説明

機能性膜、燃料電池用電解質膜の製造方法、及び燃料電池用電解質膜

【課題】 高い機能性と高分子フィルム基材が本来有するガスバリア性と機械的強度を併せ持つ機能性膜を提供する。特に、燃料電池用高分子電解質膜として最適な、高いプロトン伝導性とガスバリア性に優れた高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】 非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射し、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後に、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む機能性膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー重イオンの潜在飛跡またはイオン穿孔を利用した新規機能性膜及びその製造方法、並びにガスバリア性に優れ機械的強度に優れた燃料電池用電解質膜及びその製造方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、生体を模倣したバイオリアクタ、酵素を固定化して得られたバイオマス転換用リアクタ、優れたイオン伝導性及び選択性に優れたイオン交換膜、二次電池・燃料電池用イオン交換膜、電気透析を利用した選択的なアミノ酸の分離膜等に適した機能性膜及びその製造方法に関する。
【0003】
更に、本発明は、燃料電池への使用に適した高分子イオン交換膜である固体高分子電解質膜の製造方法に関する。特に、本発明は、燃料電池に適した固体高分子膜で、優れたガスバリア性及び優れたイオン交換容量を有する固体高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
燃料電池は、電池内で水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものであり、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特にプロトン伝導膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、高出力密度が得られ、低温作動が可能なことから電気自動車用電源として期待されている。
【0005】
このような固体高分子型燃料電池の基本構造は、電解質膜と、その両面に接合された一対の、触媒層を有するガス拡散電極とで構成され、更にその両側に集電体を配する構造からなっている。そして、一方のガス拡散電極(アノード)に燃料である水素やメタノールを、もう一方のガス拡散電極(カソード)に酸化剤である酸素や空気をそれぞれ供給し、両方のガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作動する。このとき、アノードで生成したプロトンは電解質膜を通ってカソード側に移動し、カソードで酸素と反応して水を生成する。ここで電解質膜はプロトンの移動媒体、及び水素ガスや酸素ガスの隔膜として機能している。従って、燃料電池用高分子電解質膜としては、高いプロトン伝導性、強度、化学的安定性が要求される他に、ガスバリア性に優れている必要がある。
【0006】
ところで、従来の機能膜と呼ばれるものは、膜全体に官能基がランダムに分布していたり、官能基を有するラビリンス構造やメッシュ構造膜の場合には、官能基の空間的分布や官能基密度の制御が不可能という問題があった。
【0007】
即ち、市販のNafion(商標名)等の電解質膜や放射線グラフト重合を用いて製造した固体高分子電解質膜は、親水性のカチオン交換基が膜内部に一様に分布しているために、過度の含水による膨潤が生じ、分子間の相互作用力を弱める為に、水素やメタノールの過度のクロスオーバーが生じている。また、極めて気孔率の高い3次元的に連続した空孔を有する多孔質膜に、イオン交換樹脂を充填する試みがGore社やトクヤマ(株)によりされているが、カチオン交換に関与しないイオン交換樹脂が存在することで、やはり過度に膨潤する。さらに、用いる多孔質基材が、多孔質化可能なポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンに限られるが、これらがそもそも燃料電池用電解質膜として求められるガスバリア性が不足している為、得られる固体高分子電解質膜の該特性も燃料電池の要求特性に照らして、充分なものではなかった。
【非特許文献1】H.Kudo and Y.Morita、J.Polym.Sci.,Part B、Voi.39、757−762(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、各種用途に用いられ、高い機能性と高分子フィルム基材が本来有するガスバリア性と機械的強度を併せ持つ機能性膜を提供することを目的とする。特に、燃料電池用高分子電解質膜として最適な、高いプロトン伝導性、ガスバリア性と機械的強度に優れた高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の条件下に、非導電性無機粒子を含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の高分子フィルムに、C、K、N、He等の元素の重イオンを照射することで該高分子フィルム中に活性種を生成させ、該活性種を用いてグラフト重合させることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、第1に、本発明は機能性膜の製造方法の発明であり、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射し、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後に、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含むことにより、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所のみに官能基を導入した機能性膜が得られる。ここで、前記イオン照射工程において、高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡が該フィルムを貫通していても良い。
【0011】
本発明により、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた数百nm径の潜在飛跡箇所のみに官能基を導入して機能性を付与できることから、個々の高分子フィルム基材の持つ物性を維持することができるとともに、官能基の位置・空間分布、官能基密度の制御が可能となる。ここで、高分子フィルム基材の持つ物性としては、ガスバリア性、機械的強度や寸法安定性が挙げられる。
【0012】
高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡が該フィルムを貫通していない場合には、エッチングにより貫通孔を空けることが好ましい。この場合の、本発明は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射して、照射損傷を形成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に円柱状・円錐状、鼓状、漏斗状の断面形状からなる貫通孔を形成するエッチング工程と、得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種又は真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することで、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む機能性膜の製造方法である。
【0013】
本発明により、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって照射損傷を形成した後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に、貫通孔を形成して得られた穿孔フィルム基材の表面や孔壁にのみに官能基を導入して機能性を付与できることから、個々の高分子フィルム基材の持つ物性を維持でき、官能基の位置・空間分布、官能基密度の制御が可能となるとともに、円柱状、円錐状、鼓状、漏斗状の断面形状制御が可能となる。
【0014】
前記潜在飛跡箇所に残っている活性種を利用する場合に、孔径として、1〜250nmの範囲である貫通孔の孔壁にのみ前記モノマーをグラフト重合させることが好ましい。また、前記真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用する場合に、孔径として、1nm〜5μmの範囲である貫通孔の孔壁と該フィルム基材の表面にのみ前記モノマーをグラフト重合させることが好ましい。ここで、前記グラフト重合工程において、ガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを前照射し前記モノマーを後グラフト重合させることが出来る。または、前記グラフト重合工程において、前記フィルム基材に前記モノマーを導入した後、ガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射し同時グラフト重合させることが出来る。
【0015】
本発明に用いられる高分子フィルム基材としては、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下であるものが、ガスバリア性に優れており、高分子フィルム基材本来の性能を発揮できるので好ましい。
【0016】
前記高分子フィルム基材と前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが同種の元素からなる場合は、グラフト重合の際にグラフト鎖が高分子フィルム基材中に浸透しないので、好ましい。例えば、前記高分子フィルム基材が炭化水素系高分子からなり、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが炭化水素系モノマーからなる場合や、前記高分子フィルム基材が炭化フッ素系高分子からなり、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが炭化フッ素系モノマーからなる場合が挙げられる。
【0017】
前記グラフト重合工程において、200以上の分子量を持つ機能性モノマーであるC群から選択される1種以上のモノマーを加えることが出来る。200以上の分子量を持つ機能性モノマーはグラフト重合中に高分子フィルム基材中に浸透することが少なく、潜在飛跡箇所のみに官能基を導入することが出来る。
【0018】
前記グラフト重合工程において、グラフト率は20%以下が好ましく、10%以下が特に好ましい。
【0019】
前記グラフト重合工程において、グラフト重合し難い機能性官能基を有するモノマーであるD群から選択される1種以上のモノマーを加えることが出来る。
【0020】
前記イオン照射工程の後に、前記フィルム基材をメタン、水素などのガスと接触させることで前記活性種を消失させ、次いで真空もしくは不活性ガス雰囲気下で該フィルム基材にガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射することで、再度活性種を生成することも、グラフト重合工程を実施する上で好ましい。
【0021】
前記高分子フィルム基材は架橋構造を有さないものを用いることが出来るが、架橋構造を付与したものを用いると高分子フィルム基材に所望の強度や物理的・化学的安定性を与えることが出来る。前記高分子フィルム基材としては、各種高分子材料を用いることが出来る。この中で、炭化水素系、炭化フッ素系、炭化水素・フッ素系高分子フィルムのいずれかであることが好ましい。
【0022】
第2に、本発明は、上記の製造方法によって製造された機能性膜である。例えば、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下である非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に、孔径が1nm〜5μm、好ましくは1nm〜250nmの範囲である機能性膜である。
【0023】
第3に、本発明は、燃料電池用電解質膜の製造方法の発明であり、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射・貫通させ、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、カチオン交換基または後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む。
【0024】
前記イオン照射工程の後に、前記フィルム基材をメタン、水素などのガスと接触させることで前記活性種を消失させ、次いで真空または不活性ガス雰囲気下で該フィルム基材にガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射することで、再度活性種を生成することもグラフト重合工程を実施する上で好ましい。
【0025】
また、本発明の燃料電池用電解質膜の製造方法は、上記のように非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射させて貫通させるのではなく、化学的または熱的にエッチング処理で貫通させても良い。この場合は、本発明は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射して、照射損傷を形成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に円柱状・円錐状、鼓状、漏斗状の断面形状からなる貫通孔を形成するエッチング工程と、得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種又は真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することで、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む。
【0026】
本発明の燃料電池用電解質膜の製造方法により、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって膜厚方向に貫通した照射損傷部位のみにカチオン交換性官能基を導入してイオン交換能を付与できることから、
(A)気孔率が小さく個々の高分子フィルム基材の持つ物性を維持できる、特に、非導電性無機粒子を含む高分子基材フィルムが有するガスバリア性と機械的強度が、処理後にも効果的に発揮される、
(B)官能基の位置・空間分布、官能基密度の制御が可能である、
(C)イオン交換樹脂の充填量が少ない為、含水による膨潤を抑制できる、
さらに、イオン照射法を用いることにより、既存の多孔質基材にとらわれることなく、フィルム化が可能な全ての高分子材料に適用可能なことから、
(D)イオン交換膜のプロトン伝導度とガスバリア性と機械的強度の物性制御が容易である、
等の特長を有する。
【0027】
本発明に用いられる高分子フィルム基材としては、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下であるものが、ガスバリア性に優れており、高分子フィルム基材本来の性能を発揮でき、燃料電池に用いた場合にもプロトンは透過するがガスは遮断するので優れた発電性能を発揮するので好ましい。
【0028】
前記エッチング工程で得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種ないしは真空または不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することでカチオン交換基或いは後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させ、該官能基を導入することも好ましい。
【0029】
前記グラフト重合工程において、A群に対し架橋剤であるB群からなる1種以上のモノマーを最大80mol%を加えることも限定された範囲内にカチオン交換基のパスを作製するために好ましい。
【0030】
前記高分子フィルム基材は架橋構造を有さないものを用いることが出来るが、架橋構造を付与したものを用いると高分子フィルム基材に所望の強度や物理的・化学的安定性を与えることが出来る。前記高分子フィルム基材としては、各種高分子材料を用いることが出来る。この中で、炭化水素系、炭化フッ素系、炭化水素・フッ素系高分子フィルムのいずれかであることが好ましい。
【0031】
本発明において、グラフト率は20%以下が好ましく、10%以下が特に好ましい。
前記潜在飛跡箇所に残っている活性種を利用する場合に、孔径として、最大250nmである貫通孔の孔壁にのみ前記モノマーをグラフト重合させることが好ましい。
【0032】
また、前記真空または不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用する場合に、孔径として、最大1μmである貫通孔の孔壁に前記モノマーをグラフト重合させることが好ましい。特に、前記モノマーをグラフト重合させ、該カチオン交換基を導入した結果、前記貫通孔全体が該カチオン交換基で満たされた状態で、かつ前記フィルム基材内部にカチオン交換基が導入されていないことが好ましい。
【0033】
前記グラフト重合工程において、200以上の分子量を持つカチオン交換基または後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるC群から選択される1種以上のモノマーを加えることが出来る。200以上の分子量を持つ機能性モノマーはグラフト重合中に高分子フィルム基材中に浸透することが少なく、潜在飛跡箇所のみに官能基を導入することが出来る。
【0034】
第4に、本発明は、上記の製造方法で製造された燃料電池用電解質膜である。例えば、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下である非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に、カチオン交換基含有パスの孔径が1nm〜5μm、好ましくは1nm〜250nmの範囲で有する燃料電池用電解質膜である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の機能性膜は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所のみに官能基を導入して機能性を付与できることから、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材の物性を維持できる。また、本発明の機能性膜は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって照射損傷を形成した後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に、円柱状・円錐状・鼓状・漏斗状の断面形状からなる貫通孔を形成して得られた穿孔フィルム基材の表面や孔壁にのみに官能基を導入して機能性を付与できることから、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材の物性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明で用いることのできる高分子フィルム基材としては特に限定されない。例えば、モノマー溶液の浸透性がよい炭化水素系の高分子フィルムが挙げられる。また、フッ素系の高分子フィルムはモノマー溶液の浸透性がよくないが、イオン照射をすることによりフィルム内部にモノマーが浸透し、内部でのグラフト反応が進行するようになる。
【0037】
具体的には、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン等のフィルム基材を用いてもよい。
【0038】
また、ポリイミド系の高分子フィルムであるポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、又はポリエーテルエーテルイミドフィルム基材を用いてもよい。
【0039】
更に、ポリフッ化ビニリデン、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−六フッ化プロピレン共重合体、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体フィルム基材を用いてもよい。
【0040】
これらのフィルム基材の中で、フッ素系フィルムは、架橋させると高分子構造中に架橋構造が形成されてモノマーのグラフト率が向上し、更に耐熱性が高くなるため、照射による膜強度の低下を抑制することができる。したがって、高温用途において高性能を発揮する燃料電池を製造するためには架橋フィルムを使用するのが好適である。例えば、グラフトモノマーとしてスチレンを用いた場合、未架橋のポリテトラフルオロエチレンに比べ、架橋ポリテトラフルオロエチレンではグラフト率を著しく増加させることができ、未架橋のポリテトラフルオロエチレンの2〜10倍のスルホン酸基を架橋ポリテトラフルオロエチレンに導入できることを本発明者らは既に見出している。
【0041】
これらのことから、本発明においては、ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の代わりに、架橋構造を有する超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド・芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、又はポリスルホンフィルム基材を使用することが好適である。
【0042】
また、架橋構造を有するポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、又はポリエーテルエーテルイミドフィルム基材も好適である。同様に、架橋構造を有するポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−六フッ化プロピレン共重合体、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体フィルム基材も好適である。
【0043】
本発明において高分子フィルム基材に充填される非導電性無機粒子としては、例えば金属、金属酸化物、ガラスなどの微粒子が挙げられる。例えば、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等またはこれらの混合物、例えばSiO−MgO、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−V、SiO−Cr、SiO−TiO−MgO等を例示することができる。また、上記無機微粒子として、NaCO、KCO、CaCO、MgCO、NaSO、Al(SO、BaSO、KNO、Mg(NO、Al(NO、NaO、KO、LiO等の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酸化物微粒子が例示される。また、H型モルデナイトが例示される。これらの中で、高分子フィルム基材のガスバリア性と機械的強度を向上させるものが用いられる。具体的には、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)及びH型モルデナイトから選択される1種以上が好ましく例示される。
【0044】
本発明では、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に、サイクロトロン加速器などによって高エネルギー重イオンを照射する。ここで、重イオンとは炭素イオン以上のイオンをいうものとする。これらのイオンの照射によって、高分子フィルムにイオン照射による照射損傷が生じる。その照射損傷領域は照射するイオンの質量やエネルギーに依存するが、イオン1個当たりおよそナノサイズから数百ナノサイズの広がりをもっていることが知られている。(非特許文献1)
【0045】
照射するイオンの数は個々のイオンによる照射損傷領域が重ならない程度に10〜1014個/cm照射するのがよい。照射はサイクロン加速器などに接続された照射チェンバー内の照射台に、例えば、10cm×10cmのフィルム基材を固定し、照射チェンバー内を10−6Torr以下の真空に引いた状態で、高エネルギーイオンをスキャンしながら行なうのがよい。照射量は、予め高精度電流計で計測したイオン電流の電流量と照射時間から求めることができる。照射する高エネルギー重イオンの種類としては、炭素イオン以上の質量のイオンであって、加速器で実際にイオンを加速できるものがよい。
【0046】
イオンの発生させ易さやイオンの取扱いの容易さから、炭素、窒素、酸素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどのイオン種がより好適である。また、1個のイオンの照射損傷領域を大きくするためには、金イオン、ビスマスイオン、又はウランイオンなどの質量の大きなイオンを用いてもよい。イオンのエネルギーはイオン種にもよるが、高分子フィルム基材を厚さ方向に貫通するのに十分なエネルギーであればよく、例えば、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材では、炭素イオンは40MeV以上、ネオンイオンは80MeV以上、アルゴンイオンでは180MeV以上であり、同じく、厚さ100μmでは、炭素イオンは62MeV以上、ネオンイオンは130MeV以上、アルゴンイオンでは300MeV以上である。また、キセノンイオン450MeVでは厚さ40μm、ウランイオン2.6GeVでは厚さ20μmのフィルム基材を貫通することができる。
【0047】
照射に用いるイオンがフィルム基材の膜厚の1/2程度の飛程でも、フィルムの両面から同種や異種のイオンを照射量を変えて照射したり、また、飛程の長いより軽いイオンと飛程の短いより重いイオンを組み合わせてフィルムの両面から照射したりすることによって、フィルムの表面から内部に向かって異なる照射損傷領域の分布を作り出すことができる。これは後述するグラフト反応において、フィルム内に異なる量又は長さのグラフト鎖、また、異なる形態の高分子構造を生ぜしめる。この結果、フィルム基材のグラフト鎖中のスルホン酸基の分布の変化を利用して、フィルム基材内の水分の分布やフィルムの燃料ガスの透過を制御することができる。
【0048】
また、重イオンではフィルムの膜厚を貫通するのに、上記のような非常に高いエネルギーのイオンが必要となる。例えば、22MeVの炭素イオンのポリエチレンテレフタレートフィルム基材中での飛程は25μm程度であり、厚さ50μmのこのフィルム基材を貫通させることはできなし、50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材を貫通するには40MeV程度のエネルギーが必要であるが、フィルムの両面から照射すれば22MeVの炭素イオンで十分である。より大きなエネルギーのイオンを発生させるには、より大きな加速器が必要になり、設備に大きな費用がかかる。このことからも、両面からのイオン照射は本発明におけるイオン交換膜製造にとってきわめて有効である。
【0049】
イオン交換能等の機能性の大きな膜を得るにはイオンの照射量を多くすればよい。イオン照射量が多いと、フィルム基材が劣化したり、照射損傷領域が重なって後述するモノマーのグラフト効率が悪くなったりする。また、照射量が少ないと、モノマーのグラフト量が少なく十分なイオン交換容量が得られない。このことから、イオン照射量は10〜1014個/cmの範囲がよい。
【0050】
本発明で用いられる「機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマー」とは、機能性官能基を有するモノマー自体だけでなく、後工程の反応により機能性官能基に変換する基を有するモノマーを意味する。
【0051】
本発明では、重イオン照射された高分子フィルム基材に以下に例示するモノマーを加えて脱気した後加熱し、フィルム基材に該モノマーをグラフト重合させ、さらに、グラフト分子鎖内のスルホニルハライド基[−SO]、スルホン酸エステル基[−SO]、又はハロゲン基[−X]をスルホン酸基[−SOH]とすることにより製造する。また、グラフト鎖内の炭化水素系モノマー単位に存在するフェニル基、ケトン、エーテル基などはクロルスルホン酸でスルホン酸基を導入して製造することができる。本発明において、フィルム基材にグラフト重合するA群のモノマーは、以下の(1)〜(6)に示すモノマーが代表的である。
【0052】
(1)スルホニルハライド基を有するモノマーである、CF=CF(SO)(式中、Xはハロゲン基で−Fまたは−Clである。以下同じ。)、CH=CF(SO)、及びCF=CF(OCH(CFSO)(式中、mは1〜4である。以下同じ。)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(2)スルホン酸エステル基を有するモノマーである、CF2=CF(SO)(式中、Rはアルキル基で−CH、−Cまたは−C(CHである。以下同じ。)、CH2=CF(SO)、及びCF2=CF(OCH(CFSO)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(3)CF=CF(O(CH)(式中、Xはハロゲン基で−Br又は−Clである。以下同じ。)、及びCF=CF(OCH(CF)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(4)アクリルモノマーである、CF=CR(COOR)(式中、Rは−CH又は−Fであり、Rは−H、−CH、−C又は−C(CHである。以下同じ。)、及びCH=CR(COOR)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(5)スチレン、スチレン誘導体モノマーである2,4−ジメチルスチレン、ビニルトルエン、及び4−tertブチルスチレンからなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(6)アセナフチレン、ビニルケトンCH2=CH(COR)(式中、Rは−CH、−C又はフェニル基(−C)である。)、及びビニルエーテルCH2=CH(OR)(式中、Rは−C2n+1(n=1〜5)、−CH(CH、−C(CH、又はフェニル基である。)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
【0053】
本発明で用いられる「A群モノマーに対し架橋剤であるB群からなるモノマー」の具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、3,5−ビス(トリフルオロビニル)フェノール、及び3,5−ビス(トリフルオロビニロキシ)フェノールとうが挙げられる。これら1種類以上の架橋剤を、全モノマー基準で30モル%以下の量加えてグラフト重合させる。
【0054】
本発明で用いられる「200以上の分子量を持つ機能性モノマーであるC群からから選択される1種以上のモノマー」とは,上記A群のモノマーの内、分子量が200位上のものである。
【0055】
本発明で用いられる「グラフト重合し難い機能性官能基を有するモノマーであるD群から選択される1種以上のモノマー」とは、上記A群のモノマー中の(1)〜(3)に示すパーフルオロビニルモノマーが代表的である。再度列記すると以下のものである。
(1)スルホニルハライド基を有するモノマーである、CF=CF(SO)(式中、Xはハロゲン基で−Fまたは−Clである。以下同じ。)、CH=CF(SO)、及びCF=CF(OCH(CFSO)(式中、mは1〜4である。以下同じ。)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(2)スルホン酸エステル基を有するモノマーである、CF2=CF(SO)(式中、Rはアルキル基で−CH、−Cまたは−C(CHである。以下同じ。)、CH2=CF(SO)、及びCF2=CF(OCH(CFSO)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
(3)CF=CF(O(CH)(式中、Xはハロゲン基で−Br又は−Clである。以下同じ。)、及びCF=CF(OCH(CF)からなる群から選択される1種類以上のモノマー。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例と比較例を示す。
[実施例1〜13]
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材として、ポリビニリデンフロライド(以下、PVDF)等を用いた。検討した非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材は下記表1の通りである。高分子フィルム基材に対する放射線橋架けの有無については下記表1の通りである。放射線橋架けは表1に示す条件にて電離放射線を照射して行った。
【0057】
高分子フィルム基材に表1に示す重イオンを照射した。
エッチングによる穿孔形成は表1に示す条件にて行った。
エッチングによる穿孔形成を行ったサンプルについては、表1に示す条件にて電離線を照射した。
【0058】
次に、表1に示されるモノマーの溶液に浸漬し、表1に示す条件にて重合を行なった。
スルホン化処理もしくはプロトン化処理を行なった後、純水に浸漬し、洗浄を行なった。これを浸漬溶液が中性になるまで繰り返した。
真空乾燥炉でサンプルを乾燥させた。
【0059】
なお、グラフト率(%)については、下式により算出した。
X = (W2−W1)/W1 × 100
W1:グラフト重合前の高分子フィルム基材の重量(g)
W2:グラフト重合後の高分子フィルム基材の重量(g)
【0060】
【表1】

【0061】
表1中、化合物の略号は以下を意味する。
SiO:アモルファスシリカ(アエロゾルA380)
Al:アルミナ
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
ETFE:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体
PI:ポリイミド
NMXD6:ナイロン
St:スチレン
DVB:ジビニルベンゼン
PFVBr:CF=CF−O−CF−CF−Br
TFS:トリフルオロスチレン
MeSt:メチルスチレン
SSS:スチレンスルホン酸ナトリウム
NaClO:次亜塩素酸ナトリウム
【0062】
得られた膜のガス透過度、伝導度、引張強度、及び寸法変化を評価した。下記表2に、評価結果を示す。なお、
寸法変化=L/L × 100 (%)
であり、
=室温における乾燥電解質膜の寸法
=80℃における飽和膨潤(水)電解質膜の寸法
である。
【0063】
【表2】

【0064】
[比較例1〜6]
高分子フィルム基材として、非導電性無機粒子を含まないポリビニリデンフロライド(以下、PVDF)等を用いた他は、実施例1〜13と同様に行った。検討した充填剤、放射線橋架けの有無、イオンビームの照射条件、エッチングの有無、グラフト重合の条件、モノマー等については下記表3の通りである。表3中、化合物の略号は表1と同じである。
【0065】
【表3】

【0066】
得られた膜のガス透過度、伝導度、引張強度、及び寸法変化を評価した。下記表4に、評価結果を示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表1〜4の結果より、以下のことが分る。実施例1と比較例1を比べること等により、高分子フィルム基材に非導電性無機粒子を含ませることにより、グラフト率が向上し、種々の物性が向上することが分る。又、実施例1と実施例2を比べることにより、高分子フィルム基材を放射線橋架けすると、更に諸物性が向上することが分る。
【0069】
更に、実施例1と実施例3を比べることにより、イオンビームによる高分子フィルム基材中の潜在飛跡をエッチングして穿孔を形成することも有効であることが分る。
【0070】
更に、実施例7と比較例3、実施例8と比較例4を比べることにより、本発明により、本来単独では重合し難いとされて来たPFVBr(CF=CF−O−CF−CF−Br)でも十分なグラフト重合できることや、重合率が低いトリフルオロスチレン(TFS)も十分なグラフト重合できることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明においては、放射線重合技術を基礎にして、これにハイブリッド化技術、イオン穿孔化技術、グラフト重合技術等を組み合わせたことで、イオン交換膜のガスバリア性、機械的強度、寸法安定性、低湿下でのプロトン伝導性を向上させることができる。
【0072】
即ち、本発明の機能性膜は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所にのみに官能基を導入してナノオーダーに制御した機能性部を付与できることから、無機粒子で強化された高分子フィルム基材の物性を維持できる。また、本発明の機能性膜は、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオン照射によって照射損傷を形成した後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に、円柱状・円錐状・鼓状・漏斗状の断面形状からなる貫通孔を形成して得られた穿孔フィルム基材の表面や孔壁にのみに官能基を導入してナノオーダーに制御した機能性部を付与できることから、非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材の物性を維持できる。
【0073】
これにより、燃料電池用電解質膜に最適な、高いプロトン伝導性、ガスバリア性と機械的強度に優れた高分子電解質膜を提供することが出来、燃料電池の普及に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射し、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後に、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む機能性膜の製造方法。
【請求項2】
前記イオン照射工程において、高エネルギー重イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡が該フィルムを貫通することを特徴とする請求項1に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項3】
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射して、照射損傷を形成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に貫通孔を形成するエッチング工程と、得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種又は真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することで、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む機能性膜の製造方法。
【請求項4】
前記潜在飛跡箇所に残っている活性種を利用する場合に、孔径として、1〜250nmの範囲である貫通孔の孔壁にのみ前記モノマーをグラフト重合させることを特徴とする請求項3に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項5】
前記真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用する場合に、孔径として、1nm〜5μmの範囲である貫通孔の孔壁と該フィルム基材の表面にのみ前記モノマーをグラフト重合させることを特徴とする請求項3に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項6】
前記グラフト重合工程において、ガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを前照射し前記モノマーを後グラフト重合させることを特徴とする請求項5に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項7】
前記グラフト重合工程において、前記フィルム基材に前記モノマーを導入した後、ガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射し同時グラフト重合させることを特徴とする請求項5に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項8】
前記イオン照射工程の後に、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーに、A群モノマーに対し架橋剤であるB群からなるモノマー5〜80mol%を加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む請求項1乃至7のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項9】
前記非導電性無機粒子が、超微粒子状のシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)及びH型モルデナイトから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項10】
前記高分子フィルム基材が、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m2*day*atm)]以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項11】
前記高分子フィルム基材と前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが同種の元素からなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項12】
前記高分子フィルム基材が炭化水素系高分子からなり、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが炭化水素系モノマーからなることを特徴とする請求項11に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項13】
前記高分子フィルム基材が炭化フッ素系高分子からなり、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーが炭化フッ素系モノマーからなることを特徴とする請求項11に記載の機能性膜の製造方法。
【請求項14】
前記グラフト重合工程において、200以上の分子量を持つ機能性モノマーであるC群から選択される1種以上のモノマーを加えることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項15】
前記グラフト重合工程において、グラフト重合し難い機能性官能基を有するモノマーであるD群から選択される1種以上のモノマーを加えることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項16】
前記イオン照射工程の後に、前記フィルム基材をガスと接触させることで前記活性種を消失させ、次いで真空もしくは不活性ガス雰囲気下で該フィルム基材にガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射することで、再度活性種を生成することを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項17】
前記高分子フィルム基材に架橋構造を付与することを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項18】
前記高分子フィルム基材が、炭化水素系、炭化フッ素系、炭化水素・フッ素系高分子フィルムのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の機能性膜の製造方法。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれかに記載の製造方法によって製造された機能性膜。
【請求項20】
室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下である非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に、孔径が1nm〜5μmの範囲である機能性基含有パスを有する機能性膜。
【請求項21】
前記機能性基含有パスの孔径が1nm〜250nmの範囲であることを特徴とする請求項20に記載の機能性膜。
【請求項22】
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射・貫通させ、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、カチオン交換基または後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項23】
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射・貫通させ、該フィルム基材に活性種を生成するイオン照射工程と、カチオン交換基または後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項24】
前記イオン照射工程の後に、前記フィルム基材をガスと接触させることで前記活性種を消失させ、次いで真空または不活性ガス雰囲気下で該フィルム基材にガンマ線、電子線、プラズマのいずれかを照射することで、再度活性種を生成することを特徴とする請求項23に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項25】
非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に高エネルギー重イオンを10〜1014個/cm照射して、照射損傷を形成するイオン照射工程と、該イオン照射工程の後、該照射損傷を化学的または熱的にエッチング処理して該フィルム基材に貫通孔を形成するエッチング工程と、得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種又は真空もしくは不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することで、機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項26】
前記エッチング工程で得られた穿孔フィルム基材に、イオン照射によって損傷を受けた潜在飛跡箇所に残っている活性種ないしは真空または不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用することでカチオン交換基或いは後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーを加えて、該フィルム基材の表面や孔壁にのみ該モノマーをグラフト重合させ、該官能基を導入して得られることを特徴とする請求項25に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項27】
前記イオン照射工程の後に、前記機能性官能基を有するモノマーであるA群から選択される1種以上のモノマーに、A群モノマーに対し架橋剤であるB群からなるモノマー5〜80mol%を加えて、該フィルム基材と該モノマーをグラフト重合させるグラフト重合工程とを含む請求項22乃至26のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項28】
前記非導電性無機粒子が、超微粒子状のシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)及びH型モルデナイトから選択される1種以上であることを特徴とする請求項22乃至27のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項29】
前記高分子フィルム基材が、室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下であることを特徴とする請求項22乃至28のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項30】
前記グラフト重合工程において、A群に対し架橋剤であるB群からなる1種以上のモノマーを最大80mol%を加えることを特徴とする請求項22乃至29のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項31】
前記高分子フィルム基材に架橋構造を付与することを特徴とする請求項22乃至30のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項32】
前記高分子フィルム基材が、炭化水素系、炭化フッ素系、炭化水素・フッ素系高分子フィルムのいずれかであることを特徴とする請求項22乃至31のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項33】
前記潜在飛跡箇所に残っている活性種を利用する場合に、孔径として、最大250nmである貫通孔の孔壁にのみ前記モノマーをグラフト重合させることを特徴とする請求項26乃至32のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項34】
前記真空または不活性ガス雰囲気下で新たにガンマ線、電子線、プラズマのいずれかの照射によって生成した活性種を利用する場合に、孔径として、最大1μmである貫通孔の孔壁に前記モノマーをグラフト重合させることを特徴とする請求項26乃至32のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項35】
前記モノマーをグラフト重合させ、該カチオン交換基を導入した結果、前記貫通孔全体が該カチオン交換基で満たされた状態で、かつ前記フィルム基材内部にカチオン交換基が導入されていないことを特徴とする請求項34に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項36】
前記グラフト重合工程において、200以上の分子量を持つカチオン交換基または後工程でカチオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーであるC群から選択される1種以上のモノマーを加えることを特徴とする請求項22乃至35のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項37】
請求項22乃至36のいずれかに記載の製造方法によって製造された燃料電池用電解質膜膜。
【請求項38】
室温における酸素透過係数が10.0[cc*mm/(m*day*atm)]以下である非導電性無機粒子を含む高分子フィルム基材に、孔径が1nm〜5μmの範囲であるカチオン交換基含有パスを有する燃料電池用電解質膜。
【請求項39】
前記カチオン交換基含有パスの孔径が1nm〜250nmの範囲であることを特徴とする請求項38に記載の燃料電池用電解質膜。

【公開番号】特開2006−233086(P2006−233086A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51525(P2005−51525)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】