説明

樹脂金属複合材料およびその製造方法

【課題】金属材料と樹脂材料とを簡便に接合することができる新規な方法、およびそれにより得られる新規な樹脂金属複合材料を提供する。
【解決手段】金属材料3と、樹脂材料4と、該金属材料3と該樹脂材料4との界面に存在する、チオアミド基、チオカルボニル基、チオアセチル基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、シアノ基、ホスフィン基、ホスフォン酸基、リン酸基、ボロン酸基およびホウ酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する基である、金属結合基2を有する炭素材料1からなる接合材料とを備えることを特徴とする樹脂金属複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂金属複合材料およびその製造方法に関し、より詳しくは、金属材料と樹脂材料が接合した樹脂金属複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料と樹脂材料は、自動車、家電製品など様々な分野で利用されているが、これらは、その特性が大きく異なるため、直接接合することは容易ではない。従来から、金属材料と樹脂材料とを接合する方法としては、溶着による接合、接着剤による接合、機械的な固定などが知られているが、溶着による接合は接合部の強度が十分ではなく、機械的な固定は接合の自自由度が小さいといった問題があり、近年、金属材料と樹脂材料との接合においては、接着剤による接合が多く採用されている。このような金属材料と樹脂材料との接合に用いられる接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤などが知られている(例えば、特開2010−106193号公報(特許文献1)、特開2010−131888号公報(特許文献2))。また、トリアジン化合物を用いた接合方法も提案されている(特開2007−221099号公報(特許文献3))。しかしながら、これらの接着剤は、金属材料と樹脂材料との接合において必ずしも十分なものではなかった。
【0003】
さらに、接着剤を使用しない接合方法として、金属材料の表面に微細な凹部を形成し、この表面に樹脂を射出して前記凹部に樹脂を侵入させ、金属材料と樹脂材料との接合強度を向上させる方法が提案されている(特開2010−64496号公報(特許文献4))。しかしながら、この方法では、内径が80nm以下の凹部に樹脂を装入させるために、高圧での射出が必要であった。
【0004】
なお、樹脂材料と金属材料とカーボンナノチューブを備える複合材料としては、特開2010−251292号公報(特許文献5)には、合成樹脂などからなる基板と、この基板の表面に配置された金属ワイヤなどの導電性構造体と、この導電性構造体に結合させたカーボンナノチューブとを備える導電性フィルムが開示されている。この導電性フィルムにおいては、金属前駆体を含有する溶液を噴射して導電性構造体を形成させた後、この導電性構造体にカーボンナノチューブを結合させており、また、導電性構造体とカーボンナノチューブは静電気的引力で結合していることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106193号公報
【特許文献2】特開2010−131888号公報
【特許文献3】特開2007−221099号公報
【特許文献4】特開2010−64496号公報
【特許文献5】特開2010−251292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、金属材料と樹脂材料とを簡便に接合することができる新規な方法、およびそれにより得られる新規な樹脂金属複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素材料の表面を金属結合基で修飾することによって、この金属結合基を有する炭素材料が、金属材料と樹脂材料に対して接合力を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の樹脂金属複合材料は、金属材料と、樹脂材料と、該金属材料と該樹脂材料との界面に存在する、金属結合基を有する炭素材料からなる接合材料とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このような樹脂金属複合材料において、前記金属結合基としては、チオアミド基、チオカルボニル基、チオアセチル基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、シアノ基、ホスフィン基、ホスフォン酸基、リン酸基、ボロン酸基およびホウ酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する基が好ましい。
【0010】
また、前記炭素材料としては、ナノカーボン類、カーボンブラック、ケッチェンブラック、人造黒鉛、グラファイト、およびグラフェンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0011】
さらに、前記金属材料としては、Au、Ag、Cu、Sn、Ni、Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属表面を有するものが好ましい。また、前記樹脂材料としては、熱可塑性樹脂を含有するものが好ましい。
【0012】
また、本発明の樹脂金属複合材料の製造方法は、金属材料の表面に金属結合基を有する炭素材料を固定化する固定化工程と、前記固定化工程において前記炭素材料が固定化された金属材料表面に溶融状態の樹脂を接触させて前記金属材料と樹脂材料とを接合させる接合工程とを含むことを特徴とするものである。
【0013】
前記固定化工程においては、前記金属結合基を有する炭素材料を含有する分散液と前記金属材料とを接触させて、該金属材料の表面に該金属結合基を有する炭素材料を固定化することが好ましく、このような前記分散液と前記金属材料とを接触させる方法としては、前記分散液に前記金属材料を浸漬する方法、前記金属材料の表面に前記分散液を塗布する方法、前記金属材料の表面に前記分散液を噴霧する方法のうちのいずれか1つの方法が好ましい。
【0014】
また、前記接合工程においては、前記炭素材料が固定化された金属材料表面に前記溶融状態の樹脂を射出して前記金属材料表面に前記溶融状態の樹脂を接触させることが好ましい。さらに、前記炭素材料が固定化された金属材料表面に、一部または全部が溶融状態の樹脂を加圧により押し付けて、前記金属材料表面に前記樹脂を接触させてもよい。
【0015】
なお、本発明にかかる金属結合基を有する炭素材料を、金属材料と樹脂材料との界面に介在させることによって、金属材料と樹脂材料とが接合される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明にかかる炭素材料は、金属結合基を有するものであるため、図1に示すように、炭素材料1は金属結合基2を介して金属材料3の表面に固定化されていると推察される。そして、金属材料の表面に固定化された炭素材料と金属材料との間には、図2〜3に示すように、適当な大きさの空間が形成されていると推察される。このような状態で炭素材料1が固定化された金属材料3の表面に溶融状態の樹脂を接触させると、溶融状態の樹脂においては高分子鎖が比較的自由に移動することができるため、図2〜3に示すように、炭素材料1と金属材料3との間の空間に高分子鎖4が入り込み、炭素材料1と高分子鎖4が絡み合った状態になると推察される。そして、樹脂を冷却しても、このような炭素材料1と高分子鎖4が絡み合った状態は保持されるため、金属材料と樹脂材料とが、金属材料1の表面に結合した金属結合基2と樹脂材料の高分子鎖4と絡み合っている炭素材料3とを介して接合された状態になると推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属材料と樹脂材料とを簡便に接合することができ、それにより新規な樹脂金属複合材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の樹脂金属複合材料における炭素材料と金属との接合部分を拡大した模式図である。
【図2】本発明の樹脂金属複合材料の構造の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の樹脂金属複合材料の構造の他の一例を模式的に示す図である。
【図4A】調製例1で得られた、シアノ基を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNT−PhCN)およびチオアミド基を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNT−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(S2p)を示すグラフである。
【図4B】調製例1で得られた、シアノ基を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNT−PhCN)およびチオアミド基を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNT−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(N1s)を示すグラフである。
【図5A】調製例2で得られた、シアノ基を有するカーボンブラック(CB−PhCN)およびチオアミド基を有するカーボンブラック(CB−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(S2p)を示すグラフである。
【図5B】調製例2で得られた、シアノ基を有するカーボンブラック(CB−PhCN)およびチオアミド基を有するカーボンブラック(CB−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(N1s)を示すグラフである。
【図6A】調製例3で得られた、シアノ基を有する人造黒鉛(AG−PhCN)およびチオアミド基を有する人造黒鉛(AG−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(S2p)を示すグラフである。
【図6B】調製例3で得られた、シアノ基を有する人造黒鉛(AG−PhCN)およびチオアミド基を有する人造黒鉛(AG−PhC(=S)NH)のXPSスペクトル(N1s)を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた、MWCNT−PhC(=S)NHが固定化された銅板表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1で得られた、MWCNT−PhC(=S)NHが固定化された銅板表面のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例で作製した、金属材料と樹脂材料が接合された射出成形品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明の樹脂金属複合材料について説明する。本発明の樹脂金属複合材料は、金属材料と、樹脂材料と、金属結合基を有する炭素材料とを備えるものである。本発明の樹脂金属複合材料において、前記炭素材料は、前記金属材料と前記樹脂材料との界面に存在して接合材料として機能するものである。
【0020】
(金属材料)
本発明にかかる金属材料としては、表面が金属を含むものであれば特に制限はなく、例えば、金属板、金属メッキ層や金属蒸着膜などの表面に金属層を備える積層体などが挙げられる。このような金属材料の形状としては特に制限はなく、例えば、切断、プレス、切削、研削などの公知の金属加工方法により、所望の形状に加工したものを使用することが可能である。
【0021】
このような金属材料(特に金属材料表面)の金属の種類としては特に制限はなく、各種用途に応じて適宜選択することができるが、本発明にかかる金属結合基との結合性が高いという観点から、Au、Ag、Cu、Sn、Ni、Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Tiが好ましく、Cu、Fe、Alがより好ましい。本発明にかかる金属材料の表面は、このような金属を少なくとも1種含むものであることが好ましい。また、本発明にかかる金属材料の表面は、前記金属の2種以上からなる合金を含むものであってもよいし、前記金属の酸化物を含むもの(例えば、アルマイトからなるもの)であってもよい。
【0022】
また、本発明にかかる金属材料の表面には、研磨処理が施されていることが好ましい。研磨処理方法としては、機械研磨、電解研磨、化学研磨、化学機械的研磨など公知の研磨方法を採用することができる。このような研磨処理を施すことによって、金属表面の酸化膜が除去されたり、あるいは金属表面に微細な凹凸が形成される場合があり、研磨処理された金属表面は、金属結合基との結合において、物理的・化学的に有利となる傾向にある。
【0023】
(樹脂材料)
本発明にかかる樹脂材料としては特に制限はなく、例えば、汎用プラスチック、汎用エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックといった熱可塑性樹脂が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択することができる。前記汎用プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンといったポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。前記汎用エンジニアリングプラスチックとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12といったポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレンなどが挙げられる。前記スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、非晶ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレンといったフッ素樹脂などが挙げられる。
【0024】
本発明にかかる樹脂材料においては、このような熱可塑性樹脂を少なくとも1種含んでいることが好ましい。このような熱可塑性樹脂の中でも、炭素材料との親和性が高いという観点から、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィドが好ましい。また、本発明にかかる樹脂材料には、公知の充填材や公知の添加剤、公知の樹脂強化材などが含まれていてもよい。前記樹脂強化材としてはガラス繊維やバイオナノファイバーなどが挙げられる。
【0025】
(金属結合基を有する炭素材料)
本発明にかかる炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブなど)、カーボンナノホーン,カーボンナノリング、カーボンナノファイバー、カーボンナノコーン、カーボンナノコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、カーボンナノフレークといったナノカーボン類、カーボンブラック、ケッチェンブラック、人造黒鉛、グラファイト、グラフェン、フラーレンなどが挙げられ、さらに、このような炭素材料の基本構造を有する類縁体も本発明にかかる炭素材料として使用することができる。本発明の樹脂金属複合材料においては、このような炭素材料が1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、樹脂材料との親和性が高いという観点から、ナノカーボン類が好ましく、カーボンナノチューブがより好ましい。
【0026】
このような炭素材料のサイズとしては、球状の炭素材料においては、その平均直径が10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜4.5μmであることがより好ましい。一方、針状や繊維状、板状の炭素材料については、平均短径が1〜80nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましく、アスペクト比(長径/短径)としては、100以上が好ましい。
【0027】
また、本発明にかかる炭素材料は金属結合基を有するものである。このような金属結合基は、金属材料との結合性が高いという観点から、炭素材料の表面に存在していることが好ましい。本発明にかかる金属結合基としては、金属と結合し得る官能基であれば特に制限はないが、チオアミド基(−C(=S)−NR)、チオカルボニル基(−C(=S)−R)、チオアセチル基(−S−C(=O)−CH)、チオール基(−SH)、スルフィド基(−S−R)、カルボキシル基(−C(=O)−OH)、カルボニル基(−C(=O)−R)、アミド基(−C(=O)−NR)、シアノ基(−CN)、ホスフィン基(−PR)、ホスフォン酸基(−P(=O)−(OH))、リン酸基(−O−P(=O)−(OH))、ボロン酸基(−B−(OH))およびホウ酸基(−O−B−(OH))が好ましく、前記金属材料表面との結合性が高いという観点から、チオアミド基(−C(=S)−NR)、チオカルボニル基(−C(=S)−R)、チオアセチル基(−S−C(=O)−CH)が好ましく、チオアミド基(−C(=S)−NR)がより好ましい。本発明にかかる炭素材料においては、このような金属結合基が少なくとも1種存在していればよい。なお、前記化学式中のRおよびRは、それぞれ独立に水素原子または1価の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アリール基など)を表す。
【0028】
また、本発明にかかる炭素材料において、このような金属結合基は、前記炭素材料の炭素原子と直接結合していてもよいが、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基などの2価の炭化水素基を介して前記炭素材料中の炭素原子と結合していることが好ましい。また、前記2価の炭化水素基には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記金属結合基以外のヘテロ原子を含有する官能基が置換されていてもよい。
【0029】
本発明にかかる金属結合基を有する炭素材料は、前記炭素材料と金属結合基を有する有機化合物とを反応させる方法、前記炭素材料と官能基を有する有機化合物とを反応させた後、この官能基と金属結合基を有する化合物とを反応させたり、前記官能基を金属結合基に置換したり、前記官能基を変性したりする方法によって合成することができる。このような合成処方は、導入される金属結合基に応じて適宜設計される。
【0030】
シアノ基を有する炭素材料は、例えば、炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、シアノ基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを添加することによって合成することができる。すなわち、シアノ基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを混合すると、シアノ基を有するジアゾニウムイオンが形成され、このシアノ基を有するジアゾニウムイオンが炭素材料と反応することによって、シアノ基を有する有機基が炭素材料中の炭素原子と結合してシアノ基を有する炭素材料が得られる。前記シアノ基を有する1級アミンとしては、4−アミノベンゾニトリル、2−アミノベンゾニトリル、3−アミノベンゾニトリル、5−アミノイソフタロニトリル、2,2’−(5−アミノ−1,3−フェニレン)ジアセトニトリルといった、下記式:
N−Ph−(R−CN)
(前記式中、Rは単結合または2価の炭化水素を表し、nは1〜3の整数である。)
で表されるアミン化合物などが挙げられる。なお、シアノ基を有する炭素材料を合成する際の温度としては0〜80℃が好ましい。
【0031】
チオアミド基を有する炭素材料は、例えば、前記シアノ基を有する炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、硫化アンモニウムを添加することによって合成することができる。すなわち、シアノ基を有する炭素材料と硫化アンモニウムとを混合すると、シアノ基と硫化アンモニウムとが反応してチオアミド基が形成され、チオアミド基を有する炭素材料が得られる。なお、シアノ基と硫化アンモニウムとを反応させる際の温度としては0〜40℃が好ましい。
【0032】
アミド基を有する炭素材料は、例えば、前記シアノ基を有する炭素材料を水に分散させた分散液に強酸または強塩基を添加して、前記シアノ基を適度に加水分解することによって合成することができる。また、カルボキシル基を有する炭素材料は、例えば、前記アミド基を有する炭素材料を水に分散させた分散液に強酸または強塩基を添加して、前記アミド基を加水分解することによって合成することができる。なお、前記加水分解を行う際の温度としては、0〜80℃が好ましい。
【0033】
チオール基を有する炭素材料は、例えば、炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、チオール基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを添加することによって合成することができる。すなわち、チオール基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを混合すると、チオール基を有するジアゾニウムイオンが形成され、このチオール基を有するジアゾニウムイオンが炭素材料と反応することによって、チオール基を有する有機基が炭素材料中の炭素原子と結合してチオール基を有する炭素材料が得られる。前記チオール基を有する1級アミンとしては、4−アミノチオフェノール、2−アミノチオフェノール、3−アミノチオフェノール、5−アミノベンゼン−1,3−ジチオール、(5−アミノ−1,3−フェニレン)ジメタンチオールといった下記式:
N−Ph−(R−SH)
(前記式中、Rは単結合または2価の炭化水素基を表し、nは1〜3の整数である。)
で表されるアミン化合物などが挙げられる。なお、シアノ基を有する炭素材料を合成する際の温度としては0〜80℃が好ましい。
【0034】
チオアセチル基を有する炭素材料は、例えば、前記チオール基を有する炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、無水酢酸を添加することによって合成することができる。すなわち、チオール基を有する炭素材料と無水酢酸とを混合すると、チオール基と無水酢酸とが反応してチオアセチル基が形成され、チオアセチル基を有する炭素材料が得られる。なお、チオール基と無水酢酸とを反応させる際の温度としては0〜80℃が好ましい。
【0035】
ホスフォン酸基を有する炭素材料は、例えば、炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、ホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを添加し、必要に応じて反応生成物を加水分解することによって合成することができる。すなわち、ホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを混合すると、ホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有するジアゾニウムイオンが形成され、このホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有するジアゾニウムイオンが炭素材料と反応することによって、ホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有する有機基が炭素材料中の炭素原子と結合してホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有する炭素材料が得られる。ホスフォン酸エステル基を有する炭素材料については、加水分解することによってホスフォン酸基を有する炭素材料が得られる。前記ホスフォン酸基またはホスフォン酸エステル基を有する1級アミンとしては、ジエチル 4−アミノベンジルホスフォネート〔4−アミノベンジルホスフォニックアシッドジエチルエステル〕、(5−アミノ−1,3−フェニレン)ビス(メチレン)ジホスフォニックアシッド、(5−アミノ−1,3−フェニレン)ビス(メチレン)ジホスフォネートといった下記式:
N−Ph―(R−P(=O)(OR)(OR))
(前記式中、Rは単結合または2価の炭化水素基を表し、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、または1価の炭化水素基もしくは複素基を表し、nは1〜3の整数である。)
で表されるアミン化合物などが挙げられる。なお、ホスフォン酸基を有する炭素材料を合成する際の温度としては0〜80℃が好ましい。
【0036】
ボロン酸基を有する炭素材料は、例えば、炭素材料を溶媒中に分散させた分散液に、ボロン酸エステル基を有する1級アミンとジアゾ化剤とを添加し、反応生成物をアルカリで処理することによって合成することができる。すなわち、ボロン酸エステル基を有する1級アミンとジアゾ化剤と混合すると、ボロン酸エステル基を有するジアゾニウムイオンが形成され、このボロン酸エステル基を有するジアゾニウムイオンが炭素材料と反応することによって、ボロン酸エステル基を有する有機基が炭素材料中の炭素原子と結合してボロン酸エステル基を有する炭素材料が得られる。このボロン酸エステル基を有する炭素材料をアルカリで処理した後、中和処理を施すことによってボロン酸を有する炭素材料が得られる。前記ボロン酸エステル基を有する1級アミンとしては、4−アミノフェニルボロニックアシッドピナコールエステル、3−アミノフェニルボロニックアシッドピナコールエステル、2−アミノフェニルボロニックアシッドピナコールエステル、3−アミノフェニルボロニックアシッドヘミスルフェイト塩、3−アミノフェニルボロニックアシッドヒドロクロライドといった下記式:
N−Ph―((R)−B(OR)(OR))
(前記式中、Rは単結合または2価の炭化水素基を表し、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、または1価の炭化水素基もしくは複素基を表し、nは1〜3の整数である。)
で表されるアミン化合物などが挙げられる。なお、ボロン酸基を有する炭素材料を合成する際の温度としては0〜80℃が好ましい。
【0037】
これらの金属結合基を有する炭素材料の合成に用いられる溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エーテル、1−ブタノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、塩化メチレン、トルエン、水、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロホルム、ジオキサン、イソプロピルエーテル、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。前記ジアゾ化剤としては、亜硝酸、亜硝酸エステル(例えば、亜硝酸メチル、亜硝酸イソアミル)、亜硝酸のアルカリ金属塩(例えば、亜硝酸ナトリウム)などが挙げられる。また、前記溶媒に炭素材料を分散させる場合や前記合成反応を行う場合には、超音波処理や攪拌処理などを施して炭素材料を均一に分散させることが好ましい。
【0038】
<樹脂金属複合材料>
本発明の樹脂金属複合材料は、前記金属材料と前記樹脂材料と、これらの界面に存在する前記金属結合基を有する炭素材料とを備えるものである。前記金属材料と前記樹脂材料との界面における引張強度としては、0.1MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましい。本発明の樹脂金属複合材料においては、金属結合基を有する炭素材料が金属材料と樹脂材料との界面に介在しているため、このような引張強度を達成することが可能となる。
【0039】
<樹脂金属複合材料の製造方法>
次に、本発明の本発明の樹脂金属複合材料の製造方法について説明する。本発明の樹脂金属複合材料の製造方法は、前記金属材料の表面に前記金属結合基を有する炭素材料を固定化する工程(固定化工程)と、前記固定化工程において前記炭素材料が固定化された金属材料表面に溶融状態の樹脂を接触させて前記金属材料と樹脂材料とを接合させる工程(接合工程)とを含む方法である。
【0040】
(固定化工程)
本発明にかかる固定化工程においては、前記金属結合基を有する炭素材料を含有する分散液(以下、「金属結合基含有炭素材料分散液」という)と前記金属材料とを接触させることが好ましい。これにより、前記金属材料の表面に前記金属結合基を有する炭素材料を固定化することができる。前記金属結合基含有炭素材料分散液と前記金属材料とを接触させる方法としては、例えば、前記炭素材料分散液に前記金属材料を浸漬する方法、前記金属材料の表面に前記炭素材料分散液を塗布する方法、前記金属材料の表面に前記炭素材料分散液を噴霧する方法などが挙げられる。また、これらの方法を施した後、必要に応じて焼き付け処理を施してもよい。これにより、前記金属材料の表面に前記金属結合基を有する炭素材料を強固に固定化することができる。
【0041】
前記金属結合基含有炭素材料分散液に用いられる分散媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エーテル、1−ブタノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、塩化メチレン、トルエン、水、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロホルム、ジオキサン、イソプロピルエーテル、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。また、前記金属結合基含有炭素材料分散液における金属結合を有する炭素材料の濃度としては特に制限はないが、0.01〜10g/Lが好ましく、0.2〜2g/Lがより好ましい。この金属結合を有する炭素材料の濃度は、金属結合を有する炭素材料の固定化方法、固定化量などに応じて適宜設定されるが、前記範囲外になると、金属材料と樹脂材料との界面において十分な接合強度(引張強度)が得られない傾向にある。
【0042】
前記炭素材料分散液に前記金属材料を浸漬する場合、浸漬溶液を静置して浸漬してもよいし、攪拌しながら浸漬してもよい。浸漬温度としては0〜50℃が好ましい。また、浸漬時間としては0.5〜48時間が好ましく、12〜24時間がより好ましい。
【0043】
(接合工程)
本発明にかかる接合工程において、前記固定化工程において前記金属結合基を有する炭素材料が固定化された金属材料表面(以下、「炭素材料固定化表面」という)に、溶融状態の樹脂を接触させることにより、前記金属材料と前記樹脂材料とが接合した本発明の樹脂金属複合材料を得ることができる。
【0044】
溶融状態の樹脂においては高分子鎖は比較的自由に移動することができるため、前記炭素材料固定化表面に溶融状態の樹脂を接触させると、高分子鎖が前記金属材料表面に金属結合基を介して固定化された炭素材料と絡み合った状態になると推察される。その後、溶融状態の樹脂を冷却すると、高分子鎖と炭素材料との絡み合いが保持されたまま、樹脂が凝固するため、金属材料の表面に樹脂材料が接合された状態となると推察される。
【0045】
前記炭素材料固定化表面に溶融状態の樹脂を接触させる方法としては、前記炭素材料固定化表面に溶融状態の樹脂を射出して成形する方法、前記炭素材料固定化表面に、予備成形した樹脂材料を溶融圧着させる方法などが挙げられる。
【0046】
射出成形による方法として、具体的には、先ず、前記固定化工程で得られた金属材料を所定の射出成形用金型に装着する。次に、前記金属材料の炭素材料固定化表面に溶融状態の樹脂を射出する。その後、金型を冷却することによって樹脂を凝固させ、金属材料と樹脂材料とを接合させる。前記射出時の樹脂温度としては、樹脂の溶融温度以上であれば特に制限はない。また、その他の射出条件についても各樹脂に応じた公知の条件を採用することができる。
【0047】
溶融圧着による方法としては、先ず、樹脂を射出成形や押出成形など公知の成形方法により所定の形状に予備成形する。この予備成形された樹脂材料(以下、「予備成形樹脂材料」という)を、前記固定化工程で得られた金属材料の炭素材料固定化表面上に重ねあわせて樹脂金属複合材料前駆体を作製する。その後、この樹脂金属複合材料前駆体を加熱しながらプレス成形することによって、前記炭素材料固定化表面に樹脂材料が溶融圧着され、得られたプレス成形品を冷却することによって、金属材料と樹脂材料とが接合された本発明の樹脂金属複合材料が得られる。前記溶融圧着時の加熱温度としては、樹脂の溶融温度以上であれば特に制限はない。また、その他の溶融圧着条件についても各樹脂に応じた公知の条件を採用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した金属結合基を有する炭素材料は以下の方法により調製した。
【0049】
(調製例1)
100mlのナス型フラスコに3gの多層カーボンナノチューブ(Nanocyl社製Thin Multi−wall CNT「NanocylTM NC7000」、平均直径9.5nm、長さ1.5μm、以下、「MWCNT」と略す。)を入れ、次いで、30mlのジメチルアセトアミド(DMAc)を室温で注ぎ入れ、超音波処理を施して均一なMWCNT分散液を得た。この分散液に、137mgの4−アミノベンゾニトリルと3mlの亜硝酸イソアミルを添加し、室温から60℃の範囲の温度下で8時間超音波処理を施して、下記式(1)で表される反応を行なった。
【0050】
【化1】

【0051】
得られた黒色沈殿物に水を加えて孔径1.0μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いてろ過し、その後、クロロホルム、アセトンで順次洗浄して、黒色固体(MWCNT−PhCN)を得た。この黒色固体200mgを100mlのナス型フラスコに入れ、30mlのDMAcを室温で注ぎ入れ、超音波処理を施して均一なMWCNT−PhCN分散液を得た。この分散液に、16.3mlの硫化アンモニウムを滴下した後、室温で24時間攪拌して、下記式(2)で表される反応を行なった。
【0052】
【化2】

【0053】
得られた黒色沈殿物に水を加えて孔径1.0μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いてろ過して黒色固体を得た。この黒色固体をXPS分析し、チオアミド基を有するMWCNT(以下、「MWCNT−PhC(=S)NH」と略す。)であることを確認した。図4Aおよび図4BにはXPS分析の結果を示す。
【0054】
(調製例2)
4−アミノベンゾニトリルの代わりに、145mgの4−アミノチオフェノールを用いた以外は調製例1と同様にして、下記式(3)で表される反応を行なった。
【0055】
【化3】

【0056】
得られた黒色沈殿物に水を加えて孔径1.0μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いてろ過し、その後、クロロホルム、アセトンで順次洗浄して、黒色固体(MWCNT−PhSH)を得た。この黒色固体200mgを100mlのナス型フラスコに入れ、0.1mlの無水酢酸(AcO)を室温で注ぎ入れ、室温で24時間攪拌して、下記式(4)で表される反応を行なった。
【0057】
【化4】

【0058】
得られた黒色沈殿物に水を加えて孔径1.0μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いてろ過して黒色固体を得た。この黒色固体をXPS分析し、チオアセチル基を有するMWCNT(以下、「MWCNT−PhSAc」と略す)であることを確認した。
【0059】
(調製例3)
MWCNTの代わりに、3.0gのカーボンブラック(三菱化学(株)製「MA600」、平均粒子径20nm、以下、「CB」と略す。)を用い、DMAcの量を80ml、4−アミノベンゾニトリルの量を140mg、亜硝酸イソアミルの量を3.0mlに変更した以外は調製例1と同様にして、黒色固体(CB−PhCN)を得た。
【0060】
黒色固体(MWCNT−PhCN)の代わりに、この黒色固体(CB−PhCN)1.0gを用い、反応温度を45℃に変更した以外は調製例1と同様にして黒色固体を得た。この黒色固体をXPS分析し、チオアミド基を有するカーボンブラック(以下、「CB−PhC(=S)NH」と略す。)であることを確認した。図5Aおよび図5BにはXPS分析の結果を示す。
【0061】
(調製例4)
MWCNTの代わりに、3.0gの人造黒鉛(昭和電工(株)製「UF−G10」、平均粒子径5μm、以下、「AG」と略す。)を用い、DMAcの量を80ml、4−アミノベンゾニトリルの量を140mg、亜硝酸イソアミルの量を3.0mlに変更した以外は調製例1と同様にして、黒色固体(AG−PhCN)を得た。
【0062】
黒色固体(MWCNT−PhCN)の代わりに、この黒色固体(AG−PhCN)1.0gを用い、反応温度を45℃に変更した以外は調製例1と同様にして黒色固体を得た。この黒色固体をXPS分析し、チオアミド基を有する人造黒鉛(以下、「AG−PhC(=S)NH」と略す。)であることを確認した。図6Aおよび図6BにはXPS分析の結果を示す。
【0063】
(実施例1)
<金属結合基含有炭素材料の固定化>
電解研磨液として85質量%のリン酸と濃硫酸の体積比が25:1である混合液を用い、温度15〜30℃、電圧2V、初期電流1Aの条件で銅板(10mm×50mm×1mm)の表面に5分間の電解研磨を施した。研磨後の銅板を、イオン交換水を用いて洗浄した。
【0064】
また、容量20mlのサンプル管に、調製例1で得られた1mgのMWCNT−PhC(=S)NHを入れ、次いで、5mlのDMAcを注ぎ、室温で1時間超音波処理を施してMWCNT−PhC(=S)NHの一部を可溶化させ、黒色固体を含有するMWCNT−PhC(=S)NHの飽和溶液を調製した。
【0065】
このMWCNT−PhC(=S)NH飽和溶液に電解研磨した銅板を室温で24時間浸漬して、銅板の表面にMWCNT−PhC(=S)NHを固定化させた。浸漬後の銅板をDMAc、ジクロロメタン、アセトンで順次洗浄し、窒素を吹き付けて乾燥させた。
【0066】
乾燥後の銅板の表面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、図7に示すように、銅板の表面にMWCNT−PhC(=S)NHが固定化されていることが確認された。また、銅板の表面をラマン分析したところ、図8に示すように、グラフェン由来のGバンドと欠陥由来のDバンドが観測され、この結果からも銅板の表面にMWCNT−PhC(=S)NHが固定化されていることが確認された。
【0067】
<樹脂金属複合材料の作製>
射出成形用金型にMWCNT−PhC(=S)NHが固定化された銅板を装着した。この金型を射出成形装置(Custom Scientific Instruments, Inc.(CSI)社製「MINI
MAX MOLDER, MODEL:CS-183MMX」)に装着し、樹脂温度320℃、金型温度90〜95℃、保持時間30秒の条件で、ポリフェニレンスルフィド(東レ(株)製PPS樹脂「トレリナ」、非強化A900、融点278℃、以下、「PPS」と略す)を、前記銅板のMWCNT−PhC(=S)NHが固定化された面に射出して、図9に示す金属材料11(10mm×50mm×t1mm)と樹脂材料12(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した射出成形品を作製した。
【0068】
<引張せん断試験>
得られた射出成形品を試験片とし、万力型のチャックを備えたインストロン型万能試験機(Instron社製「INSTRON 5566」)を用い、引張速度10mm/分、チャック間距離50mm、ロードセル10kN、チャックスペーサー10kNの条件で引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定したところ、7.27MPaであった。
【0069】
(実施例2)
MWCNT−PhC(=S)NHの代わりに、調製例2で得られた1mgのMWCNT−PhSAcを用いた以外は実施例1と同様にして射出成形品を作製した。この射出成形品について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定し、実施例1で得られた射出成形品の引張強さに対する比を求めた。その結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
PPSの代わりにナイロン6(宇部興産(株)製「UBE NYLON6 1022B」)を用いた以外は実施例1と同様にして射出成形品を作製した。この射出成形品について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定し、実施例1で得られた射出成形品の引張強さに対する比を求めた。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
MWCNT−PhC(=S)NHの代わりに、調製例3で得られた10mgのCB−PhC(=S)NHを用いた以外は実施例1と同様にして射出成形品を作製した。この射出成形品について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定し、実施例1で得られた射出成形品の引張強さに対する比を求めた。その結果を表1に示す。
【0072】
(実施例5)
CB−PhC(=S)NHの量を30mgに変更した以外は実施例4と同様にして射出成形品を作製した。この射出成形品について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定し、実施例1で得られた射出成形品の引張強さに対する比を求めた。その結果を表1に示す。
【0073】
(実施例6)
MWCNT−PhC(=S)NHの代わりに、調製例4で得られた10mgのAG−PhC(=S)NHを用いた以外は実施例1と同様にして射出成形品を作製した。この射出成形品について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定し、実施例1で得られた射出成形品の引張強さに対する比を求めた。その結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
MWCNT−PhC(=S)NHが固定化された銅板の代わりに電解研磨後の銅板を用いた以外は実施例1と同様にして射出成形を行なったが、銅板とPPS材料とを接合させることはできなかった。なお、この場合の銅板とPPS材料との引張強さは0MPaとした。
【0075】
(比較例2)
MWCNT−PhC(=S)NHの代わりに1mgのMWCNTを用いた以外は実施例14と同様にして銅板の表面にMWCNTを固定化することを試みたが、走査型電子顕微鏡による観察とラマン分析ともに銅板の表面に固定化されたMWCNTを確認することはできなかった。
【0076】
(比較例3)
実施例1と同様にして電解研磨を施した銅板の表面の一部(10mm×10mm)に、両面テープ(ニチバン(株)製「ナイスタック NW−10S」(一般タイプ))を貼り付けた。前記両面テープ上に、予め射出成形により作製したPPS材料(10mm×40mm×t2mm)を載せ、手で加圧して銅板とPPS材料とを接合した。得られた試験片について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定したところ、0.33MPaであった。
【0077】
(比較例4)
実施例1と同様にして電解研磨を施した銅板の表面の一部(10mm×10mm)にシアノアクリレート系接着剤(東亜合成(株)製「アロンアルファ200系(汎用)#201」(樹脂、金属、木材など広範囲の被着材の接着用))を塗布した。前記接着剤上に、予め射出成形により作製したPPS材料(10mm×40mm×t2mm)を載せ、手で加圧して銅板とPPS材料とを接合した。得られた試験片について、実施例1と同様にして引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定したところ、0.77MPaであった。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示した結果から明らかなように、チオアミド基、チオアセチル基などの金属結合基を有する炭素材料を用いることによって、銅板とPPS材料やNy6材料とを接合できることが確認された(実施例1〜6)。特に、実施例1、3で使用したチオアミド基を有するMWCNTは、銅板とPPS材料またはNy6材料との接合において、両面テープ(比較例3)やシアノアクリレート系接着剤(比較例4)を用いた場合に比べて、高い接合力を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明によれば、炭素材料を用いて金属材料と樹脂材料とを容易に接合することが可能となる。
【0081】
したがって、本発明の樹脂金属複合材料の製造方法は、金属材料と樹脂材料とを接合するための簡便で新規な方法として、自動車分野や家電分野など様々な分野において有用である。
【符号の説明】
【0082】
1:炭素材料、2:金属結合基、3:金属材料、4:高分子鎖。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料と、樹脂材料と、該金属材料と該樹脂材料との界面に存在する、金属結合基を有する炭素材料からなる接合材料とを備えることを特徴とする樹脂金属複合材料。
【請求項2】
前記金属結合基が、チオアミド基、チオカルボニル基、チオアセチル基、チオール基、スルフィド基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、シアノ基、ホスフィン基、ホスフォン酸基、リン酸基、ボロン酸基およびホウ酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する基であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂金属複合材料。
【請求項3】
前記炭素材料が、ナノカーボン類、カーボンブラック、ケッチェンブラック、人造黒鉛、グラファイト、およびグラフェンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂金属複合材料。
【請求項4】
前記金属材料が、Au、Ag、Cu、Sn、Ni、Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属表面を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂金属複合材料。
【請求項5】
前記樹脂材料が、熱可塑性樹脂を含有するものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の樹脂金属複合材料。
【請求項6】
金属材料の表面に金属結合基を有する炭素材料を固定化する固定化工程と、
前記固定化工程において前記炭素材料が固定化された金属材料表面に溶融状態の樹脂を接触させて前記金属材料と樹脂材料とを接合させる接合工程と、
を含むことを特徴とする樹脂金属複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記固定化工程において、前記金属結合基を有する炭素材料を含有する分散液と前記金属材料とを接触させて、該金属材料の表面に該金属結合基を有する炭素材料を固定化することを特徴とする請求項6に記載の樹脂金属複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記固定化工程において、前記分散液と前記金属材料とを接触させる方法が、前記分散液に前記金属材料を浸漬する方法、前記金属材料の表面に前記分散液を塗布する方法、前記金属材料の表面に前記分散液を噴霧する方法のうちのいずれか1つの方法であることを特徴とする請求項7に記載の樹脂金属複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記接合工程において、前記炭素材料が固定化された金属材料表面に前記溶融状態の樹脂を射出して前記金属材料表面に前記溶融状態の樹脂を接触させることを特徴とする請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載の樹脂金属複合材料の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200989(P2012−200989A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67558(P2011−67558)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】