説明

機械加工可能な断熱性高分子発泡体

(i)熱可塑性高分子マトリックスおよび発泡剤を含有する発泡性高分子組成物であって、(a)熱可塑性高分子マトリックスが、90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量、および高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントの範囲の重合アクリロニトリル濃度を有するスチレン−アクリロニトリル共重合体を含有し、(ii)発泡剤が、水、1,1,1,2−テトラフルオロエタンならびにジフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエタンの少なくとも1つを含有し、(b)発泡性高分子組成物が発泡温度に冷却され、(c)発泡性高分子組成物が押出され、発泡剤が、発泡性高分子組成物を0.5ミリメートル〜1.8ミリメートルの範囲の平均垂直気泡サイズおよび24〜40キログラム/立方メートルの範囲の密度および切削加工表面試験において3.5以下の正規化粗さ指数を有する高分子発泡体に膨張させる、発泡性高分子組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照の申告
本出願は、2010年1月6日に出願された米国仮出願第61/292,670号の利益を主張し、その仮出願の全内容は、参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、優れた機械加工性および低い熱伝導特性を同時に有する高分子発泡品ならびにそのような発泡品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
押出ポリスチレン(XPS)発泡体は、一般に、パイプ用断熱材を含む多くの用途の断熱材として使われる。しかしながら、パイプ用断熱材は、例えば、断熱性高分子発泡体ボードおよびシートとは異なる発泡体特性が要求されるので、作製が特に難しい。大抵の断熱性ボードおよびシートと異なり、二次加工業者が、自身の特定用途のためのパイプ用断熱材をカスタマイズしたり、発泡体ボードから始まることを典型的に必要とする方法をカスタマイズしたり、またはパイプ周囲に断熱材を取付けるために必要に応じてより小さなサイズや様々な形状にカットされる「ビレット」をカスタマイズできるように、パイプ用断熱発泡体の機械加工性は重要である。
【0004】
断熱発泡体すべてに共通することは、発泡体を介する低い熱伝導性である。低熱伝導性を達成するために、断熱性発泡体の平均気泡サイズは小さいことが望ましい。断熱特性を向上させるクヌーセン効果(Knudsen effect)の恩恵を受けるためには、気泡サイズはナノメートル程度であることが理想である。より一般的には、断熱性発泡体の平均気泡サイズは、300マイクロメートル以下である。しかしながら、パイプ用断熱発泡体は、熱伝導性のための小さな気泡サイズと機械加工性の必要性とのバランスをとらなければならない。
【0005】
上記のように、パイプ用断熱材は、良好な断熱体でなければならないが、それは機械加工可能でもなければならない。すなわち、パイプ用断熱発泡体は、種々の形状に機械加工できなければならない。熱伝導性と同様に、機械加工性は気泡サイズの関数であるが、機械加工性は通常は気泡サイズの増加によって改善される。典型的な断熱性発泡体の気泡サイズは、300ミクロン以下であるが、望ましい機械加工特性を有する発泡体の気泡サイズは、通常1ミリメートル以上である。したがって、パイプ用断熱材の特性を最適にすることには、高品質の断熱特性と高品質の機械加工特性とのバランスをとることが含まれる。歴史的に、このバランスは、機械加工性のためにより大きな気泡サイズの方にずらし、次いで、断熱特性を改善するために、クロロジフルオロメタン(R−22)や1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(R−142b)などのヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を、発泡剤として使用した。しかしながら、HCFCのオゾン破壊係数(ozone depleting potential)(ODP)のために、HCFCは世界中の監視および規制の下に置かれている。ODPはゼロであることが望ましいが、依然としてR−22のODP値は0.05〜0.04であり、R−142bのODP値は0.065である。
【0006】
歴史的なパイプ用断熱材と少なくとも同程度に低い(すなわち、製造後180日で32〜37mW/m*K)熱伝導性、および良好な機械加工性を有するが、ODPがゼロの発泡剤で作られたXPS発泡体を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
思いがけないことに、出願者らは、歴史的なパイプ用断熱材と少なくとも同程度に低い(すなわち、32〜37mW/m*K)熱伝導性、および良好な機械加工性を有し、ODPがゼロの発泡剤で作られたXPS発泡体の製造法の課題に対する解決策を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の様態では、本発明は、内部の複数気泡を画定する熱可塑性高分子マトリックスを含む高分子発泡品であって、(a)熱可塑性高分子マトリックスが、90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量、および高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントの範囲の重合アクリロニトリル濃度を有するスチレン−アクリロニトリル共重合体を含み、(b)高分子発泡体が、1,1,1,2−テトラフルオロエタンを含有し、オゾン破壊係数(Ozone Depletion Potential)がゼロより大きい発泡剤を含んでおらず、(c)高分子発泡品が、0.5ミリメートル〜1.8ミリメートルの範囲の平均垂直気泡サイズおよび24〜40キログラム/立方メートルの範囲の密度を有し、かつ(d)高分子発泡体が、切削加工表面試験(Milled Surface Test)において3.5以下の正規化粗さ指数を有する、高分子発泡品である。
【0009】
第2の様態では、本発明は、第1の様態の高分子発泡体を製造するための押出方法であり、当該方法は、(a)初期温度および初期圧力において発泡性高分子組成物を供給するステップであって、この発泡性高分子組成物が、軟化温度を有し、かつ(i)90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量、および高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントの範囲の重合アクリロニトリル濃度を有するスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む熱可塑性高分子マトリックスおよび発泡剤と、(ii)水、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ならびにジフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエタンの少なくとも1つを含み、場合により4〜8個の炭素を有する炭化水素を含有するが、二酸化炭素を含んでおらず、オゾン破壊係数がゼロより大きい発泡剤を含んでいない発泡剤とを含んでおり、初期温度が発泡性高分子組成物の軟化温度より高く、初期圧力が発泡剤の膨張による発泡を排除するのに十分に高いステップ、(b)初期温度が発泡温度より高い場合、発泡性高分子組成物を発泡性高分子組成物の軟化温度より高い発泡温度に冷却するステップ、および(c)発泡性高分子組成物を、初期圧力より低く、かつ発泡剤が、発泡性高分子組成物を、0.5ミリメートル〜1.8ミリメートルの範囲の平均垂直気泡サイズおよび24〜40キログラム/立方メートルの範囲の密度を有し、切削加工表面試験において3.5以下の正規化粗さ指数を有する高分子発泡体に膨張させるのに十分に低い圧力中に、発泡用ダイを通して押出すステップ、
を含む。
【0010】
本発明の方法は、本発明の高分子発泡品の製造に有用である。本発明の高分子発泡品は、断熱性材料として、特に、パイプ用の断熱性材料などの注文形状に機械加工を要するような材料について有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「物品」は、ボードまたはビレット、ならびに特定のパイプ用断熱性材料に必要となり得るような、複雑な二次加工形状を含む任意の形状の構造物を指す。
【0012】
「主表面」は、発泡体の任意の表面の中で、最も大きい平面状表面積に等しい平面状表面積を有する発泡体の表面である。平面状表面積は、突起またはへこみのような形体による表面積への寄与を取り除くように、平面上に投影した際の表面の面積である。
【0013】
長さ、幅、厚さ。押出された発泡品の「長さ」は、発泡品の押出し方向に延びる寸法である。押出された発泡品の「厚さ」寸法は、発泡品の主表面に対して垂直に延び、主表面に対向する表面まで延びる寸法である。押出された発泡品の「幅」寸法は、押出し方向に対して垂直であって発泡品の主表面に対して平行に延びる寸法である。
【0014】
オゾン破壊係数(ODP)。ODPは、類似質量のCFC−11の影響と比較した、ある化学物質のオゾンに対する影響の比率である。フッ素化炭化水素は塩素を含有しないので、フッ素化炭化水素のODPはゼロである。(www.epa.gov/Ozone/defns.html参照)
【0015】
地球温暖化係数(Global warming potential)(GWP)。GWPは、類似質量の二酸化炭素に起因する温暖化に対する、ある物質に起因する温暖化の比率である。それ故に、二酸化炭素のGWPは1.0である。水のGWPはゼロである。(www.epa.gov/Ozone/defns.html参照)
【0016】
「フッ素化炭化水素」は、少なくとも1個のフッ素原子を含有する炭化水素である。フッ素化炭化水素は、塩素を含んでいない部分フッ素化および完全フッ素化炭化水素を含む。部分フッ素化炭化水素は、炭素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を依然として有する。完全フッ素化炭化水素は、炭素原子に直接結合した水素原子を含んでいない。非フッ素化炭化水素は、ハロゲンを含有しない炭化水素である。
【0017】
高分子成分としてただ1つまたは2つ以上の半結晶性高分子を有する高分子または高分子組成物の「軟化温度」(T)は、高分子組成物の融解温度である。
【0018】
半結晶性高分子の「融解温度」(T)は、結晶化高分子を特定の加熱速度で加熱時に、示差走査熱量測定(DSC)によって決定される結晶から融成物への相変化の途中の温度中間点である。半結晶性高分子のTはASTM方法E794−06におけるDSC手順に従って決定される。高分子の組合せおよび充填高分子組成物のTも、ASTMの方法E794−06おける同じ試験条件のもとでDSCによって決定される。高分子の組合せまたは充填高分子組成物が、混和性高分子のみを含有し、かつ結晶から融成物への相変化が1回だけであることが、そのDSC曲線中で明らかな場合は、高分子組合せまたは充填高分子組成物のTは、相変化の途中の温度中間点である。非混和性高分子が存在することにより結晶から融成物への相変化が複数回であることがDSC曲線中で明らかな場合、高分子組合せまたは充填高分子組成物のTは連続相高分子のTである。2個以上の高分子が連続であり、それらが混和性でない場合、高分子組合せまたは充填高分子組成物のTは連続相高分子の最も高いTである。
【0019】
高分子成分としてただ1つまたは2つ以上の非晶質高分子を有する高分子または高分子組成物のTは、高分子組成物のガラス転移温度である。
【0020】
高分子または高分子組成物の「ガラス転移温度」(T)は、ASTMの方法E1356−03の手順に従ってDSCによって決定されるものである。高分子の組合せおよび充填高分子組成物のTも、ASTM方法E1356−03における同じ試験条件のもとでDSCによって決定される。高分子の組合せまたは充填高分子組成物が、混和性高分子のみを含有し、かつガラス転移の相変化がただ1回であることが、DSC曲線中で明らかな場合、高分子組合せまたは充填高分子組成物のTは、相変化の途中の温度中間点である。非混和性非晶質高分子が存在することによりガラス転移の相変化が複数回であることがDSC曲線中で明らかな場合、高分子組合せまたは充填高分子組成物のTは連続相高分子のTである。2個以上の非晶質高分子が連続であり、それらが混和性でない場合、高分子組成物または充填高分子組成物のTは連続相高分子の最も高いTである。
【0021】
高分子組成物が、半結晶性高分子と非晶質高分子との組合せを含有する場合、高分子組成物の軟化温度は、連続相高分子または高分子組成物の軟化温度である。半結晶性および非晶質高分子の相が共連続である場合、その組合せの軟化温度は、2つの相の軟化温度のうちのより高い方である。
【0022】
「正規化粗さ指数」は、高分子発泡品の特性であり、この特性は高分子発泡品の機械加工性の指標を与える。以下の切削加工表面試験を使用して正規化粗さ指数は決定される。(1)押出高分子発泡体サンプルの平面を、直径0.75インチ、2枚刃エンドミルバイト(これは、発泡体の押出し方向に沿って1分間当たり3〜4インチの速度で発泡体サンプルを横切る)を用いて、1分間当たり70回転にて、冷却液を使わずに1回の送りで0.25インチの深さに平削りし、(2)発泡体サンプルの押出し方向に約1センチメートル長さに沿って、Veeco Dektak 150 Stylus計器および半径12.5マイクロメートルのダイアモンドチップ(60°円錐)触針による触針式表面形状測定を使用して、針圧1.0ミリグラム、走査時間16秒、走査速度毎秒63マイクロメートル、サンプリングレート300ヘルツおよび分解能1測定点当たり2.1マイクロメートルを適用しながら、Ra値を決定することにより、得られた平面の粗さを特徴付け、(3)同じ発泡体上であるが、ミートスライサ(Hobartモデル410ミートスライサ)を用いて表面膜を薄くはいだ表面上でステップ(2)を繰り返し行い、(4)ステップ(3)で取得した粗さ値に対するステップ(2)で取得した粗さ値の比をとることによって、正規化加工粗さ指数(Normalized Machining Roughness Quotient)を得る。正規化粗さ指数は、ミートスライサで薄くはいだ後の発泡体の表面の平滑度に対し、平削り後に機械加工表面がどのくらい平滑であるかの指標を与える。
【0023】
「ASTM」は、米国材料試験協会を示す。ASTMの方法等の標準試験方法への言及はすべて、別途指示がない場合は、本出願の出願時点の最新の試験方法を示す。試験方法は、試験番号にハイフンでつながれた添え字の日付を含むことができる。
【0024】
範囲には、終点が含まれる。「および/または」は、「および、または代替として」を意味する。
【0025】
本発明の方法は、発泡体の押出方法である。発泡剤の押出方法は、発泡性高分子組成物を押出し機から押出す必要があり、その後、発泡性高分子組成物が発泡体に膨張する。発泡性高分子組成物は、高分子マトリックス材料と膨張剤(例えば、発泡剤)とを含む。
【0026】
発泡性高分子組成物中の高分子マトリックスは、軟化温度を有し、軟化温度を有する高分子成分を含む。高分子成分は、高分子マトリックス中の高分子のすべてを占めており、少なくとも1種類のスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)を含む。高分子成分は、SANが50重量パーセント(重量%)超であり、好ましくは75重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらにより好ましくは95重量%以上であり、100重量%であり得る。高分子成分は、様々なSAN共重合体の組合せまたはSANとの様々な高分子(ポリスチレンなど)の組合せを含む2種以上の高分子を共に含有してもよい。高分子成分は、SANだけを含むことが望ましい。高分子成分中の高分子のすべては、熱可塑性であることが望ましい。好ましくは高分子成分中の高分子は、75重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらにより好ましくは高分子のすべてが熱可塑性であることが好ましい。重量パーセントは、高分子成分総重量に対するものである。
【0027】
高分子成分中のSAN(高分子成分が、全部SANであろうと、SANと他の高分子との組合せであろうと)の重量平均分子量(Mw)は、1モル当たり90,000グラム(g/モル)以上、好ましくは95,000g/モル以上、さらにより好ましくは100,000g/モル以上、さらにより好ましくは110,000g/モル以上である。Mwが1モル当たり90,000グラム未満である場合、得られた発泡体は、所望よりも砕けやすい傾向にある。さらに、SANのMwは、1モル当たり150,000グラム以下であることが望ましい。高分子のMwが150,000を超えると、高分子は機械加工性試験で不十分な性能を示す傾向にある。SANの中の共重合アクリロニトリルモノマー(AN)の量は、総SAN重量を基準にして、5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは12重量%以上であり、それと同時に、25重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0028】
高分子マトリックスは、高分子成分に加えて、任意の1種の添加物または2種以上の添加物の組合せを含み得る。発泡体内での使用に適した任意の添加物は、本発明内での使用にも適している。添加物の種類で適切なものの例としては、赤外線減衰剤(infrared attenuating agent)(例えば、カーボンブラック、黒鉛、金属フレーク、二酸化チタン)、自然界の吸収性粘土(absorbent clay)のような粘土(例えば、カオリナイトおよびモンモリロナイト)および合成粘土、造核剤(nucleating agent)(例えば、タルクおよびケイ酸マグネシウム)、難燃剤(例えば、ヘキサブロモシクロドデカンや臭素化高分子などの臭素化難燃剤、リン酸トリフェニルのようなリン酸系難燃剤、および例えばジクミルやポリクミルのような共力剤(synergist)を含み得る難燃剤パッケージ)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸バリウム)、ならびに掃酸剤(acid scavenger)(例えば、酸化マグネシウムおよびピロリン酸四ナトリウム)が挙げられる。
【0029】
発泡性高分子組成物中の膨張剤の選択は、本発明にとって必須である。膨張剤(または「発泡剤」)は、水、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)ならびにジフルオロメタン(HFC−32)および1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)から成る群の少なくとも1つを含む。発泡剤は、4個〜8個までの炭素を有する炭化水素から選択される1種または複数種の非ハロゲン化炭化水素を場合によって含有する(場合によって含有するとは、含有してもよく、または含んでいなくてもよいことを意味する)。さらに、膨張剤は、ゼロより大きいODPを有するいかなる発泡剤をも含んでおらず、1500より大きい、好ましくは1350より大きい地球温暖化係数(GWP)を有するいかなる発泡剤をも含んでいないことが望ましい。さらに、発泡剤は、二酸化炭素を含んでいないことが望ましく、二酸化炭素は、小さな気泡サイズを進展させる傾向があり、小さな気泡サイズは、得られた発泡体の機械加工特性を不十分なものにさせる原因になる。ある実施形態では、発泡剤は、水、HFC−134aならびにHFC−32およびHFC−152aの少なくとも1つと、場合によっては、4個〜8個までの炭素を有する炭化水素から選択される1種または複数種の非ハロゲン化炭化水素とから成る。ある実施形態では、発泡剤は、水、HFC−134aならびにHFC−32およびHFC−152aの少なくとも1つから成る。発泡剤は、HFC−32、または代替としてHFC−152aを含んでいなくてもよい。
【0030】
水は、大きな気泡サイズを進展させるために発泡剤中では重要であり、大きな気泡サイズは、機械加工性にとって望ましい。HFC−134a、HFC−32および/またはHFC−152aは、広範囲に造核して小さな気泡サイズを生成することなく、得られた発泡体を介する低い熱伝導性を提供するのに重要である。HFCの多くは、発泡体の断熱特性に寄与し得るが、小さな気泡サイズ形成を促進する強力な造核体でもある。HFC−32およびHFC−152aは、発泡中に過大に造核することなく高濃度で存在でき、したがって、小さな気泡サイズを誘発することなく低密度に膨張させることができるので、これらは重要である。HFC−134aは、HFC−32および/またはHFC−152aよりも長く発泡体内に残留することによって、発泡体に長期間の断熱特性を促進するので、必要である。小さな気泡サイズを有する発泡体は、一般に、不十分な機械加工をするので、本発明にとって、小さな気泡サイズは望ましいものではない。
【0031】
発泡性高分子組成物中の発泡剤の総量は、一般的に、0.9グラム−モル以上、好ましくは1.1グラム−モル以上であるが、一般的に、1.6グラム−モル以下、好ましくは1.4グラム−モル以下でもある。グラム−モルは、高分子1キログラムに対してである。発泡剤総量中、水は、一般的に、高分子1キログラム当たり0.1〜0.6g−モルの範囲で存在し、HFC−134aは、通常、高分子1キログラム当たり0.3〜0.6g−モルの範囲で存在し、かつHFC−32およびHFC−152aの組合せ濃度は、HFC−32およびHFC−152aのどちらも存在するか、または個々にどちらか一方が存在するかに関わらず、通常、高分子1キログラム当たり0.3〜0.7グラム−モルの範囲である。4個〜8個までの炭素を有する非ハロゲン化炭化水素は、高分子1キログラム当たり0.1〜0.6グラム−モルの濃度で存在し得る。
【0032】
押出し機中に初期温度および初期圧力で、発泡性高分子組成物を供給する。発泡性高分子組成物中の成分のいずれかまたはすべては、押出し機の中で加え合わされ混合されて発泡性高分子組成物にされ得る。初期温度は、高分子組成物の軟化温度より高く、その結果、発泡性高分子組成物の他の成分は、押出し機中の高分子組成物内に混合される。初期圧力は、膨張剤の膨張およびマトリックス材料の発泡を排除するように十分に高い。押出し機中に発泡性高分子組成物を供給する一般的に許容される方法は、高分子および任意の望ましい添加物を、高分子の軟化点より高くに高分子を加熱する押出し機内に送り込み、次いで発泡剤を初期圧力以上の圧力で高分子の中に注入することによる。次いで、押出し機は、成分を一緒に混合するのを助けて、全体に均一な発泡性高分子組成物をもたらす。
【0033】
発泡性高分子組成物を初期圧力より低い圧力の環境に排出し、膨張剤が発泡性高分子組成物を発泡させる。発泡性高分子組成物の温度は、排出前に初期温度より高くまたは低く調節できる。ただし、排出中の高分子組成物の平均温度は、高分子組成物の軟化温度より高いものとする。
【0034】
発泡性高分子組成物を、密度が40kg/m以下、好ましくは35kg/m以下、より好ましくは32kg/m以下、さらに30kg/m以下、望ましくは24kg/m以上である高分子発泡体に膨張させる。
【0035】
高分子発泡体の平均気泡サイズも、0.5ミリメートル以上であることが望ましく、好ましくは1ミリメートル以上であり、それと同時に、通常2ミリメートル以下、好ましくは1.8ミリメートル以下、最も好ましくは1.5ミリメートル以下である。大きな気泡サイズによって機械加工は良好になるが、より小さな気泡サイズでは、より良好な断熱性が得られる。本発明の高分子と発泡剤との組合せによって気泡サイズのバランスをとることが可能になり、機械加工性と断熱能力は、他のSAN含有発泡体よりも良好になる。
【0036】
驚いたことには、本発明の方法によって、本発明の高分子発泡品が提供される。既に上記で確認された発泡体のこれら特性に加え、高分子発泡品の熱伝導性は、1メートル*ケルビン当たり37ミリワット(mW/m*K)以下、好ましくは35mW/m*K以下である。高分子発泡品の正規化粗さ指数は、3.5未満、好ましくは3.0以下、さらにより好ましくは2.5以下、さらにより好ましくは2.0以下、さらにより好ましくは1.5以下である。このことは、高分子発泡品が、断熱特性と機械加工性との望ましいバランスを有していることを意味する。一般的に、得られた発泡体の熱伝導性は、既に述べたこれらの特性に加えて、30mW/m*K以上であり、32mW/m*K以上になり得る。熱伝導性は、ASTM方法C−518に従って生成後180日に測定される。
【0037】
押出し発泡体の製造に適した任意の様式で、発泡性高分子組成物を排出する。例えば、アキュムレータ押出し法(accumulator extrusion process)、凝集ストランド法(coalesced strand process)、発泡体シートおよび発泡体厚板方法は、すべて本発明中の使用に適している。
【0038】
高分子発泡品は、内部の複数気泡を画定する熱可塑性高分子マトリックスを含む。熱可塑性高分子マトリックスは、本発明の方法の高分子マトリックスについて記載した通りである。本発明の方法が、ゼロより大きいオゾン破壊係数を有する発泡剤を含んでいないので、本発明の発泡体も、ゼロより大きいODPを有する発泡剤を含んでいない。本発明の高分子発泡品は、本発明の方法で生成される発泡体について記載したような平均密度、平均気泡サイズおよび正規化粗さ指数を有する。
【0039】
本発明の発泡体は、本発明の方法により、HFC−134aを含有する。HFC−134aは発泡体から徐々に抜けるので、その量は任意の所与の時間で変化するが、その存在は、製作後も10年をはるかに超えて検出可能である。HFC−152aおよびHFC−32も生成後発泡体中で検出可能であるが、比較的短い期間である。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は、本発明の実施形態を示す。
【実施例1】
【0041】
水、HFC134aおよびHFC32。
2種のSAN共重合体の組合せを初めにブレンドすることによって高分子発泡品を製造する。一方の重量平均分子量(Mw)が144,000g/モルであり、他方のMwが118,000g/モルであり、両方が15重量%の共重合アクリロニトリルモノマーを有する。118,000g/モルの高分子70重量%と144,000g/モルの高分子30重量%との比で共重合体を組み合わせる。共重合体を初期温度200℃の押出し機内で一緒にブレンドする。さらに次の添加物をブレンドする:ポリエチレン(共重合体総量100重量部当たり0.2重量部(pph))、ステアリン酸バリウム(0.01pph)、タルク(0.08pph)、ヘキサブロモシクロドデカンとIrganox(登録商標)B215とECN1280とを7:1:1の比(0.95pph)で含む難燃剤パッケージ(IrganoxはCIBA Specialty Chemicals,Corp.の登録商標である)。この混合物(未使用組成物)を実施例1と同様の様式で製造されたリサイクル高分子発泡体と一緒に、75重量%未使用組成物と25重量%リサイクル高分子発泡体との比でブレンドする。
【0042】
ブレンドに次の発泡剤:水(1pph)、HFC−134a(5pph)およびHFC−32(2pph)を初期圧力17.2メガパスカル(MPa)で混合する。得られたブレンドは、発泡性高分子組成物である。
【0043】
発泡性高分子組成物を、約119℃の発泡温度に冷却し、約1.3センチメートル×15.2センチメートルの開口寸法を有する矩形発泡用ダイを通して、大気圧および大気温度(約21℃および1大気圧)中に押出す。押出された発泡性高分子組成物を、厚さが20.2センチメートル(8インチ)であり、幅が40.6センチメートルであり、平均気泡サイズが1.51ミリメートルであり、密度が31.2kg/m(1.95ポンド/立方フィート(pcf))である高分子発泡品に膨張させる。
【0044】
得られた高分子発泡品(Ex1)の機械加工性を、切削加工表面試験によって決定される正規化粗さ指数によって特徴付けする。Ex1の正規化粗さ指数は1.28である。
【0045】
ASTM C−518に従って180日目にEx1の熱伝導性を特徴付けする。Ex1の熱伝導性は、33.8mW/m*Kである。
【0046】
Ex1は、HFC−32を使用した本発明の実施形態を示す。
【実施例2】
【0047】
水、HFC134aおよびHFC152a。
HFC−32に代えて2pphのHFC−152aを使用し、5pphのHFC−134aに代えて5.5pphのHFC−134aを使用する以外はEx1と同様の様式で高分子発泡体サンプルを製造する。得られた高分子発泡品(Ex2)の平均気泡サイズは1.26ミリメートルであり、密度は29.8kg/m(1.86pcf)であり、正規化粗さ指数は1.58であり、180日目における熱伝導値は31.9mW/m*Kである。
【0048】
Ex2は、HFC−152aを使用した本発明の実施形態を示す。実施例1および2は、HFC−32またはHFC−152aのどちらかを使用した場合の、本発明の高分子発泡品の製造能力を示す。
【0049】
100%未使用高分子組成物、または未使用高分子組成物:リサイクル高分子組成物の重量比が100:0から60:40の間である未使用高分子組成物とリサイクル高分子組成物との任意のブレンドを使用して同様な様式で製造された高分子発泡品について、Ex1およびEx2の結果と類似の結果が予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の複数気泡を画定する熱可塑性高分子マトリックスを含む高分子発泡品であって、
a.熱可塑性高分子マトリックスが、90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量、および高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントの範囲の重合アクリロニトリル濃度を有するスチレン−アクリロニトリル共重合体を含み、
b.高分子発泡体が、1,1,1,2−テトラフルオロエタンを含有し、オゾン破壊係数がゼロより大きい発泡剤を含んでおらず、
c.高分子発泡品が、0.5ミリメートル〜1.8ミリメートルの範囲の平均垂直気泡サイズおよび24〜40キログラム/立方メートルの範囲の密度を有し、かつ
d.高分子発泡体が、切削加工表面試験において3.5以下の正規化粗さ指数を有する、
高分子発泡品。
【請求項2】
平均気泡サイズが1〜1.5ミリメートルの範囲である、請求項1に記載の高分子発泡品。
【請求項3】
熱可塑性高分子マトリックスが、2種以上のスチレン−アクリロニトリル共重合体のブレンドを含み、各々が90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量を有し、かつ重合アクリロニトリルの総量が、高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントである、請求項1に記載の高分子発泡品。
【請求項4】
請求項1に記載の高分子発泡体を製造するための押出方法であって、
(a)初期温度および初期圧力において発泡性高分子組成物を供給するステップであって、発泡性高分子組成物が、軟化温度を有し、かつ
(i)90,000〜150,000の範囲の重量平均分子量、および高分子マトリックス総重量に対して5〜20重量パーセントの範囲の重合アクリロニトリル濃度を有するスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む熱可塑性高分子マトリックスおよび発泡剤と、
(ii)水、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ならびにジフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエタンの少なくとも1つを含み、場合により4〜8個の炭素を有する炭化水素を含有するが、二酸化炭素を含んでおらず、オゾン破壊係数がゼロより大きい発泡剤を含んでいない発泡剤と
を含んでおり、初期温度が発泡性高分子組成物の軟化温度より高く、初期圧力が発泡剤の膨張による発泡を排除するのに十分に高いステップ、
(b)初期温度が発泡温度より高い場合、発泡性高分子組成物を発泡性高分子組成物の軟化温度より高い発泡温度に冷却するステップ、および
(c)発泡性高分子組成物を、初期圧力より低く、かつ発泡剤が、発泡性高分子組成物を、0.5ミリメートル〜1.8ミリメートルの範囲の平均垂直気泡サイズおよび24〜40キログラム/立方メートルの範囲の密度を有し、切削加工表面試験において3.5以下の正規化粗さ指数を有する高分子発泡体に膨張させるのに十分に低い圧力中に、発泡用ダイを通して押出すステップ、
を含む方法。
【請求項5】
ステップ(c)における膨張によって、1〜1.5ミリメートルの範囲の平均気泡サイズを有する高分子発泡品が生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
二酸化炭素発泡剤を含んでいないことをさらに特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
発泡剤が、4〜8個までの炭素を有する炭化水素を含んでいない、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
発泡剤が、水、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ならびにジフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエタンの少なくとも1つと、場合により4〜8個までの炭素原子を有する炭化水素とからなる、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
発泡剤が、4〜8個までの炭素原子を有する炭化水素を含んでいない、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2013−516537(P2013−516537A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548008(P2012−548008)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/058630
【国際公開番号】WO2011/084277
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】