説明

止血剤および血液凝固阻害剤

【課題】本発明は、ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤を提供することを課題とする。また、本発明はADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤の提供を課題とする。
【解決手段】本発明者らは、ADAM8の発現抑制により血液循環が阻害され、血栓形成にいたることを、生きた個体を用いて証明し、この分子が血液循環を促進し、血栓形成を阻害する活性を有することを見出した。さらに、ADAM8が、血液凝固や血液細胞の移動に関わる糖蛋白質PSGL−1に対し、セレクチンへの結合部位を消失させる限定的分解活性をもつプロテアーゼとして機能することを明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロプロテアーゼADAM8の医薬用途に関する。より具体的には、本発明は、ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤に関する。また、本発明はADAM8タンパク質またはADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ADAM(adisintegrin nd etalloprotease)ファミリーに属する膜貫通型レセプタープロテアーゼは、膜結合成長因子および接着分子を分解する細胞外ドメインを有する。その中でも、ADAM8は最初マクロファージ細胞株から単離された分子であり、EST解析により、ヒト、マウスを含む脊椎動物では造血系組織に、ゼブラフィッシュでは腎臓や造血組織に発現することが報告されており、血液や循環器の発生に関与することが示唆されている(非特許文献1−4)。
【0003】
しかしながら、ADAM8が何を基質とし、血液や循環器においてどのような機能を果たすのかは明らかとなっていなかった。
【0004】
最近の報告では、ADAM8ノックアウトマウスでは発生は正常に行われ従来の解析での欠陥は見出されないこと(非特許文献5)、ADAM8は脊髄損傷モデルマウスにおいて、内皮細胞に過剰発現し、血管形成を促進すること(非特許文献6)が明らかになっている。また、炎症時に白血球上のADAM8発現量が増加し、L−セレクチンを分解することから、ADAM8の免疫反応への関与が示唆されている(非特許文献7)。しかしながら、本発明者らが非特許文献7に従って追試をしたところ、ADAM8によるL−セレクチンの分解は確認できなかった。また、同文献では、ADAM8が免疫反応において重要であることが示唆されているものの、血小板凝集や血栓形成との関係については何ら議論されていない。さらに単球のアポトーシスにおいてADAM8がPSGL−1を分解する可能性に言及した文献も存在するものの(非特許文献8)、具体的には確認されておらず、また、PSGL−1の分解によって、ADAM8が血液や循環器においてどのような機能を果たすのかについても記載されていない。
【0005】
一方、血小板や血管内皮細胞の表面に存在するP−セレクチンおよび、白血球表面に存在するP−セレクチンの糖鎖リガンドPSGL−1(P−selectin glycoprotein ligand−1)は、共に接着分子で、白血球と血管壁の接着に関与していることが報告されている。血管損傷では、血小板や血管内皮細胞が活性化されるとともに、これらの接着分子が、血小板凝固や血栓形成を促進し、さらにフィブリンの生成にも関与していることが示唆されている(非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Reiss, K. and Saftig, P. Semin., Cell Dec. Biol. (2008)
【非特許文献2】Yagami−Hiromasa, T. et al., Nature 377, 652−6 (1995)
【非特許文献3】Yoshida, S. et al., Int. Immunol. 2, 585−91 (1990)
【非特許文献4】de Jong, J. L. and Zon, L. I., Annu. Rev. Genet. 39, 481−501 (2005)
【非特許文献5】Kelly K. et al., Dev. Dyn. 232, 221−231 (2005)
【非特許文献6】Mahoney E. T. et al., J. Comp. Neurol 512, 243−255 (2009)
【非特許文献7】Gomez−Gaviro M. et al., J. Immunol. 178, 8053−8063 (2007)
【非特許文献8】Furie B. et al. Trends. Mol. Med. 10, 171−178 (2004)
【非特許文献9】Stampfiss et al. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 28, 1375−1378 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでADAM8が血液や循環器の発生に関与することが示唆されてきたものの、ADAM8がPSGL−1を介した血栓形成のメカニズムに関与しており、これが実際に血液循環の促進に影響していることはこれまで知られておらず、したがって、ADAM8が血液循環関連の疾患に対する治療に使用できることは見出されていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤を提供することを課題とする。また、本発明はADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ADAM8の発現抑制により血液循環が阻害され、血栓形成にいたることを、生きた個体を用いて証明し、この分子が血液循環を促進し、血栓形成を阻害する活性を有することを見出した。
【0010】
より詳細には、本発明者らは、ADAM8が、ヒト、マウスにおいては血液細胞・血液細胞を産生する骨髄や胸腺などで高い発現を示すこと、ゼブラフィッシュの成体においては血液を産生する腎臓で、発生過程においても血液細胞を生ずるintermediate cell massやposterior blood island、あるいは哺乳類のAGM領域に対応すると考えられている大動脈と中心静脈に挟まれた領域で発現があることなどの先行技術情報から、ADAM8が血液生産能に関与していると予測した。
【0011】
そして、ADAM8が血液生産においてどのような役割を果たしているかを詳細に解明するため、生きたゼブラフィッシュ個体を用いて、ADAM8遺伝子機能阻害実験を行った。その結果、一次造血・二次造血はともに起こるが、これらの血球の移動が阻害され、その結果血液循環が著しく不全となり、高頻度で脈管内でのうっ血あるいは血栓が生じることを見出した。すなわち、本発明者らは、ADAM8が血液細胞で発現し、血液細胞の循環を促進し、うっ血や血栓を防ぐ膜型ADAMプロテアーゼであることを明らかにした。
【0012】
さらに、ADAM8が、血液凝固や血液細胞の移動に関わる糖蛋白質PSGL−1に対し、P−セレクチンへの結合部位を消失させる限定的分解活性をもつプロテアーゼとして機能することを明らかにした。
【0013】
まず、ADAM8は造血系細胞の膜表面に高発現するプロテアーゼであることから、本発明者らは、膜表面に局在する因子をその基質候補としてスクリーニングを行った。そして、培養細胞系においてADAM8が、血球細胞の接着・移動に関わる糖蛋白質PSGL−1を分解することを突き止めた。さらに、その機能が哺乳類と魚類で保存されていることも明らかにした。また、ADAM8機能阻害により、個体において内在性のPSGL−1の分解が阻害されることを示し、これがADAM8の生理的基質のひとつであることを示した。
【0014】
ADAM8の血液循環促進・血栓形成阻止因子としての役割、およびそのプロテアーゼ基質分子の同定は、新規の報告である。
【0015】
即ち、本発明は、具体的には以下の〔1〕〜〔17〕を提供するものである。
〔1〕ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤。
〔2〕ADAM8の機能を抑制する化合物が、ADAM8の発現を抑制する化合物である前記〔1〕に記載の止血剤。
〔3〕ADAM8の発現を抑制する化合物が、ADAM8をコードする遺伝子の塩基配列またはその一部に対して、相補的な塩基配列を含有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、前記〔2〕に記載の止血剤。
〔4〕ADAM8の機能を抑制する化合物が、ADAM8の活性を阻害する化合物である前記〔1〕に記載の止血剤。
〔5〕ADAM8タンパク質またはその断片を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤。
〔6〕ADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤。
〔7〕ADAM8の機能を亢進する化合物が、ADAM8の発現を促進する化合物である、前記〔6〕に記載の血液凝固阻止剤。
〔8〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、止血剤のスクリーニング方法:
(a)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(b)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する工程;および
(c)ADAM8のPSGL−1分解活性を阻害する化合物を選択する工程。
〔9〕以下の(d)〜(f)の工程を含む、止血剤のスクリーニング方法:
(d)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(e)ADAM8の発現量を検出する工程;および
(f)ADAM8の発現を抑制する化合物を選択する工程。
〔10〕以下の(g)〜(i)の工程を含む、血液凝固阻止剤のスクリーニング方法:
(g)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(h)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する工程;および
(i)ADAM8のPSGL−1分解活性を促進する化合物を選択する工程。
〔11〕以下の(j)〜(l)の工程を含む、血液凝固阻止剤のスクリーニング方法:
(j)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(k)ADAM8の発現量を検出する工程;および
(l)ADAM8の発現を促進する化合物を選択する工程。
〔12〕対象において、ADAM8の機能を抑制する化合物を投与することを特徴とする、止血方法。
〔13〕対象において、ADAM8タンパク質またはその断片を投与することを特徴とする、血液凝固を阻止する方法。
〔14〕対象において、ADAM8の機能を亢進する化合物を投与することを特徴とする、血液凝固を阻止する方法。
〔15〕止血剤の製造のための、ADAM8の機能を抑制する化合物の使用。
〔16〕血液凝固阻止剤の製造のためのADAM8タンパク質またはその断片の使用。
〔17〕血液凝固阻止剤の製造のための、ADAM8の機能を亢進する化合物の使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤が提供された。ADAM8の機能抑制により、止血や血友病等の症状の改善など、血液凝固を促進する治療が可能となる。
【0017】
また、本発明により、ADAM8タンパク質またはADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤が提供された。ADAM8タンパク質を精製・投与することで、その血液循環促進作用を利用した血栓治療やその予防、またはうっ血の予防が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ADAM8の発現部位の解析の結果を示す図である。aは、ヒト血液におけるADAM8遺伝子ファミリーの発現割合をヒトEST情報から解析した結果を示す。bは、ヒトの組織別ESTデータから、ADAM8の発現部位を解析した結果を示す。cは、ゼブラフィッシュにおける、ADAM8の発現部位をin situハイブリダイゼーションにより解析した写真である。図中の矢印はマクロファージにおける発現、矢頭はICM領域における発現を示す。拡大図における白色のバーは、背部大動脈の腹側領域を示す。黒色のバーはそれぞれ100μm。
【図2】図2は、ゼブラフィッシュADAM(以下、zADAM8ともいう)機能阻害による血栓の形成を示す写真である。aは、ADAM8の発現阻害胚とコントロールとの蛍光実体顕微鏡像の比較である。図中の矢印は、血栓形成箇所を示す。バー:250μm。bは、ADAM8の発現阻害胚をin situハイブリダイゼーションにより解析した写真である。
【図3】図3は、zADAM8正常発現個体における血液循環開始の過程を経時的に観察した顕微鏡像を示す。図中hpsは、受精後の時間を示す。aは、ゼブラフィッシュ30時間胚を側面方向から観察した模式図である。体幹部に2本の主要な脈管が形成されており、背側がDA(dorsal aorta:背側大動脈)、腹側がPCV(posterior cardial vein;腹側大静脈)である。DAとPCVの中間部がICM(intermediate cell mass)領域と呼ばれる胎児型造血の場である。bは、20〜30時間における脈管および血球形成を示す。cは、26〜28時間における血液循環開始のライブイメージングを示す写真である。右側のバーは、上から、大動脈、sub−aortic region、主静脈を示す。dは、血液循環開始後に、循環以外の動態を示す血球の例を示す写真である。青はtransmigration(ICM→血管への移動)、黄色はrolling(血管内壁に接着した状態での移動)を示す。
【図4】図4は、zADAM8機能阻害による血液循環の抑制を経時的に観察した顕微鏡像を示す。バー:25μm。aは、26〜31、および48時間における、血液循環が起こっている胚の割合を示す図である。bは、コントロール胚(上段)およびADAM8発現阻害胚(下段)における血液循環開始後のイメージの比較である。cは、ADAM8発現阻害胚におけるtransmigrationを示す写真である。dは、cと同時期のADAM8発現阻害胚の血球の滞留を示す。
【図5】図5は、ADAM8によるPSGL−1の分解活性を解析した図および写真である。aは、FACS解析によるマウスADAM8(以下、mADAM8ともいう)依存的なマウスPSGL−1(以下、mPSGLともいう)膜外領域シグナルの検出結果を示す図である。bは、ウェスタンブロットによるゼブラフィッシュPSGL−1(以下、zPSGLともいう)細胞内領域シグナルの検出結果を示す写真である。上段は、抗PSGL−1抗体による検出、下段は抗HA抗体による検出を示す。図中のL(90−95kD)は完全長のPSGL−1、S(60−65kD)は分解後のPSGL−1を示す。*印はバックグラウンドのバンドを示す。cは、ゼブラフィッシュ抽出物を試料とした、ウェスタンブロットによりzADAM8を介したzPSGLともいう)の分解を検出した結果を示す写真である。図中のL(〜80kD)は完全長のPSGL−1、S(〜40kD)は分解後のPSGL−1を示す。dは、ゼブラフィッシュにおける初期発生での血液循環開始の模式図を示す。
【図6】図6は、ウェスタンブロットによるmPSGL細胞内領域シグナルの検出結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明者らによって、ADAM8が血液循環促進作用を有することが明らかにされた。本発明はこの知見に基づくものである。
【0020】
本発明者らによって、血液循環促進作用との関係が明らかにされたADAM8遺伝子は、ヒト、マウス、ゼブラフィッシュにおいて公知である。それぞれの配列の情報は、下記のとおりである。
ヒトADAM8遺伝子(GenBankアクセッション番号、NM_001109)の塩基配列を配列番号:1に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
マウスADAM8遺伝子(GenBankアクセッション番号、NM_007403)の塩基配列を配列番号:3に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
ゼブラフィッシュADAM8遺伝子(GenBankアクセッション番号、NM_200637.1)の塩基配列を配列番号:5に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。
【0021】
本発明のADAM8遺伝子は、ADAM8タンパク質をコードするものであれば、特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなども含まれる。また、ADAM8遺伝子には、ADAM8タンパク質をコードする限り、遺伝子の縮重変異なども含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって公知の方法を利用して行うことが可能である。
【0022】
また、ADAM8遺伝子には、種々の生物に存在する相同遺伝子も含まれる。ここで「相同遺伝子」とは、種々の生物においてヒト、マウスまたはゼブラフィッシュのADAM8タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を指す。このようなタンパク質には、例えば、ADAM8タンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ、ADAM8タンパク質の部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明におけるADAM8タンパク質の変異体としては、配列番号:2、4または6に記載のアミノ酸において1以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2、4または6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることができる。
【0024】
本明細書中において、「ペプチド」とは、2以上のアミノ酸がアミド結合により結合しているものであれば特に限定されない。一般にタンパク質と呼ばれるものも、本発明においてはペプチド中に含むものとする。また、本発明においては「ポリペプチド」も、同様にペプチド中に含むものとする。
【0025】
本明細書において、「アミノ酸」とは、その最も広い意味で用いられ、天然のアミノ酸、例えばセリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、バリン(Val)、ロイシン(Ler)、イソロイシン(Ile)、アラニン(Ala)、チロシン(Tyr)、グリシン(Gly)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、トレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、プロリン(Pro)のみならず、アミノ酸変異体及び誘導体といったような非天然アミノ酸を含む。
【0026】
本発明において、変異するアミノ酸の数は特に限定されず、通常30アミノ酸以内、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは5アミノ酸以内、さらに好ましくは3アミノ酸以内であると考えられる。本発明におけるアミノ酸の変異としては、アミノ酸側鎖の性質が維持された、保存的置換であることが好ましい。アミノ酸側鎖の性質の例としては、塩基性側鎖(例えば、アルギニン、リシン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖(例えば、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、チロシン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン)、β分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)、硫黄原子含有側鎖(例えば、システイン、メチオニン)を挙げることができる。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0027】
本発明において、ADAM8タンパク質と「機能的に同等」とは、配列番号:2、4または6に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、すなわちADAM8タンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを示す。本発明のADAM8タンパク質の生化学的機能としては、ADAM8のプロテアーゼ活性及びそれに伴う機能、例えば、血栓の形成阻害、血液循環の促進や、PSGL−1の分解などが挙げられる。なお、ADAM8のプロテアーゼ活性は、ADAM8タンパク質の有するプロテアーゼとしての性質だけではなく、基質への結合能などその他の性質によっても左右され得る。また、生物学的な機能には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0028】
機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製する方法は当業者に公知である。このような方法としては、例えばハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350−1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487−491,1988)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、ADAM8遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号:1、3または5に記載のDNA)もしくはその一部をプローブとして、またADAM8遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の生物からADAM8遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行いうることである。
【0029】
このような相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。当業者であれば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を適宜選択することが可能である。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。当業者であれば、他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)なども適宜選択し得る。
【0030】
その後の洗浄における条件は、低ストリンジェントな条件では、例えば、0.1%SDS、1〜2×SSC中にて行うことができる。また高ストリンジェントな条件では、0.1%SDS、0.1〜0.5×SSCなどの条件を挙げることができる。また、温度でハイブリダイズの差を設ける場合には、高ストリンジェントの場合は68℃、中等度の場合は42℃、低ストリンジェントの場合は室温(20−25℃)で洗浄を行えばよい。ハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、これに限定されるものではない。
【0031】
単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、市販のソフトであるBLAST(Altschul: J. Mol. Biol. 215:403−410 (1990))、FASTA(Peasron: Methods in Enzymology 183:63−69 (1990))等を用いて、決定することができる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0032】
本発明者らによって、メタロプロテアーゼであるADAM8の基質がPSGL−1タンパク質であることが明らかになった。PSGL−1遺伝子は、ヒト、マウス、ゼブラフィッシュにおいて公知である。それぞれの配列の情報は、下記のとおりである。
ヒトPSGL−1遺伝子(GenBankアクセッション番号、NM_003006)の塩基配列を配列番号:7に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:8に示す。
マウスPSGL−1遺伝子(GenBankアクセッション番号、NM_009151)の塩基配列を配列番号:9に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:10に示す。
ゼブラフィッシュPSGL−1遺伝子(アクセッション番号、LOC794729)の塩基配列を配列番号:11に、この遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:12に示す。
【0033】
本発明のPSGL−1遺伝子は、PSGL−1タンパク質をコードするものであれば、特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなども含まれる。また、PSGL−1遺伝子には、PSGL−1タンパク質をコードする限り、遺伝子の縮重変異なども含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって公知の方法を利用して行うことが可能である。
【0034】
また、PSGL−1遺伝子には、種々の生物に存在する相同遺伝子も含まれる。ここで「相同遺伝子」とは、種々の生物においてヒト、マウスまたはゼブラフィッシュPSGL−1タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を指す。このようなタンパク質には、例えば、PSGL−1タンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ、PSGL−1タンパク質の部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明におけるPSGL−1タンパク質の変異体としては、配列番号:8、10または12に記載のアミノ酸において1以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:8、10または12に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることができる。
【0036】
本発明のPSGL−1タンパク質と「機能的に同等」とは、配列番号:8、10または12に記載のアミノ酸に記載のアミノ酸を含むポリペプチド、すなわちPSGL−1タンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを示す。
【0037】
本発明の第一の態様は、ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤である。
【0038】
本発明において、ADAM8の「機能を抑制する」とは、ADAM8のプロテアーゼ活性を、薬剤を投与する前の状態より低下させることをいう。薬剤を投与する前の状態よりも低下すれば、正常状態より下のレベルまで低下していなくても本発明の範囲に含まれる。本発明において、ADAM8の機能の抑制は、どのような手段によって行われてもよい。例えば、ADAM8の発現を抑制したり、ADAM8のプロテアーゼ活性を阻害することによって可能である。ADAM8の機能の抑制には、機能の全部を抑制する場合も、一部を抑制する場合も含まれる。
【0039】
ADAM8の「機能を抑制する化合物」とは、上述のADAM8タンパク質の生化学的機能や生物学的機能を抑制する化合物を意味し、例えば、ADAM8のプロテアーゼ活性を阻害する化合物、ADAM8の発現を抑制する化合物などが含まれる。また、「ADAM8の発現を抑制」にはDNAからの発現レベルの抑制も、タンパク質の発現レベルの抑制も含まれる。
【0040】
本発明において「止血」とは、血管の損傷による血管内からの血液の流出を止めることをいう。この止血には、血管の損傷部位において、出血を止めるために生体が血液を凝固させる一連の分子作用である「血液凝固」が伴い、この血液凝固により生成される血液塊は「血栓」、「血餅」または「塞栓」等と称される。
【0041】
本発明の「止血剤」は、前記血液凝固に作用して止血を促進する、および/または、血栓形成を促進して止血を促進する作用を有する薬剤を示す。抗出血剤、凝血促進剤等と称される薬剤もまた、本発明の「止血剤」に含まれる。
【0042】
本発明のADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する止血剤の一つの態様として、ADAM8の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する止血剤を挙げることができる。本発明においてADAM8の発現を抑制する化合物の具体的な例として、ADAM8の発現を抑制する機能を有する核酸を挙げることができる。このような核酸には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイムなどが含まれる。
【0043】
本発明のADAM8の発現を抑制する機能を有する核酸の一つの態様として、アンチセンスオリゴヌクレオチドを挙げることができる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ADAM8の遺伝子又はその転写物であるmRNAに結合してその発現を抑制し得るものであれば、DNAであってもRNAであってもよい。具体的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号:1、3または5のヌクレオチド配列またはその一部に対して相補的な塩基配列を含むDNA若しくはRNA、あるいは、配列番号1、3または5のヌクレオチド配列を含むADAM8遺伝子に対応するmRNAの配列又またはその一部に対して相補的な塩基配列を含むDNA若しくはRNAを挙げることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、対象における内因性のADAM8遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。具体的には、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的とする遺伝子又はその転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。
【0044】
アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは、15塩基〜30塩基程度、好ましくは20塩基〜25塩基程度である。
【0045】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に周知の核酸合成技術又はDNA組換え技術を用いて合成することができる。DNA組換え技術によって合成する場合、配列番号:1、3または5の配列を含むベクターDNAを鋳型にして、増幅しようとする配列を挟み込むプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行って標的配列を増幅し、必要に応じてベクター中にクローニングして、アンチセンスDNAを生成することができる。また、アンチセンスRNAを合成する場合には、前記の方法で合成したDNAを鋳型として、RNAポリメラーゼにより合成してもよい。
【0046】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、具体的には、配列番号:13に記載の塩基配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0047】
本発明のADAM8の発現を抑制する機能を有する核酸の別の態様として、RNAiを媒介する核酸分子を挙げることができる。RNAiは標的遺伝子と相補的な二本鎖のsiRNA(small interference RNA)により、標的遺伝子から転写されたmRNAが配列特異的に分解される現象である(Fire et al.,1998,Nature,391,806)。この現象を利用することにより標的遺伝子の発現を抑制することができる。
【0048】
本発明で使用可能なsiRNAは、ADAM8遺伝子に転写されるmRNAと相補的な配列を含む。具体的には、本発明のsiRNAは、配列番号:1、3または5のヌクレオチド配列によってコードされるmRNAに含まれる15〜35塩基対、好ましくは19〜25塩基対、より好ましくは21〜23塩基対のセンス鎖配列とそれに相補的なアンチセンス鎖配列を含むことができる。siRNAは、当業者であれば公知の技術に基づき設計可能である(例えば、Hsieh AC. et al. (2004) Nucleic Acids Res. Feb 09;32(3):893−901.,;Reynolds A. et al. (2004) Nat. Biotechnol. Mar;22(3):326−30.;Ui−Tei K. et al. (2004) Nucleic Acids Res. Feb 09;32(3):936−48.)。
【0049】
本発明のsiRNAは、当業者に周知の核酸合成技術を用いて合成することができる。また、shRNAなどからダイサー(Dicer)と呼ばれるRNase様のヌクレアーゼによるプロセシングを介して誘導されてもよい。また、本発明のRNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンス鎖RNAをコードするアンチセンスコードDNAと、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンス鎖RNAをコードするセンスコードDNAにより発現することもできる。本発明のsiRNA発現システムを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンス鎖RNA、センス鎖RNAを発現させてもよいし、異なるベクターからそれぞれアンチセンス鎖RNA、センス鎖RNAを発現させてもよい。
【0050】
また、本発明のADAM8の発現を抑制する機能を有する核酸の別の態様として、リボザイムを挙げることができる。リボザイムとは、触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、ADAM8 mRNAを部位特異的に切断する活性を有するものが好ましい。このようなリボザイムにはハンマーヘッド型やヘアピン型のリボザイムが含まれる。
【0051】
ハンマーヘッド型リボザイムは、GUCなどの特定のコドンを含む標的配列を切断することが知られている。このような標的配列は本発明のADAM8 mRNA中に複数存在する。リボザイムのmRNAへの結合部位を、ADAM8における標的配列近傍のRNA配列と相補的になるように設計し、標的mRNAの切断に使用可能なハンマーヘッド型リボザイムを作出することは当業者に公知である。
【0052】
本発明のADAM8の発現を抑制する核酸を、対象に投与する際には、前記核酸を患部、好ましくは血中または血管損傷部位、に直接注入するか、又は前記核酸の発現が可能なベクターを使用することが好ましい。或いは、前記核酸又はベクターを、リポソーム、例えばリポフェクタミン、リポフェクチン、セルフェクチンまたは正電荷コレステロールなどの正電荷リポソームと複合体形成し、これを使用することもできる。また、ウイルスベクターを用いて患部に導入し、細胞感染させることによって細胞内に遺伝子導入することができる。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクターや、アデノ髄伴ベクターなどを使用することがきる。ADAM8の発現を抑制する核酸の投与は、上記に限定されるものではなく、当業者に公知の種々の方法を用いて行うことができる。
【0053】
ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する止血剤の別の態様として、ADAM8の活性を阻害する化合物を有効成分として含有する止血剤を挙げることができる。ADAM8の活性を阻害する化合物は、ADAM8のPSGL−1へのプロテアーゼ活性を阻害することにより、PSGL−1の分解を阻害し、血液の凝集を促進することができる。
【0054】
ADAM8の活性を阻害する化合物は、低分子化合物であっても、抗体等の高分子化合物であってもよい。また、アプタマーなどの核酸分子を使用することもできる。
【0055】
ADAM8の活性を阻害する低分子化合物の例としては、ADAM8のプロテアーゼ機能を阻害する公知のプロテアーゼインヒビターを使用することができる。例えば、ADAMファミリーに共通して作用することが知られている、TAPI−2やGM6001、TMI−1、GW9471、Calbipchem MMP9/13(Moss and Rasmussen, Analytical Biochemistry 366 (2007) 144−148;Yoshinari et al., Developmental Biology 325 (2009) 71−81)、1−10,フェナントロリン(CAS No. 5144−89−8)などを挙げることができる。
【0056】
さらに、ADAM8の活性を阻害する化合物として、ADAM8の活性を特異的に阻害する低分子化合物(例えば特開2008−184387に記載の化合物)などを挙げることもできる。
【0057】
また、ADAM8の活性を阻害する高分子化合物の例としては、ADAM8タンパク質に特異的に結合する抗体または抗体断片を挙げることができる。このような抗体または抗体断片には、モノクローナル抗体、組換え産生抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、scFv、二重特異抗体、合成抗体などが含まれる。これらの抗体の作成方法は当業者に公知の方法(例えば、Molecular cloning(Maniatis et al. Cold Spring harbor Laboratry Press))により行うことができる。本発明の抗体の調製を行う場合には、本発明のタンパク質全体を用いて免疫する方法の他に、部分ペプチドを用いて免疫して調製することも可能である。
【0058】
ADAM8の活性を阻害する核酸分子としては、アプタマーやデコイ核酸を挙げることができる。本発明に使用できるアプタマーは、ADAM8タンパク質に特異的に結合する核酸分子であり、DNAであってもRNAであってもよい。アプタマーは、SELEX法(インビトロセレクション法ともいう)(Tuerk, C. and Gold, L., Science, 249, 505−510(1990);Ellington AD, et al., Nature, 346(6287),818−22(1990))などの公知の方法で取得することが可能である。また、本発明に使用できるデコイ核酸はADAM8の転写調節因子の結合領域を模倣する核酸分子である。デコイ核酸はADAM8転写調節因子の結合領域と相同性が高いことが好ましいが、転写調節因子に結合する限り完全に相補的でなくともよい。
【0059】
ADAM8の活性を阻害する核酸分子を対象に投与する際には、前記核酸分子を患部、好ましくは血中または血管損傷部位、に直接注入するか、又は前記核酸の発現が可能なベクターを使用することが好ましい。
【0060】
本発明の「止血剤」は、血管損傷などによる出血の止血に使用できる他、血友病、フォン・ヴィレブランド病、播種性血管内凝固症候群、突発性血小板減少性紫斑病等の凝固・線溶作用に対する異常疾患の治療にも使用することができる。
【0061】
本発明の第二の態様は、ADAM8タンパク質またはその一部を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤である。
【0062】
本発明において「血液凝固」とは、血小板同士や血小板と血管内皮細胞が接着し、または血液細胞が血管壁に接着し、フィブリンなどとともに血餅を形成する一連の分子作用をいう。本発明の「血液凝固阻止剤」は、前記血液凝固を阻止して血液循環を促進する、血管中に生成した血栓を溶解して血液循環を促進する等の作用を有する薬剤を示す。抗凝血剤、血液循環促進剤、血栓形成阻害剤などの薬剤もまた、本発明の「血液凝固阻止剤」に含まれる。
【0063】
ADAM8タンパク質の精製は、当業者に公知の方法で行うことができる。一例を示せば、まず、配列番号:2、4または6のアミノ酸配列をコードする遺伝子、または配列番号:1、3、または5を含む塩基配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のADAM8タンパク質を公知の方法で精製することができる。
【0064】
本発明で用いる組換えベクターとしては、宿主細胞を形質転換し得るものであればよく、宿主細胞に応じて大腸菌用のプラスミド、枯草菌用のプラスミド、酵母用のプラスミド、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。これらには、その宿主細胞にてタンパク質を適切に発現させ得るプロモーター等の制御配列を有しているものが好ましい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどが挙げられる。また、宿主細胞としては、組換えベクターにて外来性遺伝子を発現できる物であればよく、一般的には、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが用いられる。
【0065】
宿主細胞に組換えベクターを移入する方法としては、一般的に常用されている方法を用いればよく、例えば、大腸菌の場合は塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法、酵母の場合は塩化リチウム法やエレクトロポレーション法が利用できる。また、動物細胞の形質転換は、エレクトロポレーション等の物理的方法、あるいは、リポソーム法やリン酸カルシウム法等の化学的方法、あるいはレトロウイルス等のウイルスベクターを用いて行なうことができる。
【0066】
形質転換体である宿主細胞の培養形態は、宿主の栄養生理学的性質を考慮して培養条件を選択すればよい。宿主細胞が大腸菌、枯草菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が好ましく、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0067】
上記培養物から本発明の膜タンパク質を分離精製するには、通常の一般的な精製により行なうことができる。すなわち、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過により膜タンパク質の粗抽出液を調製する。緩衝液中には、尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。このようにして得られた抽出液、あるいは培養上清中に含まれるタンパク質の精製は、公知の精製方法によって行うことができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、フィルター、限外ろ過、ゲルろ過、電気泳動、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、タンパク質の分離、精製を行うことが可能である。
【0068】
また、発現タンパク質の精製を容易にするために、前記発現ベクターにタグを組み込んでおくこともできる。タグの例としては、例えば、GSTタグ、Mycタグ、Hisタグ、FLAGタグ、マルトース結合タンパク(MBP)などが挙げられる。
【0069】
また、本発明の血液凝固阻止剤の有効成分としてADAM8タンパク質断片を用いることもできる。本発明に用いることができるADAM8タンパク質断片としては、プロテアーゼ活性を有する部分を含む断片であれば特に限定されることはない。このような部分は、当業者であれば適宜選択し得るが、例えば、ゼブラフィッシュのADAM8のアミノ酸配列(配列番号:6)における第197位〜393位に相当する配列を含む部分である。
【0070】
本発明において使用できるADAM8タンパク質断片のより好ましい例として、ADAM8タンパク質の細胞外ドメインを挙げることができる。ADAM8タンパク質の細胞外ドメインは、例えば、ヒトのADAM8アミノ酸配列(配列番号:2)における第1位〜653、マウスADAM8アミノ酸配列(配列番号:4)における第1位〜第653位、またはゼブラフィッシュのADAM8のアミノ酸配列(配列番号:6)における第1位〜第652位までの配列に相当する部分である。
【0071】
本発明の第三の態様は、ADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤である。本発明においてADAM8の「機能を亢進する」とは、ADAM8のプロテアーゼ活性を促進することをいう。ADAM8の「機能を亢進する化合物」とは、上述のADAM8タンパク質の生化学的機能や生物学的機能を促進する化合物を意味し、ADAM8のプロテアーゼ活性を促進する化合物、ADAM8の発現を促進する化合物などが含まれる。「ADAM8の発現を促進」にはDNAからの発現レベルの促進も、タンパク質の発現レベルの促進も含まれる。ADAM8の機能を亢進する化合物は、投与前の状態よりも機能を亢進するものであれば特に限定されず、好ましくはADAM8の機能を約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上亢進する化合物であれば特に限定されない。
【0072】
本発明のADAM8の機能を亢進する化合物の具体的な例として、ADAM8の発現を促進する化合物を挙げることができる。ADAM8の発現を亢進する化合物としては、例えば、ADAM8タンパク質またはその一部をコードする核酸などが挙げられる。具体的には、配列番号2、4または6に記載のタンパク質をコードする核酸、ゼブラフィッシュのADAM8のアミノ酸配列(配列番号:6)における第1位〜第652位までのアミノ酸配列を含む部分タンパク質を含むADAM8タンパク質断片をコードする核酸などが挙げられる。このような核酸には、投与対象においてタンパク質を適切に発現させ得るプロモーター、エンハンサー等の制御配列を有しているものが好ましい。対象への前記核酸の投与方法としては、前述のADAM8の発現を抑制する核酸の投与方法と同様の方法を適宜選択することができる。
【0073】
また、ADAM8の機能を亢進する化合物は、ADAM8タンパク質のプロテアーゼ活性を促進する化合物であってもよい。このような化合物には、低分子化合物、タンパク質等が含まれる。
【0074】
本発明の「血液凝固阻止剤」は、血栓が血管の損傷等を原因として形成された部位以外の部位に移動して、血管をふさぐ血栓塞栓症(例えば、静脈血栓症、心筋梗塞章、肺塞栓症、脳塞栓症、四肢動脈血栓塞栓症等)の治療に使用することができる。また、異常な血液凝固を阻止して、血液循環の促進やうっ血予防や、血栓の線溶作用が働かずに起きる種々の疾患の治療に使用することができる。具体的な例としては、汎発性血管内血液凝固症候群の治療などが挙げられる。さらに、本発明の「血液凝固阻止剤」は、医師等による処置における、好ましくない血液凝固の予防にも使用することができる。具体的には、血液体外循環時における灌流血液の凝固防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血または血液検査の際の血液凝固の防止、手術に伴う血栓塞栓症の予防または治療などが挙げられる。
【0075】
本発明者らは、ADAM8が血液循環促進作用を有することを見出した。より具体的には、ADAM8が、血液凝固や血液細胞の移動に関わる糖蛋白質PSGL−1に対し分解作用を有することを見出した。この結果は、ADAM8を標的とした止血剤または血液凝固阻止剤のスクリーニング方法が可能であることを示す。
【0076】
本発明のスクリーニング方法に用いる被検化合物は特に限定されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、抗体、ペプチドなどの単一化合物または混合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、抗体ライブラリー、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を挙げることができる。
【0077】
本発明のスクリーニング方法の第一の態様は、ADAM8のPSGL−1分解活性を阻害する化合物のスクリーニングに関する。このスクリーニングにおいてはまず、(a)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる。次いで、(b)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する。次いで、(c)ADAM8のPSGL−1分解活性を阻害する化合物を選択する。この方法によって、選択された化合物は、止血剤の候補化合物になりうる。また、後述のスクリーニング方法の非検化合物として使用することもできる。
【0078】
本発明のスクリーニング方法に用いる細胞は、ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞であれば、どのような細胞であってもよい。ADAM8およびPSGL−1を発現する生体から分離した細胞やその初代培養株、継代培養株であってもよく、実験用に確立された細胞株であってもよい。実験用に確立された細胞株としては、例えばHEK293(ヒト胎児腎臓)、HeLa(ヒト子宮頸癌)、MRC5(ヒト胎児正常肺)、UtSMC(ヒト正常子宮平滑筋)、A549(ヒト肺癌)、HepG2(ヒト肝臓癌)、Caco2(ヒト大腸癌)、MG63(ヒト骨肉腫)、Jurkat(ヒトT細胞性白血病)、Molt4(ヒトT細胞性白血病)、K562(ヒト慢性骨髄性白血病)、U937(ヒト単球性白血病)、A172(ヒト神経膠芽腫)、PA1(ヒト卵巣性テラトカルシノーマ)、MCF7(ヒト乳癌)、PC12(ラット褐色細胞腫)、CHO(ハムスター卵巣)、COS7(サル腎臓)、Vero(サル腎臓)、NIH3T3(マウス胎児繊維芽細胞)、SFME(マウス胎児正常神経幹細胞)、ES−D3(マウス胚性幹細胞)、STO(マウス胚細胞)などが挙げられる。また、菌類としては出芽酵母、分裂酵母などが挙げられる。また、これらに所望の遺伝子を形質転換させた細胞であってもよい。さらに、生体から分離した細胞の他、受精卵や発生過程の胚等を用いることもできる。
【0079】
これらの細胞を培養する方法は、上述に記載の方法に従って行うことができる。また、ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞としてゼブラフィッシュ受精卵を使用することもできる。培養液中でゼブラフィッシュ受精卵に候補化合物を接触させ、ADAM8の活性を検出することにより、より迅速にスクリーニングを行うことができる。
【0080】
ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する方法としては、例えば、PSGL−1の分解産物が生じるか否かを検出する方法が挙げられる。一例を挙げれば、上記工程(c)において、PSGL−1を発現する細胞からタンパク質試料を調製する。これを電気泳動した後、PSGL−1の細胞内ドメインを認識する抗体を用いたウェスタンブロッティングを行うことにより、PSGL−1の細胞外ドメインが分解されたか否かをPSGL−1タンパク質のサイズにより確認することができる。ADAM8の活性が抑制され、PSGL−1細胞外領域の分解が抑制された場合には、天然のPSGL−1タンパク質と同じサイズのPSGL−1が検出される。タンパク質試料の調製、電気泳動、ウェスタンブロッティングなどの操作は当業者に公知の方法により行うことができる。
【0081】
本発明のスクリーニング方法の第二の態様は、ADAM8の発現レベルを減少させる化合物のスクリーニング方法に関するものである。ADAM8の発現を抑制する化合物は止血剤の候補化合物になりうる。
【0082】
このスクリーニングにおいては、まず、(d)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる。次いで、(e)ADAM8の発現量を検出する。次いで、(f)ADAM8の発現を抑制する化合物を選択する。この方法によって、選択された化合物は、止血剤の候補化合物になりうる。
【0083】
このような細胞としては、上述のとおりADAM8を発現する細胞であれば、特に限定されない。ADAM8を発現する生体から分離した細胞やその初代培養株、継代培養株であってもよく、実験用に確立された細胞株であってもよい。実験用に確立された細胞株としては、上述のスクリーニング方法と同様の培養細胞などを使用可能である。また、出芽酵母、分裂酵母などの菌類も使用可能である。また、上述のような種々の形質転換細胞を用いることもできる。さらに、生体から分離した細胞の他、受精卵や発生過程の胚等を用いることもできる。本発明において「接触」は、例えば、細胞の培養液に被検化合物を添加することにより行うことができる。このスクリーニングにおいては、次いで、該細胞におけるADAM8タンパク質をコードするDNAまたはADAM8タンパク質の発現レベルを測定し、被検化合物を接触させていない場合と比較して、ADAM8の発現レベルを減少させる化合物を選択する。
【0084】
本発明のスクリーニング方法において、「ADAM8の発現を抑制」にはDNAの発現レベルの抑制も、タンパク質の発現レベルの抑制も含まれる。
【0085】
DNAの発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、mRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによってDNAの発現レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、DNAの発現レベルを測定することも可能である。
【0086】
また、タンパク質の発現レベルの測定も公知の方法によって行うことができる。例えば、ADAM8タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該ADAM8タンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することができる。また、ADAM8タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法などを実施し、該ADAM8タンパク質の発現を検出することも可能である。
【0087】
ADAM8タンパク質をコードするDNAの発現レベルを減少させる化合物のスクリーニングとしては非ヒト動物を使用することもできる。まず、ADAM8タンパク質をコードするDNAを有する非ヒト動物に被検化合物を投与する。ADAM8タンパク質をコードするDNAを有する非ヒト動物として、例えばゼブラフィッシュ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ブタ、ネコ、サル、スナネズミ、ハムスター等の実験動物を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0088】
非ヒト動物への被検化合物の投与は、例えば、経口的または非経口的に行うことができるが、それらに限定されない。被検化合物がタンパク質である場合には、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子を有するウイルスベクターを構築し、その感染力を利用して、非ヒト動物に該遺伝子を導入することも可能である。
【0089】
このスクリーニングにおいては、次いで、該非ヒト動物におけるADAM8タンパク質をコードするDNAの発現レベルを測定し、被検化合物を投与していない場合と比較して、該DNAの発現レベルを減少させる化合物を選択する。DNAの発現レベルは、上述の方法で測定することができる。
【0090】
本発明のスクリーニング方法の第三の態様は、ADAM8のPSGL−1分解活性を促進する化合物のスクリーニングに関する。このスクリーニングにおいてはまず、(g)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる。次いで、(h)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する。次いで、(i)ADAM8のPSGL−1分解活性を促進する化合物を選択する。この方法によって、選択された化合物は、血液凝固阻止剤の候補化合物になりうる。
【0091】
このスクリーニング方法は、工程(g)〜(h)までを、上述の第一のスクリーニングの態様における工程(a)〜(b)と同様に行うことができる。次いで工程(i)において、化合物と接触されない場合と比較して、天然PSGL−1よりもサイズの小さいPSGL−1タンパク質のシグナルが増強した場合には、ADAM8の活性が促進されたと判断することができる。
【0092】
本発明のスクリーニング方法の第四の態様は、ADAM8の発現レベルを促進させる化合物のスクリーニング方法に関するものである。ADAM8の発現を抑制する化合物は血液凝固阻止剤の候補化合物になりうる。このスクリーニングにおいてはまず、(j)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる。次いで、(k)ADAM8の発現量を検出する。次いで、(l)ADAM8の発現を促進する化合物を選択する。細胞におけるADAM8タンパク質をコードするDNAまたはADAM8タンパク質の発現レベルの測定は、上述のスクリーニング方法の第二の態様と同様に行うことができる。
【0093】
本発明のADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤、または、ADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤が投与される対象は、魚類または哺乳動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0094】
本発明の止血剤、または、血液凝固阻止剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、通常有効成分である、ADAM8の機能を抑制する化合物、または、ADAM8の機能を亢進する化合物を0.01〜100mg、好ましくは0.1〜50mgを1回〜数回に分けて投与する。
【0095】
本発明の止血剤、または、血液凝固阻止剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の止血効果または血液凝固阻止効果を有する材料であってもよいし、前記効果を有さない材料であってもよく、有効成分であるADAM8の機能を抑制する化合物、または、ADAM8の機能を亢進する化合物とともに投与可能な材料を意味する。製剤上許容しうる担体は、薬理学的及び製剤学的に許容されるものであればよく、特に制限されない。例えば、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤等の一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、ビルダー、漂白剤、酵素、キレート剤、消泡剤、着色料(染料、顔料等)、柔軟剤、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒等が含まれる。
【0096】
本発明の化合物は、通常の医療製剤の形態に製剤することができる。当該医療製剤としては、上記薬理学的担体を用いて適宜調製される。医療製剤の形態としては特に限定はなく、治療目的に応じて適宜選択して使用される。その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤、乳剤)等が挙げられる。これら製剤は、通常用いられる方法により製造すればよい。
【0097】
なお、本明細書において用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0098】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0099】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0100】
本発明の実施態様は模式図を参照しつつ説明される場合があるが、模式図である場合、説明を明確にするために、誇張されて表現されている場合がある。
【0101】
第一の、第二のなどの用語が種々の要素を表現するために用いられるが、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は一つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素は第一の要素と記すことは、本発明の範囲を逸脱することなく可能である。
【0102】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0103】
〔実施例1〕ADAM8の発現部位の解析
ADAMファミリーのデータベース上の発現データを解析することによりADAM8の発現の特異性を検証した。
【0104】
血液におけるADAM遺伝子ファミリーのEST(Expresion Sequence Tag)情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のヒトEST情報(2009年、328日)から抽出した。
【0105】
ホールマウントin situハイブリダイゼーション(WISH:Whole mount in situ hybridization)のプローブには、zADAM8のアミノ酸コード領域の全長にあたる2532塩基を用いた。プローブ配列は野生型ゼブラフィッシュ24時間胚より抽出したtotal RNAから逆転写PCR法を用いて単離した。染色したサンプルは野生型ゼブラフィッシュ24時間胚を用いた。反応条件等は文献(Hanaoka et al.2006 Genes to Cells(2006)11, 293-303)に従って行った。
【0106】
EST情報の解析の結果、ヒトおよびマウスにおいて血液中で主に発現しているADAM遺伝子はADAM8であった(ヒトについては図1a、マウスはデータ示さず)。また、ゼブラフィッシュADAM8は生体の主な造血組織である腎臓で高度に発現が見られた。また、ヒトの組織別ESTデータによると、ADAM8は造血系の組織および/または器官に発現しており、基質であるPSGL−1も同様の発現パターンを示すことが明らかになった(図1b)。
WISHの結果、ゼブラフィッシュADAM8は、背部大動脈腹側のICM(Intermediate cell mass)領域で発現していることが明らかになった(図1c)。この背部大動脈の腹側は、ゼブラフィッシュにおける造血の場であり、哺乳類の大動脈・性腺・中腎(AGM)領域にあたる。
以上より、ADAM8が血液生産能に関与していることが示唆された。
【0107】
〔実施例2〕ゼブラフィッシュADAM8機能阻害による血栓の形成
本実験には赤血球で特異的に蛍光色素を発現するgata1:RFPトランスジェニックゼブラフィッシュを用い、生きた個体での赤血球の観察を行った。トランスジェニックゼブラフィッシュは、京都大学医学研究科の川原敦雄博士(現・国立循環器病センター)より供与を受けた。観察には蛍光実体顕微鏡MZ−16FA(ライカ社製)を用いた。
zADAM8の発現抑制実験を行うために、zADAM8翻訳開始点近傍配列に特異的に結合し、タンパク質合成を阻害するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを作成した。配列設計・合成はGene Tools社に委託した。使用したADAM8モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列は、5’−TTATTAAAGTAAGGACCTGGAGGGA−3’(配列番号:13)である。モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを0.1mMの濃度でインジェクションバッファー(0.25% フェノールレッド、 120mM KCl、 20mM HEPES pH7.4)に溶解し、マイクロキャピラリーによる直接注入法により、ゼブラフィッシュ1細胞期受精卵の卵黄部分に注入した。コントロール実験として、zADAM8発現抑制モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドに対し5塩基の変異を加えたオリゴヌクレオチドを注入した胚を作成した。使用したコントロールのオリゴヌクレオチドの配列は、5’−TATATACTCCAGTCTATCGGATCGC−3’(配列番号:14)である。オリゴヌクレオチド注入後のゼブラフィッシュ胚は27℃で静置した。
48時間後、蛍光実体顕微鏡下で赤血球の分布を観察し、正常発生胚(コントロール実験)とzADAM8発現抑制胚を比較した。
観察結果を顕微鏡下で撮影した写真を図2aに示す。
また、30時間後のzADAM8発現抑制胚について、実施例1と同様の方法でWISHを行った(図2b)。
【0108】
TG:GATA−1−RFP(赤血球系列の前駆細胞をRFP(赤色蛍光タンパク質)により可視化したトランスジェニックゼブラフィッシュ)を用いて、個体でのADAM8生理活性についての検証をおこなった。zADAM8の発現を抑制するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを卵に注入しzADAM8の発現阻害をおこなった個体(48時間胚)では、血液循環が著しく抑制され、中心静脈内あるいは心臓付近(キュビエ管など)、頭部などでの著しいうっ血あるいは血栓を生じた(図2a)。また、WISHの結果においても、赤血球はICM領域から移動せず体幹部に蓄積する様子が観察された(図2b)。なお、gata−1は赤血球分化に必須な転写因子、α−e1globinはヘモグロビンを構成するタンパク質であり、共に赤血球を標識するマーカー遺伝子である。このことから、ADAM8は血液循環促進・血栓阻害に関わる生理活性をもつことが明らかとなった。
【0109】
〔実施例3〕zADAM8機能阻害による血液循環の抑制
トランスジェニックゼブラフィッシュのzADAM8の発現抑制は、実施例2と同様の方法で行った。コントロールには、zADAM8を発現抑制していないトランスジェニックゼブラフィッシュを用いた。zADAM8発現抑制個体の観察は受精後26時間後より1時間置きに31時間後まで、さらに48時間後の計7回、蛍光観察による目視で血液循環の有無を判別し記録した。コントロール個体の観察は受精後20時間から行った。観察には蛍光実体顕微鏡MZ−16FA(ライカ社製)を用いた。また、顕微鏡像の記録には共焦点顕微鏡TCS−SP5(ライカ社製)を用いた。
【0110】
まず、zADAM8正常発現個体において血液循環開始の過程を経時的に観察した(図3)。図3bに示すように、20時間において、まずDAの前駆細胞が背側に移動した。この際、PCVとICMの境界が明確でないため、この部分を「DAに隣接した非DA領域」という意味でsub−aortic regionと呼ぶこととする。24時間胚ではPCVが明確に分化しはじめた。このときICM領域には、血管内に入る前の未熟な赤血球が蓄積していた。さらに、30時間胚では、ICM領域から血管内への血球の移動がほぼ終了し、ICM領域に該当する部分が縮小し、血管は太い管状構造をとった。また、図3cに示すように、26〜28時間において、ICMから脈管(DA、PCV)への血球の移動が起こり、その後に突如として血液循環が開始した(74’00""前後)。
また、図dには、血液循環開始後に循環以外の動態を示す血球の例を示す。青はtransmigration(ICM→血管への移動)、黄色はrolling(血管内壁に接着した状態での移動)を示す。
ゼブラフィッシュ正常発生個体において、多くの個体では血液循環は受精後約27〜29時間経過後から開始された(図3b、図4a、および、図4b上段)。しかしzADAM8の発現阻害個体においては、このような血液循環の開始がほとんど見られなくなった。受精後48時間においても約半数の個体では血液循環が全く見られず、zADAM8の作用が正常な血液循環開始に必要であることが明らかとなった(図4a、図4b下段、および、図4d)。
なお、zADAM8正常発現個体においても、発現抑制個体においても、transmigrationおよびrollingは正常に起こっていたことから、ADAM8は血球の血管内皮との接着を切断する作用があることが示唆された(図4c)。
【0111】
〔実施例4〕ADAM8のPSGL−1分解活性
(4−1)FACS解析によるPSGL−1膜外領域シグナルの検出
mPSGLのセレクチン結合領域に対する抗体を用いたFACS解析により、培養細胞内で発現させたmPSGL分子の膜外領域のシグナルの、mADAM8の有無による変化を検出した。
本実験では、HEK293細胞を用いた。抗体は、mPSGL(NM_009151)のセレクチン結合領域である細胞外領域特異的モノクローナル抗体(clone:4RA10, BD Biosciences社製)を用いた。FACS解析には、FACSAria(BD Biosciences社製)を使用した。
継代後1日のHEK293細胞へCMVプロモーターに連結したmPSGL cDNAを導入し、24時間培養した。DNAはpCIベクター(プロメガ社)を用いて導入した。トランスフェクションマーカーには、同様にCMVプロモーターに連結したGFPを用いた。マウスADAM8(NM_007403)および、プロテアーゼ活性欠損型マウスADAM8(EQ変異体:330番目のアミノ酸"E"を"Q"に置換)も同様にCMVプロモーターによる発現系で導入した。培養細胞へのDNAトランスフェクションには、Lipofect amin(Invitrogen社製)を用いた。導入条件は付属マニュアルに倣った。
トランスフェクションの24時間後に、培養細胞を抗マウスPSGL−1抗体および二次抗体(Alexa647, Molecular Probes社製)にて生染色し、FACSによりmPSGLの膜外領域のシグナルを検出した。サンプル毎のトランスフェクション効率の違いを考慮して、トランスフェクションマーカーであるGFPのシグナル量によりmPSGLのシグナル量を補正した。
補正後のシグナル量に関して、mPSGLのみをトランスフェクションした際の値を1とし、マウスADAM8およびEQ変異体の共発現時のシグナル量を比較した。グラフ化したものが図5aである。
【0112】
mADAM8の存在下で膜外シグナル強度は有意に低下したが、プロテアーゼ活性欠損型EQ mADAM8の存在下ではシグナルに変化はなかった。したがってPSGL−1膜外領域がADAM8により蛋白分解を受け、セレクチン結合性を失うことが示唆された。
【0113】
(4−2)ウェスタンブロッティングによるPSGL−1細胞内領域に付加したシグナルの検出
本実験にも、HEK293細胞を用いた。ウェスタンブロッティングに関しては、抗zPSGL抗体を用いて検出を行った(図5b上段)。二次抗体には抗ラビットHRP(Vector社製)を用いた。また、zPSGLのC末端にHA(ヘマグルチニン)タグを付加したクローンを作製し、一次抗体にHA−7(アブカム社製)を用いた。二次抗体には抗マウスHRP(Vector社製)を用い、ECL Plus Western Blotting Detection Systemで発光反応を行いTyphoonスキャナ(共にGEヘルスケア社製)でシグナルを検出した(図5b下段)。
zPSGLは、pcDNA3.1ベクター(インビトロジェン社)、ADAM8はpCIベクター(プロメガ社)を用いて細胞に導入した。サンプルは、DNAをトランスフェクションした後24時間でタンパク質の回収を行った。細胞をホモジェナイザーで破砕したのち、界面活性剤(NP−40)を含むバッファーで氷上撹拌し、膜画分からzPSGLを溶出した。β−メルカプトエタノールで還元処理を行ったあと、100℃で熱処理を加え、泳動サンプルとして調製した。
調製したサンプルは10%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。分離されたタンパク質はニトロセルロース膜(アマシャム社製)へと転写し、抗体によるブロッティング反応および発光反応を行った。
スキャナで検出したイメージが図5bである。
【0114】
また、mPSGLのC末端にHAタグを付加したクローンでも同様の条件により、ウェスタンブロッティングを行った。結果を図6に示す。
【0115】
zPSGL、mPSGLどちらにおいても、mADAM8あるいはzADAM8の存在下でのみ、30kDa付近に小さなサイズの切断片を確認した(図中のS)。このような断片はEQ mADAM8およびEQ zADAM8では見られなかった。したがってmPSGLはADAM8によって限定分解をうけ、細胞内領域を含む短い断片を生じることが明らかとなった。また、この活性はマウスとゼブラフィッシュのADAM8で保存されていることが分かった。
【0116】
(4−3)生体におけるzADAM8を介したzPSGLの分解
本実験のウェスタンブロッティングに関しては、内在性のzPSGLに反応する抗体を作製し用いた。抗体作製はMBL社に委託した。二次抗体には抗ラビットHRP(Vector社製)を用いた。以後の検出系は実施例4−2と共通である。
コントロール胚、zADAM8発現阻害胚、zPSGL発現阻害(ノックダウン)胚は実施例1と同様の方法により調製した。zPSGL発現阻害に使用したPSGL−1モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列は、5’−TGTAAGCCACCATCGCCGCCATCTG’(配列番号:15)である。各サンプルはそれぞれ50個の24時間胚より抽出した。
各処理を施した24時間胚を50個集め、氷上のPBSに浸した状態で、ピンセットを用いた手作業により卵殻および卵黄を除去した。ホモジェナイザーで胚を破砕した後、NP−40バッファーでzPSGLの溶出を行った。以後のサンプル調製は実施例4−2と同様である。
調製したサンプルは12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。1レーンあたり胚5個に相当するタンパク質をアプライした。以後の操作は実施例4−2と同様である。
スキャナにより取得したイメージが図5cである。
【0117】
zPSGLの細胞内領域に特異的な抗体を作製し、生体内におけるzADAM8を介したzPSGLの分解能を検討した。PSGL−1の発現抑制(K.D.=nockown)により減少する3種類のシグナルを、内在性zPSGLのシグナルとして同定した。zADAM8発現抑制下では切断片と考えられる2種類のシグナルが減少し、残るシグナルの強度が微増した。これは、zADAM8による分解が起こらず、完全長のzPSGLが蓄積した結果だと考えられる。
なお、HEK細胞で発現させた場合とzPSGLの分子量が異なるが、付加される糖成分の違いであるものと考えられる。
以上の結果より、ゼブラフィッシュにおける初期発生では、ADAM8が血球の血管内への侵入の後に、血球上のPSGL−1を介する細胞接着を切断して、血流内へと導くための機能を有していることが明らかになった。概念図を図5dに示す。したがって、生体内においてもADAM8を介したPSGL−1の分解が起こっており、その分解阻害が血栓形成という生理現象とリンクしていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する止血剤は、血管損傷などによる出血の止血に使用できる他、血友病、フォン・ヴィレブランド病、播種性血管内凝固症候群、突発性血小板減少性紫斑病等の凝固・線溶系の異常疾患の治療のための医薬品として利用可能である。
【0119】
また、本発明のADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤は、血栓塞栓症の治療のための医薬品として利用可能である。また、異常な血液凝固を阻止することにより、血液循環の促進やうっ血予防や、血栓の線溶作用が働かずに起きる種々の疾患の治療のための医薬品として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADAM8の機能を抑制する化合物を有効成分として含有する、止血剤。
【請求項2】
ADAM8の機能を抑制する化合物が、ADAM8の発現を抑制する化合物である請求項1に記載の止血剤。
【請求項3】
ADAM8の発現を抑制する化合物が、ADAM8をコードする遺伝子の塩基配列またはその一部に対して、相補的な塩基配列を含有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項2に記載の止血剤。
【請求項4】
ADAM8の機能を抑制する化合物が、ADAM8の活性を阻害する化合物である請求項1に記載の止血剤。
【請求項5】
ADAM8タンパク質またはその断片を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤。
【請求項6】
ADAM8の機能を亢進する化合物を有効成分として含有する、血液凝固阻止剤。
【請求項7】
ADAM8の機能を亢進する化合物が、ADAM8の発現を促進する化合物である、請求項6に記載の血液凝固阻止剤。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、止血剤のスクリーニング方法:
(a)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(b)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する工程;および
(c)ADAM8のPSGL−1分解活性を阻害する化合物を選択する工程。
【請求項9】
以下の(d)〜(f)の工程を含む、止血剤のスクリーニング方法:
(d)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(e)ADAM8の発現量を検出する工程;および
(f)ADAM8の発現を抑制する化合物を選択する工程。
【請求項10】
以下の(g)〜(i)の工程を含む、血液凝固阻止剤のスクリーニング方法:
(g)ADAM8およびPSGL−1を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(h)ADAM8のPSGL−1分解活性を検出する工程;および
(i)ADAM8のPSGL−1分解活性を促進する化合物を選択する工程。
【請求項11】
以下の(j)〜(l)の工程を含む、血液凝固阻止剤のスクリーニング方法:
(j)ADAM8を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程;
(k)ADAM8の発現量を検出する工程;および
(l)ADAM8の発現を促進する化合物を選択する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−275216(P2010−275216A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128217(P2009−128217)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】