説明

歯付ベルト及びその製造方法

【課題】優れた耐摩耗性が得られ、しかも、歯付ベルト本体への優れた接着性能が得られる補強布を有する歯付ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】歯部側表面が補強布13で被覆され、該補強布13を覆うように設けられたRFL被膜がベルト表面に露出した歯付ベルト10を、RFL液に、そのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末と、ブロックイソシアネートと、を添加した処理液を調整し、該処理液を布に付着させた後に150℃以上の温度で加熱することにより乾燥させて表面にRFL被膜が設けられた補強布13を形成し、該表面にRFL被膜が形成された補強布13と未架橋ゴム組成物とを加熱及び加圧して一体化させることにより製造する。ブロックイソシアネートは、その結合解離温度が上記処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられたゴム製の歯付ベルト本体の歯部側表面が補強布で被覆された歯付ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製の歯付ベルトは、一般に、ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられた歯付ベルト本体の歯部側表面が補強布で被覆されている。そして、その補強布には、歯付ベルト本体と接着させるための接着処理が施される。
【0003】
特許文献1及び2には、織布をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス液(以下「RFL液」という。)に浸漬した後に乾燥させる処理を施したものを歯付ベルトの補強布とすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、織布をフッ素樹脂粉末を含むRFL液に浸漬した後に乾燥させる処理を施したものを歯付ベルトの補強布とすることが開示されている。
【特許文献1】特開2003−314621号公報
【特許文献2】特開2005−180589号公報
【特許文献3】特許第3347095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献3に開示されているようにフッ素樹脂粉末を含むRFL液を用いた場合、補強布において、優れた耐摩耗性が得られるものの、RFLによる歯付ベルト本体への接着性能が損なわれてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、優れた耐摩耗性が得られ、しかも、歯付ベルト本体への優れた接着性能が得られる補強布を有する歯付ベルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯付ベルトの製造方法は、ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられたゴム製の歯付ベルト本体の歯部側表面が補強布で被覆され、該補強布を覆うように設けられたRFL被膜がベルト表面に露出した歯付ベルトのものであって、
RFL液に、そのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末と、ブロックイソシアネートと、を添加した処理液を調製するステップと、
上記調製した処理液を布に付着させた後に150℃以上の温度で加熱することにより乾燥させて表面にRFL被膜が設けられた補強布を形成するステップと、
上記表面にRFL被膜が形成された補強布と別途調製した歯付ベルト本体形成用の未架橋ゴム組成物とを加熱及び加圧して一体化させることにより歯付ベルトを形成するステップと、
を備え、
上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が上記処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上のものを用いることを特徴とする。
【0008】
本発明の歯付ベルトの製造方法は、上記RFL液への上記ブロックイソシアネートの添加量を、該RFL液の固形分100質量部に対して5〜70質量部とすることが好ましい。
【0009】
本発明の歯付ベルトの製造方法は、上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が150℃より高いものを用いることが好ましい。
【0010】
本発明の歯付ベルトの製造方法は、上記RFL液のラテックスとして、水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、又は2,3−ジクロロブタジエン重合体ラテックスを用いることが好ましい。
【0011】
本発明の歯付ベルトは、ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられたゴム製の歯付ベルト本体の歯部側表面が補強布で被覆され、該補強布を覆うように設けられたRFL被膜がベルト表面に露出したものであって、
RFL液に、そのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末と、ブロックイソシアネートと、を添加した処理液を布に付着させた後に150℃以上の温度で加熱することにより乾燥させて表面にRFL被膜が設けられた補強布と別途調製した歯付ベルト本体形成用の未加硫ゴム組成物とを加熱及び加圧して一体化させることにより形成され、
上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が上記処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上のものが用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、RFL液にそのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末を含めた処理液を用いているので、補強布に優れた耐摩耗性が得られ、また、処理液に結合解離温度が処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上であるブロックイソシアネートを含めているので、処理液を布に付着させた後の加熱乾燥によるブロックイソシアネートの解離及びそれによる接着能の喪失が抑止され、補強布に歯付ベルト本体への優れた接着性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(歯付ベルト)
図1は、実施形態にかかる歯付ベルト10を示す。この歯付ベルト10は、例えば自動車のOHC駆動用途等の高負荷用途に好適に用いられるものである。
【0015】
この歯付ベルト10は、ゴム製の歯付ベルト本体11を有する。
【0016】
歯付ベルト本体11は、ベースゴムに配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋剤により架橋した架橋済みゴム組成物で形成されている。歯付ベルト本体11を構成するゴム組成物のベースゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、充填材、カーボンブラックやシリカや短繊維等の補強材、等が挙げられる。なお、各配合剤については、単一種で構成されていても、また、複数種で構成されていても、いずれでもよい。
【0017】
歯付ベルト本体11は、外周側に背面部11bが設けられていると共に、内周側に背面部11bと一体にベルト長さ方向に一定間隔で歯部11aが設けられている。
【0018】
背面部11bは、横長平帯状に形成されている。背面部11bの内周側層には、心線12がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0019】
心線12は、長尺の繊維材料の撚り糸や組紐で構成されている。撚り糸の心線12は、S撚り及びZ撚りの一対が二重螺旋を形成するように設けられていることが好ましい。心線12を構成する繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、金属繊維等が挙げられる。心線12は、歯付ベルト本体11に対する接着性付与のために、成形加工前にRFL液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されたものである。
【0020】
歯部11aは、側面視形状が台形である台形歯に形成されていても、また、半円形である丸歯に形成されていても、さらには、その他の形状に形成されていてもよい。歯部11aは、ベルト幅方向に延びるように設けられた構成のものであってもよく、また、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるように設けられたハス歯構成のものであってもよい。
【0021】
歯付ベルト本体11は、歯部側表面が補強布13で被覆されている。
【0022】
補強布13は、繊維材料で構成された平織り、綾織り、朱子織などの織布、編み物、或いは、不織布等の布で構成されている。補強布13を構成する布は、歯部形成性の観点からベルト長さ方向に伸性を有することが好ましい。具体的には、補強布13を構成する布が織布の場合、ベルト長さ方向に延びる糸として、ウーリー糸やポリウレタン糸を芯材とし、それに繊維材料をカバーリングした、或いは、ダブルカバーリングした糸を用いればよい。補強布13を構成する繊維材料としては、例えば、6,6−ナイロンや4,6−ナイロンや6−ナイロン等のナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等が挙げられる。補強布13は、歯付ベルト本体11に対する接着性付与のために、成形加工前に、下記に詳述する所定の処理液に浸漬した後に加熱するRFL接着処理が施されたものである。
【0023】
補強布13は、歯付ベルト本体11への接着性向上のために、RFL接着処理に加え、歯付ベルト本体11への接着面に接着処理を施されたものであってもよい。かかる接着処理としては、例えば、ゴム糊をコーティングした後に乾燥させる接着処理、シートゴムをラミネートやトップ加工の方法によって付着させる接着処理等が挙げられる。ただし、補強布13の歯付ベルト本体11への接着面とは反対側の面、つまり、プーリ接触部を構成する面には、下記に詳述するRFL接着処理以外の接着処理は施されず、RFL被膜が露出している。
【0024】
(歯付ベルトの製造方法)
次に、この歯付ベルト10の製造方法について説明する。
【0025】
<補強布調製工程>
−処理液調製−
RFL液にフッ素樹脂粉末とブロックイソシアネートとを添加して処理液を調製する。
【0026】
RFL液は、レゾルシンとホルマリン(ホルムアルデヒド)との初期縮合物にラテックスを混合した混合液である。RFL液の固形分については、例えば10〜25質量%とする。
【0027】
レゾルシン(R)とホルマリン(F)とのモル比については、例えばR/F=1/1〜1/3とする。
【0028】
ラテックスとしては、例えば、ビニルピリジンラテックス(VP)、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、ニトリルブタジエンゴムラテックス(NBR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体(X−NBR)ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3−ジクロロブタジエン重合体ラテックス(2,3−DCB)等が挙げられる。これらのうち、X−NBRラテックス、CSMラテックス、2,3−DCBラテックスが好ましい。ラテックスについては、これらのうち単一種で構成してもよく、また、複数種を混合して構成してもよい。レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(RF)とラテックス(L)の質量比については、例えば、RF/L=1/6〜1/20とする。
【0029】
フッ素樹脂粉末としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の粉末が挙げられる。フッ素樹脂粉末については、これらのうち単一種で構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。フッ素樹脂粉末は、例えば、平均粒子径が0.2〜0.4μmであることが好ましい。フッ素樹脂粉末の添加量については、例えば、RFL液のラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部であり、100〜120質量部であることが好ましい。RFL液にフッ素樹脂粉末を添加する場合、予め水にフッ素樹脂粉末を分散させた分散液を用いることが好ましい。具体例としては、旭硝子(株)製のフルオンAD911やダイキン工業(株)製のルブロンLDW−40等が挙げられる。
【0030】
ブロックイソシアネートは、その結合解離温度が後述の加熱乾燥処理の処理温度以上のものである。具体的には、ブロックイソシアネートとして、例えば、第一工業製薬(株)製のエラストロンBN−27(結合解離温度180℃)やエラストロンBN−31(結合解離温度180℃)、エラストロンBN−11(結合解離温度150℃)等が挙げられる。ブロックイソシアネートの結合解離温度としては、レゾルシンとホルマリンの反応温度の観点から、150℃より高いものが好ましい。ブロックイソシアネートについては、これらのうち単一種で構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。ブロックイソシアネートの添加量としては、接着力向上の観点から、RFL液の固形分100質量部に対して5〜70質量部とすることが好ましく、20〜40質量部とすることがより好ましい。
【0031】
処理液には、任意成分として、フッ素樹脂及びブロックイソシアネートの他に、水分散系の樹脂等を含有させてもよい。
【0032】
ここで、水分散系の樹脂とは、水が分散媒になり得る樹脂をいい、水に可溶な樹脂(水溶性高分子化合物)、水と乳濁液を形成しうる樹脂(ラテックス系高分子化合物)が該当する。水分散系の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂乳化剤、水系ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水分散系の樹脂については、これらのうち単一種で構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。
【0033】
−処理液浸漬処理−
上記で調製した処理液に補強布13を構成する布を浸漬した後に引き上げてロール等により絞る。このとき、処理液が布に含浸状態に付着する。
【0034】
液温度については、例えば、15〜25℃とする。浸漬時間については、例えば0.5〜10秒間とする。処理回数としては、1回であっても、また、複数回であってもよい。
【0035】
なお、処理液に布を浸漬する処理の他、処理液を布に刷毛塗りする、或いは、コーターを用いて布に処理液を含浸させる等の手段により、布に処理液を付着させてもよい。
【0036】
−加熱乾燥処理−
上記の処理液が付着した布を加熱乾燥炉に通して加熱乾燥させる。このとき、処理液の水分が飛散すると共にレゾルシンとホルマリンとの縮合反応が進行し、これにより表面にRFL被膜が形成された補強布13を調製する。また、処理液には、結合解離温度がこのときの加熱乾燥温度以上であるブロックイソシアネートを含めているので、処理液を布に付着させた後の加熱乾燥によるブロックイソシアネートの解離及びそれによる接着能の喪失が抑止される。
【0037】
加熱乾燥温度(炉内温度)については、150℃以上であり、150〜170℃とすることが好ましい。加熱乾燥時間については、1〜3分間とすることが好ましい。
【0038】
RFL被膜の目付量、つまり、この加熱乾燥処理後に得られた補強布13の質量から処理液浸漬前の布の質量を減じ、それを処理液浸漬前の布の質量で除して百分率で表したものは、10〜40質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。この目付量は、処理液への布の浸漬処理回数や絞り具合により制御することができる。
【0039】
<未架橋ゴム組成物調製工程>
ベースゴム及び配合剤をバンバリーミキサー等のゴム混練装置に投入して混練したものをカレンダー等に通すことによってシート状の未架橋ゴム組成物を調製する。
【0040】
<心線調製工程>
撚り糸や組紐をRFL液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施すことによって心線12を調製する。
【0041】
<成形工程>
補強布13を筒状に形成し、それで外周面に軸方向に延びる歯部形成溝が周方向に等間隔に形成された円筒金型を被覆し、その上に心線12を螺旋状に巻き付け、さらにその上にシート状の未架橋ゴム組成物を巻き付ける。なお、非伸性の補強布13の場合に、歯部形成溝に沿うように補強布13を設けるようにしてもよい。
【0042】
続いて、補強布13,心線12及び未架橋ゴム組成物をセットした円筒状金型を加硫釜に入れて加熱及び加圧する。このとき、加熱及び加圧によりゴムが円筒状金型側に流動し、特に歯部形成溝部分では、ゴムの押圧により補強布13が溝表面に沿うように伸長されてベルト歯が形成される。また、歯付ベルト本体11が形成されると共にそれと心線12及び補強布13とが一体化した円筒状のスラブが形成される。
【0043】
そして、加硫釜から円筒状金型を取り出してスラブを取り出す。
【0044】
最後に、スラブの背面を研磨して厚さを均等にした後に所定幅に輪切りする。
【0045】
以上のような歯付ベルト10の製造方法によれば、補強布13の調製において、RFL液にそのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末を含めた処理液を用いているので、補強布13に優れた耐摩耗性が得られ、また、処理液に結合解離温度が処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上であるブロックイソシアネートを含めているので、処理液を布に付着させた後の加熱乾燥によるブロックイソシアネートの解離及びそれによる接着能の喪失が抑止され、補強布13に歯付ベルト本体11への優れた接着性能が得られる。
【実施例】
【0046】
(試験評価用ベルト)
以下実施例1〜14及び比較例1〜13のそれぞれの歯付ベルトを作製した。それぞれの構成を表1A及び表1Bにも示す。
【0047】
【表1A】

【0048】
【表1B】

【0049】
<実施例1>
水酸化ナトリウム溶液中にレゾルシン(住友化学(株)製 商品名:レゾルシノール)とホルマリン(三井化学(株)製 商品名:ホルマリン)とをモル比R/F=1/2の割合で加えて攪拌混合することにより、それらの初期縮合物溶液を得、それに水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体(X−NBR)ラテックス(日本ゼオン(株)製 商品名:ZLX−B)と水とを加えて攪拌混合することにより、レゾルシン・ホルマリンとラテックスとの質量比RF/L=1/8であるRFL液を調製した。
【0050】
次に、このRFL液に、RFL液のラテックス固形分100質量部に対してポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という。)(旭硝子(株)製 商品名:フルオンAD911、平均粒子径:0.25μm)80質量部とブロックイソシアネート(第一工業製薬(株)製 商品名:エラストロンBN−27、結合解離温度180℃)30質量部とを加えて攪拌混合し、さらに、カーボンブラック(富士色素工業(株)製 商品名:フジSPブラック203)が全体の5質量%となるように加えて分散させ、固形分濃度が15質量%である処理液を調製した。
【0051】
この処理液に、経糸が235dtex、及び緯糸が235dtex×3の6,6−ナイロン繊維のウーリー加工糸(破断伸び150%以上)を用いた3/3の綾織り織布を浸漬した後に引き上げて一対の加圧ロール間に通して絞って綾織り織布に処理液を付着させた。このとき、処理液の液温度を20℃、浸漬時間を2秒間、及び処理回数を2回とした。また、RFL被膜の目付量が約30質量%となるように加圧ロールのクリアランス等を調節した。
【0052】
処理液が付着した綾織り織布を加熱乾燥炉に通して加熱乾燥させて補強布を調製した。このとき加熱乾燥炉の炉内温度(加熱乾燥温度)を150℃、加熱処理時間を2分間とした。
【0053】
この補強布を用い、上記実施形態と同様の方法で歯付ベルトを作製し、それを実施例1とした。
【0054】
なお、未架橋ゴム組成物として、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)(日本ゼオン(株)製 商品名:ゼットポール2020)をベースゴムとし、このベースゴム100質量部に対して酸化亜鉛(堺化学工業(株)製 商品名:酸化亜鉛3種)5質量部、ステアリン酸(新日本理化(株)製 商品名:ステアリン酸)1質量部、ジオクチルセバケート(DOS)(大日本インキ化学工業(株)製 商品名:モノサイザーW280)5質量部、カーボンブラックFEF(東海カーボン(株)製 商品名:シーストSO)50質量部、老化防止剤(大内新興化学(株)製 商品名:ノクラックMB)3質量部、架橋促進剤TET−G(三新化学工業(株)製 商品名:サンセラーTET−G)2質量部、架橋促進剤TS−G(三新化学工業(株)製 商品名:サンセラーTS−G)1.2質量部及び硫黄(細井化学工業(株)製 商品名:オイルサルファー)0.7質量部を配合して混練したものを用いた(表2参照)。
【0055】
【表2】

【0056】
心線として、ガラス繊維の3/13構成の撚り糸に、RFL液に浸漬した後に加熱する処理を施したものを用いた。
【0057】
作製した歯付ベルトは、ベルト周長840mm、ベルト幅12.7mm、及びベルト厚さ5.2mm、並びに、歯部の歯幅2.15mm、歯高さ3.05mm、歯幅10mm、及び歯部配設ピッチ8mmのSTS8M型の構成のものである。
【0058】
<実施例2>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して110質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例2とした。
【0059】
<実施例3>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して140質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例3とした。
【0060】
<実施例4>
ブロックイソシアネートの添加量をRFL液の固形分100質量部に対して5質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例4とした。
【0061】
<実施例5>
ブロックイソシアネートの添加量をRFL液の固形分100質量部に対して20質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例5とした。
【0062】
<実施例6>
ブロックイソシアネートの添加量をRFL液の固形分100質量部に対して40質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例6とした。
【0063】
<実施例7>
ブロックイソシアネートの添加量をRFL液の固形分100質量部に対して60質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例7とした。
【0064】
<実施例8>
ブロックイソシアネートの添加量をRFL液の固形分100質量部に対して70質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例8とした。
【0065】
<実施例9>
ラテックスがクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)ラテックス(住友精化(株)製 商品名:CSM450)である処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例9とした。
【0066】
<実施例10>
ラテックスが2,3−ジクロロブタジエン重合体(2,3−DCB)ラテックス(東ソー(株)製 商品名:LH430)である処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例10とした。
【0067】
<実施例11>
ブロックイソシアネートが結合解離温度150℃であるブロックイソシアネート(第一工業製薬(株)製 商品名:エラストロンBN−11)である処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成である歯付ベルトを作製し、これを実施例11とした。
【0068】
<実施例12>
実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例12とした。
【0069】
<実施例13>
処理液を綾織り織布に付着させた後の加熱乾燥温度を170℃としたことを除いて実施例12と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例13とした。
【0070】
<実施例14>
綾織り織布を処理液に浸漬した後に引き上げて加熱乾燥する処理の処理回数を1回としてRFL被膜の目付量を約15質量%としたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを実施例14とした。
【0071】
<比較例1>
PTFE及びブロックイソシアネートを添加しないRFL液そのものを処理液として用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例1とした。
【0072】
<比較例2>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して50質量部とし、また、ブロックイソシアネートを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例2とした。
【0073】
<比較例3>
ブロックイソシアネートを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例3とした。
【0074】
<比較例4>
ブロックイソシアネートを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例4とした。
【0075】
<比較例5>
ブロックイソシアネートを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例3と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例5とした。
【0076】
<比較例6>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して150質量部とし、また、ブロックイソシアネートを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例6とした。
【0077】
<比較例7>
PTFEを添加しない処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例7とした。
【0078】
<比較例8>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して50質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例8とした。
【0079】
<比較例9>
PTFEの添加量をRFL液のラテックス固形分100質量部に対して150質量部とした処理液を用いたことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例9とした。
【0080】
<比較例10>
処理液を綾織り織布に付着させた後の加熱乾燥温度を130℃としたことを除いて実施例11と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例10とした。
【0081】
<比較例11>
処理液を綾織り織布に付着させた後の加熱乾燥温度を130℃としたことを除いて実施例11と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例11とした。
【0082】
<比較例12>
処理液を綾織り織布に付着させた後の加熱乾燥温度を130℃としたことを除いて実施例12と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例12とした。
【0083】
<比較例13>
RFL被膜の目付量を約15質量%とし、補強布の歯付ベルト本体側の面にゴム糊をコーティングした後の加熱乾燥させる加工等を施したことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、これを比較例13とした。
【0084】
(試験評価方法)
<静的接着力試験>
実施例1〜14及び比較例1〜13のそれぞれの補強布について、JIS K6854に準じて剥離接着試験を行った。
【0085】
そして、原則として、接着力が60N/25mm以上を○、60N/25mm未満を×と評価した。但し、58.2N/25mmであったものについては△の評価とした。
【0086】
<耐摩耗性試験>
図2は、耐摩耗性試験に用いたベルト走行試験機20のプーリのレイアウトを示す。
【0087】
このベルト走行試験機20は、最上位に設けられた第1従動歯付プーリ21(歯数16)と、第1従動歯付プーリ21の左斜め下方に設けられた第2従動歯付プーリ22(歯数16)と、第1従動歯付プーリ21の下方で且つ第2従動歯付プーリ22の右斜め下に設けられた第3従動歯付プーリ23(歯数16)と、第2従動歯付プーリ22の右側方であって第1従動歯付プーリ21の右斜め下方に設けられた駆動歯付プーリ24(歯数16)と、第1従動歯付プーリ21と第2従動歯付プーリ22、第2従動歯付プーリ22と第3従動歯付プーリ23、第3従動歯付プーリ23と駆動歯付プーリ24、及び、駆動歯付プーリ24と第1従動プーリ21のそれぞれの略中間位置にベルト背面への巻き付け角度が90°となるように設けられた、プーリ径45mmの4つの平プーリ(アイドラプーリ)25,26,27,28と、を備えている。
【0088】
実施例1〜14及び比較例1〜13のそれぞれのベルト幅12.7mmのものについて、歯付プーリ21〜24に歯部が歯合すると共に、平プーリ25〜28がベルト背面に当接するように、歯付プーリ21〜24及び平プーリ25〜28に巻き掛けた後、第3従動歯付プーリ23に下向きに441Nのデッドウェイトを負荷し、雰囲気温度120℃の下で駆動歯付プーリ24を回転数5500rpmで時計回りに回転させてベルト走行させた。
【0089】
そして、400時間以上ベルト走行できたものを○と評価し、できなかったものを×と評価した。
【0090】
<耐セパレーション性及び耐クラック性試験>
図3は、耐セパレーション性及び耐クラック性試験用のベルト走行試験機30のプーリのレイアウトを示す。
【0091】
このベルト走行試験機30は、大径の従動歯付プーリ31(歯数36)と、その右側方に設けられた小径の駆動歯付プーリ32(歯数18)と、それらの間の従動歯付プーリ31のやや右斜め下方に設けられたプーリ径52mmの平プーリ(アイドラプーリ)33と、を備えている。
【0092】
実施例1〜14及び比較例1〜13のそれぞれのベルト幅10mmの歯付ベルト10について、従動歯付プーリ31及び駆動歯付プーリ32に歯部が歯合すると共に、平プーリ33がベルト背面に当接するように巻き掛けた後、従動歯付プーリ31に29.4Nmの負荷トルクを負荷すると共に980Nのベルト張力が負荷されるように駆動歯付プーリ32にデッドウェイトを負荷し、雰囲気温度100℃の下で駆動歯付プーリ32を6000rpmの回転数で時計回りに回転させてベルト走行させた。
【0093】
そして、原則として、1000時間以上ベルト走行できたものを○と評価し、1000時間未満で補強布の剥離(セパレーション)による破壊又はクラックによる破壊が生じたものを×と評価した。但し、922時間走行したものについては、△と評価した。
【0094】
(試験評価結果)
表3は、実施例1〜8及び比較例1〜9の結果を示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3によれば、処理液にブロックイソシアネートが配合された実施例1〜3と、処理液にブロックイソシアネートが配合されていない比較例3〜5と、を比較すると、前者は、接着性及び剥離の起こりにくさの点で後者より優れることが分かる。
【0097】
処理液のラテックス固形分100質量部に対するPTFEの配合量が80〜140質量部である実施例1〜3と、PTFEの配合量が50質量部以下である比較例7〜8と、を比較すると、前者は耐摩耗性の点で後者より優れることが分かる。
【0098】
処理液のラテックス固形分100質量部に対するPTFEの配合量が80〜140質量部である実施例1〜3と、PTFEの配合量が150質量部である比較例9と、を比較すると、前者は、接着性及び剥離の起こりにくさの点で後者より優れることが分かる。
【0099】
表4は、実施例11〜13及び比較例10〜12の結果を示す。
【0100】
【表4】

【0101】
表4によれば、ブロックイソシアネートの結合解離温度が上記処理液に布を浸漬した後の加熱乾燥温度以上のものを用いた実施例11〜13と、ブロックイソシアネートの結合解離温度が上記処理液に布を浸漬した後の加熱乾燥温度よりも低いものを用いた比較例10〜12と、を比較すると、前者は、接着性及び剥離の起こりにくさの点で後者より優れることが分かる。
【0102】
表5は、実施例9,10及び14並びに比較例13の結果を示す。
【0103】
【表5】

表5によれば、歯付ベルトのプーリ接触部をゴム糊で表面処理していない実施例2と、 プーリ接触部にゴム糊を含浸塗布した比較例13と、を比較すると、前者は、耐クラック性の点で後者より優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明は、歯付ベルト及びその製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施形態にかかる歯付ベルトの斜視図である。
【図2】耐摩耗性試験用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図3】耐セパレーション性及び耐クラック性試験用のベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【符号の説明】
【0106】
10 歯付ベルト
11 歯付ベルト本体
11a 歯部
13 補強布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられたゴム製の歯付ベルト本体の歯部側表面が
補強布で被覆され、該補強布を覆うように設けられたRFL被膜がベルト表面に露出した歯付ベルトの製造方法であって、
レゾルシン・ホルマリン・ラテックス液に、そのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末と、ブロックイソシアネートと、を添加した処理液を調製するステップと、
上記調製した処理液を布に付着させた後に150℃以上の温度で加熱することにより乾燥させて表面にRFL被膜が設けられた補強布を形成するステップと、
上記表面にRFL被膜が形成された補強布と別途調製した歯付ベルト本体形成用の未架橋ゴム組成物とを加熱及び加圧して一体化させることにより歯付ベルトを形成するステップと、
を備え、
上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が上記処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上のものを用いることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された歯付ベルトの製造方法において、
上記レゾルシン・ホルマリン・ラテックス液への上記ブロックイソシアネートの添加量を、該レゾルシン・ホルマリン・ラテックス液の固形分100質量部に対して5〜70質量部とすることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された歯付ベルトの製造方法において、
上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が150℃より高いものを用いることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された歯付ベルトの製造方法において、
上記レゾルシン・ホルマリン・ラテックス液のラテックスとして、水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、又は2,3−ジクロロブタジエン重合体ラテックスを用いることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項5】
ベルト長さ方向に一定間隔で歯部が設けられたゴム製の歯付ベルト本体の歯部側表面が補強布で被覆され、該補強布を覆うように設けられたRFL被膜がベルト表面に露出した歯付ベルトであって、
レゾルシン・ホルマリン・ラテックス液に、そのラテックス固形分100質量部に対して80〜140質量部のフッ素樹脂粉末と、ブロックイソシアネートと、を添加した処理液を布に付着させた後に150℃以上の温度で加熱することにより乾燥させて表面にRFL被膜が形成された補強布と別途調製した歯付ベルト本体形成用の未加硫ゴム組成物とを加熱及び加圧して一体化させることにより形成され、
上記ブロックイソシアネートとして、その結合解離温度が上記処理液を布に付着させた後の加熱乾燥温度以上のものが用いられていることを特徴とする歯付ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−248463(P2009−248463A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99610(P2008−99610)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】