説明

死角車両検知システム、死角車両検知装置、死角車両検知方法およびそのプログラム

【課題】死角車両の音源の方向を正確に検知する。
【解決手段】自車両に配置され、車外音を集音する集音部102と、死角車両の回折音の音圧が死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値を保持しており、集音部102で集音された車外音の音圧が音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理部103と、音圧閾値処理部103で車外音の音圧が音圧閾値より大きいと判定された場合に、集音部102で集音された車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知部105と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車外音から遮蔽物の死角に存在する他車両の方向を検知する死角車両検知システムに関する。特に、遮蔽物からの反射音の影響を除去した上で、他車両の方向を検知することができる死角車両検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両音検知装置は、自車両の左右の2箇所に集音部を設置し、左右独立に他車両の存在を判定する。左側の集音部が先に他車両音を検知した場合は左側から右側に向けて他車両が走行していると判断して、右側の集音部が先に他車両音を検知した場合には右側から左側に向けて他車両が走行していると判断する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の従来の音源方向推定装置は、集音部の出力に対してそれぞれピークホールド処理を行って、直接音よりも音圧が小さい反射音の影響を除去してから音源の方向を求める(例えば、特許文献2参照)。図27に、特許文献2に記載された従来の音源方向推定装置を示す。
【0004】
図27(a)は、マイクAとマイクBに入力された直接音と反射音とを模式的に示している。図27(b)は、図27(a)に示したマイクAとマイクBに入力された直接音と反射音とにピークホールド処理を施した結果を示している。このように、直接音より音圧が小さい反射音はピークホールド処理により、その影響を取り除くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−105274号公報
【特許文献2】特開平5−87903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の車両音検知装置では、車外音から遮蔽物の死角に存在する他車両である死角車両の車両音の音源方向を検知する場合に、遮蔽物での車両音の反射の影響を考慮していないため、死角車両の方向とは異なる反射音の方向を検知してしまうという課題を有している。例えば、遮蔽物による車両音の回折により車両音の回折音が減衰し、他の遮蔽物による車両音の反射音の音圧の方が大きくなる場合がある。このような場合には、死角車両の音源の方向が反射音が到来する方向であると誤検知してしまう。
【0007】
また、従来の音源方向推定装置では、遮蔽物の影響を考慮していないため、死角車両の回折音よりも反射音の音圧の方が大きくなり、ピークホールド処理では反射音の影響を除去することができないという課題を有している。つまり、このような場合も反射音の音圧に基づいて音源の方向が求められるため、死角車両の音源の方向が反射音が到来する方向であると誤検知してしまう。
【0008】
すなわち、従来の方法では、遮蔽物がある場合に反射音の影響を除去することができないため、死角車両の音源の方向を正確に検知することができないという共通の課題を有している。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、遮蔽物がある場合に反射音の影響を除去して、死角車両の音源の方向を正確に検知することのできる死角車両検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明のある局面に係る死角車両検知システムは、自車両に配置され、車外音を集音する集音部と、死角車両の回折音の音圧が前記死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値を保持しており、前記集音部で集音された車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理部と、前記音圧閾値処理部で前記車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいと判定された場合に、前記集音部で集音された前記車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知部と、を備える。
【0011】
本構成によって、集音部で集音された車外音が音圧閾値より大きい場合(回折音が反射音の音圧よりも大きい場合)に死角車両の音源の方向を検知している。つまり、反射音は回折音でマスクされてしまうため、反射音の影響を受けることなく音源の方向を検知することができる。よって、遮蔽物がある場合に反射音により誤った方向を検知することを防ぐことができ、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。このような死角車両の音源の方向を運転者に提示することにより、運転者は自車両の安全走行を行うことができる。
【0012】
好ましくは、前記音圧閾値処理部は、各々が前記死角車両の走行音の条件に対応した複数の音圧閾値を保持しており、前記死角車両検知システムは、さらに、前記死角車両の走行音の条件を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した前記走行音の条件に対応する音圧閾値を選択する音圧閾値切り替え部を備え、前記音圧閾値処理部は、前記集音部で集音された車外音の音圧が前記音圧閾値切り替え部が選択した前記音圧閾値より大きいか否かを判定する。
【0013】
本構成によって、死角車両の走行音の条件ごとに異なる音圧閾値を用いて、音源の方向を検知することができる。このため、死角車両の走行音の条件に影響されることなく、常に回折音の音圧が反射音の音圧より大きくなる車外音を用いて死角車両の音源の方向を検知することができる。よって、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【0014】
具体的には、前記走行音の条件は、雨天または晴天を示す天候状況であり、前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置されたワイパーが動作している場合に前記死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、前記ワイパーが動作していない場合に前記死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した天候状況に対応する音圧閾値を選択する。
【0015】
また、前記走行音の条件は、雨天または晴天を示す天候状況であり、前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置された雨滴センサが雨滴を検出した場合に前記死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、前記雨滴センサが雨滴を検出しない場合に前記死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した天候状況に対応する音圧閾値を選択してもよい。
【0016】
これらの構成によって、雨天等の天候による路面状況に影響せずに反射音の影響を正確に除去して、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【0017】
また、前記走行音の条件は、砂利道または舗装道路を示す路面状況であり、前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置されたカーナビゲーションから得られる情報または振動センサから得られる振動検知結果を用いて、前記死角車両の走行音の条件として前記死角車両が走行する路面の路面状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した路面状況に対応する音圧閾値を選択してもよい。
【0018】
本構成によって、路面の舗装状況に影響せずに反射音の影響を正確に除去して、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【0019】
また、前記走行音の条件は、死角車両の走行速度であり、前記音圧閾値切り替え部は、前記死角車両が走行する道路の制限速度情報から前記死角車両の走行音の条件として前記死角車両の走行速度を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した前記死角車両の走行速度に対応する音圧閾値を選択してもよい。
【0020】
本構成によって、例えば、死角車両が制限速度で走行していると判定し、走行速度に応じた音圧閾値を選択することにより、死角車両の走行速度の違いに影響せずに反射音の影響を正確に除去して、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【0021】
好ましくは、前記集音部は、互いに離間し、前記自車両の右側に配置された集音部と左側に配置され集音部とを含み、前記車両検知部は、左側の集音部で集音された車外音を用いて前記自車両の右側範囲に存在する前記死角車両の音源の方向を検知し、右側の集音部で集音された車外音を用いて前記自車両の左側範囲に存在する前記死角車両の音源の方向を検知してもよい。
【0022】
本構成によって、(i)死角車両(音源)から遠い集音部で集音された車外音を用いて死角車両の音源の方向を検知することにより、回折による音圧減衰量を小さく抑えることができる。また、(ii)遮蔽物の反射位置に近い集音部で集音された遮蔽物による反射音の到来方向は検知対象外である。さらに、(iii)遮蔽物の反射位置から遠い集音部で集音された遮蔽物による反射音は距離により大きく減衰する。このような3つの特徴(i)〜(iii)から、回折音の音圧は音源から近い集音部で集音される場合に比べてより大きくなり、反射音は反射音の到来方向に近い集音部で集音される場合に比べてより小さくなる。このため、相対的に回折音は反射音よりもより音圧が大きくなる。このため、音圧閾値を小さな値に設定することができる。よって、遠方から死角車両の音源の方向を検知できるようになる。
【0023】
なお、本発明は、このような特徴的な処理部を備える死角車両検知システムとして実現することができるだけでなく、死角車両検知システムに含まれる特徴的な処理部をステップとする死角車両検知方法として実現したり、死角車両検知方法に含まれる特徴的なステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体やインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのも言うまでもない。
【0024】
また、死角車両検知システムに含まれる音圧閾値処理部と車両検知部とを備える死角車両検知装置として実現することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、遮蔽物がある場合に反射音の影響を除去して、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1における死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図
【図2】死角車両検知システムの動作手順を示したフローチャート
【図3】回折音と反射音との音圧の関係を示した図
【図4】死角車両の位置を説明するための図
【図5】回折音について説明するための図
【図6】遮蔽物による反射音の影響を説明する図
【図7】回折音と反射音との関係を示す図
【図8】自車両の前方に設置された指向性マイクである集音部による音源の方向の検知方法を説明するための図
【図9】回折音の到来する方向を示す図
【図10】(a)時間軸を調整する前の回折音を示す図、(b)時間軸が調整された後の回折音を示す図
【図11】車外音の音圧比較により音源の方向を検知する方法のフローチャート
【図12】本発明の実施の形態2における死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図
【図13】本発明の実施の形態2における死角車両検知システムの動作手順を示したフローチャート
【図14】音圧閾値保持部に保持されている音圧閾値の一例を示す図
【図15】音圧閾値保持部に保持されている音圧閾値の一例を示す図
【図16】音圧閾値保持部に保持されている音圧閾値の一例を示す図
【図17】本発明の実施の形態3における死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図
【図18】(a)2つの集音部を自車両のバンパーに配置した図、(b)2つの集音部を自車両の天井に配置した図、(c)2つの集音部を自車両の後部に配置した図
【図19】自車両の右側範囲と左側範囲とを説明するための図
【図20】自車両の右側範囲と左側範囲とを説明するための図
【図21】遮蔽物の影響による回折減衰量の大きさを説明する図
【図22】遮蔽物による反射音の影響を説明する図
【図23】(a)音源に近い集音部で集音した回折音と反射音との音圧の関係を示した図、(b)音源に遠い集音部で集音した回折音と反射音との音圧の関係を示した図
【図24】本発明の実施の形態3における死角車両検知システムの動作手順を示したフローチャート
【図25】各々、2つのマイクロホンで構成した集音部の一例を示す図
【図26】指向性マイクロホンによる集音部の構成の一例を示す図
【図27】従来の音源方向推定装置を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図である。
【0029】
図1において、死角車両検知システム108は、死角車両の音源の方向を検知して、検知結果を運転者に提示するシステムであり、集音部102と、死角車両検知装置100と、提示部107とを具備する。死角車両検知装置100は、集音部102で集音された車外音101から死角車両の音源の方向を検知する装置であり、音圧閾値処理部103と、車両検知部105とを具備する。音圧閾値処理部103は、音圧閾値保持部103Aを具備する。
【0030】
集音部102は、自車両に配置されており車外音101を集音する。「車外音」とは、他車両の走行音を含む自車両の外部で発生する音をいう。集音部102は、自車両の前方バンパー、ドアミラー、天井、後方バンパー等に配置される。集音部102は、具体的にはマイクロホンである。
【0031】
音圧閾値保持部103Aは、死角車両の回折音と反射音との関係から回折音の音圧が反射音の音圧より大きくなる音圧閾値104を保持している。音圧閾値保持部103Aは、例えば、ROMやRAMである。「死角車両」とは、自車両と他車両とを結ぶ線分上に壁などの音の遮蔽物がある場合の他車両のことである。つまり、死角車両の車両音は自車両に直接到達せずに、遮蔽物で回折された後に自車両に到達する。
【0032】
音圧閾値処理部103は、集音部102で集音された車外音101が音圧閾値104より大きいか否かを判定する。つまり、車外音101が音圧閾値104より大きい場合には、死角車両の回折音の音圧が反射音の音圧よりも大きく、車外音101が音圧閾値104以下の場合には、死角車両の回折音の音圧が反射音の音圧以下である。
【0033】
車両検知部105は、音圧閾値処理部103で車外音101が音圧閾値104より大きいと判定された場合に、集音部102で集音された車外音101から死角車両の音源の方向を検知する。つまり、車両検知部105は、死角車両の回折音の音圧が反射音の音圧よりも大きい場合に、死角車両の音源の方向を検知する。音源の方向の検知方法については後述する。
【0034】
提示部107は、車両検知部105で検知された検知結果106を運転者に提示する。例えば、提示部107は、音声で死角車両の音源の方向を知らせたり、カーナビゲーションのディスプレイに死角車両の音源の方向を表示したりする。
【0035】
次に、以上のように構成された死角車両検知装置100の動作について説明する。
【0036】
図2は、死角車両検知システム108の動作手順を示したフローチャートである。
【0037】
自車両に配置された集音部102は、車外音101を集音する(ステップS200)。
【0038】
次に、音圧閾値処理部103は、集音部102で集音された車外音101が、音圧閾値保持部103Aに記憶されている音圧閾値104より大きいか否かを判定する(ステップS201)。
【0039】
図3は、回折音と反射音との音圧の関係を示した図である。横軸は死角車両と自車両との距離を示している。縦軸は音圧を示している。本実施の形態では、図4に示すように自車両の走行車線の左右に遮蔽物があり、かつ、死角車両は自車両の走行車線を横切る車線を走行しているものとする。
【0040】
図3に示すように、死角車両と自車両との距離が小さくなるにつれ死角車両の回折音の音圧は増加する。また、死角車両と自車両との距離が小さくなるにつれ死角車両の反射音(死角車両の走行音の遮蔽物による反射音)の音圧は増加するが、死角車両が自車両の正面に来るにつれ、その音圧は減少する。これらの現象について以下に説明する。
【0041】
図5を用いて回折音について説明する。図5に示すように死角車両から遮蔽物までの距離をaとし、遮蔽物から自車両までの距離をbとし、死角車両と自車両とを結ぶ線分の長さをcとする。このとき、a+b−cの値が大きいほど回折による音の減衰量が大きくなることが知られている。死角車両が遠方に存在するほどa+b−cの値が大きくなるため、音の減衰量が大きくなり回折音の音圧が減少する。一方、死角車両が自車両に近づくにつれa+b−cの値が小さくなるため、音の減衰量が小さくなり回折音の音圧が増加する。このため、図3の実線に示すような回折音の音圧のグラフが得られる。
【0042】
一方、反射音について考える。図6は、反射音を模式的に示した図である。自車両の左側に位置する死角車両の走行音は自車両の右側に位置する遮蔽物で反射され、自車両の集音部102aおよび102bで集音される。死角車両が遠方から近傍に近付くにつれ、死角車両の走行音の伝播距離が短くなる。このため、反射音の減衰量は小さくなり、反射音の音圧が増加する。しかし、死角車両がある地点を越えると死角車両が正面に近付くにつれ反射音の音圧が減少する。これは、遮蔽物の反射面における音の入射角および反射角が90度に近づくためである。入射角および反射角が90度に近付くにつれ、反射音自体が集音部102aおよび102bに到達しにくくなる。よって、反射音の音圧が徐々に減少し、図3の破線に示すような反射音の音圧のグラフが得られる。
【0043】
つまり、図3に示すように、自車両から遠方に死角車両が存在する場合には、回折音の減衰量が大きくなるため死角車両の回折音よりも反射音の音圧の方が大きくなる。回折音と反射音とが入力された場合には、音圧が大きい音の音源の方向が検知される。このため、反射音ではなく回折音の到来方向を検知するためには、回折音が反射音より大きくなる場合に音源の方向を求める必要がある。回折音よりも反射音の音圧が大きい場合には死角車両の音源の方向ではなく反射音の到来方向を、死角車両の音源の方向として誤って検知してしまうため除去する必要がある。
【0044】
路面やタイヤ等を考慮した走行音の発生メカニズムから車両走行音の音圧の大きさを予め推定することができる。また、遮蔽物での反射音の音圧の大きさも実際にある建物等の遮蔽物の性質から予め推定できる。これらの情報を用いて、予め死角車両の回折音の音圧が反射音の音圧よりも大きくなる音圧閾値104を設定することができる。図3の例では、音圧閾値104を85dBに設定している。これにより、85dBよりも大きい音は回折音の音圧の方が反射音の音圧よりも大きい音となる。
【0045】
つまり、音圧閾値処理部103は、集音部102で集音された音の音圧が音圧閾値104より大きいか否かを判定することにより、回折音の音圧が反射音の音圧より大きいか否かを判定する。
【0046】
なお、音圧閾値の決め方であるが、回折音の音圧が反射音の音圧よりも数十dB以上大きくなる場合に音源の方向を求めるように音圧閾値を設定してもよい。この場合には、回折音の到来方向の方向精度が高くなるため安定して死角車両の音源の方向を求めることができる。一方、回折音と反射音の音圧がほぼ等しい場合から音源の方向を求めるように音圧閾値を設定した場合には(例えば、図3の音圧閾値85dB)、遠方から死角車両の音源の方向を求めることができるため、運転者はゆとりをもって死角車両の状況を判断することができる。
【0047】
次に、車両検知部105は、音圧閾値処理部103で車外音101が音圧閾値104より大きいと判定された場合に、車外音101から死角車両の音源の方向を検知する(ステップS202)。
【0048】
車外音101が音圧閾値104より大きい場合には、反射音より回折音の音圧が大きいため、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。図7は、回折音と反射音との関係を示す図であり、横軸は時間を示し、縦軸は音圧を示す。図7に示すように回折音と反射音とは持続的に続く音を想定している。回折音の音圧が反射音の音圧よりも高いため、音圧の小さな反射音は音圧の大きな回折音にマスクされてしまう。よって、反射音の影響を受けることなく回折音によって死角車両の方向が決定されることになり、正確に死角車両の音源の方向が検知される。
【0049】
音源の方向を検知する方法の第1の例として、図8に示すように自車両の前方に指向性マイクロホンである集音部102を設置し、集音部102を機械的に左右に動かすことにより音源の方向を検知してもよい。つまり、車両検知部105は、集音した車外音101の音圧が最大となるときの集音部102の角度を検知することにより、死角車両の音源の方向を検知する。
【0050】
音源の方向を検知する方法の第2の例として、集音部102を2個の水平に配置された集音部で構成し、2個の集音部で集音された車外音101の到達時間差により音源の方向を求めるようにしてもよい。例えば、図4に示したように自車両の前方バンパーに集音部102aと集音部102bとを配置する。また、図9に示すように、方向Θから死角車両の回折音が到来するものと想定する。また、集音部102aと集音部102bとの間の距離をLとすると、集音部102aと集音部102bとの回折音の到達時間差τは以下の(式1)で表すことができる。
【0051】
【数1】

【0052】
ここで、Cは音速である。
【0053】
つまり、到達時間差τを求めることができれば、(式1)より死角車両の音源の方向Θを算出することができる。
【0054】
図10は、所定の方向Θから到達する回折音に対して集音部間での到達時間差がゼロになるように時間軸を調整した回折音の一例を示す。横軸は時間軸を示し、縦軸は振幅を示している。図10(a)には、時間軸を調整する前の回折音が示されており、図10(b)には、時間軸が調整された後の回折音が示されている。車外音aおよび車外音bは、集音部102aおよび集音部102bで集音された車外音101を示している。車両検知部105は、図10(b)に示すように、車外音bを基準として、車外音aの時間軸を順次遅らせながら車外音aと車外音bとの相関値を計算する。車外音aの時間軸をτの時刻だけ遅らせた時に相関値が最大となったとする。車両検知部105は、このときのτを(式1)に代入することにより、死角車両の音源の方向Θを算出する。なお、到達時間差τを求める方法は、波形同士の相関値を求める方法に限定されず、2つの波形の位相差からτを求めるようにしてもよい。
【0055】
音源の方向を検知する方法の第3の例として、集音部102を2個の水平に配置された集音部で構成し、2個の集音部で集音された車外音101の音圧を比較することにより音源の方向を求めるようにしてもよい。例えば、図4に示したように自車両の前方バンパーに集音部102aと集音部102bとを配置する。
【0056】
図11は、車外音101の音圧比較により音源の方向を検知する方法のフローチャートである。車両検知部105は、集音部102aで集音された車外音101の音圧と、集音部102bで集音された車外音101の音圧とを比較する(ステップS1001)。集音部102bで集音された車外音101の音圧が集音部102aで集音された車外音101の音圧よりも大きい場合には(S1001でYES)、車両検知部105は、死角車両の音源の方向は左側と判断する(S1002)。集音部102bで集音された車外音101の音圧が集音部102aで集音された車外音101の音圧以下の場合には(S1001でNO)、車両検知部105は、死角車両の音源の方向は右側と判断する(S1003)。
【0057】
再度図2を参照して、提示部107は、運転者に、車両検知部105が検知した死角車両の情報を提示して知らせる(ステップS203)。提示方法の一例として、「右から車両接近」のように死角車両の接近する方向を大まかに知らせる方法や、死角車両の位置をレーダ表示して知らせる方法等がある。なお、提示は、上述したように音声で行っても良いし、ディスプレイ上に情報を表示することにより行っても良い。
【0058】
かかる構成によれば、集音部102で集音された車外音101が音圧閾値104より大きい場合(回折音が反射音の音圧よりも大きい場合)に死角車両の音源の方向を検知することで、遮蔽物がある場合に反射音により誤った方向を運転者に提示することを防ぐことができる。よって、死角車両の音源の方向を正確に検知することができる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1では、車外音の音圧を判断するための音圧閾値を1種類としたが、実施の形態2では、音圧閾値を複数種類用意し、その中から死角車両の走行音の条件に対応した音圧閾値を選択する点が実施の形態1と異なる。
【0060】
図12は、本発明の実施の形態2の死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図である。図12において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0061】
図12において、死角車両検知システム404は、死角車両の音源の方向を検知して、検知結果を運転者に提示するシステムであり、集音部102と、死角車両検知装置400と、提示部107とを具備する。死角車両検知装置400は、集音部102で集音された車外音101から死角車両の音源の方向を検知する装置であり、音圧閾値処理部401と、音圧閾値切り替え部403と、車両検知部105とを具備する。音圧閾値処理部401は、音圧閾値保持部401Aを具備する。
【0062】
音圧閾値保持部401Aは、走行音の条件に対応した音圧閾値402を複数保持している。
【0063】
音圧閾値切り替え部403は、死角車両の走行音の条件を取得し、音圧閾値保持部401Aが保持している複数の音圧閾値の中から、取得した走行音の条件に対応する音圧閾値を選択する。
【0064】
音圧閾値処理部401は、音圧閾値切り替え部403が選択した、死角車両の走行音の条件に対応した音圧閾値402を用いて、集音部102で集音された車外音101が音圧閾値切り替え部403が選択した音圧閾値より大きいか否かを判定する。
【0065】
次に、以上のように構成された死角車両検知装置400の動作について説明する。
【0066】
図13は、死角車両検知システム404の動作手順を示したフローチャートである。
【0067】
自車両に配置された集音部102は、車外音101を集音する(ステップS200)。
【0068】
音圧閾値切り替え部403は、死角車両の走行音の条件の判定を行うことにより、死角車両の走行音の条件を取得し、音圧閾値保持部401Aが保持している複数の音圧閾値の中から、取得した走行音の条件に対応する音圧閾値を選択する(ステップS500)。
【0069】
走行音の条件の一例として、雨天または晴天を示す天候状況について説明する。路面が雨に濡れるとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ上昇する。逆に路面が乾いているとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ下がる。この関係から、雨天時と晴天時の各々に対して、予め回折音が反射音の音圧よりも大きくなる音圧閾値402を走行音の条件と対応付けて音圧閾値処理部401に保持しておく。図14は、音圧閾値保持部401Aに保持されている音圧閾値402の一例を示す図である。音圧閾値保持部401Aには、晴天時の音圧閾値として85dBが記憶され、雨天時の音圧閾値として90dBが記憶されている。音圧閾値切り替え部403は、ワイパーの動作または雨滴センサを用いて天候状況が雨天か晴天かを判定する。つまり、ワイパーを用いて天候状況を判定する場合には、音圧閾値切り替え部403は、ワイパーが動作している場合に死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、ワイパーが動作していない場合に死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得する。また、雨滴センサを用いて天候状況を判定する場合には、音圧閾値切り替え部403は、雨滴センサが雨滴を検出した場合に死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、雨滴センサが雨滴を検出しない場合に死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得する。次に、音圧閾値切り替え部403は、音圧閾値保持部401Aが保持している複数の音圧閾値の中から、取得した天候状況に対応する音圧閾値を選択する。図14の例では、雨天時の場合に音圧閾値として90dBを選択し、晴天時の場合には音圧閾値として85dBを選択する。
【0070】
走行音の条件の別の例として、砂利道または舗装道路を示す路面状況について説明する。車両が砂利道を走行するとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ上昇する。逆に舗装道路を走行するとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ下がる。この関係から、砂利道と舗装道路の各々に対して、予め回折音が反射音の音圧よりも大きくなる音圧閾値402を走行音の条件(路面状況)と対応付けて音圧閾値処理部401に保持しておく。音圧閾値切り替え部403は、カーナビゲーションから得られる情報または振動センサを用いて、死角車両の走行音の条件として死角車両が走行する路面の路面状況を取得する。また、音圧閾値切り替え部403は、音圧閾値保持部401Aが保持している複数の音圧閾値の中から、取得した路面状況に対応する音圧閾値を選択する。
【0071】
走行音の条件のもう一つ別の例として、死角車両の走行速度について説明する。車両が高速で走行するとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ上昇する。逆に低速で走行するとタイヤ走行音の音圧が一定の値だけ下がる。この関係から、走行速度ごとに、予め回折音が反射音の音圧よりも大きくなる音圧閾値402を走行音の条件(走行速度)と対応付けて音圧閾値処理部401に保持しておく。音圧閾値切り替え部403は、死角車両が走行する道路の制限速度情報を用いて、死角車両の走行音の条件として、死角車両の走行速度を取得する。例えば、カーナビゲーションシステムがVICS(Vehicle Information and Communication System)から死角車両が走行する道路の制限速度情報を取得し、音圧閾値切り替え部403は、死角車両の走行速度として、制限速度情報で示される制限速度を取得しても良い。また、死角車両が走行している道路が渋滞している場合には、渋滞状況に応じた速度(例えば、一定速度15km)を死角車両の走行速度として取得しても良い。次に、音圧閾値切り替え部403は、音圧閾値保持部401Aが保持している複数の音圧閾値の中から、取得した死角車両の走行速度に対応する音圧閾値を選択する。
【0072】
再度図13を参照して、音圧閾値処理部401は、集音部102で集音された車外音101が、音圧閾値切り替え部403が選択した音圧閾値402より大きいか否かを判定する(ステップS201)。
【0073】
以降の処理(ステップS202およびS203)は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
かかる構成によれば、ワイパーの動作または雨滴センサを用いて雨天または晴天を判定する。走行音の条件の1つである雨天または晴天を示す天候状況における路面状況の違いにより、音圧閾値を変更する。これにより、雨天等の天候による路面状況に影響されずに反射音の影響を正確に除去することができる。よって、死角車両の音源の方向を正確に検知し、運転者に死角車両の正確な音源の方向を提示することができる。
【0075】
また、カーナビゲーションから得られる情報または振動センサを用いて砂利道と舗装道路の路面状況の違いを判定する。走行音の条件の1つである砂利道または舗装道路の路面状況の違いにより、音圧閾値を変更する。これにより、路面の舗装状況に影響されずに反射音の影響を正確に除去することができる。よって、死角車両の音源の方向を正確に検知し、運転者に死角車両の正確な音源の方向を提示することができる。
【0076】
また、制限速度情報を用いて死角車両の走行速度の違いを判定する。走行音の条件の1つである死角車両の走行速度の違いにより、音圧閾値を変更する。これにより、死角車両の走行速度の違いに影響されずに反射音の影響を正確に除去することができる。よって、死角車両の音源の方向を正確に検知し、運転者に死角車両の正確な音源の方向を提示することができる。
【0077】
なお、実施の形態2では、死角車両の走行音の条件として、天候状況、路面状況または走行速度を用いたが、これらを組み合わせたものを死角車両の走行音の条件としてもよい。図15は、音圧閾値保持部401Aに保持されている音圧閾値402の一例を示す図である。音圧閾値保持部401Aには、天候状況(路面の濡れ具合)、路面状況(路面)、および走行速度(死角車両の速度)の組合せからなる走行音の条件と音圧閾値との関係が示されている。例えば、天候状況が晴れで、路面状況が舗装道路で、走行速度が30km未満の場合には、音圧閾値切り替え部403は音圧閾値として80dBを選択する。
【0078】
なお、音圧閾値保持部401Aには、図15に示したように走行音の条件と音圧閾値とを対応付けて記憶するのではなく、図16に示すように基準の音圧閾値を記憶しており、走行音の条件と基準の音圧閾値からの差分を記憶するようにしてもよい。例えば、天候状況が晴れで、路面状況が舗装道路で、走行速度が30km以上の場合には、音圧閾値の差分は+5dBである。このため、音圧閾値切り替え部403は、この走行音の条件における音圧閾値として、基準の音圧閾値80dBに音圧閾値の差分+5dBを加算した85dBを選択する。
【0079】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態1および2では、集音部102で集音された車外音101を用いて死角車両のすべての音源の方向を検知していたが、実施の形態3では、自車両に複数の集音部を設置し、集音部ごとに音源の方向の検知範囲を変えている点が実施の形態1および2とは異なる。
【0080】
図17は、本発明の実施の形態3の死角車両検知システムの全体構成を示したブロック図である。図17において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0081】
図17において、死角車両検知システム602は、死角車両の音源の方向を検知して、検知結果を運転者に提示するシステムであり、集音部102aと、集音部102bと、死角車両検知装置600と、提示部107とを具備する。死角車両検知装置600は、集音部102aで集音された車外音101aまたは集音部102bで集音された集音部102bから死角車両の音源の方向を検知する装置であり、音圧閾値処理部103と、車両検知部601とを具備する。集音部102aと集音部102bとは離間して自車両に配置されている。音圧閾値処理部103は、音圧閾値保持部103Aを具備する。
【0082】
図18に、集音部102aと集音部102bを配置する方法の一例を示す。図18(a)に示すように、自車両のフロントバンパーの右側と左側に離間して配置する方法、図18(b)に示すように、自車両の天井の右側と左側に離間して配置する方法、図18(c)に示すように、自車両の後部の右側と左側に離間して配置する方法等がある。
【0083】
集音部102aは、自車両の右側に配置されており車外音101aを集音する。集音部102bは、自車両の左側に配置されており車外音101bを集音する。
【0084】
音圧閾値処理部103は、集音部102aが集音した車外音101aと集音部102bが集音した車外音101bの各々に対して、実施の形態1と同様に閾値処理を行う。
【0085】
車両検知部601は、左側の集音部102bで集音された車外音101bを用いて自車両の右側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知して、左側範囲に存在する死角車両の音源の方向は検知しない。また、車両検知部601は、右側の集音部102aで集音された車外音101aを用いて自車両の左側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知し、右側範囲に存在する死角車両の音源の方向は検知しない。つまり、車両検知部601は、左側の集音部102bで集音された車外音101bを用いて自車両の右側範囲のみを検知対象として死角車両の音源の方向を検知する。また、車両検知部601は、右側の集音部102aで集音された車外音101aを用いて自車両の左側範囲のみを検知対象として死角車両の音源の方向を検知する。なお、音源の方向を検知しないとは、音源の方向を検知はしているが出力しない場合も含むものとする。
【0086】
図19は、自車両の右側範囲と左側範囲とを説明するための図である。自車両の長手方向(自車両の直進方向)に平行で且つ集音部102aと集音部102bとから等距離の破線で示される直線を想定する。自車両の前進方向に向かって破線で示される直線の右側および左側を、それぞれ、自車両の右側範囲および左側範囲とする。なお、集音部102aおよび集音部102bは、少なくとも50cm、好ましくは1m以上離すのが好ましい。
【0087】
図20は、自車両の右側範囲と左側範囲とを説明するための他の図である。集音部102aおよび集音部102bはそれぞれ指向性範囲が範囲301aおよび301bである指向性マイクロホンであるとする。範囲301aおよび301bから等距離にある(集音部102aおよび集音部102bの指向性の放射強度(音圧感度)が等しくなる)破線で示される直線を想定する。この直線上に音源がある場合には、集音部102aで集音される音の音圧と集音部102bで集音される音の音圧とが等しくなる。自車両の前進方向に向かって破線で示される直線の右側および左側を、それぞれ、自車両の右側範囲および左側範囲とする。なお、集音部102aおよび集音部102bは、少なくとも50cm、好ましくは1m以上離すのが好ましい。
【0088】
図21は、遮蔽物の影響による回折減衰量の大きさを説明する図である。
【0089】
図21には、自車両の左側範囲の遮蔽物の死角に死角車両が存在する一例が示されている。回折減衰量の大きさは、音源位置(死角車両)と遮蔽物の角と集音部とが成す角度により定まり、角度が急になる(小さくなる)と急激に回折減衰量が大きくなる。この回折による音圧減衰量は、距離減衰量と比較して極めて大きい。このため、本構成のように、左側範囲の死角車両を、あえて死角車両(音源)から遠い右側の集音部102aで集音することにより、回折による音圧減衰量を小さく抑えることができて結果的に死角車両音を高感度で(音圧を大きく)集音することができる。また、右側範囲の死角車両を左側の集音部102bで集音する場合も同様な原理で死角車両音を高感度で集音することができる。
【0090】
図22は、遮蔽物による反射音の影響を説明する図である。
【0091】
図22には、自車両の右側範囲の遮蔽物の死角に死角車両が存在する一例が示されている。この例では、自車両の左側の遮蔽物で死角車両が発する音が反射して左側から反射音が到達する。左側の集音部102bで集音された車外音101bを用いて、自車両の右側範囲に存在する死角車両の音源の方向が検知されるため、左側から到達する反射音は検知対象外となり方向が検知されることはない。一方、右側の集音部102aで集音された車外音101aを用いた場合は、左側から到達する反射音は検知対象内であるが、遮蔽物との反射位置と集音部102aとは距離が離れているため、距離により反射音は大幅に減衰される。
【0092】
図23は、回折音と反射音との音圧の関係を示した図である。
【0093】
図23(a)には、回折音の音源に近い集音部で集音された実施の形態1の図3に示したのと同様の回折音と反射音との音圧の関係について示されている。横軸は死角車両と自車両との距離を示している。縦軸は音圧を示している。
【0094】
図23(b)には、実施の形態3の構成による回折音と反射音との音圧の関係について示されている。つまり、回折音の音源から遠い集音部で集音された回折音と反射音との音圧の関係について示されている。横軸は死角車両と集音部との距離を示している。縦軸は音圧を示している。実施の形態3によると、(i)死角車両(音源)から遠い集音部で回折音を集音することにより、回折による音圧減衰量を小さく抑えることができる。また、(ii)遮蔽物の反射位置に近い集音部で集音された反射音の方向は検知対象外である。さらに、(iii)遮蔽物の反射位置から遠い集音部で集音された反射音は距離により大きく減衰する。これら3つの特徴(i)〜(iii)から、回折音の音圧は回折音の音源から近い集音部で集音される場合に比べてより大きくなり、反射音は反射音の到来方向に近い集音部で集音される場合に比べてより小さくなる。このため、相対的に回折音は反射音よりもより音圧が大きくなる。このため、音圧閾値104を小さな値に設定することができて、遠方から死角車両を検知できるようになる。
【0095】
次に、以上のように構成された死角車両検知装置600の動作について説明する。
【0096】
図24は、死角車両検知システム602の動作手順を示したフローチャートである。
【0097】
集音部102aは、自車両の右側に配置されており車外音101aを集音する。集音部102bは、自車両の左側に配置されており車外音101bを集音する(ステップS1100)。
【0098】
音圧閾値処理部103は、集音部102aが集音した車外音101aと集音部102bが集音した車外音101bの各々に対して、実施の形態1と同様に閾値処理を行う(ステップS1101)。つまり、音圧閾値処理部103は、車外音101aおよび車外音101bのそれぞれについて、音圧閾値保持部103Aに保持されている音圧閾値104より大きいか否かを判定する。
【0099】
車両検知部601は、左側の集音部102bで集音された車外音101bのうち音圧閾値104より音圧が大きい車外音101bを用いて自車両の右側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知する。また、車両検知部601は、右側の集音部102aで集音された車外音101aのうち音圧閾値104より音圧が大きい車外音101aを用いて自車両の左側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知する(ステップS1102)。
【0100】
一例として、図25に示すように、集音部102aは2個の水平に配置されたマイクロホン102aLおよび102aRで構成され、集音部102bは2個の水平に配置されたマイクロホン102bLおよび102bRで構成されるものとする。車両検知部601は、マイクロホン102aLで集音された車外音101aと、マイクロホン102aRで集音された車外音101aとの到達時間差により死角車両の音源の方向を求める。このとき、音源の方向を探索する範囲は自車両の左側範囲に絞って行う。音源の方向を求める方法は実施の形態1に示したとおりである。
【0101】
車両検知部601が、自車両の右側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知する方法については、車両検知部601が、自車両の左側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知する方法と同様な方法で行うことができる。
【0102】
また、マイクロホン102aLおよび102aRの音圧を比較し、音源の方向を求めるようにしてもよい。この方法は、図11を参照して説明した実施の形態1と同様の方法により求めることができる。
【0103】
さらに、図26に示すように集音部102aを自車両の左側に指向性を持たせた指向性マイクロホンとし、集音部102bを自車両の右側に指向性を持たせた指向性マイクロホンとしてもよい。この場合には、車両検知部601は、集音部102aが音圧閾値よりも音圧が大きい車外音101aを集音した場合には、死角車両の音源の方向が左側であると判断する。また、車両検知部601は、集音部102bが音圧閾値よりも音圧が大きい車外音101bを集音した場合に、死角車両の音源の方向が右側であると判断する。
【0104】
再度図24を参照して、提示部107は、運転者に、車両検知部105が検知した死角車両の情報を提示して知らせる(ステップS203)。情報の提示方法は実施の形態1と同様である。
【0105】
かかる構成によれば、右側の集音部で集音された車外音から自車両の左側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知して、左側の集音部で集音された車外音から自車両の右側範囲に存在する死角車両の音源の方向を検知する。このため、(i)死角車両(音源)から遠い集音部で回折音を集音することにより、回折による音圧減衰量を小さく抑えることができる。また、(ii)遮蔽物の反射位置に近い集音部で集音された反射音の方向は検知対象外である。さらに、(iii)遮蔽物の反射位置から遠い集音部で集音された反射音は距離により大きく減衰する。これらの3つの特徴(i)〜(iii)から、回折音の音圧は音源から近い集音部で集音される場合に比べてより大きくなり、反射音は反射音の到来方向に近い集音部で集音される場合に比べてより小さくなる。このため、相対的に回折音は反射音よりもより音圧が大きくなる。このため、音圧閾値104を小さな値に設定することができ、遠方から死角車両を検知できるようになる。
【0106】
以上、本発明の実施の形態に係る死角車両検知システムについて説明したが、本発明は、実施の形態1〜3に限定されるものではない。
【0107】
上記の死角車両検知システムのうち、本発明に必須の構成要素は、集音部と、音圧閾値処理部と、車両検知部とであり、提示部は含まれていなくても良い。上記の死角車両検知装置のうち、本発明に必須の構成要素は、音圧閾値処理部と、車両検知部とであり、音圧閾値切り替え部は含まれていなくても良い。
【0108】
また、上記の死角車両検知システムによると、死角車両と、自車両から死角となっていない他車両とを区別することなく、自車両以外の両方の車両の音源の方向を検知することもできる。
【0109】
上記の各システムまたは各装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムとして構成されても良い。RAMまたはハードディスクドライブには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、各システムまたは各装置は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0110】
さらに、上記の各システムまたは各装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしても良い。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0111】
さらにまた、上記の各システムまたは各装置を構成する構成要素の一部または全部は、各システムまたは各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしても良い。ICカードまたはモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。ICカードまたはモジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしても良い。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、ICカードまたはモジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしても良い。
【0112】
また、本発明は、上記に示す方法であるとしても良い。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしても良いし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしても良い。
【0113】
さらに、本発明は、上記コンピュータプログラムまたは上記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu-ray Disc(登録商標))、半導体メモリなどに記録したものとしても良い。また、これらの非一時的な記録媒体に記録されている上記デジタル信号であるとしても良い。
【0114】
また、本発明は、上記コンピュータプログラムまたは上記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしても良い。
【0115】
また、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムに従って動作するとしても良い。
【0116】
また、上記プログラムまたは上記デジタル信号を上記非一時的な記録媒体に記録して移送することにより、または上記プログラムまたは上記デジタル信号を上記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしても良い。
【0117】
さらに、上記実施の形態および上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしても良い。
【0118】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明に係る死角車両検知システムによると、反射音の影響を除去して遮蔽物の死角に存在する死角車両の音源の方向を検知できる。このため、本発明に係る死角車両検知システムは、出会い頭などの遮蔽物の陰に隠れた死角車両を事前に検知して運転者に知らせる安全運転支援のための死角車両検知システム等に応用できる。
【符号の説明】
【0120】
100、400、600 死角車両検知装置
101、101a、101b 車外音
102、102a、102b 集音部
102aL、102aR、102bL、102bR マイクロホン
103、401 音圧閾値処理部
103A、401A 音圧閾値保持部
104、402 音圧閾値
105、601 車両検知部
106 検知結果
107 提示部
108、404、602 死角車両検知システム
403 音圧閾値切り替え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に配置され、車外音を集音する集音部と、
死角車両の回折音の音圧が前記死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値を保持しており、前記集音部で集音された車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理部と、
前記音圧閾値処理部で前記車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいと判定された場合に、前記集音部で集音された前記車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知部と、
を備える死角車両検知システム。
【請求項2】
前記音圧閾値処理部は、各々が前記死角車両の走行音の条件に対応した複数の音圧閾値を保持しており、
前記死角車両検知システムは、さらに、前記死角車両の走行音の条件を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した前記走行音の条件に対応する音圧閾値を選択する音圧閾値切り替え部を備え、
前記音圧閾値処理部は、前記集音部で集音された車外音の音圧が前記音圧閾値切り替え部が選択した前記音圧閾値より大きいか否かを判定する
請求項1に記載の死角車両検知システム。
【請求項3】
前記走行音の条件は、雨天または晴天を示す天候状況であり、
前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置されたワイパーが動作している場合に前記死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、前記ワイパーが動作していない場合に前記死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した天候状況に対応する音圧閾値を選択する
請求項2に記載の死角車両検知システム。
【請求項4】
前記走行音の条件は、雨天または晴天を示す天候状況であり、
前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置された雨滴センサが雨滴を検出した場合に前記死角車両の走行音の条件として雨天を示す天候状況を取得し、前記雨滴センサが雨滴を検出しない場合に前記死角車両の走行音の条件として晴天を示す天候状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した天候状況に対応する音圧閾値を選択する
請求項2に記載の死角車両検知システム。
【請求項5】
前記走行音の条件は、砂利道または舗装道路を示す路面状況であり、
前記音圧閾値切り替え部は、前記自車両に設置されたカーナビゲーションから得られる情報または振動センサから得られる振動検知結果を用いて、前記死角車両の走行音の条件として前記死角車両が走行する路面の路面状況を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した路面状況に対応する音圧閾値を選択する
請求項2に記載の死角車両検知システム。
【請求項6】
前記走行音の条件は、死角車両の走行速度であり、
前記音圧閾値切り替え部は、前記死角車両が走行する道路の制限速度情報から前記死角車両の走行音の条件として前記死角車両の走行速度を取得し、前記音圧閾値処理部が保持している前記複数の音圧閾値の中から、取得した前記死角車両の走行速度に対応する音圧閾値を選択する
請求項2に記載の死角車両検知システム。
【請求項7】
前記集音部は、互いに離間し、前記自車両の右側に配置された集音部と左側に配置され集音部とを含み、
前記車両検知部は、左側の集音部で集音された車外音を用いて前記自車両の右側範囲に存在する前記死角車両の音源の方向を検知し、右側の集音部で集音された車外音を用いて前記自車両の左側範囲に存在する前記死角車両の音源の方向を検知する
請求項1に記載の死角車両検知システム。
【請求項8】
死角車両の回折音の音圧が前記死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値を保持しており、自車両に配置された集音部で集音された車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理部と、
前記音圧閾値処理部で前記車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいと判定された場合に、前記集音部で集音された前記車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知部と、
を備える死角車両検知装置。
【請求項9】
自車両の車外音を集音する集音ステップと、
前記集音ステップにおいて集音された前記車外音の音圧が、死角車両の回折音の音圧が前記死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理ステップと、
前記音圧閾値処理ステップにおいて、前記車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいと判定された場合に、前記集音ステップにおいて集音された前記車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知ステップと、
を含む死角車両検知方法。
【請求項10】
自車両の車外音を集音する集音ステップと、
前記集音ステップにおいて集音された前記車外音の音圧が、死角車両の回折音の音圧が前記死角車両の反射音の音圧より大きくなる音圧閾値より大きいか否かを判定する音圧閾値処理ステップと、
前記音圧閾値処理ステップにおいて、前記車外音の音圧が前記音圧閾値より大きいと判定された場合に、前記集音ステップにおいて集音された前記車外音から、死角車両の音源の方向を検知する車両検知ステップと、
をコンピュータに実行させるための死角車両検知プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−145460(P2012−145460A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4400(P2011−4400)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】