説明

止水部を有する電線束及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、少ない樹脂で十分な止水性を持つ電線束を提供し、かつその製造方法の提供することにある。
【解決手段】 本発明の止水部を有する電線束は、複数の電線11を束ねた電線束の隙間に樹脂12を充填して形成した止水部を有する電線束において、前記止水部における前記樹脂12と電線束からなる全断面積が、電線束を構成する電線11の総電線断面積の4倍以下であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水部を有する電線束及びその製造方法に関するもので、特に自動車等のパネル貫通穴に装着させるグロメットに挿通させるワイヤハーネスの電線束に止水部を設けた電線束及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の輸送機の車室とエンジン、モータ等の原動機のルームとを区切るパネル等に設けられた貫通穴に、電線を複数本集束したワイヤハーネスを引き通す場合には、このワイヤハーネスにグロメットを取り付けて、このグロメットを前記貫通穴に挿着している。この際、原動機のルームから輸送機の車室に水やほこりが侵入しないように、グロメットとワイヤハーネスの隙間には止水処理が施される。
【0003】
また水やほこりの侵入は、グロメットとワイヤハーネスの隙間だけではなく、ワイヤハーネスを構成する複数の電線の隙間からも起こり得る。そのためワイヤハーネスを構成する電線束そのものについても同様に止水処理が必要である。
【0004】
電線間の止水処理の方法には、大きく分けて、以下の2つの方法がある。
一つの方法は、特許文献1に示されているように、ワイヤハーネスを構成する電線を一列に並べ、これに止水性の樹脂を塗布後、断面が円形になるように電線を集束させる方法である。
もう一つの方法は、特許文献2に示されているように、予め止水性の樹脂を塗布した防水シートを電線束に巻き付け、断面が円形になるように一対の型で加圧成型するものである。この方法では一対の型で加圧することにより、止水性の樹脂を電線束内部に浸透させるとともに、電線束の断面形状を円形に修正するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2003−059359号公報
【特許文献2】特開2003−123560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記のいずれの方法を使用した場合でも、電線束の径は止水性の樹脂(以下単に樹脂という)を充填する前に比べて大きくなることは自明である。特に、十分な止水性を確保するためには電線間に多くの量の樹脂を充填する必要がある。このため、止水性確保を単純に考えた場合、樹脂が充填された止水部の電線束の径は大きくなる。
【0007】
しかしながら止水部を有する電線束の、前記止水部を有する部分の外径が局所的に大き過ぎる場合には、この止水部へのグロメットの装着作業や、このグロメットをパネルの貫通穴に挿通する作業等の作業性が悪くなるとともに、樹脂の使用量が増えるためコストが増える問題点があった。
さらに、樹脂の使用量が多くなることにより樹脂の硬化に時間がより長く掛かる。そのことは単に製造に要する時間の増加に止まらず、時間が長くなった分、硬化中に何らかの外力が加わり電線が動いてしまって止水部の形成に失敗する、という危険性も高まってしまう。
【0008】
このため前述した特許文献2に示されるような電線束を加圧して止水部を形成する方法が考えられている。
しかし、特許文献2に記載の方法では、止水部を形成する部分の電線束の最適な外径が提示されていない。加えて加圧前の電線束の断面の形状にあわせた加圧型を使用しないと、電線束を均一に加圧することができず断面が円形になり難い、という問題があった。このため外形や外径の異なる電線束を加圧する場合には、電線束の種類の数だけ加圧型を用意しなければならない。
このことは製造コストを高める点でも問題がある。また、加圧前の電線束の形状にはばらつきがあり、著しく形が悪いと最適な外径を有する加圧型を使用しても、電線束をその周囲から均一に加圧できないため、所望の止水部を形成することが難しい場合も起こり得る。
【0009】
上記問題に鑑み本発明の目的は、充分な止水性を有し、しかも止水部を形成する樹脂量が少なくてすむ止水部を有する電線束を提供することであり、加えてその製造方法をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく請求項1記載の止水部を有する電線束は、複数の電線を束ねた電線束の隙間に樹脂を充填して形成した止水部を有する電線束において、前記止水部における前記樹脂と電線束からなる断面積が、電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下であることを特徴とするものである。
【0011】
このようにしてなる請求項1記載の止水部を有する電線束によれば、最適な外径を有する止水部が得られる。そのため止水性を確保する上で必要以上の樹脂を使用せずに止水部を形成できる。また樹脂の硬化にも必要以上の時間を必要としなくなる。その結果、材料コストも作業コストも低減できる。
また硬化時間が短くて済む、ということは硬化中に不慮の外力で電線束が動いて、止水部の形成が失敗する危険性も低くすることができる。
【0012】
また請求項2記載の止水部を有する電線束の製造方法は、複数の電線を束ねた電線束の隙間に樹脂を充填して形成した止水部を有する電線束の製造方法において、樹脂が塗布された非透水性シートを前記樹脂が塗布された面を内側にして電線束に巻き付けた後、前記電線束を前記非透水性シートの外面から均一に加圧、圧縮することを特徴とするものである。
【0013】
このようにしてなる請求項2記載の止水部を有する電線束の製造方法によれば、樹脂が塗布された非透水性シートを電線束に巻き付けた後、前記電線束を非透水性シートの外面から均一に加圧、圧縮できるので、具体的には流体を介して静水圧を付加せしめて、電線束をその周方向いずれの方向からも均一に加圧、圧縮できるので、電線束内に樹脂を均一に充填できる。よって品質に優れた止水部を形成できる。
【0014】
さらにまた請求項3記載の止水部を有する電線束の製造方法は、請求項2記載の止水部を有する電線束の製造方法において、前記非透水性シートの外面に、内部に流体を注入して加圧、圧縮をすることが可能な袋を装着し、該袋に流体を注入して前記電線束を前記非透水性シートの外面から均一に加圧、圧縮することを特徴としている。
【0015】
このようにしてなる請求項3記載の止水部を有する電線束の製造方法によれば、電線束の外側に巻かれた樹脂が塗布されてなる非透水性シートの外面から、内部に流体が封入された袋を介して、いわゆる静水圧状態で加圧、圧縮できるので、電線束の形状が多少不均一であっても、またその外径が種々変わっていても、電線束の形状に対応して周方向から均一に加圧、圧縮することができる。よって品質の優れた止水部を有する電線束を容易に製造することができる。
【0016】
また請求項4記載の止水部を有する電線束の製造方法は、請求項2または請求項3いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法において、前記電線束を非透水性シートの外面から1×104Pa以上の圧力で均一に加圧、圧縮することを特徴とするものである。
このようにしてなる本願請求項4記載の止水部を有する電線束の製造方法によれば、短時間で電線束の中心部まで充分に樹脂を充填できるので、止水性に優れた止水部を有する電線束を容易に製造することができる。
【0017】
さらに請求項5記載の止水部を有する電線束の製造方法は、請求項2〜請求項4いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法において、前記非透水性シートに塗布されている樹脂は、その粘度が1000Pa・s以下の樹脂であることを特徴とするものである。
このようにしてなる請求項5記載の止水部を有する電線束の製造方法によれば、最適な流動性を有する樹脂を電線束に充填できるので、前記請求項4記載の発明同様に、優れた止水性を得るために必要な樹脂量をより短時間で充填できる。
【0018】
さらにまた請求項6記載の止水部を有する電線束の製造方法は、請求項2〜請求項5いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法において、前記樹脂を充填する前の前記電線束の断面積が、前記電線束を構成する電線の断面積の合計の1.3倍以上であることを特徴とするものである。
【0019】
このようにしてなる請求項6記載の止水部を有する電線束の製造方法によれば、最適な隙間を有する電線束に樹脂を充填できるので、樹脂は容易に電線間の隙間に流れ込む。よって短時間で、電線束内に樹脂を充填できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によれば、充分な止水性を有し、しかも止水部を形成する樹脂量が少なくてすむ止水部を有する電線束を提供できる。加えてその製造方法をも提供することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の止水部を有する電線束の一実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一例を示す止水部を有する電線束の、止水部の部分の横断面図である。図1が示す電線束の止水部は、複数の電線11を束ねた電線束の隙間に、隙間なく止水性の樹脂12(止水剤)、例えばシリコン樹脂を充填して、これを硬化せしめたものである。尚、図1の止水部においては、止水性の樹脂12(以下単に樹脂12という)と電線束からなる断面積が、電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下、好ましくは2.5倍〜3.5倍になっていることを特徴にしている。
【0022】
このようにしてなる止水部によれば、各電線11の絶縁被覆表面を伝わって侵入する水を止めることができる。もし仮に、電線11間に樹脂12が充分充填されずに、どこかに樹脂12が存在しない隙間があったとすると、そこから水が伝わり止水することができなくなってしまう。そのような不良を防ぐには、十分な量の樹脂12を電線11間の隙間に充填できるようにする必要がある。
【0023】
しかしながら、従来の技術の問題でも触れたように、電線11間に必要以上多くの樹脂12を充填しようとすると、大量の樹脂12が必要になり、コスト上昇を招いてしまう。また、止水部の外径が太くなり過ぎると扱い難くなって、作業性が悪くなることもある。また樹脂12の量が多ければ多いほど、樹脂12の硬化時間が長くなる。樹脂12の硬化時間の増加は、製造時間の増大だけでなく、製品の品質にも影響を及ぼす。例えば硬化中の電線束を動かしたときに、電線11がずれ電線11間の樹脂12に隙間があくこともある。充填した樹脂12が未硬化であれば樹脂12の流動性により、そのような隙間も自然に修復される可能性もあるが、硬化が始まり樹脂12の粘度が高くなってくると、流動性が低くなり、修復も期待できなくなる。
【0024】
このように電線11間の樹脂量が多いからといって、必ずしも常に良好な止水性が得られるとは限らない。
そこで本発明の図1に示す止水部を有する電線束では、充填される樹脂12の量を必要以上に充填しないように、樹脂12と電線束とからなる止水部の断面積が、電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下、好ましくは2.5倍〜3.5倍になるようにしている。因みに2.5倍未満では、樹脂12の充填量が不足気味で止水性に不安がある。
【0025】
ところで上記4倍以下という値は、本発明者らが電線束を構成する電線11の断面積の合計と止水部の断面積、すなわち電線11と樹脂12で構成される断面積の比と、得られた止水部の止水性の関係について調査を行って得たものである。この調査結果について説明する前に、調査の対象となる止水部を製造するために用いた本発明の製造方法について以下に説明する。
【0026】
図2は本発明の止水部を有する電線束の製造方法の一例を示すもので、図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、この例における製造段階毎の電線束の横断面図である。
因みに、図2(a)は、電線束の外側に一方の面に樹脂12が塗布されている、例えば図3に示すような非透水性シート10を、樹脂12が塗布されている面を内側にして巻き付けた状態を示すもので、まだ均一な加圧が付加される前の状態を示す横断面図である。また図2(b)は、前記非透水性シート10の外側にプラスチック製で気密性を有する袋21を巻き付け、この袋21に流体、ここでは加圧空気22を注入して、電線束に非透水性シート10の外側から均一な圧力を加えている状態を示す横断面図である。
【0027】
そして図2(c)は加圧空気22による加圧完了後の電線束を示すもので、非透水性シート10の外側のプラスチック製の袋21は既に除去された状態を示す横断面図である。尚、図2(c)では電線束の外側にまだ非透水性シート10が巻かれたままの状態になっているが、この非透水性シート10を取り除いて、図1に示す止水部を有する電線束を形成してもよいし、非透水性シート10をこのままにして止水部を形成してもよい。非透水性シート10があると、この止水部をグロメットに装着する場合、この非透水性シート10が防水性にも一役を担うことができ好ましい。
【0028】
図2(a)〜(c)が示すように、本発明の電線束の製造方法では、まず最初に図3に示すような樹脂12を塗布した、例えば、EPDMゴム製の非透水性シート10を用意し、これを樹脂12側を内側にして電線束に図2(a)が示すように巻き付ける。巻き付け方としては螺旋巻きしても良いし、縦添えしてもよい。ところでこの非透水性シート10が弾性を有していると、流体による加圧の際、電線束の外形に合わせて自在に変形するので好ましい。
【0029】
次に電線束に巻き付けた非透水性シート10の上から、ゴムまたはプラスチック製で気密性を有する袋21を巻き付け、図2(b)が示すようにこの袋21に流体、この例では、空気を注入し加圧を行なった。もちろん空気以外のものでもよく、例えば水を使用してもよい。
【0030】
この加圧により流動性を有する樹脂12が電線内部に含浸された。同時に、加圧手段が流体であって、いわゆる静水圧であることから、電線束の外径が多少不均一であっても、電線束に均一な力を加えることができる。その結果、電線束の断面形状はより丸くなり外径も小さくなった。これにより、この止水部へのグロメットの装着が容易になり、また電線束の断面がより円形になった。さらには止水剤である樹脂12が電線内部にまで均一に充填され易くなって、良好な止水性が得られた。
【0031】
また加圧時の圧力は、高いほど短時間で樹脂12の充填と電線束の断面整形が行われる。それ故、生産性を考慮すると加圧時間は短時間であることが望ましい。
発明者らが調査したところ、30秒以内で電線束に樹脂12の充填し、断面の整形を終了するには、図4に示すように、1×104Pa以上の圧力が必要であることがわかった。より好適な範囲としては、電線束の中心の圧力が加圧圧力と等しくなる2×104Pa以上が望ましい。
【0032】
また、樹脂12の粘度については、粘度が高いと樹脂12の充填速度が遅くなる。本発明者らが調査したところ、30秒以内で樹脂12の充填と断面の整形を終了するには、図5に示すように、粘度が1000Pa・s以下の樹脂の使用が必要なことがわかった。
より好適な範囲としては、電線束の中心の圧力が加圧圧力と等しくなる700Pa・s以下であることが望ましい。但し、あまりに粘度が小さくなり過ぎると、非透水性シート10に樹脂12を塗布した途端、これが流れ出してしまうので、例えば1Pa・s以上であることが望ましい。
ところで使用した樹脂12は、例えばアルコールを含んでいて、電線束の内部に充填されるとこのアルコールが揮発し、その結果、樹脂12が硬化するようになっている。
【0033】
以上に述べた方法で、電線束を構成する電線12の断面積の合計と、止水部の断面積、すなわち電線と樹脂で構成される断面全体の面積の比が異なる、いくつかのサンプルを作成し、各々についてその止水性との関係について調査を行った。
各サンプルが完全硬化後、止水部と完全に密着し水を通さないゴム製のグロメットを各サンプルに装着した。そしてグロメットの片側を水につけ反対側より0.5kg/cmの加圧空気を送り込み、水中に気泡が発生しないかをどうかを確認した。表1に、このときの各サンプルの電線束の構成と気泡の発生率を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、止水部の断面積を電線束を構成する電線の断面積の合計で割った値が4倍を越えると、いずれのサンプルでも気泡の発生が起きている。つまり、加圧空気が漏れていることから、止水部の止水性が不完全であることがわかる。
また、サンプルの構成によっては4倍でも気泡の発生がわずかではあるが見られており、止水部の断面積を電線束を構成する電線の断面積の合計で割った値が3.5倍以下であることがより望ましいこともわかる。
尚、表で、例えば1.5mm電線とは、外径1.5mmの電線という意味である。
【0036】
このように止水部の断面積を電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下、好ましくは3.5倍以下にすると、止水部の止水性が良好である結果が得られた。尚、下限値は前述したように2.5倍以上であることが好ましい。2.5倍未満では樹脂12の充填量が不足して、充分な止水性が得られなくなる恐れがあるからである。
それ故、止水部の断面積を電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下、好ましくは2.5倍〜3.5倍にすると、止水性に優れた電線束が得られることはもちろんのこと、止水部を形成する止水性の樹脂12の量を必要以上充填しないで済むため、材料コストも低減できる。加えて充填する樹脂量を少なくできるので、硬化時間も短縮できる。また硬化時間が少なくて済む、ということは硬化中に止水部が動かされて製品不良を起こす可能性も低くできる利点もある。
【0037】
さて、止水部における断面積と電線束を構成する電線の断面積の合計の関係のみならず、止水剤である樹脂12が流れる電線11間の隙間の大きさも重要な要素である。
そこで本発明者らが直径1.5mmの電線について調査したところ、図6が示すように電線11間の隙間が0.2mm以下になると流れの抵抗が急激に大きくなり、樹脂12が流れ込み難くなる傾向が判明した。このことから電線11間の隙間は0.2mm以上、より好適な範囲としては、0.2mmの2倍である0.4mm以上の隙間があることが望ましい。
【0038】
いま一つの例として、直径1.5mmの電線11が100本で構成された電線束を考える。この場合、構成する電線11の断面積の合計は約176.6mmである。樹脂12が流れる電線11間の隙間を0.2mmとした場合は、(1.5mm+0.2mm)=1.7mmとなり、あたかも直径1.7mmの円柱が並んでいる状態とみなすことができる。このときの円柱の断面積の合計は約226.9mmとなる。つまり隙間を0.2mmあけた場合の電線束の断面積は226.9mmとなり、断面積の比は隙間のない場合の約1.3倍となる。
【0039】
電線11の断面が円形であることから、電線束の断面積は電線11の断面積の単純な合計よりも大きくなる。また、実際には電線束は様々な直径の電線11で構成される場合もある。このため、電線11の隙間が0.2mmのときの電線束の断面積と上記の電線11の断面積の合計の比である1.3倍という数値は必ずしも常に成り立つものではない。
しかしながら、これまでの実験から製造の管理上の一つの目安としてこの値を利用することはできる。
この点を確認するため、樹脂12を充填する前の電線束の断面積を変えて前述した図2に示す本発明の方法により、いくつかのサンプルを作成した。
【0040】
表2は、樹脂を充填する前の電線束の断面積を電線束を構成する電線の断面積の合計値で除した値を3レベル変化させ、そのとき発生した止水不良品の比率を示している。因みに、この不良品の判定は、得られた各サンプルに対して、表1に示した試験と同様に水中での気泡の発生の有無で良否判定をした。
【0041】
【表2】

【0042】
その結果、樹脂を充填する前の電線束の断面積が電線束を構成する電線の断面積の合計値の1.1倍のものは電線11間の隙間が狭過ぎて樹脂12が流れず、止水不良が多くなっている。
そして表2からわかるように、樹脂を充填する前の電線束の断面積と電線11の断面積の合計の比が1.3倍以上、望ましくは1.6倍以上になると止水不良品は発生しなくなる。
尚、電線束の断面積と電線11の断面積の合計の比が1.3倍のものは、樹脂12を充填後、止水部の断面積が電線束を構成する電線11の断面積の合計の2.2倍となっていた。これは樹脂12が充填されることにより電線11間の隙間が大きくなったためである。
【0043】
ところで図6から、電線11間の隙間は0.2mm以上、より好適な範囲としては、0.4mm以上の隙間があることが望ましい、と述べたが、このときの樹脂を充填する前の電線束の断面積と電線束を構成する電線11の断面積の合計の比は1.6倍以上となり、止水部の断面積が電線束を構成する電線11の断面積の合計の約2.7倍以上となっていた。
【0044】
尚、図4及び図6において、例えば縦軸の値として2.00E−01とか3.5E+05という表現があるが、これは各々2.00×10−1、3.5×10を意味するものである。
ところで本発明の電線束や、その製造方法は前述した実施例に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能であることはいうまでもない。
以上のように本発明によれば、より少ない止水性樹脂で、しかも十分な止水性を持つ止水部を有する電線束を、短時間で容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の止水部を有する電線束の一例を示す横断面図である。
【図2】本発明の止水部を有する電線束の製造方法の一例を示す製造段階毎の電線束の横断面図である。
【図3】本発明における、非透水性シートに止水剤を塗布した状態の一例を示す斜視図である。
【図4】30秒後の中心圧力/加圧圧力と加圧圧力の関係を示すグラフである。
【図5】30秒後の中心圧力/加圧圧力と樹脂粘度の関係を示すグラフである。
【図6】樹脂充填時の電線間の間隔と樹脂充填時の抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
10 非透水性シート
11 電線
12 樹脂(止水剤)
21 袋
22 加圧空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線を束ねた電線束の隙間に樹脂を充填して形成した止水部を有する電線束において、前記止水部における前記樹脂と電線束からなる断面積が、電線束を構成する電線の断面積の合計の4倍以下であることを特徴とする止水部を有する電線束。
【請求項2】
複数の電線を束ねた電線束の隙間に樹脂を充填して形成した止水部を有する電線束の製造方法において、樹脂が塗布された非透水性シートを前記樹脂が塗布された面を内側にして電線束に巻き付けた後、前記電線束を前記非透水性シートの外面から均一に加圧、圧縮することを特徴とする止水部を有する電線束の製造方法。
【請求項3】
前記非透水性シートの外面に、内部に流体を注入して加圧、圧縮をすることが可能な袋を装着し、該袋に流体を注入して前記電線束を前記非透水性シートの外面から均一に加圧、圧縮することを特徴とする請求項2記載の止水部を有する電線束の製造方法。
【請求項4】
前記電線束を非透水性シートの外面から1×104Pa以上の圧力で均一に加圧、圧縮することを特徴とする請求項2または請求項3いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法。
【請求項5】
前記非透水性シートに塗布されている樹脂は、その粘度が1000Pa・s以下の樹脂であることを特徴とする請求項2〜請求項4いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂を充填する前の前記電線束の断面積が、前記電線束を構成する電線の断面積の合計の1.3倍以上であることを特徴とする請求項2〜請求項5いずれかに記載の止水部を有する電線束の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−32127(P2006−32127A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209484(P2004−209484)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】