説明

歯の石灰化

歯表面にタンパク質破壊剤、並びに安定化アモルファスリン酸カルシウム(ACP)または安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム(ACFP)を接触させることを含めた、歯表面または表面下を石灰化する方法が提供される。1つの実施形態において、本発明は、エナメル質における病変を再石灰化する方法を提供する。この再石灰化方法は、該病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACPおよび/またははACFPとを接触させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯表面、特に歯エナメル質を石灰化する方法に関する。虫歯、歯の浸食及びフッ素沈着により生じた歯エナメル質の(表面下の病変を含めた)低石灰化病変を石灰化する方法も又提供される。
【背景技術】
【0002】
背景
低石灰化病変の通常の原因は、カリエス及びフッ素沈着である。
【0003】
虫歯は、通常、歯垢病原性細菌によって食事糖分の発酵由来で作り出された有機酸による歯の堅い組織の脱灰から始まる。虫歯は、依然として主要な公衆衛生の問題である。更に、修復された歯表面は、修復部の周りにそれ以上の虫歯が存在する可能性がある。虫歯の流行は、大部分の先進国におけるフッ化物の使用により減少したものの、この疾患は重要な公衆衛生の問題のままである。歯の浸食または腐食は、食事または逆流した酸による歯ミネラルの損失である。歯過敏症は、保護石灰化層であるセメント質の喪失により露出した象牙質細管が原因である。歯石は、歯表面上へのリン酸カルシウムミネラルの望ましくない堆積である。従って、これらの病態、虫歯、歯の浸食、歯過敏症及び歯石は全て、リン酸カルシウムレベルの不均衡によるものである。
【0004】
エナメル質フッ素沈着(斑点形成)は、ほぼ1世紀前から認識されているが、フッ化物が病因であることは、1942年まで認識されていなかった(Black and McKay,1916)。フッ素沈着の特徴的な外観は、他のエナメル質障害から区別することができる(Fejerskov,et al.,1991)。エナメル質フッ素沈着病変(FLE)の臨床的特徴は、周波条に続く細い不透明な線からチョーク様白色エナメル質までの範囲内にある連続体を示す(Fejerskov,et al.,1990;Giambro,et al.,1995)。比較的高度に石灰化されているエナメル質外面と低石灰化表面下とがフッ素沈着病変において存在する状態は、初期のエナメル質「白斑」カリエス病変に似ている(Fejerskov,et al.,1990)。症状がひどくなるにつれて、病変に関与するエナメル質の深さと低石灰化の程度の両方が増大する(Fejerskov,et al.,1990;Giambro,et al.,1995)。フッ素沈着の進行は、フッ化物に曝される量、持続時間及びタイミングに非常により大きく異なり(Fejerskov,et al.,1990;Fejerskov,et al.,1996;Aoba and Fejerskov,2002)、そして血清フッ素濃度の上昇に関係していると考えられている。チョーク様「白斑」病変は又、抗生物質による処置または発熱の後等に子供の歯が発育する際にも形成される場合がある。このような病変は、歯エナメル質の低石灰化の領域を示している。
【0005】
病変の重症度に依存して、フッ素沈着は、外面エナメル質の修復置換または微細磨耗により臨床的に処置されている(Den Besten and Thariani,1992;Fejerskov,et al.,1996)。これらの処置は、歯組織の修復または除去を伴うため満足のいくものではない。望ましいのは、自然な外観及び構造を作り出すために低石灰化エナメル質を石灰化する処置である。
【0006】
カゼインホスホペプチド及びアモルファスリン酸カルシウムの特定の複合体(「CPP−ACP」、RecaldentTMとして市販)は、in vitroでの、そしてin situのエナメル質の表面下病変を再石灰化することが示されている(Reynolds,1998;Shen,et al.,2001;Reynolds,et al.,2003)。
【0007】
メルボルン大学の名で出願された国際公開WO98/40406(内容全体が参考として本明細書に組み入れられている)は、アルカリpHにおいて生成されたカゼインホスホペプチド−アモルファスリン酸カルシウム複合体(CPP−ACP)及びCPP安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム複合体(CPP−ACFP)について記載している。このような複合体は、エナメル質脱灰を予防し、動物及びヒトのin situカリエスモデルにおけるエナメル質表面下病変の再石灰化を促進することが示されている(Reynolds,1998)。
【0008】
複合体の形成において活性であるCPPは、それらがカゼインタンパク質の全長の一部であるか否かにかかわらず、複合体を形成する。全長のカゼインがトリプシン消化された後に単離され得る活性(CPP)の例は、米国特許第5,015,628号(特許文献1)で特定されており、この例には、Bos αS1−カゼインX−5P(f59−79)[1]、Bos β−カゼインX−4P(f1−25)[2]、Bos αS2−カゼインX−4P(f46−70)[3]、及びBos αS2−カゼインX−4P(f1−21)[4]のペプチドが含まれる。各配列は以下の通りである:
【0009】
【化1】

多くの場合、石灰化イオンが歯エナメル質に接近することは、エナメル質の表面上にわたって形成される唾液タンパク質の(ペリクルと呼ばれる)層により制限され得る。ペリクルのタンパク質も又、表面下のエナメル質病変において蓄積する可能性があり、それによってこれらの病変の石灰化を阻害する。このようなタンパク質の蓄積は、長期にわたって変色を示し、歯に醜い斑点を残す可能性があり得る。従って、変色を取り除き、再石灰化イオンのエナメル質への接近が制限されないようにするためには、これらのタンパク質を取り除く必要がある。これら及びその他の既知の処置の制限を克服するために、この目的に向けた研究が行われている。
【特許文献1】米国特許第5,015,628号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
一態様において、本発明は、歯表面にタンパク質破壊剤を接触させる、及び歯表面に安定化アモルファスリン酸カルシウム(ACP)及び安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム(ACFP)を接触させることを含めた、歯表面または表面下を石灰化する方法を提供する。歯表面というのは、好ましくは歯エナメル質のことである。一実施形態において、歯表面は、カリエス、歯浸食またはフッ素沈着により生じる病変のようなエナメル質における病変である。
【0011】
歯表面の石灰化は、安定化ACP及び/または安定化ACFPのような再石灰化物質を塗布する前に、歯表面からペリクルタンパク質を破壊することによって顕著に促進することができる。特に、安定化可溶型のACP(CPP−ACP)及びACFP(CPP−ACFP)によるエナメル質の石灰化は、アルカリ性漂白剤のようなタンパク質破壊剤によるエナメル質表面の前処置によって促進されることが見出だされている。
【0012】
好ましくは、ACP及び/またはACFPは、ホスホペプチド(PP)で安定化されている。好ましくは、ホスホペプチド(以下に定義)は、カゼインホスホペプチドである。
【0013】
好ましい実施形態において、ACP及び/またはACFPは、カゼインホスホペプチドで安定化されたACP及び/またはACFP複合体の形態のものである。
【0014】
好ましくは、ACPの相は、主に塩基相であり、ここでACPは、化学種Ca2+、PO3−及びOHを主に含む。ACPの塩基相は、以下の一般式を有する場合がある:[Ca(PO[Ca(PO)(OH)](式中、x≧1であり、好ましくはx=1〜5であり、より好ましくはx=1である)。好ましくは、上記化学式の2つの構成要素は、等しい割合で存在する。従って、一実施形態において、ACPの塩基相は、化学式Ca(POCa(PO)(OH)を有する。
【0015】
好ましくは、ACFPの相は、主に塩基相であり、ここでACFPは、化学種Ca2+、PO3−及びFを主に含む。ACFPの塩基相は、以下の一般式を有する場合がある:[Ca(PO[Ca(PO)F](式中、y=1の場合にx≧1であるか、またはx=1の場合にy≧1であり、好ましくはy=1且つx=1〜3であり、より好ましくはy=1且つx=1である)。好ましくは、上記化学式の2つの構成要素は、等しい割合で存在する。従って、一実施形態において、ACFPの塩基相は、化学式Ca(POCa(PO)Fを有する。
【0016】
一実施形態において、ACP複合体は、本質的にホスホペプチド、カルシウム、リン酸塩、並びに水酸化イオン及び水からなる。
【0017】
一実施形態において、ACFP複合体は、本質的にホスホペプチド、カルシウム、リン酸塩、フッ化物、並びに水酸化イオン及び水からなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明の詳細な説明
好適なタンパク質破壊剤は何れも、本発明の方法で使用可能である。この阻害剤は、歯の上のペリクルのような処理する表面にわたって形成されたタンパク質バリアを減縮することが求められる。好適な阻害剤の例には、漂白剤、界面活性剤、カオトロピック剤(例えば、尿素)、リン酸塩高濃縮物、プロテアーゼカクテル(例えば、エンドペプチダーゼ、プロテイナーゼ及びエキソペプチダーゼ)、並びにその他何れかのタンパク質可溶化剤、阻害剤または加水分解剤が含まれる。
【0019】
好適な漂白剤の例には、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、及び過酸化カルバミド漂白剤が含まれる。好ましい実施形態において、漂白剤は、アルカリ性漂白剤である。更なる好ましい実施形態において、アルカリ性漂白剤はNaOClである。タンパク質破壊剤は、タンパク質、特にペリクルのタンパク質を可溶化させて、歯表面から部分的または完全に取り除くために作用する。
【0020】
本発明の更なる態様においては、歯表面を石灰化する方法であって、タンパク質破壊剤、及びACPまたはACFPの供給源を提供することを含む方法が提供される。好ましい実施形態において、歯表面とはエナメル質である。
【0021】
本発明の更なる態様においては、フッ素沈着を処置する方法であって、歯エナメル質におけるフッ素沈着病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む方法が提供される。
【0022】
本発明の更なる態様においては、虫歯を処置する方法であって、歯エナメル質におけるカリエス病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む方法が提供される。
【0023】
本発明の更なる態様においては、歯の浸食を処置する方法であって、浸食により生じた歯エナメル質における病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む方法が提供される。
【0024】
本発明の更なる態様においては、歯エナメル質上の白斑病変を低減させる方法であって、白斑病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む方法が提供される。
【0025】
本発明の更なる態様においては、歯エナメル質における病変部を再石灰化させる方法であって、病変部と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む方法が提供される。
【0026】
好ましくは、ACP及び/またはACFPは、ホスホペプチドによって安定化させる。好ましい実施形態において、ホスホペプチドは、カゼインホスホペプチドである。好ましくは、ACPまたはACFPは、カゼインホスホペプチドで安定化されたACPまたはACFP複合体の形態である。
【0027】
一実施形態において、タンパク質破壊剤はNaOClである。約1〜20%の濃度のNaOClが使用される場合がある。或いは、NaOClの濃度は1〜10%である。好ましい実施形態において、約5%の濃度のNaOClが使用される。
【0028】
タンパク質破壊剤は、約1〜60分、または約1〜30分にわたり歯表面と接触させる場合がある。一実施形態において、タンパク質破壊剤は、約20分にわたり歯表面と接触させる。
【0029】
好ましくは、安定化ACP及び/または安定化ACFPは、約1分〜2時間、または5分〜60分、または約10分にわたり歯表面と接触させる。安定化ACP及び/または安定化ACFPは、1日〜数カ月にわたり歯表面に繰り返し塗布される場合がある。
【0030】
一実施形態において、安定化ACP及び/またはACFPは、歯表面とタンパク質破壊剤とを接触させた後に、歯表面と接触させる。
【0031】
好ましい実施形態において、タンパク質破壊剤は、歯表面と安定化ACP及び/または安定化ACFPとを接触させる前に1〜60分、1〜30分、または1〜5分にわたり、歯表面と接触させる。
【0032】
本発明の更なる態様においては、歯表面を石灰化する方法であって、ACP及び/またはACFP複合体をタンパク質破壊剤で前処置した歯表面に塗布することを含む方法が提供される。好ましくは、歯表面とは歯エナメル質である。好ましい実施形態において、歯表面は、白斑病変;フッ素病変;カリエス病変;または歯浸食により生じた病変からなる群から選択される病変を含む歯エナメル質である。更なる好ましい実施形態において、タンパク質破壊剤は漂白剤である。
【0033】
一実施形態において、歯表面はこのような処置を必要としている。本発明には又、フッ素沈着、虫歯、象牙質過敏性または歯結石を患う対象を処置する方法も含まれる。
【0034】
理論または作用様式によって拘束されることなく、歯エナメル質をタンパク質破壊剤で前処置することによって、部分的または完全にエナメル質の脱タンパク質が生じ、表面下のエナメル質へのカルシウム及びリン酸塩の拡散が促進されることが理解される。
【0035】
更に、安定化ACFPで歯エナメル質を処置することにより、フッ素リン灰石が生成され、これが通常の歯エナメル質よりも酸の攻撃に対して耐性を備えることが理解される。これにより、優れたカリエス耐性を有する歯エナメル質が得られる場合がある。従って、好ましい実施形態において、本発明の方法は、安定化ACFPを含む。
【0036】
本発明の説明において「ホスホペプチド」は、少なくとも1つのアミノ酸がリン酸化されたアミノ酸配列を意味する。好ましくは、ホスホペプチドは、1つ以上のアミノ酸配列−A−B−C−を含み、式中、Aはホスホアミノ残基であり、Bはホスホアミノ残基を含む任意のアミノアシル残基であり、Cはグルタミン酸残基、アスパラギン酸残基またはホスホアミノ残基から選択される。ホスホアミノ残基は何れも、独立してホスホセリル残基である場合がある。望ましくは、Bは、その側鎖が比較的大きくなく、疎水性でもない残基である。これは、Gly、Ala、Val、Met、Leu、Ile、Ser、Thr、Cys、Asp、Glu、Asn、GlnまたはLysである場合がある。
【0037】
別の実施形態において、配列中のホスホアミノ酸の少なくとも2つは、好ましくは連続している。好ましくは、ホスホペプチドは、配列A−B−C−D−Eを含み、式中、A、B、C、D及びEは、独立してホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシン、ホスホヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であり、A、B、C、D及びEの少なくとも2つ、好ましくは3つは、ホスホアミノ酸である。好ましい実施形態において、ホスホアミノ酸残基は、ホスホセリン残基、最も好ましくは3つの連続したホスホセリン残基である。又、D及びEが独立してグルタミン酸またはアスパラギン酸であることも好ましい。
【0038】
又、本明細書で使用される「含む(comprise)」(またはその文法的な派生語)という用語は、「含む(include)」という用語と同等であり、交換可能に使用される場合があり、その他の要素または特徴が存在することを除外するものとはみなされないことも理解されるであろう。
【0039】
一実施形態において、ACPまたはACFPは、カゼインホスホペプチド(CPP)によって安定させられ、これは完全なカゼインまたはカゼインのフラグメントの形態であり、好ましくは、形成された複合体は化学式[CPP(ACP)または[(CPP)(ACFP)(式中、nは1以上、例えば6である)を有する。コア粒子が凝集し、水中で懸濁する大きな(例えば100nm)コロイド粒子を形成する場合、形成された複合体はコロイド複合体である場合もある。従って、PPは、カゼインタンパク質であってもよければ、ポリホスホペプチドであってもよい。
【0040】
PPは、任意の供給源に由来する場合があり、これは、完全長のカセインポリペプチドを含めた、更に大きなポリペプチドという状態で存在する場合もあれば、或いはトリプシンまたはその他の酵素の若しくは化学的なカゼイン消化物、またはホスフィチンのようなその他のホスホアミノ酸リッチタンパク質により、または化学合成若しくは組み換え合成により単離される場合もある(但し、上記の配列−A−B−C−または−A−B−C−D−E−を含むものとする)。このコア配列に隣接する配列は、任意の配列である場合がある。しかしながら、αS1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、αS2(46−70)[3]及びαS2(1−21)[4]におけるそれらの隣接配列が好ましい。隣接配列は、1つ以上の残基の削除、付加または同類置換により、必要に応じて改変される場合がある。隣接領域のアミノ酸組成及び配列は、重要でない。
【0041】
同類置換の例を以下の表1に示す。
【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

隣接配列は又、非天然のアミノ酸残基も含む場合がある。遺伝子コードによってコード化されない一般的に見られるアミノ酸には、以下が含まれる:
Glu及びAspの2−アミノアジピン酸(Aad);
Glu及びAspの2−アミノピメリン酸(Apm);
Met、Leu及びその他の脂肪族アミノ酸の2−アミノ酪酸(Abu);
Met、Leu及びその他の脂肪族アミノ酸の2−アミノヘプタン酸(Ahe);
Glyの2−アミノイソ酪酸(Aib);
Val、Leu及びIleのシクロヘキシルアラニン(Cha);
Arg及びLysのホモアルギニン(Har);
Lys、Arg及びHisの2,3−ジアミノプロピオン酸(Dpr);
Gly、Pro及びAlaのN−エチルグリシン(EtGly);
Asn及びGlnのN−エチルアスパラギン酸(EtAsn);
Lysのヒドロキシルリシン(Hyl);
Lysのアロヒドロキシルリシン(AHyl);
Pro、Ser及びThrの3−(及び4−)ヒドロキシプロリン(3Hyp、4Hyp);
Ile、Leu及びValのアロイソロイシン(AIle);
Alaのp−アミジノフェニルアラニン;
Gly、Pro、AlaのN−メチルグリシン(MeGly、サルコシン);
IleのN−メチルイソロイシン(MeIle);
Met及びその他の脂肪族アミノ酸のノルバリン(Nva);
Met及びその他の脂肪族アミノ酸のノルロイシン(Nle);
Lys、Arg及びHisのオルニチン(Orn);
Thr、Asn及びGlnのシトルリン(Cit)及びメチオニンスルホキシド(MSO);
PheのN−メチルフェニルアラニン(MePhe)、トリメチルフェニルアラニン、ハロ(F、Cl、Br及びI)フェニルアラニン、トリフルオリルフェニルアラニン。
【0044】
一実施形態において、PPは、αS1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、αS2(46−70)[3]及びαS2(1−21)[4]からなる群から選択される1つ以上のホスホペプチドである。
【0045】
本発明の別の実施形態において、安定化ACFPまたはACP複合体は、磨歯剤、口内洗浄剤、または虫歯、歯の腐食、歯の浸食またはフッ素沈着の予防及び/または処置に有用な口内用製剤のような経口組成物に組み込まれる。ACFPまたはACP複合体は、組成物を0.01〜50重量%、好ましくは1.0〜50重量%含む場合がある。経口組成物に関しては、投与されるCPP−ACP及び/またはCPP−ACFPの量は、組成物の0.01〜50重量%、好ましくは1.0〜50重量%である。特に好ましい実施形態において、本発明の経口組成物は、約2%のCPP−ACP、CPP−ACFPまたはその両方の混合物を含む。上記の薬剤を含む本発明の経口組成物は、練り歯磨、歯磨粉及び液状歯磨のような磨歯剤、口内洗浄剤、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい錠剤、乳製品及びその他の食品を含めた、口内に適用可能な種々の形態で調製及び使用される場合がある。本発明による経口組成物は、特定の経口組成物の種類及び形状に応じて、周知の成分を更に含む場合もある。
【0046】
本発明の特定の好ましい形態において、経口組成物は、口内洗浄剤またはリンス液のような実質的に液体の性質である場合がある。このような調剤品において、ビヒクルは一般的に、望ましくは以下に記載の湿潤剤を含む水アルコール混合物である。一般的に、水とアルコールの重量比は、約1:1〜約20:1の範囲内にある。この種類の調剤品における水アルコール混合物の総重量は、一般的に調剤品の約70〜約99.9重量%の範囲内にある。アルコールは、一般的にエタノールまたはイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0047】
本発明のこのような液体及びその他の調剤品のpHは、一般的に約5〜約9、通常は約5.0〜7.0の範囲内にある。pHは、酸(例えば、リン酸、クエン酸または安息香酸)または塩基(例えば、水酸化ナトリウム)で制御することもできれば、または(クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、または重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等で)緩衝させることもできる。
【0048】
本発明のその他の望ましい形態において、安定化ACPまたは安定化ACFP組成物は、歯磨粉、歯科用錠剤または練り歯磨(歯科用クリーム)またはジェル歯磨きのような、実質的に固体またはペースト状の性質である場合がある。このような固体またはペースト状の経口調剤品のビヒクルは一般的に、歯に許容される研磨剤を含む。研磨剤の例には、水溶性のメタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム二水和物、リン酸二カルシウム無水物、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ水和物、か焼アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイト、及びそれらの混合物がある。その他の好適な研磨剤には、メラミンホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド及び尿素ホルムアルデヒドのような粒子状熱硬化性樹脂、並びに架橋ポリエポキシド及びポリエステルが含まれる。好ましい研磨剤には、最高約5ミクロンの粒径、最高約1.1ミクロンの平均粒径、及び最高約50,000cm/gの表面積を有する結晶シリカ、並びにシリカゲルまたはコロイドシリカ、及び複合アモルファスアルカリ金属アルミノケイ酸塩が含まれる。
【0049】
透明ジェルが使用される場合、Syloid 72及びSyloid 74としてSYLOIDという商標で市販されるもの、またはSantocel 100としてSANTOCELという商標で市販されるもののようなコロイドシリカの研磨剤、アルカリ金属アルミノケイ酸塩複合体が特に有用である。なぜなら、これらは、磨歯剤で通常使用されるゲル化剤(水及び/または湿潤剤含有)液体系の屈折率に近い屈折率を有するためである。
【0050】
所謂「非水溶性」研磨剤の多くは、性質上陰イオン性であり、少量の水溶性物質も含んでいる。従って、非水溶性メタリン酸ナトリウムは、例えばThorpe’s Dictionary of Applied Chemistry,Volume 9,4th Edition,pp.510〜511に説明される通り、任意の好適な様式で形成される場合がある。マドレル塩及びクロール塩として知られる非水溶性メタリン酸ナトリウムの形態は、好適な材料の更なる例である。これらのメタリン酸塩は、水において極微小な溶解度を示し、そのため一般的には非水溶性メタリン酸塩(IMP)と呼ばれる。通常は、最高4重量%までの数重量%で、少量の水溶性リン酸塩物質が不純物としてその中に存在する。非水溶性メタリン酸塩の場合に水溶性トリメタリン酸ナトリウムを含むと考えられる水溶性リン酸塩物質の量は、望ましい場合水による洗浄によって低減または排除される場合がある。非水溶性アルカリ金属メタリン酸塩は、一般的に物質の1%以下が37ミクロンより大きいような粒径の粉末状で使用される。
【0051】
研磨剤は一般的に、固体組成物またはペースト状組成物中に約10〜約99重量%の濃度で存在する。好ましくは、練り歯磨中に約10〜約75%の量で、歯磨粉中に約70〜約99%の量で存在する。練り歯磨において、研磨剤が本来的にシリカを含む場合には、一般的に約0〜30重量%の量で存在する。その他の研磨剤は、一般的に約30〜75重量%の量で存在する。
【0052】
練り歯磨において、液体ビヒクルは、一般的に調剤品の約10〜約80重量%の範囲内にある量の水及び湿潤剤を含む場合がある。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール及びポリプロピレングリコールが、好適な湿潤剤/担体の例である。又、水、グリセリン及びソルビトールの液体混合物も有利である。屈折率が重要である透明ジェルにおいては、約2.5〜30重量%の水、0〜約70重量%のグリセリン、及び約20〜80重量%のソルビトールが、好ましくは使用される。
【0053】
練り歯磨、クリーム及びジェルは、一般的に約0.1〜約10重量%、好ましくは約0.5〜約5重量%の割合で天然または合成の増粘剤またはゲル化剤を含む。好適な増粘剤には、合成ヘクトライト、例えばLaporte Industries が販売するLaponite(例えばCP、SP 2002、D)として入手可能な合成コロイドマグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合体がある。Laponite Dは、約58.00重量%のSiO、約25.40重量%のMgO、約3.05重量%のNaO、約0.98重量%のLiO、並びに若干の水及び少量の金属である。真の比重は2.53であり、これは湿度8%において1.0g/mlの見掛けバルク密度を有する。
【0054】
その他の好適な増粘剤には、アイルランド苔、イオタカラギーナン、トラガカント、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが(例えば、Natrosolとして販売)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び微粉Syloid(例えば244)のようなコロイドシリカが含まれる。又、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール及びヘキシレングリコールのような湿潤剤ポリオール、メチルセロソルブ及びエチルセロソルブのようなセロソルブ、オリーブオイル、蓖麻子油及びワセリンのような直鎖に少なくとも約12個の炭素を含む植物油及びワックス、並びに酢酸アミル、酢酸エチル及び安息香酸ベンジルのようなエステルを例とする可溶化剤も含まれる場合がある。
【0055】
従来のように、経口調剤品は通常、好適なラベルを貼ったパッケージで販売されるか、その他の方法で流通されることが理解されるであろう。従って、口内用リンス液の容器は、それが実質的に口内用リンス液または口内洗浄剤であることを記載し、その使用上の注意事項を有するラベルが貼られている。そして練り歯磨、クリームまたはジェルは通常、押出チューブ、一般的には内容量を計測するためのアルミニウム製、鉛合板製若しくはプラスチック製またはその他の絞り器、ポンプ若しくは圧力ディスペンサーの中にあり、それが実質的に練り歯磨、ジェルまたは歯用クリームであることを記載したラベルが貼られている。
【0056】
本発明の組成物で有機界面活性剤を使用することで、予防作用を増大させ、口腔中に活性成分を完全に行きわたらせることを助け、本組成物をより美容上許容されるようにする場合がある。有機界面活性剤は、好ましくは本質的に陰イオン性、非イオン性または両性であり、好ましくは活性剤と相互に作用しない。組成物に洗浄性及び起泡性をもたらす洗浄材料を界面活性剤として使用することが好ましい。アニオン界面活性剤の好適な例には、水素化ココナッツオイル脂肪酸のモノサルフェート化されたモノグリセリドのナトリウム塩のような高級脂肪酸モノグリセリドモノサルフェートの水溶性塩;ラウリル硫酸ナトリウムのような高級アルキルサルフェート;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルアリールスルホネート;高級アルキルスルホ−アセテート;1,2−ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル;並びに脂肪酸、アルキル基またはアシル基等の中に12〜16個の炭素を有するもののような低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミドがある。最後に示したアミドの例には、N−ラウロイルサルコシン;及びN−ラウロイルサルコシン、N−マルミリストイルサルコシン、またはN−パルミトイルサルコシンのナトリウム、カリウム及びエタノールアミン塩があり、これらは、石鹸または類似の高級脂肪酸物質を実質的に含まないはずである。本発明の経口組成物におけるこれらのサルコナイト化合物の使用は、特に有利である。なぜなら、これらの物質は、酸溶液における歯エナメル質の溶解度が若干減少することに加えて、含水炭素破壊による口腔における酸形成を抑制する長期の顕著な効果を示すためである。使用に好適な水溶性非イオン性界面活性剤の例には、酸化エチレンと、これと反応し、長い疎水性鎖(例えば約12〜20個の炭素原子の脂肪族鎖)を有する種々の反応性水素含有化合物との縮合物である。この縮合物(「ethoxamer」)は、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、多価アルコール(例えば、モノステアリン酸ソルビタン)及びポリプロピレンオキシド(例えば、プルロニック物質)とポリ(酸化エチレン)の縮合物のような親水性ポリオキシエチレン部分を含む。
【0057】
界面活性剤は、一般的に約0.1〜5重量%の量で存在する。界面活性剤は、本発明の活性剤の溶解を助け、それによって必要とされる可溶化湿潤剤の量を減らす場合があることは注目に値する。
【0058】
漂白剤、防腐剤、シリコン、葉緑素化合物及び/または尿素のようなアンモニア化物質、リン酸ジアンモニウム、及びそれらの混合物のようなその他種々の物質が、本発明の経口調剤品に組み込まれる場合がある。これらのアジュバントは、存在する場合、望ましい特性及び特徴に実質的に悪影響を与えない量で調剤品に組み込まれる。
【0059】
任意の好適な香料または甘味料も使用される場合がある。好適な香料成分の例には、例えば、スペアミント、ペパーミント、ウインターグリーン、ササフラス、クローブ、セージ、ユーカリ、マージョラム、シナモン、レモン及びオレンジのオイルのような香料オイル、並びにサリチル酸メチルが含まれる。好適な甘味料には、ショ糖、乳糖、マルトース、ソルビトール、キシリトール、シクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP(アスパルチル‐フェニルアラニン、メチルエステル)、サッカリン等が含まれる。好適には、香料及び甘味剤はそれぞれまたは一緒に、調剤品を約0.1〜5%以上含む。
【0060】
本発明は又、タンパク質破壊剤を更に含む上記のようなACPまたはACFP組成物も提供する。一実施形態において、タンパク質破壊剤は漂白剤である。好ましい実施形態において、漂白剤はNaOClである。
【0061】
本発明の組成物は又、例えば、加熱されたガム基礎剤の中で攪拌するか、またはガム基礎剤の外面を覆うことにより、トローチ剤、またはチューイングガムまたはその他の製品に組み込んでもよい。これらの例には、望ましくは従来の可塑剤または柔軟剤、砂糖またはブドウ糖、ソルビトール等のようなその他の甘味料を含むジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂等がある。
【0062】
更なる態様において、本発明は、タンパク質破壊剤及び薬学的に許容される担体と共に、上記のようなACFP及び/またはACP複合体の何れかを含む薬学的組成物を含む組成物を提供する。このような組成物は、歯科用組成物、対齲蝕原性組成物及び治療組成物からなる群から選択される場合がある。歯科用組成物または治療組成物は、ジェル、液体、固体、粉末、クリームまたはトローチ剤の形態をとる場合がある。治療組成物は又、錠剤またはカプセルの形態をとる場合もある。一実施形態において、ACP及び/またはACFP複合体は、このような組成物の実質的に唯一の再石灰化活性成分である。例えば、以下を含むクリーム製剤が使用される場合がある:水、グリセリン;CPP−ACP;D−ソルビトール;二酸化ケイ素;カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na);プロピレングリコール;二酸化チタン:キシリトール;リン酸;グアーガム:酸化亜鉛;サッカリンナトリウム;エチルp−ヒドロキシベンゾエート;酸化マグネシウム;ブチルp−ヒドロキシベンゾエート及びプロピルp−ヒドロキシベンゾエート。
【0063】
本発明は、虫歯、歯の浸食及びフッ素沈着の何れか1つ以上の処置または予防に使用するための説明書を備えた上記の製剤も更に含む。
【0064】
一実施形態において、本組成物の活性成分は、本質的にタンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/または安定化ACFPからなる。理論または作用様式に拘束されることなく、安定化ACP及び/またはACFP及びタンパク質破壊剤は、本発明の上記実施形態の治療効果または予防効果に重要であり、従って(必要に応じて担体、賦形剤等と共に)本質的にそれらの成分からなる実施形態は、本発明の適用範囲内に含まれると考えられる。
【0065】
本発明は又、虫歯、フッ素沈着及び歯の浸食の1つ以上を処置または予防するためのキットであって、薬学的に許容される担体中に(a)タンパク質破壊剤及び(b)CPP−ACPまたはCPP−ACFP複合体を含むキットに関する。望ましくは、このキットは、このような処置を必要としている患者の歯表面の石灰化に使用するための説明書を更に含む。一実施形態において、阻害剤及び複合体は、患者の処置に好適な量で存在する。
【0066】
更なる態様においては、虫歯、歯の腐食、歯の浸食及びフッ素沈着のそれぞれの1つ以上を処置または予防する方法であって、ACPまたはACFP複合体または組成物を投与した後に、対象の歯にタンパク質破壊剤を投与することを含む方法が提供される。複合体の全身投与が好ましい。この方法には、好ましくは上記のような製剤中での複合体の投与が含まれる。
【0067】
更なる態様においては、第1組成物の製造におけるタンパク質破壊剤の使用、及び第2組成物の製造における安定化アモルファスリン酸カルシウム(ACP)または安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム(ACFP)の使用が提供される。第1組成物及び第2組成物は、虫歯、歯の腐食、歯の浸食及びフッ素沈着の1つ以上の処置及び/または予防のために使用される。ここで、第1組成物は、第1組成物は、第2組成物の前に歯表面に塗布される。
【0068】
更なる態様においては、虫歯、歯の腐食、歯の浸食及びフッ素沈着の1つ以上を処置及び/または予防するための、タンパク質破壊剤を含む第1組成物及び安定化アモルファスリン酸カルシウム(ACP)または安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム(ACFP)を含む第2組成物であって、第1組成物が第2組成物の前に歯表面に塗布されるものが提供される。
【0069】
本明細書は、ヒトにおける適用に特異的に言及しているが、本発明は、獣医の目的においても有用であることは、明確に理解されるであろう。従って、全ての態様において、本発明は、牛、羊、馬及び家禽のような家畜に、猫及び犬のようなペット動物に、並びに動物園の動物に有用である。
【0070】
本発明を以下の非限定的な例を参照して更に説明する。
【0071】
石灰化組成物の1つの例には、(含有率の多いものから順に)以下を含む組成物がある。
【0072】

グリセリン
CPP−ACP
D−ソルビトール
二酸化ケイ素
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)
プロピレングリコール
二酸化チタン
キシリトール
リン酸
グアーガム
酸化亜鉛
サッカリンナトリウム
エチルp−ヒドロキシベンゾエート
酸化マグネシウム
ブチルp−ヒドロキシベンゾエート
プロピルp−ヒドロキシベンゾエート
このような組成物は、Tooth MousseTMの商品名でGC Corporationから販売されている。これは、タンパク質破壊剤の後に使用に好適であり、好適な時間に歯の上に保持されることを容易にするためにペースト状またはクリーム状である。或いは、この石灰化組成物は、次亜塩素酸ナトリウムのようなタンパク質破壊剤を含む場合がある。
【0073】
本発明の有効性は、以下のように実証される場合がある。
【実施例】
【0074】
FLE(Thylstrup Fejerskov指数、TF=3)を有する7本の前臼歯を、オーストラリア メルボルンのRoyal Dental Hospitalの10〜28才の健康な患者から歯科矯正のために抜いた歯から選択した。抜いた歯について患者の同意を得た上、研究プロトコルは、メルボルン大学の人間研究倫理委員会によって承認された。全ての試料は、付着する柔組織を切除し、室温において18%(w/v)の酢酸ホルマリン溶液中に保存した。
【0075】
上記の歯を回転ゴムカップ及び軽石で洗浄し、そして二重脱イオン水(DDW)中で濯いだ(Fejerskov,et al.,1988)。水冷式ダイヤモンド刃を使って解剖学的歯冠を歯根から切断した。各々の歯冠を切断し、それぞれFLEを含んでいる1対のエナメル質ブロックを得た。病変の上にわたってParafilm(登録商標)(American National Can[米国イリノイ州シカゴ])の長方形の片を置き、ネールバニッシュ(RevlonTM[米国ニューヨーク州])で、周囲のエナメル質を被覆することによって、4×4mmの窓をそれぞれの病変の上に作った。次いで、パラフィルムを慎重に取り除き、対照窓及び試験窓として半分に分けたエナメル質病変の窓を露出させた。対照窓をネールバニッシュで被覆した。各試料の2つの病変を無作為に以下の2つの再石灰化群の1つに割り当てた:第I群−5%(w/v)のCPP−ACFPで処置、及び第II群−5.25%のNaOClで前処置した直後に5%(w/v)のCPP−ACFPで処置。
【0076】
CPP−ACFPはRecaldent Pty Ltd.(オーストラリア メルボルン)から入手したもので、47.6重量%のCPP、15.7重量%のCa2+、22.9重量%のPO3−、及び1.2重量%のFを含む。CPP−ACFPを蒸留及び脱イオンされた水に5%(w/v)に溶かし、そしてHClでpH7.0に調整した。第1群では、各試料を、37℃にてプラスチックバイアル瓶中にある2mlの5%(w/v)濃度CPP−ACFPに入れた。CPP−ACFP溶液を10日間毎日取り替えた。第2群では、各試料を5.25%のNaOCI溶液に20分間入れ、濯いだ後、37℃にてプラスチックバイアル瓶中にある2mlの5%(w/v)濃度CPP−ACFPに入れた。CPP−ACFP溶液を10日間毎日取り替えた。
【0077】
彩度計(ミノルタ彩度計CR241、Minolta[日本])を使用して、表面反射率を記録した。表面反射率測定は、1978年にCommission de L’EclairageによってL*a*b*色空間で確立された。そして測定は、3つの色次元で人間の色知覚に関係するものである(Commision Internationale de L’Eclaige,1978)。L*値は白色から黒色までの色勾配を表す。a*値は緑から赤までの色勾配を表す。そしてb*値は青から黄までの色勾配を表す(Commision Internationale de L’Eclaige,1978)。この試験においては、明るい色が高い測定値を有し、暗い色が低い測定値を有するL*値の測定のみを使用した。彩度計における試料が再現可能な位置にあるのを確実にするために、各試料のワックスモールド(wax mold)を準備し、保存した。全ての試料を、各測定の前に歯科用トリプレットシリンジで60秒間風乾させた。個々の試料を処置の前後に10回置き換え、そして色反射率L*値を記録した。
【0078】
各試料を石灰化溶液から取り出し、60秒間DDWで濯ぎ、そして吸取紙で乾燥するまで吸い取った。対照窓を覆うネールバニッシュをアセトンで緩徐に取り除いた。次いで、対照窓及び試験窓を、それらの窓の間の中線を通って切断することにより分離した。次いで、病変の窓が並列し、低温硬化メタクリレート樹脂(Paladur、Heraus Kulzer[ドイツ])に埋め込まれ状態で、2つの半片を置いた。次いで、2対のエナメル質の半片を切断し、マイクロラジオグラフィー及びマイクロ濃度測定画像解析に供し、Shen,et al.(2001)の記載の通り正確にミネラル含有量を決定した。
【0079】
各病変のそれぞれの極小X線撮影イメージ(対照及び試験)の中線に近い欠損のない領域を選択し、6回スキャンした(Shen,et al.,2001)。各スキャンにより、エナメル質表面から中央のエナメル質の範囲まで完全なフッ素病変を含むとみなされる200の測定値を得た。(CPP−ACFPによって処理された)試験病変部を、対照(無処置)病変部と正確に同じ深さにおいてスキャンした。各スキャンから得られたグレー値を、各断片と共に含まれるアルミニウムステップウェッジ(stepwedge)のイメージを使ってアルミニウムの同等の厚さ(tA)に変換した(Shen,et al.,2001)。Angmar,et al.(1963)の化学式を使用して、以下のような各測定値に対するミネラルの体積率を得た:V=(52.77(tA)−4.54)/tS;式中、V=割合としてのミネラルの体積;tA=スキャンされたグレー値から得たアルミニウムの相対的な厚さ;tS=断片の厚さ(80μm)。
【0080】
各病変に対する[(障害深さ(mm)に対する体積%min]の濃度(densitometric)プロフィールから、DZ値を台形積分(Reynolds,1997)を使って計算した。対照窓における未処置フッ素沈着エナメル質のプロフィールの下にある領域と隣接した通常のエナメル質との間の違いをDZfとした。そして、試験窓におけるCPP−ACFP処置フッ素沈着エナメル質の下にある領域と隣接した通常のエナメル質との間の違いをDZrとした。従って、フッ素病変の石灰化率(%M)は、(1−DZr/(DZf)×100であった(Reynolds,1997)。
【0081】
マイクロラジオグラフィーの後、対照と石灰化FLEとの両方を含む断片を、前記のようにエネルギー分散型X線分析(EDAX)に供した(Reynolds,1997)。
【0082】
平均L値を、分散(variance)の一方向の分類分析(ANOVA)を使用してシェッフェ多重比較で比較した。平均%M値も又一方向のANOVAを使って比較した。全体的な平均L*値及び%M値を、1対のデータスチューデントt検定を使って分析した。
【0083】
未処置のエナメル質フッ素病変のL*値は、79.1〜87.8の範囲にあり、83.6±3.6の平均値であった(表1)。5%CPP−ACFPによる処置により、L*値は、74.6±4.1まで際立って減少した。それは、通常のエナメル質とあまり異なっていなかった(表1)。NaOClの前処置の後に5%CPP−ACFP処置することにより、L*値は、72.6±5.6まで際立って減少した。それも又、通常のエナメル質とあまり異なっていなかった(表1)。2つの後処置(CPP−ACFP及びNaOCl/CPP−ACFP)群に対するL*値には、有意差がなかった。両方の処置群の表面エナメル質の外観は、両方ともが通常の半透明のエナメル質の外観を示しており、実質的に良くなっていた。
【0084】
健全なエナメル質のミネラル含有量と前処置病変(DZf)のミネラル含有量との間の差は、426〜12048体積%minの間で変化した。表面反射率(L*)と未処置のFLEのDZfとの間には、相関性は見出だされなかった。5%CPP−ACFPによる処置は、フッ素病変のミネラル含有量を実質的に増やし、喪失したミネラルの32.7%〜55.5%(平均値44.8±10.6)を復元した(表2)。喪失したミネラルの100%を復元させれば、ミネラル含有量に関して全部の病変を健全なエナメル質に変えるであろう。CPP−ACFP処置の前のNaOClによる前処置は、喪失したミネラルの73.6%〜92.8%(平均値80.1±7.8)のミネラル取り込み(uptake)を増加させた。横断切片の石灰化された病変についてのエネルギー分散型X線分析により、CPP−ACFP処置によって形成されたミネラルが、フッ化物を含むリン灰石であったことを確認した。
【0085】
【化4】

【0086】
【化5】

診療所では、歯エナメル質の再石灰化処置を必要とする患者の一例として、以下の手順により患者を処置する。
【0087】
1. ラバーダムを使用して隔離した、処置を必要とするエナメル領域を、5%のNaOCl溶液で5分間にわたり前処置する。
【0088】
2. 湿らせた綿棒を使用して、エナメル領域からNaOCl溶液を除去する。
【0089】
3. CPP−ACPを含有するクリームであるTooth MousseTM(GC Corporation)をエナメル質表面にすぐに5分間で塗布する。その後、患者はこのTooth MousseTMを4週間にわたり毎晩濯がずに塗布する。
【0090】
本明細書に開示及び定義される本発明は、本文または図面に記載され、これらから明らかになる複数の個々の特徴の代替となる組み合わせ全てに適用されることが理解されるであろう。これらの種々の組み合わせは全て、本発明の代替となる種々の態様を構成する。
【0091】
参考文献
【0092】
【化6】

【0093】
【化7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯表面または表面下を石灰化する方法であって、該歯表面または表面下と、タンパク質破壊剤及び安定化アモルファスリン酸カルシウム(ACP)または安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム(ACFP)とを接触させることを含む、方法。
【請求項2】
該歯表面が歯エナメル質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該歯表面が歯エナメル質における病変である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該病変が虫歯、歯の浸食またはフッ素沈着により生じる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該ACP及び/またはACFPが、ホスホペプチドで安定化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該ホスホペプチドがカゼインホスホペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該ACPまたはACFPが塩基相にある、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該タンパク質破壊剤が、漂白剤、界面活性剤、カオトロピック剤、プロテアーゼ、及びプロテアーゼの混合物からなる群の1つ以上から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該漂白剤が次亜塩素酸ナトリウムまたは過酸化カルバミド漂白剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
歯エナメル質における病変を再石灰化する方法であって、該病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む、方法。
【請求項11】
フッ素沈着を処置する方法であって、歯エナメル質におけるフッ素沈着病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む、方法。
【請求項12】
虫歯を処置する方法であって、歯エナメル質におけるカリエス病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む、方法。
【請求項13】
歯の浸食を処置する方法であって、浸食により生じた歯エナメル質における病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む、方法。
【請求項14】
歯エナメル質上の白斑病変を低減させる方法であって、白斑病変と、タンパク質破壊剤及び安定化ACP及び/またはACFPとを接触させることを含む、方法。
【請求項15】
虫歯、フッ素沈着及び歯の浸食の1つ以上を処置または予防するためのキットであって、薬学的に許容される担体中に(a)タンパク質破壊剤及び(b)CPP−ACPまたはCPP−ACFP複合体を含む、キット。

【公表番号】特表2008−542403(P2008−542403A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515000(P2008−515000)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000785
【国際公開番号】WO2006/130913
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(507170262)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (8)
【Fターム(参考)】