説明

機能性床下調湿剤

【課題】調湿機能と機能性剤由来の効果とが、非常に長期にわたり持続する、機能性床下調湿剤を提供する。
【解決手段】炭と、機能性剤およびその機能性剤を内包する多孔性微粒子を備えたマイクロカプセルと、バインダーとしてウレタン樹脂と、を少なくとも含んでなり、前記マイクロカプセルが、前記ウレタン樹脂を介して前記炭の表面および内面に付着していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床下に敷設されて使用される機能性床下調湿材に関し、より詳細には、調湿機能だけでなく、防虫、防カビ、抗菌、シックハウス対策にも有効な機能を有する機能性床下調湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
床下調湿材として、木炭を適当な大きさに粉砕したものや、生石灰や塩化カルシウム、シリカゲル等を通気性の容器ないし袋に充填したものが知られている。床下調湿材を建築物、とりわけ木造住宅の床下に敷設することにより、梅雨時の床下の湿度が高い時には調湿材が湿気を吸着して湿度を低く保ち、カビや白蟻の繁殖を抑制し、また、冬季の乾燥時には、調湿材から水分が床下に放出されるため、木材の乾燥によるひび割れ等を防ぐことができる。
【0003】
建築物の床下に敷設される調湿材として、調湿性のみならず他の機能も付与したいという要請がある。例えば、木炭等に、機能性添加剤、例えば、防虫剤、防カビ剤、白蟻忌避剤等を添加したものを、床下に敷設することにより、調湿効果に加えて他の所望する効果を簡易に得ることができる。しかしながら、添加剤が揮発することにより、添加剤由来の効果も低減ないし消滅する。また、炭等の多孔質粒子は吸着作用があるため、添加剤自体もある程度吸着されてしまい添加剤由来の効果が持続されにくいという問題がある一方で、床下に敷設される調湿剤は頻繁に交換できないものであることから、長期にわたって効果を持続発揮させたいという希求がある。
【0004】
ところで、建築資材の分野において、崩壊性粒子にヒノキチオールを含有させたマイクロカプセルを、コンクリートや内装材の表面に貼り付けることにより、長期にわたりヒノキチオールを放散できる建築資材が提案されている(特開2001−233710号公報)。また、ヒノキチオールを含有するマイクロカプセルと木片と混合した、長期間効果が持続できる防湿シートが提案されている(特開2002−70034号公報)。
【0005】
上記で提案されている内装材や防湿シート等の建築資材に比べ、防湿床下に敷設される調湿材は頻繁に交換することができず、そのため、調湿材に付与されるその他の機能も10年ないし20年と非常に長期にわたって、持続できる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−233710号公報
【特許文献2】特開2002−70034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、調湿材として従来公知の炭片にヒノキチオール等の機能性剤を含有したマイクロカプセルを混合した場合、ヒノキチオールの放出効果はある程度持続するものの、10年ないし20年の長期にわたって効果が持続するものではないことに気付くとともに、マイクロカプセルと特定の樹脂と水とを含む水溶性のコート剤を炭に含浸および/または付着させることにより、調湿機能と機能性剤由来の効果とが、非常に長期にわたり持続する、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、調湿機能と機能性剤由来の効果とが、非常に長期にわたり持続する、機能性床下調湿剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による機能性床下調湿剤は、炭と、機能性剤およびその機能性剤を内包する多孔質微粒子を備えたマイクロカプセルと、バインダーとしてウレタン樹脂と、を少なくとも含んでなり、前記マイクロカプセルが、前記ウレタン樹脂を介して前記炭の表面および内面に付着しているものである。
【0010】
また、本発明の態様としては、前記多孔質微粒子が、多孔性無機材料からなることが好ましい。
【0011】
本発明の態様としては、前記ウレタン樹脂が、ポリエーテル変性ウレタン樹脂であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様としては、前記機能性剤が、前記マイクロカプセルに対して、質量基準で30〜70%内包されてなることが好ましい。
【0013】
本発明の態様としては、前記機能性剤を内包したマイクロカプセルが、前記炭に対して、質量基準で60〜100%含まれてなることが好ましい。
【0014】
本発明の態様としては、前記ウレタン樹脂が、前記炭に対して、質量基準で120〜200%含まれてなることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様としては、前記マイクロカプセルの体積平均粒子径が、2〜7μmであることが好ましい。
【0016】
本発明の態様としては、前記機能性剤が、ヒノキチオール、ローズマリー油、桐油、ペパーミント抽出油、カラシ油、わさび抽出物、およびニンニク抽出物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の別の態様として、上記機能性床下調湿剤を製造する方法は、
機能性剤を担持させたマイクロカプセルを準備し、
前記マイクロカプセルと、バインダーとしてウレタン樹脂と、水とを少なくとも含んでなるコート剤を調製し、
前記コート剤を炭に塗布して、炭の表面および内面に含浸させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機能性剤およびその機能性剤を内包する多孔質マイクロカプセルがウレタン樹脂を介して炭の表面および内面に付着していることにより、調湿機能と機能性剤由来の効果とが、非常に長期にわたり持続する、機能性床下調湿剤を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による機能性床下調湿剤の概略断面図を示したものである。
【図2】本発明に用いられるマイクロカプセルの概略断面図を示したものである。
【図3】従来のマイクロカプセルの概略断面図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による機能性床下調湿剤は、図1に示すように、炭1と、機能性剤およびその機能性剤を内包する多孔質微粒子を備えたマイクロカプセル3と、バインダーとしてウレタン樹脂2と、を少なくとも含んでなり、前記マイクロカプセル3が、前記ウレタン樹脂2を介して前記炭1の表面および内面に付着していることを特徴とするものである。なお、「炭の内面に付着する」とは、一般的に炭は多孔質であり、孔の内壁にもウレタン樹脂を介してマイクロカプセルが付着している状態を意味する。このように、バインダー樹脂を介して機能性剤が内包されたマイクロカプセルが炭の表面および内面に付着することにより、従来のように炭の表面に直接機能性剤が付着した構造の床下炭に比較して、より長期にわたり機能性剤の効果を持続することができる。すなわち、調湿効果と機能性剤による効果を長期間維持できる。また、機能性剤が炭から放出される単位時間あたりの量が変化し難いため、床下炭(調湿剤)を建築物に敷設した直後と、一定期間を経た後とで、調湿効果および機能性剤による効果が、変わることがない。その結果、10年間ないし20年間、その効果を維持することができ、床下炭の交換頻度を極端に低減することができる。
【0021】
本発明に使用する炭は、特に限定されるものではなく、活性炭、木炭、竹炭だけでなく、衣服や産業廃棄物から作られる炭であってもよい。また、炭の形状も特に制限されるものではなく、顆粒状、棒状、板状、不定形状等、どのような形状であってもよい。また、炭の大きさも、建築物の床下の構造や広さに応じて、適宜調整することができ、特に制限されるものではない。
【0022】
本発明に使用するマイクロカプセル3は、図2に示すように、機能性剤5を内包する多孔性微粒子4からなるものである。多孔性微粒子中に機能性剤が内包されたマイクロカプセルは、多孔性微粒子中の細孔を通じて機能性剤を持続的に放出することができる。すなわち、図3に示すような中空微粒子6を用いたマイクロカプセル3’は、芯部に内包される機能性剤5の貯蔵性は優れるものの、外壁の破損または溶解により機能性剤が放出されるため、放出が一時的である。そのため、機能性剤の放出の制御は、マイクロカプセル3’の外壁の破損または溶解により行う必要があり、その制御が容易ではない。一方、本発明において使用する多孔性微粒子からなるマイクロカプセル3においては、内包された機能性剤5の放出量を、多孔性微粒子の細孔の大きさで制御できるため、その制御が簡易かつ簡便である。
【0023】
マイクロカプセルを構成する素材としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、アミノプラスト、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、メラミン等の樹脂、シリカ、ガラス、アルミナ、ジルコニア等の無機物等が挙げられる。これらの中でも、無機材料が好ましく、特に、コスト、生産性の観点からシリカが好ましい。
【0024】
マイクロカプセルの粒子径は、0.5〜50μm、好ましくは3〜20μm程度、より好ましくは、2〜7μmである。なお、本明細書中「粒子径」とは、光散乱法をによる粒度分布計で測定した体積算術平均粒径D50を意味する。
【0025】
マイクロカプセルは多孔性微粒子からなるものであり、非表面積は、10〜1000m/g程度であることが好ましく、50〜500μm程度であることがより好ましい。また、マイクロカプセルの細孔径は、10〜500Å程度である。このような範囲の多孔性微粒子からなるマイクロカプセルを用いることにより、内包する機能性剤の充填量は数十ないし数百mL/100g程度となる。このようなマイクロカプセルは市販されているものであってもよく、環境科学開発株式会社から入手可能な多孔質Hシリーズや多孔質Lシリーズを好適に使用することができる。
【0026】
多孔性微粒子に機能性剤を内包させる方法としては、機能性剤を含有する溶液中に、または機能性剤自体が溶液の状態であれば機能性剤中に、多孔性微粒子を添加し、微粒子の内部キャビティーに機能性剤を含浸させることにより、多孔性微粒子に機能性剤を内包させることができる。機能性剤は、マイクロカプセルに対して、質量基準で30〜70%内包されることが好ましい。また、機能性剤を内包したマイクロカプセルは、記炭に対して、質量基準で10〜200%含まれることが好ましく、より好ましくは60〜100%含まれる。
【0027】
本発明において使用するウレタン樹脂は、炭にマイクロカプセルを付着させるためのものである。本発明においては、ウレタン樹脂をバインダーとして用いることにより、驚くべきことに、機能性剤の効果がより持続することがわかった。恐らく、多孔性微粒子の細孔をバインダー樹脂がある程度塞ぐことにより機能性剤の放出量が抑制されたことによると考えられるが、これはあくまでも推論であってこれに拘束されるものではない。ウレタン樹脂は炭に対して質量基準で120〜200%含まれることが好ましい。
【0028】
ウレタン樹脂としては、例えば、エーテル系、エステル系、エーテル・エステル系、ポリカーボネート系等が挙げられるが、本発明においては、水性のウレタン樹脂を使用することが好ましく、ポリエーテル変性ウレタン樹脂を用いることが好ましく、特に無黄変ポリエーテル変性ウレタン樹脂が好ましい。
【0029】
機能性剤としては、多孔性微粒子中に内包してマイクロカプセル化できるものであれば特に制限されることはなく、どのような機能性剤であってもよい。例えば、油状のヒノキチオール(防虫、防カビ、抗菌等)、ローズマリー油(抗菌効果の向上)、桐油(防カビおよび保水保湿)、ペパーミント抽出油、カラシ油、わさび抽出物、およびニンニク抽出物等が挙げられる。これら機能性剤は、二種以上を併用してもよい。例えば、ネズミ忌避には、ペパーミント抽出油とカラシ油、またはわさび抽出油とニンニク抽出物等の併用が効果的である。また、これら混合物を、さらにヒノキチオールに添加したものを用いてもよい。
【0030】
本発明による機能性床下調湿剤は、上記した成分を用いて以下のようにして製造することができる。先ず、機能性剤を担持させたマイクロカプセルを準備する。機能性剤の担持量は、マイクロカプセルに対して、質量基準で30〜70%であることが好ましく、より好ましくは50〜60%である。次いで、マイクロカプセルを質量基準で10〜40%と、ウレタン樹脂を質量基準で10〜40%と、水とを少なくとも含んでなるコート剤を調製する。コート剤は、マイクロカプセルを質量基準で20〜30%と、ウレタン樹脂を質量基準で20〜30%と、水を質量基準で40〜60%とを含む組成とすることがより好ましい。得られたコート剤を炭に塗布して、炭の表面および内面にコート剤を含浸させる。その後、コート剤の水分をある程度蒸発させることにより機能性床下調湿剤が得られる。コート剤の塗布量は、炭に対して、質量基準で50〜500%が好ましく、長期の効果を所望する場合は、300〜500%とするとよい。塗布後、水分は自然乾燥により蒸発させてもよく、また熱風乾燥等により水分を蒸発させてもよい。水分の蒸発とともにマイクロカプセルが炭の表面および内面へ付着する。コート剤の塗布方法としては、従来公知の方法を適用でき、例えばパディング法、含浸法、スプレー法、コーティング法等の方法が挙げられる。上記のようにして製造された機能性床下調湿剤は、前記機能性剤を内包したマイクロカプセルが、炭に対して質量基準で60〜100%含まれる。また、ウレタン樹脂は、炭に対して質量基準で120〜200%含まれるものとなる。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量基準を示すものとする。
【0032】
先ず、平均粒子径が3μm、比表面積が800m/gの多孔性シリカに、ヒノキチオール含有ヒバ油を、多孔性シリカに対して50%となるように混合し、多孔性シリカの内部キャビティーにヒノキチオール含有ヒバ油を含浸させることにより、マイクロカプセルを作製した。
【0033】
得られたマイクロカプセル25%と水溶性のポリエーテル変性ウレタン樹脂25%と水50%とを混合して、コート剤を調製した。得られたコート剤を、廃棄された衣服を原料とした炭に塗布した。コート剤の塗布量は、炭に対して500%となるようにした。コート剤の塗布後、自然乾燥することにより、機能性床下調湿剤が得られた。
【0034】
得られた機能性床下調湿剤を家屋の床下に敷き詰めたところ、従来の炭の調湿作用に加えて、防カビ効果も発揮するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明による機能性床下調湿剤は、建築物の床下に敷設されて使用されるものであり、床下の湿度を一定に保つとともに、マイクロカプセルに内包された機能性剤により、調湿機能以外の機能も付与される。例えば、マイクロカプセルにキノキチオールを内包させることにより、調湿機能と防カビ機能を併せ持つ調湿剤とすることができる。また、本発明によれば、長期間持続してこれらの機能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 炭
2 バインダー樹脂
3,3’ マイクロカプセル
4 多孔性無機微粒子
5 機能性剤
6 中空微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭と、機能性剤およびその機能性剤を内包する多孔性微粒子を備えたマイクロカプセルと、バインダーとしてウレタン樹脂と、を少なくとも含んでなり、
前記マイクロカプセルが、前記ウレタン樹脂を介して前記炭の表面および内面に付着していることを特徴とする、機能性床下調湿剤。
【請求項2】
前記多孔質微粒子が、多孔性無機材料からなる、請求項1に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂が、ポリエーテル変性ウレタン樹脂である、請求項1または2に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項4】
前記機能性剤が、前記マイクロカプセルに対して、質量基準で30〜70%内包されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項5】
前記機能性剤を内包したマイクロカプセルが、前記炭に対して、質量基準で60〜100%含まれてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項6】
前記ウレタン樹脂が、前記炭に対して、質量基準で120〜200%含まれてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項7】
前記マイクロカプセルの体積平均粒子径が、2〜7μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項8】
前記機能性剤が、ヒノキチオール、ローズマリー油、桐油、ペパーミント抽出油、カラシ油、わさび抽出物、およびニンニク抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の機能性床下調湿剤を製造する方法であって、
機能性剤を担持させたマイクロカプセルを準備し、
前記マイクロカプセルと、バインダーとしてウレタン樹脂と、水とを少なくとも含んでなるコート剤を調製し、
前記コート剤を炭に塗布して、炭の表面および内面に含浸させることを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−194410(P2010−194410A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39767(P2009−39767)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(593111060)株式会社金星 (15)
【Fターム(参考)】