説明

止水材

【課題】十分に短時間のうちに止水性能を発揮できる止水材を提供すること。
【解決手段】本発明に係る止水材は、ベントナイトを含む固形分と、疎水性を有する液体とを含有することを特徴とする。複数のベントナイト粒子1の間に形成され、疎水性液体で満たされた間隙2に水が浸入すると、間隙2内の疎水性液体は水と混ざり合うことなく、水に容易に押し出され、間隙2内の疎水性液体は水に置換される。このことにより、水の浸入から短時間のうちにベントナイト粒子1が水と接触する。したがって、ベントナイト粒子1の近傍の親水性の液体が十分に希釈された後にベントナイト粒子1が膨潤し始める従来の止水材と比較し、本発明の止水材は短時間のうちに止水性能を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイトを含有する止水材に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路や廃棄物処分場などの構造物を地下に構築する際、地下水の浸入などを防止する目的で構造物の周囲やコンクリート部材の継ぎ目に止水材を配置する施工が行われる場合がある。このような施工においては、ベントナイトを含有する止水材が一般に使用される。
【0003】
上記止水材の止水性能は、ベントナイトが水と接して膨潤することによって発揮される。例えば、構造物の外枠をなすコンクリート部材にひび割れが生じた場合、割れ目から地下水が浸入するおそれがある。このような事態が生じた場合でも、構造物の周囲に止水材からなる止水層を形成しておくと、地下水と接して膨潤したベントナイトが割れ目に入り込み、これを閉塞することで止水される。
【0004】
ベントナイトを含有する止水材としては、種々のものが知られている。例えば、特許文献1には、ベントナイトと、エタノールと、水とを含有するベントナイトスラリーが記載されている。
【特許文献1】特開2003−213259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ベントナイトはアルカリ金属塩の水溶液やエタノールなどのアルコールと接しても、膨潤しないという性質を有する。したがって、これらの液体を止水材の調製に使用することで、止水材の調製時や保管時にベントナイトが膨潤することを抑制できる。特許文献1においてベントナイトスラリーの調製にエタノールを使用するのは、ベントナイトの上記性質を利用したものということができる。
【0006】
しかしながら、アルカリ金属塩の水溶液やエタノールを用いて調製された止水材は、止水性能が発揮されるまでにある程度時間を要するという点において改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、十分に短時間のうちに止水性能を発揮できる止水材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る止水材は、ベントナイトを含む固形分と、疎水性を有する液体とを含有することを特徴とする。
【0009】
本発明者らは、種々の止水材を調製し、止水性能が発揮されるまでの時間を検討した。その結果、止水性能が発揮されるまでの時間は、ベントナイトや砂などの固形分に配合する液体の種類によって大きく変わるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明者らは、従来の止水材では止水性能が発揮されるまでに時間を要する点について検討した。この点について、図1を参照しながら、ベントナイトとエタノールとを混合して得られた止水材を例に挙げて説明する。
【0010】
図1は、止水材中のベントナイト粒子の状態を示す模式断面図である。従来のように、止水材の調製にエタノールを使用すると、複数のベントナイト粒子1の間に形成される間隙2はエタノールで満たされる。ここに水が浸入すると、親水性を有するエタノールは水と混ざり合って徐々に希釈される。しかし、ベントナイト粒子1近傍のエタノール濃度が十分に低減されないと、ベントナイト粒子1は膨潤することができないため、従来の止水材は止水性能が発揮されるまでにある程度時間を要すると推察される。
【0011】
これに対し、本発明の止水材は、疎水性を有する液体(以下、場合により「疎水性液体」という。)が配合されている。この疎水性液体で満たされた間隙2に水が浸入すると、間隙2内の疎水性液体は水と混ざり合うことなく、水に容易に押し出される。このように間隙2内の疎水性液体が水に容易に置換されることにより、ベントナイト粒子1は水の浸入から短時間のうちに水と十分に接触できる。したがって、ベントナイト粒子1の近傍の親水性の液体が十分に希釈された後にベントナイト粒子1が膨潤し始める従来の止水材と比較し、本発明の止水材は短時間のうちに止水性能を発揮できる。
【0012】
疎水性を有する液体は、炭素数が6〜15のアルカン、沸点が140〜260℃以下の灯油留分、植物油、トルエン及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するものであってもよく、あるいは、無極性の有機分子からなるものであってもよい。
【0013】
また、本発明の止水材においては、固形分が砂及び礫の少なくとも一方を含有することが好ましい。砂及び/又は礫を含有する止水材からなる止水層は、その厚さ方向に圧縮力が加わっても、砂や礫が存在することで層厚を十分に保持できる。したがって、止水材が所定の位置から押し出されて止水性能が発揮されなくなるといった事態を十分に防止できる。
【0014】
本発明の止水材は、十分な止水性能を得る観点から、ベントナイトの含有率が固形分の全質量基準で30質量%以上であることが好ましい。また、ベントナイト粒子の表面に付着している水が少ないほど、十分に短時間のうちに止水性能が発揮されるため、止水材に含まれる水分は少ないことが好ましい。
【0015】
また、本発明の止水材は、下記式(1)によって算出される液固比が60〜70%であることが好ましい。液固比が上記範囲内の止水材は、適度な流動性を有するとともに、固形分と液体とが分離することを十分に抑制できる。
【数1】

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分に短時間のうちに止水性能を発揮できる止水材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
まず、本実施形態に係る止水材について説明する。この止水材は、ベントナイトを含む固形分と、疎水性液体とを含有する。
【0019】
止水材の調製に使用するベントナイトとして、ベントナイト原鉱石から製造したものが挙げられる。ベントナイトの最大粒径は、特に限定されるものではないが、十分な止水性を達成する観点から、5mm以下であることが好ましい。
【0020】
止水材に含まれる固形分中のベントナイトの含有率(固形分の質量基準)は30質量%以上であることが好ましい。極めて高い止水性を要求される箇所に止水材が使用される場合、固形分が実質的にベントナイトのみからなることが最も好ましい。ベントナイトの含有量が30質量%未満であると、30質量%以上の場合と比較して、止水材の止水性能が低くなる傾向にある。他方、コストの観点からすると、止水材に含まれる固形分中のベントナイトの含有率(固形分の質量基準)は70質量%以下であることが好ましい。ベントナイトの含有率が低い固形分(ベントナイト含有率:5質量%以上30質量%未満)を使用する場合でも、一定の止水性能が得られるため、要求される止水性能に応じてベントナイトの含有率は適宜設定すればよい。
【0021】
固形分に含まれるベントナイト以外の成分としては、砂や礫などが挙げられる。止水材に配合する砂及び礫の合計量は、ベントナイト100質量部に対して、230質量部以下であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。砂及び礫の合計量が230質量部を超えるとベントナイトの含有量が不足し、膨潤による止水作用が不十分となる傾向がある。原料費の節減の観点から、砂及び礫として、現場付近で採取される砂礫、いわゆる現場発生土を使用してもよい。
【0022】
固形分として、ベントナイトと共に砂及び/又は礫を配合した場合、止水材からなる止水層に対し、その厚さ方向に圧縮力が加わっても、砂や礫が存在することで止水層の厚さが十分に保持されるという利点がある。すなわち、止水層をなす止水材が所定の位置から押し出されて止水性能が発揮されなくなるといった事態を十分に防止できる。
【0023】
本実施形態に係る止水材の調製に使用する疎水性液体としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、いわゆる無極性分子からなる液体などが挙げられる。より具体的には、疎水性液体として、炭素数が6以上15以下のアルカン、沸点が140℃以上260℃以下の灯油留分、植物油、トルエン及びシリコーンオイルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の疎水性液体のなかでも、コンクリートや金属に対して無害であり、高い化学的安定性を有するなどの点から、シリコーンオイルが特に好適である。また、シリコーンオイルは、止水材の用途に応じて所望の粘度のものを適宜選択して使用できるという利点がある。
【0024】
シリコーンオイルの好適な例としては、ジメチルシリコーンオイルが挙げられる。なお、疎水性を有するものであれば、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部が他の有機基や水素元素で置換されたシリコーンオイルを使用してもよい。
【0025】
本実施形態に係る止水材は、上記の固形分と疎水性液体とを、ミキサーなどの攪拌装置を用いて混合することによって得ることができる。上記式(1)で表される止水材の液固比は、60〜70%であることが好ましい。液固比が60%未満であると、止水材の流動性が不十分となりやすく、他方、70%を超えると固形分と液体分とが分離しやすくなる。
【0026】
上記のようにして得られた止水材は、ベントナイトの膨潤性の観点から、水の含有量がなるべく少ないことが好ましい。具体的には、止水材を調製に使用するベントナイトとしては、含水比が15%以下のものが好ましく、10%以下のものがより好ましい。ここで、ベントナイトの含水比(%)は、ベントナイトに含まれる水の質量を当該ベントナイトの乾燥質量で除して得られる値である。なお、市販されているベントナイトの含水比は、ロットや天候によって異なるが、通常、7〜10%である。
【0027】
次に、図2を参照しながら、止水材の使用形態について説明する。図2は、2つのコンクリート部材5a,5bと、これらの継ぎ目に設けられた止水層10とを示す模式断面図である。同図に示す止水層10は、ペースト状の止水材で形成されている。
【0028】
コンクリート部材5a,5bの間に止水層10を形成する方法としては、コンクリート部材5a,5bを所定の位置に設置した後、止水材を継ぎ目に注入する方法、あるいは、コンクリート部材5a,5bの少なくとも一方の表面に止水材を塗布した後、コンクリート部材5a,5bを所定の設置する方法などが挙げられる。
【0029】
次に、図1,3を参照しながら、本実施形態に係る止水材の止水性能が水の浸入から短時間のうちに発揮されるメカニズムについて説明する。図3に示すように、右側のコンクリート部材5bにひび割れCが生じ、このひび割れCから止水層10に向けて水が浸入してきた場合において、ベントナイト粒子1の間隙2内の疎水性液体が、浸入してきた水によって容易に置換される主因は、各々の物質間の結合力に基づくものと推察される。
【0030】
すなわち、止水材に含まれるベントナイト粒子1と疎水性液体を構成する分子とは分子間力で結合している。これに対し、浸入してきた水とベントナイト粒子1とは水素結合によって結合する。水素結合の結合力は分子間力に基づくものよりもはるかに強いため、疎水性液体で満たされた間隙2に水が浸入すると、ベントナイト粒子1と疎水性液体を構成する分子との分子間力による結合は引き剥がされ、疎水性液体は間隙2から追い出される。これにより、ベントナイト粒子1は、水の浸入から短時間のうちに水と十分に接触できる。水と接触したベントナイト粒子1は、水を吸収することによって直ちに膨潤する。膨潤したベントナイトがひび割れCを塞ぐことによって、ひび割れCからの浸水が抑制される。
【0031】
水によって間隙2から追い出された疎水性液体が周辺のコンクリート部材の空隙などに至れば、その疎水性により当該周辺箇所において撥水効果が得られるといった副次的な効果も期待できる。
【0032】
以上、本発明に係る止水材の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、止水材からなる止水層10をコンクリート部材5a,5bの間に形成する場合を例示したが、止水層10の敷設箇所はこれに限定されない。例えば、止水層は地下水などの水が現に出水している施工面に接するように設けてもよく、現状では出水は認められないものの時期によっては出水が生じる面に接するように設けてもよい。
【0033】
止水材からなる止水層は、液固比が高い止水材を用いる場合は噴霧工法によって形成してもよく、液固比が低い止水材を用いる場合は吹き付け工法によって形成してもよい。ただし、これらの工法を採用する場合には、安全性の点から、疎水性液体として引火性が十分に低いものを使用することが好ましい。
【0034】
また、上記実施形態においては、ペースト状の組成物からなる止水材を例示したが、本発明の止水材は、図4に示すように、ロープ状に形成されたものであってもよい。図4に示す止水用ロープ20は、水溶性のポリビニルアルコール系の合成繊維からなるメッシュ22と、その中に収容され且つロープ状に形成された上記実施形態に係る止水材24と備える。この止水用ロープ20は、例えば地下構造物のコンクリート打継部分やジョイント部分等における止水材として好適に利用できる。
【0035】
更に、本発明の止水材は、図5に示すように、シート状に形成されたものであってもよい。図5に示す止水用シート30は、シート状に形成された上記実施形態に係る止水材34と、これを挟むように設けられた布32a,32bとを備える。この止水用シート30は、例えば廃棄物処分場や池などにおける遮水シートとして好適に利用できる。
【0036】
(実験例)
本発明に係る止水材に含まれるベントナイトの膨潤性を確認するため、表1に示すように、液固比が互いに異なる6種類の止水材1〜6を調製した。なお、止水材1〜6はいずれも、粉末状のベントナイト(固形分)とシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、20℃における粘度:20mPa・s)とを混合することによって得た。
【0037】
止水材1〜6を別々のシリンダーにそれぞれ収容し、シリンダーに水を注ぎ入れた。各シリンダー内においては、水の注入後、シリコーンオイルが液面付近に直ちに浮上すると共に、ベントナイトの膨潤が観察された。
【0038】
また、止水材1〜6の流動性を評価するため、各止水材のフロー値(cm)を測定した。フロー値は以下のようにして測定した。すなわち、まず、ガラス板の表面に円筒部材(内径80mm、高さ80mm)を垂直に立て、この円筒部材内に止水材を充填した。その後、円筒部材を引き上げることで、円筒部材内の止水材をガラス板上に流下させた。止水材の拡がりが静止した後、ガラス板上に広がった止水材の直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とした。表1及び図6に結果を示す。なお、本測定では、止水材の粘度のチクソトロピーが顕著であったため、正確なフロー値を測定することが困難であったが、ペースト状の止水材の好適なフロー値は、止水材の扱いやすさの点から15cm程度以上であると推察される。
【0039】
止水材1,2,4〜6の固形分と液体分との分離性を評価するため、各止水材のブリージング率(%)を以下のようにして測定した。すなわち、各止水材を別々のシリンダーにそれぞれ収容し、24時間放置した後、シリンダーの液面及び固面の高さから固形分の体積及び固形分の上に分離したシリコーンオイルの体積をそれぞれ測定してブリージング率を算出した。表1及び図7に結果を示す。ペースト状の止水材のブリージング率についての許容範囲は、10%程度以下と推察される。ただし、止水材は、セメントのように化学反応を生じるわけではないため、固形分とシリコーンオイルとが分離したとしても新たに止水材を追加することによってブリージングによる影響を解消できる場合もある。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】複数のベントナイト粒子及びこれらの間に形成される間隙を示す模式断面図である。
【図2】本発明に係る止水材からなる止水層がコンクリート部材の間に形成された状態を示す模式図である。
【図3】図2に示すコンクリート部材の一方にひび割れが生じた状態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る止水材の他の実施態様を示す正面図である。
【図5】本発明に係る止水材の更に他の実施態様を示す断面図である。
【図6】実験例で調製した止水材のフロー値の測定結果を示すグラグである。
【図7】実験例で調製した止水材のブリージング率の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1…ベントナイト粒子、2…間隙、5a,5b…コンクリート部材、10…止水層(止水材)、C…ひび割れ、20…止水用ロープ、24,34…止水材、30…止水用シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベントナイトを含む固形分と、疎水性を有する液体とを含有することを特徴とする止水材。
【請求項2】
前記液体は、炭素数6〜15のアルカン、沸点140〜260℃の灯油留分、植物油、トルエン及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の止水材。
【請求項3】
前記液体が無極性の有機分子からなることを特徴とする、請求項1に記載の止水材。
【請求項4】
前記固形分が砂及び礫の少なくとも一方を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の止水材。
【請求項5】
ベントナイトの含有率が前記固形分の全質量基準で30質量%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の止水材。
【請求項6】
下記式(1)によって算出される液固比が60〜70%であることを特徴とする、請求項1〜5に記載の止水材。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−249401(P2009−249401A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95323(P2008−95323)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】