説明

歯車測定方法

【課題】測定子の移動量を小さくすることにより、測定時における測定子の移動範囲を小さくして、機械の小型化を図ることができる歯車測定方法を提供する。
【解決手段】測定子16aの移動とワークWの回転とを同期制御して、ワークWの回転に応じて、測定子16aをワークWの右歯面WRまたは左歯面WLに接触させた状態で直線移動させることにより、その歯形形状を測定する歯車測定方法において、ワークWの基礎円Wb上の接点Aoから一方に所定の回転角度αで回転配置した接点Aに接する接線Lと、ワークWの基礎円Wb上の接点Aoから他方に所定の回転角度αで回転配置した接点A'に接する接線L'とを設定し、右歯面WRの測定時に、測定子16aを接線Lに沿って移動させる一方、左歯面WLの測定時に、測定子16aを接線L'に沿って移動させ、接線L,L'の交点を測定開始位置B,B'と測定終了位置C,C'との間の中点とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定歯車の歯形形状を測定する歯車測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯車形削盤やホブ盤、歯車研削盤等の歯車加工機により被加工歯車を加工する場合には、加工ロット中から抜き取った少なくとも1つ以上の被加工歯車に対して、歯形、歯すじ等の歯面形状を測定した後、その精度を確認してから、残りの未加工ロットを加工するようにしている。また、加工する被加工歯車が大形である場合には、不良品を出すことができないため、取り代を残しながら、加工と測定とを数回繰り返した後、仕上げ加工を行うようにしている。このような、被加工歯車に対する歯面形状の測定は、歯車加工機とは別体の歯車測定機により行われていた。
【0003】
しかしながら、このように、歯車加工機と歯車測定機とを別々に設けると、これらの間において被加工歯車の付け替え作業が必要となるため、作業性が低下してしまう。そこで、近年、作業性の向上を図ることを目的として、加工後の被加工歯車に対して、機上で歯面形状の測定を行えるようにした歯車加工機が種々提供されている。
【0004】
このような、歯車測定装置を備えた歯車加工機は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2995258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の歯車測定装置では、測定子のY軸方向及びZ軸方向の移動と被加工歯車の回転とを同期制御して、その測定子を被加工歯車の歯面に接触させつつインボリュート基礎円の接線に沿って移動させることにより、その歯形形状を測定するようにしている。
【0007】
しかしながら、このような、基礎円接線方式を採用して、大形の被加工歯車に対して、その歯形形状を測定しようとすると、特に、測定子のY軸方向の移動量が大きくなってしまう。これにより、測定時における測定子の移動範囲が拡大することになり、歯車測定装置の大型化を招くおそれがある。
【0008】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、測定子の移動量を小さくすることにより、測定時における測定子の移動範囲を小さくして、機械の小型化を図ることができる歯車測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係る歯車測定方法は、
測定子の移動と被測定歯車の回転とを同期制御して、被測定歯車の回転に応じて、前記測定子を被測定歯車の一方の歯面または他方の歯面に接触させた状態で直線移動させることにより、被測定歯車の歯形形状を測定する歯車測定方法において、
被加工歯車の基礎円上の基準点から一方に所定の回転角度で回転配置した一方側接点に接する一方側接線と、被加工歯車の基礎円上の基準点から他方に前記所定の回転角度で回転配置した他方側接点に接する他方側接線とを設定し、
前記一方の歯面の測定時に、前記測定子を前記一方側接線に沿って移動させる一方、
前記他方の歯面の測定時に、前記測定子を前記他方側接線に沿って移動させ、
前記一方側接線と前記他方側接線との交点を、前記一方側接線上及び前記他方側接線上における測定開始位置と測定終了位置との間に配置する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
従って、本発明に係る歯車測定方法によれば、測定子の移動量を小さくすることができるので、測定時における測定子の移動範囲が小さくなり、機械の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る歯車測定方法について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る歯車測定方法を採用した歯車測定装置の概略図、図2は測定子によるワークへの歯形測定の様子を示した図、図3は測定時における測定子とワークの両歯面との接触の様子を示した図、図4は本発明の一実施例に係る歯車測定方法の測定原理を示した図である。
【0012】
図1に示す歯車測定装置1は、図2に示すような、研削後の大形のワーク(被測定歯車,被加工歯車)Wの歯形形状を測定するものである。
【0013】
図1に示すように、歯車測定装置1の下部には、基台11が設けられている。この基台11の上面には、水平なX軸方向に延設するガイドレール12が固定されると共に、水平なY軸方向に延設するガイドレール13が摺動可能に支持されている。ガイドレール12,13は直交して配置されており、ガイドレール13はガイドレール12に対してその長手方向に移動可能に支持されている。そして、ガイドレール13には、鉛直なZ軸方向に延在するガイドレール14がその長手方向に移動可能に支持されている。
【0014】
ガイドレール14の側面には、移動体15が昇降可能に支持されている。移動体15には測定器16が装着されており、この測定器16の先端には測定子16aが設けられている。
【0015】
また、基台11の上面には、回転テーブル17がワーク回転軸C1周りに回転可能に支持されており、この回転テーブル17の上面には、下部センタ18が当該回転テーブル17と同軸になるように設けられている。更に、回転テーブル17の側方における基台11の上面には、コラム19が立設されている。コラム19の前面には、センタヘッド20がZ軸方向に昇降可能に支持されており、このセンタヘッド20の先端には、上部センタ21がワーク回転軸C1周りに回転可能に支持されている。
【0016】
即ち、センタヘッド20によって上部センタ21を下降させることにより、下部センタ18と上部センタ21との間でワークWを保持可能となっている。そして、このように、ワークWを保持した状態で、回転テーブル17を回転させることにより、ワークWがワーク回転軸C1周りに回転することになる。
【0017】
ここで、歯車測定装置1には、当該歯車測定装置1全体を統合的に制御するNC装置22が設けられている。このNC装置22は、例えば、ガイドレール12,13,14、移動体15、測定器16、回転テーブル17等と接続されており、予め入力された測定すべきワークWの歯車諸元やその歯形測定位置に基づいて、測定器16(測定子16a)のX軸,Y軸,Z軸方向への移動及びワークWのワーク回転軸C1周りの回転を同期制御して、検出した測定子16aの変位量からワークWの歯形形状の精度測定を行うようになっている。
【0018】
次に、研削されたワークWの歯形形状の測定方法について、図2乃至図4を用いて説明する。
【0019】
先ず、ワークWを研削することにより、このワークWには右歯面WR及び左歯面WLが形成されることになる。なお、ワークWには、所定の歯車形状が得られるような歯車諸元が与えられており、この歯車諸元の中でも、基礎円Wbの半径をRb、歯元円Wfの半径をRf、歯先円Waの半径をRaと示す(図4参照)。次いで、研削後のワークWを下部センタ18と上部センタ21との間で保持したまま、その歯形形状の測定を開始する。
【0020】
そして、ワークWの右歯面WRの歯形測定を行う場合には、図3に示すように、先ず、ワークWをワーク回転軸C1周りに僅かに回転させて、その歯溝を測定器16に対向させた後、測定器16をX軸,Y軸,Z軸方向に駆動させて、その測定子16aをワークWの右歯面WR上における歯元円Wfとの交点に接触させる。即ち、この交点が右歯面WRにおける測定開始位置Bとなる。
【0021】
次いで、測定子16aを測定開始位置Bに接触させた状態から、測定器16をX軸,Y軸方向に駆動させて、その測定子16aを接線Lに沿うように移動させると共に、回転テーブル17を駆動させて、ワークWを一方に回転させる。なお、詳細は後述するが、接線Lは、ワークWの基礎円Wb上の接点Aに接する接線となっている。
【0022】
これにより、測定子16aは、ワークWの右歯面WRに接触しつつ、その歯たけ(歯形)方向に移動することになり、その歯形測定が開始される。このとき、目標歯形形状と測定された実歯形形状との差が歯形誤差として得られることになり、歯形誤差がない場合には、インボリュート曲線または誤差零の直線が出力される一方、歯形誤差がある場合には、その凹凸に応じて変化した曲線または直線が出力されるようになっている。
【0023】
そして、測定子16aが、更に右歯面WR上において歯先側へ滑り、右歯面WR上における歯先円Waとの交点に到達すると、歯形測定が終了する。即ち、この交点が右歯面WRにおける測定終了位置Cとなる。
【0024】
一方、ワークWの左歯面WLの歯形測定を行う場合には、図3に示すように、先ず、ワークWをワーク回転軸C1周りに僅かに回転させて、その歯溝を測定器16に対向させた後、測定器16をX軸,Y軸方向に駆動させて、その測定子16aをワークWの左歯面WL上における歯元円Wfとの交点に接触させる。即ち、この交点が左歯面WLにおける測定開始位置B'となる。
【0025】
次いで、測定子16aを測定開始位置B'に接触させた状態から、測定器16をX軸,Y軸方向に駆動させて、その測定子16aを接線L'に沿うように移動させると共に、回転テーブル17を駆動させて、ワークWを他方に回転させる。なお、詳細は後述するが、接線L'は、ワークWの基礎円Wb上の接点A'に接する接線となっている。
【0026】
これにより、測定子16aは、ワークWの左歯面WLに接触しつつ、その歯たけ(歯形)方向に移動することになり、その歯形測定が開始される。このとき、目標歯形形状と測定された実歯形形状との差が歯形誤差として得られることになり、歯形誤差がない場合には、インボリュート曲線または誤差零の直線が出力される一方、歯形誤差がある場合には、その凹凸に応じて変化した曲線または直線が出力されるようになっている。
【0027】
そして、測定子16aが、更に左歯面WL上において歯先側へ滑り、左歯面WL上における歯先円Waとの交点に到達すると、歯形測定が終了する。即ち、この交点が左歯面WLにおける測定終了位置C'となる。
【0028】
なお、ワークWの右歯面WR及び左歯面WLの歯形測定は、どちらから始めても構わない。また、全ての歯に亘り、一方の歯面を全て測定してから他方の歯面を全て測定したり、1つの歯ごとに、一方の歯面を測定してから他方の歯面を測定したりしてもよい。更に、図2に示すように、上述した歯形測定は、各歯面の歯幅方向において、複数の箇所で同様に行われることになる。
【0029】
また、本発明に係る歯車測定方法では、測定子16a(測定器16)のY軸方向への移動量を最小とするために、下記に示すように、接線L,L'の設定を行っている。この接線L,L'の設定方法については、以下の通り、図3及び図4を用いて説明する。
【0030】
先ず、ワークWの基礎円Wb上において、測定器16側で、且つ、Y軸と平行な接線Loが接する接点(基準点)Aoを設定する。次いで、接点Aoから一方に所定の回転角度αで回転した位置を接点Aと定め、この接点Aに接する接線をLとする一方、接点Aoから他方に所定の回転角度αで回転した位置を接点A'と定め、この接点A'に接する接線をL'とする。
【0031】
そして、接線Lと歯元円Wfとの交点を、右歯面WR上の測定開始位置Bとし、接線Lと歯先円Waとの交点を、右歯面WR上の測定終了位置Cとする。即ち、右歯面WRの測定時における測定子16aのX−Y平面内の移動量は、測定開始位置Bと測定終了位置Cとの間の距離となる。
【0032】
また、接線L'と歯元円Wfとの交点を、左歯面WL上の測定開始位置B'とし、接線L'と歯先円Waとの交点を、左歯面WL上の測定終了位置C'とする。即ち、左歯面WLの測定時における測定子16aのX−Y平面内の移動量は、測定開始位置B'と測定終了位置C'との間の距離となる。
【0033】
なお、接線L,L'は、接点Aoから両方向に回転角度αで回転した位置に設定された接点A,A'に接するため、交差することになり、この交点をMとする。
【0034】
ここで、測定子16aのY軸方向への移動量が最小となる条件としては、測定開始位置B(B')と交点Mとの間の距離と、交点Mと測定終了位置C(C')との間の距離とが、同じ距離になるときである。即ち、下記の式(1)に示す関係が成り立つときに、測定子16aのY軸方向への移動量が最小となる。
【数1】

【0035】
また、式(1)に示す関係が成り立つときには、接点A、測定開始位置B、測定終了位置Cの間には、下記の式(2)に示す関係が成り立つことが解る。
【数2】

【0036】
これにより、式(2)を、基礎円半径Rb、歯元円半径Rf、歯先円半径Ra、回転角度αを用いて表すと、下記の式(3)で示すことができる。これにより、式(3)から下記の式(4)を導くことにより、回転角度αを求めることができる。
【数3】

【0037】
そして、測定子16aのY軸方向への移動量は、測定終了位置Cと測定終了位置C'との間の距離となることから、下記の式(5)により、その最小となる移動量を求めることができる。
【数4】

【0038】
従って、本発明に係る歯車測定方法によれば、ワークWの基礎円Wb上の接点Aoから
両方向に回転角度αで回転した位置をそれぞれ接点A,A'とし、この接点A,A'に接する接線L,L'に沿ってワークWの回転に応じて測定子16aを移動させ、この接線L,L'の交点を測定開始位置B,B'と測定終了位置C,C'との間の中点とすることにより、測定子16aのY軸方向の移動量である測定終了位置C,C'間の距離を短くすることができるので、測定子16aのX−Y平面内での移動範囲を小さくすることができる。この結果、大形のワークWの歯形形状を測定する場合であっても、省スペースで測定を行うことができるので、機械の小型化を図ることができる。
【0039】
また、ワークWの回転に応じて測定子16aを接線L,L'に沿って移動させることにより、測定開始位置B,B'から測定終了位置C,C'にかけて、測定子16aとワークWの右歯面WR及び左歯面WLとの接触角度を常に一定にすることができる。これにより、測定誤差の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、被測定歯車の大きさに関わらず、高精度にその歯面形状を測定することができる歯車測定方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例に係る歯車測定方法を採用した歯車測定装置の概略図である。
【図2】測定子によるワークへの歯形測定の様子を示した図である。
【図3】測定時における測定子とワークの両歯面との接触の様子を示した図である。
【図4】本発明の一実施例に係る歯車測定方法の測定原理を示した図である。
【符号の説明】
【0042】
1 歯車測定装置
11 基台
12〜14 ガイドレール
15 移動体
16 測定器
16a 測定子
17 回転テーブル
18 下部センタ
19 コラム
20 センタヘッド
21 上部センタ
22 NC装置
W ワーク
WR 右歯面
WL 左歯面
Wb 基礎円
Wf 歯元円
Wa 歯先円
Rb 基礎円半径
Rf 歯元円半径
Ra 歯先円半径
Lo,L,L' 接線
Ao,A,A' 接点
B,B' 測定開始位置
C,C' 測定終了位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定子の移動と被測定歯車の回転とを同期制御して、被測定歯車の回転に応じて、前記測定子を被測定歯車の一方の歯面または他方の歯面に接触させた状態で直線移動させることにより、被測定歯車の歯形形状を測定する歯車測定方法において、
被加工歯車の基礎円上の基準点から一方に所定の回転角度で回転配置した一方側接点に接する一方側接線と、被加工歯車の基礎円上の基準点から他方に前記所定の回転角度で回転配置した他方側接点に接する他方側接線とを設定し、
前記一方の歯面の測定時に、前記測定子を前記一方側接線に沿って移動させる一方、
前記他方の歯面の測定時に、前記測定子を前記他方側接線に沿って移動させ、
前記一方側接線と前記他方側接線との交点を、前記一方側接線上及び前記他方側接線上における測定開始位置と測定終了位置との間に配置する
ことを特徴とする歯車測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−117196(P2010−117196A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289434(P2008−289434)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】