歯車設計支援方法、歯車設計支援プログラムを記録した記録媒体及び歯車設計支援装置
【課題】歯車機構系に関して問題がないかを確認し、歯車駆動系を試作し評価するといった作業を無くして、高精度にかつ容易に歯車設計支援をおこなうことのできる歯車設計支援方法を提供する。
【解決手段】基本入力工程により歯車諸元、駆動条件を入力し(S1)、歯車軸受情報入力工程により歯受隙間、剛性、粘性等を入力し(S2)、解析条件を設定して(S3)、たわみ量の算出工程により4成分の数式化を行って(S4)、運動方程式算出工程により運動方程式を算出し(S5)、時系列計算工程により微分方程式の解析を行い(S6,7)、その解析結果を出力する(S8)。
【解決手段】基本入力工程により歯車諸元、駆動条件を入力し(S1)、歯車軸受情報入力工程により歯受隙間、剛性、粘性等を入力し(S2)、解析条件を設定して(S3)、たわみ量の算出工程により4成分の数式化を行って(S4)、運動方程式算出工程により運動方程式を算出し(S5)、時系列計算工程により微分方程式の解析を行い(S6,7)、その解析結果を出力する(S8)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車設計支援方法、歯車設計支援プログラムを記録した記録媒体及び歯車設計支援装置に関し、詳しくは、歯車の基本諸元と駆動情報と誤差情報(歯車形状誤差)、歯車を回転支持する回転軸受けや歯車支持構造体などの情報を与えることで、実稼動に近い状態での歯車機構系の伝達特性を推定して、事前に歯車機構系に関する問題がないか否かを確認できる歯車設計支援方法、歯車設計支援プログラムを記録した記録媒体及び歯車設計支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機、プリンタ等の精密機械製品の歯車機構系における歯車の設計にあたっては、コンピュータを適用した歯車設計支援装置が用いられている。
従来では、かかる歯車設計支援装置おいては、歯車機構系を歯車部と、これを支持するケース部とに分割し、歯車を駆動させたときの、軸受け荷重を求め、この荷重をケース軸受け部に与えて、ケースの静的な変形解析を行うものが提案されている(特許文献1)。また、ギヤの取付偏心によって変化する作用線(面)を逐次算出し、この線上(面上)での力の釣り合い方程式を解くことで、噛合い周期の回転ムラと偏心による回転ムラを同時に算出するものが提案されている(特許文献2)。また、歯車形状誤差、組付け誤差、歯車支持構造体の軸受けの変位による軸間変動の影響を解析によって予測し、動的挙動を考慮し歯車機構系に問題がないか否かを確認し、高精度にかつ容易に歯車設計支援をおこなう歯車設計支援方法が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし特許文献1に開示されている従来技術では、FEMを用いた静的な強度解析で、慣性項や回転速度の影響(動的挙動)を解析できない。また、画像の濃度ムラであるバンディングは、歯車噛み合い周期の振動で発生する例が多く、本従来技術では動的挙動を解析で予測することはできない。
また、特許文献2に開示されている従来技術では、偏心回転を考慮した回転系の解析モデルであり、その際の歯面のたわみ量(歯面変形量)を回転運動と並進運動の和より算出している。このため偏心以外の動きには対応しきれない問題があった。例えば、外部からの加振や歯面の噛み合い力で軸間距離が変化する場合、それによって歯面の当たり方が変化し、回転ムラを引き起こす現象などには不向きである。
また、特許文献3に開示されている従来技術では、並進運動の影響を考慮できるように軸間変動量の値に応じた歯面位置変化量を求め、解析できるようにしたものであり、振動量が微小の領域ではこの手法で問題ないが、並進運動の変位が大きくなった場合や、軸受隙間が大きく荷重との関係で時系列的に並進運動する場合などで、解析精度の低下が見られるといった問題がある。
【0004】
即ち、製品の小型、軽量化が進んでくると軸受けも安価な樹脂のスベリ軸受けの適用(軸受隙間の増加、摩耗による隙間増加)、軸受け支持構造体も板厚の薄い板金への転換(軸受剛性の低下)の事例が多くなってきている。そのような場合、従来では問題とならなかった軸間の変動が回転ムラに影響を及ぼし、それを設計段階で予測できる設計支援ツールが強く望まれている。しかし、上記各従来技術では、このような現象に関して十分に対応できないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、歯車の回転伝達特性に影響を与える設計パラメータである歯車諸元や歯車の回転支持構成、駆動条件などの設計パラメータの影響を事前にかつ短時間の解析によって予測する際、解析は動的挙動(慣性項や回転速度の影響:共振現象、摩擦力、並進運動の影響など)を考慮して行い、これによって歯車機構系に関して問題がないか否かを確認し、歯車駆動系を試作し評価するといった作業を無くして、高精度に、且つ容易に歯車設計支援をおこなうことのできる歯車設計支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、基本入力手段、歯車軸受情報入力手段、たわみ量算出手段、運動方程式導出手段、計算手段、及び出力手段を備えた歯車設計支援装置の歯車設計支援方法において、前記基本入力手段が、前記歯車の基本諸元である諸元情報及び目標速度や負荷トルクの駆動条件情報を与えるステップと、前記歯車軸受情報入力手段が、前記歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受け剛性、軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与えるステップと、前記たわみ量算出手段が、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるステップと、前記運動方程式導出手段が、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成するステップと、前記計算手段が、時系列的に前記運動方程式を解くステップと、前記出力手段が、前記計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2は、運動方程式導出手段における前記摩擦力の算出において、前記摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度に基づいて算出することを特徴とする。
請求項3は、前記歯車が、はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報に基づいてたわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする。
請求項4は、前記歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、及び累積ピッチ誤差に係る形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする。
請求項5は、前記歯車伝達機構系は、画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力手段で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値に換算して出力することを特徴とする。
【0007】
請求項6は、前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が、(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯底円半径)以下または、(駆動歯車歯底円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることを特徴とする。
請求項7は、前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることを特徴とする。
請求項8は、前記歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域になっているときに有効とし、起動時では補正しないことを特徴とする。
請求項9は、請求項1乃至8の何れか一項記載の歯車設計支援方法をコンピュータが制御可能にプログラミングした歯車設計支援プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする。
【0008】
請求項10は、駆動軸と被駆動軸間に設置された歯車伝達機構系をモデル化して、前記駆動軸の動作に対する前記被駆動軸の動的挙動を解析及び算出する歯車設計支援装置において、前記歯車の基本諸元である諸元情報、及び目標速度並びに負荷トルクの駆動条件情報を与える基本入力手段と、歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間、軸受け剛性、及び軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与える歯車軸受情報入力手段と、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線作用線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるたわみ量算出手段と、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成する運動方程式導出手段と、時系列的に前記運動方程式を解く計算手段と、該計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力する出力手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転ムラを発生させる要因のひとつである歯車並進運動を解析プログラムに組み込み、この並進運動によるたわみ量の変化分を厳密に計算し、かみ合いながらの回転運動と並進運動する歯車の動的挙動を解析できるようになる。その結果、歯車の回転伝達特性に影響を与えるパラメータの歯車諸元や歯車の駆動条件に加え、歯車を回転支持する歯車支持構造体や軸受けによる軸間変動の影響を事前にかつ短時間の解析によって予測することができる。その際、解析は動的挙動(慣性項や回転速度の影響:共振現象、摩擦など)を考慮して行い、これによって歯車機構系に関して問題がないか確認し、歯車駆動系を試作し評価するといった作業を無くして、高精度にかつ容易に歯車設計支援をおこなう歯車設計支援装置の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の解析プログラムの計算フローチャートである。
【図2】歯車の基礎円と作用線について説明する図である。
【図3】たわみ量を説明する図である。
【図4】歯車運動方程式について説明する図である。
【図5】かみ合い歯対ごとのかみ合い力を説明する図である。
【図6】かみ合い力を示す図である。
【図7】回転角度誤差の解析事例を示す図である。
【図8】従来技術との比較を示す解析モデルの図である。
【図9】感光体ドラム駆動系の図である。
【図10】時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図11】軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図12】軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図13】起動時での計算の簡略化をしたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図14】設計支援装置のブロック図である。
【図15】設計支援装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の解析プログラムの計算フローチャートを示す図である。
基本入力工程により歯車諸元、駆動条件を入力し(S1)、歯車軸受情報入力工程により歯受隙間、剛性、粘性等を入力し(S2)、解析条件を設定して(S3)、たわみ量の算出工程により4成分の数式化を行って(S4)、運動方程式算出工程により運動方程式を算出し(S5)、時系列計算工程により微分方程式の解析を行い(S6、7)、その解析結果を出力する(S8)。
更に詳細に説明すると、解析の手順としては、まず、対象となる歯車の基本諸元情報とその駆動条件情報を入力する。基本諸元情報としては、歯車の歯数、モジュール、圧力角、ねじれ角、歯幅、材質、慣性モーメント、軸間距離などである。また、駆動条件情報としては、例えば駆動歯車と従動歯車の初期角度(どの歯とどの歯から噛合い始めるのか)と駆動軸に与える目標速度や駆動トルク、被駆動軸に加わる負荷トルクである。
【0012】
次に歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受剛性、軸受粘性、支持構造体などによる並進運動に関する情報を歯車軸受情報入力工程処理で与える。例えば、軸受けに隙間がある場合、この隙間の範囲内で歯車が並進運動するので、その隙間量を設定する。あるいは、軸受剛性が小さい場合、歯車に加わる荷重に応じて並進運動することになる。その軸受剛性値や粘性値を設定する。
これらのデータを与えた後、解析条件として、歯車駆動系の解析対象動作時間と解析ステップ(解析時間間隔)等の設定をする。歯車駆動系は、駆動側の歯と被駆動側の歯を噛合わせて動力を伝達しており、この歯の噛合いは、それぞれの回転角度に応じて、常に変化している。動力伝達に関わる歯同士の接触力は接触剛性(歯対剛性)値Ktとそのたわみ量ψの積として求められる。
【0013】
そこで、本発明ではそのたわみ量ψを、1)歯車回転角(θ1、θ2)と基礎円半径(rb1、rb2)の積の差分[ψa=rb1・θ1−rb2・θ2]、2)接点距離の変化分ΔLg[ψb=Lg’−Lg]、3)駆動側接点角度の変化分Δφと駆動側基礎円半径rb1の積[ψc=Δφ・rb1]、4)被駆動側接点角度の変化分Δφと被駆動側基礎円半径rb2の積[ψd=Δφ・rb2]、の4つの成分の総和から求めることとする。
これまでの一般的な歯車の解析では、回転運動の伝達ということで1)の成分だけが大半であった。また、先行技術の特許文献2と3では、さらに2)の成分も加えて解析を実施していた。
【0014】
図2は歯車の基礎円と作用線について説明する図である。歯車の歯面形状はインボリュート歯形が大半を占め、この歯面同士のかみ合いは、図2に示すように各歯車の基礎円1上に接線を設けたたすきがけベルト2の運動とみなすことができる。回転方向によってベルト2のかけ方が変わる。ベルト機構は引っ張り合いで動力を伝えるのに対して、歯車は押し合いで動力を伝える。その動力(伝達力)の大きさは、ベルトの場合は双方のプーリの巻き取り/巻き出しの差分に応じて変化する。この差分量がベルトの伸びとなり、これにベルト剛性をかけることでベルト張力なる。また、プーリが並進運動した場合を考えると、プーリの並進運動に伴って接点間距離が変化し、これによってもベルトが伸縮する。また、プーリとベルトの接触点の位置も変化し、これによってもベルトが伸縮する。
【0015】
図3はたわみ量を説明する図である。これらの成分を歯車に置き換えることで、それぞれの成分を数式化することができる(図3参照)。
たわみ量ψの数式化
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd
(1)ψa=rb1・θ1−rb2・θ2
(2)ψb=ΔLg=Lg’−Lg
(3)ψc=Δφ・rb1=(φ’−φ)・rb1
(4)ψd=Δφ・rb2=(φ’−φ)・rb2
ただし、Lg’は初期の接点距離 Lg’=SQRT{(x2’−x1’)^2+(y2’−y1’)^2−(rb1+rb2)^2}
初期の駆動歯車基礎円座標(x1’、y1’)、初期の被駆動歯車基礎円座標(x2’、y2’)、φ’は初期の接点角度(x軸から接点位置までの角度)
φ’=αwt’−θj’
αwt’:初期の圧力角、θj’:初期の軸間角度
【0016】
先行技術の特許文献2と3では、3)、4)に相当する成分が不足している。これは、歯車が並進運動しても、そのかみ合っている接触点が変化しないと仮定したなら従来技術で対応可能だが、実際は歯車が並進運動することとで、歯面上の接触する点が変化する。これは、ベルト駆動系に例えるとプーリー上にベルトが余分に巻きついたり、解けたりする形となって、張力変化となる。歯車駆動系にも同様の働きが考えられるので、このメカニズムを数式に反映したのが、本発明である。さらに、本発明では、かみ合い力と直交する方向に摩擦力を定義して解析する。インボリュート歯面では、かみ合いピッチ円上ではころがり接触となるが、それの前後では歯面同士はすべり接触となっている。ここでのすべり接触に伴う摩擦力を数式化する。具体的には、かみ合い始めからピッチ点までは、駆動側歯車3よりも被駆動歯車4の歯面速度が速い。この速度差によって摩擦力が双方に加わる。摩擦力の大きさは、歯面材質の組み合わせによる摩擦係数と垂直抗力である歯面かみ合い力の積から得られる。かみ合いが進行し、ピッチ点では速度差がゼロとなり、摩擦力もゼロになり、その後、速度差が逆転(駆動歯車3が被駆動歯車4よりも歯面が速くなる)することで、摩擦力の向きが反転する。
【0017】
これらを下記に示した数式で定義し、運動方程式に加えることで、摩擦力を考慮した歯車解析が可能となる。
摩擦力Fmの数式化
Fm=μ・Ft・sign(Vf1−Vf2)
ただし、μ:摩擦係数
Ft:かみ合い力
sign:符号関数でカッコ内がゼロ以上なら1、ゼロなら0、ゼロ以下なら−1
Vf1:駆動歯車の歯面接触速度 =Lm1・ω1
Vf2:被駆動歯車の歯面接触速度=Lm2・ω2
Lm1:駆動側基礎円接点からかみ合い点までの距離
Lm2:被駆動動側基礎円接点からかみ合い点までの距離
ω1:駆動側歯車速度
ω2;被駆動側歯車速度
【0018】
図4は歯車運動方程式について説明する図である。各歯車ごとに式をたてて、それを連立させて解析する。そしてこの力の釣り合いを微小時間毎(解析ステップ毎)に求め、計算を進めていく。数値解法としては、微分方程式を解く一般的なオイラー法やルンゲクッタ法、ニューマークβ法などで対応できるのでここでは省略する。
ある任意の歯車に関して、上図の記号を用いて軸回転方向(θ)と並進方向(x、y)で運動方程式をたてる。
Jθ+cθ=T−Ftrb+FmLm+Fjxε(sinθε)−Fjyε(cosθε)
mx=−Ft(sinαw)−Fm(cosαw)+Fjx
my=−Ft(cosαw)+Fm(sinαw)+Fjy
Ft=Kt(η、i)・ψ(η、i)
ただし、m、Jは歯車の質量と慣性モーメント、θは回転角、cは粘性係数、Tは駆動トルクや負荷トルク、Ft、Fmはかみ合い力と摩擦力、rbは基礎円半径、Lmは接点からかみ合い点までの距離、Ogは基礎円中心(歯車重心)、Ojは回転軸(軸受)、θεは偏心角、εは偏心量、Fjx、Fjyは軸受け反力、αwはかみ合い圧力角、Ktは接触剛性(歯対剛性)、ηは歯面同志の接触位置、nは噛合っている歯数、iはその何番目かを示す、ψは作用線方向の歯面たわみ量である。
【0019】
次に、定常状態で所定の時間を解析すると、図5はかみ合い歯対ごとのかみ合い力を説明する図である。図5のようにかみ合っている歯ごとのかみ合い力が得られる。図6はかみ合い力を示す図である。これらの総和(図6)と摩擦力の総和が歯車を駆動する力(トルク)となる。そして、この噛合い周期の変動成分が、回転ムラを生じさせる起振力(トルクムラ)である。
【0020】
図7は回転角度誤差の解析事例を示す図である。その後、解析時間が終了した場合、ここまで時系列にステップ時間毎に蓄積してきた解析結果(回転特性:駆動軸と被駆動軸の時間に対する角度伝達誤差、角速度伝達誤差)をグラフや表として表示ディスプレイやプリンタに出力したり、データとして記録媒体に保存する(図7参照)。
【0021】
先行技術の特許文献2と3の解析結果と本発明に基づく解析結果の比較を図8(a)から図8(d)に示す。軸受剛性によって歯車自体が並進運動しながら回転運動を行い、トルク伝達や運動伝達を行っている解析事例である。先行技術の特許文献2と3では、歯面同士の食込みが大きく(図8(b))現れており、この分、回転速度が振動的(図8(d))になっている。この食込み量(たわみ量に相当)も大きくなったり小さくなったりと不自然に変動している解析結果であった(説明図は省略)。一方、本発明による解析結果では、歯面同士の接触は、滑らかなもの(図8(c))となっており、並進運動と回転運動が連携して回転している(図8(d))ことが確認できた。
【0022】
摩擦力の算出に関して、摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度を考慮して算出することとする。
並進運動を考慮した摩擦力Fmの数式化
Fm=μ・Ft・sign(Vf1−Vf2−Vr)
μ:摩擦係数
Ft:かみ合い力
Vf1:接触速度=Lm1・ω1
Vf2:接触速度=Lm2・ω2
Vr:駆動歯車と被駆動歯車の歯面すべり方向での相対速度差
Vr=(Vx1・cosθs+Vy1・sinθs)−(Vx2・cosθs+Vy2・sinθs)
Vx1、Vy1;x方向とy方向の駆動側歯車並進速度
Vx2、Vy2;x方向とy方向の被駆動側歯車並進速度
θs;x軸と歯面すべり方向の角度(基礎円接線と直交する方向)
【0023】
摩擦力は、すべり接触する歯面に働き、その作用する方向は、すべり運動と反対側の方向(すべり運動を弱める方向)に働く。歯車が並進運動をしていない場合(回転運動のみ)は、そのすべり運動の速度は、歯面の接触点と回転速度という幾何学的な情報から得られるが、これに歯車並進運動が加わると、その歯車接触点の速度は、並進運動も考慮して求める必要がある。具体的には、摩擦方向を決定する数式に並進速度成分を加え、ここでの速度差に応じて正負の符号を切り替えることとなる。
はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報から、たわみ補正量を算出し、この値をたわみ量算出工程処理に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることする。
たわみ量ψの数式化(補正項含む)
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd+ψe
(5)ψe=Lz・tanβb
ただし、
Lz:駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量
βb:基礎円筒ねじれ角
【0024】
はすば歯車はねじれ角によって軸方向に対して歯面が傾斜している。そのため、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対位置が変化すれば、回転方向に影響を及ぼす。この軸方向の相対変位の影響を考慮したのが本発明である。具体的には、(5)のように軸方向の相対変位Lzによって、歯面のたわみ量が変化するのでこのたわみ補正量を数式化してたわみ補正量ψeとして、たわみ量の式に加えることで対応できる。
歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、累積ピッチ誤差の形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、この値をたわみ量算出工程処理に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることとする。
たわみ量ψの数式化(補正項含む)
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd+ψe+ψf
(6)ψf=δa+δb+δc
ただし、
δa:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点での歯形誤差
βb:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点でのはすじ誤差
βc:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点での累積ピッチ誤差
たわみ量と比べ歯面の形状誤差が大きくなった場合、解析結果に与える影響度が増大する。そこで、本実施例では、歯面の形状誤差(歯車形状誤差:歯形誤差や歯筋誤差、累積ピッチ誤差)の情報から、かみ合っている歯面位置における誤差を求め、この値をたわみ補正量ψfとして、たわみ量の式(6)に加えることで対応できる。
【0025】
図9は感光体ドラム駆動系の図である。画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力工程処理で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値(位置ずれ、速度ムラ)に換算して出力することとする(図9)。本発明では回転体ドラム(例えば感光体ドラムや印刷用のドラム、画像形成用のドラム等)駆動用の歯車伝達機構系に関して実施する方法で、その際の出力工程で、歯車1回転周期の回転体ドラム表面上の位置ずれと歯車噛合い周期での回転体ドラム表面上の速度ムラを出力する。回転体表面上の位置ずれや速度ムラは角度伝達誤差や角速度伝達誤差に回転体半径を乗ずることで求めることができる。
計算工程処理で駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離Ljも合わせて逐次計算し、その値が、(駆動歯車歯先円半径:ra1)+(被駆動歯車歯底円半径:rf2)以下または、(駆動歯車歯底円半径:rf1)+(被駆動歯車歯先円半径:ra2)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることとする。歯車軸受剛性が小さく負荷が大きい場合や軸受隙間が大きい場合には歯車並進運動が大きくなる。特に、歯車の歯先と歯元が接触して並進運動を規制する場合がある。その現象を表現するために上記のように基礎円中心座標間距離Ljをモニタリングし、所定の値以下になった際に、並進運動に規制を加える。具体的には中心座標間距離を縮める方向に頑強なバネを設定し、所定の値以下の場合に作動するように定義する。
【0026】
図10は時系列計算工程を示すフローチャートであり、図11は軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
本実施例は、計算工程処理で、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離Ljも合わせて逐次計算し、その値が(駆動歯車歯先円半径:ra1)+(被駆動歯車歯先円半径:ra2)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることとする。歯車軸受剛性が小さく負荷が大きい場合や軸受隙間が大きい場合などで歯車並進運動が大きくなる。特に、歯車の歯先同士が外れた場合、かみ合うことが不可能となり、かみ合い力がゼロとなる。その現象を表現するために上記のように基礎円中心座標間距離Ljをモニタリングし、所定の値以上になった際に、かみ合い力を強制的にゼロにする。
【0027】
図12は軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。本実施例は、歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域(定常速度領域)になっているときに有効とし、起動時では補正しないこととする(図13)。起動時のように一定速度ではない領域では、起動加速度による慣性力の影響や駆動モータの特性などで、複雑な応答を示す。ここで歯車形状誤差を加えて計算すると、計算に時間がかかる。また、この領域(過渡状態)で画像生成などの作業は行わないので詳細に解析する必要もない。そこで、解析初期時の起動時は、軸間変動をゼロとして計算し、定常状態になったときに緩やかに切り替えるようにすることで、計算時間の短縮が図られる。図13は起動時での計算の簡略化をしたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【0028】
図14は設計支援装置のブロック図である。上記実施例は、歯車設計支援方法に関して説明したが、図14のようにCPU(Central Processing Unit)21の基本制御を行うOS(Operating System)29及び歯車の動的な回転特性を算出して設計支援するプログラム30を磁気ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)28等の外部記憶装置に格納しておき、HDDインターフェース27を介して外部記憶装置からOS29と解析プログラム30を読み込むようにする。そして、入出力用のキーボード24やマウス25を用いて歯車基本諸元情報、駆動条件情報、軸間変動に関する情報、形状誤差情報を入力する。もしくは、FDD(Floppy(登録商標) Disk Drive)を介してフロッピー(登録商標)ディスク(FD:Floppy(登録商標) Disk)に記憶させたデータを読み込ませても良い。FD(Floppy(登録商標) Disk)だけでなく、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)やCD−R/RW(Compact Disc Recordable/ReWritable)、USBメモリ(Universal Serial Busを用いてコンピュータに接続してデータの読み書きを行う補助記憶装置)等の可搬性の記録媒体でもかまわない。このように可搬性の記録媒体(外部記憶装置)に設計支援プログラムを格納しておくことにより、持ち運びが可能となり、様々な場所でシミュレーションが容易にできる。
【0029】
図15に本発明の歯車設計支援装置の構成をブロック図で示す。歯車設計支援装置20は総合的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)21、表示ディスプレイのCRT(Cathode Ray Tube)や液晶画面LCD(Liquid Crystal Display)23と、この表示ディスプレイを利用する入力用のキーボード24とマウス25、直接データを入出力するFDD(Floppy(登録商標) Disk Drive)とFD(Floppy(登録商標) Disk)31、解析結果を出力するプリンタ32に接続されている。CPU21の基本制御を行うOS(Operating System)29と本発明の解析プログラム30が蓄積された磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)28と、解析結果を一時的に記憶させるRAM(Random Access Memory)22とから構成されている。このような構成で本実施例で説明した歯車設計支援プログラム30を実行させることで、歯車の動的な解析結果から得られ、設計時に有効な情報をCRT23やプリントアウトした紙から供給することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 歯車基礎円、2 歯車作用線、3 駆動歯車、4 従動歯車、5 感光体ドラム、6 モータ、7 ドラム用ギヤ、8 駆動ギヤ、9 軸受け、20 設計支援装置、21 CPU、22 RAM、23 CRT、24 キーボード、25 マウス、26 バス、27 HDD I/F、28 HDD、29 OS、30 設計支援プログラム
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2004−258697公報
【特許文献2】特開2003−240064公報
【特許文献3】特開2010−096242公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車設計支援方法、歯車設計支援プログラムを記録した記録媒体及び歯車設計支援装置に関し、詳しくは、歯車の基本諸元と駆動情報と誤差情報(歯車形状誤差)、歯車を回転支持する回転軸受けや歯車支持構造体などの情報を与えることで、実稼動に近い状態での歯車機構系の伝達特性を推定して、事前に歯車機構系に関する問題がないか否かを確認できる歯車設計支援方法、歯車設計支援プログラムを記録した記録媒体及び歯車設計支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機、プリンタ等の精密機械製品の歯車機構系における歯車の設計にあたっては、コンピュータを適用した歯車設計支援装置が用いられている。
従来では、かかる歯車設計支援装置おいては、歯車機構系を歯車部と、これを支持するケース部とに分割し、歯車を駆動させたときの、軸受け荷重を求め、この荷重をケース軸受け部に与えて、ケースの静的な変形解析を行うものが提案されている(特許文献1)。また、ギヤの取付偏心によって変化する作用線(面)を逐次算出し、この線上(面上)での力の釣り合い方程式を解くことで、噛合い周期の回転ムラと偏心による回転ムラを同時に算出するものが提案されている(特許文献2)。また、歯車形状誤差、組付け誤差、歯車支持構造体の軸受けの変位による軸間変動の影響を解析によって予測し、動的挙動を考慮し歯車機構系に問題がないか否かを確認し、高精度にかつ容易に歯車設計支援をおこなう歯車設計支援方法が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし特許文献1に開示されている従来技術では、FEMを用いた静的な強度解析で、慣性項や回転速度の影響(動的挙動)を解析できない。また、画像の濃度ムラであるバンディングは、歯車噛み合い周期の振動で発生する例が多く、本従来技術では動的挙動を解析で予測することはできない。
また、特許文献2に開示されている従来技術では、偏心回転を考慮した回転系の解析モデルであり、その際の歯面のたわみ量(歯面変形量)を回転運動と並進運動の和より算出している。このため偏心以外の動きには対応しきれない問題があった。例えば、外部からの加振や歯面の噛み合い力で軸間距離が変化する場合、それによって歯面の当たり方が変化し、回転ムラを引き起こす現象などには不向きである。
また、特許文献3に開示されている従来技術では、並進運動の影響を考慮できるように軸間変動量の値に応じた歯面位置変化量を求め、解析できるようにしたものであり、振動量が微小の領域ではこの手法で問題ないが、並進運動の変位が大きくなった場合や、軸受隙間が大きく荷重との関係で時系列的に並進運動する場合などで、解析精度の低下が見られるといった問題がある。
【0004】
即ち、製品の小型、軽量化が進んでくると軸受けも安価な樹脂のスベリ軸受けの適用(軸受隙間の増加、摩耗による隙間増加)、軸受け支持構造体も板厚の薄い板金への転換(軸受剛性の低下)の事例が多くなってきている。そのような場合、従来では問題とならなかった軸間の変動が回転ムラに影響を及ぼし、それを設計段階で予測できる設計支援ツールが強く望まれている。しかし、上記各従来技術では、このような現象に関して十分に対応できないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、歯車の回転伝達特性に影響を与える設計パラメータである歯車諸元や歯車の回転支持構成、駆動条件などの設計パラメータの影響を事前にかつ短時間の解析によって予測する際、解析は動的挙動(慣性項や回転速度の影響:共振現象、摩擦力、並進運動の影響など)を考慮して行い、これによって歯車機構系に関して問題がないか否かを確認し、歯車駆動系を試作し評価するといった作業を無くして、高精度に、且つ容易に歯車設計支援をおこなうことのできる歯車設計支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、基本入力手段、歯車軸受情報入力手段、たわみ量算出手段、運動方程式導出手段、計算手段、及び出力手段を備えた歯車設計支援装置の歯車設計支援方法において、前記基本入力手段が、前記歯車の基本諸元である諸元情報及び目標速度や負荷トルクの駆動条件情報を与えるステップと、前記歯車軸受情報入力手段が、前記歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受け剛性、軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与えるステップと、前記たわみ量算出手段が、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるステップと、前記運動方程式導出手段が、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成するステップと、前記計算手段が、時系列的に前記運動方程式を解くステップと、前記出力手段が、前記計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2は、運動方程式導出手段における前記摩擦力の算出において、前記摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度に基づいて算出することを特徴とする。
請求項3は、前記歯車が、はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報に基づいてたわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする。
請求項4は、前記歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、及び累積ピッチ誤差に係る形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする。
請求項5は、前記歯車伝達機構系は、画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力手段で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値に換算して出力することを特徴とする。
【0007】
請求項6は、前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が、(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯底円半径)以下または、(駆動歯車歯底円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることを特徴とする。
請求項7は、前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることを特徴とする。
請求項8は、前記歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域になっているときに有効とし、起動時では補正しないことを特徴とする。
請求項9は、請求項1乃至8の何れか一項記載の歯車設計支援方法をコンピュータが制御可能にプログラミングした歯車設計支援プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする。
【0008】
請求項10は、駆動軸と被駆動軸間に設置された歯車伝達機構系をモデル化して、前記駆動軸の動作に対する前記被駆動軸の動的挙動を解析及び算出する歯車設計支援装置において、前記歯車の基本諸元である諸元情報、及び目標速度並びに負荷トルクの駆動条件情報を与える基本入力手段と、歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間、軸受け剛性、及び軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与える歯車軸受情報入力手段と、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線作用線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるたわみ量算出手段と、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成する運動方程式導出手段と、時系列的に前記運動方程式を解く計算手段と、該計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力する出力手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転ムラを発生させる要因のひとつである歯車並進運動を解析プログラムに組み込み、この並進運動によるたわみ量の変化分を厳密に計算し、かみ合いながらの回転運動と並進運動する歯車の動的挙動を解析できるようになる。その結果、歯車の回転伝達特性に影響を与えるパラメータの歯車諸元や歯車の駆動条件に加え、歯車を回転支持する歯車支持構造体や軸受けによる軸間変動の影響を事前にかつ短時間の解析によって予測することができる。その際、解析は動的挙動(慣性項や回転速度の影響:共振現象、摩擦など)を考慮して行い、これによって歯車機構系に関して問題がないか確認し、歯車駆動系を試作し評価するといった作業を無くして、高精度にかつ容易に歯車設計支援をおこなう歯車設計支援装置の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の解析プログラムの計算フローチャートである。
【図2】歯車の基礎円と作用線について説明する図である。
【図3】たわみ量を説明する図である。
【図4】歯車運動方程式について説明する図である。
【図5】かみ合い歯対ごとのかみ合い力を説明する図である。
【図6】かみ合い力を示す図である。
【図7】回転角度誤差の解析事例を示す図である。
【図8】従来技術との比較を示す解析モデルの図である。
【図9】感光体ドラム駆動系の図である。
【図10】時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図11】軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図12】軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図13】起動時での計算の簡略化をしたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【図14】設計支援装置のブロック図である。
【図15】設計支援装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の解析プログラムの計算フローチャートを示す図である。
基本入力工程により歯車諸元、駆動条件を入力し(S1)、歯車軸受情報入力工程により歯受隙間、剛性、粘性等を入力し(S2)、解析条件を設定して(S3)、たわみ量の算出工程により4成分の数式化を行って(S4)、運動方程式算出工程により運動方程式を算出し(S5)、時系列計算工程により微分方程式の解析を行い(S6、7)、その解析結果を出力する(S8)。
更に詳細に説明すると、解析の手順としては、まず、対象となる歯車の基本諸元情報とその駆動条件情報を入力する。基本諸元情報としては、歯車の歯数、モジュール、圧力角、ねじれ角、歯幅、材質、慣性モーメント、軸間距離などである。また、駆動条件情報としては、例えば駆動歯車と従動歯車の初期角度(どの歯とどの歯から噛合い始めるのか)と駆動軸に与える目標速度や駆動トルク、被駆動軸に加わる負荷トルクである。
【0012】
次に歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受剛性、軸受粘性、支持構造体などによる並進運動に関する情報を歯車軸受情報入力工程処理で与える。例えば、軸受けに隙間がある場合、この隙間の範囲内で歯車が並進運動するので、その隙間量を設定する。あるいは、軸受剛性が小さい場合、歯車に加わる荷重に応じて並進運動することになる。その軸受剛性値や粘性値を設定する。
これらのデータを与えた後、解析条件として、歯車駆動系の解析対象動作時間と解析ステップ(解析時間間隔)等の設定をする。歯車駆動系は、駆動側の歯と被駆動側の歯を噛合わせて動力を伝達しており、この歯の噛合いは、それぞれの回転角度に応じて、常に変化している。動力伝達に関わる歯同士の接触力は接触剛性(歯対剛性)値Ktとそのたわみ量ψの積として求められる。
【0013】
そこで、本発明ではそのたわみ量ψを、1)歯車回転角(θ1、θ2)と基礎円半径(rb1、rb2)の積の差分[ψa=rb1・θ1−rb2・θ2]、2)接点距離の変化分ΔLg[ψb=Lg’−Lg]、3)駆動側接点角度の変化分Δφと駆動側基礎円半径rb1の積[ψc=Δφ・rb1]、4)被駆動側接点角度の変化分Δφと被駆動側基礎円半径rb2の積[ψd=Δφ・rb2]、の4つの成分の総和から求めることとする。
これまでの一般的な歯車の解析では、回転運動の伝達ということで1)の成分だけが大半であった。また、先行技術の特許文献2と3では、さらに2)の成分も加えて解析を実施していた。
【0014】
図2は歯車の基礎円と作用線について説明する図である。歯車の歯面形状はインボリュート歯形が大半を占め、この歯面同士のかみ合いは、図2に示すように各歯車の基礎円1上に接線を設けたたすきがけベルト2の運動とみなすことができる。回転方向によってベルト2のかけ方が変わる。ベルト機構は引っ張り合いで動力を伝えるのに対して、歯車は押し合いで動力を伝える。その動力(伝達力)の大きさは、ベルトの場合は双方のプーリの巻き取り/巻き出しの差分に応じて変化する。この差分量がベルトの伸びとなり、これにベルト剛性をかけることでベルト張力なる。また、プーリが並進運動した場合を考えると、プーリの並進運動に伴って接点間距離が変化し、これによってもベルトが伸縮する。また、プーリとベルトの接触点の位置も変化し、これによってもベルトが伸縮する。
【0015】
図3はたわみ量を説明する図である。これらの成分を歯車に置き換えることで、それぞれの成分を数式化することができる(図3参照)。
たわみ量ψの数式化
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd
(1)ψa=rb1・θ1−rb2・θ2
(2)ψb=ΔLg=Lg’−Lg
(3)ψc=Δφ・rb1=(φ’−φ)・rb1
(4)ψd=Δφ・rb2=(φ’−φ)・rb2
ただし、Lg’は初期の接点距離 Lg’=SQRT{(x2’−x1’)^2+(y2’−y1’)^2−(rb1+rb2)^2}
初期の駆動歯車基礎円座標(x1’、y1’)、初期の被駆動歯車基礎円座標(x2’、y2’)、φ’は初期の接点角度(x軸から接点位置までの角度)
φ’=αwt’−θj’
αwt’:初期の圧力角、θj’:初期の軸間角度
【0016】
先行技術の特許文献2と3では、3)、4)に相当する成分が不足している。これは、歯車が並進運動しても、そのかみ合っている接触点が変化しないと仮定したなら従来技術で対応可能だが、実際は歯車が並進運動することとで、歯面上の接触する点が変化する。これは、ベルト駆動系に例えるとプーリー上にベルトが余分に巻きついたり、解けたりする形となって、張力変化となる。歯車駆動系にも同様の働きが考えられるので、このメカニズムを数式に反映したのが、本発明である。さらに、本発明では、かみ合い力と直交する方向に摩擦力を定義して解析する。インボリュート歯面では、かみ合いピッチ円上ではころがり接触となるが、それの前後では歯面同士はすべり接触となっている。ここでのすべり接触に伴う摩擦力を数式化する。具体的には、かみ合い始めからピッチ点までは、駆動側歯車3よりも被駆動歯車4の歯面速度が速い。この速度差によって摩擦力が双方に加わる。摩擦力の大きさは、歯面材質の組み合わせによる摩擦係数と垂直抗力である歯面かみ合い力の積から得られる。かみ合いが進行し、ピッチ点では速度差がゼロとなり、摩擦力もゼロになり、その後、速度差が逆転(駆動歯車3が被駆動歯車4よりも歯面が速くなる)することで、摩擦力の向きが反転する。
【0017】
これらを下記に示した数式で定義し、運動方程式に加えることで、摩擦力を考慮した歯車解析が可能となる。
摩擦力Fmの数式化
Fm=μ・Ft・sign(Vf1−Vf2)
ただし、μ:摩擦係数
Ft:かみ合い力
sign:符号関数でカッコ内がゼロ以上なら1、ゼロなら0、ゼロ以下なら−1
Vf1:駆動歯車の歯面接触速度 =Lm1・ω1
Vf2:被駆動歯車の歯面接触速度=Lm2・ω2
Lm1:駆動側基礎円接点からかみ合い点までの距離
Lm2:被駆動動側基礎円接点からかみ合い点までの距離
ω1:駆動側歯車速度
ω2;被駆動側歯車速度
【0018】
図4は歯車運動方程式について説明する図である。各歯車ごとに式をたてて、それを連立させて解析する。そしてこの力の釣り合いを微小時間毎(解析ステップ毎)に求め、計算を進めていく。数値解法としては、微分方程式を解く一般的なオイラー法やルンゲクッタ法、ニューマークβ法などで対応できるのでここでは省略する。
ある任意の歯車に関して、上図の記号を用いて軸回転方向(θ)と並進方向(x、y)で運動方程式をたてる。
Jθ+cθ=T−Ftrb+FmLm+Fjxε(sinθε)−Fjyε(cosθε)
mx=−Ft(sinαw)−Fm(cosαw)+Fjx
my=−Ft(cosαw)+Fm(sinαw)+Fjy
Ft=Kt(η、i)・ψ(η、i)
ただし、m、Jは歯車の質量と慣性モーメント、θは回転角、cは粘性係数、Tは駆動トルクや負荷トルク、Ft、Fmはかみ合い力と摩擦力、rbは基礎円半径、Lmは接点からかみ合い点までの距離、Ogは基礎円中心(歯車重心)、Ojは回転軸(軸受)、θεは偏心角、εは偏心量、Fjx、Fjyは軸受け反力、αwはかみ合い圧力角、Ktは接触剛性(歯対剛性)、ηは歯面同志の接触位置、nは噛合っている歯数、iはその何番目かを示す、ψは作用線方向の歯面たわみ量である。
【0019】
次に、定常状態で所定の時間を解析すると、図5はかみ合い歯対ごとのかみ合い力を説明する図である。図5のようにかみ合っている歯ごとのかみ合い力が得られる。図6はかみ合い力を示す図である。これらの総和(図6)と摩擦力の総和が歯車を駆動する力(トルク)となる。そして、この噛合い周期の変動成分が、回転ムラを生じさせる起振力(トルクムラ)である。
【0020】
図7は回転角度誤差の解析事例を示す図である。その後、解析時間が終了した場合、ここまで時系列にステップ時間毎に蓄積してきた解析結果(回転特性:駆動軸と被駆動軸の時間に対する角度伝達誤差、角速度伝達誤差)をグラフや表として表示ディスプレイやプリンタに出力したり、データとして記録媒体に保存する(図7参照)。
【0021】
先行技術の特許文献2と3の解析結果と本発明に基づく解析結果の比較を図8(a)から図8(d)に示す。軸受剛性によって歯車自体が並進運動しながら回転運動を行い、トルク伝達や運動伝達を行っている解析事例である。先行技術の特許文献2と3では、歯面同士の食込みが大きく(図8(b))現れており、この分、回転速度が振動的(図8(d))になっている。この食込み量(たわみ量に相当)も大きくなったり小さくなったりと不自然に変動している解析結果であった(説明図は省略)。一方、本発明による解析結果では、歯面同士の接触は、滑らかなもの(図8(c))となっており、並進運動と回転運動が連携して回転している(図8(d))ことが確認できた。
【0022】
摩擦力の算出に関して、摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度を考慮して算出することとする。
並進運動を考慮した摩擦力Fmの数式化
Fm=μ・Ft・sign(Vf1−Vf2−Vr)
μ:摩擦係数
Ft:かみ合い力
Vf1:接触速度=Lm1・ω1
Vf2:接触速度=Lm2・ω2
Vr:駆動歯車と被駆動歯車の歯面すべり方向での相対速度差
Vr=(Vx1・cosθs+Vy1・sinθs)−(Vx2・cosθs+Vy2・sinθs)
Vx1、Vy1;x方向とy方向の駆動側歯車並進速度
Vx2、Vy2;x方向とy方向の被駆動側歯車並進速度
θs;x軸と歯面すべり方向の角度(基礎円接線と直交する方向)
【0023】
摩擦力は、すべり接触する歯面に働き、その作用する方向は、すべり運動と反対側の方向(すべり運動を弱める方向)に働く。歯車が並進運動をしていない場合(回転運動のみ)は、そのすべり運動の速度は、歯面の接触点と回転速度という幾何学的な情報から得られるが、これに歯車並進運動が加わると、その歯車接触点の速度は、並進運動も考慮して求める必要がある。具体的には、摩擦方向を決定する数式に並進速度成分を加え、ここでの速度差に応じて正負の符号を切り替えることとなる。
はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報から、たわみ補正量を算出し、この値をたわみ量算出工程処理に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることする。
たわみ量ψの数式化(補正項含む)
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd+ψe
(5)ψe=Lz・tanβb
ただし、
Lz:駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量
βb:基礎円筒ねじれ角
【0024】
はすば歯車はねじれ角によって軸方向に対して歯面が傾斜している。そのため、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対位置が変化すれば、回転方向に影響を及ぼす。この軸方向の相対変位の影響を考慮したのが本発明である。具体的には、(5)のように軸方向の相対変位Lzによって、歯面のたわみ量が変化するのでこのたわみ補正量を数式化してたわみ補正量ψeとして、たわみ量の式に加えることで対応できる。
歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、累積ピッチ誤差の形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、この値をたわみ量算出工程処理に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることとする。
たわみ量ψの数式化(補正項含む)
ψ=ψa+ψb+ψc+ψd+ψe+ψf
(6)ψf=δa+δb+δc
ただし、
δa:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点での歯形誤差
βb:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点でのはすじ誤差
βc:駆動歯車と被駆動歯車のかみ合い点での累積ピッチ誤差
たわみ量と比べ歯面の形状誤差が大きくなった場合、解析結果に与える影響度が増大する。そこで、本実施例では、歯面の形状誤差(歯車形状誤差:歯形誤差や歯筋誤差、累積ピッチ誤差)の情報から、かみ合っている歯面位置における誤差を求め、この値をたわみ補正量ψfとして、たわみ量の式(6)に加えることで対応できる。
【0025】
図9は感光体ドラム駆動系の図である。画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力工程処理で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値(位置ずれ、速度ムラ)に換算して出力することとする(図9)。本発明では回転体ドラム(例えば感光体ドラムや印刷用のドラム、画像形成用のドラム等)駆動用の歯車伝達機構系に関して実施する方法で、その際の出力工程で、歯車1回転周期の回転体ドラム表面上の位置ずれと歯車噛合い周期での回転体ドラム表面上の速度ムラを出力する。回転体表面上の位置ずれや速度ムラは角度伝達誤差や角速度伝達誤差に回転体半径を乗ずることで求めることができる。
計算工程処理で駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離Ljも合わせて逐次計算し、その値が、(駆動歯車歯先円半径:ra1)+(被駆動歯車歯底円半径:rf2)以下または、(駆動歯車歯底円半径:rf1)+(被駆動歯車歯先円半径:ra2)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることとする。歯車軸受剛性が小さく負荷が大きい場合や軸受隙間が大きい場合には歯車並進運動が大きくなる。特に、歯車の歯先と歯元が接触して並進運動を規制する場合がある。その現象を表現するために上記のように基礎円中心座標間距離Ljをモニタリングし、所定の値以下になった際に、並進運動に規制を加える。具体的には中心座標間距離を縮める方向に頑強なバネを設定し、所定の値以下の場合に作動するように定義する。
【0026】
図10は時系列計算工程を示すフローチャートであり、図11は軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
本実施例は、計算工程処理で、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離Ljも合わせて逐次計算し、その値が(駆動歯車歯先円半径:ra1)+(被駆動歯車歯先円半径:ra2)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることとする。歯車軸受剛性が小さく負荷が大きい場合や軸受隙間が大きい場合などで歯車並進運動が大きくなる。特に、歯車の歯先同士が外れた場合、かみ合うことが不可能となり、かみ合い力がゼロとなる。その現象を表現するために上記のように基礎円中心座標間距離Ljをモニタリングし、所定の値以上になった際に、かみ合い力を強制的にゼロにする。
【0027】
図12は軸間距離に規制を加えたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。本実施例は、歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域(定常速度領域)になっているときに有効とし、起動時では補正しないこととする(図13)。起動時のように一定速度ではない領域では、起動加速度による慣性力の影響や駆動モータの特性などで、複雑な応答を示す。ここで歯車形状誤差を加えて計算すると、計算に時間がかかる。また、この領域(過渡状態)で画像生成などの作業は行わないので詳細に解析する必要もない。そこで、解析初期時の起動時は、軸間変動をゼロとして計算し、定常状態になったときに緩やかに切り替えるようにすることで、計算時間の短縮が図られる。図13は起動時での計算の簡略化をしたときの時系列計算工程を示すフローチャートである。
【0028】
図14は設計支援装置のブロック図である。上記実施例は、歯車設計支援方法に関して説明したが、図14のようにCPU(Central Processing Unit)21の基本制御を行うOS(Operating System)29及び歯車の動的な回転特性を算出して設計支援するプログラム30を磁気ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)28等の外部記憶装置に格納しておき、HDDインターフェース27を介して外部記憶装置からOS29と解析プログラム30を読み込むようにする。そして、入出力用のキーボード24やマウス25を用いて歯車基本諸元情報、駆動条件情報、軸間変動に関する情報、形状誤差情報を入力する。もしくは、FDD(Floppy(登録商標) Disk Drive)を介してフロッピー(登録商標)ディスク(FD:Floppy(登録商標) Disk)に記憶させたデータを読み込ませても良い。FD(Floppy(登録商標) Disk)だけでなく、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)やCD−R/RW(Compact Disc Recordable/ReWritable)、USBメモリ(Universal Serial Busを用いてコンピュータに接続してデータの読み書きを行う補助記憶装置)等の可搬性の記録媒体でもかまわない。このように可搬性の記録媒体(外部記憶装置)に設計支援プログラムを格納しておくことにより、持ち運びが可能となり、様々な場所でシミュレーションが容易にできる。
【0029】
図15に本発明の歯車設計支援装置の構成をブロック図で示す。歯車設計支援装置20は総合的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)21、表示ディスプレイのCRT(Cathode Ray Tube)や液晶画面LCD(Liquid Crystal Display)23と、この表示ディスプレイを利用する入力用のキーボード24とマウス25、直接データを入出力するFDD(Floppy(登録商標) Disk Drive)とFD(Floppy(登録商標) Disk)31、解析結果を出力するプリンタ32に接続されている。CPU21の基本制御を行うOS(Operating System)29と本発明の解析プログラム30が蓄積された磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)28と、解析結果を一時的に記憶させるRAM(Random Access Memory)22とから構成されている。このような構成で本実施例で説明した歯車設計支援プログラム30を実行させることで、歯車の動的な解析結果から得られ、設計時に有効な情報をCRT23やプリントアウトした紙から供給することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 歯車基礎円、2 歯車作用線、3 駆動歯車、4 従動歯車、5 感光体ドラム、6 モータ、7 ドラム用ギヤ、8 駆動ギヤ、9 軸受け、20 設計支援装置、21 CPU、22 RAM、23 CRT、24 キーボード、25 マウス、26 バス、27 HDD I/F、28 HDD、29 OS、30 設計支援プログラム
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2004−258697公報
【特許文献2】特開2003−240064公報
【特許文献3】特開2010−096242公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本入力手段、歯車軸受情報入力手段、たわみ量算出手段、運動方程式導出手段、計算手段、及び出力手段を備えた歯車設計支援装置の歯車設計支援方法において、
前記基本入力手段が、前記歯車の基本諸元である諸元情報及び目標速度や負荷トルクの駆動条件情報を与えるステップと、
前記歯車軸受情報入力手段が、前記歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受け剛性、軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与えるステップと、
前記たわみ量算出手段が、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるステップと、
前記運動方程式導出手段が、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成するステップと、
前記計算手段が、時系列的に前記運動方程式を解くステップと、
前記出力手段が、前記計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するステップと、
を含むことを特徴とする歯車設計支援方法。
【請求項2】
運動方程式導出手段における前記摩擦力の算出において、前記摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度に基づいて算出することを特徴とする請求項1記載の歯車設計支援方法。
【請求項3】
前記歯車が、はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報に基づいてたわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする請求項1又は2記載の歯車設計支援方法。
【請求項4】
前記歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、及び累積ピッチ誤差に係る形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項5】
前記歯車伝達機構系は、画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力手段で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値に換算して出力することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項6】
前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が、(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯底円半径)以下または、(駆動歯車歯底円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項7】
前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項8】
前記歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域になっているときに有効とし、起動時では補正しないことを特徴とする請求項4記載の歯車設計支援方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項記載の歯車設計支援方法をコンピュータが制御可能にプログラミングした歯車設計支援プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項10】
駆動軸と被駆動軸間に設置された歯車伝達機構系をモデル化して、前記駆動軸の動作に対する前記被駆動軸の動的挙動を解析及び算出する歯車設計支援装置において、
前記歯車の基本諸元である諸元情報、及び目標速度並びに負荷トルクの駆動条件情報を与える基本入力手段と、
歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間、軸受け剛性、及び軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与える歯車軸受情報入力手段と
前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線作用線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるたわみ量算出手段と、
前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成する運動方程式導出手段と、
時系列的に前記運動方程式を解く計算手段と、
該計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力する出力手段と、
を備えていることを特徴とする歯車設計支援装置。
【請求項1】
基本入力手段、歯車軸受情報入力手段、たわみ量算出手段、運動方程式導出手段、計算手段、及び出力手段を備えた歯車設計支援装置の歯車設計支援方法において、
前記基本入力手段が、前記歯車の基本諸元である諸元情報及び目標速度や負荷トルクの駆動条件情報を与えるステップと、
前記歯車軸受情報入力手段が、前記歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間や軸受け剛性、軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与えるステップと、
前記たわみ量算出手段が、前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるステップと、
前記運動方程式導出手段が、前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成するステップと、
前記計算手段が、時系列的に前記運動方程式を解くステップと、
前記出力手段が、前記計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するステップと、
を含むことを特徴とする歯車設計支援方法。
【請求項2】
運動方程式導出手段における前記摩擦力の算出において、前記摩擦力の働く方向は、歯面接触位置と回転速度に歯車並進速度に基づいて算出することを特徴とする請求項1記載の歯車設計支援方法。
【請求項3】
前記歯車が、はすば歯車の場合、駆動歯車と被駆動歯車の軸方向の相対変位量と歯車の基本諸元情報に基づいてたわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、5つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする請求項1又は2記載の歯車設計支援方法。
【請求項4】
前記歯車の歯形誤差、歯すじ誤差、及び累積ピッチ誤差に係る形状誤差の情報から、たわみ補正量を算出し、該算出した値をたわみ量算出手段に加え、6つの成分の総和からたわみ量を求めることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項5】
前記歯車伝達機構系は、画像形成に用いられる回転体ドラムを駆動する回転体ドラム駆動用の歯車伝達機構系であり、前記出力手段で、前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力するに際して、前記被駆動軸の出力に前記回転体ドラム半径を乗じて、当該回転体ドラム表面上の特性値に換算して出力することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項6】
前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が、(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯底円半径)以下または、(駆動歯車歯底円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以下のときは、それ以下の中心座標間の距離にならないよう並進運動に制限を設けることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項7】
前記計算手段において、駆動歯車と被駆動歯車の基礎円中心座標間の距離も合わせて逐次計算し、該計算した値が(駆動歯車歯先円半径)+(被駆動歯車歯先円半径)以上のときは、かみ合い力をゼロとすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項記載の歯車設計支援方法。
【請求項8】
前記歯車の形状誤差によるたわみ量の補正は、一定速度領域になっているときに有効とし、起動時では補正しないことを特徴とする請求項4記載の歯車設計支援方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項記載の歯車設計支援方法をコンピュータが制御可能にプログラミングした歯車設計支援プログラムをコンピュータが読み取り可能な形式で記録したことを特徴とする記録媒体。
【請求項10】
駆動軸と被駆動軸間に設置された歯車伝達機構系をモデル化して、前記駆動軸の動作に対する前記被駆動軸の動的挙動を解析及び算出する歯車設計支援装置において、
前記歯車の基本諸元である諸元情報、及び目標速度並びに負荷トルクの駆動条件情報を与える基本入力手段と、
歯車を回転支持する軸受と回転軸の隙間、軸受け剛性、及び軸受け粘性に係る並進運動に関する情報を与える歯車軸受情報入力手段と
前記基本入力手段と前記歯車軸受情報入力手段から前記歯車の基礎円中心座標と基礎円半径の情報を取得して、回転方向に対応した接線作用線を求め、該接線上の歯車かみ合い時のたわみ量を、歯車回転角と基礎円半径の積の差分、接点距離の変化分、駆動側接点角度の変化分と駆動側基礎円半径の積、及び被駆動側接点角度の変化分と被駆動側基礎円半径の積、の各成分の総和として求めるたわみ量算出手段と、
前記たわみ量と歯対剛性の積からかみ合い力を算出し、該かみ合い力と摩擦係数から摩擦力を併せて算出し、該算出した力が作用線上で接触している歯対に対して運動方程式を生成する運動方程式導出手段と、
時系列的に前記運動方程式を解く計算手段と、
該計算手段により計算した前記駆動軸と前記被駆動軸の動作結果を出力する出力手段と、
を備えていることを特徴とする歯車設計支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−43347(P2012−43347A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186114(P2010−186114)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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