説明

次亜ハロゲン酸組成物を用いた尿路感染(UTI)を含む細菌・菌類感染の防止及び処理のためのシステム及び方法

全体として、医療デバイスにおける感染の発現及びバイオフィルムの定着を、具体的には、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)を含む尿路感染(UTI)を防止するシステムが開示される。本システムは、医療デバイス(例えば、カテーテル)及び抗微生物化合物を含む抗微生物組成物を含む。医療デバイスは該デバイスの内部及び/又は外部並びに膀胱自体の内部及び尿道に該組成物を送達する。感染の低減又は排除は、医療デバイスに灌注し、膀胱を浸潤し、或いは膀胱に該組成物を灌注することにより、達成されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、医療デバイスにおける感染の発現及びバイオフィルムの定着を、具体的には、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)を含む尿路感染(UTI)を防止するシステムに関する。本システムは、医療デバイス(例えば、カテーテル)及び抗微生物化合物を含む抗微生物組成物を含む。医療デバイスは該デバイスの内部及び/又は外部並びに膀胱自体の内部及び尿道に該組成物を送達する。感染の低減又は排除は、医療デバイスに灌注し、膀胱を浸潤し、或いは膀胱に該組成物を灌注することにより、達成されうる。加えて、医療デバイスは、尿道口を通しての挿入前又は挿入中に、このような組成物により殺菌されうる。また、本明細書で述べる医療デバイスは、本明細書で述べる組成物中に保存されうる。カテーテル又はカテーテル様デバイスに加え、他の侵襲的な医療デバイス、例えば、ペースメーカー、心臓弁、埋め込み型デバイス、乳房インプラント、骨内インプラント、ステント、手術用プレートなども本明細書で述べる組成物中に保存されうる。本発明において詳述する材料は、次亜ハロゲン酸(HOCl又はHOBr)又は次亜ハロゲン酸源を含む組成物を含む。関連組成物は、広域スペクトルの非特異的な迅速抗微生物活性を有し、プランクトン微生物並びにバイオフィルム及び痂皮と関連する微生物に対して効果的である。
【背景技術】
【0002】
院内感染の40%以上は尿路感染(UTIs)であり、これらの大部分は尿道カテーテル留置患者において生じるカテーテル関連尿路感染(CAUTIs)である(Hashmi,Kellyら 2003年)。実際、尿道カテーテルは2番目に多い菌血症の原因である(Maki及びTambyah 2001年)。菌血症は循環血液における生菌の存在である。CAUTIを防止するように考案された様々な手法が用いられているが、併用した場合でもCAUTIの発現を遅延するだけであり、これを防止することは依然として不可能である。
【0003】
細菌尿(正常では無菌の尿における細菌の存在)は1日あたりカテーテル挿入患者の5%に発現し(3〜10%)、カテーテル挿入患者のほぼ全例が30日目までに細菌尿を有する。無症候性細菌尿は初期には診断されない場合があるため、細菌尿を有する患者の10〜25%がUTIを発症する(Saint及びChenoweth 2003年)。
【0004】
細菌尿を有する患者の1〜4%では、感染は腎臓又は血流中に拡散し、致死的となりうる菌血症に至る(血中の生菌)(Saint及びChenoweth 2003年)。
【0005】
細菌増殖がCAUTI及び菌血症に至る主な理由は、カテーテル表面へのバイオフィルムの定着である(Morris,Sticklerら 1999年;Maki及びTambyah 2001年;Tenke,Riedlら 2004年;Trautner及びDarouiche 2004年)。バイオフィルムは細菌が生成し生息するマトリックスであり、これは、表面(例えば、デバイス)に付着する粘着物質−通常は多糖体−で覆われた細菌コロニーの発生を引き起こす。細菌の貯留部を付与することに加え、バイオフィルムは細菌によって生成される結晶沈着物によるカテーテルの痂皮をもたらすことも可能であり、これはやがて、カテーテルを通したフローを制限し、或いは更にはフローを完全に遮断しうる。
【0006】
一態様において、本発明のシステムは、(a)細菌の蓄積を阻止し、(b)医療デバイス、膀胱及び尿路内外の細菌を死滅させることにより効果的である。このような医療デバイス及び膀胱内外の細菌の蓄積は、プランクトン様細菌又はバイオフィルムに埋め込まれた細菌のようなバイオフィルム形態の細菌を含みうる。プランクトン様細菌はバイオフィルム中の固着性細菌と対照的に浮遊性細菌である。本システムは、バイオフィルムの形成を阻止し、バイオフィルムに埋め込まれた細菌を死滅させ、バイオフィルムを除去することにも有用である。本システムはその低細胞障害性により、特に炎症又は感染膀胱組織に対する忍容性も良好である。この特性の独特な組合せにより、本システムは細菌尿に効果的に対抗することが可能となり、従って、CAUTI及び菌血症への進行を制限する。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、抗微生物処理を提供するためのシステム及び方法に関する。本システムは医療デバイス(例えば、カテーテル)及び抗微生物組成物を含む。本方法は、微生物を死滅させ、微生物のバイオフィルム形成を阻止することによる感染の処理、防止又は阻害のために、医療デバイスを洗い流し、洗浄し、医療デバイスに注入し、灌注し、及び/又は医療デバイスをコーティングするステップを含む。本システムはこのような処理オプションを実施するためのキット又はトレーにて提供されうる。
【0008】
本明細書で用いられる「微生物」という用語は、患者において用いられる場合に医療デバイスの周囲域に生息する細菌、菌類及びウイルスを含む。
【0009】
該組成物は医療デバイスを遮断及び閉塞のない状態に維持するのに有用である。該組成物は、患者の膀胱内外を含む感染を処理し、阻止し、阻害するのにも有用である。本明細書で述べる組成物で処理された医療デバイスは、医療デバイスを受ける患者における尿路感染に至る細菌尿をもたらす可能性が低い。このようなデバイスの1つは尿道カテーテルである。他の医療デバイスには、中心静脈カテーテル、心臓カテーテルのような血管内カテーテル、腹膜透析用カテーテル、血液透析用シャントのような透析用シャント、気管内チューブ、外科用ドレーン及びポートのようなデバイス付属品が含まれる。
【0010】
尿道カテーテルのような医療デバイスの管理及び維持に本発明の医薬調製物を用いる方法も、本出願において開示される。
【0011】
尿道カテーテルは、膀胱から尿を排出・採取するために体内に留置される可撓性チューブ装置である。尿道カテーテルは特定の手術中・手術後に膀胱から尿を排出するのに用いられる。尿道カテーテルは男性及び女性における尿失禁及び/又は尿貯留を管理するのにも用いられる。
【0012】
患者の基礎疾患に依存し、尿道カテーテルは、(a)膀胱を空にするのに十分な時間、間欠的に、(b)短期間(数時間又は数日、例えば、手術中及び術直後)、(c)長期間(数日から数週間、例えば、術後)又は(d)連続的又は習慣的長期間(30日以上、例えば、脊髄損傷(SCIs)及び長期ケア施設(LTCFs)入所)、用いられうる。一般に、一定期間留置される留置カテーテルは、尿を採取するために無菌容器に取り付けられる。
【0013】
最も一般的に用いられるFoley留置カテーテルは、尿を排出するために尿道を通して膀胱内に挿入されるソフトシリコーン又はラテックスチューブであり、空気又は液体で膨張した小型バルーンに保持される。尿道カテーテルは、多種多様なサイズ、材料(ラテックス、シリコーン、他の材料、例えば、シリコーン、ヒドロゲル、抗細菌剤などをコーティングされず、或いはコーティングされる)及び種類(Foleyカテーテル、ストレートカテーテル、Coude−tipカテーテルなど)で提供される。
【0014】
通常、カテーテルは尿道を通して膀胱に留置されるが、場合により、恥骨上留置カテーテルは恥骨上方の腹部における手術で造設された開口部(瘻孔)を通して膀胱内に直接留置される。
【0015】
(カテーテル関連合併症)
留置カテーテル使用の合併症には、カテーテルの痂皮及び閉塞、細菌尿症、尿路及び/又は腎臓感染症が含まれ得、次に、これらは血液感染症(菌血症又は敗血症)に進行しうる。間欠的カテーテルの使用も細菌尿(尿中の細菌の存在)及び引き続く尿路感染症をもたらしうる。カテーテルの痂皮は、ウレアーゼを産生する細菌によって引き起こされる感染から生じる。ウレアーゼ活性の増大は、局所pHの上昇並びにリン酸カルシウム及びリン酸マグネシウム結晶の形成をもたらす。これらの結晶はカテーテルを覆い、部分的又は全体的なカテーテルルーメン中の遮断を生じさせうる(Stickler,Youngら 2003年)。
【0016】
(CAUTIの定義)
カテーテル関連尿路感染(CAUTI)は、米国における急性期ケア及び延長ケア病院で最も一般的な院内(病院内)感染の1つである。これは集合的に下部尿路として周知の膀胱及び尿道に影響を与えうる。
【0017】
CAUTIの根本的な原因は病原性バイオフィルムの形成である。ウレアーゼ産生細菌はカテーテル表面にコロニーを形成し、多糖体マトリックスに埋め込まれたバイオフィルム群集を形成する。増加したウレアーゼはアンモニアを生成し、これにより、バイオフィルム及び尿のpHが上昇する。この環境にてリン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムから成る硬質結晶が形成され、マトリックスに埋め込まれる(Stickler,Jonesら 2003年)。このプロセスを阻止する有効な方法はあるとしてもわずかである。尿道カテーテルは、バイオフィルム群集の一部である付着微生物によりコロニーを形成される。患者は1日あたり3〜10%の割合で細菌尿を発症し、30日目までには長期カテーテル挿入患者において発症率は100%に達する(Trautner,Hullら 2005年)。バイオフィルムの発生及び尿道カテーテル表面の結晶質痂皮は、Proteus mirabilis(ミラビリス変形菌)を用いて実験モデルにおいて実証されている(Stickler,Jonesら 2003年)。抗生物質による予防的膀胱灌注はコロニー形成を阻止せず、抗生物質抵抗性を生じさせる。過酸化水素による予防的灌注も効果がない(Cravens及びZweig 2000年)。
【0018】
細菌が膀胱内に侵入する重要な経路は、尿道口を通したカテーテルの挿入過程の間に、また、カテーテル移動時のカテーテル外面に沿った移行により生じる。尿路感染に見出される微生物には、Escherichia coli(大腸菌)、Proteus属、Enterobacter属及びKlebsiella属のような腸内グラム陰性桿菌、グラム陽性菌、増加傾向のCandida酵母菌株並びにProvidencia及びPseudomonasのような一部の腸内微生物が含まれる(Hashmi,Kellyら 2003年)。
【0019】
(関連技術の説明)
CAUTIの有効な処理は三領域において必ず成功する必要がある。それは、感染を防止/処理し、カテーテルが感染による痂皮及び遮断に抵抗するのを支援し、感染が拡大することを可能にするバイオフィルムを穿通/根絶することである。以下に概説した文献のレビューは、現在、これらの課題すべてを効率的に解決する抗微生物剤はないことを示す(Trautner及びDarouiche 2004年)。これまでに企図されてきた方法における大きな課題は、抗微生物剤に抵抗性を示す菌叢が最終的に再出現することである。
【0020】
現在、CAUTIを最少化するのに用いられる最も効果的な方法は、閉鎖ドレナージシステムの使用である。しかし、CAUTIを更に最少化するため、このシステムの強化が依然として必要とされる。このような強化の1つは、カテーテル材料の表面修飾、即ち、CAUTIを引き起こす細菌が生息できないようにカテーテル材料を設計することに関わる。マトリックスに銀合金を含むカテーテルのレビューは、これらがカテーテル関連細菌を減少させるのに一部のみ効果的であることを示している(Saint及びChenoweth 2003年)。他の抗微生物剤を含浸した尿道カテーテルも様々な程度に検討されている。ミノサイクリン及びリファンピン(Darouiche,Smithら 1999年)、ニトロフラゾン(Maki及びTambyah 2001年)並びに放出ゲンタマイシン(Cho,Leeら 2001年;Maki及びTambyah 2001年)を用いたデバイスはある程度有望である。しかし、これらすべての抗菌剤に関し、長期的使用により、患者が関連細菌に対する抵抗性を発現することになるのかは明確ではない(Saint及びChenoweth 2003年)。実際、表面修飾は注入又は灌注よりも有望だと考える者もいるが(Tenke,Riedlら 2004年)、CAUTIを防止するための表面修飾はせいぜい精彩を欠いた成果を生み出しただけだと考える者もいる(Trautner及びDarouiche 2004年)。
【0021】
とは言うものの、全身に送達され、膀胱内に注入され、或いはカテーテルに灌注するのに用いられる抗微生物剤は、CAUTIを防止する効果がないことがこれまで示されている(Trautner及びDarouiche 2004年)。CAUTIに対する処理としてのカテーテル灌注の具体的な懸念は、長期のカテーテル挿入に対し、CAUTIの原因となる細菌及び他の菌叢が前記抗微生物剤に対して抵抗性を示すようになるため、その処理の効果がなくなるということである(Maki及びTambyah 2001年;Saint及びChenoweth 2003年;Trautner及びDarouiche 2004年)。灌注のために抗生物質ネオマイシン及び単独での抗微生物性ポビドンヨードを用いた研究は、CAUTIを処理する有益性を示していない(Hashmi,Kellyら 2003年)。
【0022】
膀胱灌注又は注入を用いることが、残屑及び結石形成並びに感染を防止するために推奨されている(Galloway 1997年)。尿道カテーテル、特にFoleyカテーテルは、局所細菌によって生成される結晶由来の痂皮及び遮断を非常に受けやすい(Stickler,Youngら 2003年)。カテーテルに灌注するために抗微生物溶液を用いることは、痂皮及び遮断を防止するのにある程度良好でありうる。抗微生物剤としてトリクロサンを用いた実験では、痂皮を防止するのに有望であった(Stickler,Jonesら 2003年)。しかし、この抗菌剤の体内での長期使用は耐性細菌の出現をもたらしうる。同様に、これを目的にクロルヘキシジン液を用いてある程度良好であったが(Baillie 1987年;Pearman,Baileyら 1991年)、細菌がクロルヘキシジンへの耐性を発現するため、長期の使用には実用的ではない(Baillie 1987年)。加えて、カテーテルの閉鎖ドレナージシステムを崩すと、患者に対する感染及び身体損傷のリスクを高める(Galloway 1997年;Cravens及びZweig 2000年)。
【0023】
尿道カテーテルにおいて抗微生物剤を用いる際に更に別の考慮すべきことは、抗微生物剤がバイオフィルムを穿通し除去するか否かということである。カテーテルに灌注するために生理食塩水を用いることは、細菌尿の低減及びバイオフィルムの除去にほとんど全く効果がない(Muncie,Hoopesら 1989年)。これまで、抗微生物剤の使用(回収バッグ内で、カテーテル材料内に含浸され、また、膀胱注入又は灌注により、軟膏剤及び潤滑剤として)もバイオフィルムの処理が不良となっている(Donlan及びCosterton 2002年;Tenke,Riedlら 2004年)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本明細書で示すシステムは医療デバイス(例えば、カテーテル)及び抗微生物化合物を含む。併せて、これらは、(a)細菌耐性及び(b)有意な毒性を誘発する好ましくない特性を有さない抗微生物処理オプションを提供する。次亜ハロゲン酸が水性流体と接触して生成され、或いは活性化されるように、該抗微生物化合物は該デバイス材料に組み込まれ、或いは埋め込まれうる。別の態様では、該抗微生物化合物は水溶液に加えられ、その結果生じる抗微生物組成物の一部として用いられうる。
【0025】
提供されるシステムは、医療デバイスが中心静脈カテーテル(CVC)である実施形態を含む。このタイプのカテーテルは、頸部、胸部又は鼠径部における大静脈に留置される。あらゆるカテーテルが細菌を血中に導入する可能性があるが、CVCsはStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)敗血症及びStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)敗血症も引き起こしうる。
【0026】
提供されるシステムは、医療デバイスが腹膜透析用カテーテルである実施形態を含む。腎不全の場合、腹膜透析は血中から尿素及びカリウムのような老廃物を除去し、且つ過剰な流体を除去するために用いられる。腹膜透析は腸を取り囲む天然半透過性膜である腹膜へのアクセスを必要とする。このアクセスにより正常な皮膚バリアが破壊され、概して腎不全患者は免疫系がわずかに抑制されているため、感染は比較的一般的な問題である。
【0027】
通常、腹膜透析は患者の自宅及び職場において行われるが、ほぼどこででも行うことができる。必要なことは透析を行う清潔な場所、透析液バッグの持ち上げ方及び透析液を加温する方法みである。主に考慮すべきことはカテーテルによる感染の可能性である。腹膜炎が最も一般的な重篤な合併症であり、カテーテルの出口部位又は「トンネル」(腹膜から出口部位までの経路)の感染は重篤度が低いが、より頻発する。このため、患者は感染に対して多くの予防措置をとるように助言される。
【0028】
腹膜透析は、腎臓が行えない場合に(即ち、腎不全で)血中から尿素及びカリウムのような老廃物を除去し、且つ過剰な流体を除去するための方法である。腹膜透析は腎透析の一形態であり、従って、腎代償療法である。腹膜透析は、腸を取り囲む腹膜が天然半透過性膜として作用することができ(透析を参照)、特別に配合された透析液が腹膜周囲に注入されると、拡散により透析を行うことができるという原理に基づいて行われる。過剰な流体も流体中のブドウ糖の濃度を変えることにより、浸透圧により除去することができる。透析液は、患者の腹部に留置され、腹膜から出て臍近傍の表面に達する腹膜透析用カテーテル(最も一般的なタイプはTenckhoffカテーテル)を通して注入される。腹膜透析用カテーテルは皮膚下を通され、肋骨縁部又は胸骨近傍(胸骨前部カテーテルと称される)或いは更に上方の鎖骨近傍のような別の部位から出ることも可能である。これは短期手術として行われる。出口部位は手術医又は患者の嗜好に基づいて選択され、解剖学的構造又は衛生問題に影響されうる。更なる詳細については、http://en.wikipedia.org/wiki/Peritoneal_dialysis又はMerck’s Manual of Medical Information (以下“MMOMI”), Home Edition, 1997, Editor-in-Chief Robert Berkow, M.D. ρp.600, 656-658に見出すことができる。
【0029】
提供されるシステムは、医療デバイスが血液透析シャントである実施形態を含む。最も一般的な3タイプは、静脈内カテーテル、Cimino動静脈(AV)フィステル又は人工移植片である。3例すべてにおいて、まず、浄化される血液を取り出し、次に、清潔な血液を体内に戻すため、2本のチューブ(又は2つのルーメンを有する1本のチューブ)が必要とされる。血液透析は皮膚を介した循環系への連続的アクセスを要するため、血液透析を受けている患者は微生物の侵入口を有し、これは敗血症或いは心臓弁(心内膜炎)又は骨(骨髄炎)に作用する感染をもたらしうる。更なる詳細については、参照資料http ://en. wikipedia. org/wiki/Hemodialysis及びMMOMI, pp. 654-657に見出すことができる。
【0030】
提供されるシステムは、医療デバイスが気管内チューブ(ETT)である実施形態を含む。ETTsは気道管理及び肺換気を目的として口腔に入れられ、次に、下方に向かって気管(気道)に配置される。これらのETTsは患者において換気関連肺炎(VAP)を引き起こすリスクが高い。VAPは院内感染性肺炎の亜型であり、少なくとも48時間の挿管及び機械的換気後に生じる。一般に用いられる抗生物質への抵抗性のため、VAPの特に重要な原因となる複数の細菌が存在する。更なる詳細については、参照資料http://en.wikipedia.org/wiki/Ventilator-associated _pneumoniaに見出すことができる。
【0031】
提供されるシステムは、医療デバイスが外科用ドレーンである実施形態を含む。外科用ドレーンは、創傷部又はより広範囲の胸水から膿汁、血液又は他の流体を除去するために用いられるチューブである。術後に挿入されるドレーンは創傷がより速やかに治癒するのに役立つ。詳細については、MMOMI, pp. 225-227, 935-936及び171に見出すことができる。
【0032】
提供されるシステムは、医療デバイスが、細菌感染を受けやすい医療デバイス付属品、例えば、ポートである実施形態を含む。
【0033】
本明細書で述べる抗微生物化合物の使用は、尿路感染(UTI)を含む種々の細菌又は菌類感染、特にカテーテル関連尿路感染(CAUTI)の効果的な処理及び防止として、次の重要な領域:カテーテル挿入患者において感染が拡大するのを可能とし、細菌尿を引き起こしうる細菌バイオフィルムの形成機会を最小化し、形成可能なバイオフィルムを穿通/根絶し、或いは縮小し、感染及び引き続くバイオフィルム形成による痂皮及び遮断に対してカテーテルが抵抗するのを支援すること、において有用となりうる。本システムは、ウイルス、酵母又は菌類感染のような他の微生物感染、特に細菌感染と関連する微生物感染の処理及び防止にも有用となりうる。処理オプションの1つは、本明細書で述べる組成物の1つを、過去に生理食塩水又はビネガーが用いられ、細菌感染が生じた患者にカテーテルを通して投与することである。
【0034】
本発明の実施において用いられる抗微生物化合物は抗生物質に分類されないものである。本発明において、「抗生物質」という用語は、感受性を示す微生物を阻害し、或いは破壊することが可能な微生物が産生する化学物質又は合成若しくは半合成類似体又はこのような化学物質の誘導体と定義される(例えば、ペニシリン)。
【0035】
これら従来の抗生物質の過剰使用を避けることが本発明の目的の1つであるが、所望とあれば、本発明のシステムと併用して全身的に用いることもできる。抗微生物化合物の組成物及び抗微生物組成物は、医療デバイス、特にカテーテル及びポートを洗い流し、コーティングするのに用いられるように提供される。
【0036】
本発明の好ましい医療デバイスは、本明細書で述べるように尿道カテーテルである。
【0037】
尿道カテーテルは尿道を通して膀胱内に挿入されるチューブからなる。尿道カテーテルは男性では陰茎先端を通して挿入され、女性では尿道口を通して挿入される。
図1は挿入過程のカテーテルを示す。
【0038】
最も公知のカテーテルはダブルルーメンFoleyカテーテルであり、手術から回復中の入院患者に用いられることが多いデバイスである。Foleyカテーテルの先端は膀胱に入るまで挿入される。先端近傍の小型両側性膨張バルーンは、膨張した際にカテーテルを所定位置に保持する。チューブの先端は尿流が回収容器に入ることを可能とする開口部を有する。反復注入及び灌注を容易にすると同時に、付加される感染の経路を最小化するため、サイドポート、例えば、“T”分岐路がカテーテル経路に導入されうる。これらのカテーテルは間欠的逆流(即ち、ポート開口部からカテーテルを後退して膀胱へ)を用いて洗い流すことができる。
図2は挿入後のFoleyカテーテルを示す。
【0039】
例えば、術後に血液及び残屑を除去するため、膀胱の洗い流し又は洗浄の必要性が
予期される場合、代わりにトリプルルーメンFoleyカテーテルが用いられうる。このタイプのカテーテルは更なるルーメンを有し、これを通してリザーバからの流体が膀胱内に供給され、尿とともにメインルーメンを通して容器内に流し出されうる。これらのカテーテルは連続フローを用いて洗い流すことができる。一般に、デバイスが患者の膀胱内に挿入される際、リザーバはカテーテルを所定位置に固定するように構成される。
図3は挿入後のトリプルルーメンFoleyカテーテルを示す。
【0040】
本明細書で述べる処理に基づいて用いられる典型的なカテーテルが、米国特許第4,245,639号及び米国特許第4,337,775号に開示されている。これらのカテーテルは、ドレナージ手段(例えば、カニューレ)及び該ドレナージ手段を患者の膀胱内の所定位置に保持するための手段(例えば、膨張バルーン)を有する。ドレナージ手段及び保持手段は、細菌のバイオフィルム形成に晒されうる内面及び外面を有する。
【0041】
一般に、カテーテルは尿道を通して膀胱内に留置されるが、場合により、恥骨上留置カテーテルは恥骨上方の腹部における手術で造設された開口部(瘻孔)を通して膀胱内に直接留置される。
【0042】
(抗微生物組成物)
本発明の一態様では、殺菌(即ち、病原菌を不活化する能力)有効量の抗微生物組成物で医療デバイスを処理し、及び/又は、組織を取り囲む方法が提供される。別の態様では、医療デバイスが患者に挿入される前後に医療デバイスの使用と関連する感染を、処理し、阻害し、低減し、或いは防止する、方法が、提供される。
【0043】
別の態様では、微生物によるデバイスのコロニー形成、デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は微生物バイオフィルムによるデバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、
(a)微生物感染のリスクがあり或いは微生物感染に冒された、患者への、移植又は挿入のための、デバイスの付属品を、任意で含む、医療デバイスと、
(b)(1)抗微生物有効量の、次亜塩素酸HOCl、次亜塩素酸源、次亜臭素酸HOBr又は次亜臭素酸源を含む、組成物と、
(2)塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つのハロゲン化物塩と、
(3)水性組成物の、少なくとも約4〜約12g/lの範囲のハロゲン化物塩濃度と、
(4)約3〜約6のpHと、任意で、
(5)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び/又は塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分と、
を含む水性抗微生物組成物と、
を含む、抗微生物処理システムが、提供される。「ハロゲン化物塩」という用語及び「塩成分」という用語は本明細書で互換的に用いられ、本明細書で述べる組成物が生物学的或いは生理学的に許容可能な塩濃度を得ることを目的とするという事実を示す。「デバイスの遮断」という用語は痂皮を含む。
【0044】
一実施形態において、生物学的に許容可能なこれらの酸及び/又は塩の濃度は約1mM〜約100mMである。
【0045】
上記システムの特定の一変形例では、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の、抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸(次亜塩素酸又は次亜臭素酸)は、約0.1mM〜約75mMの濃度で水性組成物中に存在する。一変形例では、医療デバイスは、膀胱内又は膀胱周囲の、細菌、菌類、又はウイルス感染、及び/又は、患者の血流中の感染の、リスクがあり或いは感染に冒された、患者の、膀胱内への挿入のための、カテーテルである。上記の別の変形例では、患者は細菌尿症又は菌血症の尿路感染(UTI)及び/又はカテーテル関連尿路感染(CAUTI)の、リスクがあり或いは感染に冒されている。本システムの特定の一変形例では、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源濃度は、組成物中約2mM〜約20mMである。一変形例では、次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸である。
【0046】
上記システムの一態様では、pHは約3.3〜約5.5である。一変形例では、pHは約3.5〜約5である。特定の変形例では、ハロゲン化物塩濃度は約7〜約10g/lである。別の変形例では、ハロゲン化物塩濃度は約9g/lである。上記システムの別の態様では、緩衝剤組成物はpHを約3.3〜約5.5に維持するように選択される。一変形例では、緩衝剤組成物はpHを約3.5〜約5.0に維持するように選択される。上記システムの別の変形例では、構成成分濃度は約1〜100mMの範囲である。特定の変形例では、キレート化剤濃度は、カルシウム、マグネシウム又はこれらの混合物からなる群より選択される要素の最大約10mMをキレート化するように選択される。更に別の変形例では、キレート化剤濃度は、カルシウム、マグネシウム又はこれらの混合物からなる群より選択される要素の最大約5mMをキレート化するように選択される。上記の別の変形例では、キレート化剤濃度は、カルシウム、マグネシウム又はこれらの混合物からなる群より選択される要素の最大約2mMをキレート化するように選択される。特定の変形例では、キレート化剤濃度は、カルシウム、マグネシウム又はこれらの混合物からなる群より選択される要素の最大約1mMをキレート化するように選択される。別の実施形態では、本発明のシステムは、約2mM〜約20mMの次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源を含み、pHが約3.3〜約5.5であり、ハロゲン化物塩濃度が組成物の約7〜約10g/lであり、緩衝剤濃度が約0又は約1mg/l〜約100mg/mlであり、キレート化剤濃度が約0mg/ml又は約1mg/ml〜約100mg/lであり、生物学的に許容可能な酸及び/又は塩の濃度が約0又は約1〜100mg/mlである。
【0047】
別の態様では、細菌尿又はCAUTI又は関連する菌類若しくはウイルス感染の処理又は防止のための水性抗微生物組成物で処理されたカテーテルが提供され、該水性抗微生物組成物は、(A)抗微生物有効量の、少なくとも1つの次亜ハロゲン酸(HOHal、この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源;(B)塩成分(ハロゲン化物塩)濃度が組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲である、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つのハロゲン化物塩;(C)約3〜約6の組成物のpH;及び(D)組成物の約0.1mM〜約75mMの、抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸;並びに任意で(E)pHを約3〜6に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分;を含む。
【0048】
別の態様では、微生物によるデバイスのコロニー形成、デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は微生物バイオフィルムによるデバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、細菌尿又はCAUTI又は菌血症又は関連する菌類若しくはウイルス感染の処理又は防止のための、水性抗微生物組成物で処理された、カテーテルが、提供され、該組成物は、(A)抗微生物有効量の、少なくとも1つの次亜ハロゲン酸(HOHal)(この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源;(B)ハロゲン化物塩濃度が水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲である、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩);(C)約3〜約6の組成物のpH;及び(D)水性組成物中約0.1mM〜約75mMの範囲の、抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸;並びに(E)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分;を含む。
【0049】
別の態様では、医療デバイスが患者に挿入される前後に、前記デバイス内又は近傍の微生物感染を、処理し、阻害し、又は防止する、方法、或いは、前記デバイスが患者に挿入された後に、患者における、細菌、ウイルス、又は菌類感染を、処理し、阻害し、又は防止する、方法が、提供され、該方法は、次の処理ステップ:(a)患者への挿入前又は患者からの除去後、該デバイスを、上記態様の要素(A)〜(E)を含む組成物と接触させるステップ;(b)患者への挿入前又は患者からの除去後、該デバイスを、上記態様の要素(A)〜(E)を含む組成物で洗浄し、浸し、或いは洗い流すステップ;(c)微生物による該デバイスのコロニー形成、該デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は該デバイスにおける痂皮を含む、微生物バイオフィルムによる該デバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、患者への挿入後、該デバイスに、上記態様の要素(A)〜(E)を含む組成物を灌注するステップ;又は(d)膀胱の内層の菌類又は細菌感染を、処理し或いは防止するため、患者の膀胱内に、上記態様の構成要素(A)〜(E)を含む組成物を、該デバイスを通して注入するステップ、を単独で或いは組み合わせて、含む。
【0050】
別の態様では、医療デバイスを、殺菌有効量の水性抗微生物組成物で処理し、或いは殺菌有効量の水性抗微生物組成物と接触させる、方法が、提供され、該組成物は、
(A)(1)少なくとも1つの次亜ハロゲン酸(HOHal)(HalはCl又はBr)又は次亜ハロゲン酸源と、
(2)組成物中、約0.1mM〜約75mMの範囲の次亜ハロゲン酸濃度と、
を含む抗微生物化合物と、
(B)(1)塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、及び臭化マグネシウム、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩)と、
(2)約3.0〜約6.0の範囲の該組成物のpHと、
(3)該水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲の該塩成分(ハロゲン化物塩)濃度と、任意で、
(4)酸、緩衝剤及びキレート化剤を含む他の有機又は無機成分と、
を含む水溶液と、
を含む。
【0051】
別の態様では、患者における微生物感染の処理又は防止のための水性抗微生物組成物が提供され、該組成物は、(a)抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸(HOHal、この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源;(b)塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩):該塩成分(ハロゲン化物塩)濃度は該水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lである;(c)約3〜約6のpH;及び(d)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物組成物に適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び/又は塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分;を含む。
【0052】
別の態様では、該方法は、医療デバイスを用いて上記水溶液を患者に投与するステップを含む。特定の一変形例では、医療デバイスはカテーテルである。
【0053】
次亜ハロゲン酸源は適切な条件下で次亜ハロゲン酸を放出する能力を有する組成物である。次亜ハロゲン酸源は物質組成物、例えば、次亜ハロゲン酸に適合し、次亜ハロゲン酸によって酸化しない次亜ハロゲン酸の担体でよい。このような担体は、例えば、尿道開口部を清浄する目的で本明細書で述べるシステムと併用して用いられうるクロスのような非酸化性材料でよい。別の次亜ハロゲン酸源は、体液のような水分又は水性系又は水溶液と接触した際に次亜ハロゲン酸を放出する非酸化性マイクロカプセルを含んでいてよい。別の化学的次亜ハロゲン酸源は、酸と接触するように配置された際に次亜ハロゲン酸を放出する次亜塩素酸ナトリウム又はカルシウムのような次亜ハロゲン酸塩でよい。別の次亜ハロゲン酸源は、体液のような水分又は水性系又は水溶液と接触した際に次亜ハロゲン酸を放出する次亜ハロゲン酸前駆物質又はプロドラッグでよい。このような次亜ハロゲン酸前駆物質又はプロドラッグの一例は、トリクロロイソシアヌル酸(シムクロセン)又はその誘導体の1つ、例えば、そのナトリウム塩である。好ましい次亜ハロゲン酸源は次亜ハロゲン酸であり、次亜塩素酸が最も好ましい。
【0054】
別の態様では、本明細書で述べるように、本開示では医療デバイスとともに使用するための抗微生物組成物について説明する。
【0055】
患者の好ましいデバイス又は医療処理では、抗微生物化合物である次亜塩素酸を含む抗微生物組成物を用いる。
【0056】
デバイス又は処理は、次亜ハロゲン酸濃度が組成物中、約2mM〜約20mMの範囲である場合が好ましい。一変形例では、次亜ハロゲン酸濃度は約5mM〜約15mM又は約8mM〜約12mMの範囲である。別の変形例では、次亜ハロゲン酸濃度は約2mM〜約8mM又は約2mM〜約5mMの範囲である。別の変形例では、次亜ハロゲン酸濃度は約10mM〜約20mM又は約15mM〜約20mMの範囲である。量は1リットルあたりのミリモルに相当するmMにて示される。
【0057】
塩成分(ハロゲン化物塩)に関し、好ましい無機塩は約0.4〜約1.2重量%のNaCl濃度の塩化ナトリウムであり、これは、通常の、或いは等張性の食塩水の約十分の四からそれよりわずかに高い濃度である。Parker’s McGraw-Hill Dictionary of Scientific and Technical Terms, S. P. Parker, editor, Fifth Edition(マグロウヒル科学技術用語辞典、S.P.Parker(編)、第5版)によると、「通常食塩水」、「生理食塩水」、「生理食塩液」は、「100ミリリットル中に塩化ナトリウム0.9グラムを含有する純水中の塩化ナトリウム溶液;体液と等張性」と定義されている。ハロゲン化リチウム、ハロゲン化カリウムなどのような異なるハロゲン化物塩では、等張液を調合する際の塩濃度は、本発明の溶液の所望の浸透圧を維持するため、水溶液中の塩化ナトリウム濃度と異なりうる。本発明の更に別の態様では、水溶液中の無機塩は約0.7〜約1.0重量%の濃度である。上記の一変形例では、無機塩は塩化ナトリウムである。
【0058】
より効果的なデバイスは、塩成分濃度が組成物の約7〜約10g/lの範囲の組成物で処理されうる。同様に、最も効果的な抗微生物処理オプションでは、患者はハロゲン化物塩濃度が約7〜約10g/l、最も好ましくは9g/lである抗微生物組成物で処置されうる。
【0059】
処理のための好ましいpHは約3.3〜約5.5、更に好ましくは、約3.5〜約5.0の範囲である。使用法により、pHは約3.5〜約4.0、3.8〜約4.3;4.0〜約4.5;4.3〜約4.8又は約4.5〜約5.0又は約4.8〜約5.3又は約5.0〜約5.5でよい。pHは約3.0〜約6.0の広範囲pH内の任意のpH範囲でよい。例えば、カテーテル先端周囲に痂皮が形成されるリスクを有する患者では、リン酸カルシウム又はリン酸マグネシウム結晶由来の結晶沈着物を防止するためには、強酸性pH範囲が好ましいであろう。
【0060】
前述したように、医療デバイス又は膀胱内外の領域における細菌は、尿素を二酸化炭素と2つのアンモニア等価物に加水分解する酵素であるウレアーゼを産生する。この加水分解により尿pHが上昇する。pH上昇の結果、リン酸カルシウム及びリン酸マグネシウム沈着物の形成が導かれ、カテーテル先端の痂皮形成が生じうる。
【0061】
緩衝系:pH上昇を防止するため、pHを低い範囲に維持するように適切な緩衝系が用いられうる。至適の緩衝系及び緩衝条件及び緩衝濃度の選択は当業者には公知である。これは、特に、尿pH、尿中の尿素量、細菌感染の程度及び種類などに依存しうる。しかし、概して、緩衝量はカテーテル及び患者の膀胱内外のpHを3〜6に維持する量にて、本明細書で述べる抗微生物組成物に存在しうる。
【0062】
電解液を含む緩衝系の例には周知の緩衝系が含まれ、例えば、Clark−Lubs緩衝液(pH2.2〜4.0)(Bower and Bates, J. Res Natn. Bur. Stand. 55, 197 (1955));β,β−ジメチルグルタル酸−NaOH緩衝液(pH3.2〜7.0)(Stafford, Watson, and Rand, BBA 18, 318 (1955));酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH3.7〜5.6);コハク酸−NaOH緩衝液(pH3.8〜6.0)(Gomeri, Meth. Enzymol. 1, 141 (1955));カコジル酸ナトリウム−HCl緩衝液(pH5.0〜7.0)(Pumel, Bull. Soc. Chim. Biol. 30, 129 (1948));NaHPO−NaHPO緩衝液(pH5.8〜7.0)(Gomeri and Sorensons, Meth. Enzmol. 1, 143 (1955));フタル酸水素カリウム/HCl(pH3.0〜3.8);フタル酸水素カリウム/NaOH(pH4.0〜6);KHPO/NaOH(pH6.0〜7.0)(OECD Guideline for Testing Chemicals ”Hydrolysis as a Function of pH,” Adopted 12 May 1981, 111, pp. 10-11(OECD化学物質試験ガイドライン111「pHの関数としての加水分解」、1981年5月12日採択、10〜11頁)を参照)である。
【0063】
酸、エステル及び塩:好ましい酸は生物学的に安全な濃度であって抗微生物化合物に生物学的に適合する酸である。酸は、酢酸、安息香酸、プロピオン酸、蓚酸、塩酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びp−ヒドロキシ安息香酸エステル(パラベン)から選択される群のメンバーであり、或いは生物学的に許容可能な塩形態の酸は、クエン酸カリウム、メタリン酸カリウム、酢酸ナトリウム及びリン酸ナトリウムから選択される群のメンバーでよい。
【0064】
キレート化剤:抗微生物組成物は、デバイスの痂皮を防止する、生物学的に許容可能であって抗微生物化合物の存在下で安定したキレート化剤も含みうる(例えば、Ca2+又はMg2+の不溶性塩)。他の例には、リンゴ酸及びマルトール又はこれらの誘導体若しくは混合物が含まれる。
【0065】
構成成分の性状により、これらの構成成分の各々は複数の機能を果たしうる。例えば、単一構成成分が酸性、緩衝及び/又はキレート化特性を有しうる。他の構成成分の好ましい濃度範囲は1〜100mMである。
【0066】
バイオフィルム形成ではカテーテル面が重要な役割を果たすため、好ましいデバイス面は、組織との接触のためのより軟質の表面並びにCAUTI及び細菌尿への感受性の低下を付与する高親水性を有する。表面親水性の増大は、例えば、ポリビニルピロリドン及びポリエチリングリコールによるヒドロゲルコーティングにより達成されうる。
【0067】
或いは、水溶液との接触時に次亜ハロゲン酸が生成され、或いは活性化されるように、抗微生物化合物(即ち、次亜ハロゲン酸源)はデバイス材料に組み込まれ、或いは埋め込まれうる。更に、該化合物は周囲の空間に緩徐に拡散することが可能となりうる。或いは、該化合物は不活性状態で存在し、水溶液にてカテーテルに供給する基質との化学反応で活性化されうる。
【0068】
任意で、患者は本発明の方法と組み合わせて同時に、広域スペクトル又は特異的抗生物質で全身処置されうる。
【0069】
場合により、デバイスは該デバイスに結合されたリザーバ内に含まれる抗微生物組成物を含む(図3参照)。一般的に、リザーバはデバイス自体の位置の上方に持ち上げられ、例えば、吊り下げボトルである。
【0070】
リザーバが生体液を受け取るドレナージ容器内の抗微生物組成物分配デバイス内にあるように、デバイスは構成されうる。おそらく、ドレナージ容器から尿を空にする際、ドレナージ容器は複数の分配デバイスがドレナージ容器内に配置されうるように構成されうる。好ましいデバイスはドレナージ容器の下部に分配デバイスを有し、抗微生物組成物は分配デバイスから容器内に分配される。
【0071】
本明細書で述べる処理から最も便益を得るカテーテルの使用は、留置カテーテル、例えば、Foleyカテーテルの使用である。或いは、カテーテルは間欠性カテーテルでもよい。
【0072】
同様に、本明細書で述べる処理から便益を得る患者は、カテーテルの使用に関連し得、且つカテーテルの使用に関連し得ない感染に罹患した患者である。この例には、細菌感染によって引き起こされ、或いは悪化した間質性膀胱炎若しくは真菌性膀胱炎、特に神経損傷又は神経障害によって引き起こされる低活動膀胱疾患、過活動膀胱疾患、尿失禁患者のような膀胱制御の欠如、CAUTIに罹患した患者、細菌尿症又は尿道損傷などが含まれる。
【0073】
本明細書で述べるデバイスは、尿道口を通しての挿入前に上記抗微生物組成物で処理されうる。デバイス処理オプションには、デバイスの灌注、洗い流し、すすぎ洗い又は洗浄が含まれる。処理オプションには、本明細書で述べる組成物を用いた患者の膀胱内への灌注及び注入が含まれる。
【0074】
(処理方法の手順)
医療デバイスが患者に挿入される前後に、該デバイス内又は近傍の感染を、処理し、阻害し、低減し、又は防止する、方法、並びに、該デバイスが患者に挿入された後に、患者における感染を、防止し又は処理する、方法は、次の個々の処理ステップ:
(a)患者への挿入前又は患者からの除去後、該デバイスを上記抗微生物組成物と接触させるステップ;
(b)患者への挿入前又は患者からの除去後、該デバイスを上記抗微生物組成物で洗浄し、浸し、或いは洗い流すステップ;
(c)微生物による該デバイスのコロニー形成、該デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は該デバイスにおける微生物バイオフィルムによる該デバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、患者への挿入後、該デバイスに上記抗微生物組成物を灌注するステップ;又は
(d)膀胱又は尿道の内層の、菌類、ウイルス、又は細菌感染を、処理し或いは防止するため、患者の膀胱内に、抗微生物組成物を、該デバイスを通して注入するステップ;
を単独で或いは組み合わせて、含む。
【0075】
上記個々の処理ステップは以下で説明される。
【0076】
微生物感染を処理し、阻害し、或いは防止するための患者の処置では、本明細書で述べる組成物を含む十分な量の溶液を用いる必要がある。十分な量とは、一処理手順(例えば、灌注又は注入)に対し、或いは必要に応じて特定の用途に対し、本明細書で述べる次亜ハロゲン酸濃度で、注入では1〜100ml、また、灌注では10〜1,000mlの用量範囲のことである。重篤な感染症の場合、抗微生物作用を最大限にするため、この処置を繰り返す必要がありうることは自明である。
【0077】
本発明は、上記抗微生物組成物で処理されるデバイス或いは医療デバイスが患者に挿入される前後に前記デバイスの内部又は近傍の感染を処理し、阻害し、低減し、又は防止する方法にも関し、該方法は、(a)殺菌有効量の上記抗微生物組成物でデバイス若しくはデバイスを通して患者を処置し、又はデバイス若しくはデバイスを通して患者を殺菌有効量の上記抗微生物組成物と接触させ、或いは(b)デバイス又はデバイスを通して患者に上記抗微生物組成物を投与するステップを含む。別の態様では、本発明は、医療デバイスが患者に挿入される前後に前記デバイスの内部又は近傍の感染を処理し、阻害し、低減し、又は防止する方法或いは患者における感染を処理し、阻害し、又は防止する方法にも関し、該方法は、(a)殺菌有効量の上記抗微生物組成物でデバイス若しくはデバイスを通して患者を処置し、又はデバイス若しくはデバイスを通して患者を殺菌有効量の上記抗微生物組成物と接触させ、或いは(b)デバイス又はデバイスを通して患者に上記抗微生物組成物を投与するステップを含む。
【0078】
カテーテルデバイスの処理に用いられる抗微生物組成物溶液の量は、これを満たすのに十分である必要がある。通常、このようなデバイスは約1〜3mLの範囲の内部容積を有する。しかし、当然ながら、容積はデバイスのチューブの長さ及び直径により異なり、個々の患者に依存しうる。膀胱注入のような処置では、より多量(例えば、20〜100ml)の本明細書で述べる抗微生物組成物が必要とされうる。
【0079】
(抗微生物組成物を用いた前処理)
本明細書で述べる医療処理オプション及び本発明の処理デバイスは、主に、既に留置されたカテーテルに抗微生物組成物を導入することに関わるが、当業者であれば、挿入部位及びその周囲にて患者の体と接触することが細菌増殖部位の除去に役立ちうることを理解されよう。従って、患者を処置することができ、細菌尿を防止するために本発明の組成物により、カテーテルのような医療デバイスの表面を前処理することができ、これにより、引き続いて生じうる感染を防止する。一方法では、医療デバイスは、まず、組成物で、次に、挿入後、反復される周期的な上記抗微生物処理オプションで処理することができる。デバイスの前処理は灌注によっても達成可能である。カテーテルを使用する前に患者の尿道口を前処置することも有益である。
【0080】
(パッケージング)
本発明は、本明細書で述べる処理方法に有用な上記抗微生物組成物を含むキット又はトレーにも関する。例えば、このようなキット又はトレーは、カテーテルの挿入、灌注又は注入を目的とする抗微生物組成物を予め充填された、密閉された滅菌済カテーテルシリンジを含みうる。トレー又はキットは、潤滑剤、予めパッケージングされた消毒用供給剤、予めパッケージングされた付加的な抗微生物組成物、予めパッケージングされたアルコールタオルなどを含みうる。加えて、キット又はトレーは、本明細書で述べる処理におけるキット又はトレーの使用方法に関する説明書を含みうる。また、侵襲的デバイスは患者への移植又は挿入前に本明細書で述べる抗微生物組成物中に保存されうる。
【0081】
(処理対象微生物)
本明細書で述べる抗微生物組成物で処理されるカテーテルの使用は、限定的ではないが次の微生物(細菌、ウイルス及び菌類)によって引き起こされる細菌尿を低減する:Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)、Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)及び他のStaphylococcus(ブドウ球菌属)、Escherichia coli(大腸菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Proteus mirabilis(ミラビリス変形菌)、Providencia stuartii、Pseudomonas属、Enterococci(腸球菌)、Proteus属、Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)、Enterobacter属、Candida属、Candida galabrata、Candida albicans、Serratia marcescens、Citrobacter属、Morganella morganii、Enterococcus faecalis(大便レンサ球菌)、Stenotrophomonas属、Clostridium difficile、Lactobacillus属並びに他の尿路病原性微生物、アデノウィルス及びヘルペス。
【0082】
本開示内容に基づくカテーテルの処理又は患者の抗微生物処理には、上記抗微生物組成物によるカテーテルのような上記デバイスの処理又はこのような組成物を、カテーテルデバイスを通して患者に投与することが含まれる。このような処理には、使用前のカテーテルの処理、更に、男性又は女性患者(成人又は小児)に挿入される際のカテーテルの処理が含まれる。処理には、本明細書で述べる組成物のカテーテルとの任意の形態の接触及び患者への投与による本明細書で述べる組成物を用いた抗微生物処理が含まれる。このような処理の非限定的例には、すすぎ洗い、洗浄、洗い流し、注入及び灌注が含まれる。処理には、抗微生物組成物を有するカテーテルのバルーンの膨張も含まれる。処理には、本明細書で述べる組成物で患者の膀胱を浸すことも含まれる。
【実施例1】
【0083】
カテーテルとともに使用するための典型的な組成物の一部:
組成物A:
2mM HOCl
0.9%塩(150mM)
pH4
組成物B:
2mM HOCl
0.4%塩(150mM)
pH3.5
組成物C:
6mM HOCl
0.9%塩(150mM)
pH4
10mM酢酸ナトリウム−酢酸
組成物D:
6mM HOCl
0.9%塩(150mM)
pH5
15mMリンゴ酸
組成物E:
10mM HOCl
0.9%塩(150mM)
pH6
20mMリン酸
【実施例2】
【0084】
(女性及び男性における尿道を通したカテーテルの挿入)
以下はカテーテルの挿入及び抗微生物組成物の使用のための全体的処置の説明である。当業者であれば、滅菌法及び閉塞への対処を含むカテーテルの取扱い方に堪能であり、また、医師、看護師又は医療専門家に援助を求める時宜を知悉していると想定し、本発明に関連するステップについてのみ説明する。処置の他のステップ(例えば、手の洗浄又は浄化、カテーテルの潤滑、カテーテル留置時のカテーテルバルーンの膨張)、安全対策(例えば、滅菌グローブの使用及びその使用方法)、処置対象患者への指示(例えば、呼吸又は弛緩の指示)は医師又は看護師には周知である。
−5〜100mlの抗微生物組成物C(実施例1に記載)を用いて尿道口を清浄する。
−カテーテルとの接触前に尿道が殺菌されるように、挿入プロセス全体にわたり、カテーテルを通して抗微生物組成物を軽く押し上げる。
−1〜20mlの抗微生物組成物Cを用いて、カテーテルが尿道を通して膀胱内に挿入されているときにカテーテルを浸潤する。
【実施例3】
【0085】
(部分的に閉塞した(痂皮形成)尿道カテーテルの開通)
以下は部分的に閉塞したカテーテルを通したフローを改善するカテーテル灌注処置の一例である。膀胱から尿が排出されるように、カテーテル先端(プラグ)における痂皮を除去するため、カテーテルに組成物を灌注する。
【0086】
本発明によるカテーテルの灌注は、上記抗微生物組成物で閉塞した尿道カテーテルを開通する処置を構成しうる。当業者であれば、滅菌法及び閉塞への対処を含むカテーテルの取扱い方に堪能であり、また、医師、看護師又は医療専門家に援助を求める時宜を知悉していると想定し、本発明に関連するステップについてのみ説明する。処置の他のステップ(バルーンの収縮方法)、安全対策(例えば、滅菌グローブの使用及びその使用方法)処置対象患者への指示(例えば、呼吸又は弛緩の指示)は医師又は看護師には周知である。
【0087】
本明細書で開示される組成物による灌注処置には、以下の使用説明を用いることができる。
−1〜100mLの抗微生物組成物A(実施例1に記載)をシリンジに吸引する。
−カテーテルを排液管から取り外した後、抗微生物組成物を含むシリンジをカテーテルに挿入する。
−シリンジのプランジャーを軽く押し込み、カテーテルに組成物を緩徐に押し込む。カテーテルに組成物を無理やり押し込まない。
−組成物がカテーテルに容易に流入しない場合、プランジャーを軽く引き戻し、ほとんど力を入れずに流体を吸引(回収)する。
−抗微生物組成物をカテーテルに挿入した後、カテーテルからシリンジを取り外し、接続チューブを挿入する。
−再接続後、チューブを点検し、尿が流れているかどうかを確認する。10〜15分後に尿が流れていない場合、灌注プロセスを繰り返す。
【実施例4】
【0088】
(膀胱注入処置)
本明細書で開示される組成物を用いた患者に対する注入処置には、以下の使用説明を用いることができる。当業者であれば、滅菌法及び閉塞への対処を含むカテーテルの取扱い方に堪能であると想定し、本発明に関連するステップについてのみ説明する。処置の他のステップ、安全対策(例えば、滅菌グローブの使用及びその使用方法)処置対象患者への指示(例えば、呼吸又は弛緩の指示)は医師又は看護師には周知である。
【0089】
膀胱注入は、膀胱洗浄又は膀胱処理浴とも称され、炎症、感染を緩和し、或いは膀胱の保護内層を修復するのに役立ちうる。この処理の間、カテーテルを用いて本明細書で述べる抗微生物組成物を膀胱に充填する。15〜20分の範囲の時間、膀胱内に組成物を保持する。次に、組成物を尿道を通して排尿させ、或いはカテーテルを通して膀胱から排出する。注入処理は2〜3か月の期間にわたり数回繰り返してよい。20〜80mLの本明細書で述べる組成物の膀胱への直接注入は、無菌シリンジにより成し、10〜100分、膀胱内に留まることが可能であるようにしうる。抗微生物組成物は自然排尿により排出されうる。最大限の症状緩和が得られるまで毎週処理を繰り返すことが推奨される。その後、処理間隔を適宜拡大しうる。
【実施例5】
【0090】
(抗微生物組成物の有効性)
腔内及び腔外留置Foleyカテーテルを殺菌する点における、生理食塩水と比較した0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)の抗微生物有効性を評価するため、従来の微生物学的方法を用いたin vitro動態モデルを考案した。
【0091】
0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)の抗微生物組成物のE.coli(大腸菌)又はPr.mirabilis(ミラビリス変形菌)が覆ったFoleyカテーテルに対する効果を、下記に詳述した材料及び方法を用いて示した。
材料:
BARD社製Foleyカテーテル
0.9%食塩水(150mM)中(2mM)HOCl(pH3.5)
Escherichia coli(大腸菌)ATCC 25922
Proteus mirabilis(ミラビリス変形菌)ATCC 29245
【0092】
中和ブロス:デキストロース、レシチン、チオ硫酸ナトリウム、膵臓のカゼイン消化物、Tween(登録商標)80、酵母抽出物、重硫酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、一カリウムリン酸塩及びブロムクレゾールパープルを含有するブロス
栄養ブロス及び寒天
分光光度計
【0093】
方法:
HOClのバイオフィルム形成を破壊する能力を以下のように評価した。まず、Proteus mirabilis(ミラビリス変形菌)又はEscherichia coli(大腸菌)の存在下、栄養ブロス中で48時間、カテーテルの1cm長の小片にバイオフィルムを樹立した。続いて、様々な時間にわたり0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)にバイオフィルム保持片を暴露させた。暴露後、反応を停止させるため、カテーテル片を中和ブロス1mLに移した。次に、中和ブロス0.1mL(10%)を栄養寒天に沈着させ、コロニー数を計算した。得られたCFU(コロニー形成単位)値に10を掛け、1処理サンプルあたりの実際のCFU/mL値を得た。
【0094】
処理後にカテーテル片に残存する生細菌の量を測定するため、バイオフィルム保持カテーテル片を新鮮増殖培養液を含むチューブに移した。37℃で4時間、シェーカー中で増殖させた後、600nmにて吸光度(OD)を測定した。
【0095】
下記表に結果を示す。データを収集しなかった場合をn.d.で示す。
【0096】
【表1A】

【0097】
結果:E.coli(大腸菌)に感染したサンプルであるが、未処理サンプルはCFU/ml=>>3000コロニー及びOD600=0.60を有していた。
【0098】
【表1B】

【0099】
結果:Pr.mirabilis(ミラビリス変形菌)に感染したが未処理のサンプルはCFU/ml=>>3000コロニー及びOD600=0.17を有していた。
【0100】
本試験の条件下、E.coli(大腸菌)及びPr.mirabilis(ミラビリス変形菌)に48時間感染させ、次に、0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)で処理したFoleyカテーテルは、最少の回復可能な細菌(CFU/ml)を有することが示された。これは、処理カテーテルから細菌を再培養しようとする試み後の極低吸光度測定値(平均0.057OD600単位、個々のデータは示さず)によっても示された。対照的に、生理食塩水で処理した同じ感染カテーテルは、抑制とはならず、むしろ120分の処理であっても細菌の有意な再増殖をもたらした(生菌数及び吸光度の両方で)。従って、本実施例で述べたin vitroバイオフィルム殺菌モデルは、生理食塩水に比し、0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)の有意な抗微生物特性を示した。
【0101】
外観検査により、感染時におけるカテーテル面へのバイオフィルムの付着及び引き続いての食塩水ではなく0.9%食塩水中2mM HOCl(pH3.5)によるバイオフィルムの除去が示された。
【0102】
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【実施例6】
【0103】
(HOClによるバイオフィルムの根絶及び防止のためのin vitroモデルの樹立:
パートA:in vitroでバイオフィルムを作製するためのシステムの設定及び妥当性検証)
切断され、無菌法を用いて事前に滅菌したフローシステム(図1)に設置される14サイズFoleyカテーテル(NovaCal社より提供)を用いる試験システムを構築した。このシステムは5つの並行チャネルからなり、1カテーテルあたり1チャネルである。培養液リザーバへの逆増殖を防止するため、フロー遮断部を介して無菌培養液をシステムに供給した。システム全体を37℃のインキュベータに配置した。人工尿培養液で30分調整した後、37℃にて人工尿培養液中で増殖させたウレアーゼ陽性Escherichia coli(大腸菌)ATCC 25922の一晩の培養から得た接種剤2.0mlを、フロー遮断部に最も近接するバルブ(カテーテルの膀胱側)を介してシステムに導入した。ウレアーゼの産生を確認するため、各接種剤を試験した。接種後、カテーテルへの細菌の付着を許容するため、システムを2時間、静置条件下(フローなし)に置いた。次に、人工尿培養液のフローを開始し、3日間、0.75ml/分の単位時間量に維持した。図4参照。
【0104】
このモデルシステムにおけるバイオフィルムの形成密度を評価するため、最初の試験を行った。生菌数は、第3日目までにカテーテルの全長にわたり10CFU/cmにてバイオフィルムが樹立することを示した。第5日目及び第7日目の生菌数はほぼこのレベルに維持された。バイオフィルムの剥離が生じる可能性を阻止するため、第3日目に処理を行うことにした。
【0105】
(パートB:HOClによるバイオフィルムの根絶)
使用した被験物質:
無菌食塩水
HOCl,2mM,pH4,0.9重量%のNaCl
HOCl,20mM,pH4,0.9重量%のNaCl
【0106】
処理の有効性を示すため:各処理液HOCl及び無菌対照液20mlを30mlシリンジに装填し、シリンジポンプに接続した。シリンジから、フロー遮断部から最遠位のバルブ(カテーテルのバッグ側端部)にチューブの無菌部分を取り付けた。サンプリング目的で、この端部を「前端部」と称することにする。ポンプをオンにし、2.0ml/分にて10分、カテーテルを通して処理液を導入した。過剰な培養液及び処理液は廃物容器内に捕捉された。10分後、シリンジポンプをオフにし、カテーテル中に30分、溶液を静置した。次に、カテーテルを通してシリンジに溶液を回収し、30分のすすぎ洗いのために培養液のフローを再開し、次に、カテーテルをサンプリングした。
【0107】
効率的なサンプリングのため:各カテーテルを3セグメント(前端部、中間部、後端部)に分割し、各セグメントをサブサンプリングした。1つのサブサンプルを用いて平板菌数により細菌集団を定量し、もう1つのサブサンプルを、共焦点レーザー顕微鏡法(CSLM)を用いて、LIVE/DEAD(登録商標)Baclight(商標)細菌生存能キット(L7012、米国オレゴン州、Molecular Probes社)で染色することにより分析し、3つ目のサンプルを走査型電子顕徽鏡法(SEM)を用いて画像化した。
【0108】
生菌数を得るため、チューブの3センチメートル部分を切り離し、無菌ステンレス鋼ロッドで擦過して(無菌法を用いて)無菌リン酸緩衝食塩水(PBS)10.0mlを含有するチューブに入れた。次に、チューブを2分、超音波処理し、懸濁液を1分、ボルテックスした。生存可能な(培養可能な)細菌の数をPBSでの段階希釈及びスプレッドプレート法を用いた平板菌数により測定した。その結果をCFU/cmとして表し、次のように計算した。
【0109】
【数1】

【0110】
カテーテルの擦過部分の内腔の表面積を求め、2.826cmとなった。
【0111】
(結果及びデータ解釈)
3カテーテルそれぞれに対して3連続処理を行った。1つは対照としてPBS又は無菌0.9%食塩水で処理し、1つは2mM HOClで処理し、1つは20mM HOClで処理した。その結果を表2に示す。各被験物質に対する3カテーテル片の3処理からなる平均9処理からログ(CFU/cm)を計算した。
【0112】
【表2】

【0113】
表2:バイオフィルム根絶試験。結果は、尿道カテーテル・モデルシステムにおいて、NovaCal社製品による処理が汚染カテーテルから細菌バイオフィルムを除去する点で有効であるように思われることを示す。図5参照。
【0114】
CBE(Center for Biofilm Engineering at Montana State University(モンタナ州立大学バイオフィルム研究センター)http://www.erc.montana.edu)において開発された尿道カテーテルモデルは、有効な尿道カテーテルモデル試験システムであることが示された。E.coli(大腸菌)バイオフィルムは3日で約10cfu/cmにて均一な生菌数に増殖した。モデル内での5つの被験カテーテルにおいて増殖したバイオフィルムの均一性は、カテーテルにおける異なる処理条件に晒されたバイオフィルムの比較を可能とした。
【0115】
NovaCal社製品、2mM及び20mMでのHOClは細菌数及びバイオフィルムの存在を有意に減少させた(画像からの視覚的解釈)。高濃度のHOCl液は低濃度よりも有意に多い細菌除去を示した。
【0116】
(パートC:HOClによるバイオフィルムの防止)
使用した被験物質:
無菌食塩水
蒸留水による希釈1:3での白色ビネガー(フィルターを滅菌)
ネオマイシンの調剤:無菌食塩水1000ml中に1ml
HOCl,20mM,pH4,0.9重量%のNaCl
【0117】
(バイオフィルム防止試験では、以下の連続ステップを講じた)
第0日目:上記に詳述した試験システムでは、切断され、無菌法を用いて事前に滅菌したフローシステムに設置される14サイズFoleyカテーテルを用いた。培養液リザーバへの逆増殖を防止するため、フロー遮断部を介して無菌培養液をシステムに供給した。システム全体を37℃のインキュベータに配置した。人工尿培養液で30分調整した後、各カテーテルを殺菌剤で処理した。各処理液20.0mlを30mlシリンジに装填し、シリンジポンプに接続した。シリンジから、フロー遮断部から最遠位のバルブ(カテーテルのバッグ側端部)にチューブの無菌部分を取り付けた。サンプリング目的で、この端部を「前端部」と称することにする。ポンプをオンにし、2.0ml/分にて10分、カテーテルを通して処理液を導入した。過剰な培養液及び処理液は廃物容器内に捕捉された。10分後、シリンジポンプをオフにし、カテーテル中に30分、溶液を静置した。次に、カテーテルを通してシリンジに溶液を回収した。次に、カテーテルを無菌培養液で30分、すすぎ洗いした。
【0118】
第0日目のみ:37℃にて人工尿培養液中で増殖させたウレアーゼ陽性Escherichia coli(大腸菌)ATCC 25922の一晩の培養から得た接種剤を、フロー遮断部に最も近接するバルブ(カテーテルの膀胱側)を介してシステムに導入した。ウレアーゼの産生を確認するため、各接種剤を試験した。接種後、カテーテルへの細菌の付着を許容するため、システムを2時間、静置条件下(フローなし)に置いた。次に、人工尿培養液のフローを開始し、0.75ml/分の単位時間量に維持した。
【0119】
第1,3及び5日目:生菌数を得るため、チューブの3センチメートル部分を切り離し、無菌ステンレス鋼ロッドで擦過して(無菌法を用いて)無菌PBS 10.0mlを含有するチューブに入れた。次に、チューブを2分、超音波処理し、懸濁液を1分、ボルテックスした。生存可能な(培養可能な)細菌の数をPBSでの段階希釈及びスプレッドプレート法を用いた平板菌数により測定した。その結果をCFU/cmとして表し、第1段階で述べたように計算した。
【0120】
第1及び3日目:サンプリング後、上記のようにカテーテルを殺菌し、無菌培養液ですすぎ洗いした。
【0121】
第2及び4日目:上記のようにカテーテルを殺菌し、無菌培養液ですすぎ洗いした。サンプルは採取しなかった。
【0122】
第5日目:画像処理のためにサンプルを採取し、生菌数データのためにカテーテルの両端部をサンプリングした。
【0123】
(結果及びデータ解釈)
表3:バイオフィルム防止試験
【0124】
【表3】

【0125】
表3及び図6において認められるように、NVC−101は本試験の5日間、バイオフィルム形成を阻害するように思われた。NVC−101はビネガー及びネオスポリンに比し、特に第5日目に関し、カテーテル内のバイオフィルム形成を阻害する点において有意に優れていると思われた。
【実施例7】
【0126】
(患者から得たカテーテルにおける、HOClを用いた細菌数の低減の確立)
使用した被験物質:
無菌リン酸緩衝食塩水(PBS)
HOCl,20mM,pH4,0.9重量%のNaCl
【0127】
(HOClによる患者のカテーテルのex vivo処理)
病院職員によって患者からFoleyカテーテルを取り外し、無菌バッグ内に入れた。
Bozeman Deaconess病院(BDH)研究所において、カテーテルの外側を70%エタノールで清拭した。次に、カテーテルを3つのカテーテル部分に無菌的に切断した(バッグ側端部、中間部及び患者側端部)。ルーラー及び剃刀刃を用いて各部分を3.0cm長の切片に切断した。
【0128】
対照とした切片の3つ(1つはバッグ側端部、1つは中間部、1つは患者側端部)を無菌PBSに入れた。3つの切片(1つはバッグ側端部、1つは中間部、1つは患者側端部)を20mM HOCl中に入れた。カテーテル切片すべてを無菌ガラスチューブ内で個々に30分処理し、各々が完全に含浸するのに十分な溶液を有した。処理後、処理チューブ及びPBS対照チューブから各3.0cm切片を取り出し、処理液を除去するため、2分間のすすぎ洗い用の無菌PBSを含む第二のガラスチューブに入れた。次に、チューブから切片を取り出し、1.0cm及び2.0cm片に無菌的に切断した。2.0cm片を、無菌PBS10mlを含むチューブに入れ、ボルテックスし、超音波処理し、生菌プレート数のために希釈した。生存可能な(培養可能な)細菌の数をPBSでの段階希釈及びスプレッドプレート法を用いた平板菌数により測定した。サンプルを血液寒天板に配置した。結果は、コロニー形成単位/cm、CFU/cm(2.0cm長×0.25cm(半径)×3.14(pi)=1.57cm)として表した。1.0cm片を4%ホルムアルデヒド溶液に入れた。表4参照。
【0129】
【表4】

【0130】
(結果)
平均して、20mM HOClでカテーテル片を処理すると、無菌PBSで処理したカテーテル片と比べ、2.4ログの細菌増殖の減少となった。
【0131】
本発明は、本明細書で示した特定の実施形態及び実施例に関して開示されるが、これらの実施形態及び実施例は実施形態及び実施例を単に例示することを目的とするものであって範囲を限定することを目的としない。従って、種々の改変例及び変形例は当業者には明らかである。また、これらの改変例及び変形例は本発明の範囲内、更に特許請求の範囲内に含まれる。本明細書で引用した特許、論文及び文章を含む文献はすべて、参照してその全体が本明細書に組み込まれる。好ましいと特徴づけられ、或いは好ましいと特徴づけられないに関わらず、本発明の態様又は特徴は、好ましいと特徴づけられ、或いは好ましいと特徴づけられないに関わらず、本発明の任意の他の態様又は特徴と組み合わせられうると理解される。例えば、好ましいと述べた特徴、例えば、特定の組成物に対するpH範囲又は特定のpH(好ましい、好ましくないに関わらず)は、本発明から逸脱することなく、特定のハロゲン化物塩濃度のような別のパラメータ(好ましい、好ましくないに関わらず)と組み合わせられうる。このように述べることは、パラメータ、成分又は構成要素の任意の組合せにも適用される。「含む(include(s))」又は「含む(comprise(s))」という用語は、本明細書の本文において開放語(open term)として互換的に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】挿入過程のカテーテルを示す図である。
【図2】挿入後のFoleyカテーテルを示す図である。
【図3】挿入後のトリプルルーメンFoleyカテーテルを示す図である。
【図4】in−vitroバイオフィルムモデルを示す図である。
【図5】バイオフィルム根絶試験の表2のデータを示す図である。
【図6】バイオフィルム防止試験の表3のデータを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物によるデバイスのコロニー形成、デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は微生物バイオフィルムによるデバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、
(a)微生物感染のリスクがあり或いは微生物感染に冒された、患者への、移植又は挿入のための、デバイスの付属品を、任意で含む、医療デバイスと、
(b)(1)抗微生物有効量の、次亜塩素酸HOCl、次亜塩素酸源、次亜臭素酸HOBr、又は次亜臭素酸源を、含む、組成物と、
(2)塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つのハロゲン化物塩と、
(3)水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲のハロゲン化物塩濃度と、
(4)約3〜約6のpHと、任意で、
(5)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び/又は塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分と、
を含む水性抗微生物組成物と、
を含むことを特徴とする、抗微生物処理システム。
【請求項2】
前記抗微生物有効量の次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸が、前記水性組成物中、約0.1mM〜約75mMの濃度にて存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記医療デバイスが、中心静脈カテーテルと、腹膜カテーテルと、血液透析用シャントと、気管内チューブと、外科用ドレーンと、膀胱内又は膀胱周囲の、細菌、菌類、又はウイルス感染、及び/又は、患者の血流中の他の感染の、リスクがあり或いは感染に冒された、患者の、膀胱内への挿入のためのカテーテルと、任意でポートを含むデバイス付属品と、からなる群より選択される、侵襲的デバイスである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記患者が、細菌尿症又は菌血症の尿路感染(UTI)、及び/又は、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)の、リスクがあり或いは感染に冒されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記次亜ハロゲン酸の濃度が、前記組成物中、約2mM〜約20mMである、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記次亜ハロゲン酸が次亜塩素酸である、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約7〜約10g/lである、請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約9g/lである、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記システムが、広域スペクトルの抗生物質を更に含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
患者の抗微生物処理に適合し、任意で抗微生物処理使用説明書を備えた、キット又はトレーの形態の、請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
中心静脈カテーテルと、腹膜カテーテルと、血液透析用シャントと、気管内チューブと、外科用ドレーンと、膀胱内又は膀胱周囲の、細菌、菌類、又はウイルス感染、及び/又は、患者の血流中の感染の、リスクがあり或いは感染に冒された、患者の、膀胱内への挿入のためのカテーテルと、任意でポートを含むデバイス付属品と、からなる群より選択される、医療デバイスであって、一般的な細菌若しくは菌類感染、細菌尿又はCAUTI又は関連する菌類若しくはウイルス感染の、処理又は防止のための、水性抗微生物組成物で処理され、微生物による前記デバイスのコロニー形成、前記デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は微生物バイオフィルムによる前記デバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、前記水性抗微生物組成物が、
(A)抗微生物有効量の、少なくとも1つの次亜ハロゲン酸(HOHal、この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源と、
(B)塩成分(ハロゲン化物塩)濃度が前記組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲である、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩)と、
(C)約3〜約6の前記組成物のpHと、
(D)前記組成物の約0.1mM〜約75mMの、抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸と、任意で、
(E)pHを約3〜6に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、前記抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分と、を含むことを特徴とする、デバイス。
【請求項12】
前記次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸の、抗微生物有効量が、約2mM〜約20mMである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約7〜約10g/lである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約9g/lである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
中心静脈カテーテルと、腹膜カテーテルと、血液透析用シャントと、気管内チューブと、外科用ドレーンと、膀胱内又は膀胱周囲の、細菌、菌類、又はウイルス感染、及び/又は、患者の血流中の感染の、リスクがあり或いは感染に冒された、患者の、膀胱内への挿入のためのカテーテルと、任意でポートを含むデバイス付属品と、からなる群より選択される、医療デバイスであって、細菌尿を含む一般的な細菌感染又はCAUTI又は菌血症又は関連する菌類若しくはウイルス感染の、処理又は防止のための、水性抗微生物組成物で処理され、微生物による前記デバイスのコロニー形成、前記デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は微生物バイオフィルムによる前記デバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、前記組成物が、
(A)抗微生物有効量の、少なくとも1つの次亜ハロゲン酸(HOHal、この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源と、
(B)ハロゲン化物塩濃度が前記水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lの範囲である、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩)と、
(C)約3〜約6の前記組成物のpHと、
(D)前記水性組成物中、約0.1mM〜約75mMの、抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸と、
(E)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、前記抗微生物処理システムに適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分と、を含むことを特徴とする、デバイス。
【請求項16】
前記次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸の、抗微生物有効量が、約2mM〜約20mMである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約7g/l〜約10g/lである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項18】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約9g/lである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記医療デバイスが患者に挿入される前後に、前記デバイス内又は近傍の微生物感染を、処理し、阻害し、又は防止する、方法、或いは、前記デバイスが患者に挿入された後に、患者における、細菌、ウイルス、又は菌類感染を、処理し、阻害し、又は防止する、方法であって、次の処理ステップ:
(a)患者への挿入前又は患者からの除去後、前記デバイスを、請求項11に記載の要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含む組成物と、接触させるステップと、
(b)患者への挿入前又は患者からの除去後、前記デバイスを、請求項11に記載の要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含む組成物で、洗浄し、浸潤し、或いは洗い流すステップと、
(c)微生物による前記デバイスのコロニー形成、前記デバイスへの微生物バイオフィルムの付着、又は前記デバイスにおける微生物バイオフィルムによる前記デバイスの遮断を、防止し或いは処理するため、患者への挿入後、前記デバイスに、請求項11に記載の要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含む組成物を、灌注するステップと、或いは、
(d)膀胱の内層の菌類又は細菌感染を、処理し或いは防止するため、患者の膀胱内に、請求項11に記載の構成要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含む組成物を、前記デバイスを通して、注入するステップと、
を単独で或いは組み合わせて、含むことを特徴とする、方法。
【請求項20】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約7g/l〜約10g/lの範囲である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約9g/lである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項19に記載の処理のための、請求項11に記載の要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含む組成物の使用。
【請求項23】
請求項11に記載の要素(A)〜(D)及び任意で(E)を含み、請求項19に記載の処理においてキット又はトレーを用いるための使用説明書を任意に含む、キット又はトレー。
【請求項24】
患者における微生物感染の処理又は防止のための、水性抗微生物組成物であって、
(a)抗微生物有効量の、次亜ハロゲン酸(HOHal、この場合、Halはクロロ又はブロモである)又は次亜ハロゲン酸源と、
(b)塩成分(ハロゲン化物塩)濃度が水性組成物の少なくとも約4〜約12g/lである、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、及びこれらの混合物、からなる群より選択される、少なくとも1つの塩成分(ハロゲン化物塩)と、
(c)約3〜約6のpHと、
(d)pHを約3〜6の範囲に維持するための、緩衝剤、カルシウム及びマグネシウムキレート化剤、抗微生物組成物に適合する生物学的に許容可能なこれらの酸及び/又は塩、並びにこれらの混合物、からなる群より選択される、構成成分と、
を含むことを特徴とする、水性抗微生物組成物。
【請求項25】
次亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸源由来の次亜ハロゲン酸の、前記抗微生物有効量が、前記水性組成物中、約0.1mM〜約75mMである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、前記組成物の約7〜約10g/lである、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記ハロゲン化物塩の濃度が、約9g/lである、請求項26に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−517335(P2009−517335A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532415(P2008−532415)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/036968
【国際公開番号】WO2007/035911
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(302058613)ノバベイ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】NOVABAY PHARMACEUTICALS,INC.
【Fターム(参考)】