説明

正極活物質の製造方法および正極活物質

【課題】高い充電電圧を有する二次電池において、高い放電容量と容量維持率とを両立する。
【解決手段】リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を設け、被覆層の表面におけるESCA表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下である正極活物質を用いて二次電池を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池に用いる正極活物質に関し、特に、電池内部でのガス発生を抑制する正極活物質の製造方法および正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子技術のめざましい発達により、携帯電話やノートブックコンピューターなどの電子機器は高度情報化社会を支える基盤技術と認知されている。また、これらの電子機器の高機能化に関する研究開発が精力的に進められており、これらの電子機器の消費電力も比例して増加の一途を辿っている。その反面、これらの電子機器は長時間の駆動が求められており、駆動電源である二次電池の高エネルギー密度化が必然的に望まれている。
【0003】
また、電子機器に内蔵される電池の占有体積や質量などの観点より、電池のエネルギー密度は高いほど望ましい。現在では、リチウムイオン二次電池が優れたエネルギー密度を有することから、殆どの機器に内蔵されるに至っている。
【0004】
リチウムイオン二次電池用の正極材料としては、リチウムイオンをインターカレート・デインターカレートができるリチウム含有遷移金属化合物、あるいはこれらの金属元素を一部置換した複合酸化物が用いられる。また、スピネル構造を有するLiMn24は、高エネルギー密度、高電圧を有するため、広く用いられている。
【0005】
リチウムイオン二次電池では、例えば、正極にはコバルト酸リチウム、負極には炭素材料が使用されており、作動電圧が2.5V〜4.2Vの範囲で用いられている。単電池において、端子電圧を4.2Vまで上げられるのは、非水電解質材料やセパレータなどの優れた電気化学的安定性によるところが大きい。
【0006】
ところで、従来の最大4.2Vで作動するリチウムイオン二次電池では、正極に用いられるコバルト酸リチウムなどの正極活物質は、その理論容量に対して6割程度の容量を活用しているに過ぎない。リチウムイオン二次電池については、高エネルギー密度化、高信頼性化及び長寿命化が望まれている。これらの特性、特に電池のエネルギー密度を向上する方法としては、充電の上限電圧を高く設定することが挙げられる。
【0007】
このため、例えば下記の特許文献1に記載されているように、更に充電圧を上げることにより、残存容量を活用することが原理的に可能である。実際に、充電時の電圧を4.25V以上にすることにより、高エネルギー密度化が発現することが知られている。充電電圧を高くすると、正極活物質であるリチウム複合酸化物からより多くのリチウムがディインターカレート・インターカレートされるため、高容量化が可能となる。充電圧を上げることにより、残存容量を活用することが、原理上可能である。
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO03/019713号パンフレット
【0009】
なかでも、LixNiO2(0<x≦1.0)、LixCoO2(0<x≦1.0)などのニッケル(Ni)またはコバルト(Co)を主体とするリチウム遷移金属複合酸化物が、高電位、安定性、長寿命という点から最も有望である。このなかでも、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)を主体とする正極活物質は、比較的高い電位を示す正極活物質であり、充電電流容量が高く、エネルギー密度を高めることが期待される。
【0010】
一方、上述のように、電池電圧を従来の二次電池よりも高くした電池は、充放電サイクル寿命が低下したり、高温特性が劣化してしまう。例えばニッケル酸リチウム(LiNiO2)のようなリチウムニッケル複合酸化物や、Niの一部をCoやMnで置換したリチウムニッケル複合酸化物は、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)に比べて高電位での安定性が高いとされている。しかしながら、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)に比べて放電電位や体積密度が低下するため、エネルギー密度を高めるには不利となっている。
【0011】
そこで、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)を主体とする正極活物質を安定化させるために、下記の特許文献2のように、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)またはチタン(Ti)等の異種元素を固溶させるが提案されている。
【特許文献2】特開2004−303591号公報
【0012】
また、特許文献3のように、LiNiO2 にLiMn1/3Co1/3Ni1/32 などを少量混合して用いる構成が提案されている。また、特許文献4のように、コバルト酸リチウム表面をスピネルマンガン酸リチウムやスピネルチタン酸リチウム、ニッケルコバルト複合酸化物で表面被覆を行うことなどが提案されている。さらに、特許文献5のように、金属元素の置換や被覆ではなく、ニッケルコバルト酸リチウムを不活性ガス中で熱処理することにより活物質の安定化を図る検討も提案されている。
【特許文献3】特開2000−164214号公報
【特許文献4】特開2002−151078号公報
【特許文献5】特開平10−199530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ポータブル機器の更なる小型化、高機能化に伴い、ニッケル(Ni)を主体とするリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質をさらに改良し、充電電流容量をより高くすることが望まれている。また、上述のような正極活物質の改良によって、充放電効率の向上を達成することも望まれている。
【0014】
しかしながら、上述の各特許文献に記載の方法で作製した正極活物質を用いた二次電池であっても、要求される電池特性の全てを満たすことができないという問題がある。また、ポータブル機器のさらなる小型化、高機能化に伴い、現在リチウムイオン二次電池に一般的に用いられている上述のような正極活物質における、充放電サイクル寿命の低下を解決することが要望されている。
【0015】
したがって、この発明は、上述のような問題点を解消しようとするものであり、高容量で充放電サイクルに優れた正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、この発明は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を有し、
被覆層の表面における、ESCA表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下
である非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0017】
上述の非水電解質二次電池用正極活物質は、平均組成が化1で表されることが好ましい。
(化1)
LipNi(1-q-r-s)MnqCorM1s(2-y)
(ただし、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を除く2族〜15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示し、式中、p、q、r、s、yはそれぞれ0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、0≦s≦1.0、−0.10≦y≦0.20の範囲内の値である)
【0018】
また、複合酸化物粒子に対する被覆層の表面被覆量が、0.5原子数%以上20原子数%以下であることが好ましい。
【0019】
また、この発明は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を有し、
被覆層の表面における、ESCA表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下
である正極活物質を含む正極と、
負極と
正極と、負極との対向面に配置されるセパレータと、
非水電解質と
を備える
非水電解質二次電池である。
【0020】
上述の非水電解質二次電池において、充電電圧が、4.25V以上4.55V以下であることが好ましい。
【0021】
また、上述の非水電解質二次電池の正極に含まれる正極活物質の平均組成が上述の化1で表されることが好ましい。
【0022】
さらに、複合酸化物粒子に対する被覆層の表面被覆量が、0.5原子数%以上20原子数%以下であることが好ましい。
【0023】
上述の正極活物質では、正極活物質表面でのコバルト(Co)の溶出を抑制し、高電圧状態における正極活物質の安定性を向上させることができる。また、正極活物質中の残存酸素を減少させることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、高い電池容量と容量維持率とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
[正極活物質]
この発明の一実施の形態による正極活物質は、リチウム(Li)とコバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を有した構成とされている。そして、被覆層の表面における、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis/X-ray Photoelectron Spectroscopy(XPS);X線光電子分光分析)表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下となるものである。
【0027】
なお、ESCA表面分析は、アルバック・ファイ社製X線光電子分光装置 Quantera SXM を用いて測定したものである。ESCA表面分析の測定条件は、下記のとおりとし、ESCA表面分析の際には、得られた正極活物質をインジウム(In)金属箔に貼り付けて測定を行った。
測定装置:アルバック・ファイ社製X線光電子分光装置 Quantera SXM
X線源:単色化Al−Kα線(1486.6eV)
X線ビーム径:100μm
X線出力:25W
電子中和条件:電子中和銃および中和用アルゴンイオン銃を「オート」モードで使用
パスエネルギー:112eV
データ取込間隔:0.2eV/step
スキャン回数:20回
【0028】
ESCA表面分析によって、この発明の正極活物質中に存在するコバルト−マンガン間のCo−Mn結合およびコバルト−ニッケル間のCo−Ni結合の状態、ならびにNi、CoおよびMnの価数を評価することができる。Co−Mn結合およびCo−Ni結合の結合強度は、ESCAによるピーク間隔を、Ni、CoおよびMnの価数はピーク位置を測定することで評価することができる。
【0029】
この発明においては、ESCAにより表面分析を行った際に得られるCo−Mnのピーク間隔は、Co2p3およびMn2p3のピークトップ位置をそれぞれ同定し、差分をとった値である。元素の原子価が大きくなると、一般的には光電子ピークが高結合エネルギー側にシフトするため、結合エネルギー値は大きくなる。ニッケルマンガンコバルト酸リチウム中のMn2p3ピークは一般的に642eV辺りにピークトップを持つ。この発明では、Mn2p3ピークが642.0eV以上642.5eV以下であることを特徴としている。Mn2p3ピークが642.5eVを超えると、元素の価数が大きくなるために、Mnにおいてはイオン半径の低下と共に、ヤーンテラー歪みによって、Mn周りの結合安定性が低下する。Co2p3でも同様に元素の価数によって、ピークトップ位置が変化する。Co2p3のピークトップ位置は、778.6〜780.5eVの位置に存在するため、Co−Mnのピーク間隔は137eV程度になる。
【0030】
Co2p3のピーク位置が高エネルギー側へシフトする、つまりCo−Mnのピーク間隔の値が大きくなると3価のCoが増えるため、高充電電圧や高い温度においてCo溶出が起こり易くなり、活物質の安定性を向上させることが出来ない。このため、上述のように、Mn2p3ピークが642.0eV以上642.5eV以下であることに加えて、さらにCo−Mnのピーク間隔が137.6eV以上138.0eVであることを特徴とする。
【0031】
この発明の正極活物質は、例えば、以下の化1で平均組成が表されるものである。
(化1)
LipNi(1-q-r-s)MnqCorM1s(2-y)
(ただし、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を除く2族〜15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示し、式中、p、q、r、s、yはそれぞれ0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、0≦s≦1.0、−0.10≦y≦0.20の範囲内の値である)
【0032】
ここで、化1において、pの範囲は、例えば、0≦p≦1.5である。この範囲外に値が小さくなると、正極活物質の機能の根源である結晶構造の層状岩塩構造が崩れ、再充電が困難となり、容量が大幅に低下してしまう。この範囲外に値が大きくなると、リチウムが上述の複合酸化物粒子外に拡散し、次の処理工程の塩基性度の制御の障害となると共に、最終的には、正極ペーストの混練中のゲル化促進の弊害の原因となる。
【0033】
qの範囲は、例えば、0≦q≦1.0である。この範囲外に値が小さくなると、正極活物質の放電容量が減少してしまう。この範囲外に値が大きくなると、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となる。
【0034】
rの範囲は、例えば、0≦r≦1.0である。この範囲外に値が小さくなると、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となる。この範囲外に値が大きくなると、正極活物質の放電容量が減少してしまう。
【0035】
sの範囲は、例えば、0≦s≦1.0である。この範囲外に値が小さくなると、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となる。この範囲外に値が大きくなると、正極活物質の放電容量が減少してしまう。
【0036】
yの範囲は、例えば、−0.10≦y≦0.20である。前記範囲外に値が小さくなると、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となる。この範囲外に値が大きくなる場合は、正極活物質の放電容量が減少する。
【0037】
なお、複合酸化物粒子に対する被覆層の表面被覆量は、0.5原子数%以上20原子数%以下である。表面被覆量が0.5原子数%未満となった場合、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等による被覆効果が得られにくくなり、複合酸化物粒子表面における酸化活性が抑制されなくなってしまう。また、表面被覆量が20原子数%を超えた場合、正極活物質において電池反応に寄与しない被覆層の割合が多くなり、放電容量が低下してしまう。
【0038】
正極活物質の平均粒径は、好ましくは2.0μm以上50μm以下である。平均粒径が2.0μm未満であると、正極作製時に正極活物質層をプレスする際に正極活物質層が剥離してしまう。また、正極活物質の表面積が増えるために、導電剤や結着剤の添加量を増やす必要があり、単位重量あたりのエネルギー密度が小さくなってしまう傾向がある。一方、この平均粒径が50μmを超えると、粒子がセパレータを貫通し、短絡を引き起こす傾向がある。
【0039】
[正極活物質の製造方法]
次に、この発明の一実施の形態による正極活物質の製造方法について説明する。複合酸化物粒子は、通常において正極活物質として入手できる、リチウムとコバルトとを含む複合酸化物粒子を用いることができる。場合によっては、ボールミルや擂潰機などを用いて二次粒子を解砕した複合酸化物粒子を用いることもできる。
【0040】
化1に示すような化学組成の正極活物質を構成する、リチウムとコバルトとを含む複合酸化物粒子は、公知の手法により作製することができる。そして、この発明の一実施の形態では、公知の手法にて作製されたコバルト酸リチウムを始めとするとする複合酸化物粒子をもう一段追加処理して表面改質を行う。これにより、このような複合酸化物粒子を正極材料として用いたときの放電電流容量を高めると共に、充放電効率を向上させる。
【0041】
具体的には、正極活物質として、例えば、リチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、ならびに、必要に応じてコバルトの一部を少量のマンガン、クロム、鉄、バナジウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、銅、亜鉛、ガリウム、インジウム、スズ、ランタン、セリウムからなる群から選択される1種または2種以上の元素により置換して構成される層状結晶を有する一次粒子の凝集した二次粒子(複合酸化物粒子)を用いる。この複合酸化物粒子に対して、被着成分が溶媒に溶解した溶液を被着した後、短時間で溶媒を除去して被着成分を析出させ、さらに酸化雰囲気下で複合酸化物粒子の加熱処理を行う。
【0042】
なお、上述の被着成分は、少なくともニッケル(Ni)もしくはマンガン(Mn)を用いる。ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)を含む被覆層が正極活物質表面に存在することにより、正極活物質表面の酸化性を低下させることができる。これにより、酸化性の高い正極活物質表面との境界における電解液の分解および、それに伴うガス発生を生じにくくすることができる。
【0043】
なお、この発明の正極活物質は、正極活物質作製工程において、被覆層を形成するための第1の加熱処理を施し、続いて、窒素雰囲気下において第2の加熱処理を行う。第2の加熱処理における処理温度は、第1の加熱処理における処理温度と同等か、それ以下となるようにする。
【0044】
窒素雰囲気下における第2の加熱処理は、正極活物質中の残存炭素を減少させるとともに、被覆層表面のニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)の価数を減少させる。なお、コバルト(Co)は、複合酸化物粒子に被覆層を設ける際の第1の加熱処理によって、被覆層を構成するニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)等に固溶するため、正極活物質表面に存在することがある。被覆層表面のニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)の価数を減少させることにより、放電容量の低下を引き起こすことなく高温フロート特性を向上させることができる。また、充放電サイクルに伴う電池容量の劣化を抑制することもできる。
【0045】
正極活物質中の残存酸素は、正極の電位が高くなった際の正極からのガス発生の要因となる。このため、第2の加熱処理を行うことにより、予め正極活物質中の残存炭素を炭酸ガスとして系外へ放出させる。これにより、正極におけるガス発生が抑制される。なお、残存炭素は、JIS R 9101に規定されるAGK法により測定することができる。
【0046】
また、窒素雰囲気下等、不活性雰囲気下で加熱処理を行い、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)の価数を減少させることにより、Ni−Co、Mn−Co間での結合状態を最適化することができる。これにより、正極活物質表面でのコバルト(Co)の溶出を抑制し、高電圧状態における正極活物質の安定性を向上させることができると考えられる。
【0047】
上述のように、第2の加熱処理は、第1の加熱処理で作製された正極活物質をさらに改質するための処理である。このため、第2の加熱処理の処理温度を、第1の加熱処理の処理温度よりも大きくすると、正極活物質自体に損傷が生じるおそれがある。このため、第2の加熱処理の処理温度は、第1の加熱処理の処理温度以下に設定される。
【0048】
正極活物質は、以下のようにして作製される。
【0049】
ニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を、水を主体とする溶媒系に溶解する。そして、この溶媒系に複合酸化物粒子を分散させ、この分散系に塩基を添加する等により分散系の塩基性度を高め、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を複合酸化物粒子表面に析出させる。
【0050】
そして、被着処理により、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子に対して、第1の加熱処理を施す。第1の加熱処理における処理温度は、750℃以上1000℃以下程度とされる。これにより、複合酸化物粒子表面に被覆層を形成する。このような方法を用いることにより、複合酸化物粒子表面への被覆の均一性を向上できる。
【0051】
ニッケル(Ni)の化合物の原料としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、過塩素酸ニッケル、臭素酸ニッケル、ヨウ素酸ニッケル、酸化ニッケル、過酸化ニッケル、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸水素ニッケル、窒化ニッケル、亜硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、チオシアン酸ニッケルなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ニッケル、酢酸ニッケルなどの有機系化合物を、そのまま、あるいは必要に応じて酸等により溶媒系に溶解可能となるよう処理して、用いることができる。
【0052】
また、マンガン(Mn)の化合物の原料としては、水酸化マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン、塩素酸マンガン、過塩素酸マンガン、臭素酸マンガン、ヨウ素酸マンガン、酸化マンガン、ホスフィン酸マンガン、硫化マンガン、硫化水素マンガン、硝酸マンガン、硫酸水素マンガン、チオシアン酸マンガン、亜硝酸マンガン、リン酸マンガン、リン酸二水素マンガン、炭酸水素マンガンなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸マンガン、酢酸マンガンなどの有機系化合物を、そのまま、あるいは必要に応じて酸等により溶媒系に溶解可能となるよう処理して、用いることができる。
【0053】
上述した水を主体とする溶媒系のpHは、pH12以上であるが、好ましくはpH13以上、さらに好ましくは、pH14以上である。上述した水を主体とする溶媒系のpHの値は、高いほど、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)を含む水酸化物の被着の均一性が良好であり、反応精度も高く、処理時間の短縮による生産性の向上、品質の向上の利点がある。また、水を主体とする溶媒系のpHは、使用するアルカリのコストとの兼合い等で決定されるものでもある。
【0054】
なお、被覆層を、熱した複合酸化物粒子に対して被着成分を溶媒に溶解させた溶液を噴霧させて形成してもよい。このような方法を用いると、被着成分を溶解した溶媒を短時間で除去することができ、複合酸化物粒子が溶液に含有される溶媒と接する時間をごく短くすることができる。通常、複合酸化物粒子が溶媒と接することにより、複合酸化物粒子中のリチウムイオンが溶媒中に溶出してしまうが、上述の方法によりリチウムイオンの溶出を抑制し、複合酸化物粒子の表面の変質や、それに伴う正極活物質の容量の低下を抑制することができる。
【0055】
また、被覆層を、いわゆる乾式の方法を用いて形成するようにしてもよい。被着成分を含む金属化合物をボールミルにて微粉砕したのち、この金属化合物粉末と複合酸化物粒子とを混合し、メカノフュージョン等を用いて金属化合物粉末を複合酸化物粒子の表面に被着させる。メカのフュージョン以外にも、ボールミル、ジェットミル、擂潰機、微粉砕機などを用いて行うことができる。
【0056】
本発明では、複合酸化物粒子と、それに被覆する金属化合物とを粉砕混合被着することで、より少量で複合酸化物粒子全体を被覆することができる。この手段としては、ボールミル以外にも、ジェットミル、擂潰機、微粉砕機などを用いて行うことができる。
【0057】
続いて、被覆層が形成された複合酸化物粒子を、例えば窒素雰囲気等の不活性雰囲気下において第2の加熱処理を行う。第2の加熱処理における処理温度は、第1の加熱処理における処理温度よりも低い650℃以上950℃未満程度とする。これにより、この発明の正極活物質が作製される。
【0058】
このようにして作製された正極活物質は、非常に高い安定性を有しており、この正極活物質を用いた正極を備えた二次電池は高容量で充放電サイクルに優れるものとなる。この発明の正極活物質を用いた二次電池は、例えば以下のような構成とすることができる。
【0059】
(1−1)非水電解質二次電池の第1の例
[非水電解質二次電池の構成]
図1は、この発明の一実施形態による非水電解液電池(以下、二次電池と適宜称する)の断面構造を示す。この電池は、例えばリチウムイオン二次電池である。
【0060】
図1に示すように、この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。
【0061】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。
【0062】
安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。これにより、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0063】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極端子25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)などよりなる負極端子26が接続されている。正極端子25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極端子26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0064】
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。
【0065】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。なお、正極集電体21Aの片面のみに正極活物質層21Bが存在する領域を有するようにしてもよい。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム(Al)箔などの金属箔により構成されている。
【0066】
正極活物質層21Bは、例えば、先に説明した構成の正極活物質と、繊維状炭素やカーボンブラック等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤とを含む。
【0067】
正極活物質層に含まれる導電剤としては、特に、繊維状炭素が好ましい。繊維状炭素は、略球形を有する炭素材料と比べて長径が長いことから、導電剤として用いた場合に、略球形の炭素材料を用いた場合と比較して導電剤同士の接点を少なくすることができる。導電剤同士は結着剤によって接続されているため、接点数が少なくなることにより導電経路の結着剤量が減少し、抵抗の上昇を抑制することができる。このため、繊維状炭素を用いることによって正極活物質層の厚み方向における導電性を向上させることが可能となる。
【0068】
繊維状炭素は、例えば気相法により形成されたいわゆる気相法炭素繊維を用いることができる。気相法炭素繊維は、例えば、高温雰囲気下に、触媒となる鉄と共に気化された有機化合物を吹き込む方法で製造することができる。気相法炭素繊維は、製造した状態のままのもの、800〜1500℃程度で熱処理したもの、2000〜3000℃程度で黒鉛化処理したもののいずれも使用可能である。中でも、熱処理さらには黒鉛化処理したものの方が炭素の結晶性が進んでおり、高導電性及び高耐圧特性を有するため好ましい。
【0069】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。なお、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bが存在する領域を有するようにしてもよい。負極集電体22Aは、例えば銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。
【0070】
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質を含んでおり、必要に応じて導電剤、結着剤あるいは粘度調整剤などの充電に寄与しない他の材料を含んでいてもよい。導電剤としては、黒鉛繊維、金属繊維あるいは金属粉末などが挙げられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素系高分子化合物、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)あるいはエチレンプロピレンジエンゴム(EPDR)などの合成ゴムなどが挙げられる。
【0071】
負極活物質としては、対リチウム金属2.0V以下の電位で電気化学的にリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されている。
【0072】
リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属、あるいは高分子材料などが挙げられる。
【0073】
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0074】
このようなリチウム(Li)を吸蔵および離脱可能な負極材料のなかでも、充放電電位が比較的リチウム金属に近いものが好ましい。負極22の充放電電位が低いほど電池の高エネルギー密度化が容易となるからである。なかでも炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性を得ることができるので好ましい。
【0075】
リチウム(Li)を吸蔵および離脱可能な負極材料としては、また、リチウム金属単体、リチウム(Li)と合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
【0076】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式MafMbgLih、あるいは化学式MasMctMduで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Maはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MbはリチウムおよびMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mcは非金属元素の少なくとも1種を表し、MdはMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、f、g、h、s、tおよびuの値はそれぞれf>0、g≧0、h≧0、s>0、t>0、u≧0である。
【0077】
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0078】
リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料としては、さらに、酸化物、硫化物、あるいはLiN3などのリチウム窒化物などの他の金属化合物が挙げられる。酸化物としては、MnO2、V25、V613、NiS、MoSなどが挙げられる。その他、比較的電位が卑でリチウムを吸蔵および放出することが可能な酸化物として、例えば酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズなどが挙げられる。硫化物としてはNiS、MoSなどが挙げられる。
【0079】
[セパレータ]
セパレータ23としては、例えば、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム、合成樹脂製不織布などを用いることができる。これらは、単層で用いられてもよく、また、上述の材料を複数層に積層した積層構造としてもよい。セパレータ23には、液状の電解質である非水電解液が含浸されている。
【0080】
[非水電解液]
非水電解液は、液状の溶媒、例えば有機溶媒などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含むものである。
【0081】
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)およびプロピレンカーボネート(PC)などの環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。特に、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)とを混合して含むようにすれば、よりサイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0082】
非水溶媒は、また、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)あるいはメチルプロピルカーボネート(MPC)などの鎖状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性をより向上させることができるからである。
【0083】
非水溶媒は、さらに、2,4−ジフルオロアニソールおよびビニレンカーボネート(VC)のうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。2,4−ジフルオロアニソールは放電容量を改善することができ、ビニレンカーボネート(VC)はサイクル特性をより向上させることができるからである。特に、これらを混合して含んでいれば、放電容量およびサイクル特性を共に向上させることができるのでより好ましい。
【0084】
非水溶媒は、さらに、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これら化合物の水素基の一部または全部をフッ素基で置換したもの、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドあるいはリン酸トリメチルなどのいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0085】
組み合わせる電極によっては、上記非水溶媒群に含まれる物質の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したものを用いることにより、電極反応の可逆性が向上する場合がある。したがって、これらの物質を適宜用いることも可能である。
【0086】
電解質塩としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、リチウム塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)などの無機リチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(C25SO22)、およびリチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3SO23)などのパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体などが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することも可能である。中でも、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)は、高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0087】
[非水電解質二次電池の作製方法]
この二次電池は、例えば以下に説明するようにして、製造することができる。まず、例えば、正極活物質と、低結晶性炭素と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチルピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。
【0088】
また、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチルピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。
【0089】
次いで、正極集電体21に正極端子25を溶接などにより取り付けるとともに、負極集電体22に負極端子26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極端子25の先端部を安全弁機構15に溶接する。そして、負極端子26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12、13で挟み電池缶11の内部に収納する。
【0090】
正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、上述した電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16を、ガスケット17を介してかしめることにより固定する。以上により、図1に示した二次電池を製造できる。
【0091】
(1−2)非水電解質二次電池の第2の例
[非水電解質二次電池の構成]
図2は、この発明の一実施の形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の構造を示す。図2に示すように、この非水電解質二次電池は、電池素子30を防湿性ラミネートフィルムからなる外装材39に収容し、電池素子30の周囲を溶着することにより封止してなる。電池素子30には、正極端子35および負極端子36が備えられ、これらのリードは、外装材39に挟まれて外部へと引き出される。正極端子35および負極端子36のそれぞれの両面には、外装材39との接着性を向上させるために密着フィルム37が被覆されている。
【0092】
外装材39は、例えば、接着層、金属層、表面保護層を順次積層した積層構造を有する。接着層は高分子フィルムからなり、この高分子フィルムを構成する材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)が挙げられる。金属層は金属箔からなり、この金属箔を構成する材料としては、例えばアルミニウム(Al)が挙げられる。また、金属箔を構成する材料としては、例えばアルミニウム(Al)以外の金属を用いることも可能である。表面保護層を構成する材料としては、例えばナイロン(Ny)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。なお、接着層側の面が、電池素子30を収納する側の収納面となる。
【0093】
電池素子30は、例えば、図3に示すように、両面にゲル電解質層33が設けられた帯状の負極32と、セパレータ34と、両面にゲル電解質層33が設けられた帯状の正極31と、セパレータ34とを積層し、長手方向に巻回されてなる巻回型の電池素子30である。
【0094】
正極31は、帯状の正極集電体31Aと、この正極集電体31Aの両面に形成された正極合剤層31Bとからなる。
【0095】
正極31の長手方向の一端部には、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された正極端子35が設けられている。この正極端子35の材料としては、例えばアルミニウムなどの金属を用いることができる。
【0096】
負極32は、帯状の負極集電体32Aと、この負極集電体32Aの両面に形成された負極合剤層32Bとからなる。
【0097】
また、負極32の長手方向の一端部にも正極31と同様に、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された負極端子36が設けられている。この負極端子36の材料としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
【0098】
正極集電体31A、正極合剤層31B、負極集電体32A、負極合剤層32Bは、上述の第1の例と同様である。
【0099】
ゲル電解質層33は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル電解質層33は高いイオン伝導率を得ることができるとともに、電池の漏液を防止できるので好ましい。電解液の構成(すなわち液状の溶媒、電解質塩)は、第1の例と同様である。
【0100】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートを挙げることができる。特に電気化学的な安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0101】
[非水電解質二次電池の製造方法]
次に、第2の例による非水電解質二次電池の製造方法について説明する。まず、正極31および負極32のそれぞれに、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させてゲル電解質層33を形成する。なお、予め正極集電体31Aの端部に正極端子35を溶接により取り付けるとともに、負極集電体32Aの端部に負極端子36を溶接により取り付けるようにする。
【0102】
次に、ゲル電解質層33が形成された正極31と負極32とを、セパレータ34を介して積層し積層体とした後、この積層体をその長手方向に巻回して、巻回型の電池素子30を形成する。
【0103】
次に、ラミネートフィルムからなる外装材39を深絞り加工することで凹部38を形成し、電池素子30をこの凹部38に挿入し、外装材39の未加工部分を凹部38上部に折り返し、凹部38の外周部分を熱溶着し密封する。以上により、第2の例による非水電解質二次電池が作製される。
【0104】
なお、この発明の正極活物質を、正極の少なくとも一部に含む非水電解液電池は、上限充電電圧を4.20V以上4.80V以下、好ましくは4.25V以上4.55V以下、さらに好ましくは4.35V以上4.45V以下とすることが好ましい。また、上述の非水電解液電池の下限放電電圧を2.00V以上3.30V以下とする事が好ましい。この発明の正極活物質は、従来の材料に比較して安定であるため、充放電を繰り返し行った際の容量劣化を抑制することが出来る。また、充電電圧を従来の二次電池よりも高く設定し、高いエネルギー密度を実現した場合でも良好な高温特性を得る事ができる。
【0105】
一実施の形態では、例えば複合酸化物粒子表面にニッケルまたはマンガンを少なくとも含む被覆層を形成し、被覆層を形成した複合酸化物粒子を加熱処理する。そして、再度不活性雰囲気下で加熱処理を行うことにより、非水電解質二次電池の高容量化と優れた充放電サイクル特性を実現することができる。したがって、この発明の一実施の形態による二次電池は、軽量かつ高容量で高エネルギー密度の特徴を利用して、ビデオカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、ラジオカセットレコーダ、携帯電話などの携帯用小型電子機器に広く利用可能である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0107】
<実施例1>
まず、正極活物質を作製した。複合酸化物粒子として、平均組成がLi1.03CoO2であり、レーザー散乱法により測定した平均粒子径が13μmのコバルト酸リチウム粉末を用意した。また、被覆層の原料として、炭酸リチウム(Li2CO3)粉末と、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粉末と、炭酸マンガン(MnCO3)粉末とを、Li2CO3:Ni(OH)2:MnCO3=4:3:1のモル比で混合した前駆粉末を用意した。次に、このコバルト酸リチウム(Li1.03CoO2)粉末100質量部に対して、前駆粉末をLii0.75Mn0.252に換算して5質量部となるように添加し、25℃の純水100質量部を用いて1時間に渡り撹拌分散させた。
【0108】
この後、被着成分の被着させたコバルト酸リチウム(Li1.03CoO2)粉末を70℃で減圧乾燥し、複合酸化物粒子の表面に前駆層を形成した。最後に、表面に前駆層を形成した複合酸化物粒子を、3℃/minの速度で昇温し900℃で4時間保持した後に徐冷することにより、被覆層を形成した正極活物質を得た。得られた正極活物質を瑪瑙乳鉢で粉砕し、75μmでメッシュパスを行った。
【0109】
得られたニッケルマンガンコバルト酸リチウムからなる正極活物質(平均化学組成分析値:Li1.03Ni0.0375Mn0.0125Co0.952、平均粒子径:13μm)を、アルミナるつぼ容器に入れ、密閉可能な管状炉にいれた。アルミナるつぼ容器内を真空ポンプで減圧した後、窒素(N2)ガスを置換した。続いて、窒素(N2)ガスの流量を1L/minとなるように調整し2℃/minの速度で昇温し、900℃で4時間保持した後に徐冷する方法により、正極活物質の不活性雰囲気下における加熱処理を行った。このようにして、この発明の正極活物質を得た。
【0110】
この粉末についてCu−Kα線による粉末X線回折パターンを測定したところ、得られたパターンは、層状岩塩構造を有するLiCoO2に相当する回折ピークと、Li1.03Ni0.75Mn0.252に相当する回折ピークのみが得られ、不純物は確認されなかった。
【0111】
また、得られた正極活物質についてESCAによる表面分析を行ったところ、Mn2p3ピークは642.31eV、Co−Mnのピーク間隔は137.66eVであった。
【0112】
上述のような正極活物質を用いて、円筒型二次電池を作製した。
【0113】
正極活物質を86重量%、導電剤としてグラファイトを10重量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4重量%を混合して正極合剤を調製した。次に、この正極合剤を分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。この正極合剤スラリーを、厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層を形成し、正極を作製した。続いて、正極の正極集電体露出部分に、アルミニウム製の正極端子を取り付けた。
【0114】
次に、負極活物質として粉砕した人造黒鉛粉末90重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10重量%とを混合して負極合剤を調製し、さらにこれを分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。次に、この負極合剤スラリーを、厚み10μmの帯状銅箔よりなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層を形成し、負極を作製した。続いて、負極の負極集電体露出部分に、ニッケル製の負極端子を取り付けた。
【0115】
次に、作製した正極および負極を、厚み25μmの微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に巻回して、最外周部に保護テープを貼り付けることにより、巻回体を作製した。続いて、巻回体を、巻回体の上下両面に絶縁板を配置するようにしてニッケルめっきを施した鉄製の電池缶に収納した。
【0116】
次に、負極集電体と接続された負極端子を、抵抗溶接により電池缶の底部に接続した。また、正極集電体と接続された正極端子を、電池蓋と電気的な導通が確保された安全弁の突起部に溶接した。
【0117】
一方、電解液はエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積混合比が1:1である混合溶液に、1mol/Lの濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解して非水電解液を調製した。
【0118】
最後に、巻回体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、安全弁、PTC素子等が内側に設けられた電池蓋を絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめることにより固定し、外径が18mmで高さが65mmの円筒型二次電池を作製した。
【0119】
[初期容量の測定]
以上のようにして作製した円筒型二次電池について、23℃の環境下で1000mAの定電流で電池電圧が4.35Vに達するまで定電流充電を行った後、4.35Vの定電圧で総充電時間が2.5時間となるまで充電を行った。初期容量は10.8Whであった。
【0120】
[容量維持率の測定]
初期容量の測定後の円筒型二次電池について、800mAの定電流で放電を行い、電池電圧が3.0Vとなった時点で放電を終了し、初期容量を測定した。また、この充放電サイクルと同条件で充放電を繰り返し、100サイクル目の放電容量を測定して、{(100サイクル目の放電容量/初期容量)×100}から100サイクル目における容量維持率を測定した。容量維持率は98%であった。
【0121】
[60℃フロート特性試験]
また、円筒型二次電池を60℃に設定された恒温槽中において、1000mAの定電流で電池電圧が4.35Vに達するまで定電流充電を行った後、4.35Vで定電圧充電を行った。このとき、充電電流の変動が見られる(漏れ電流が発生する)場合には、その時間を求めた。試験は300時間まで行った。実施例1は、試験時間内に漏れ電流が発生しなかった。
【0122】
<実施例2>
円筒型二次電池の充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。実施例2における初期容量は11.2Wh、容量維持率は83%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0123】
<実施例3>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.05Mn0.05Co0.92となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.17eV、Co−Mnのピーク間隔は137.92eVであった。実施例3における初期容量は11.0Wh、容量維持率は91%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0124】
<実施例4>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.025Mn0.025Co0.952となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.15eV、Co−Mnのピーク間隔は137.94eVであった。実施例4における初期容量は11.2Wh、容量維持率は90%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0125】
<実施例5>
第2の加熱処理の処理温度を750℃とした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.22eV、Co−Mnのピーク間隔は137.77eVであった。実施例5における初期容量は10.8Wh、容量維持率は98%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0126】
<実施例6>
第2の加熱処理の処理温度を750℃、円筒型二次電池の充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。実施例6における初期容量は11.2Wh、容量維持率は82%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0127】
<実施例7>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.05Mn0.05Co0.92となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、第2の加熱処理の処理温度を750℃、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.17eV、Co−Mnのピーク間隔は137.92eVであった。実施例7における初期容量は11.0Wh、容量維持率は90%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0128】
<実施例8>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.025Mn0.025Co0.952となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、第2の加熱処理の処理温度を750℃、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.15eV、Co−Mnのピーク間隔は137.94eVであった。実施例8における初期容量は11.2Wh、容量維持率は89%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0129】
<比較例1>
第2の加熱処理を行わない以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.69eV、Co−Mnのピーク間隔は137.40eVであった。比較例1における初期容量は10.8Wh、容量維持率は94%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0130】
<比較例2>
第2の加熱処理を行わず、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.69eV、Co−Mnのピーク間隔は137.40eVであった。比較例2における初期容量は11.2Wh、容量維持率は56%であった。また、フロート試験開始から121時間の時点で漏れ電流が発生した。
【0131】
<比較例3>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.05Mn0.05Co0.92となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、第2の加熱処理を行わず、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.69eV、Co−Mnのピーク間隔は137.40eVであった。比較例3における初期容量は11.0Wh、容量維持率は64%であった。また、フロート試験開始から63時間の時点で漏れ電流が発生した。
【0132】
<比較例4>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.05Mn0.05Co0.92となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、第2の加熱処理の焼成雰囲気を大気中とし、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは641.74eV、Co−Mnのピーク間隔は137.99eVであった。比較例4における初期容量は11.0Wh、容量維持率は64%であった。また、フロート試験開始から95時間の時点で漏れ電流が発生した。
【0133】
<比較例5>
複合酸化物粒子として平均化学組成分析値がLi1.03Ni0.05Mn0.05Co0.92となるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用い、第2の加熱処理の処理温度を1000℃とし、充電電圧を4.45Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは641.69eV、Co−Mnのピーク間隔は1378.04eVであった。比較例5における初期容量は11.0Wh、容量維持率は64%であった。また、フロート試験開始から193時間の時点で漏れ電流が発生した。
【0134】
<比較例6>
第2の加熱処理を行わず、充電電圧を4.20Vとした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。複合酸化物粒子のMn2p3ピークは642.69eV、Co−Mnのピーク間隔は137.40eVであった。比較例6における初期容量は9.5Wh、容量維持率は99%であり、試験時間内に漏れ電流は発生しなかった。
【0135】
以下の表1に、評価の結果を示す。
【0136】
【表1】

【0137】
また、以下の表2に、ESCA表面分析によって測定した各実施例および比較例における他のエネルギー値(Co2p3ピーク、Ni2p3ピーク、Co−Niのピーク間隔、CMn−Niのピーク間隔)を示す。
【0138】
【表2】

【0139】
また、図4は実施例1および実施例2で用いたLi1.03Ni0.0375Mn0.0125Co0.952のESCAスペクトル図である。また、図5は、比較例1、比較例2および比較例6で用いた、窒素雰囲気下で第2の加熱処理を行わないLi1.03Ni0.0375Mn0.0125Co0.952のESCAスペクトル図である。
【0140】
表1から分かるように、Mn2p3ピークが642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が137.6eV以上138.0eV以下である各実施例の円筒型二次電池では、4.35Vもしくは4.45Vの高い充電電圧の場合でも、初期容量と容量維持率とを両立する事ができた。
【0141】
また、各実施例の円筒型二次電池では、60℃フロート特性試験においても漏れ電流が発生することがなかった。これにより、この発明の二次電池は、高い充電電圧とし、かつ高温環境下においても安定した特性を有することが分かった。
【0142】
比較例1ないし比較例3のように、被覆層形成後の第2の加熱処理を行わない場合、充電電圧が高いため高い初期容量を得ることができるものの、同じ充電電圧の各実施例と比較して容量維持率が低下してしまった。比較例2および比較例3については、60℃フロート特性試験において漏れ電流が発生し、高充電電圧かつ高温環境下の条件では安定した品質を得られないことが分かった。
【0143】
比較例4のように大気中で第2の加熱処理を行った場合や、比較例5のように第2の加熱処理における焼成温度が1000℃と高い場合には、やはり高い容量維持率を得ることができなかった。60℃フロート特性試験においても漏れ電流が発生し、高充電電圧かつ高温環境下の条件では安定した品質を得られないことが分かった。
【0144】
一方、比較例6は、第2の加熱処理を行わないものの、高い容量維持率を得ることができた。しかしながら、充電電圧が低いため、初期容量が低下してしまった。
【0145】
したがって、この発明の正極活物質を用いた場合、高い充電電圧においても高い初期容量と容量維持率とを両立することができる。
【0146】
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、その形状においては、特に限定されない。円筒型、角型などを呈するものであってもよい。
【0147】
第1の例では、電解質として、電解液を有する非水電解質二次電池、第2の例では、電解質として、ゲル電解質を有する非水電解質二次電池について説明したがこれらに限定されるものではない。
【0148】
例えば、電解質としては、上述したものの他にイオン伝導性高分子を利用した高分子固体電解質、またはイオン伝導性無機材料を利用した無機固体電解質なども用いることも可能であり、これらを単独あるいは他の電解質と組み合わせて用いてもよい。高分子固体電解質に用いることができる高分子化合物としては、例えばポリエーテル、ポリエステル、ポリフォスファゼン、あるいはポリシロキサンなどを挙げることができる。無機固体電解質としては、例えばイオン伝導性セラミックス、イオン伝導性結晶、あるいはイオン伝導性ガラスなどを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の第1の例の概略断面図である。
【図2】この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の第2の例の概略図である。
【図3】図2に示した電池素子の一部の拡大断面図である。
【図4】実施例1および実施例2で用いたLi1.03Ni0.0375Mn0.0125Co0.95のESCAスペクトル図である。
【図5】比較例1、比較例2および比較例6で用いた、窒素雰囲気下で第2の加熱処理を行わないLi1.03Ni0.0375Mn0.0125Co0.95のESCAスペクトル図である。
【符号の説明】
【0150】
11・・・電池缶
12、13・・・絶縁板
14・・・電池蓋
15・・・安全弁機構
16・・・熱抵抗素子
17・・・ガスケット
20・・・巻回電極体
21,31・・・正極
21A,31A・・・正極集電体
21B,31B・・・正極活物質層
22,32・・・負極
22A,32A・・・負極集電体
22B,32B・・・負極活物質層
23,34・・・セパレータ
24・・・センターピン
25,35・・・正極端子
26,36・・・負極端子
30・・・電池素子
33・・・ゲル電解質層
37・・・密着フィルム
38・・・凹部
39・・・外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を有し、
上記被覆層の表面における、ESCA表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下
である非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
平均組成が化1で表される
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
(化1)
LiNi(1−q−r−s)MnCoM1(2−y)
(ただし、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を除く2族〜15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示し、式中、p、q、r、s、yはそれぞれ0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、0≦s≦1.0、−0.10≦y≦0.20の範囲内の値である)
【請求項3】
上記複合酸化物粒子に対する上記被覆層の表面被覆量が、0.5原子数%以上20原子数%以下である
請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを含む複合酸化物粒子の表面に、少なくともニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む被覆層を有し、
上記被覆層の表面における、ESCA表面分析による表面状態の分析により得られる結合エネルギー値が、Mn2p3ピークにおいて642.0eV以上642.5eV以下であり、かつCo−Mnのピーク間隔が、137.6eV以上138.0eV以下
である正極活物質を含む正極と、
負極と
上記正極と、上記負極との対向面に配置されるセパレータと、
非水電解質と
を備える
非水電解質二次電池。
【請求項5】
充電電圧が、4.25V以上4.55V以下である
請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
上記正極活物質の平均組成が化1で表される
請求項5に記載の非水電解質二次電池。
(化1)
LiNi(1−q−r−s)MnCoM1(2−y)
(ただし、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を除く2族〜15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示し、式中、p、q、r、s、yはそれぞれ0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、0≦s≦1.0、−0.10≦y≦0.20の範囲内の値である)
【請求項7】
上記複合酸化物粒子に対する上記被覆層の表面被覆量が、0.5原子数%以上20原子数%以下である
請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−135207(P2010−135207A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310849(P2008−310849)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】