説明

機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュ

【課題】従来にない高機能の機能性フライアッシュ成形体を提供すること。
【解決手段】炭素微細構造成長体を備えた機能性フライアッシュ成形体。該フライアッシュ成形体(基材)は、触媒金属粒子の担持処理痕跡を有しないフライアッシュベースである。炭素微細構造成長体は、成形体の表面(空孔表面を含む。:以下同じ。)に成長起点を有し、熱分解CVDにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素微細構造成長体を備えた新規な機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュ並びにそれらの製造方法に関する。
【0002】
ここで、炭素微細構造成長体とは、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンマイクロコイル(CNT)等の如く、触媒金属を核として、チューブ状やコイル状に成長した直径0.7〜100nmのナノオーダのものをいう。
【背景技術】
【0003】
火力発電所からは、石炭をボイラーで燃焼した後、石炭灰として、ボイラー底部で回収される溶結状の石炭灰を砕いたクリンカアッシュとともに、集じん装置で集められるフライアッシュが多量発生する。
【0004】
なお、両者はそれぞれ生産工程が異なるため、組成的には表1に示す如く類似するも、粒子径・表面状態は、それぞれ固有の特徴を有する。
【0005】
【表1】

すなわち、フライアッシュは微細粒子(0.001〜1μm)であり、電子顕微鏡でみると球形である。これに対して、クリンカアッシュの粒子は、ほとんど細礫と粗砂であり、砂に近い粒度分布になっている。
【0006】
集じん装置で集められたフライアッシュは、適宜、分級し粒度調整し、各種の無機材料として有効利用されている。
【0007】
例えば、セメント混合材、建材、道路材、人工漁礁材、高分子材料の混和・充填剤土壌改良剤、等を挙げることができる。(以上、「日本フライアッシュ協会」ホームページの“石炭灰の分類”及び“フライアッシュの用途”の各項参照)
また、特許文献1に有機バインダーを結合剤とするフライアッシュ焼結成形体の製造方法が、特許文献2にセメントを結合剤とする石灰質板材の製造方法が、それぞれ提案されている。
【0008】
そして、更なる需要(有効利用)拡大のために、新規用途の開発が望まれている。特に、機能を付加させて付加価値の高いフライアッシュ乃至フライアッシュ基材製品の開発が望まれている。
【0009】
しかし、そのような機能を付加させたフライアッシュ乃至フライアッシュ基材製品は、本発明者らは寡聞にして知らない。
【0010】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、CNT等の微細炭素構造体を形成する技術として、特許文献3・4等がある。
【0011】
特許文献3には、「導電性を有する基板上にゼオライト層を形成し、該ゼオライト層には、基板に到達する複数の貫通孔があり、該貫通孔の底部に触媒金属を基板表面に接触するように配置して、カーボンソースガスが導入された反応炉中で基板を加熱することにより、CNTを成長させる」発明が記載されている。
【0012】
特許文献4には、「ゼオライト等の多孔性担体(粉末)に触媒微粒子を分散担持させ、炭化水素ガスをキャリアガスとともに送り、熱分解を利用してCNTを生成させる」発明が記載されている。
【特許文献1】特開平5−330898号公報
【特許文献2】特開2001−146461号公報
【特許文献3】特開2003−335509号公報
【特許文献4】特開2002−255519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記にかんがみて、従来にない高機能の機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュ並びにそれらの各製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュは、上記課題(目的)を、下記構成により解決する。
【0015】
本発明の機能性フライアッシュ成形体は、触媒金属粒子の担持処理痕跡を有しないフライアッシュベースの成形体が、前記成形体の表面(空孔表面を含む。:以下同じ。)に成長起点を有する炭素微細構造成長体を備え、該炭素微細構造成長体がCVDにより形成されたものであることを特徴とする。
【0016】
同じく機能性フライアッシュは、触媒金属粒子の担持処理痕跡を有しないフライアッシュの粉末粒子が、前記粉末粒子の表面に成長起点を有する炭素微細構造成長体を備え、該炭素微細構造成長体がCVDにより形成されたものであることを特徴とする。
【0017】
上記各機能性フライアッシュ成形体又は機能性フライアッシュの製造方法は、加熱炉(反応室)内に触媒担持工程を経ていないフライアッシュ成形体又はフライアッシュ粉末粒子(基材)を置き、キャリアガスを用いて炭化水素系原料を送り、該炭化水素系原料を熱分解反応させて、炭素微細構造成長体を基材に形成させることを特徴とする
【発明の効果】
【0018】
本発明の機能性フライアッシュ成形体は、炭素微細構造成長体(CNT、CNC)を備えているため、導電性が付与され電磁シールド体及び面状発熱体、等の分野に適用でき、また、帯電防止の機能を、更には、ガス吸蔵特性や電子放出特性(特許文献4段落0002に記載)により建築材に使用した場合、シックハウス症候群の予防作用も期待できる。
【0019】
さらに、フライアッシュの主成分は、前述の如く、低誘電率材料であるSiO2及びAl23が主成分であり、高誘電率材料の基材として使用されているものであり、種々の高周波用エレクトロニクスデバイスの用途に期待できる。
【0020】
また、機能性フライアッシュは、炭素微細構造成長体を備えることにより、従来のフライアッシュ用途である、例えば、セメント混合材、建材、道路材、人工漁礁材、高分子材料の混和・充填剤、土壌改良剤、等として使用した場合、フライアッシュ本来の機能に加え、前記同様、電磁波シールド、帯電防止、土中電導度調整、空気清浄化等の機能付与が期待できる。
【0021】
そして、本発明の機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュの各製造方法は、前述の特許文献3・4における如く、触媒担持処理する必要がない、すなわち、別工程で触媒金属粒子をフライアッシュ基材に担持させる必要がない。
【0022】
なお、特許文献3の段落0012、0013には、導電性基板の上に石炭灰(フライアッシュ)で製造されるゼオライト層を形成し、該ゼオライト層の貫通孔底部にめっき法により鉄等の触媒金属粒を形成する旨の記載がある。
【0023】
特許文献4の段落0034には、触媒微粒子を、多孔性担体の細孔表面/内部に担持する方法として、触媒微粒子と多孔性担体とを超臨界流体中に含ませた後、熱処理する方法などがあると記載されている。
【0024】
したがって、本発明は、機能性フライアッシュ成形体及び機能性フライアッシュを容易に製造できることと相俟って、産業廃棄物であるフライアッシュの有効利用の大幅な拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の機能性フライアッシュ成形体の製造方法について説明をする。以下の説明で、配合単位を示す「部」及び「%」並びに混合比は、特に断らない限り、質量単位である。
【0026】
ここでは、フライアッシュ粉体を有機バインダーで結合させた成形体を基材とする場合を例に採り説明する。
【0027】
フライアッシュは、前述の如く、球状粒子からなり、密度が約2g/cm3、主成分が酸化けい素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)の酸化物複合体である(表1参照)。そして、原料とするフライアッシュの粒径は、特に限定されないが、普通、0.001〜1μm、より普通には0.002〜0.2μmの範囲から、成形体に要求される特性に応じて適宜選択する。また、成形体原料とするフライアッシュは、Fe23成分を1.4〜17.5%含むものであるが、それらのうちで、通常、3%以上、望ましくは5%以上含有するものを使用する。
【0028】
そして、有機結合材としては、ポリビニルアルコール(PVA)、リグニンスルホン酸塩(リグニンスルホン酸ナトリウム等)、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等)を、適宜、使用できる。
【0029】
そして、有機バインダーの添加量も、要求成形体強度、要求特性、等により異なるが、例えば、PVAの場合、普通、フライアッシュ粉体100部に対して、15〜60部の範囲から適宜選定する。なお、フライアッシュ粉体の一部を他の無機材料粉体(例えば、クリンカアッシュ)に置換することもできる。
【0030】
そして、上記フライアッシュ粉体と有機バインダーに水を加えスラリー状として圧縮成形、押出成形等により、本発明のフライアッシュ成形体(基材)を得る。こうしして調製したフライアッシュ成形体基材は、通常、強度的見地から、焼結処理を行うことが望ましい。焼結温度は、例えば、300〜1100℃、より普通には、700〜1000℃の範囲から適宜選定し、焼結時間は、温度に対応させて0.1〜2hの範囲から適宜選定する。
【0031】
なお、フライアッシュ成形体基材は、特許文献2の如く、セメント等の無機結合剤を用いて成形したものであってもよい。
【0032】
次に、上記で調製したフライアッシュ成形体である基材を、加熱炉内に触媒担持工程を経ていない上記成形体(基材)をおき、不活性キャリアガスを用いて炭化水素系原料を送り、該炭化水素系原料を熱分解反応させて、炭素微細構造成長体を形成する。
【0033】
ここで、加熱炉しては、通常、電気炉を用いる。このときの基材の加熱温度(反応温度)は、300〜1100℃(好ましくは700〜1000℃、更に好ましくは850〜950℃)とする。プラズマやレーザ(光)によるCVDも考えられるが、電気炉に比して、コスト高となる。
【0034】
使用するキャリアガスとしては、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)や窒素(N2)等の不活性ガスを使用する。水素(H2)使用の可能性もあるが、炭化水素系原料の熱分解により水素が発生するため、反応性の見地からは、上記希ガスが望ましい。
【0035】
炭化水素系原料としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、アセチレン、エチルアセチレン(ブチン)等の常温ガスの炭化水素(炭素数1〜4)を好適に使用できる。これらの炭化水素は、当該反応温度で気体であり、炭素供給源として適当な反応性を有するためである。なお、ベンゼン、ヘキサン等の液状炭化水素も使用可能である。
【0036】
キャリアガスと炭化水素系原料の容量混合比は、キャリアガスを希ガスとし、炭化水素系原料を炭化水素ガスとした場合、通常、希ガス/炭化水素ガス=3/7〜7/3(より好ましくは4/6〜6/4)とする。等量に近い方が、CNT(カーボン微細構造成長体)が生成(成長)しやすいことを確認している。
【0037】
このときの反応時間は、基板とするアルミナボードを室温から反応温度(700〜1100℃)に基材を昇温させて(昇温速度:400℃/h)、上記混合比でキャリアガスと炭化水素系原料を加熱炉内に流入させて保持する。
【0038】
こうして、成形体の表面(空孔表面を含む。:以下同じ。)に成長起点を有する炭素微細構造成長体(CNT)を備えた機能性フライアッシュ成形体が得られる。すなわち、図1の表面モデル図に示す如く、成形体(基材)12の表面であるフライアッシュ粒子14の表面に成長起点を有するCNT16が多数形成される。当然、成形体12は、特許文献3・4におけるような担持処理痕跡を有しない。なお、図例では、フライアッシュ粒子14の表面側のみCNTが形成されているように見えるが、フライアッシュ粒子14の内部の細孔内にもCNT(外部に形成されるものより小径の)が形成されているものと推定される。
【0039】
CNT等の炭素微細構造成長体を基材に成長させるためには、基材表面に触媒金属粒子(鉄、ニッケル、コバルト)を付着させる必要がある。特許文献3段落0013・0014には、めっき法により触媒金属粒子を形成することが記載されている。特許文献4段落0041には、Fe/Co触媒(触媒金属化合物)をゼオライト細孔に担持させる技術が記載されている。
【0040】
しかし、本発明においては、触媒担持処理をしなくても、意外にも、CNT等の炭素微細構造成長体を基材に成長させることができることを知見したのである。
【0041】
その理由は、鉄酸化物(Fe23)も、フライアッシュの場合、触媒金属粒と同様な炭素微細構造成長体の「核」になるものと推定される。
【0042】
なお、クリンカアッシュも、Fe23をフライアッシュと同様な比率で含有するが、ガラス化してFe23が内部に封じ込められており、クリンカアッシュのFe23フライアッシュのような炭素微細構造成長体の「核」になり難いと推定される。
【0043】
以上、有機結合バインダーを用いて成形されたフライアッシュ成形体を例に採り説明したが、特許文献2のような、セメントのような無機結合剤を用いて成形されたフライアッシュ成形体を基材とすることができる。
【0044】
更には、フライアッシ粉体を構成する粉末粒子にも、成形体の場合と同様にして、炭素微細構造成長体を形成することができ、機能性フライアッシュを製造できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、実施例に基づいて、更に詳細に説明をする。
【0046】
図2に実施例で用いた、熱CVD装置の概略図を示す。本装置は、環状の電気炉(出力:1.8kW)20を用いて試料加熱を行うものである。下記の如く、基材試料(フライアッシュ基材)22を試料保持部材(holder)24を介して石英管(quartz tube)26内にセット後、メタン(炭化水素系原料)とヘリウム(キャリアガス)を混合してCVDガスとし、下記熱分解CVDにより基材22の表面にカーボン微細構造成長体を形成させた。
【0047】
<試料(フライアッシュ基材)の調製>
フライアッシュ(JIS A 6201相当物)100部に対してPVA 50部を混合後、圧縮成形して、ディスク状成形体(20mmΦ×4mmt)を得、該ディスク状成形体を、24hデシケータ内で乾燥させた後、空気中で1000℃×5hの条件で焼結して、実施例のフライアッシュ成形体(基材)を調製した。
【0048】
なお、原料フライアッシュの成分比率は、SiO2:56 %、Al23:30 %、Fe23:5 %、Ca0:3 %、MgO:1 %であった。
【0049】
<熱CVDプロセス>
石英管内にセットした基材を600℃まで昇温させて30分保持した後、下記条件により熱分解CVDを行った。
【0050】
反応温度:900℃、CVDガス混合比:CH4/He=1/1、
反応時間:60分、CVDガス流量:約50SCCM(standard cc/min)
こうして得た実施例の成形体(試料)には、顕微鏡写真(図3)に示す如く、多量のCNTが観察された。
【0051】
本実施例の条件は、最大のCNTの形成が見られたものであり、本発明者らは、CNTの形成が良好である条件として、下記範囲が良好(実用的)であることを確認している。
【0052】
CVDガス混合比:CH4/He=3/7〜7/3
反応温度:850〜950℃、
反応時間:45 分以上
CVDガス流量:50 SCCM以上
<考察>
熱分解CVDにより、フライアッシュ基材(成形体)に対して触媒金属粒子の担持処理をしなくても、フライアッシュ基材にCNTを形成できることが確認できた。
【0053】
熱分解CVDの条件を変更することにより、CMCの合成も可能である。したがって、フライアッシュを原料とする板状成形体を、赤外域からミリ波、マイクロ波にわたる電磁波吸収材(電磁波シールド板)とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】フライアッシュにCNT(炭素微細構造成長体)が形成される場合のイメージ平面図である。
【図2】本発明の熱分解CVDに使用するCVD装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】実施例でフライアッシュ成形体表面に形成されたCNTの顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0055】
12 フライアッシュ成形体(基材)
14 フライアッシュ粒子
16 CNT(炭素微細構造成長体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属粒子の担持処理痕跡を有しないフライアッシュベースの成形体が、前記成形体の表面(空孔表面を含む。:以下同じ。)に成長起点を有する炭素微細構造成長体を備え、該炭素微細構造成長体が化学的気相成長法(以下「CVD」と略す。)により形成されたものであることを特徴とする機能性フライアッシュ成形体。
【請求項2】
前記フライアッシュ成形体が焼結成形体であることを特徴とする請求項1記載の機能性フライアッシュ成形体。
【請求項3】
炭素微細構造成長体を備えた機能性フライアッシュ成形体の製造方法であって、加熱炉(反応室)内に触媒担持工程を経ていないフライアッシュ成形体(基材)を置き、キャリアガスを用いて炭化水素系原料を送り、該炭化水素系原料を熱分解反応させて、前記炭素微細構造成長体を形成することを特徴とする機能性フライアッシュ成形体の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素系原料が炭化水素ガスであり、前記キャリアガスが希ガスであり、両者の容量混合比が前者/後者=3/7〜7/3であることを特徴とする請求項3記載の機能性フライアッシュ成形体の製造方法。
【請求項5】
触媒金属粒子の担持処理痕跡を有しないフライアッシュの粉末粒子が、前記粉末粒子の表面に成長起点を有する炭素微細構造成長体を備え、該炭素微細構造成長体がCVDにより形成されたものであることを特徴とする機能性フライアッシュ。
【請求項6】
機能性フライアッシュの製造方法であって、加熱炉(反応室)内にフライアッシュ粉体(基材)を置き、キャリアガスを用いて炭化水素系原料を送り、該炭化水素系原料を熱分解反応させて、前記炭素微細構造成長体を形成することを特徴とする機能性フライアッシュの製造方法。
【請求項7】
前記炭化水素系原料が炭化水素ガスであり、前記キャリアガスが希ガスであり、両者の容量混合比が前者/後者=3/7〜7/3であることを特徴とする請求項6記載の複合フライアッシュ成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73706(P2009−73706A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245878(P2007−245878)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月27日〜30日 応用物理学会主催の「2007年(平成19年)春季 第54回応用物理学関係連合講演会」に文書をもって発表
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】