欠損部の補修方法及び欠損部の補修システム
【課題】複雑な形状の部品であっても適切に補修することができるとともに、補修作業の低コスト化を図ることが可能な欠損部の補修方法及び、この欠損部の補修方法に適した欠損部の補修システムを提供する。
【解決手段】部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程S1、S2と、前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程S4、S5と、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程S6、S7と、この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程S8と、を備えていることを特徴とする。
【解決手段】部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程S1、S2と、前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程S4、S5と、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程S6、S7と、この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程S8と、を備えていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法及び補修システムであって、特に、複雑な形状をなす部品の補修に適した欠損部の補修方法及び補修システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジェットエンジン部品等の高温・高圧条件下で使用される部品においては、部品の一部が焼損して欠損部が生じることがある。このように欠損部が生じた場合には、部品を交換する必要があるが、部品の一部分に欠損部が生じたために部品全体を交換すると、メンテナンス費用が大幅に増大してしまうことになる。また、高温・高圧条件下で使用される部品は、使用によって変形しやすいため、新規の部品と交換すると隣接する他の部品との接合する際に精度良く位置合わせができないことがあった。
【0003】
そこで、欠損部が生じた部分を補修することによって、現状の部品を継続して使用することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、欠損部を含む部品の一部を切り出すとともに、この切り出した部分に対応する補修部材を製作し、この補修部材を切り出した部分に溶接等によって接合して補修する方法が開示されている。
【特許文献1】特表2006−524579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のジェットエンジン部品としては、複雑な形状を有するものが多数存在する。例えば、燃焼器のライナセグメントでは、その背面に多数の冷却用ピンが立設された形状とされている。また、タービンのシュラウド部におけるシール部材としてハニカム構造体が使用されている。このような複雑形状をなす部品においては、特許文献1に記載されたように、補修部材を溶接によって接合して補修することは困難であった。特に、ハニカム構造体では、その肉厚が薄いために補修部材を溶接によって接合することは非常に困難であって、事実上、補修ができず、新規部品に交換せざるを得なかった。
【0006】
また、特許文献1に記載された方法では、欠損部を含む部品の一部を切り出して補修部品に交換しているので、部品の形状によっては必要以上に大きな部分を補修することになり、補修に掛かるコストが上昇してしまうといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、複雑な形状の部品であっても適切に補修することができるとともに、補修作業の低コスト化を図ることが可能な欠損部の補修方法及び、この欠損部の補修方法に適した欠損部の補修システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明に係る欠損部の補修方法は、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程と、前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程と、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程と、この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成の欠損部の補修方法によれば、部品の基準3次元モデルと、補修対象となる部品の対象3次元モデルとを比較することによって、欠損部の形状が差分モデルとして正確に把握され、この差分モデルに基づいて肉盛加工が行われるので、欠損部を元の形状に補修することが可能となる。さらに、欠損部のみを補修することになるので、補修に掛かるコストを大幅に削減することができる。
【0010】
ここで、前記肉盛加工工程では、原料粉末を前記欠損部に供給するとともに、供給された原料粉末にレーザ光を照射して溶融することによって欠損部の形状を復元する構成とすることが好ましい。
この場合、肉盛加工が原料粉末の供給とレーザ光の照射によって行われるので、複雑な形状の部品であっても肉盛加工によって欠損部を元の形状に復元することができる。よって、従来、補修が困難であったハニカム構造体であっても欠損部を補修して使用することが可能となる。
【0011】
また、前記肉盛加工工程では、補修対象となる前記部品に対する原料粉末の供給位置が、前記差分モデルに基く数値制御によって制御される構成を採用することが好ましい。
この場合、差分モデルに基く数値制御によって補修される部品の位置が制御されるので、欠損部の元の形状を肉盛加工によって正確に復元することができる。
【0012】
さらに、前記差分モデル作成工程では、差分をとる前に、対象3次元モデルのうち前記欠損部が生じていない部分における特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの複数の点とを一致させ、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整する構成とすることが好ましい。
この場合、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの比較する際の位置精度が向上することになり、欠損部の形状を差分モデルとしてさらに正確に把握することができ、補修後の部品の寸法精度を大幅に向上させることができる。
【0013】
また、基準3次元モデル作成工程では、前記部品の設計データ又は前記部品の使用前における形状の測定データのいずれかに基づいて前記基準3次元モデルを作成する構成を採用することが好ましい。
この場合、基準3次元モデルが設計データ若しくは前記部品の使用前における形状の測定データに基づいて作成されるので、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの差分をとって作成された差分モデルが欠損部の形状と正確に一致することになる。
【0014】
本発明に係る欠損部の補修システムは、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修システムであって、前記部品の使用前における形状の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル装置と、補修対象となる前記部品の形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置と、前記基準3次元モデル及び前記3次元モデルを記憶する記憶装置と、前記記憶装置から読み込んだ前記基準3次元モデルと前記3次元モデルとを比較して差分モデルを作成する差分モデル作成装置と、原料粉末の供給部とレーザ照射部と部品支持部とを有し、前記差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成の欠損部の補修システムによれば、前述の欠損部の補修方法を適切に行うことができ、複雑な形状の部品の補修を寸法精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、複雑な形状の部品であっても適切に補修することができるとともに、補修作業の低コスト化を図ることが可能な欠損部の補修方法及び、この欠損部の補修方法に適した欠損部の補修システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態は、ジェットエンジン部品である燃焼器のライナセグメントに生じた欠損部の補修を行う欠損部の補修方法及び欠損部の補修システムに関するものである。
【0019】
まず、本実施形態において補修対象となるライナセグメント10について説明する。
ライナセグメント10は、例えば、Ni基耐熱合金からなり、図1に示すように、概略板状をなす本体部11と、この本体部11の一面に立設された複数の冷却用ピン12とを備えている。
【0020】
このライナセグメント10は、高温・高圧条件下で使用されるものであるので、その一部が焼損することがある。これにより、ライナセグメント10には、図2に示すように、欠損部15が生じることになる。欠損部15は、本体部11の一部と幾つかの冷却用ピン12とを含んでおり、複雑な形状をなしている。
【0021】
次に、本実施形態である欠損部15の補修システムについて図3を参照して説明する。
この欠損部15の補修システム20は、部品の3次元形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置21と、作成された3次元モデルを記憶する記憶装置22と、2つの3次元モデルを比較してその差分をとり、差分モデルを作成する差分モデル作成装置23と、作成された差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置24と、を備えている。
【0022】
3次元モデル作成装置21は、レーザ計測又は光学計測によって部品の表面の3次元点群データを得る3次元形状測定部21Aと、得られた3次元点群データから3次元モデルを構築するモデル作成部21Bと、を備えている。
【0023】
この3次元モデル作成装置21は、記憶装置22及び差分モデル作成装置23に接続されており、作成された3次元モデルが記憶装置22又は差分モデル作成装置23へと転送されるように構成されている。
【0024】
差分モデル作成装置23は、記録装置22及び3次元モデル作成装置21から転送された2つの3次元モデルを比較し、その差分を3次元モデルとして作成するものである。なお、本実施形態では、3次元モデル作成装置21及び記憶装置22に接続された情報端末装置によって差分モデルを作成することになる。
【0025】
肉盛加工装置24は、補修対象となる部品(本実施形態では、ライナセグメント10)を保持する部品保持部24Aと、保持された部品に対して原料粉末を供給する供給ノズル24Bと、部品の表面に供給された原料粉末にレーザ光を照射するレーザ照射部24Cと、部品保持部24Aの動作を制御する制御部24Dと、を備えている。ここで、本実施形態では、部品保持部24Aは、直交する3軸方向に移動可能であるとともに直交する3軸を回転中心として回動可能な構成とされている。なお、この部品保持部24Aの動作は、前述の差分モデルに基づいて数値制御される。
【0026】
次に、この欠損部15の補修システム20を用いた欠損部15の補修方法について図4のフロー図を参照して説明する。
【0027】
まず、3次元モデル作成装置21の3次元形状測定部21Aによって、使用前の部品、つまり、図1に示すライナセグメント10の3次元形状を測定し(基準3次元形状測定工程S1)、モデル作成部21Bにおいて、得られた3次元点群データから3次元モデルを構築するための形状パラメータを算出する(演算処理工程S2)。このとき、ライナセグメント10の特徴的な複数の点を認識し、これら複数の点の相互距離の平均値等を3次元モデル作成のための形状パラメータとして算出することになる。算出された形状パラメータは記憶装置22に伝送され、記憶装置22内においてデータベース化される。その後、記憶装置22に保持された形状パラメータに基づいて3次元モデルが作成され、この3次元モデルが基準3次元モデルとされる(基準3次元モデル作成工程S3)。作成された基準3次元モデルは、記憶装置22に伝送されて記憶装置22に記憶される。
【0028】
ここで、上記の基準3次元モデルの作成工程について、図面を参照してさらに詳細に説明する。図5から図7は、基準3次元モデル作成工程S2の説明図である。図8(a)は、本工程で作成される基準3次元モデルM1を示す図である。
以下では、3次元モデル作成の原理について説明するために、ライナセグメント10を、図8(a)に示す湾曲した柱状体に簡略化して示し、さらに説明の簡単のために、図5及び図7に示すように、測定された部品形状を2次元形状として説明する。
【0029】
まず、基準3次元形状測定工程S1において、3次元形状測定部21Aによって、例えば図5(a)に示すような概略扇形の部品形状が測定される。図5では、測定された部品形状が2次元形状であるとしているが、実際の基準3次元形状測定工程S1では、例えば図8(a)に示すような湾曲した柱状の部品の3次元形状が測定される。
【0030】
次に、演算処理工程S2では、モデル作成部21Bにおいて、図5(a)に示すように、3次元点群データにおける特定位置が特徴点A〜Dとして設定される。図5(a)では、外形の角部が特徴点として設定されている。特徴点の設定方法は、3次元点群により構成された部品形状における特徴的な点(角部、辺端部の変曲点、凸部、凹部、モデルの中心点など)をコンピュータによる演算処理によって自動抽出することができる。あるいは、モデル作成部21Bに接続されたモニタに、測定した3次元点群を表示させ、表示された図形に対してユーザーに特徴点を設定させてもよい。
【0031】
特徴点A〜Dが設定されたならば、モデル作成部21Bにおいて、測定された部品形状を特徴づける形状パラメータが算出される。本例の場合、特徴点A〜Dは空間に配置された4点であるから、図5(b)に示すように、各特徴点A〜D間の距離Ln(n=1〜6)と、湾曲した2辺(線分AB及び線分CD)の曲率Rn(n=1,2)を、形状パラメータとして算出する。これにより、測定した部品についての3次元モデル化のための形状パラメータが得られる。
【0032】
以上の3次元形状の測定と、測定結果に基づく形状パラメータの算出を、複数の部品(ライナセグメント10)について実施する。すなわち、複数の部品について、基準3次元形状測定工程S1と基準3次元モデル作成工程S2とを繰り返し実行する。これにより、複数の部品についての形状パラメータ(特徴点間の距離Ln、曲率Rn)を取得する。取得された形状パラメータは、モデル作成部21Bから参照可能な状態で記憶装置22に記憶される。
【0033】
取得された複数の形状パラメータは、例えば図6に示す分布図として表すことができる。上記では同種の部品の3次元形状を測定しているため、形状パラメータの分布図は、部品間の寸法バラツキが反映されたものとなる。この形状パラメータの分布から、特徴点間の距離Ln及び曲率Rnについての平均値Lnb(n=1〜6)、Rnb(n=1,2)、及びこれらの分布における標準偏差(σ)を算出することができる。
算出された平均値Lnb、Rnbにより、複数の部品における平均の形状パラメータが得られる。また、標準偏差σからは、測定した部品が安定した工程で製造されたものであるとしたときの公差を推定することができる。
【0034】
その後、基準3次元モデル作成工程S3では、モデル作成部21Bにおいて、図7(a)に示すように、演算処理工程S2で得られた特徴点間の距離の平均値L1b〜L6b、及び2辺の曲率の平均値R1b、R2bを形状パラメータとして有する3次元モデルが構築される。これにより、図7(b)に示すように、複数の部品に平均的な形状を有する3次元モデル(基準3次元モデル)が作成される。
【0035】
なお、図7(b)に示すモデルは略扇形の2次元形状であるが、実際に構築される基準3次元モデルは、図8(a)に示す湾曲した柱状の部品(すなわち図1に示したライナセグメント10)の3次元モデルである。実際の3次元モデル作成に際しては、3次元形状測定工程S1において測定された3次元点群について、さらに多くの特徴点を設定することとなる。そして、これらの特徴点から導出される形状パラメータLn、Rnの平均値Lnb、Rnbを算出し、これらの平均値を用いて基準3次元モデルを作成する。
【0036】
以上により作成された基準3次元モデルは記憶装置22に伝送され、差分モデル作成装置23から参照可能な状態で記憶される。
なお、上記では実際の部品(ライナセグメント10)を3次元形状測定部21Aにより測定して基準3次元モデルを構築する場合について説明したが、ライナセグメント10の設計データが存在する場合には、この設計データを用いて基準3次元モデルを作成すればよい。
【0037】
以上の工程S1〜S3により基準3次元モデルが作成されたならば、次に、補修対象となるライナセグメント10の3次元モデルを構築する工程に移行する。
【0038】
図1に示した健全なライナセグメント10を実際に使用すると、図2に示すように、焼損による欠損部15が生じることになる。この欠損部15が生じた補修対象となるライナセグメント10の3次元形状を3次元モデル作成装置21の3次元形状測定部21Aによって測定し(部品形状測定工程S4)、モデル作成部21Bにおいて、得られた3次元点群データから対象3次元モデルを作成する(対象3次元モデル測定工程S5)。作成された対象3次元モデルは記憶装置22に伝送され、差分モデル作成装置23から参照可能な状態で記憶装置22に記憶される。
【0039】
そして、差分モデル作成装置23において、記憶装置22から基準3次元モデルを読み込むとともに、3次元モデル作成装置21によって作成された対象3次元モデルを読み込み、これら基準3次元モデルと対象3次元モデルとを比較する(比較工程S6)。ここで、対象3次元モデルにおける特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの点とを一致させ、対象3次元モデルと基準3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整した上で、差分をとって差分モデルが作成される(差分モデル作成工程S7)。この差分モデルは、図2において点線で示す欠損部15の形状に相当するものである。
【0040】
ここで、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7について、図8及び図9を参照してさらに詳細に説明する。
図8(a)は、基準3次元モデル作成工程S3で作成された基準3次元モデルM1を示す図であり、図8(b)は、対象3次元モデル作成工程S5で作成された対象3次元モデルM2を示す図である。図9は、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7における差分モデルの作成手順を示す図である。
なお、図8、9では、差分モデル作成の原理について説明するために、対象部品であるライナセグメント10を湾曲した柱状体に簡略化して表示している。
【0041】
比較工程S6において、差分モデル作成装置23に読み込まれた3次元モデルM1、M2には、それぞれ特徴点が設定されている。上述した工程S1〜S3により作成された基準3次元モデルM1には、図8(a)に示すように、特徴点A〜Dが設定されている。また、工程S4、S5により作成された対象3次元モデルM2には、図8(b)に示すように、特徴点A’〜D’が設定されている。特徴点A〜Dと特徴点A’〜D’は、各々対応する特徴点であり、本実施形態の場合には、湾曲した柱状の部品の上面における角部に設定されている。また、図8(b)に示すように、対象3次元モデルM2には、図2に示した欠損部15に対応するモデル上の欠損部15Aが含まれている。
【0042】
なお、本実施形態では説明の簡単のために4つの特徴点A〜Dと、それらに対応する4つの特徴点A’〜D’とを設定しているが、実際の3次元モデルの比較においては、さらに多くの特徴点が設定される。図8に示す形状の場合では、図示上面の角部に設定された特徴点A〜Dに加えて、例えば図示下面の4つの角部にもそれぞれ特徴点が設定される。また、図1に示した冷却用ピン12等が存在する場合には、それらの先端部等にも特徴点を設定することができる。
【0043】
図8に示す基準3次元モデルM1及び対象3次元モデルM2を読み込んだならば、差分モデル作成装置23は、両者を比較するために、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせを実行する。
具体的には、図9(a)に示すように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とを重ね合わせ、基準3次元モデルM1に設定された特徴点A〜Dに対して、対象3次元モデルM2に設定された特徴点A’〜D’とを可能な限り一致させるように位置合わせを行う。
【0044】
すなわち、特徴点Aとそれに対応する特徴点A’との距離(偏差)、及び他の特徴点B〜Dとそれらに対応する特徴点B’〜D’との距離(偏差)が最小となるように、基準3次元モデルM1又は対象3次元モデルM2を移動させる。位置合わせに際しては、XYZ直交座標系のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向における平行移動や、X軸周り、Y軸周り、Z軸周りの回転移動により上記の偏差を最小にする。
【0045】
上記の位置合わせを実行することで、図9(b)に示すように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とがほぼ重ね合わされた状態とすることができる。
その後、差分モデル作成工程S7において、差分モデル作成装置23により基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分の演算が実行される。これにより、対象3次元モデルM2における欠損部15Aを含む差分モデルを作成することができる。
【0046】
ところで、基準3次元モデルM1は、先に記載のように、複数の同一部品の平均的形状をモデル化したものであるため、補修対象となる個々の部品の対象3次元モデルM2と完全一致することはない。そのため、単純に基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分をとって差分モデルを作成すると、図9(b)に示すように、欠損部15Aの部分だけではなく、他の部分を含んだ差分モデルが作成される。これは、対象3次元モデルM2の正常部分であっても、製造ばらつきなどに起因して、部品の平均的形状を表す基準3次元モデルM1とは異なる形状となるためである。
【0047】
そして、このような差分モデルに基づいて肉盛加工を行うと、補修が不要な部分にまで肉盛することとなり、材料や加工時間に無駄が生じるおそれがある。そこで、後段の肉盛加工工程S8において、欠損部15にのみ肉盛加工を行えるように、欠損部15Aのみ、あるいは欠損部15Aとその近傍の部位のみからなる差分モデルを作成することが好ましい。そこで、欠損部15A周辺の部位のみからなる差分モデルを作成する方法について、図10を参照しつつ以下に説明する。
【0048】
図10(a)は、対象3次元モデルM2の欠損部15A周辺の部位を拡大して示す図であり、図10(b)は、図10(a)に対応する位置の基準3次元モデルM1を拡大して示す図である。図10(c)は、差分モデルを示す図である。図10では、基準3次元モデルM1及び対象3次元モデルM2の図示上面に、ライナセグメント10に形成された複数の冷却用ピン12に対応するモデル上の冷却用ピン12Aを、省略せずに表示している。
【0049】
欠損部15A周辺の部位のみからなる差分モデルを作成する場合、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2の全体から差分モデルを作成する場合と異なり、欠損部15Aの周辺部位における基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせの正確性が重要となる。補修対象のライナセグメント10が局所的に補修されるため、位置合わせが正確でない場合、補修部位の形状と全体形状との整合性が失われるおそれがあるからである。
【0050】
そこで、欠損部15A周辺の部位のみから差分モデルを作成する場合、図9(b)に示した位置合わせの後に、さらに局所的な位置合わせを実行することが好ましい。
具体的には、まず、図9(b)に示した位置合わせにより欠損部15Aの位置を特定する。欠損部15Aの位置は、ソフトウェアによる自動検出を行う場合には、例えば、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分の体積が所定値以上である部位や、基準3次元モデルM1の縁端における曲率に対して不整合となる部位(形状の不整合部位)として特定することができる。一方、ユーザーに欠損部15Aの位置を指示させる場合には、例えば、図9(b)に示したような基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とを重ね合わせた図形を差分モデル作成装置23に接続されたモニタに表示させ、表示された図形に対してユーザーが欠損部15Aを設定できるようにする。
【0051】
対象3次元モデルM2における欠損部15Aの位置が特定されたならば、次に、図10(a)に示すように、対象3次元モデルM2において、欠損部15Aの近傍に存在する特徴的な形状の部位に、位置合わせ用の特徴点を設定する。本実施形態のライナセグメント10では、表面に多数の冷却用ピン12が存在するので、例えば、図10(a)に示すように、対象3次元モデルM2において欠損部15Aに隣接して配置された冷却用ピン12Aの上面に、特徴点a’〜f’を設定する。
【0052】
対象3次元モデルM2に特徴点a’〜f’を設定したならば、次に、図10(b)に示すように、基準3次元モデルM1に特徴点a〜fを設定する。具体的には、対象3次元モデルM2において特徴点a’〜f’を設定された冷却用ピン12Aに対応する基準3次元モデルM1上の冷却用ピン12Aに特徴点a〜fを設定する。
【0053】
以上により特徴点a〜f及び特徴点a’〜f’が設定されたならば、図9を参照して先に説明した比較工程S6と同様に、特徴点aと特徴点a’との距離(偏差)、及び他の特徴点b〜fとそれらに対応する特徴点b’〜f’との距離(偏差)が最小となるように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせを実行する。これにより、図9(b)に示したモデル全体での位置合わせ結果よりも高精度に欠損部15A周辺が位置合わせされる。
【0054】
そして、上記の位置合わせ後に、欠損部15A周辺における基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分を演算することで、図10(c)に示す欠損部15の差分モデル15Bを得ることができる。
なお、差分モデル15Bの作成に際して、差分モデル15Bの形状補正を行ってもよい。例えば、図10に示した位置合わせ動作において、作成される差分モデル15Bと基準3次元モデルM2との境界における両者の厚さが異なっている場合には、差分モデル15Bの厚さを補正することが好ましい。これにより、肉盛加工により補修された部位と、補修対象のライナセグメント10とが滑らかに接続された形状を得ることができ、さらに高品質の補修が可能になる。
【0055】
以上により差分モデル15Bが作成されたならば、肉盛加工工程S8に移行する。
肉盛加工工程S8では、まず、肉盛加工装置24の部品保持部24Aに補修対象となるライナセグメント10を保持させる。そして、ライナセグメント10の欠損部15に、原料粉末を供給ノズル24Bから供給し、レーザ照射部24Cからレーザを原料粉末に照射して原料粉末を溶融することによってライナセグメント10に肉盛加工が施される。
ここで、部品保持部24Aの動作は制御部24Dによって差分モデルに基づいて数値制御されており、欠損部15の形状を復元するように肉盛加工が行われることになる。このようにして、欠損部15が生じたライナセグメント10が使用前の形状へと補修される。
【0056】
以上のような構成とされた本実施形態である欠損部15の補修方法及び欠損部15の補修システム20によれば、ライナセグメント10の使用前の3次元形状を測定して得られた3次元点群データから基準3次元モデルが作成されるとともに、欠損部15を生じた補修対象となるライナセグメント10の3次元形状が測定されて対象3次元モデルが作成され、これら基準3次元モデルと対象3次元モデルを比較して差分をとっているので、欠損部15の形状を差分モデルとして正確に把握することができる。そして、この差分モデルに基づいて肉盛加工が行われるので、欠損部15を元の形状に補修することが可能となる。
【0057】
したがって、ライナセグメント10に生じた欠損部15のみを補修することによって、ライナセグメント10を使用前の形状に復元することが可能となり、補修に掛かるコストを大幅に削減することができる。
【0058】
また、肉盛加工工程S8(肉盛加工装置24)では、供給ノズル24Bによる原料粉末の供給とレーザ照射部24Cによるレーザ光とによって肉盛加工が行われるので、複雑な形状の部品であっても肉盛加工によって欠損部15を元の形状に復元することができる。さらに、補修されるライナセグメント10を保持する部品保持部24Aの位置が、差分モデルに基く数値制御によって制御される構成とされているので、欠損部15の元の形状を肉盛加工によって正確に復元することができる。
【0059】
また、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7(差分モデル作成装置23)においては、対象3次元モデルにおける特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの点との距離が最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整した上で、差分をとって差分モデルを作成しているので、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの比較する際の位置精度が向上することになり、欠損部15の形状を差分モデルとしてさらに正確に把握することができ、補修後の部品の寸法精度を大幅に向上させることができる。
【0060】
さらに、基準3次元モデル作成工程S2によって、使用前のライナセグメント10の3次元形状が測定されて基準3次元モデルが作成され、この基準3次元モデルが記憶装置22によって記憶されるとともにデータベース化されているので、当該ライナセグメント10を使用したことによって欠損部15が生じた場合にも基準3次元モデルに基づいて補修することで、使用前の形状に正確に復元することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態である欠損部の補修方法及び欠損部の補修システムについて説明したが、本発明の技術的範囲はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
本実施形態では、ジェットエンジン部品である燃焼器のライナセグメントを補修対象部品として説明したが、これに限定されることはなく、例えば図11に示すように、ハニカム構造体30に生じた欠損部を補修するものであってもよい。さらには、その他の形状の部品を補修するものであってもよい。
【0063】
また、3次元モデル作成装置、差分モデル作成装置、肉盛加工装置は、図3に示す構成のものに限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態における補修対象部品であるライナセグメントの概略斜視図である。
【図2】欠損部が生じたライナセグメントの概略斜視図である。
【図3】本実施形態である欠損部の補修システムの概略説明図である。
【図4】本実施形態である欠損部の補修方法のフロー図である。
【図5】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図6】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図7】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図8】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図9】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図10】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図11】他の補修対象部品としてのハニカム構造体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
10 ライナセグメント(部品)
15 欠損部
20 欠損部の補修システム
21 3次元モデル作成装置
22 記憶装置
23 差分モデル作成装置
24 肉盛加工装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法及び補修システムであって、特に、複雑な形状をなす部品の補修に適した欠損部の補修方法及び補修システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジェットエンジン部品等の高温・高圧条件下で使用される部品においては、部品の一部が焼損して欠損部が生じることがある。このように欠損部が生じた場合には、部品を交換する必要があるが、部品の一部分に欠損部が生じたために部品全体を交換すると、メンテナンス費用が大幅に増大してしまうことになる。また、高温・高圧条件下で使用される部品は、使用によって変形しやすいため、新規の部品と交換すると隣接する他の部品との接合する際に精度良く位置合わせができないことがあった。
【0003】
そこで、欠損部が生じた部分を補修することによって、現状の部品を継続して使用することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、欠損部を含む部品の一部を切り出すとともに、この切り出した部分に対応する補修部材を製作し、この補修部材を切り出した部分に溶接等によって接合して補修する方法が開示されている。
【特許文献1】特表2006−524579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のジェットエンジン部品としては、複雑な形状を有するものが多数存在する。例えば、燃焼器のライナセグメントでは、その背面に多数の冷却用ピンが立設された形状とされている。また、タービンのシュラウド部におけるシール部材としてハニカム構造体が使用されている。このような複雑形状をなす部品においては、特許文献1に記載されたように、補修部材を溶接によって接合して補修することは困難であった。特に、ハニカム構造体では、その肉厚が薄いために補修部材を溶接によって接合することは非常に困難であって、事実上、補修ができず、新規部品に交換せざるを得なかった。
【0006】
また、特許文献1に記載された方法では、欠損部を含む部品の一部を切り出して補修部品に交換しているので、部品の形状によっては必要以上に大きな部分を補修することになり、補修に掛かるコストが上昇してしまうといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、複雑な形状の部品であっても適切に補修することができるとともに、補修作業の低コスト化を図ることが可能な欠損部の補修方法及び、この欠損部の補修方法に適した欠損部の補修システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明に係る欠損部の補修方法は、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程と、前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程と、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程と、この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成の欠損部の補修方法によれば、部品の基準3次元モデルと、補修対象となる部品の対象3次元モデルとを比較することによって、欠損部の形状が差分モデルとして正確に把握され、この差分モデルに基づいて肉盛加工が行われるので、欠損部を元の形状に補修することが可能となる。さらに、欠損部のみを補修することになるので、補修に掛かるコストを大幅に削減することができる。
【0010】
ここで、前記肉盛加工工程では、原料粉末を前記欠損部に供給するとともに、供給された原料粉末にレーザ光を照射して溶融することによって欠損部の形状を復元する構成とすることが好ましい。
この場合、肉盛加工が原料粉末の供給とレーザ光の照射によって行われるので、複雑な形状の部品であっても肉盛加工によって欠損部を元の形状に復元することができる。よって、従来、補修が困難であったハニカム構造体であっても欠損部を補修して使用することが可能となる。
【0011】
また、前記肉盛加工工程では、補修対象となる前記部品に対する原料粉末の供給位置が、前記差分モデルに基く数値制御によって制御される構成を採用することが好ましい。
この場合、差分モデルに基く数値制御によって補修される部品の位置が制御されるので、欠損部の元の形状を肉盛加工によって正確に復元することができる。
【0012】
さらに、前記差分モデル作成工程では、差分をとる前に、対象3次元モデルのうち前記欠損部が生じていない部分における特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの複数の点とを一致させ、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整する構成とすることが好ましい。
この場合、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの比較する際の位置精度が向上することになり、欠損部の形状を差分モデルとしてさらに正確に把握することができ、補修後の部品の寸法精度を大幅に向上させることができる。
【0013】
また、基準3次元モデル作成工程では、前記部品の設計データ又は前記部品の使用前における形状の測定データのいずれかに基づいて前記基準3次元モデルを作成する構成を採用することが好ましい。
この場合、基準3次元モデルが設計データ若しくは前記部品の使用前における形状の測定データに基づいて作成されるので、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの差分をとって作成された差分モデルが欠損部の形状と正確に一致することになる。
【0014】
本発明に係る欠損部の補修システムは、部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修システムであって、前記部品の使用前における形状の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル装置と、補修対象となる前記部品の形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置と、前記基準3次元モデル及び前記3次元モデルを記憶する記憶装置と、前記記憶装置から読み込んだ前記基準3次元モデルと前記3次元モデルとを比較して差分モデルを作成する差分モデル作成装置と、原料粉末の供給部とレーザ照射部と部品支持部とを有し、前記差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成の欠損部の補修システムによれば、前述の欠損部の補修方法を適切に行うことができ、複雑な形状の部品の補修を寸法精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、複雑な形状の部品であっても適切に補修することができるとともに、補修作業の低コスト化を図ることが可能な欠損部の補修方法及び、この欠損部の補修方法に適した欠損部の補修システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態は、ジェットエンジン部品である燃焼器のライナセグメントに生じた欠損部の補修を行う欠損部の補修方法及び欠損部の補修システムに関するものである。
【0019】
まず、本実施形態において補修対象となるライナセグメント10について説明する。
ライナセグメント10は、例えば、Ni基耐熱合金からなり、図1に示すように、概略板状をなす本体部11と、この本体部11の一面に立設された複数の冷却用ピン12とを備えている。
【0020】
このライナセグメント10は、高温・高圧条件下で使用されるものであるので、その一部が焼損することがある。これにより、ライナセグメント10には、図2に示すように、欠損部15が生じることになる。欠損部15は、本体部11の一部と幾つかの冷却用ピン12とを含んでおり、複雑な形状をなしている。
【0021】
次に、本実施形態である欠損部15の補修システムについて図3を参照して説明する。
この欠損部15の補修システム20は、部品の3次元形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置21と、作成された3次元モデルを記憶する記憶装置22と、2つの3次元モデルを比較してその差分をとり、差分モデルを作成する差分モデル作成装置23と、作成された差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置24と、を備えている。
【0022】
3次元モデル作成装置21は、レーザ計測又は光学計測によって部品の表面の3次元点群データを得る3次元形状測定部21Aと、得られた3次元点群データから3次元モデルを構築するモデル作成部21Bと、を備えている。
【0023】
この3次元モデル作成装置21は、記憶装置22及び差分モデル作成装置23に接続されており、作成された3次元モデルが記憶装置22又は差分モデル作成装置23へと転送されるように構成されている。
【0024】
差分モデル作成装置23は、記録装置22及び3次元モデル作成装置21から転送された2つの3次元モデルを比較し、その差分を3次元モデルとして作成するものである。なお、本実施形態では、3次元モデル作成装置21及び記憶装置22に接続された情報端末装置によって差分モデルを作成することになる。
【0025】
肉盛加工装置24は、補修対象となる部品(本実施形態では、ライナセグメント10)を保持する部品保持部24Aと、保持された部品に対して原料粉末を供給する供給ノズル24Bと、部品の表面に供給された原料粉末にレーザ光を照射するレーザ照射部24Cと、部品保持部24Aの動作を制御する制御部24Dと、を備えている。ここで、本実施形態では、部品保持部24Aは、直交する3軸方向に移動可能であるとともに直交する3軸を回転中心として回動可能な構成とされている。なお、この部品保持部24Aの動作は、前述の差分モデルに基づいて数値制御される。
【0026】
次に、この欠損部15の補修システム20を用いた欠損部15の補修方法について図4のフロー図を参照して説明する。
【0027】
まず、3次元モデル作成装置21の3次元形状測定部21Aによって、使用前の部品、つまり、図1に示すライナセグメント10の3次元形状を測定し(基準3次元形状測定工程S1)、モデル作成部21Bにおいて、得られた3次元点群データから3次元モデルを構築するための形状パラメータを算出する(演算処理工程S2)。このとき、ライナセグメント10の特徴的な複数の点を認識し、これら複数の点の相互距離の平均値等を3次元モデル作成のための形状パラメータとして算出することになる。算出された形状パラメータは記憶装置22に伝送され、記憶装置22内においてデータベース化される。その後、記憶装置22に保持された形状パラメータに基づいて3次元モデルが作成され、この3次元モデルが基準3次元モデルとされる(基準3次元モデル作成工程S3)。作成された基準3次元モデルは、記憶装置22に伝送されて記憶装置22に記憶される。
【0028】
ここで、上記の基準3次元モデルの作成工程について、図面を参照してさらに詳細に説明する。図5から図7は、基準3次元モデル作成工程S2の説明図である。図8(a)は、本工程で作成される基準3次元モデルM1を示す図である。
以下では、3次元モデル作成の原理について説明するために、ライナセグメント10を、図8(a)に示す湾曲した柱状体に簡略化して示し、さらに説明の簡単のために、図5及び図7に示すように、測定された部品形状を2次元形状として説明する。
【0029】
まず、基準3次元形状測定工程S1において、3次元形状測定部21Aによって、例えば図5(a)に示すような概略扇形の部品形状が測定される。図5では、測定された部品形状が2次元形状であるとしているが、実際の基準3次元形状測定工程S1では、例えば図8(a)に示すような湾曲した柱状の部品の3次元形状が測定される。
【0030】
次に、演算処理工程S2では、モデル作成部21Bにおいて、図5(a)に示すように、3次元点群データにおける特定位置が特徴点A〜Dとして設定される。図5(a)では、外形の角部が特徴点として設定されている。特徴点の設定方法は、3次元点群により構成された部品形状における特徴的な点(角部、辺端部の変曲点、凸部、凹部、モデルの中心点など)をコンピュータによる演算処理によって自動抽出することができる。あるいは、モデル作成部21Bに接続されたモニタに、測定した3次元点群を表示させ、表示された図形に対してユーザーに特徴点を設定させてもよい。
【0031】
特徴点A〜Dが設定されたならば、モデル作成部21Bにおいて、測定された部品形状を特徴づける形状パラメータが算出される。本例の場合、特徴点A〜Dは空間に配置された4点であるから、図5(b)に示すように、各特徴点A〜D間の距離Ln(n=1〜6)と、湾曲した2辺(線分AB及び線分CD)の曲率Rn(n=1,2)を、形状パラメータとして算出する。これにより、測定した部品についての3次元モデル化のための形状パラメータが得られる。
【0032】
以上の3次元形状の測定と、測定結果に基づく形状パラメータの算出を、複数の部品(ライナセグメント10)について実施する。すなわち、複数の部品について、基準3次元形状測定工程S1と基準3次元モデル作成工程S2とを繰り返し実行する。これにより、複数の部品についての形状パラメータ(特徴点間の距離Ln、曲率Rn)を取得する。取得された形状パラメータは、モデル作成部21Bから参照可能な状態で記憶装置22に記憶される。
【0033】
取得された複数の形状パラメータは、例えば図6に示す分布図として表すことができる。上記では同種の部品の3次元形状を測定しているため、形状パラメータの分布図は、部品間の寸法バラツキが反映されたものとなる。この形状パラメータの分布から、特徴点間の距離Ln及び曲率Rnについての平均値Lnb(n=1〜6)、Rnb(n=1,2)、及びこれらの分布における標準偏差(σ)を算出することができる。
算出された平均値Lnb、Rnbにより、複数の部品における平均の形状パラメータが得られる。また、標準偏差σからは、測定した部品が安定した工程で製造されたものであるとしたときの公差を推定することができる。
【0034】
その後、基準3次元モデル作成工程S3では、モデル作成部21Bにおいて、図7(a)に示すように、演算処理工程S2で得られた特徴点間の距離の平均値L1b〜L6b、及び2辺の曲率の平均値R1b、R2bを形状パラメータとして有する3次元モデルが構築される。これにより、図7(b)に示すように、複数の部品に平均的な形状を有する3次元モデル(基準3次元モデル)が作成される。
【0035】
なお、図7(b)に示すモデルは略扇形の2次元形状であるが、実際に構築される基準3次元モデルは、図8(a)に示す湾曲した柱状の部品(すなわち図1に示したライナセグメント10)の3次元モデルである。実際の3次元モデル作成に際しては、3次元形状測定工程S1において測定された3次元点群について、さらに多くの特徴点を設定することとなる。そして、これらの特徴点から導出される形状パラメータLn、Rnの平均値Lnb、Rnbを算出し、これらの平均値を用いて基準3次元モデルを作成する。
【0036】
以上により作成された基準3次元モデルは記憶装置22に伝送され、差分モデル作成装置23から参照可能な状態で記憶される。
なお、上記では実際の部品(ライナセグメント10)を3次元形状測定部21Aにより測定して基準3次元モデルを構築する場合について説明したが、ライナセグメント10の設計データが存在する場合には、この設計データを用いて基準3次元モデルを作成すればよい。
【0037】
以上の工程S1〜S3により基準3次元モデルが作成されたならば、次に、補修対象となるライナセグメント10の3次元モデルを構築する工程に移行する。
【0038】
図1に示した健全なライナセグメント10を実際に使用すると、図2に示すように、焼損による欠損部15が生じることになる。この欠損部15が生じた補修対象となるライナセグメント10の3次元形状を3次元モデル作成装置21の3次元形状測定部21Aによって測定し(部品形状測定工程S4)、モデル作成部21Bにおいて、得られた3次元点群データから対象3次元モデルを作成する(対象3次元モデル測定工程S5)。作成された対象3次元モデルは記憶装置22に伝送され、差分モデル作成装置23から参照可能な状態で記憶装置22に記憶される。
【0039】
そして、差分モデル作成装置23において、記憶装置22から基準3次元モデルを読み込むとともに、3次元モデル作成装置21によって作成された対象3次元モデルを読み込み、これら基準3次元モデルと対象3次元モデルとを比較する(比較工程S6)。ここで、対象3次元モデルにおける特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの点とを一致させ、対象3次元モデルと基準3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整した上で、差分をとって差分モデルが作成される(差分モデル作成工程S7)。この差分モデルは、図2において点線で示す欠損部15の形状に相当するものである。
【0040】
ここで、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7について、図8及び図9を参照してさらに詳細に説明する。
図8(a)は、基準3次元モデル作成工程S3で作成された基準3次元モデルM1を示す図であり、図8(b)は、対象3次元モデル作成工程S5で作成された対象3次元モデルM2を示す図である。図9は、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7における差分モデルの作成手順を示す図である。
なお、図8、9では、差分モデル作成の原理について説明するために、対象部品であるライナセグメント10を湾曲した柱状体に簡略化して表示している。
【0041】
比較工程S6において、差分モデル作成装置23に読み込まれた3次元モデルM1、M2には、それぞれ特徴点が設定されている。上述した工程S1〜S3により作成された基準3次元モデルM1には、図8(a)に示すように、特徴点A〜Dが設定されている。また、工程S4、S5により作成された対象3次元モデルM2には、図8(b)に示すように、特徴点A’〜D’が設定されている。特徴点A〜Dと特徴点A’〜D’は、各々対応する特徴点であり、本実施形態の場合には、湾曲した柱状の部品の上面における角部に設定されている。また、図8(b)に示すように、対象3次元モデルM2には、図2に示した欠損部15に対応するモデル上の欠損部15Aが含まれている。
【0042】
なお、本実施形態では説明の簡単のために4つの特徴点A〜Dと、それらに対応する4つの特徴点A’〜D’とを設定しているが、実際の3次元モデルの比較においては、さらに多くの特徴点が設定される。図8に示す形状の場合では、図示上面の角部に設定された特徴点A〜Dに加えて、例えば図示下面の4つの角部にもそれぞれ特徴点が設定される。また、図1に示した冷却用ピン12等が存在する場合には、それらの先端部等にも特徴点を設定することができる。
【0043】
図8に示す基準3次元モデルM1及び対象3次元モデルM2を読み込んだならば、差分モデル作成装置23は、両者を比較するために、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせを実行する。
具体的には、図9(a)に示すように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とを重ね合わせ、基準3次元モデルM1に設定された特徴点A〜Dに対して、対象3次元モデルM2に設定された特徴点A’〜D’とを可能な限り一致させるように位置合わせを行う。
【0044】
すなわち、特徴点Aとそれに対応する特徴点A’との距離(偏差)、及び他の特徴点B〜Dとそれらに対応する特徴点B’〜D’との距離(偏差)が最小となるように、基準3次元モデルM1又は対象3次元モデルM2を移動させる。位置合わせに際しては、XYZ直交座標系のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向における平行移動や、X軸周り、Y軸周り、Z軸周りの回転移動により上記の偏差を最小にする。
【0045】
上記の位置合わせを実行することで、図9(b)に示すように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とがほぼ重ね合わされた状態とすることができる。
その後、差分モデル作成工程S7において、差分モデル作成装置23により基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分の演算が実行される。これにより、対象3次元モデルM2における欠損部15Aを含む差分モデルを作成することができる。
【0046】
ところで、基準3次元モデルM1は、先に記載のように、複数の同一部品の平均的形状をモデル化したものであるため、補修対象となる個々の部品の対象3次元モデルM2と完全一致することはない。そのため、単純に基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分をとって差分モデルを作成すると、図9(b)に示すように、欠損部15Aの部分だけではなく、他の部分を含んだ差分モデルが作成される。これは、対象3次元モデルM2の正常部分であっても、製造ばらつきなどに起因して、部品の平均的形状を表す基準3次元モデルM1とは異なる形状となるためである。
【0047】
そして、このような差分モデルに基づいて肉盛加工を行うと、補修が不要な部分にまで肉盛することとなり、材料や加工時間に無駄が生じるおそれがある。そこで、後段の肉盛加工工程S8において、欠損部15にのみ肉盛加工を行えるように、欠損部15Aのみ、あるいは欠損部15Aとその近傍の部位のみからなる差分モデルを作成することが好ましい。そこで、欠損部15A周辺の部位のみからなる差分モデルを作成する方法について、図10を参照しつつ以下に説明する。
【0048】
図10(a)は、対象3次元モデルM2の欠損部15A周辺の部位を拡大して示す図であり、図10(b)は、図10(a)に対応する位置の基準3次元モデルM1を拡大して示す図である。図10(c)は、差分モデルを示す図である。図10では、基準3次元モデルM1及び対象3次元モデルM2の図示上面に、ライナセグメント10に形成された複数の冷却用ピン12に対応するモデル上の冷却用ピン12Aを、省略せずに表示している。
【0049】
欠損部15A周辺の部位のみからなる差分モデルを作成する場合、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2の全体から差分モデルを作成する場合と異なり、欠損部15Aの周辺部位における基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせの正確性が重要となる。補修対象のライナセグメント10が局所的に補修されるため、位置合わせが正確でない場合、補修部位の形状と全体形状との整合性が失われるおそれがあるからである。
【0050】
そこで、欠損部15A周辺の部位のみから差分モデルを作成する場合、図9(b)に示した位置合わせの後に、さらに局所的な位置合わせを実行することが好ましい。
具体的には、まず、図9(b)に示した位置合わせにより欠損部15Aの位置を特定する。欠損部15Aの位置は、ソフトウェアによる自動検出を行う場合には、例えば、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分の体積が所定値以上である部位や、基準3次元モデルM1の縁端における曲率に対して不整合となる部位(形状の不整合部位)として特定することができる。一方、ユーザーに欠損部15Aの位置を指示させる場合には、例えば、図9(b)に示したような基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2とを重ね合わせた図形を差分モデル作成装置23に接続されたモニタに表示させ、表示された図形に対してユーザーが欠損部15Aを設定できるようにする。
【0051】
対象3次元モデルM2における欠損部15Aの位置が特定されたならば、次に、図10(a)に示すように、対象3次元モデルM2において、欠損部15Aの近傍に存在する特徴的な形状の部位に、位置合わせ用の特徴点を設定する。本実施形態のライナセグメント10では、表面に多数の冷却用ピン12が存在するので、例えば、図10(a)に示すように、対象3次元モデルM2において欠損部15Aに隣接して配置された冷却用ピン12Aの上面に、特徴点a’〜f’を設定する。
【0052】
対象3次元モデルM2に特徴点a’〜f’を設定したならば、次に、図10(b)に示すように、基準3次元モデルM1に特徴点a〜fを設定する。具体的には、対象3次元モデルM2において特徴点a’〜f’を設定された冷却用ピン12Aに対応する基準3次元モデルM1上の冷却用ピン12Aに特徴点a〜fを設定する。
【0053】
以上により特徴点a〜f及び特徴点a’〜f’が設定されたならば、図9を参照して先に説明した比較工程S6と同様に、特徴点aと特徴点a’との距離(偏差)、及び他の特徴点b〜fとそれらに対応する特徴点b’〜f’との距離(偏差)が最小となるように、基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との位置合わせを実行する。これにより、図9(b)に示したモデル全体での位置合わせ結果よりも高精度に欠損部15A周辺が位置合わせされる。
【0054】
そして、上記の位置合わせ後に、欠損部15A周辺における基準3次元モデルM1と対象3次元モデルM2との差分を演算することで、図10(c)に示す欠損部15の差分モデル15Bを得ることができる。
なお、差分モデル15Bの作成に際して、差分モデル15Bの形状補正を行ってもよい。例えば、図10に示した位置合わせ動作において、作成される差分モデル15Bと基準3次元モデルM2との境界における両者の厚さが異なっている場合には、差分モデル15Bの厚さを補正することが好ましい。これにより、肉盛加工により補修された部位と、補修対象のライナセグメント10とが滑らかに接続された形状を得ることができ、さらに高品質の補修が可能になる。
【0055】
以上により差分モデル15Bが作成されたならば、肉盛加工工程S8に移行する。
肉盛加工工程S8では、まず、肉盛加工装置24の部品保持部24Aに補修対象となるライナセグメント10を保持させる。そして、ライナセグメント10の欠損部15に、原料粉末を供給ノズル24Bから供給し、レーザ照射部24Cからレーザを原料粉末に照射して原料粉末を溶融することによってライナセグメント10に肉盛加工が施される。
ここで、部品保持部24Aの動作は制御部24Dによって差分モデルに基づいて数値制御されており、欠損部15の形状を復元するように肉盛加工が行われることになる。このようにして、欠損部15が生じたライナセグメント10が使用前の形状へと補修される。
【0056】
以上のような構成とされた本実施形態である欠損部15の補修方法及び欠損部15の補修システム20によれば、ライナセグメント10の使用前の3次元形状を測定して得られた3次元点群データから基準3次元モデルが作成されるとともに、欠損部15を生じた補修対象となるライナセグメント10の3次元形状が測定されて対象3次元モデルが作成され、これら基準3次元モデルと対象3次元モデルを比較して差分をとっているので、欠損部15の形状を差分モデルとして正確に把握することができる。そして、この差分モデルに基づいて肉盛加工が行われるので、欠損部15を元の形状に補修することが可能となる。
【0057】
したがって、ライナセグメント10に生じた欠損部15のみを補修することによって、ライナセグメント10を使用前の形状に復元することが可能となり、補修に掛かるコストを大幅に削減することができる。
【0058】
また、肉盛加工工程S8(肉盛加工装置24)では、供給ノズル24Bによる原料粉末の供給とレーザ照射部24Cによるレーザ光とによって肉盛加工が行われるので、複雑な形状の部品であっても肉盛加工によって欠損部15を元の形状に復元することができる。さらに、補修されるライナセグメント10を保持する部品保持部24Aの位置が、差分モデルに基く数値制御によって制御される構成とされているので、欠損部15の元の形状を肉盛加工によって正確に復元することができる。
【0059】
また、比較工程S6及び差分モデル作成工程S7(差分モデル作成装置23)においては、対象3次元モデルにおける特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの点との距離が最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整した上で、差分をとって差分モデルを作成しているので、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの比較する際の位置精度が向上することになり、欠損部15の形状を差分モデルとしてさらに正確に把握することができ、補修後の部品の寸法精度を大幅に向上させることができる。
【0060】
さらに、基準3次元モデル作成工程S2によって、使用前のライナセグメント10の3次元形状が測定されて基準3次元モデルが作成され、この基準3次元モデルが記憶装置22によって記憶されるとともにデータベース化されているので、当該ライナセグメント10を使用したことによって欠損部15が生じた場合にも基準3次元モデルに基づいて補修することで、使用前の形状に正確に復元することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態である欠損部の補修方法及び欠損部の補修システムについて説明したが、本発明の技術的範囲はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
本実施形態では、ジェットエンジン部品である燃焼器のライナセグメントを補修対象部品として説明したが、これに限定されることはなく、例えば図11に示すように、ハニカム構造体30に生じた欠損部を補修するものであってもよい。さらには、その他の形状の部品を補修するものであってもよい。
【0063】
また、3次元モデル作成装置、差分モデル作成装置、肉盛加工装置は、図3に示す構成のものに限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態における補修対象部品であるライナセグメントの概略斜視図である。
【図2】欠損部が生じたライナセグメントの概略斜視図である。
【図3】本実施形態である欠損部の補修システムの概略説明図である。
【図4】本実施形態である欠損部の補修方法のフロー図である。
【図5】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図6】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図7】基準3次元モデルを作成する工程の説明図。
【図8】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図9】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図10】差分モデルを作成する工程の説明図。
【図11】他の補修対象部品としてのハニカム構造体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
10 ライナセグメント(部品)
15 欠損部
20 欠損部の補修システム
21 3次元モデル作成装置
22 記憶装置
23 差分モデル作成装置
24 肉盛加工装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、
前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程と、
前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程と、
前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程と、
この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程と、
を備えていることを特徴とする欠損部の補修方法。
【請求項2】
前記肉盛加工工程では、原料粉末を前記欠損部に供給するとともに、供給された原料粉末にレーザ光を照射して溶融することによって、欠損部の形状を復元することを特徴とする請求項1に記載の欠損部の補修方法。
【請求項3】
前記肉盛加工工程では、補修対象となる前記部品に対する原料粉末の供給位置が、前記差分モデルに基く数値制御によって制御されることを特徴とする請求項2に記載の欠損部の補修方法。
【請求項4】
前記差分モデル作成工程では、差分をとる前に、対象3次元モデルのうち前記欠損部が生じていない部分における特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの複数の点とを一致させ、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の欠損部の補修方法。
【請求項5】
基準3次元モデル作成工程では、前記部品の設計データ又は前記部品の使用前における形状の測定データのいずれかに基づいて前記基準3次元モデルを作成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の欠損部の補修方法。
【請求項6】
部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修システムであって、
前記部品の使用前における形状の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル装置と、
補修対象となる前記部品の形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置と、
前記基準3次元モデル及び前記3次元モデルを記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から読み込んだ前記基準3次元モデルと前記3次元モデルとを比較して差分モデルを作成する差分モデル作成装置と、
原料粉末の供給部とレーザ照射部と部品支持部とを有し、前記差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置と、
を備えていることを特徴とする欠損部の補修システム。
【請求項1】
部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修方法であって、
前記部品の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル作成工程と、
前記欠損部を有する前記部品の形状を測定して補修対象となる部品の3次元モデルを作成する対象3次元モデル作成工程と、
前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの差分をとって、差分モデルを作成する差分モデル作成工程と、
この差分モデルに基づいて肉盛加工を行って欠損部の形状を復元する肉盛加工工程と、
を備えていることを特徴とする欠損部の補修方法。
【請求項2】
前記肉盛加工工程では、原料粉末を前記欠損部に供給するとともに、供給された原料粉末にレーザ光を照射して溶融することによって、欠損部の形状を復元することを特徴とする請求項1に記載の欠損部の補修方法。
【請求項3】
前記肉盛加工工程では、補修対象となる前記部品に対する原料粉末の供給位置が、前記差分モデルに基く数値制御によって制御されることを特徴とする請求項2に記載の欠損部の補修方法。
【請求項4】
前記差分モデル作成工程では、差分をとる前に、対象3次元モデルのうち前記欠損部が生じていない部分における特徴的な複数の点と、これに対応する基準3次元モデルの複数の点とを一致させ、前記基準3次元モデルと前記対象3次元モデルとの相対ズレが最小となるように、基準3次元モデルと対象3次元モデルとの相対位置を調整することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の欠損部の補修方法。
【請求項5】
基準3次元モデル作成工程では、前記部品の設計データ又は前記部品の使用前における形状の測定データのいずれかに基づいて前記基準3次元モデルを作成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の欠損部の補修方法。
【請求項6】
部品に生じた欠損部を肉盛加工によって補修する欠損部の補修システムであって、
前記部品の使用前における形状の基準3次元モデルを作成する基準3次元モデル装置と、
補修対象となる前記部品の形状を測定して3次元モデルを作成する3次元モデル作成装置と、
前記基準3次元モデル及び前記3次元モデルを記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から読み込んだ前記基準3次元モデルと前記3次元モデルとを比較して差分モデルを作成する差分モデル作成装置と、
原料粉末の供給部とレーザ照射部と部品支持部とを有し、前記差分モデルに基づいて肉盛加工を行う肉盛加工装置と、
を備えていることを特徴とする欠損部の補修システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−120104(P2010−120104A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294620(P2008−294620)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]