説明

歯車装置

【課題】可変速運転時に生じる回避困難な共振点における騒音の増大を抑止し、かつ、非共振時にも騒音を低減することができる歯車装置を提供することにある。
【解決手段】歯車装置は、小歯車2と、この小歯車とかみあう大歯車3と、小歯車および大歯車を格納する歯車箱19と、小歯車を軸支するとともに歯車箱に取り付けられるカートリッジ21とを有する。動吸振器は、ばね手段および減衰手段であるダンパ15と、付加質量14からなり、小歯車の歯車軸と直交する方向であって、かつ、カートリッジに加振力が作用する方向において、前記カートリッジ上に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に係り、特に、すぐばかさ歯車や、まがりばかさ歯車などからなるポンプ用かさ歯車装置の振動騒音を低減するに好適な歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的容量が大きい産業用のかさ歯車装置は、給排水設備などのポンプ装置を駆動するため用いられることが多いが、近隣に住宅地が存在する場合など、設備が発生する騒音には大きな制約が存在する。通常、歯車装置の放射音を低減するためには、歯車精度の向上や遮音カバーの設置などの方法が取られているが、これらは大きな製造コストの増加を招くため、標準的に用いることは困難である。
【0003】
一方、ガスタービン原動機や流体継手等を使用して可変速運転が可能なポンプ装置が普及しつつあるが、歯車装置の固有振動数と加振周波数とが一致して共振し、騒音が増加して問題となることがある。また、ポンプ装置の大型化などに伴い歯車装置の伝達動力も増加する傾向にあるため、歯車装置の騒音低減に対する要求は一層強くなってきている。
【0004】
以上のような問題に対し、例えば、特開2004−162754号公報に記載のように、歯車箱の表面に重錘部材を設けて固有振動数を下げ、歯車箱の共振を回避する構造が知られている。ここで、この重錘を交換することにより、歯車箱の固有振動数を調節して、種々の歯車箱や運転条件に対応することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−162754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特定周波数における歯車箱の共振を回避するだけでは、ガスタービン原動機や流体継手等を用いて歯車装置を可変速とした場合に、回避できなかった共振点付近で騒音が急増する可能性がある。また、歯車のかみあいにより発生し、歯車軸から軸受を経由して歯車箱表面に伝播する、いわゆる固体伝播振動を減衰する能力は低く、従来の非共振時の歯車装置騒音に対して、大幅な騒音低減はできないものである。
【0007】
本発明の目的は、可変速運転時に生じる回避困難な共振点における騒音の増大を抑止し、かつ、非共振時にも騒音を低減することができる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、小歯車と、この小歯車とかみあう大歯車と、前記小歯車および前記大歯車を格納する歯車箱と、前記小歯車を軸支するとともに前記歯車箱に取り付けられるカートリッジとを有するポンプ用かさ歯車装置であって、前記小歯車の歯車軸と直交する方向であって、かつ、前記カートリッジに加振力が作用する方向において、前記カートリッジ上に設けられ、ばね手段および減衰手段を介して設けられた付加質量からなる動吸振器を備えるようにしたものである。
かかる構成により、可変速運転時に生じる回避困難な共振点における騒音の増大を抑止し、かつ、非共振時にも騒音を低減し得るものとなる。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記付加質量は、前記小歯車軸に対して概略180度対向する位置に2個設けられ、両者が同位相で振動するよう互いに連結したものである。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記付加質量の重心から前記小歯車軸の中心線に下ろした垂線の足と、前記大歯車軸の中心線とがなす角が、20度ないし70度である。
【0011】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記付加質量は、前記小歯車軸の中心線に沿って複数個設けたものである。
【0012】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記付加質量は、前記カートリッジの外周部で、かつ前記小歯車軸と前記カートリッジを合わせた質量の重心付近に設けられた並進用付加質量と、前記重心から軸方向に離れた位置に設けられたピッチング用付加質量とからなるものである。
【0013】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記歯車箱と前記カートリッジの接合部に挿入された制振材料からなる制振手段を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可変速運転時に生じる回避困難な共振点における騒音の増大を抑止し、かつ、非共振時にも騒音を低減し得るものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態による歯車装置の構成について説明する。
最初に、図1及び図2を用いて、本実施形態による歯車装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による歯車装置の全体構成を示す側面断面図である。図2は、本発明の一実施形態による歯車装置の全体構成を示す正面図である。
【0016】
小歯車軸1と小歯車2とは一体に形成されており、小歯車軸受5,6により、カートリッジ21に対して回転自在に支持されている。小歯車2は大歯車軸4と同軸に設けられた大歯車3とかみあっている。大歯車軸4は、大歯車軸受7,8により径方向に回転自在に支持され、スラスト軸受9により軸方向に回転自在に支持されている。歯車箱19は、大歯車軸受6,7及びスラスト軸受9を保持するとともに、カートリッジ21と制振材料31を介して結合され、歯車のかみあいを維持している。制振材料31としては、例えば、制振合金を用いている。上蓋20は、歯車箱19に取り付けられるとともに、大歯車軸受7を支持している。上蓋20の上部には、大歯車軸4の端部を覆うスラスト軸受カバー24が設置されている。
【0017】
歯車対や軸受に供給された潤滑油は、歯車箱19の内部でポンプ装置10により回収、加圧され、ポンプ吐出配管11、ラジエター入口配管12を経てラジエター16へと流入する。ラジエター16は小歯車軸1と同軸に設けたファン22からの風が当たる位置に配置されており、内部を通過する潤滑油を冷却する。その後、潤滑油はラジエター吐出配管17、給油配管18を経て、再び歯車箱内へと供給される。ファン22の外周は、ファンカバー23により覆われている。
【0018】
カートリッジ21の外周部には、小歯車軸1と略直交する位置に、ダンパ15及び付加質量フレーム13を介して、付加質量14a,14bが設けられている。付加質量14a,14bは互いに概略180度対向する位置にあり、かつ連結されているため、カートリッジが振動すると同位相で振動することになる。ダンパ15は、例えば防振ゴムなどの制振機能を持った材料で構成されており、ゴムの硬度を調整することにより、ばね定数のコントロールが可能である。このようにダンパ15、付加質量フレーム13、付加質量14a,14bを配置することで、これらはカートリッジ21に対して動吸振器を構成することになる。ダンパ15は、ばね手段及び減衰手段として機能する。動吸振器の取付方向は、小歯車軸1に直交する位置が望ましい。なお、小歯車軸1に直交する位置から±10度程度ずれたとしても、振動騒音を低減する効果はさほど損なわれるものではない。
【0019】
モータなどの原動機により小歯車軸1が回転すると、同軸上の小歯車2、これとかみあう大歯車3、およびこれと同軸の大歯車軸4が回転し、動力を出力側へと伝達する。このとき、歯車対の加工や組付による誤差、およびかみあいにともなう歯のばね定数変動等により、小歯車軸1および大歯車軸4にはかみあい周期のトルク変動が発生する。このトルク変動は歯車のかみあい部で並進力に変換され、歯車軸から軸受、カートリッジ21、歯車箱19へと伝播し、歯車騒音となる。
【0020】
また、可変速の原動機や流体継手等を使用して歯車の回転速度を変化させると、歯車のかみあい周波数は変化するが、この周波数と歯車装置の固有振動数とが一致すると、共振して騒音が増大する。
【0021】
ここで、図3を用いて、本実施形態による歯車装置におけるカートリッジ21に対する加振力の作用する方向について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による歯車装置におけるカートリッジに対する加振力の作用する方向の説明図である。なお、図1及び図2と同一符号は、同一部分を示している。
【0022】
図3に示すように、小歯車軸1および大歯車軸4に発生するかみあい周期のトルク変動は、カートリッジ21には、加振力Fが作用し、その結果カートリッジは特定方向に振動する。この振動の方向は、小歯車軸1の軸端側から見て、大歯車軸4の中心線に対して角度θをなしている。角度θは、概略20度〜70度であることが多い。
【0023】
本実施形態では、運転速度範囲に存在する回避困難な固有振動数に対しては、ダンパ15のばね定数、および付加質量14の質量を調整することで、動吸振器が作用する周波数を当該固有振動数と概略一致させることで、騒音を低減している。
【0024】
また、動吸振器が作用する方向は、小歯車軸1の軸端側から見て、加振力Fの作用する方向とすることで、トルク変動に基づく騒音も低減することができる。動吸振器が作用する方向,すなわち、動吸振器の取付角度は、大歯車軸4の中心線に対して凡そ角度θとしている。なお、加振力Fの作用する方向と動吸振器が作用する方向は一致することが好ましいが、例えば、±10度程度ずれたとしても騒音低減効果をさほど損なうものでない。
【0025】
本実施形態では、以上のような構成とすることで、歯車装置の運転速度範囲に回避困難な固有振動数が存在しても、動吸振器により振動振幅が低減され、騒音を低減することができる。また、非共振時においても、カートリッジ21に伝播した振動は、カートリッジ21と歯車箱19の間に挿入された制振材料31により減衰されるため、従来機種に対して騒音を低減することができる。
【0026】
次に、図4を用いて、本発明の他の実施形態による歯車装置の構成について説明する。なお、本実施形態による歯車装置に全体構成は、図1に示したものと同様である。
図4は、本発明の他の実施形態による歯車装置の要部構成を示す側面断面図である。なお、図1及び図2と同一符号は、同一部分を示している。
【0027】
本実施形態では、カートリッジ21の外周部、かつ小歯車軸1とカートリッジ21を合わせた質量の重心付近に、カートリッジ21の並進振動を低減するため、並進用付加質量27を並進用ダンパ28を介して取り付けている。さらに、重心から軸方向に離れた位置に、ピッチング振動(重心付近が節、軸端付近が腹となる振動)を低減するために、ピッチング用付加質量29をピッチング用ダンパ30を介して取り付けてある。これ以外の構成は、図1及び図2に示したものと同様である。
【0028】
歯車装置の軸系の固有振動数は、回転体の質量や慣性モーメント、軸の曲げねじり剛性や軸支持剛性などにより変化し、運転速度範囲に現れる振動モードも多様である。動吸振器は、共振による個々の振動モードを抑止する効果があるため、複数の振動モードが表れる場合は、並進振動用の並進用付加質量27と並進用ダンパ28からなる動吸振器と、ピッチング用のピッチング用付加質量29とピッチング用ダンパ30からなる動吸振器を備えることで、並進振動及びピッチングに対する振動を低減して、騒音を低減することができる。
【0029】
本実施形態では、以上のような構成とすることで、ガスタービン原動機や流体継手等を用いた可変速の歯車装置において、運転速度範囲に複数個の振動モードが表れる場合でも、夫々の振動モードに対応した動吸振器を設けて共振による振動騒音の増大を抑止することが可能となる。
【0030】
なお、上述の各実施形態は、ラジエターを有する空冷歯車装置であったが、ラジエターを持たない水冷歯車装置であっても、同様の構造とすることができる。また、付加質量をカートリッジに取り付けるのにフレームを省略することもできるし、付加質量の個数と軸方向位置を任意に決められるのは言うまでもない。
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、回避困難な共振点近傍では動吸振器が機能し、カートリッジ振動が低減されることにより歯車箱振動も併せて低減され、騒音を軽減することができる。また非共振時にも、小歯車軸からカートリッジへと伝播した振動は、歯車箱とカートリッジの間の制振材料で減衰され、歯車箱振動が減少して、騒音は低減される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態による歯車装置の全体構成を示す側面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による歯車装置の全体構成を示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態による歯車装置におけるカートリッジに対する加振力の作用する方向の説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態による歯車装置の要部構成を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…小歯車軸
2…小歯車
3…大歯車
4…大歯車軸
5,6…小歯車軸受
7,8…大歯車軸受
9…スラスト軸受
10…ポンプ装置
11…ポンプ吐出配管
12…ラジエター入口配管
13…付加質量フレーム
14…付加質量
15…ダンパ
16…ラジエター
17…ラジエター吐出配管
18…給油配管
19…歯車箱
20…上蓋
21…カートリッジ
22…ファン
23…ファンカバー
24…スラスト軸受カバー
27…並進用付加質量
28…並進用ダンパ
29…ピッチング用付加質量
30…ピッチング用ダンパ
31…制振材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小歯車と、この小歯車とかみあう大歯車と、前記小歯車および前記大歯車を格納する歯車箱と、前記小歯車を軸支するとともに前記歯車箱に取り付けられるカートリッジとを有するポンプ用かさ歯車装置であって、
前記小歯車の歯車軸と直交する方向であって、かつ、前記カートリッジに加振力が作用する方向において、前記カートリッジ上に設けられ、
ばね手段および減衰手段を介して設けられた付加質量からなる動吸振器を備えることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
請求項1記載の歯車装置において、
前記付加質量は、前記小歯車軸に対して概略180度対向する位置に2個設けられ、両者が同位相で振動するよう互いに連結したことを特徴とする歯車装置。
【請求項3】
請求項1記載の歯車装置において、
前記付加質量の重心から前記小歯車軸の中心線に下ろした垂線の足と、前記大歯車軸の中心線とがなす角が、20度ないし70度であることを特徴とする歯車装置。
【請求項4】
請求項1記載の歯車装置において、
前記付加質量は、前記小歯車軸の中心線に沿って複数個設けたことを特徴とする歯車装置。
【請求項5】
請求項4記載の歯車装置において、
前記付加質量は、前記カートリッジの外周部で、かつ前記小歯車軸と前記カートリッジを合わせた質量の重心付近に設けられた並進用付加質量と、
前記重心から軸方向に離れた位置に設けられたピッチング用付加質量とからなることを特徴とする歯車装置。
【請求項6】
請求項1記載の歯車装置において、さらに、
前記歯車箱と前記カートリッジの接合部に挿入された制振材料からなる制振手段を備えることを特徴とする歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−155035(P2007−155035A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352497(P2005−352497)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】