段差乗り越え機構及び移動体
【課題】車輪が変更された場合にも、段差をスムーズに乗り越えることができる段差乗り越え機構を提供すること。
【解決手段】本発明の実施の形態に係る乗り越え機構は、筐体11に車輪回転軸を介して接続されたキャスター12と、キャスター12の車輪回転軸よりも上方において、筐体11に回転軸を介して接続され、キャスター12が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材13とを備える。棒状部材13の長さは、段差の高さと、筐体11からキャスター12の接地面までの長さに応じて決定される。
【解決手段】本発明の実施の形態に係る乗り越え機構は、筐体11に車輪回転軸を介して接続されたキャスター12と、キャスター12の車輪回転軸よりも上方において、筐体11に回転軸を介して接続され、キャスター12が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材13とを備える。棒状部材13の長さは、段差の高さと、筐体11からキャスター12の接地面までの長さに応じて決定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差乗り越え機構及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
ATM等の重量装置を設置台の上に設置する際、設置台の段差を乗り越える必要がある。従来、スロープを敷いて、複数人によって重量装置を持ち上げながら押すことにより設置台の上に乗せていた。しかしながら、狭小場所への設置の際には人が装置の背面へ回り込むことが出来ず、スロープを使用して段差を乗り越えることが困難な場合があった。
【0003】
特許文献1には、補助輪を装備した段差用の車輪が記載されている。主車輪が設けられたアームにおいて、主車輪の回転軸の前方に副アームが付設されている。副アームの先端には、補助車輪が設けられている。補助輪は主車輪が接触する前に段差に接触する。補助輪と段差の接触点、副アームの回転軸を中心として、副アームが回転することにより主車輪が持ちあげられる。
【0004】
引用文献2には、段差乗り上げ用の回動部材を備えるキャスターが記載されている。車輪支持フレームにおいて、車輪の回転軸よりも上方に回動部材が設けられている。回動部材は扇状であり、その回転半径は車輪の回転半径よりも大きくなっている。車輪が段差に接触する前に、回動部材が段差に接触する。回動部材が段差との接触点を中心として回転することにより、キャスターが段差状に乗り上がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−1906号公報
【特許文献2】特開2008−207748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2では、段差を乗り越える際に、車輪よりも先に段差に接触する部材が主車輪を支持するアームに設けられている。車輪が異なる場合、このような段差を乗り越えるための部材をそのまま適用することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題を背景としてなされたものであり、車輪が変更された場合にも、段差をスムーズに乗り越えることができる段差乗り越え機構及び移動体を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る移動体は、筐体に設けられた車輪と、前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材とを備える。
【0009】
本発明の一態様に係る段差乗り上げ機構は、筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材とを備える。
【0010】
このように、段差を乗り越えるための部材が、筐体に直接接続されているため、車輪を変更しても、棒状部材を用いて、筐体に段差を容易に乗り越えさせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、車輪が変更された場合にも、段差をスムーズに乗り越えることができる段差乗り越え機構及び移動体を提供することを主たる目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る段差乗り越え機構を備える移動体の構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係る段差乗り越え機構の構成を示す図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】実施の形態に係る段差乗り越え機構の構成を示す斜視図である。
【図5】実施の形態に係る棒状部材の大きさを説明する図である。
【図6A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図6B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図7A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図7B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図8A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図8B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図9】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、段差乗り越え用の棒状部材を有するキャスター付の移動体に関する。本発明は、例えば、ATM等の重量装置をアンカー台に設置する際に、アンカー台の厚み分の段差を乗り越える際に用いられる。棒状部材は、キャスターとは別個に筐体に設けられている。キャスターが段差に接触する前に棒状部材の先端が段差に接触し、接触点を中心として棒状部材が回転することにより、移動体を段差の上に持ち上げる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明は、本発明の実施の形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。説明の明確化のため、以下の記載は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、当業者であれば、以下の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0015】
実施の形態.
本発明の実施の形態に係る段差乗り上げ機構について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る段差乗り上げ機構を有する移動体10の構成を示す図である。図1に示すように、移動体10は、筐体11、キャスター12、固定部材13、棒状部材14を備えている。図1に示す例では、図面右側が移動体の進行方向であるものとする。
【0016】
筐体11は、例えば、ATM等の重量装置である。筐体11の下面には、キャスター12が設けられている。図1に示す例では、4つのキャスター12が、矩形状の筐体11の下面の4つの角にそれぞれ配置されている。
【0017】
筐体11の進行方向側の2つのキャスター12の近傍には、棒状部材13がそれぞれ設けられている。棒状部材13は、キャスター12とは別個に設けられている。棒状部材13は、進行方向側のキャスター12が段差に接触する前に当該段差に接触する。棒状部材13は、筐体11の下面において、筐体11自体に直接回動自在に支持されている。
【0018】
ここで、図2、3、4を参照して、棒状部材13が筐体11に接続されている部分について詳細に説明する。図2、4は、移動体10の段差乗り越え機構の部分を拡大した図である。図3は、図2のIII−III断面図である。なお、図4において、説明のため、筐体11により隠れて見えない部分についても図示している。
【0019】
図2、3、4に示すように、筐体11のキャスター12が取り付けられた部分の側方には凹部15が設けられている。凹部15内には、シャフト16を介して棒状部材13が回動自在に接続されている。シャフト16が、棒状部材13の回転中心となる支持点である。棒状部材13は、棒状部材13の筐体11への支持点を中心として回転する。
【0020】
次に、図5を参照して、棒状部材13の長さについて説明する。図5に示すように、
筐体11の下面からキャスター12の接地点までの距離をT1、筐体11の下面から棒状部材13が筐体11に接続される支持点までの距離をT2、棒状部材13の長さをT3とする。また、乗り越えたい段差の高さをαとする。棒状部材13の長さは、以下の式を満たす。
T3≧T1+T2+α
【0021】
このように、棒状部材13は、乗り越えたい段差の高さと、筐体11の下面からキャスター12の接地点までの距離及び筐体11の下面から棒状部材13の支持点までの距離とを足し合わせた長さよりも長い。このように、棒状部材13に乗り越えたい段差の高さに対応したプロファイルを与えることで、意図した段差をスムーズに乗り越えることが可能となる。
【0022】
棒状部材13の先端が段差に接触し、棒状部材13と段差との接触点、及び、棒状部材13の筐体11における支持点を中心として回転することにより、筐体11が段差の上に持ちあげられる。
【0023】
また、棒状部材13は、使用していないときには、任意に格納することが可能である。これにより、段差のない平坦な面を移動する際には格納することで、通常の移動の妨げとならない。
【0024】
筐体11の進行方向と逆側の2つのキャスター12の近傍には、固定部材14が設けられている。固定部材14は、移動体10を所定の位置に設置する際に、移動体10が動かないように固定するものである。
【0025】
ここで、図6A、6B、7A、7B、8A、8B、9を参照して、移動体10が段差を乗り越える状態について説明する。図6A、6Bは、棒状部材13が段差に接触した状態を示している。図7A、7Bは、棒状部材13により筐体11が持ちあげられた状態を示している。図8A、8Bは、筐体11が段差上に着地した状態を示している。
【0026】
図6A、6Bに示すように、キャスター12が段差に接触する前に、棒状部材13の先端が段差に接触する。棒状部材13は、キャスター12が接触している走行面20及び段差の側面21に接触する。
【0027】
その後、進行方向に向かって筐体11を押すことにより、図7A、7Bに示すように、棒状部材13は、段差の側面21との接触点及び棒状部材13の筐体11への支持点を中心として回転する。
【0028】
棒状部材13が段差の側面21に引っかかるため、棒状部材13が安定して回転する。これにより、筐体11が上方向に持ちあげられる。棒状部材13は、移動体10の進行方向への運動を上方向への運動へと変換する昇降カムの役割を果たす。
【0029】
そして、進行方向に向かってさらに筐体11を押すと棒状部材13がさらに回転し、図8A、8Bに示すように、キャスター12の底面が段差の上面22に接地する。このように、棒状部材13を筐体11に直接回動自在に接続することにより、筐体11を簡単に段差上に移動させることが可能となる。
【0030】
進行方向側のキャスター12が段差上に接地すれば、筐体11をさらに進行方向側に押すことにより、図9に示すように移動体10全体を容易に段差上に乗り上げさせることが可能である。
【0031】
従来は、重量装置が段差を乗り越えるためにはスロープが必要であり、更に重量装置を押してスロープ上に運ぶために複数名での作業が必要であった。しかしながら、本発明によれば、ATM等の重量装置を設置する際に必要な人員、冶具を減らすことが出来る。
【0032】
また、重量のある装置を複数人で持ち上げたりする時は、息が合わないと装置に挟まれたり、転倒したり等の危険が予測されるが、本機構を筐体11に組み込むことでこのような問題が解消され、作業者への負担を軽減させることが可能となる。
【0033】
ATM等の設置には背面にスペースの無い場合が殆どの為、人が背面で装置をてこで持ち上げて引っ張るためスペースを確保することは難しい。てこで持ち上げるための冶具も重量装置に見合った強度が必要で、狭小スペースの場合は取り扱いが難しい。しかし、本発明によれば、このようなスペースを確保する必要がなく、てこ等の冶具も不要となる。
【0034】
特許文献1、2では、段差を乗り越えるための部材が、車輪が接続されるアームに接続されているため、車輪が変更された場合に適用することができないという問題があった。すなわち、老朽化により車輪を変更する場合には、段差を乗り越えるための部材がまだ使用可能であったとしても、この部材ごと車輪を交換する必要があった。
【0035】
しかし、本実施の形態に係る段差乗り越え機構は、筐体11に直接接続されている。従って、キャスター12を変更しても、棒状部材13を用いて、筐体11に段差を容易に乗り越えさせることができる。つまり、キャスター12、棒状部材13のそれぞれを同時にではなく、別々に交換することができる。
【0036】
特に、移動体10が重量装置の場合、キャスター12は走行面20を走行する際に常に筐体11の重量がかかっており消耗が激しい一方、棒状部材13は段差を乗り越えるときにしか使用しないため消耗しない。このような場合、キャスター12のみを交換することができ、コストの低減を図ることが可能となる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、重量装置等の移動体の段差の乗り越えに必要な作業を、限られたスペースで簡単に、単独で行うことができる。
【0038】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0039】
(付記1)
筐体に設けられた車輪と、
前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える移動体。
(付記2)
前記筐体の進行方向側の車輪近傍に設けられている請求項2に記載の移動体。
(付記3)
平坦面を走行している場合に、前記棒状部材を格納する格納手段をさらに備える請求項1又は2に記載の移動体。
(付記4)
前記車輪が走行面から段差の上面に到達するまで、前記棒状部材が前記段差に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体。
(付記5)
筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、
前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える段差乗り越え機構。
(付記6)
前記棒状部材の長さは、前記段差の高さと、前記筐体から前記車輪の接地面までの長さに応じて決定される請求項5に記載の段差乗り越え機構。
【0040】
なお、上記の実施の形態では、ATM等の重量装置を例として記載したが、これに限定されるものではない。例えば、車椅子、家具等、キャスターで移動するもの全てに対して適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 移動体
11 筐体
12 キャスター
13 棒状部材
14 固定部材
15 凹部
16 シャフト
20 走行面
21 側面
22 上面
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差乗り越え機構及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
ATM等の重量装置を設置台の上に設置する際、設置台の段差を乗り越える必要がある。従来、スロープを敷いて、複数人によって重量装置を持ち上げながら押すことにより設置台の上に乗せていた。しかしながら、狭小場所への設置の際には人が装置の背面へ回り込むことが出来ず、スロープを使用して段差を乗り越えることが困難な場合があった。
【0003】
特許文献1には、補助輪を装備した段差用の車輪が記載されている。主車輪が設けられたアームにおいて、主車輪の回転軸の前方に副アームが付設されている。副アームの先端には、補助車輪が設けられている。補助輪は主車輪が接触する前に段差に接触する。補助輪と段差の接触点、副アームの回転軸を中心として、副アームが回転することにより主車輪が持ちあげられる。
【0004】
引用文献2には、段差乗り上げ用の回動部材を備えるキャスターが記載されている。車輪支持フレームにおいて、車輪の回転軸よりも上方に回動部材が設けられている。回動部材は扇状であり、その回転半径は車輪の回転半径よりも大きくなっている。車輪が段差に接触する前に、回動部材が段差に接触する。回動部材が段差との接触点を中心として回転することにより、キャスターが段差状に乗り上がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−1906号公報
【特許文献2】特開2008−207748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2では、段差を乗り越える際に、車輪よりも先に段差に接触する部材が主車輪を支持するアームに設けられている。車輪が異なる場合、このような段差を乗り越えるための部材をそのまま適用することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題を背景としてなされたものであり、車輪が変更された場合にも、段差をスムーズに乗り越えることができる段差乗り越え機構及び移動体を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る移動体は、筐体に設けられた車輪と、前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材とを備える。
【0009】
本発明の一態様に係る段差乗り上げ機構は、筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材とを備える。
【0010】
このように、段差を乗り越えるための部材が、筐体に直接接続されているため、車輪を変更しても、棒状部材を用いて、筐体に段差を容易に乗り越えさせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、車輪が変更された場合にも、段差をスムーズに乗り越えることができる段差乗り越え機構及び移動体を提供することを主たる目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る段差乗り越え機構を備える移動体の構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係る段差乗り越え機構の構成を示す図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】実施の形態に係る段差乗り越え機構の構成を示す斜視図である。
【図5】実施の形態に係る棒状部材の大きさを説明する図である。
【図6A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図6B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図7A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図7B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図8A】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図8B】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【図9】実施の形態に係る移動体の段差を乗り越える状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、段差乗り越え用の棒状部材を有するキャスター付の移動体に関する。本発明は、例えば、ATM等の重量装置をアンカー台に設置する際に、アンカー台の厚み分の段差を乗り越える際に用いられる。棒状部材は、キャスターとは別個に筐体に設けられている。キャスターが段差に接触する前に棒状部材の先端が段差に接触し、接触点を中心として棒状部材が回転することにより、移動体を段差の上に持ち上げる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明は、本発明の実施の形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。説明の明確化のため、以下の記載は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、当業者であれば、以下の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0015】
実施の形態.
本発明の実施の形態に係る段差乗り上げ機構について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る段差乗り上げ機構を有する移動体10の構成を示す図である。図1に示すように、移動体10は、筐体11、キャスター12、固定部材13、棒状部材14を備えている。図1に示す例では、図面右側が移動体の進行方向であるものとする。
【0016】
筐体11は、例えば、ATM等の重量装置である。筐体11の下面には、キャスター12が設けられている。図1に示す例では、4つのキャスター12が、矩形状の筐体11の下面の4つの角にそれぞれ配置されている。
【0017】
筐体11の進行方向側の2つのキャスター12の近傍には、棒状部材13がそれぞれ設けられている。棒状部材13は、キャスター12とは別個に設けられている。棒状部材13は、進行方向側のキャスター12が段差に接触する前に当該段差に接触する。棒状部材13は、筐体11の下面において、筐体11自体に直接回動自在に支持されている。
【0018】
ここで、図2、3、4を参照して、棒状部材13が筐体11に接続されている部分について詳細に説明する。図2、4は、移動体10の段差乗り越え機構の部分を拡大した図である。図3は、図2のIII−III断面図である。なお、図4において、説明のため、筐体11により隠れて見えない部分についても図示している。
【0019】
図2、3、4に示すように、筐体11のキャスター12が取り付けられた部分の側方には凹部15が設けられている。凹部15内には、シャフト16を介して棒状部材13が回動自在に接続されている。シャフト16が、棒状部材13の回転中心となる支持点である。棒状部材13は、棒状部材13の筐体11への支持点を中心として回転する。
【0020】
次に、図5を参照して、棒状部材13の長さについて説明する。図5に示すように、
筐体11の下面からキャスター12の接地点までの距離をT1、筐体11の下面から棒状部材13が筐体11に接続される支持点までの距離をT2、棒状部材13の長さをT3とする。また、乗り越えたい段差の高さをαとする。棒状部材13の長さは、以下の式を満たす。
T3≧T1+T2+α
【0021】
このように、棒状部材13は、乗り越えたい段差の高さと、筐体11の下面からキャスター12の接地点までの距離及び筐体11の下面から棒状部材13の支持点までの距離とを足し合わせた長さよりも長い。このように、棒状部材13に乗り越えたい段差の高さに対応したプロファイルを与えることで、意図した段差をスムーズに乗り越えることが可能となる。
【0022】
棒状部材13の先端が段差に接触し、棒状部材13と段差との接触点、及び、棒状部材13の筐体11における支持点を中心として回転することにより、筐体11が段差の上に持ちあげられる。
【0023】
また、棒状部材13は、使用していないときには、任意に格納することが可能である。これにより、段差のない平坦な面を移動する際には格納することで、通常の移動の妨げとならない。
【0024】
筐体11の進行方向と逆側の2つのキャスター12の近傍には、固定部材14が設けられている。固定部材14は、移動体10を所定の位置に設置する際に、移動体10が動かないように固定するものである。
【0025】
ここで、図6A、6B、7A、7B、8A、8B、9を参照して、移動体10が段差を乗り越える状態について説明する。図6A、6Bは、棒状部材13が段差に接触した状態を示している。図7A、7Bは、棒状部材13により筐体11が持ちあげられた状態を示している。図8A、8Bは、筐体11が段差上に着地した状態を示している。
【0026】
図6A、6Bに示すように、キャスター12が段差に接触する前に、棒状部材13の先端が段差に接触する。棒状部材13は、キャスター12が接触している走行面20及び段差の側面21に接触する。
【0027】
その後、進行方向に向かって筐体11を押すことにより、図7A、7Bに示すように、棒状部材13は、段差の側面21との接触点及び棒状部材13の筐体11への支持点を中心として回転する。
【0028】
棒状部材13が段差の側面21に引っかかるため、棒状部材13が安定して回転する。これにより、筐体11が上方向に持ちあげられる。棒状部材13は、移動体10の進行方向への運動を上方向への運動へと変換する昇降カムの役割を果たす。
【0029】
そして、進行方向に向かってさらに筐体11を押すと棒状部材13がさらに回転し、図8A、8Bに示すように、キャスター12の底面が段差の上面22に接地する。このように、棒状部材13を筐体11に直接回動自在に接続することにより、筐体11を簡単に段差上に移動させることが可能となる。
【0030】
進行方向側のキャスター12が段差上に接地すれば、筐体11をさらに進行方向側に押すことにより、図9に示すように移動体10全体を容易に段差上に乗り上げさせることが可能である。
【0031】
従来は、重量装置が段差を乗り越えるためにはスロープが必要であり、更に重量装置を押してスロープ上に運ぶために複数名での作業が必要であった。しかしながら、本発明によれば、ATM等の重量装置を設置する際に必要な人員、冶具を減らすことが出来る。
【0032】
また、重量のある装置を複数人で持ち上げたりする時は、息が合わないと装置に挟まれたり、転倒したり等の危険が予測されるが、本機構を筐体11に組み込むことでこのような問題が解消され、作業者への負担を軽減させることが可能となる。
【0033】
ATM等の設置には背面にスペースの無い場合が殆どの為、人が背面で装置をてこで持ち上げて引っ張るためスペースを確保することは難しい。てこで持ち上げるための冶具も重量装置に見合った強度が必要で、狭小スペースの場合は取り扱いが難しい。しかし、本発明によれば、このようなスペースを確保する必要がなく、てこ等の冶具も不要となる。
【0034】
特許文献1、2では、段差を乗り越えるための部材が、車輪が接続されるアームに接続されているため、車輪が変更された場合に適用することができないという問題があった。すなわち、老朽化により車輪を変更する場合には、段差を乗り越えるための部材がまだ使用可能であったとしても、この部材ごと車輪を交換する必要があった。
【0035】
しかし、本実施の形態に係る段差乗り越え機構は、筐体11に直接接続されている。従って、キャスター12を変更しても、棒状部材13を用いて、筐体11に段差を容易に乗り越えさせることができる。つまり、キャスター12、棒状部材13のそれぞれを同時にではなく、別々に交換することができる。
【0036】
特に、移動体10が重量装置の場合、キャスター12は走行面20を走行する際に常に筐体11の重量がかかっており消耗が激しい一方、棒状部材13は段差を乗り越えるときにしか使用しないため消耗しない。このような場合、キャスター12のみを交換することができ、コストの低減を図ることが可能となる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、重量装置等の移動体の段差の乗り越えに必要な作業を、限られたスペースで簡単に、単独で行うことができる。
【0038】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0039】
(付記1)
筐体に設けられた車輪と、
前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える移動体。
(付記2)
前記筐体の進行方向側の車輪近傍に設けられている請求項2に記載の移動体。
(付記3)
平坦面を走行している場合に、前記棒状部材を格納する格納手段をさらに備える請求項1又は2に記載の移動体。
(付記4)
前記車輪が走行面から段差の上面に到達するまで、前記棒状部材が前記段差に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体。
(付記5)
筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、
前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える段差乗り越え機構。
(付記6)
前記棒状部材の長さは、前記段差の高さと、前記筐体から前記車輪の接地面までの長さに応じて決定される請求項5に記載の段差乗り越え機構。
【0040】
なお、上記の実施の形態では、ATM等の重量装置を例として記載したが、これに限定されるものではない。例えば、車椅子、家具等、キャスターで移動するもの全てに対して適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 移動体
11 筐体
12 キャスター
13 棒状部材
14 固定部材
15 凹部
16 シャフト
20 走行面
21 側面
22 上面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に設けられた車輪と、
前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える移動体。
【請求項2】
前記筐体の進行方向側の車輪近傍に設けられている請求項2に記載の移動体。
【請求項3】
平坦面を走行している場合に、前記棒状部材を格納する格納手段をさらに備える請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項4】
前記車輪が走行面から段差の上面に到達するまで、前記棒状部材が前記段差に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項5】
筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、
前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える段差乗り越え機構。
【請求項6】
前記棒状部材の長さは、前記段差の高さと、前記筐体から前記車輪の接地面までの長さに応じて決定される請求項5に記載の段差乗り越え機構。
【請求項1】
筐体に設けられた車輪と、
前記筐体に回動可能に接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える移動体。
【請求項2】
前記筐体の進行方向側の車輪近傍に設けられている請求項2に記載の移動体。
【請求項3】
平坦面を走行している場合に、前記棒状部材を格納する格納手段をさらに備える請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項4】
前記車輪が走行面から段差の上面に到達するまで、前記棒状部材が前記段差に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項5】
筐体に車輪回転軸を介して接続された車輪と、
前記車輪回転軸よりも上方において、前記筐体に回転軸を介して接続され、前記車輪が段差に接触する前に当該段差に接触する棒状部材と、
を備える段差乗り越え機構。
【請求項6】
前記棒状部材の長さは、前記段差の高さと、前記筐体から前記車輪の接地面までの長さに応じて決定される請求項5に記載の段差乗り越え機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公開番号】特開2013−82258(P2013−82258A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222022(P2011−222022)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
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