説明

機能性膜の製造方法

【課題】所望の膜厚及び所望の膜面積を有する機能性膜を成膜することができる機能性膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基板1上に配置された高分子マトリックス層2に、機能性物質及び高分子マトリックス層2を溶解又は膨張させる溶媒を含む機能性膜剤4を供給する第1工程と、この機能性膜剤4を高分子マトリックス層2中に拡散することによってこの高分子マトリックス層2に機能性物質を分散させる第2工程と、この第2工程においてこの機能性物質が分散した高分子マトリックス層2を固めて機能性膜7を形成させる第3工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性膜の製造方法に関し、特にイオンセンサやバイオセンサなどの固体膜型センサ、電界効果トランジスター型センサ、水晶振動子、バイオ燃料電池用の機能性膜、金属薄膜、又は半導体薄膜の作製技術において好適な機能性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン感応性電界効果トランジスター[Ion Selective Field Effect Transistor(略号:ISFET)]、イオン選択性電極[Ion Selective Electrode(略号:ISE)]、あるいは水晶振動子[Quartz Crystal Microbalance(略号:QCM)]の機能性膜(感応膜)は、通常、高分子、機能性物質(感応性物質)、可塑剤などの物質、及び有機溶媒からなる機能性膜剤を用いて成膜されている。成膜方法としては、インクジェット法(非特許文献1)、ディップコーティング法(非特許文献2)、スピンコート法、スプレーコート法、あるいはキャスト法などが知られている。
【0003】
他方、ISFETの機能膜作製法については、ISFETのシリコン基板上にシリコン酸化物などの無機酸化物をドライ酸化によって形成し、その上に有機溶液或いは蒸気をさらすことによって有機シラン単分子膜を形成する方法(特許文献1)や、蒸着重合可能な官能基を有するイオンノフォア化合物を蒸着重合させることによりイオン感応膜を形成するISFET用イオン感応膜の製造方法(特許文献2)が提案されている。また、水晶振動子の機能性膜作製法については、振動子型質量検出トランスデューサ表面に酸化ケイ素膜を形成し、該酸化ケイ素膜にシランカップリング剤から生成する含ケイ素有機薄膜を形成させることにより、この膜を新規センサプローブとして用いる方法(特許文献3)が提案されている。
【非特許文献1】Hitoshi Yagi and Tadashi Sakai, Sensors and Actuators B, 13-14 (1993) 212.
【非特許文献2】Helen James, Gary Carmack, and Henry Freiser, Analytical Chemistry, 44, (1972) 856.
【特許文献1】特開2004−117073号公報
【特許文献2】特開平6−273376号公報
【特許文献3】特開2000−131122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した成膜方法で用いられる機能性膜剤は、何れも機能性膜の支持体となる高分子マトリックスを予め有機溶媒に分散させた粘度の高いものであるため、この膜剤の取り扱いが困難である。また、インクジェット法を用いて成膜する場合、溶媒が蒸発するため、膜剤の粘度が変化してノズル詰まりを引き起こす問題があった。近年、小型の使い捨てセンサや生体埋め込みタイプのセンサの需要から、基板の微小領域へ機能性膜を迅速に形成する技術がますます重要になってきている。しかしながら、従来の方法では、膜剤の液滴サイズを小さくすることが難しいため、微小領域への成膜は困難である。また、膜剤の液滴を拡散させることによる成膜が行われるため、所望の膜厚や所望の膜面積を有する機能性膜を均一な膜厚で形成することは困難である。
【0005】
また、従来の成膜方法を用いて、ISFETのゲート電極やISEの固体電極上あるいは振動子型検出トランスデューサの表面上に作成された機能性膜(感応膜)は剥がれやすいだけではなく、感応膜とISFETのゲート電極またはISEの固体電極との密着性も劣る。その故、感応膜とISFETのゲート電極の間、または感応膜とISEの固体電極の間から被測液の浸透に起因するセンサの感度、選択性、耐久性などの劣化が大きな課題となっている。
【0006】
上述した従来技術では、何れも作製工程が煩雑な上、作製条件は穏和ではない。また、作製できる機能性膜もそれぞれの作製法に適した物質に限定されたものであり、様々な種類の機能性膜を作製することができない。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、基板から剥がれにくい機能性膜を基板の微小領域に迅速で簡便に作製することができ、所望の膜厚及び所望の膜面積を有する機能性膜を成膜することができる機能性膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、本発明の一態様によれば、基板上に配置された高分子マトリックス層に、機能性物質及び前記高分子マトリックス層を溶解または膨張させる溶媒を含む機能性膜剤を供給する第1工程と、この機能性膜剤を前記高分子マトリックス層中に拡散することによってこの高分子マトリックス層に前記機能性物質を分散させる第2工程と、この第2工程においてこの機能性物質が分散した高分子マトリックス層を固めて機能性膜を形成させる第3工程とを具備することを特徴とする機能性膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の機能性膜の製造方法によれば、例えば基板の微小領域といった所望の位置に、所望する膜の形状、膜厚、膜面積を有する機能性膜を迅速且つ簡便に作製することができる。また、作製可能な機能性膜の種類が限定されることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る機能性膜の製造方法について、図1乃至図6を参照しながら説明する。尚、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付しており、重複した説明は省略する。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参照して判断すべきものである。又、図面相互間においてもお互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0011】
〈機能性膜製造装置の基本構造〉
本発明の実施の形態に係る機能性膜の製造方法は、機能性膜の作製装置を用いて行われる。図1は本実施形態に係る機能性膜の製造方法を説明するためのフローチャートである。図1に示すように、機能性膜の作製装置は、基板1上に形成された高分子マトリックス層2を囲むようにこの基板1上に設けられたテンプレート3の内側の空間に対して、機能性物質及び溶媒を含む機能性膜剤4を供給する供給部(機能性膜剤供給部)5と、機能性膜剤4を拡散することによって高分子マトリックス層2中に機能性物質を分散させる拡散部6と、高分子マトリックス層2を固めて機能性膜7を形成させる固定化部8と、この機能性膜7を焼成して高分子マトリクッス層2、及び有機物などの溶媒を除去することにより機能性膜7が焼結してなる機能性膜9を生成する焼結部10とを備えている。この機能性膜の作製装置を用いて機能性膜7又は焼結後の機能性膜9が製造される。
【0012】
高分子マトリックス層2は、高分子の薄膜、高分子の繊維若しくは多孔性の薄膜、又は高分子ゲル薄膜である。拡散部6は、振動などの物理的手法を用いて、機能性膜剤4を自然拡散または強制拡散させる。固定化部8は、温度などの外部条件を変化させて、高分子マトリックス層2を溶解又は膨潤させた溶媒を蒸発させることによって高分子マトリックス層2を固める。高分子マトリックス層2が高分子ゲル薄膜である場合、固定化部8は、外部条件を変化させて、高分子マトリックス層2をゲル化させることによって高分子マトリックス層2を固める。
【0013】
図1に示された高分子マトリックス層2には、薄膜状、繊維状あるいは多孔状の高分子マトリックスまたは高分子ゲルが用いられる。また、高分子マトリックスには、必要に応じて、高分子薄膜がコーティングされた金属繊維や金属メッシュを主材とする高分子マトリックスを用いることできる。
【0014】
高分子材料としては水溶性の高分子材料、及び水不溶性の高分子材料などのいずれを用いることができる。機能性膜剤4の溶媒として水を用いる場合、水溶性の高分子材料の使用が望ましい。一方、機能性膜剤4の溶媒として有機溶剤を用いる場合、水不溶性の高分子材料、換言すれば有機溶剤に易溶の高分子材料の使用が望ましい。
【0015】
水溶性の高分子材料としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系のポリマーなどを用いることができる。不水溶性の高分子材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコンゴム、ポリアクリルアミド、酢酸セルロース、セルロース、ポリスチレンなどを用いることができる。水溶性の高分子材料または不水溶性の高分子材料は、機能性膜剤4に使用される溶媒の種類あるいは用途に応じて適宜に選択することができるので、列挙したこれらの物質に特に限定されるものではない。
【0016】
また、高分子ゲルとしては、例えば、温度、光、溶媒組成、電磁場の変化に応じて、膨潤若しくは収縮または相転移を引き起こすゲルを用いることができる。高分子ゲルとしては例えば、ポリアクリル酸ナトリウムゲルを用いることができる。また、例えば、温度によって、相転移を引き起こすゲルとして、例えば、20℃の相転移温度を有する高分子ゲル、メビオールジェル(登録商標)[Mebiolgel、池田化学(株)販売]を用いることができる。
【0017】
基板1としては、ガラス基板、金属基板、セラミックス基板、高分子の基板などを用いることできる。一方、固体膜型のセンサ(化学センサ、バイオセンサ、免疫センサ)、電界効果トランジスター型のセンサ[電界効果トランジスターの化学センサ(Chemically sensitive FET:略号CHEMFET)やFETバイオセンサ]、あるいは水晶振動子への機能性膜の応用を考える場合、固体膜型センサの固体電極、電界効果トランジスターのゲート電極、水晶振動子の振動子型検出トランスデューサをそれぞれ基板1として使用することができる。換言すれば、基板1上に高分子マトリックス層2を設ければよく、基板の種類を特に限定するものではない。
【0018】
また、基板1の材料には高分子マトリックス層2と同じ材料を用いることができる。この場合は、供給部5から供給される機能性膜剤4の供給量と、拡散部6における温度や振動などの外部条件とを適宜に制御することにより、機能性膜剤4の基板1への拡散深度を適宜に制御することができる。
【0019】
機能性物質として、検出目的のイオン又は検出目的の物質を感知できる物質、例えば、イオン感応物質、酵素、タンパク質、核酸、核酸関連物質、ペプチド、ポリペプチド、クラウンエーテル、イオンチャンネル、分子トング、シクロデキストリン、あるいは各種感応物質が修飾された金属微粒子などを用いることができる。また、金属薄膜の作製を目的とした場合、金属のナノ粒子又は金属の微粒子を機能性物質として用いる。半導体薄膜の作製を目的とした場合は、半導体のナノ粒子または半導体の微粒子を機能性物質として用いることができる。
【0020】
機能性膜剤4には、機能性物質が含まれるほか、高分子マトリックス層2を膨潤させ若しくは相転移させ、または溶解させることができる液体が含まれる。高分子マトリックス層2が高分子ゲルである場合、この液体として高分子ゲル内へ浸透拡散する能力を有する液体を用いることが望ましい。一方、高分子マトリックス層2が高分子ゲルではない場合、高分子マトリックス層2を溶解させる能力を有する液体を用いることが望ましい。
【0021】
機能性物質及び液体を含む他に、高分子マトリックス層2を柔軟化させる可塑剤などの物質を含む機能性膜剤4を用いることができる。また、作製された機能性膜7がセンサの感応膜として使用される場合、検出目的イオンの種類に応じて、イオン排除剤などの物質を含む機能性膜剤4を用いることができる。
【0022】
機能性膜剤4に含まれる液体としては、水または非水溶媒(nonaqueous solvent)、あるいは混合溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、純溶媒のテトラヒドロフラン(THF)、酢酸、酢酸ブチル、酢酸エチル、トルエン、アセトニトリル、メタノール、2−アセトキシー1−メトキシプロパンなどを用いることができる。また、これらのうちの2種類以上の純溶媒を混ぜて混合溶媒として使用することができる。その他、液体としては、例えばイミダゾリウムやピリジニウムのような窒素を含む芳香族陽イオンと各種の無機陰イオンとの組み合わせからなる常温で液状のイオン液体を用いることができる。
【0023】
供給部5は、高分子マトリックス層2へ一定量の機能性膜剤4を供給する装置を備えることが望ましい。例えば、インクジェット機構、塗布機構、印刷機構などを適宜に使用することができる。本実施形態に係る機能性膜の製造方法に用いられる機能性膜剤4には機能性膜7の担体となる高分子マトリックスが含まれていないため、この機能性膜剤4の粘度が低い。したがって、微小領域における機能性膜7を作製する場合は、自動マイクロインジェクション装置、超微量デスペンサー、マイクロディスペンサー、フェムトリットル(fL)ポンプなどの装置を供給部5に適用する。その他、機能性膜7の面積や機能性膜剤4の種類に応じて、機能性膜剤4の供給装置を適宜に選択することができる。
【0024】
拡散部6は、高分子マトリックス層2の温度を適宜に制御できる装置11、例えば、レーザーにより高分子マトリックス層2を加熱可能な装置や、恒温槽などの高分子マトリックス層2を加熱可能な装置を備えることが好ましい。またはこの加熱可能な装置の代わりに、拡散部6は、機能性膜剤4を添加した後の高分子マトリックス層2を揺らす装置11、例えば、振盪機器(シェーカー)や超音波振動装置を備えることが望ましい。または加熱可能な装置やシェーカーの代わりに、拡散部6は、機能性膜剤4に含まれる金属微粒子を高分子マトリックスへ効率的に移動させることができる電界を発生させる装置11を備えることが望ましい。
【0025】
固定化部8は、高分子ゲルの相転移温度を適宜に制御できる装置12、または高分子を溶かす溶媒を効率的に蒸発させる装置12を備えることができる。この場合は、拡散部6で使われる恒温槽を使用する。さらに固定化部8は、機能性膜7の種類に応じて、減圧装置や真空乾燥装置を適宜に使用することができる。
【0026】
焼結部10は、高分子マトリックスや機能性膜剤4中に含まれる有機物を焼結により除去できる装置13を適宜に備えてもよい。
【0027】
総括すれば、上記の機能性膜9の作製装置を用いる場合、膜の面積や膜厚がコントロールされた機能性薄膜を所望の微小領域において、迅速且つ簡便に製造することができる。
【0028】
〈機能性膜の製造方法〉
本実施形態に係る機能性膜の製造方法は、図1に示すように、基板1上にテンプレート3に囲まれる高分子の薄膜、高分子の不織布、又は多孔性の膜といった高分子マトリックス層2に機能性物質を含む機能性膜剤4を加える工程1を実施する。次に、機能性膜剤4の自然拡散または強制拡散(振動などの物理的手法を用いる)を利用することによって、機能性膜剤4に含まれる機能性物質を高分子マトリックスに均一に分散させる工程2を実施する。続いて、温度などの条件変化による高分子マトリックス層2を溶解させた溶媒を蒸発させることにより高分子マトリックス層2を濃縮するあるいは乾燥する工程3を実施する。工程3では、高分子マトリックス層2が高分子ゲルからなる場合、高分子マトリックス層2をゲル化させる工程が実施される。工程3が実施されることにより機能性膜7が得られる。さらに、機能性膜7を焼結することにより、高分子マトリックスおよび有機溶媒といったその他の有機物を除去し、焼結後の機能性膜9を得る工程4を実施する。
【0029】
上記製造方法によれば、所望の膜面積や膜厚の機能性薄膜を所望の微小領域において、迅速且つ簡便に製造することができる。
【0030】
上記工程1においては、高分子マトリックス層2に機能性膜剤4の液量および流速の両方の制御が可能なインジェクション装置を用いて、機能性物質を含む機能性膜剤4を、テンプレート3の内側の空間に加えることができる。また、塗布などの方法によっても、機能性膜剤4を加えることができる。なお、微小領域における成膜を行う場合、微少量の機能性膜剤4を供給することが可能なインジェクション装置を用いることが望ましい。
【0031】
工程2は高分子マトリックス層2へ機能性膜剤4を拡散させることを目的とする。機能性膜剤4に易溶である高分子マトリックス層2が用いられる場合、機能性膜剤4の供給により、この高分子マトリックス層2が溶解される。溶解する高分子マトリックスへ機能性物質が機能性膜剤4と共に自然拡散することによって、この機能性物質は高分子マトリックスの溶液に分散する。なお、機能性物質の迅速拡散または均一拡散を促進させるためには、強制拡散を行う手段を用いることができる。強制拡散の手段としては、例えば、機能性膜剤4の温度、基板1へ加える振動の大きさ、音波や超音波の周波数やレベル、あるいは磁場の強さなどを制御可能な制御手段を用いることができる。これらの強制拡散の手段は何れも機能性物質の拡散を促進させ、高分子マトリックス層2へ均一に機能性物質を分散させる効果がある。
【0032】
また、高分子マトリックス層2が高分子ゲルである場合は、機能性膜剤4の供給後、温度、光、電磁場などの条件を制御することにより、高分子ゲルの膨潤または相転移を制御することができる。この場合は、機能性膜剤4を膨潤した高分子ゲル中、またはゾル(高分子溶液)中へと拡散させればよい。相転移温度が比較的に低い高分子ゲルを用いる場合、例えば、メビオールジェル(登録商標)の相転移温度は20℃であるが、このメビオールジェル(登録商標)は15℃においては液体の水溶液(ゾル)であり、25℃以上においては固体の高分子ゲルになる。したがって、高分子マトリックス層2が高分子ゲルの状態である場合、機能性膜剤4を添加し、メビオールジェル(登録商標)の温度を適宜制御することにより、高分子ゲルを相転移させ、溶液(ゾル)の状態において、機能性物質を拡散または分散させることができる。
【0033】
工程3は機能性膜7を作製する工程である。
【0034】
高分子マトリックス層2が機能性膜剤4に易溶である場合、この高分子マトリックス層2は溶解した高分子マトリックスに機能性物質を分散させてから、高分子マトリックス層2を溶かす溶媒を除去させるようにする。この場合は高分子マトリックス層2を溶かす溶媒のみを除去することが望ましく、機能性物質や可塑剤、イオン排除剤などの有用物質を機能性膜7に残すことが望ましい。したがって、高分子マトリックス層2を溶かす溶媒としては、通常、揮発性の溶媒、または室温や200℃以下で容易に除去できる溶媒を使用することが望ましい。溶媒の除去方法は、室温において、そのまま放置させ、あるいは自然乾燥させることによって除去する方法を用いることができる。または、レーザー光の溶媒への照射や、ホットプレート又は恒温乾燥器を用いた熱処理を行うことによって溶媒を除去してもよい。減圧装置や真空乾燥器などを利用して溶媒を除去することもできる。溶媒の除去方法に関しては、機能性膜7や溶媒の種類などによって適宜に選択すればよい。
【0035】
機能性膜7の担体となる高分子マトリックス層2が高分子ゲルである場合、外部の条件(温度、光、電磁場など)を適宜に制御することにより、高分子マトリックス層2を膨潤させる溶媒の含有量を適宜に増減させて、機能性膜7の膜厚および膨潤度の両方を適宜に制御することができる。または、上述の機能性物質が分散されたゾルを高分子ゲルに戻すことによっても、機能性膜7を作製することができる。
【0036】
工程4は機能性膜7から、焼結後の機能性膜9を作製する工程である。工程4においては基本的に機能性膜7を焼結することにより、高分子マトリックス層2やその他の有機物を除去し、焼結後の機能性膜9を作製する。したがって、焼結によって除去されない金属のナノ粒子若しくは金属の微粒子、または半導体などのナノ粒子若しくは半導体の微粒子が、機能性膜7に分散している場合は、焼結によって、金属や半導体などの薄膜(機能性膜9)を作製することができる。
【0037】
このように、本実施形態に係る機能性膜の製造方法によれば、高分子を除く機能性物質などを含む機能性膜剤4を用いるため、粘度が低い機能性膜剤4を利用することができ、取り扱いが容易になる。微小領域へ機能性膜7または焼結後の機能性膜9を形成することが簡便に行えるようになる。
【0038】
また、高分子薄膜を用いる場合、薄膜の膜厚やテンプレート3の面積を所望の大きさにすることができるため、一定の膜厚や面積を有する機能性膜7または焼結後の機能性膜9を形成することができるようになる。更に、テンプレート3の材料を適宜選択し、このテンプレート3の厚さとテンプレート3の構造を適宜選択することによって、基板1から剥がれ難い機能性膜7を作製することができる。
【0039】
換言すれば、この機能性膜7または焼結後の機能性膜9の製造方法は、基板1に機能性物質の支持体(担体)となる高分子マトリックスを含まない機能性膜剤4を加え、次に機能性膜剤4を高分子マトリックス層2へ拡散させ、さらに、乾燥またはゲル化の工程、または焼結の工程とを経る。このため、一定の膜厚および面積を有し、且つ機能性物質が分散される機能性膜7または焼結後の機能性膜9を微小領域に迅速且つ簡便に作製することができるようになる。すなわち、膜面積や膜厚をコントロールすることができる。
【0040】
<機能性膜の製造方法の応用例1
固体膜型センサ>
固体膜型のセンサ、電界効果トランジスター型のセンサ、又は水晶振動子のトランスデューサに用いられる機能性膜あるいは感応膜を、本実施形態に係る機能性膜の製造方法を応用して作製することができる。この場合は、固体電極、ゲート電極、又は振動子型検出トランスデューサは基板としての役割を果たし、その上に機能性膜あるいは感応膜を作製すればよい。
【0041】
図2に固体膜型イオンセンサの感応膜の製造方法の一例を示す。図2(a)は均一膜の固体膜型イオンセンサの断面図であり、図2(b)は混合膜の固体膜型イオンセンサの上面図である。ここで、図2(a)は図2(b)の鎖線a−bに沿った断面で矢印方向に見た図であるが、図2(a)に示された機能性膜は高分子マトリックス層に機能性物質が均一に分散された均一膜であるため、高分子マトリックス層18の部分がない。一方、高分子マトリックス層の微小孔辺縁部分の部分溶解により、微小孔に機能性膜を形成させる場合では、高分子マトリックス層18が図2(c)に示されたように機能性膜19と固体電極の銀/ハロゲン化銀層16の間に残存する。ここで、図2(c)は図2(b)の鎖線a′−b′に沿った断面で矢印方向に見た図である。この高分子マトリックス層18の残存層には可塑剤の含有量が低いため、固体電極との密着性が優れている。一方、高分子マトリックス層18の残存層と隣接した機能性膜は、機能性膜中の可塑剤の含有量が高いが、膜の支持体となる高分子材料は残存層と同様であるため、この残存層にしっかりと接着されている。したがって、このような構造を有する混合膜型の機能性膜は固体電極から剥がれにくい特徴がある。
【0042】
この固体膜型イオンセンサは、テンプレート14と、このテンプレート14の下部に設けられたリード線15と、このリード線15の上に設けられる銀/ハロゲン化銀層16と、これらのテンプレート14と、リード線15及び銀/ハロゲン化銀層16との間の空間に形成された電気的絶縁層17と、銀/ハロゲン化銀層16の上に形成された高分子マトリックス層18とを備えている。
【0043】
この固体膜型イオンセンサでは、図2(a)に示すように、基板1の代わりにリード線15の上に銀/ハロゲン化銀層16を設けてなる固体電極が用いられている。リード線15と銀/ハロゲン化銀層16とは、電気的絶縁層17及びテンプレート14によって囲まれる。高分子マトリックス層18は銀/ハロゲン化銀層16及び電気的絶縁層17の上に設けられており、さらにテンプレート14によって囲まれている。感応膜の製造方法は、図1に示された機能性膜7あるいは焼結後の機能性膜9を製造する4つの工程のうち、工程1から工程3までの3つの工程を必要とする。すなわち、この感応膜の製造方法は、テンプレート14及び高分子マトリックス層18の間の空間に機能性物質(イオン感応性物質)を含む機能性膜剤4を供給する工程1と、機能性膜剤4を高分子マトリックス層18に拡散させる工程2と、高分子マトリックス層18を溶かす溶媒を除去する工程3とを有し、これらの工程1から工程3を通して感応膜19が作製される。
【0044】
固体膜型センサを作製する場合は、高分子薄膜や多孔性の高分子薄膜、高分子の不織布を高分子マトリックス層18として用いることができる。高分子薄膜が用いられる場合、高分子薄膜の溶解によって機能性膜としての感応膜19が形成される。一方、多孔性の高分子薄膜や高分子の不織布が用いられる場合は、高分子の完全溶解によって均一な感応膜19が形成される。または高分子マトリックス層18の微小孔や空隙の辺縁部分が部分的に溶解することによって、これらの微小孔や空隙が塞がれる。
【0045】
図2(b)、(c)に示すように、高分子マトリックス層18の微小孔の辺縁部分が部分的に溶解することによって、微小孔が塞がれ、高分子マトリックス層18と感応膜19とが混在した膜を形成させることもできる。通常、可塑剤が多量に含まれる機能性膜は基板となる固体電極との密着性が悪く、固体電極から剥がれやすいという問題があった。この応用例1に係る機能性膜の製造方法によれば、混在膜中の高分子マトリックス層18には可塑剤の含有量が少なく、高分子マトリックス層18は基板と密着性が良いため、微小孔や空隙に形成される感応膜19をホールド(hold)することができ、感応膜19を固体電極に密着させることができるという効果がある。また、高分子マトリックス層18をテンプレート14の下に固定させることができる。上記のような高分子マトリックス構造を使用する場合、作製される感応膜19は固体電極から剥がれ難いという特性を有する。
【0046】
また、高分子マトリックス層18はテンプレート14の材料と同じ材料の高分子を用いることができる。この場合、高分子マトリックス層18の膜厚はテンプレート14の段差の高さよりも薄くすることが望ましい。このような構造を用いる場合、膜の厚さが薄い高分子マトリックス層18の方は機能性膜剤4によってほぼ溶解される。一方、段差を有するテンプレート14は、その段差の辺縁部分において、高分子マトリックス層18の膜厚とほぼ同等深度の領域が溶解され、この領域への機能性膜剤4の拡散による機能性物質の散逸が発生するが、少量のため、その影響を無視することができる。
【0047】
センサの感度や選択性、耐久性などの特性を考慮する場合、作製される感応膜19の膜厚は1μmから500μmであることが望ましい。より好ましい膜厚は5μm〜300μmである。最も好ましい膜厚は10μm〜150μmである。膜厚は、センサの感度や選択性、寿命などに影響されるため、好感度及び高選択性を備えた低コスト、ディスポーザブル、マルチチャネルのISE又はISFETを提供するためには、膜厚は10μm〜150μmであることが望ましい。
【0048】
通常、感応膜19の感度や応答速度などの特性を高めるために、感応膜19中の可塑剤は機能性膜の担体となる高分子マトリックスよりも多く使われている。可塑剤の重量含有率は高分子マトリックスの重量含有率の約2倍である。したがって、作製された感応膜19は可塑剤が含まれるため、この感応膜19の膜厚は高分子マトリックス層18の膜厚よりも厚くなるので、テンプレート14の高さは作製された感応膜19の高さを考慮して、設ければよい。
【0049】
図2の例と同様の機能性膜の製造方法を用いて、図3の固体膜型イオンセンサが左右方向に複数個並んで構成されてなる多チャンネルの固体膜型イオンセンサを作製することができる。図3は多チャンネルの固体膜型イオンセンサの断面図である。図3では、図2(b)の固体膜型イオンセンサの鎖線a−bに沿った断面で矢印方向に見た固体膜型イオンセンサが複数形成されている。図3に示す符号のうち、上述した符号と同じ符号を有する要素はそれらと同じものを表す。図3に示す多チャンネルの固体膜型イオンセンサには、図2の感応膜19の製造方法と同じ製造方法によって製造された感応膜19a、19b、19cが形成されている。この多チャンネルの固体膜型イオンセンサは、リード線15を電気的絶縁層の下方から導出した形状を有する固体膜型センサである。異なる機能性膜剤を用いることによって、異なる機能性膜を有する固体膜型センサを作製することができる。
【0050】
図2の例および図3の例と同じ機能性膜の製造方法を用いて、リード線をテンプレート14から外方へ導出するような形状を有する多チャンネルの固体膜型センサを作製することができる。図4はリード線20をテンプレート14から外方へ導出するタイプの多チャンネルの固体膜型センサの作製方法を説明するための図である。図4(a)はこの固体膜型イオンセンサの正面断面図であり、図4(b)はこの固体膜イオンセンサの側断面図である。ここで、図4(a)は図4(b)の固体膜型イオンセンサの鎖線c−dに沿った断面で矢印方向に見た図である。図4(a)に示すテンプレート14の上部には図示しない高分子マトリックス層が設けられており、この高分子マトリックス層へ機能性膜剤4を供給することによって、多チャンネルの固体膜型センサが製造される。図4中これら以外の符号で上述した符号と同じ符号を有する要素はそれらと同じものである。
【0051】
リード線20を横から引出した形状を有する多チャンネルの固体膜型イオンセンサは、断面左右方向に平坦な形状を有する空間を内部に設けたテンプレート14と、この空間に設けられた電気的絶縁層17と、この電気的絶縁層17の上部かつ断面右側に設けられた銀/ハロゲン化銀層16と、銀/ハロゲン化銀層16と繋がりかつ電気的絶縁層17の上部の断面左側に設けられたリード線20とを備えている。これにより、図4(b)に示すように、多チャンネルの固体膜型イオンセンサには、感応膜19の製造方法と同じ製造方法によって製造されたそれぞれ異なる感応膜19a、19b、19c、19d及び19eが形成される。
【0052】
<機能性膜の製造方法の応用例2
電界効果トランジスター型センサの作製方法>
電界効果トランジスター型のセンサの機能性膜あるいは感応膜の製造方法は基本的に図2に示す固体膜型センサの機能性膜の製造方法と同様である。図5は応用例2に係る機能性膜の製造方法を用いて製造される電界効果トランジスター型のセンサの基本構造を示す図である。この電界効果トランジスターは、基板21と、この基板21の上部に形成されたソース領域22、ドレイン領域23及びチャンネル形成領域24と、基板21上に設けられた第1のゲート絶縁膜25と、この第1のゲート絶縁膜25の上に設けられ、第1のゲート絶縁膜25の材料と異なる材料からなる第2のゲート絶縁膜26と、この第2のゲート絶縁膜26の上に設けられたテンプレート27と、第2のゲート絶縁膜26の上に形成されテンプレート27によって囲まれたゲート電極部28とを備えている。
【0053】
図5に示す電界効果トランジスターのゲート電極部28において、応用例1と同様な機能性膜の製造方法を用いて感応膜を形成させることができる。具体的に固体膜型センサ[図2(a)]と同様の均一型の機能性膜若しくは感応膜、または高分子マトリックス層18と混在した混合型の機能性膜若しくは感応膜[図2(b)]を形成することによって、図5の感応膜29は得られる。ゲート電極部28において形成された機能性膜(感応膜)29には検出対象となる物質と相互作用をする物質が固定されており、電界効果トランジスター型センサの検出用感知部ゲートの感知部としての役割を果たす。
【0054】
また、上述の感応膜の製造方法を用いて、図3の例や図4(b)の例と同様に、異なる感応膜を有する多チャンネルの電界効果トランジスター型センサを作製することもできる。
【0055】
<機能性膜の製造方法の応用例3
水晶振動子の作製方法>
水晶振動子に用いられる機能性膜あるいは感応膜の製造方法も、基本的に図2に示す固体膜型センサの機能性膜(感応膜)の製造方法と同様である。この場合は水晶振動子の振動子型検出トランスデューサの表面に固体膜型センサ(図2)と同様の均一型の機能性膜若しくは感応膜、または高分子マトリックスと混在した混合型の機能性膜若しくは感応膜を形成させればよい。
【0056】
<機能性膜の製造方法の応用例4
金属または半導体薄膜の作製方法>
金属薄膜または半導体薄膜を製造する場合、図1に示す工程1〜工程4が必要となる。さらに、工程4は焼結工程であり、基板上に金属薄膜または半導体薄膜を作製するためには、焼結しても変形し難い、耐火性の基板(例えば、セラミックス基板、ガラス基板など)を用いる。テンプレートは金属薄膜または半導体薄膜の鋳型として使用される。テンプレートは薄膜が作製された後に不用とされる場合、焼結により除去可能な高分子材料を金属薄膜または半導体薄膜のテンプレートとして用いてもよい。
【0057】
図1を参照すると、この応用例4に係る機能性膜の製造方法は、高分子マトリックス層2を備える耐火性の基板1に、金属のナノ粒子や微粒子または半導体のナノ粒子や微粒子が分散された機能性膜剤4を供給する工程1と、高分子マトリックス層2へ機能性膜剤4を拡散すると共に、金属のナノ粒子や微粒子または半導体のナノ粒子や微粒子を分散させる工程2と、金属のナノ粒子や微粒子または半導体のナノ粒子や微粒子が分散される機能性膜4を形成する工程3と、この機能性膜4を焼結し、高分子マトリックスやその他の有機物を除去する工程4とからなる。これらの工程1から工程4を経ることにより、応用例4での金属薄膜または半導体薄膜が作製される。
【0058】
金属薄膜または半導体薄膜を作製する場合、高分子マトリックス層2は機能性膜剤4の種類に応じて、水溶性または不水溶性の高分子材料を用いることができる。金属のナノ粒子や微粒子、または半導体のナノ粒子や微粒子が水溶液の機能性膜剤4に分散される場合は、水溶性の高分子材料を高分子マトリックス層2として使用すればよい。一方、これらの金属のナノ粒子や微粒子、または半導体のナノ粒子や微粒子を有機溶媒やイオン液体などの非水溶媒からなる機能性膜剤4に分散させる場合は、不水溶性の高分子材料を用いればよい。高分子マトリックス層2に高分子ゲルが用いられる場合、高分子ゲルが膨潤し若しくは収縮し、又は高分子ゲルが相転移する際、高分子ゲルに吸収または放出されることができる機能性膜剤4を使用すればよく、または高分子ゲルの網目構造中に閉じ込められる機能性膜剤4を使用すればよい。
【0059】
なお、金微粒子や機能性物質が修飾された金微粒子が分散された高分子シートまたは高分子ゲルシートをセンサシートとして使用する場合、工程3までの作製工程を実施することによってセンサシートを作製すればよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の機能性膜の製造方法について具体的な実施例により詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
実施例1は図2に示す固体膜型センサとして、固体膜型のカリウムイオン選択性電極(ISE)を試作し評価した。
【0062】
図1に示す基板1としては樹脂で囲まれる銀線と銀/塩化銀(直径:1.6mm)とを用いた。また、高分子マトリックス層2としては、10μmの平均孔径と20μmの膜厚とを有するポリ塩化ビニル(PVC)の多孔性薄膜を用いた。テンプレート3としては、厚さが10μmのサーリン(登録商標)樹脂層と、厚さが65μmのポリエステル層とからなるテンプレートを用いた。サーリン(登録商標)樹脂は基板1側、すなわち銀/塩化銀電極側に設けられている。テンプレート3に囲まれる高分子マトリックス層2は円形であり、直径は4mmのものを用いた。なお、テンプレート3は接着性のサーリン(登録商標)樹脂によって、基板1側にしっかりと接着されている。
【0063】
機能性膜剤4にはカリウムイオンを感知するバリノマイシン(機能性物質)と、ポリ塩化ビニルを柔らかくする可塑剤アジビン酸ジオクチル(DOA)と、アニオン排除剤のカリウムテトラトラフェニルボレート(K-TPB)と、有機溶媒のテトラヒドロフラン(THF)とが含まれている。
【0064】
成膜においては、自社製の自動インジェクション装置を用いて、機能性膜剤4を高分子マトリックス層2としてのPVC層に注入した。機能性膜剤4の注入後、室温において、機能性膜剤4がテンプレート3から溢れないよう、電極を作業台に叩きながら縦振動させた。その後、機能性膜剤4が注入された高分子マトリックス層2のPVCが溶けて、透明になった。暫くすると、テトラヒドロフランの蒸発により、膜が固くなって、10μm径の微小孔まで機能性膜7(あるいは感応膜7)で塞がれることが観察された。なお、機能性膜剤4を数回にわたり、テンプレート3によって囲まれる高分子マトリックス層2の領域に注入することができる。最終的には、機能性膜剤4に含まれる可塑剤DOAの含有量が高分子マトリックス層2としてのPVCの2倍になるように、機能性膜剤4に含まれる可塑剤の含有量と機能性膜剤4の供給量とを調整した。
【0065】
上述のような方法で作製されたカリウムイオン選択性電極を1日、そのまま放置乾燥させた。さらに、1x10−4MのKCl水溶液でカリウムイオン選択性電極のエージングを行った後、室温(約25℃)において、妨害イオンが含まれていない標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、その感度スロープ値を求めた。また、妨害イオンとしてナトリウムイオン(0.15M)を含ませた標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、混合法によりナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を求めた。なお、ISEの検量線の測定方法はISEの標準測定方法に準じるものであり、標準液において、基準とする参照電極であるダブルジャンクション型の銀/塩化銀電極(外筒液:硝酸アンモニウム)との間の電位(E)を測定した。活量係数が1と見なせるとき、電位は下式(1)に示されるように目的イオンであるカリウムイオンの濃度[K+]の対数と比例関係にある。
【0066】
E=E。+(2.303RT/nF)log[K] (1)
ここで、E。は電極構成などにより決まる定数であり、Rは気体定数、Tは絶対温度、nはイオン価数、Fはファラデー定数である。そして、式(1)によると同様の感応膜を用いる場合、一定温度において、Eは試料溶液のカリウムイオン濃度の上昇と共に上昇することになる。したがって、異なるカリウムイオン濃度を有する標準液における電位を測定することによって、カリウムイオンの検量線を求めることができる。
【0067】
妨害イオンが含まれていない標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定した結果、1x10−5Mから1x10−1Mのカリウムイオンの濃度範囲において、直線状の検量線が得られ、感応スロープ値は58mV/decadeであった。また、妨害イオンとしてナトリウムイオン(0.15M)を含ませた標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、混合法によりナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を求めた結果、その選択係数(logKKNa)は−4であった。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の成膜方法と同様の成膜方法を用いて、図5に示す電界効果トランジスター型のセンサの1種であるカリウムイオン感応性電界効果トランジスター(ISFET)を作製して評価した。実施例1の例との相違点は、電効果トランジスター型のセンサのゲート電極部28を基板1として用いた点である。カリウムイオンの機能性膜あるいは感応膜をゲート電極上に形成させて、カリウムイオンのイオン感応性電界効果トランジスター(ISFET)を作製した。
【0069】
実施例1と同様に、上述の方法で作製されたカリウムイオンのISFETを1日、そのまま放置乾燥させた。さらに、1x10−4MのKCl水溶液でカリウムイオン選択性電極のエージングを行った後、室温(約25℃)において、妨害イオンが含まれていない標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、その感度スロープ値を求めた。また、妨害イオンとしてナトリウムイオン(0.15M)を含ませた標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、混合法によりナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を求めた。
【0070】
ISFETを用いた場合は、ISEの測定原理と異なり、ゲート電極の界面電位変化に起因するドレイン電流の変調原理を利用して、検出目的物質の検出を行っている。ISFETのゲート電極としては検出用感知ゲートが用いられており、この検出用感知ゲートはゲート本体であるゲート電極部28と感知部(検出目的物質との相互作用感知部)である機能性膜(感応膜)とから構成されている。検出用感知ゲートの感応部(感応膜)においてこの感応部と試料との間で相互作用が生じた場合、感知用ゲートとしてのゲート電極部28のゲート電位変化を引き起こし、続いてゲート電位の変化によりドレイン電流が変調される。例えば、カリウムイオンのISFETの感応膜は感知部となり、カリウムイオンが感応膜に取り込まれることによって、感知用ゲートの界面電位の変化を引き起こし、ドレイン電流IDの変調を引き起こすことになる。そこで、ドレイン電極およびソース電極間の電圧VDSとドレイン電流IDとが一定となるように条件を設定し、ゲート電極の界面電位の変化は直接メータの出力電圧(VGS)の変化として計測される。ISFETの測定回路の略図を図6に示す。図6は本発明の実施例2に係る機能性膜の製造方法に用いられる電界効果トランジスター型センサの測定用の回路の概略を示す図である。ゲート電極部30には機能性膜31が形成されている。32はソース電極、33はドレイン電極、34は参照電極、35は試料をそれぞれ表す。
【0071】
実施例2のカリウムイオンのISFET特性評価の測定においては、ドレイン電極およびソース電極間の電圧VDSを5Vに固定し、ドレイン電流IDを100μAに固定して、標準液中のカリウムイオン濃度の変化による出力電位を測定した。
【0072】
妨害イオンが含まれていない標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定した結果、1x10−6Mから1x10−1Mのカリウムイオン濃度範囲において、直線状の検量線が得られ、感応スロープ値は58mV/decadeであった。また、妨害イオンとしてナトリウムイオン(0.15M)を含ませた標準液を用いて、カリウムイオンの検量線を測定し、混合法によりナトリウムイオンに対するカリウムイオンの選択係数を求めた結果、その選択係数(logKKNa)は−4であった。
【0073】
(実施例3)
実施例3では、高分子マトリックス層2として高分子ゲルを用いて、金のナノ粒子が水溶液に分散した機能性膜剤4を用いて、金のナノ粒子が分散した機能性膜を作製した。
【0074】
図1に示す基板1としては石英の基板を用いた。また、高分子マトリックス層2としては、30μmの膜厚を有する高分子ゲルであるメビオールジェル(登録商標)を用いた。テンプレート3としては、厚さが10μmのサーリン(登録商標)樹脂層と、厚さが100μmのポリエステル層とからなるテンプレートを用いた。サーリン(登録商標)樹脂は基板1側、すなわち石英基板側に設けられている。高分子マトリックス層2はテンプレートに囲まれており、高分子マトリックス層2の大きさは長さ4mm、幅2mmであった。なお、テンプレート3は接着性のサーリン(登録商標)樹脂によって、基板1側にしっかりと接着されている。機能性膜剤4としては平均粒径3nmの金ナノ粒子が分散されたクエン酸水溶液を用いた。
【0075】
成膜においては、自社製の自動インジェクション装置を用いて、室温(25℃)において、機能性膜剤4を高分子マトリックス層2であるメビオールジェル(登録商標)に注入した。機能性膜剤4の注入後、10℃以下に冷やしながら、メビオールジェル(登録商標)をゾル化させ、機能性膜剤4がテンプレート3から溢れないよう、基板1を作業台に叩きながら縦振動させ、機能性膜剤4をゾル状のメビオールジェル(登録商標)に拡散させた。次に加熱により再び、25℃以上に加熱することにより、メビオールジェル(登録商標)をゲル化させ、金のナノ粒子が分散した機能性膜を作製した。
【0076】
機能性膜は更に焼結により、メビオールジェル(登録商標)、及び機能性膜剤4に含まれるクエン酸などを除去することにより、金の薄膜を作製することができる。
【0077】
(実施例4)
実施例4では、高分子マトリックス層2として水溶性の高分子であるポリビニルアルコール(PVA)を用いて、金のナノ粒子が水溶液に分散した機能性膜剤4を用いて、金のナノ粒子が分散した機能性膜を作製した。
【0078】
図1に示す基板1としては石英の基板を用いた。また、高分子マトリックス層2としては、20μmの膜厚を有する水溶性の高分子材料である、ポリビニルアルコール(PVA)を用いた。テンプレート3としては、厚さが10μmのサーリン(登録商標)樹脂層と、厚さが95μmのポリエステル層とからなるテンプレートを用いた。サーリン(登録商標)樹脂は基板1側、すなわち石英基板側に設けられている。高分子マトリックス層2はテンプレート3に囲まれており、高分子マトリックス層2の大きさは長さ4mm、幅2mmであった。なお、テンプレート3は接着性のサーリン(登録商標)樹脂によって、基板1側にしっかりと接着されている。機能性膜剤4としては平均粒径3nmの金ナノ粒子が分散したクエン酸水溶液を用いた。
【0079】
成膜においては、自社製の自動インジェクション装置を用いて、室温(25℃)において、機能性膜剤4を高分子マトリックス層2であるメビオールジェル(登録商標)に注入した。機能性膜剤4の注入後、暫くすると、ポリビニルアルコールが溶解し始める。次に、機能性膜剤4がテンプレート3から溢れないよう、基板1を作業台に叩きながら縦振動させ、機能性膜剤4を、ポリビニルアルコール層に拡散させた。その後、加熱することにより、水分を蒸発させ、金のナノ粒子が分散される機能性膜7を作製した。
【0080】
なお、水分を蒸発させた後の機能性膜に再び金のナノ粒子を含む機能性膜剤4を加え、上記の方法を繰り返すことによって、高密度の金のナノ粒子を有する機能性膜7を作製することができる。
【0081】
また、機能性膜は更に焼結により、ポリビニルアルコール層などを除去することにより、金の薄膜(機能性膜9)を作製することができる。
【0082】
また、本実施形態に係る機能性膜の製造方法では、高分子薄膜の代わりに、ハニカムフィルム、高分子材料からなる不織布や高分子コートの金属細線からなる不織布を用いることもでき、このようにすれば、さまざまな形状を有する機能性膜の形成が可能となる。ハニカムフィルムを使用した場合、ハニカムフィルムの完全溶解もしくはハニカムフィルムの微小孔周辺部の部分溶解によって、ハニカムフィルムの微小孔に機能性薄膜を形成させることができる。不織布を使用した場合、高分子材料からなる不織布や高分子コートの金属細線からなる不織布を用いることができる。なお、不織布を用いて機能性膜を形成させる場合には、機能性膜に微細の空隙を残しても良い。
【0083】
従来技術を用いた機能性膜の製造方法では、その作製工程が煩雑な上、作製条件が穏和ではなく、また、作製できる機能性膜も様々の作製法に適した物質に限定されて、作製可能な機能性膜の種類が少ない。本実施形態に係る機能性膜の製造方法によれば、作製可能な機能性膜の種類が限定されることがなくなる。また、小型の使い捨てセンサや生体埋め込みタイプのセンサの需要に応じて、微小領域へ機能性膜の迅速に作製することができるようになる。
【0084】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態に係る機能性膜の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の応用例1に係る機能性膜の製造方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の応用例1に係る他の機能性膜の製造方法を用いて製造された多チャンネルの固体膜型イオンセンサの断面図である。
【図4】本発明の応用例1に係る別の機能性膜の製造方法を説明するための図である。
【図5】本発明の応用例2に係る機能性膜の製造方法を用いて製造される電界効果トランジスター型のセンサの基本構造を示す図である。
【図6】本発明の実施例2に係る機能性膜の製造方法に用いられる電界効果トランジスター型センサの測定用の回路の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1…基板、2,18…高分子マトリックス層、3,14,27…テンプレート、4…機能性膜剤、5…供給部、6…拡散部、7,9,29,31…機能性膜、8…固定化部、10…焼結部、11〜13…装置、15,20…リード線、16…銀/ハロゲン化銀層、17…電気的絶縁層、19…感応膜(機能性膜)、21…基板、22…ソース領域、23…ドレイン領域、24…チャンネル形成領域、25…第1のゲート絶縁膜、26…第2のゲート絶縁膜、30…ゲート電極部、32…ソース電極、33…ドレイン電極、34…参照電極、35…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された高分子マトリックス層に、機能性物質及び前記高分子マトリックス層を溶解または膨張させる溶媒を含む機能性膜剤を供給する第1工程と、
この機能性膜剤を前記高分子マトリックス層中に拡散することによってこの高分子マトリックス層に前記機能性物質を分散させる第2工程と、
この第2工程においてこの機能性物質が分散した高分子マトリックス層を固めて機能性膜を形成させる第3工程と、
を具備することを特徴とする機能性膜の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程は、前記機能性物質を含む前記高分子マトリックス層を濃縮、乾燥又はゲル化させることにより、この高分子マトリックス層を固めることを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項3】
前記機能性膜を焼成する第4工程をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程で供給される機能性膜剤は、金属のナノ粒子、金属の微粒子、半導体のナノ粒子、又は半導体の微粒子を含み、
前記第4工程は、この金属のナノ粒子、金属の微粒子、半導体のナノ粒子、又は半導体の微粒子を含む前記機能性膜剤を分散させた高分子マトリックス層を焼結することを特徴とする請求項3記載の機能性膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、前記高分子マトリックス層として、高分子の薄膜、高分子の繊維若しくは多孔性の薄膜、又は高分子ゲル薄膜が用いられており、この高分子マトリックス層が形成された基板を用いることを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程では、前記基板として、固体膜型センサの固体型電極、電界効果トランジスター型センサのゲート電極、又は水晶振動子の振動子型検出トランスデューサが用いられることを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程では、前記機能性膜剤として、前記高分子マトリックス層の成分を含まない、前記高分子マトリックス層を溶解または膨張させる液体を含むことを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程では、温度、振動、光、超音波または磁場のうちの何れか一つ以上の条件を利用して、前記機能性膜剤を前記高分子マトリックス層へ拡散させることを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程では、高分子マトリックス層の上にテンプレートを配置し、このテンプレートを介して前記機能性膜剤を塗布することを特徴とする請求項1記載の機能性膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103518(P2009−103518A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274113(P2007−274113)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】