橋桁送出し工法
【課題】 歩道用橋桁部材に手延機を連結し、送出し台車で送出すときに、歩道用橋桁部材を補強する必要のない橋桁送出し工法を提供すること。
【解決手段】 手延機Tが連結された橋桁部材Hを載置した送出し台車13,14を走行させることにより、第1橋脚P2から第2橋脚P1へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材Hの上に鉄塔21を建てること、鉄塔21から橋桁部材Hまたは手延機Tをワイヤ22により斜め吊りすること、鉄塔21の倒れを防止するため、鉄塔21と橋桁部材Hとをワイヤ22で連結すること、を特徴とする。
【解決手段】 手延機Tが連結された橋桁部材Hを載置した送出し台車13,14を走行させることにより、第1橋脚P2から第2橋脚P1へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材Hの上に鉄塔21を建てること、鉄塔21から橋桁部材Hまたは手延機Tをワイヤ22により斜め吊りすること、鉄塔21の倒れを防止するため、鉄塔21と橋桁部材Hとをワイヤ22で連結すること、を特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ橋桁を架け渡す橋桁送出し工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路上や高速道路上に橋梁を架設する場合に、架設地点の後方延長線上に地組ヤードを設置して、地組ヤード上で橋桁部材を組立て、組立てた橋桁部材を、地組ヤード上に設置した軌道上を移動可能な送出し台車に載置し、第1橋脚から第2橋脚に向けて橋桁部材を送出す橋桁送出し工法が行われている。
この場合に、橋桁部材の前方に手延機を連結し、送出し台車が第1橋脚近くまで移動したときに、手延機の先端が第2橋脚に到達する。その後、第2橋脚が橋桁部材の重量を支えつつ、第2橋脚側に設けられた引き込み台車により、橋桁部材が第2橋脚側に引き込まれることにより、送出し作業が継続される。
手延機は、橋桁部材と比較して、軽量に構成されているが、橋桁部材を支えながら、移動させる必要があるため、ある程度の強度を必要とし、かなりの重量を有している。
【0003】
特許文献1には、手延機を送出したときに、手延機により発生するモーメントにより、橋桁部材が手延機の方向に倒れるのを防止するため、後方桁に対応する門型構造物を配設して、後方桁が浮き上がるのを防止する技術が開示されている。門型構造物が橋桁部材の後方桁の浮き上がりを防止するので、手延機のモーメントを受けても、橋桁部材が倒れることはない。
一方、特許文献2には、橋梁の架設工事において、回転中心の上に配設した鉄塔からワイヤを橋桁部材に連結し、ワイヤで斜吊することにより、橋桁部材を回転させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-159026号公報
【特許文献2】特開2005-090108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術には、次のような問題があった。
高速道路や鉄道跨線用の橋桁部材の場合には、橋桁部材自体が、強い強度を備えるため、手延機を連結して、特許文献1と比較して、手延機を送出したときに、橋桁部材の補強量は少ない。
しかし、歩道用橋桁部材や隣接径間鋼重により断面力の軽減がされた連続桁、床板、コンクリート荷重を載荷しない鋼床版桁等の場合には、橋桁部材自体の強度が、送出し径間に比較して弱いため、手延機を連結して、送出したときに、歩道用橋桁部材がモーメントにより撓んで塑性変形する恐れがあった。橋桁部材が塑性変形すると、接続部で接続できない等の不都合が生じ問題であった。
塑性変形を防止するため、橋桁部材自体を補強することが行われていた。橋桁部材を補強すると、それらを架設するための下部構造体も、重量増加に応じて強度を強くする必要があった。
そして、橋桁部材を補強したり、下部構造体を補強することは、架設が終了した後では、無駄な強度を有する構造体となってしまう。このような無駄は、コストアップを生じるのみならず、資源の無駄使いであり、地球環境の視点からも、問題であった。
一方、特許文献2には、支柱、ケーブル、カウンターウェイトを用いて、鋼床版桁の水平とバランスを保つ技術が開示されているが、橋桁送出し工法において、手延機によるモーメントで橋桁部材が塑性変形することを防止するという課題については、全く記載されていないし、また、全く示唆されていない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決して、歩道用橋桁部材に手延機を連結し、送出し台車で送出すときに、橋桁部材の補強量を少なくする橋桁送出し工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る橋桁送出し工法は、次の構成を有している。
(1)手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材の上に鉄塔を建てること、鉄塔から橋桁部材または手延機をワイヤにより斜め吊りすること、鉄塔の倒れを防止するため、鉄塔と前記橋桁部材とをワイヤで連結すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する橋桁送出し工法において、前記手延機から前記橋桁部材までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する橋桁送出し工法において、前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する橋桁送出し工法の作用、及び効果について説明する。
(1)手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材の上に鉄塔を建てること、鉄塔から橋桁部材または手延機をワイヤにより斜め吊りすること、鉄塔の倒れを防止するため、鉄塔と橋桁部材とをワイヤで連結すること、ことを特徴とするので、手延機を連結したことで橋桁部材に生じるモーメントを、鉄塔からのワイヤの斜め吊りにより軽減できるため、橋桁部材の補強量を軽減できる。さらに、橋桁部材の補強量が少ないため、橋桁部材の重量が増加することがなく、下部構造体を補強する必要がない。これにより、無駄な補強材を使用することがなく、コストダウンを実現できる。
すなわち、従来は、橋桁部材の補強材は、そのまま使用されるため、過度の強度を有する歩道用橋桁部材となっていた。本発明によれば、鉄塔とワイヤとは、架設工事後、取り外して他の工事で利用するため、全体としてコストダウンを図れる。同時に、無駄に鉄資源を使用することがないため、地球環境の視点からも有効である。
【0009】
(2)また、(1)に記載する橋桁送出し工法において、前記手延機から前記送出し台車までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする。ワイヤの張力を大きくすれば橋桁部材の補強を更に少なくできるが、橋桁部材は元々、橋梁として使用するのに必要な強度は必ず有していなければならない。また、ワイヤの強度を高めるためには、鉄塔及びワイヤを補強しなければならず、そのコストアップが問題となる。
したがって、前記手延機から前記鉄塔までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記送出し台車までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することにより、元々有している橋桁部材の強度をそのまま利用でき、鉄塔及びワイヤを過度に補強する必要がないため、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【0010】
(3)(1)または(2)に記載する橋桁送出し工法において、前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とするので、鉄塔にかかる垂直方向の力を、橋桁部材を介して送出し台車が直接受けるため、橋桁部材の補強を少なくすることができ、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】橋桁送出し工法で使用する装置の構成を示す、第1工程図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】鉄塔21及びワイヤ22の部分の拡大図である。
【図4】鉄塔21の側面図である。
【図5】鉄塔21の上部の拡大図である。
【図6】張力調整装置24の構成を示す図である。
【図7】橋桁部材H側におけるワイヤ22との連結部の構造を示す図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】ワイヤ22にテンションを与えていない状態におけるモーメント図である。
【図10】ワイヤ22に所定のテンションを与えた状態におけるモーメント図である。
【図11】送出し工法の第2工程図である。
【図12】送出し工法の第3工程図である。
【図13】送出し工法の第4工程図である。
【図14】送出し工法の第5工程図である。
【図15】送出し工法の第6工程図である。
【図16】送出し工法の第7工程図である。
【図17】送出し工法の第8工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例である橋桁送出し工法について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1に、橋桁送出し工法で使用する装置の構成を示す。図2に、図1の平面図を示す。図1及び図2は、橋桁部材Hを送出す前の状態を示している。
橋脚は、図示するように、左側からP1、P2が建設されている。請求項の第1橋脚は橋脚P2に相当し、請求項の第2橋脚は橋脚P1に相当する。橋脚P1の右そばには、仮組脚であり、完成後撤去するベントB1が組み立てられている。同じく、橋脚P2の右そばには、ベントB2が組み立てられている。ベントB1、B2の上部には、ジャッキ12が設けられており、ジャッキ12の上には、載置された橋桁部材Hを移動可能なローラが設けられている。また、橋脚P2の右側には、左からベントB3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、B10、B11、B12が組み立てられている。
ベントB3〜B12の上には、直線軌道11が、支持されている。直線軌道11には、自走式の前方台車13と、後方台車14が移動可能に設置されている。
前方台車13と後方台車14には、橋桁部材Hが載置されている。橋桁部材Hの前方側には、連結構Rを介して、手延機Tが連結されている。
【0013】
橋桁部材Hの上に、鉄塔21が立てられている。本実施例では、鉄塔21は、前方台車13の直上に位置して建てられている。その理由は、本実施例では、手延機Tが長いため、鉄塔21を前方台車13の位置の直上に建てた方が、最大モーメントMmaxを効果的に低減できるからである。
鉄塔21から両側の橋桁部材Hに対して、ワイヤ22が張られている。図3に、鉄塔21及びワイヤ22の部分の拡大図を示す。図4に、鉄塔21の側面図を示す。また、鉄塔21の上部の拡大図を図5に示す。
図3に示すように、橋桁部材Hには、補強部材52が取り付けられ、補強部材52に対して、鉄塔21が、回転可能に回転軸51で支持されている。鉄塔21は、一対のワイヤ27により、橋桁部材Hに対して、垂直に立てられている。鉄塔21は、図4に示すように、橋桁部材Hの一対の主桁HA、HBの上に、各々鉄塔部材21A、21Bが立てられている。鉄塔部材21A、21Bは、上部連結部材25により連結され一体となっている。上部連結部材25の上には、鉄塔部材21Aに対応して、鉄塔頭部金具31Aが固設され、鉄塔部材21Bに対応して、鉄塔頭部金具31Bが固設されている。
図5に示すように、鉄塔頭部金具31A、31Bの両側には、各々回転軸32により、一対の連結板33の一端部が回転可能に支持されている。連結板33の他端部には、滑車34が回転可能に支持されている。
【0014】
すなわち、鉄塔頭部金具31Aの両側には、各々2組の連結板33、滑車34が付設されている。また、鉄塔頭部金具31Bの両側には、各々2組の連結板33、滑車34が付設されている。滑車には、ワイヤ22巻回されている。
これにより、鉄塔21は前方側において、4本のワイヤ22が折り返された状態で、計8本のワイヤ22で橋桁部材Hの前方部と連結される。同様に、鉄塔21は後方側において、鉄塔21の倒れを防止するため、4本のワイヤ22が折り返された状態で、計8本のワイヤ22で橋桁部材Hの後方部と連結される。
図7に、橋桁部材H側におけるワイヤ22との連結部の構造を示す。図8は、図7の側面図である。橋桁部材Hには、ワイヤ22を連結するための補強部材23A、23Bが固設されており、補強部材23A、23Bには、フックをかけるための孔23aが形成されている。
孔23aには、フックを介して、図6に示す張力調整装置24のロッド42の一端が連結されている。一方、滑車34に巻回された一対のワイヤ22の端部は、図6に示すように、ワイヤ連結体45に固設されている。ワイヤ連結体45には、ロードセル44、油圧ジャッキ41が固設されている。ロッド42は、油圧ジャッキ41のロッドであり、油圧ジャッキ41に油圧が供給され、油圧ジャッキ41が駆動されると、ロッド42は、油圧ジャッキ41に対して、相対的に移動する。ロッド42の左端部の外周には、雄ネジが形成されており、その雄ネジに固定ナット43が螺合されている。
【0015】
次に、張力調整装置24の作用について説明する。
鉄塔21の鉄塔頭部金具31の滑車34に巻回された一対のワイヤ22の端部が固定されたワイヤ連結体45に、油圧ジャッキ41が固設されており、油圧ジャッキ41の駆動軸であるロッド42の一端が、図示しないフックを介して橋桁部材Hの補強部材23に接続されている。この状態で、油圧ジャッキ41に油圧を供給して駆動することにより、ロッド42が図6の左方向に移動される。これにより、ワイヤ22にかかるテンションは増大する。ワイヤ22にかかるテンションは、ロードセル44により計測されている。ロードセル44で計測しているテンションが所定の値になったときに、油圧の供給をホールド状態とする。そのとき、ロッド42の移動により、固定ナット43が油圧ジャッキ41から離間した位置にある。固定ナット43を油圧ジャッキ41まで締め込むことにより、油圧の供給を停止しても、ワイヤ22の張力を保持することができる。
橋桁部材の送出し工法においては、不測の事態を想定して、油圧供給が停止しても、固定ナット43により、ワイヤ22のテンションを保持している。
【0016】
次に、橋桁部材送出し工法について説明する。図1、及び図11から図17に、工程を示す。図1に示すように、前方台車13と後方台車14上に載置された橋桁部材Hに、連結構Rを介して、手延機Tを取り付ける。橋桁部材Hの上で、前方台車13の直上に鉄塔21を建て、ワイヤ27で維持する。次に、鉄塔21の前方部において、4本のワイヤ22を4個の滑車34に巻回させ、各々端部を4個のワイヤ連結体45に接続固定する。同様に、鉄塔21の後方部において、4本のワイヤ22を4個の滑車34に巻回させ、各々端部を4個のワイヤ連結体45に接続固定する。
次に、前方部4個の張力調整装置24、後方部4個の張力調整装置24において、油圧ジャッキ41に所定の油圧をかけて、ロードセル44が所定の値となるように調整する。これにより、ワイヤ22に所定のテンションが与えられる。そして、この状態で、固定ナット43を締め込む。固定ナット43を締め込んだ後、油圧ジャッキ41への油圧供給を停止し、ロードセル44が所定値を維持していることを確認する。
【0017】
図9に、ワイヤ22にテンションを与えていない状態におけるモーメント図を示す。これは、従来の、鉄塔無し・斜吊無しの場合と同じである。モーメントは、手延機Tの先端から橋桁部材Hに向かうに連れて、徐々に増加し、前方台車13の地点において、最大負モーメントMmaxとなる。前方台車13の地点を過ぎた後は、急速に減少してマイナスの正モーメントとなり、後方台車14の地点では、ゼロとなる。
前方台車13の上に載置されているのは、橋桁部材Hの前方1/3位の箇所である。本実施例の橋桁部材Hは、横断歩道用橋桁であり、人しか通行しないため、車両用橋桁や鉄道用橋桁と比較して、本来強度がかなり弱くても問題はない。しかし、手延機Tを取り付けて前方台車13と後方台車14とで送出そうとするときには、最大モーメントMmaxに耐えるように、70%程度補強を行う必要があった。
図10に、ワイヤ22に所定のテンションを与えた状態におけるモーメント図を示す。手延機Tの少し右側に位置する斜吊点である補強部材23(鉄塔21からの距離F)におけるモーメントが最大モーメントMmaxであり、斜吊点である補強部材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントは、最大モーメントMmaxよりも小さくなるように、ワイヤ22のテンションを定めている。
【0018】
次に、第1回の送出し工程を行う。第1回の送出し工程が終了した状態を図11に示す。
自走式の前方台車13を駆動することにより、橋桁部材Hを橋桁P2付近まで移動する。後方台車14は、橋桁部材Hの移動に伴い、直線軌道11上を移動する。この移動により、手延機Tの先端がベントB1に到達する。ベントB1上には、ローラが設けられており、そのローラの上に手延機Tが載置される。
この第1回の送出し工程において、前方台車13、後方台車14で橋桁部材Hを支持した状態のときが、橋桁部材Hに最も大きなモーメントがかかる時である。
本実施例では、橋桁部材Hを、橋桁部材H上に建てた鉄塔21によりワイヤ22で斜吊しているので、図1の状態から図11の状態まで、手延機Tが付設された橋桁部材Hを送出すときに、実施例の橋桁部材Hは、横断歩道用橋桁であり、人しか通行しないため、車両用橋桁や鉄道用橋桁と比較して、本来強度がかなり弱いが、手延機Tにより発生するモーメントのほとんどを、ワイヤ22で受けているため、橋桁補強を5%程度行うだけで、橋桁部材Hに変形等の問題が発生することがない。
本実施例では、斜吊点である補強材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントは、最大モーメントMmaxよりも小さくなるように、ワイヤ22のテンションを定めているが、最大モーメントMmaxと同程度のモーメントとなるように、ワイヤ22のテンションを定めても良い。
【0019】
次に、図12に示すように、ワイヤ22のテンションを緩める。すなわち、固定ナット43を順次緩めて、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を取り外す。
ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を取り外した状態を図13に示す。ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等は、別な工事で使用することができる。
従来の工事で行われていたように、橋桁部材Hを70%補強すれば、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を使用する必要がないが、補強した部材を橋桁部材Hから取り外すのは、工数と時間がかかるため、現実には無理である。それと比較して、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等は、比較的容易に取り外すことができるため、地球資源の有効活用に貢献することができる。
【0020】
次に、さらなる送出しを行う。すなわち、ベントB2上には、ジャッキが設けられており、橋桁部材Hは、ベントB1、ベントB2、後方台車14により支持される。この状態で、前方台車13は、10m程度後退し、ベントB2上でジャッキダウンして橋桁部材Hを支持する。そして、再び自走して橋桁部材Hを前方に送出す。この作業を繰り返すことにより、橋桁部材Hを送り出すことができる。送出しを完了した状態を図14に示す。
次に、手延機T、及び連結構Rを解体する。また、前方台車13、後方台車14等を撤去する。
次に、図16に示すように、ベントB1、B2上のジャッキを駆動することにより、橋桁部材Hを降下させる。降下が終了した状態を図17に示す。図17では、橋桁部材Hが橋脚P1、P2により支持されている。この状態で、ベントB1、B2を撤去して、橋桁送出し工法が終了する。
【0021】
以上、詳細に説明したように、本実施例の橋桁送出し工法によれば、手延機Tが連結された橋桁部材Hを載置した送出し台車13,14を走行させることにより、第1橋脚P2から第2橋脚P1へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材Hの上に鉄塔21を建てること、鉄塔21から橋桁部材Hまたは手延機Tをワイヤ22により斜め吊りすること、鉄塔21の倒れを防止するため、鉄塔21と橋桁部材Hとをワイヤ22で連結すること、を特徴とするので、手延機Tを連結したことで橋桁部材Hに生じるモーメントを、鉄塔21からのワイヤ22の斜め吊りにより軽減できるため、橋桁部材Hの補強を軽減することができる。さらに、橋桁部材Hの補強が少ないため、橋桁部材Hの重量が増加することがなく、下部構造体を補強する必要がない。これにより、無駄な補強材を使用することがなく、コストダウンを実現できる。
すなわち、従来工法では、橋桁部材Hの補強材は、そのまま使用されるため、70%程度補強した、過度の強度を有する歩道用橋桁部材となっていた。本実施例によれば、鉄塔21とワイヤ22とは、架設工事後、取り外して他の工事で利用するため、全体としてコストダウンを図れる。同時に、無駄に鉄資源を使用することがないため、地球環境の視点からも有効である。
【0022】
また、手延機Tから送出し台車13までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、斜め吊りしている斜吊支点である補強部材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントが、斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、斜め吊りワイヤ22の張力を調整することを特徴とする。ワイヤ22の張力を大きくすれば橋桁部材Hの補強を更に少なくできる。また、ワイヤ22の強度を高めるためには、鉄塔21及びワイヤ22を補強しなければならず、そのコストアップが問題となる。
したがって、手延機Tから鉄塔21までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、斜め吊りしている斜吊支点である補強部材23から送出し台車13までの区間におけるモーメントが、斜吊支点である補強部材23におけるモーメントより小さくなるように、斜め吊りワイヤ22の張力を調整することにより、元々有している橋桁部材Hの強度をそのまま利用でき、鉄塔21及びワイヤ22を過度に補強する必要がないため、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【0023】
以上、本発明に係る橋桁部材の送出し工法について実施例を示したが、本発明はこの実施例に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0024】
H 橋桁部材
T 手延機
R 連結構
P 橋脚
B ベント
13 前方台車(送出し台車)
14 後方台車(送出し台車)
21 鉄塔
22 ワイヤ
23 補強部材
24 張力調整装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ橋桁を架け渡す橋桁送出し工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路上や高速道路上に橋梁を架設する場合に、架設地点の後方延長線上に地組ヤードを設置して、地組ヤード上で橋桁部材を組立て、組立てた橋桁部材を、地組ヤード上に設置した軌道上を移動可能な送出し台車に載置し、第1橋脚から第2橋脚に向けて橋桁部材を送出す橋桁送出し工法が行われている。
この場合に、橋桁部材の前方に手延機を連結し、送出し台車が第1橋脚近くまで移動したときに、手延機の先端が第2橋脚に到達する。その後、第2橋脚が橋桁部材の重量を支えつつ、第2橋脚側に設けられた引き込み台車により、橋桁部材が第2橋脚側に引き込まれることにより、送出し作業が継続される。
手延機は、橋桁部材と比較して、軽量に構成されているが、橋桁部材を支えながら、移動させる必要があるため、ある程度の強度を必要とし、かなりの重量を有している。
【0003】
特許文献1には、手延機を送出したときに、手延機により発生するモーメントにより、橋桁部材が手延機の方向に倒れるのを防止するため、後方桁に対応する門型構造物を配設して、後方桁が浮き上がるのを防止する技術が開示されている。門型構造物が橋桁部材の後方桁の浮き上がりを防止するので、手延機のモーメントを受けても、橋桁部材が倒れることはない。
一方、特許文献2には、橋梁の架設工事において、回転中心の上に配設した鉄塔からワイヤを橋桁部材に連結し、ワイヤで斜吊することにより、橋桁部材を回転させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-159026号公報
【特許文献2】特開2005-090108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術には、次のような問題があった。
高速道路や鉄道跨線用の橋桁部材の場合には、橋桁部材自体が、強い強度を備えるため、手延機を連結して、特許文献1と比較して、手延機を送出したときに、橋桁部材の補強量は少ない。
しかし、歩道用橋桁部材や隣接径間鋼重により断面力の軽減がされた連続桁、床板、コンクリート荷重を載荷しない鋼床版桁等の場合には、橋桁部材自体の強度が、送出し径間に比較して弱いため、手延機を連結して、送出したときに、歩道用橋桁部材がモーメントにより撓んで塑性変形する恐れがあった。橋桁部材が塑性変形すると、接続部で接続できない等の不都合が生じ問題であった。
塑性変形を防止するため、橋桁部材自体を補強することが行われていた。橋桁部材を補強すると、それらを架設するための下部構造体も、重量増加に応じて強度を強くする必要があった。
そして、橋桁部材を補強したり、下部構造体を補強することは、架設が終了した後では、無駄な強度を有する構造体となってしまう。このような無駄は、コストアップを生じるのみならず、資源の無駄使いであり、地球環境の視点からも、問題であった。
一方、特許文献2には、支柱、ケーブル、カウンターウェイトを用いて、鋼床版桁の水平とバランスを保つ技術が開示されているが、橋桁送出し工法において、手延機によるモーメントで橋桁部材が塑性変形することを防止するという課題については、全く記載されていないし、また、全く示唆されていない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決して、歩道用橋桁部材に手延機を連結し、送出し台車で送出すときに、橋桁部材の補強量を少なくする橋桁送出し工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る橋桁送出し工法は、次の構成を有している。
(1)手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材の上に鉄塔を建てること、鉄塔から橋桁部材または手延機をワイヤにより斜め吊りすること、鉄塔の倒れを防止するため、鉄塔と前記橋桁部材とをワイヤで連結すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する橋桁送出し工法において、前記手延機から前記橋桁部材までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する橋桁送出し工法において、前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する橋桁送出し工法の作用、及び効果について説明する。
(1)手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材の上に鉄塔を建てること、鉄塔から橋桁部材または手延機をワイヤにより斜め吊りすること、鉄塔の倒れを防止するため、鉄塔と橋桁部材とをワイヤで連結すること、ことを特徴とするので、手延機を連結したことで橋桁部材に生じるモーメントを、鉄塔からのワイヤの斜め吊りにより軽減できるため、橋桁部材の補強量を軽減できる。さらに、橋桁部材の補強量が少ないため、橋桁部材の重量が増加することがなく、下部構造体を補強する必要がない。これにより、無駄な補強材を使用することがなく、コストダウンを実現できる。
すなわち、従来は、橋桁部材の補強材は、そのまま使用されるため、過度の強度を有する歩道用橋桁部材となっていた。本発明によれば、鉄塔とワイヤとは、架設工事後、取り外して他の工事で利用するため、全体としてコストダウンを図れる。同時に、無駄に鉄資源を使用することがないため、地球環境の視点からも有効である。
【0009】
(2)また、(1)に記載する橋桁送出し工法において、前記手延機から前記送出し台車までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする。ワイヤの張力を大きくすれば橋桁部材の補強を更に少なくできるが、橋桁部材は元々、橋梁として使用するのに必要な強度は必ず有していなければならない。また、ワイヤの強度を高めるためには、鉄塔及びワイヤを補強しなければならず、そのコストアップが問題となる。
したがって、前記手延機から前記鉄塔までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記送出し台車までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することにより、元々有している橋桁部材の強度をそのまま利用でき、鉄塔及びワイヤを過度に補強する必要がないため、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【0010】
(3)(1)または(2)に記載する橋桁送出し工法において、前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とするので、鉄塔にかかる垂直方向の力を、橋桁部材を介して送出し台車が直接受けるため、橋桁部材の補強を少なくすることができ、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】橋桁送出し工法で使用する装置の構成を示す、第1工程図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】鉄塔21及びワイヤ22の部分の拡大図である。
【図4】鉄塔21の側面図である。
【図5】鉄塔21の上部の拡大図である。
【図6】張力調整装置24の構成を示す図である。
【図7】橋桁部材H側におけるワイヤ22との連結部の構造を示す図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】ワイヤ22にテンションを与えていない状態におけるモーメント図である。
【図10】ワイヤ22に所定のテンションを与えた状態におけるモーメント図である。
【図11】送出し工法の第2工程図である。
【図12】送出し工法の第3工程図である。
【図13】送出し工法の第4工程図である。
【図14】送出し工法の第5工程図である。
【図15】送出し工法の第6工程図である。
【図16】送出し工法の第7工程図である。
【図17】送出し工法の第8工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例である橋桁送出し工法について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1に、橋桁送出し工法で使用する装置の構成を示す。図2に、図1の平面図を示す。図1及び図2は、橋桁部材Hを送出す前の状態を示している。
橋脚は、図示するように、左側からP1、P2が建設されている。請求項の第1橋脚は橋脚P2に相当し、請求項の第2橋脚は橋脚P1に相当する。橋脚P1の右そばには、仮組脚であり、完成後撤去するベントB1が組み立てられている。同じく、橋脚P2の右そばには、ベントB2が組み立てられている。ベントB1、B2の上部には、ジャッキ12が設けられており、ジャッキ12の上には、載置された橋桁部材Hを移動可能なローラが設けられている。また、橋脚P2の右側には、左からベントB3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、B10、B11、B12が組み立てられている。
ベントB3〜B12の上には、直線軌道11が、支持されている。直線軌道11には、自走式の前方台車13と、後方台車14が移動可能に設置されている。
前方台車13と後方台車14には、橋桁部材Hが載置されている。橋桁部材Hの前方側には、連結構Rを介して、手延機Tが連結されている。
【0013】
橋桁部材Hの上に、鉄塔21が立てられている。本実施例では、鉄塔21は、前方台車13の直上に位置して建てられている。その理由は、本実施例では、手延機Tが長いため、鉄塔21を前方台車13の位置の直上に建てた方が、最大モーメントMmaxを効果的に低減できるからである。
鉄塔21から両側の橋桁部材Hに対して、ワイヤ22が張られている。図3に、鉄塔21及びワイヤ22の部分の拡大図を示す。図4に、鉄塔21の側面図を示す。また、鉄塔21の上部の拡大図を図5に示す。
図3に示すように、橋桁部材Hには、補強部材52が取り付けられ、補強部材52に対して、鉄塔21が、回転可能に回転軸51で支持されている。鉄塔21は、一対のワイヤ27により、橋桁部材Hに対して、垂直に立てられている。鉄塔21は、図4に示すように、橋桁部材Hの一対の主桁HA、HBの上に、各々鉄塔部材21A、21Bが立てられている。鉄塔部材21A、21Bは、上部連結部材25により連結され一体となっている。上部連結部材25の上には、鉄塔部材21Aに対応して、鉄塔頭部金具31Aが固設され、鉄塔部材21Bに対応して、鉄塔頭部金具31Bが固設されている。
図5に示すように、鉄塔頭部金具31A、31Bの両側には、各々回転軸32により、一対の連結板33の一端部が回転可能に支持されている。連結板33の他端部には、滑車34が回転可能に支持されている。
【0014】
すなわち、鉄塔頭部金具31Aの両側には、各々2組の連結板33、滑車34が付設されている。また、鉄塔頭部金具31Bの両側には、各々2組の連結板33、滑車34が付設されている。滑車には、ワイヤ22巻回されている。
これにより、鉄塔21は前方側において、4本のワイヤ22が折り返された状態で、計8本のワイヤ22で橋桁部材Hの前方部と連結される。同様に、鉄塔21は後方側において、鉄塔21の倒れを防止するため、4本のワイヤ22が折り返された状態で、計8本のワイヤ22で橋桁部材Hの後方部と連結される。
図7に、橋桁部材H側におけるワイヤ22との連結部の構造を示す。図8は、図7の側面図である。橋桁部材Hには、ワイヤ22を連結するための補強部材23A、23Bが固設されており、補強部材23A、23Bには、フックをかけるための孔23aが形成されている。
孔23aには、フックを介して、図6に示す張力調整装置24のロッド42の一端が連結されている。一方、滑車34に巻回された一対のワイヤ22の端部は、図6に示すように、ワイヤ連結体45に固設されている。ワイヤ連結体45には、ロードセル44、油圧ジャッキ41が固設されている。ロッド42は、油圧ジャッキ41のロッドであり、油圧ジャッキ41に油圧が供給され、油圧ジャッキ41が駆動されると、ロッド42は、油圧ジャッキ41に対して、相対的に移動する。ロッド42の左端部の外周には、雄ネジが形成されており、その雄ネジに固定ナット43が螺合されている。
【0015】
次に、張力調整装置24の作用について説明する。
鉄塔21の鉄塔頭部金具31の滑車34に巻回された一対のワイヤ22の端部が固定されたワイヤ連結体45に、油圧ジャッキ41が固設されており、油圧ジャッキ41の駆動軸であるロッド42の一端が、図示しないフックを介して橋桁部材Hの補強部材23に接続されている。この状態で、油圧ジャッキ41に油圧を供給して駆動することにより、ロッド42が図6の左方向に移動される。これにより、ワイヤ22にかかるテンションは増大する。ワイヤ22にかかるテンションは、ロードセル44により計測されている。ロードセル44で計測しているテンションが所定の値になったときに、油圧の供給をホールド状態とする。そのとき、ロッド42の移動により、固定ナット43が油圧ジャッキ41から離間した位置にある。固定ナット43を油圧ジャッキ41まで締め込むことにより、油圧の供給を停止しても、ワイヤ22の張力を保持することができる。
橋桁部材の送出し工法においては、不測の事態を想定して、油圧供給が停止しても、固定ナット43により、ワイヤ22のテンションを保持している。
【0016】
次に、橋桁部材送出し工法について説明する。図1、及び図11から図17に、工程を示す。図1に示すように、前方台車13と後方台車14上に載置された橋桁部材Hに、連結構Rを介して、手延機Tを取り付ける。橋桁部材Hの上で、前方台車13の直上に鉄塔21を建て、ワイヤ27で維持する。次に、鉄塔21の前方部において、4本のワイヤ22を4個の滑車34に巻回させ、各々端部を4個のワイヤ連結体45に接続固定する。同様に、鉄塔21の後方部において、4本のワイヤ22を4個の滑車34に巻回させ、各々端部を4個のワイヤ連結体45に接続固定する。
次に、前方部4個の張力調整装置24、後方部4個の張力調整装置24において、油圧ジャッキ41に所定の油圧をかけて、ロードセル44が所定の値となるように調整する。これにより、ワイヤ22に所定のテンションが与えられる。そして、この状態で、固定ナット43を締め込む。固定ナット43を締め込んだ後、油圧ジャッキ41への油圧供給を停止し、ロードセル44が所定値を維持していることを確認する。
【0017】
図9に、ワイヤ22にテンションを与えていない状態におけるモーメント図を示す。これは、従来の、鉄塔無し・斜吊無しの場合と同じである。モーメントは、手延機Tの先端から橋桁部材Hに向かうに連れて、徐々に増加し、前方台車13の地点において、最大負モーメントMmaxとなる。前方台車13の地点を過ぎた後は、急速に減少してマイナスの正モーメントとなり、後方台車14の地点では、ゼロとなる。
前方台車13の上に載置されているのは、橋桁部材Hの前方1/3位の箇所である。本実施例の橋桁部材Hは、横断歩道用橋桁であり、人しか通行しないため、車両用橋桁や鉄道用橋桁と比較して、本来強度がかなり弱くても問題はない。しかし、手延機Tを取り付けて前方台車13と後方台車14とで送出そうとするときには、最大モーメントMmaxに耐えるように、70%程度補強を行う必要があった。
図10に、ワイヤ22に所定のテンションを与えた状態におけるモーメント図を示す。手延機Tの少し右側に位置する斜吊点である補強部材23(鉄塔21からの距離F)におけるモーメントが最大モーメントMmaxであり、斜吊点である補強部材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントは、最大モーメントMmaxよりも小さくなるように、ワイヤ22のテンションを定めている。
【0018】
次に、第1回の送出し工程を行う。第1回の送出し工程が終了した状態を図11に示す。
自走式の前方台車13を駆動することにより、橋桁部材Hを橋桁P2付近まで移動する。後方台車14は、橋桁部材Hの移動に伴い、直線軌道11上を移動する。この移動により、手延機Tの先端がベントB1に到達する。ベントB1上には、ローラが設けられており、そのローラの上に手延機Tが載置される。
この第1回の送出し工程において、前方台車13、後方台車14で橋桁部材Hを支持した状態のときが、橋桁部材Hに最も大きなモーメントがかかる時である。
本実施例では、橋桁部材Hを、橋桁部材H上に建てた鉄塔21によりワイヤ22で斜吊しているので、図1の状態から図11の状態まで、手延機Tが付設された橋桁部材Hを送出すときに、実施例の橋桁部材Hは、横断歩道用橋桁であり、人しか通行しないため、車両用橋桁や鉄道用橋桁と比較して、本来強度がかなり弱いが、手延機Tにより発生するモーメントのほとんどを、ワイヤ22で受けているため、橋桁補強を5%程度行うだけで、橋桁部材Hに変形等の問題が発生することがない。
本実施例では、斜吊点である補強材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントは、最大モーメントMmaxよりも小さくなるように、ワイヤ22のテンションを定めているが、最大モーメントMmaxと同程度のモーメントとなるように、ワイヤ22のテンションを定めても良い。
【0019】
次に、図12に示すように、ワイヤ22のテンションを緩める。すなわち、固定ナット43を順次緩めて、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を取り外す。
ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を取り外した状態を図13に示す。ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等は、別な工事で使用することができる。
従来の工事で行われていたように、橋桁部材Hを70%補強すれば、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等を使用する必要がないが、補強した部材を橋桁部材Hから取り外すのは、工数と時間がかかるため、現実には無理である。それと比較して、ワイヤ22、張力調整装置24、鉄塔21等は、比較的容易に取り外すことができるため、地球資源の有効活用に貢献することができる。
【0020】
次に、さらなる送出しを行う。すなわち、ベントB2上には、ジャッキが設けられており、橋桁部材Hは、ベントB1、ベントB2、後方台車14により支持される。この状態で、前方台車13は、10m程度後退し、ベントB2上でジャッキダウンして橋桁部材Hを支持する。そして、再び自走して橋桁部材Hを前方に送出す。この作業を繰り返すことにより、橋桁部材Hを送り出すことができる。送出しを完了した状態を図14に示す。
次に、手延機T、及び連結構Rを解体する。また、前方台車13、後方台車14等を撤去する。
次に、図16に示すように、ベントB1、B2上のジャッキを駆動することにより、橋桁部材Hを降下させる。降下が終了した状態を図17に示す。図17では、橋桁部材Hが橋脚P1、P2により支持されている。この状態で、ベントB1、B2を撤去して、橋桁送出し工法が終了する。
【0021】
以上、詳細に説明したように、本実施例の橋桁送出し工法によれば、手延機Tが連結された橋桁部材Hを載置した送出し台車13,14を走行させることにより、第1橋脚P2から第2橋脚P1へ架け渡す橋桁送出し工法において、橋桁部材Hの上に鉄塔21を建てること、鉄塔21から橋桁部材Hまたは手延機Tをワイヤ22により斜め吊りすること、鉄塔21の倒れを防止するため、鉄塔21と橋桁部材Hとをワイヤ22で連結すること、を特徴とするので、手延機Tを連結したことで橋桁部材Hに生じるモーメントを、鉄塔21からのワイヤ22の斜め吊りにより軽減できるため、橋桁部材Hの補強を軽減することができる。さらに、橋桁部材Hの補強が少ないため、橋桁部材Hの重量が増加することがなく、下部構造体を補強する必要がない。これにより、無駄な補強材を使用することがなく、コストダウンを実現できる。
すなわち、従来工法では、橋桁部材Hの補強材は、そのまま使用されるため、70%程度補強した、過度の強度を有する歩道用橋桁部材となっていた。本実施例によれば、鉄塔21とワイヤ22とは、架設工事後、取り外して他の工事で利用するため、全体としてコストダウンを図れる。同時に、無駄に鉄資源を使用することがないため、地球環境の視点からも有効である。
【0022】
また、手延機Tから送出し台車13までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、斜め吊りしている斜吊支点である補強部材23から鉄塔21までの区間におけるモーメントが、斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、斜め吊りワイヤ22の張力を調整することを特徴とする。ワイヤ22の張力を大きくすれば橋桁部材Hの補強を更に少なくできる。また、ワイヤ22の強度を高めるためには、鉄塔21及びワイヤ22を補強しなければならず、そのコストアップが問題となる。
したがって、手延機Tから鉄塔21までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、斜め吊りしている斜吊支点である補強部材23から送出し台車13までの区間におけるモーメントが、斜吊支点である補強部材23におけるモーメントより小さくなるように、斜め吊りワイヤ22の張力を調整することにより、元々有している橋桁部材Hの強度をそのまま利用でき、鉄塔21及びワイヤ22を過度に補強する必要がないため、全体として、最もコストを抑えて、本発明を実施することができる。
【0023】
以上、本発明に係る橋桁部材の送出し工法について実施例を示したが、本発明はこの実施例に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0024】
H 橋桁部材
T 手延機
R 連結構
P 橋脚
B ベント
13 前方台車(送出し台車)
14 後方台車(送出し台車)
21 鉄塔
22 ワイヤ
23 補強部材
24 張力調整装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、
前記橋桁部材の上に鉄塔を建てること、
前記鉄塔から前記橋桁部材または前記手延機をワイヤにより斜め吊りすること、
前記鉄塔の倒れを防止するため、前記鉄塔と前記橋桁部材とをワイヤで連結すること、
を特徴とする橋桁送出し工法。
【請求項2】
請求項1に記載する橋桁送出し工法において、
前記手延機から前記送出し台車までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする橋桁送出し工法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する橋桁送出し工法において、
前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とする橋桁送出し工法。
【請求項1】
手延機が連結された橋桁部材を載置した送出し台車を走行させることにより、第1橋脚から第2橋脚へ架け渡す橋桁送出し工法において、
前記橋桁部材の上に鉄塔を建てること、
前記鉄塔から前記橋桁部材または前記手延機をワイヤにより斜め吊りすること、
前記鉄塔の倒れを防止するため、前記鉄塔と前記橋桁部材とをワイヤで連結すること、
を特徴とする橋桁送出し工法。
【請求項2】
請求項1に記載する橋桁送出し工法において、
前記手延機から前記送出し台車までの片持ち梁のモーメントを算出したときに、前記斜め吊りしている斜吊支点から前記鉄塔までの区間におけるモーメントが、前記斜吊支点におけるモーメントより小さくなるように、前記斜め吊りワイヤの張力を調整することを特徴とする橋桁送出し工法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する橋桁送出し工法において、
前記鉄塔が、前記送出し台車の上に位置することを特徴とする橋桁送出し工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−69164(P2011−69164A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222928(P2009−222928)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】
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