図である。図1に示すように、ノズルの中央部にビニロン繊維束を通過させ、その周囲に熱可塑性樹脂を通す円筒状の通路を有している。
【0015】
次にビニロン繊維束を熱可塑性樹脂で被覆させたカバーヤーンを裁断してペレット状とする。裁断方法としてはロータリー方式のカッティングマシーンやギロチン方式のカッティングマシーン等を用いて裁断する方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
またペレットの長さは、溶融押出機で押出しする際や射出成形する際の混練性、補強繊維の分散性の面から3〜15mmであることが好ましく、4〜10mmの長さであることがより好ましい。
さらに得られるペレットを熱風乾燥機等で乾燥し、ペレット中の水分率を低くすることが溶融押出機で押出しする際や、射出成形する際により好ましい。
【0016】
さらに本発明において、熱可塑性樹脂成形品中にマイカを添加すると高い衝撃性を維持しながら、より高い曲げ応力、引張応力が得られるので好ましい。用いるマイカは特に限定されるものではないが、高アスペクト比でフレーク形状のものがより好ましい。マイカの熱可塑性樹脂成形品への添加方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂中に添加してもよく、また補強繊維中に添加してもかまわない。また熱可塑性樹脂成形品へのマイカの添加量は1〜30質量%であることが好ましく、2〜25質量%であることがより好ましい。
【0017】
以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明の実施例において、得られるFRP成形品の耐衝撃性、曲げ応力、引張応力は以下の測定方法により測定されたものを意味する。
【0018】
[FRP成形品の耐衝撃性 kJ/m
株式会社東洋精機製デジタル衝撃試験機「DG−CB」を用い、JIS K7111試験法に準拠してノッチ付き試験片のシャルピー衝撃強度を測定した。
【0019】
[FRP成形品の曲げ応力 N/mm
株式会社島津製作所製オートグラフAG/Rを用い、JIS K7171試験法に準拠して測定した。
【0020】
[FRP成形品の引張応力 N/mm
株式会社島津製作所製オートグラフAG/Rを用い、JIS K7161試験法に準拠して測定した。
【0021】
[実施例1]
(1)ビニロンフィラメントとして株式会社クラレ製「5501−1」(繊維径;14μm、フィラメント数;1000本)、熱可塑性樹脂として出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」を用いて、図1に示すノズル1の内径0.75mm、ノズル2の内径0.86mm、のノズルにて紡糸ヘッド温度200℃、熱可塑性樹脂の吐出量6g/min、巻取速度9m/minの条件にてビニロン補強繊維束の外周に熱可塑性樹脂被覆を有する樹脂被覆補強繊維糸を得た。
(2)上記(1)で得られた樹脂被覆補強繊維糸を切断し、断面を電子顕微鏡で観察したところ、補強繊維束を取囲んだ熱可塑性樹脂被覆が形成されており、その被覆は補強繊維束の外周の連続繊維に接着されており、補強繊維束の内部への樹脂含浸は見られなかった。また得られた樹脂被覆補強繊維糸は柔軟であった。
さらに被覆された熱可塑性樹脂を剥がして内部の補強繊維束を観察したところ、内部の補強繊維に損傷は見られず、したがってコーティング工程でビニロン繊維に損傷は生じておらず、繊維の強度低下も見られなかった。
(3)さらに得られた樹脂被覆補強繊維糸を上記(1)と同じ出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」にて、ビニロン繊維の含有率が10質量%となるようにチップブレンドして、押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化した。このようにして得られたペレットを用いて射出成形機にてFRPを成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
実施例1と同様に樹脂被覆補強繊維糸を作製し、得られた樹脂被覆補強繊維糸と、出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」、株式会社クラレ製マイカ「クラライトマイカ200−D」をそれぞれビニロン繊維含有率が5質量%、マイカ含有率が2質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて射出成形機にてFRPを成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例3]
ビニロン繊維含有率10質量%、マイカ含有率を14質量%とする以外は実施例2と同様にペレットを作製し、このペレットを用いて射出成形機にてFRPを成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0024】
[比較例1]
(1)ビニロンフィラメントの代わりにユニチカ株式会社製ポリエステル繊維「E−721」(繊維径;21μm、フィラメント数;384本)、熱可塑性樹脂として出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」を用いて、図1に示すノズル1の内径0.75mm、ノズル2の内径0.86mm、のノズルにて紡糸ヘッド温度200℃、熱可塑性樹脂の吐出量6g/min、巻取速度9m/minの条件にてポリエステル補強繊維束の外周に熱可塑性樹脂被覆を有する樹脂被覆補強繊維糸を得た。
(2)上記(1)で得られた樹脂被覆補強繊維糸を上記(1)と同じ出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」をポリエステル含有率が10質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになるようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて射出成形機にてFRPを成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
(3)表1に示すとおり、得られたFRPは衝撃性、曲げ応力、引張応力とも全て満足する性能が得られなかった。
【0025】
[比較例2]
旭ファイバーグラス株式会社製チョップドストランド「グラスロン03JAFT17」と出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」をガラス繊維含有率が20質量%となるようにチップブレンドして押出機でストランドを作製し、ペレタイザーで4mmになりようにカットしてペレット化し、さらにこのペレットを用いて射出成形機にてFRPを成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。表1に示すとおり、得られたFRPにおいて繊維の添加量を実施例1の2倍添加することで、曲げ応力と引張応力は実施例1と同等のものが得られたが、耐衝撃性は不十分であった。
【0026】
[比較例3]
出光石油株式会社製ポリプロピレン「J−762HP」を用いて射出成形機にて成形し、性能評価を行った。結果を表1に示す。表1に示すとおり、補強繊維が添加されない成形品の性能は耐衝撃性は低いものであった。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、補強繊維を本発明のビニロン繊維を用いた樹脂被覆補強繊維糸をペレット化し、このペレットを用いて射出成形したFRP成形品は、耐衝撃性、曲げ応力、引張応力とも従来のFRP成形品に比べて優れたものとなる。
一方、比較例1の補強繊維にポリエステル繊維を用いた樹脂被覆補強繊維糸をペレット化し、このペレットを用いて射出成形したFRP成形品や比較例3の補強繊維を添加されないFRP成形品は、耐衝撃性、曲げ応力、引張応力とも本発明のFRP成形品よりも劣り、比較例2のガラス繊維を用いた樹脂被覆補強繊維糸をペレット化し、このペレットを用いて射出成形したFRP成形品は、耐衝撃性が本発明のFRP成形品よりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の樹脂被覆補強繊維糸は、多数本の連続繊維からなる補強繊維束を熱可塑性樹脂被覆が覆って保護しており、且つ適度な柔軟性を有しているため、加工の工程において損傷を生じることがなく、繊維補強熱可塑性樹脂成形体用ペレットを製造するために好適に使用可能であり、しかも、成形時には、補強繊維に集束剤等を必要としないために繊維の分散も良く、高品質のFRP成形体を成形できるという特徴を有している。また製造工程が簡単で、安価に製造可能であり、生産性が良い等の特徴も有している。またガラス繊維を含まないFRPであるため焼却も可能であり、FRPを埋め立てする必要もない。本発明の繊維補強熱可塑性樹脂成形体用ペレットは、自動車用途ではバンパー、フェンダー、スポイラー、エアロパーツ、コンソールボックスなどに使用できる他、ヘルメット、その他射出成形機にて成形されるFRP用途にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の樹脂被覆補強繊維糸の製造に用いる紡糸装置の構造の一例を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニロンフィラメントからなる繊維束を熱可塑性樹脂で被覆した樹脂被覆補強繊維糸。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂被覆補強繊維糸を裁断し、ペレット状にしたことを特徴とする射出成形材料。
【請求項3】
請求項1または2記載の樹脂被覆補強繊維糸とマイカが含有されてなる熱可塑性樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−162172(P2007−162172A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361158(P2005−361158)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】