説明

水不溶性色材分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】顔料等の水不溶性色材を微細かつ均一な粒子径を有するナノメートルサイズの微粒子として分散させた分散体およびその製造方法を提供する。さらには、顔料等の水不溶性色材と特定の高分子化合物との共溶解性を改善し、上記高分子化合物と水不溶性色材との組合せ選択肢を豊富化し汎用性を高め、しかも分散安定化を高めた分散体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有機溶剤に、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、親水性基を有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合させる工程を有する製造方法により得られる水不溶性色材分散体。


(式中、R〜Rはそれぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基を表し、nは1〜4の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性色材分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少ない。また、低コストで画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点がある。そのため今日においては急速に普及しさらに発展しつつある。この記録液として従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0003】
ところで顔料インクは、通常水に不溶性の顔料を水性媒体に分散して得られる。そして一般的には、顔料および各種界面活性剤や水溶性高分子などを分散剤として、それらを単独あるいは併用して水性溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている(特許文献1、2参照)。また、着色力や耐候性の向上を考慮し顔料を固溶体化することが提案されている(特許文献3参照)。その他、液相で顔料等を生成させるビルドアップ法としてアルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法が開示されている(特許文献4参照)。またそこに用いられる所定の高分子化合物等の検討がなされている(特許文献5、6参照)。しかし、高分子化合物を分散剤とする上記ビルドアップ法においては、有機溶媒に対する顔料溶解性/高分子化合物の共溶解性と、水と混合した際の顔料分散性両立が難しいことがある。これに対して、特殊な構造を持つ高分子化合物を設計することで共溶解性/顔料分散性を両立する検討等がなされてきた(特許文献7参照)。しかし、汎用性が高く、効率良くかつ低コストでナノメートルサイズの微粒子を含有する工業的に利用価値の高い安定な分散体を得るには更なる開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−57044号公報
【特許文献2】特開2006−328262号公報
【特許文献3】特開昭60−35055号公報
【特許文献4】特開2004−43776号公報
【特許文献5】特開2003−26972号公報
【特許文献6】特開2006−342316号公報
【特許文献7】特開2007−119586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、顔料等の水不溶性色材を微細かつ均一な粒子径を有する微粒子として分散させた分散体およびその製造方法の提供を目的とする。さらには、顔料等の水不溶性色材と特定の酸基を有する高分子化合物との共溶解性を改善し、上記高分子化合物と水不溶性色材との組合せ選択肢を豊富化し汎用性を高め、しかも分散安定化を高めた分散体及びその製造方法の提供を目的とする。さらにインクとしたときの、保存性、吐出性、透明性、及び光沢性を改良しうる分散体並びにこの製造方法の提供を目的とし、また、これを用いた記録液、インクセット、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的に鑑み、鋭意検討を行った結果、特定の酸基を親水性部位として有する高分子化合物に相間移動塩基を作用させると、有機溶剤等への高溶解性と顔料との共溶解を両立することができ、これを用いて調製した水不溶性色材の微粒子を含有する分散体の分散安定性を高めることができることを見出した。さらに本発明者らは、上記水不溶性色材の微粒子の凝集体を再分散し高濃度の分散体を必要により作製する際においても、前記相間移動型塩基を用いることで粒子分散性及び粘度を共に小さくすることができ、かつ経時安定性の高い顔料分散液を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記の課題は以下の手段により達成される。
(1)有機溶剤に、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合させる工程を有する製造方法により得られる水不溶性色材分散体であって、水不溶性色材の微粒子と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物と、水性媒体と、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基とを含んでなることを特徴とする水不溶性色材分散体。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基を表し、nは1〜4の整数である。)
(2)前記相間移動塩基のClogP値が、負の値を示すことを特徴とする(1)に記載の水不溶性色材分散体。
(3)前記酸基がカルボン酸基であることを特徴とする(1)又は(2)記載の水不溶性色材分散体。
(4)前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(5)有機溶剤に、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び
前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させ、該微粒子を分散させる工程
を有することを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基を表し、nは1〜4の整数である。)
(6)前記水不溶性色材分散体と有機酸及び/又は無機酸とを混合し、前記水不溶性色材の微粒子の凝集物を得る工程、及び
前記凝集物と水性媒体とを混合し前記微粒子の凝集を解き再分散する工程
をさらに有することを特徴とする(5)記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
(7)前記凝集物と水性媒体との混合物に前記一般式(I)または(II)で表される相間移動塩基を含有させることを特徴とする(6)に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
(8)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製された記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(9)前記記録液がインクジェット用記録液である(8)に記載の記録液。
(10)(9)に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
(11)(8)もしくは(9)に記載の記録液、又は(10)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(12)(8)もしくは(9)に記載の記録液、又は(10)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分散体は、水不溶性色材の微粒子がナノメートルサイズにまで微細化されていても、その凝集が抑えられあるいは穏和な条件で再分散可能な軟凝集状態とし、その分散体の高い分散安定性を実現・維持しうるという優れた作用効果を奏する。また、本発明の製造方法によれば、水不溶性色材と高分子化合物とが共溶解し、沈降物等のない良好な溶解液を用い、上記の優れた特性を有する分散体を効率良くかつ純度良く製造することができる。
また、本発明の分散体は、入手ないし合成しにくい特殊な高分子化合物に頼ることなく、水不溶性色材と特定の酸基を有する高分子化合物との組合せ選択肢を豊富化し汎用性を高めることができ、しかもこれらを含有し高い分散安定性を示すものとすることができる。さらに本発明の水不溶性色材の微粒子分散体は保存安定性が高く、長時間の貯蔵が可能であり、これを用いた記録液及びインクセットの良好な品質を維持し、その印画物、画像形成方法、画像形成装置の印画精度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の分散体は、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群れより選ばれる一種類以上を親水性部位として有する高分子化合物を含有する。この高分子化合物は水不溶性色材の微粒子の分散剤として用いることが好ましく、具体的にはスチレン、ビニルナフタレン、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、フマール酸、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、及びその誘導化合物から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つはカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基のいずれかになる官能基を有する単量体)から構成されるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、これらの変性物、又はこれらの塩等が挙げられる。
【0010】
酸基としてより好ましくはカルボン酸、又はスルホン酸であり、さらに好ましくはカルボン酸である。また、この高分子化合物は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。さらに、これら酸基含有ポリマーが持つ酸価のより好ましい範囲は100mgKOH/g〜300mgKOH/gであり、さらに好ましくは140mgKOH/g〜240mgKOH/gである。
【0011】
更に詳しく説明すると、本発明における高分子化合物は前記酸基を親水性基として有する部位(繰り返し単位)と疎水性基を有する部位(繰り返し単位)から構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0012】
例えば、疎水性モノマー成分としては、炭素数8以上の長鎖アルキル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやステアリルメタクリルアミド等を疎水性モノマーとしての繰り返し単位に有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0013】
また、親水性モノマー成分としては、前述したカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩等が挙げられるが、親水性モノマー成分はこれに限定されるものではない。
【0014】
上記カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物を、後述する水不溶性色材とともに共溶解した溶解液中に含有させる量は、分散体としたときの均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、水不溶性色材100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。この量が少なすぎると有機顔料微粒子の分散安定性が向上しないことがある。本発明の分散体に含まれる上記高分子化合物の量は特に限定されないが、水不溶性色材100質量部に対して10〜100質量部であることが実際的である。上記高分子化合物の分子量は特に限定されないが質量平均分子量で5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0015】
上記酸基を有する高分子化合物の分散液中における含有形態は特に限定されず、その他の成分とは独立して含まれていても、その他の成分と集合して含まれていてもよい。すなわち本発明において「水不溶性色材の微粒子を高分子化合物とともに含有させた分散体」とは、分散体中の水不溶性色材の微粒子の中に高分子化合物が含まれていても、分散体中で微粒子とは別に高分子化合物が共存していてもよい。したがって、高分子化合物の一部が微粒子に吸着し、解離平衡状態になっているような含有形態も上記概念に含まれる。このことは、上記酸基を有する高分子化合物以外の成分、例えば後述する相間移動塩基等についても同様である。
【0016】
本発明の分散体は上記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基が含有する。
式中、R〜Rはメチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基又はイソプロピル基)であるが、好ましくはメチル基、エチル基、又はn−プロピル基であり、より好ましくはメチル基あるいはエチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0017】
また本発明に用いられる相間移動塩基は、ClogP値が負となるものが好ましく、さらには−2より低いものであることが好ましい。ClogP値の下限値は特に制限はないが、通常−6以上である。ここでClogP値とは、化合物の1−オクタノール中及び水中における化合物の平衡濃度間の比率を示す1−オクタノール/水分配係数Pの常用対数値をいう。このClogP値は、化合物の化学構造に基づくフラグメントアプローチ(A. Leo, Comprehensive Medical Chemistry, Vol.4; C. Hansch, P. G. Sammens, J. B. Taylor and C. A. Ramden, Eds., p.295, Pergramon Press, 1990)等によって決定され、デイライト・ケミカル・インフォメーション・システム社から入手し得る”CLOGP”プログラムで計算された値と定義される。
【0018】
上記相間移動塩はアンモニウム化合物が好ましく、コリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、又はテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
【0019】
前記相間移動塩基の使用割合は特に限定されるものではないが、有機溶剤に水不溶性色材と、前記酸基を親水性部位として有する高分子化合物とを共溶解させる工程では、例えば水不溶性色材100質量部に対し前記酸基を親水性部位として有する高分子化合物50質量部を混合するとき、水不溶性色材とのモル比で前記相間移動塩基を1.0〜100モル当量であることが好ましく、1.5〜50モル当量であることがより好ましく、2.0〜20モル当量であることが特に好ましい。
【0020】
また、後述するように、水不溶性色材分散体から得られる水不溶性色材の微粒子の凝集体を分散させたものを含め、前記相間移動塩基の水不溶性色材分散体中の含有量は、前記酸基を有する高分子化合物が持つ酸基1モル当量に対し、0.5〜10モル当量であることが好ましく、0.8〜5モル当量であることがより好ましく、0.9〜1.5モル当量であることが特に好ましい。
【0021】
本発明において「塩基」とは水を含む液中で解離してオキソニウムイオン(OH)を生じる化合物と定義する。ただし、上記塩基は液中でイオンに解離した状態で存在していてもよい。この「塩基」は水溶液や水分散液といった水を含む液中で解離し、特定の陽イオンとオキソニウムイオン(陰イオン)を生ずるが、該陽イオンが検出されればオキソニウムイオンを確認しなくても、その水を含む液は上記「塩基」を有するとみなされる。本発明における塩基の検出・定量方法は特に限定されないが、化合物同定において一般に使用されるH−NMR解析法や液体クロマトグラフィーによりその構造を、中和滴定によりその量を知ることができる。また、本発明においては、とくに上記塩基が水相と有機相とを移動しうる相間移動塩基を用いる。
【0022】
上記のとおり、本発明の製造方法によればアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属といった無機塩基を用いて顔料を溶解する必要がない。そのため、分散体としたときに残留する金属イオンによるデバイス中の電極等の汚染や腐食が抑制ないし防止される。また、通常上記の点に鑑み金属イオンの除去を行うが、この操作には極めて煩雑な処理操作を要する。これに対し、本発明によれば、そのような迂遠な工程を必要とせずに無機塩基を含まないものとすることができ、金属イオン等が劣化の要因となる緻密に配設された電極構造等を有する精密機器等にも好適に用いることができる。
【0023】
ただし上記非プロトン性水溶性有機溶剤に含有させるアルカリは一般式(I)で表される塩基のほか、必要に応じて、さらに次に挙げるようなアルカリを添加してもよい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ナトリウムメトキシド、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウムなどの金属アルコキシド、などの無機塩基、有機塩基を併せて用いることができる。
【0024】
本発明における相間移動型塩基は、塩基部の対骨格が水性相/有機性相への両親媒性を持つことが好ましい。このような相間移動型塩基を用いると、例えば凝集体を再分散させる工程において、通常の金属アルカリによる分散に比べ凝集体の再分散を大幅に速めることができる。これは、水層中の塩基が、対カチオンの相間移動性によりカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性部位として有する高分子化合物が構築する凝集層へ浸透しやすいためと考えられる。すなわち水層/有機層における水不溶性色材と高分子化合物との共溶解性が高くなりやすいことが作用したと考えられる。
【0025】
本発明の分散体において水不溶性色材を構成する有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0026】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0027】
なかでも水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料であることが好ましい。
【0028】
本発明の分散体において、分散体中の水不溶性色材の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15%であることが特に好ましい。
【0029】
本発明における分散体は高濃度であっても分散体を低粘度に維持することができる。例えば記録液として用いる場合、高濃度であっても低粘度であれば記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、本発明の分散体を記録液として好適に用いることができる。
【0030】
本発明の水不溶性色材分散体は、有機溶剤に、上記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させ、該微粒子を分散させる工程を有する本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0031】
本発明の製造方法に用いられる有機溶剤としては、非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能である。ただしアルカリ存在下で水不溶性色材および高分子化合物を溶解させる有機溶剤としては、好ましくは非プロトン性有機溶剤であり、より好ましくはジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン等である。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0032】
上記有機溶剤の本発明の分散体中の含有量は特に限定されないが、水不溶性色材をより良好な溶解状態とする際には、顔料1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0033】
水不溶性色材凝集体を得る工程では、有機溶剤の添加によりろ過性が改善可能であり有用なプロセスである。好ましい溶媒としては非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能であり、具体的には酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノールエタノール、イソプロパノール等の極性溶媒が好ましい。量も特に限定されないが、水不溶性色材分散体100質量部に対し1〜100質量部が好ましく、5〜50質量部の範囲で用いるのがより好ましい。
【0034】
本発明の水不溶性色材分散体の製造方法においては、水不溶性色材等を溶解した溶解液と水性媒体とを混合する。本発明において、水性媒体とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一な分散状態に保つのに水のみでは不十分な場合や、塩基による凝集体分散工程の加速などに用いることが好ましい。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、水不溶性色材分散体中における水の量は99〜20質量%となるようにすることが好ましく、95〜30質量%とすることがより好ましい。分散体中の上記の水溶性有機溶媒の量は50〜0.1質量%とすることが好ましく、30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材を、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とともに有機溶剤に溶解するが、これに加えて、有機溶剤には結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂添加物、界面活性剤などの少なくも1種を必要に応じて添加することができる。
【0036】
結晶成長防止剤としては、当該技術分野においてよく知られているフタロシアニン誘導体やキナクリドン誘導体が挙げられ、例えばフタロシアニンのフタルイミドメチル誘導体、フタロシアニンのスルホン酸誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、キナクリドンのフタルイミドメチル誘導体、キナクリドンのスルホン酸誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては、金属酸化物、アミノベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シンナメート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤およびビタミン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0038】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオアルカン酸エステル化合物、有機リン化合物、芳香族アミン等が挙げられる。
【0039】
樹脂添加物としては、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂あるいはこれらの変性物等の合成樹脂などが挙げられる。これらの結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、樹脂添加物はいずれも1種類単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0040】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0041】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性部位として有する高分子化合物とを、相間移動塩基の存在下で有機溶剤に共溶解した溶液(以下、この溶液を「水不溶性色材溶液」ということがある。)を水性媒体と混合して水不溶性色材の微粒子を生成させるが、この際に使用される水の割合は、微粒子の分散安定性をより向上させ、かつ分散体の色濃度を更に良好なものとするという観点から、水不溶性色材溶液1質量部に対して0.5〜1000質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
【0042】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材顔料溶液と水性媒体とを混合する際の温度を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましく、−20℃〜50℃の範囲に調節することがより好ましい。混合する際の溶液の温度は生成する水不溶性色材の微粒子のサイズに大きく影響することがあり、ナノメートルオーダー微粒子の分散体を制御して得るために液温を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましい。また、この際に液体の流動性を確保するために混合する水に、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、グリセリン等の公知の凝固点降下剤を加えておくことができる。
【0043】
さらに、サイズの均一性を持つナノメートルオーダーの微粒子を得るには、水不溶性色材溶液と水性媒体との混合を可能な限り速やかに行うことが好ましく、超音波振動子やフルゾーン撹拌羽、内部循環型撹拌装置、外部循環型撹拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の撹拌、混合、分散、晶析に使用される装置をいずれも使用することができる。また、連続して流れる水の中に混合してもよい。水不溶性色材溶液の水性媒体中への添加方法としては、通常の液体注入法をいずれも利用できるが、シリンジやニードル、チューブなどのノズルからの噴射流として水中、もしくは水上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することもできる。さらに、水不溶性色材微粒子の水性分散体を安定して作成するために、水不溶性色材溶液と混合する水性媒体にアルカリ及び分散剤を始めとする添加剤を加えておくことができる。
【0044】
有機溶剤に溶解した顔料等の水不溶性色材は、水性媒体との混合によって急速な結晶成長又はアモルファス様の凝集体を形成すると考えられるが、本発明においては水不溶性色材と前記酸基を有する高分子化合物とが共溶解した溶液中で共存し、該溶液と水性媒体との混合工程中およびその直後に、生成した微粒子が分散安定性を損なわない。またこのときに加熱処理を行い微粒子の分散体中での結晶形および凝集状態の調整を行うことができる。
【0045】
本発明の水性水不溶性色材分散体は、そのままで、あるいは必要に応じて色材濃度を調整することによって種々の用途、例えばインクジェット用のインクに用いることができる。ところで、水性分散液が、インクジェット用のインクに適用するには、色材濃度が薄い場合がある。該分散液の分散媒の濃縮等により濃度を上昇させることはできるものの、工業的には実用的でない。これに対し、本発明の分散体は先ず水不溶性微粒子を粉末ないしペーストにして取り出したのち、水に対する分散性を付与し、この水不溶性微粒子を水性媒体に効率的に再分散させることができる。そのため、所望の色材濃度を有する水性分散体を効率よく調製することができる。
【0046】
本発明の製造方法においては、前述の工程で得られた水性水不溶性色材分散体を用い、さらに該分散体に含まれる水不溶性色材の微粒子の凝集体を形成することが好ましい。 本発明において、「水不溶性色材の微粒子」というとき、水不溶性色材のみからなる微粒のほか、水不溶性色材とその他の成分とがなす微粒子が含まれる。例えば、水不溶性色材及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して微粒子をなしていてもよい。本発明の分散体においては、なかでも、水不溶性色材の微粒子に上記酸基を有する高分子化合物が被覆吸着していることが好ましい。この被覆吸着状態は、例えば、X線結晶構造解析(XRD)や、固体NMR法による粒子構造解析により確認することができる。
【0047】
上記水不溶性色材の微粒子の凝集体の形成には、有機酸/無機酸の添加による処理が好ましく用いられる。酸を用いた処理は、好ましくは、水不溶性色材の微粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、水不溶性色材微粒子を凝集させる。一般に顔料の分散液を酸で凝集物とし、その後にアルカリ処理を行っても、顔料微粒子が再分散されにくく一次粒子径の増大が観察されることがある。これに対し、本発明の分散体の製法によれば、顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体を調製し、これを酸で凝集物とし微粒子を再分散したとき、一次粒子径の増大を大幅に低減することができる。
【0048】
本発明において、得られた水不溶性色材分散体に対しては、加熱処理を施すことが可能である。これにより水不溶性色材の結晶性が良くなり、該分散体から得られたインクを用いた画像の耐候性が高められることがある。また加熱処理によって濾過性が大きく改善される場合があり有用なプロセスと言える。該加熱処理の温度は40〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましく、50〜80℃であることが最も好ましい。加熱時間は10分〜3日間であることが好ましく、1時間から1日行うことが好ましく、さらに好ましくは2〜12時間である。
【0049】
水不溶性色材の微粒子の凝集に用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっている水性分散体中の顔料含有粒子を凝集させてスラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして、通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであることが好ましい。さらに好ましくは、水不溶性色材の溶解工程において用いたアルカリを溶剤と同時に分離するために、用いた相間移動塩基等のアルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は微粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた水不溶性色材の微粒子の水性分散体は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することが出できる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0050】
このようにして得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような、乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0051】
本発明の製造方法においては、その好ましい実施態様として、水性分散体から調製した凝集体に水性媒体を添加し、微粒子を再分散性することが好ましく、このときアルカリ処理することがより好ましい。すなわち、アルカリ処理を含むこの工程では、上記凝集体を得る工程で例えば酸を用いて凝集させた水不溶性色材の微粒子をアルカリで処理し、該微粒子に吸着する等して共存する前記酸基を有する高分子化合物を中和し分散剤として機能させ、水性媒体中で水不溶性色材を効果的に再分散させることができる。
【0052】
本発明の製造方法における上記好ましい実施態様においては、凝集体の形成工程においてすでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ない顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体のコンクベースを得ることができる。再分散工程で使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるものであれば、いかなるものでも使用できる。ここでの「アルカリ」とは、先に述べた「塩基」と同義である。アルカリとして、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等や、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、さらには前記の相間移動型塩基が挙げられる。より具体的には前記一般式(I)又は(II)で示されるアンモニウム化合物類が挙げられ、さらに好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンター用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12になる量とすることが好ましく、7〜11の範囲になる量とすることがより好ましい。
【0053】
凝集した水不溶性色材粒子を水性媒体に再分散させる上記工程においては、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い水不溶性色材のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不要となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0054】
本発明の記録液は、上記本発明の分散体を用い、例えば所定の高分子化合物、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記水不溶性色材を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量の高分子化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0055】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0056】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0057】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとしたとき例えば面積比率(面積階調)により色調濃淡を表現している現行のオフセット印刷や凸版印刷等に匹敵するほどの、高濃度・高精彩な画像記録を実現しうるものである。
【0058】
〔透過型電子顕微鏡観察による平均粒径〕
本発明において、分散体に含まれる水不溶性色材は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、水不溶性色材溶解液と水性媒体混合時に形成された一次粒子の形状を観察し、平均粒径を以下のようにして算出することができる。水不溶性色材の微粒子を含む分散体をカーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈し、これを載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影した画像から粒子300個の径を測定して平均値を求める。この際、上記のように分散体を前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記分散体中に水不溶性色材が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で水不溶性色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。また、水不溶性色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0059】
本発明においては、その一実施態様において、水不溶性色材の粒子の平均粒径は5〜50nmである。とくに透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)により算出した水不溶性色材の平均粒子径が、5〜50nmであることが好ましく、10〜45nmであることが好ましく、15〜40nmであることが分散体の透明性、分散体中での分散安定性、及び耐光性の両立の観点から特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。本発明において水不溶性色材の粒子は2種以上の顔料を含むが、顔料のみからなるものであっても、顔料以外の化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成していることが好ましい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、先にも述べたように、顔料等及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0060】
また、本発明の水不溶性色材は、樹脂微粒子や無機微粒子に含まれていてもよい。このとき、本発明の水不溶性色材の色味を損なわないため、前記樹脂微粒子及び無機微粒子は非着色成分であることが好ましい。前記樹脂微粒子及び無機微粒子の平均粒子径は6〜200nmであることが好ましく、インクジェット用記録液として用いる場合には良好な吐出安定性を得る観点から6〜150nmであることがさらに好ましく、6〜100nmであることが特に好ましい。
【0061】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明において、水不溶性色材の分散状態は動的散乱法により評価することもでき、これにより体積平均粒径を算出することができる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0062】
この原理を用いて、水不溶性色材の平均粒径(以下、体積平均粒子径を平均粒径と称する)の測定を行い、その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。またその値が少し離れる場合、水不溶性色材の一次粒子は程度に応じた二次粒子状態(凝集状態)を形成していると捉えることができる。
すなわち、TEMによる一次粒子径観察と、動的光散乱法による二次粒子径測定により、水不溶性色材がどの程度の分散状態を形成しているかを知ることが可能である。
【0063】
本発明によれば、分散媒中の水不溶性色材に対して行った動的光散乱法による算術平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対して近い、もしくはそれほど違わないレベルの平均粒径を示すことがわかった。すなわち、分散媒中で本発明の水不溶色材が高度の単分散状態にとして分散されていることが確認された。分散媒中の動的光散乱法による算術平均粒径は、60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることが特に好ましい。この算術平均粒径の下限値には特に制限はないが、通常20nm以上である。このように平均粒径の好ましい範囲は前記したTEM観察のそれとは大きくは異ならない。本発明においては、特に断らない限り、単に平均粒径というときTEMにより測定した平均粒径をいう。
【0064】
なお、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径と動的光散乱法による平均粒径とに違いが生ずる場合があることを併記しておく。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。
【0065】
本発明において分散体中に分散している水不溶性色材の粒径は、単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えば分散体を用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)×dD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10個数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した透過型電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0066】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の分散体は前記Mv/Mnの値が1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。
【0067】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。また、各分散体の動的散乱法による平均粒子径はイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500動的光散乱測定器を用いて測定を行っている。このとき、各分散体の体積平均粒径Mvの他、個数平均粒径Mnの測定も行う。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均粒径をTEM平均粒径と記述する。)。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部(g)、下記酸基含有ポリマーA(分散剤A,スチレン/メタクリル酸共重合体,酸価180mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部(g)、ジメチルスルホキシド 140質量部(g)、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部(g)を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0069】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000mlのイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液1が得られた。この顔料分散体の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は150.4nm(TEM平均粒径:27.3nm)であった。ただしこれは速度論的に形成された緩い凝集(軟凝集)状態であり、超音波ホモジナイザーもしくは一ヶ月の時間経時により、体積平均粒子径45.8nmまで微細化可能であった。なお、実施例2〜10で得られた分散体についても、顔料微粒子が凝集していないか軟凝集体として分散体が得られた。
【0070】
(比較例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、下記酸基含有ポリマーA(スチレン/メタクリル酸共重合体、酸価180mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部を混合させ、懸濁液を形成させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料の溶解を試みた。しかし、顔料(PR−122)は溶解するが、スチレン/メタクリル酸共重合体が溶解不能であり、十分に共溶解させることが不可能であった。別途ジメチルスルホキシド溶液中へ溶解させたスチレン/メタクリル酸共重合体の溶液に対し、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液を添加したところ、不溶性の固形物が析出することから、水不溶性色材(有機顔料)と、酸基含有ポリマーとを十分に共溶解できず、水性媒体との混合により水分散体を得ることを行わなかった。
【0071】
(比較例2)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、下記酸基含有ポリマーA(スチレン/メタクリル酸共重合体、酸価180mgKOH/g、Mw=18000)6.6質量部、ジメチルスルホキシド 140質量部を混合させ、懸濁液を形成させた。次に1N水酸化カリウム水溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料の溶解を試みた。しかし、こちらでも顔料(PR−122)は溶解するが、スチレン/メタクリル酸共重合体が溶解不能であり、共溶解させることが不可能であった。別途ジメチルスルホキシド溶液中へ溶解させたスチレン/メタクリル酸共重合体の溶液に対し、1N水酸化カリウム水溶液を添加したところ、不溶性の固形物が析出することから、水不溶性色材(有機顔料)と、酸基含有ポリマーとの共溶解ができず、水性媒体との混合により水分散体を得ることを行わなかった。
【0072】
(実施例2〜10及び比較例3〜5)
それぞれ使用する顔料及び各剤を、下記表1のように変えた以外、実施例1及び比較例1と同様にしてそれぞれ顔料溶液の調製を行った。実施例2〜10については上記顔料溶液を用いて顔料分散液2〜10を調製した。比較例3〜5については、顔料溶液に沈降物がみられたため顔料分散液の調製は行わなかった。結果を表1に示した。共溶解性において○は有機顔料/分散剤がDMSO中へ完溶することを意味し、×は有機顔料もしくは分散剤が完溶しないことを意味する。分散体形成において○は透明性のある希薄分散液が形成されることを意味し、×は粗大な顔料粒子を伴う透明性のない溶液が形成されることを意味する。
【0073】
【表1】

【0074】
【化3】

なお、上記化学構造式で表された高分子化合物の末端は水素原子である。
【0075】
(実施例11)
次いでこの顔料分散液1を3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後(表1参照)、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/酸基含有ポリマーの凝集粉末体を得た。このとき濾過にかかった時間は5分であった。
【0076】
次に、この粉末体1質量部(g)にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散用塩基〕0.8質量部(g)を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液11を得た。この顔料分散液11の動的光散乱法による個数平均粒径は28.6nm(TEM平均粒径:25.4nm)であり、非常に単分散性の高い高濃度分散液が得られた。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0077】
実施例2〜10で調製した顔料分散液2〜10についても、それぞれ実施例11と同様に表1に記載の添加酸/溶剤により凝集させ、濾過及び洗浄を行った。このときにかかった濾過時間をそれぞれ表1に示したが、いずれも効率良く濾過しうるものであった。
【0078】
(実施例12〜19、比較例6〜17)
上記実施例11に対して、用いる顔料分散液及び/又は添加する各剤を表2のように変えた以外同様にして、顔料分散液12〜19、c6〜c17を得た。得られた分散液中の微粒子の粒径を測定し結果を表2に示した。なお、顔料微粒子が凝集していることは、上記動的光散乱により求めた体積平均粒径がTEM平均粒径の約2倍以上であるか、あるいはTEM平均粒径が20〜30nmであるとき動的光散乱により求めた体積平均粒径が50nm以上であることが一つの目安となる。
比較例13及び14で用いた顔料分散液は、顔料分散液2の調製において分散剤Aに代えて分散剤DまたはEを用いたものであることを意味する。
【0079】
【表2】

表中の略称等はそれぞれ下記を意味する。
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(ClogP: −4.586)
TEAH:テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(ClogP: −3.14)
TPAH:テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(ClogP: −1.024)
TBAH:テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(ClogP: +1.092)
THAH:テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド(ClogP: +5.324)
DABCO: 1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン
DMSO:ジメチルスルホキシド
NMP:N−メチルピロリドン
コリンハイドロキシド(Choline Hydoxide):下記の式a参照
【0080】
【化4】

【0081】
(実施例20〜24)
(インク組成物の調整)
顔料分散液11、14、15、18、19をそれぞれ50質量部用い、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物A〜Eをそれぞれ得た。
【0082】
(比較例18〜21)
顔料分散液c6、c7、c15、c16をそれぞれ50質量部、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水32.3質量部を混合した後超音波処理し、インク組成物F〜Iをそれぞれ得た。
【0083】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物A〜Iについて、まず作成当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を60℃下加熱強制経時した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの粒子径変動率を表3に示す。この粒子径変動率が低ければ、保存安定性の高いインク組成物といえる。
【0084】
【表3】

【0085】
これら表1〜3の結果が示すように、一般式(I)又は(II)で表される相間移動型塩基を用いた分散体形成は、顔料溶液と水を混合して微細粒子形成する工程(共溶解性)、凝集体を再分散する工程(再分散速度、平均粒子径)のいずれにおいても有効であり、さらにそこから作製されたインク組成物の保存安定性(粒子径変動率)も高いことが示された。このとき、相間移動型塩基のアルキル鎖長は短いほうがより安定性が高いことが分かった。この理由としては、親水的なカチオンを使用した分散粒子は水性媒体中での微細粒子が安定化されやすいと考えられること、またアルカリ金属を用いた場合に推定されうる粒子間イオン架橋が起こりにくいこと等が考えられる。
【0086】
〔吐出性の評価〕
上記作製したインク組成物(顔料分散液)A〜Iをインクジェットプリンター(PX−G930、エプソン(株)社製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>エプソン(株)社製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0087】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表4に示す。
【0088】
〔表4〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 吐出性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1)−(実施例20) 3
B(実施例2)−(実施例21) 3
C(実施例2)−(実施例22) 3
D(実施例9)−(実施例23) 3
E(実施例10)−(実施例24) 3
F(比較例6)−(比較例18) 2
G(比較例7)−(比較例19) 1
H(比較例15)−(比較例20) 2
I(比較例16)−(比較例21) 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0089】
上記表4から分かるように、実施例の顔料分散液を用いて作製したインク組成物は吐出性に優れることがわかる。
【0090】
〔透明性の評価〕
インク組成物A〜Iを厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
〔顔料粒子径の評価〕
TEM平均粒子径を前述の方法に従って算出した。
【0091】
各評価結果を表5に示す。
【0092】
〔表5〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 TEM平均粒径[nm] 透明性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1)−(実施例20) 28.3 2
B(実施例2)−(実施例21) 33.6 2
C(実施例2)−(実施例22) 30.5 2
D(実施例9)−(実施例23) 29.3 2
E(実施例10)−(実施例24) 34.2 2
F(比較例6)−(比較例18) 26.9 1
G(比較例7)−(比較例19) 34.2 1
H(比較例15)−(比較例20) 27.9 1
I(比較例16)−(比較例21) 31.2 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0093】
表5から分かるようにインク組成物A〜Eを用いた本発明の印画物は高濃度であっても透明性に優れ、インク組成物として有用である。
【0094】
上記の結果より、一般式(I)又は(II)で表される相間移動型塩基を用いて分散された微細粒子は、二次凝集することなく微細なまま存在できるため、インク化した際において吐出安定性が高く、高濃度領域でも高い透明性を持つため、色再現性の高いインク組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤に、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合させる工程を有する製造方法により得られる水不溶性色材分散体であって、水不溶性色材の微粒子と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物と、水性媒体と、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基とを含んでなることを特徴とする水不溶性色材分散体。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基を表し、nは1〜4の整数である。)
【請求項2】
前記相間移動塩基のClogP値が、負の値を示すことを特徴とする請求項1に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項3】
前記酸基がカルボン酸基であることを特徴とする請求項1又は2記載の水不溶性色材分散体。
【請求項4】
前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項5】
有機溶剤に、下記一般式(I)又は(II)で表される相間移動塩基の存在下で、水不溶性色材と、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれる一種類以上の酸基を親水性基として有する高分子化合物とを共溶解させる工程、及び
前記工程で得られた溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させ、該微粒子を分散させる工程
を有することを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立してメチル基、エチル基、又はプロピル基を表し、nは1〜4の整数である。)
【請求項6】
前記水不溶性色材分散体と有機酸及び/又は無機酸とを混合し、前記水不溶性色材の微粒子の凝集物を得る工程、及び
前記凝集物と水性媒体とを混合し前記微粒子の凝集を解き再分散する工程
をさらに有することを特徴とする請求項5記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項7】
前記凝集物と水性媒体との混合物に前記一般式(I)または(II)で表される相間移動塩基を含有させることを特徴とする請求項6に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製された記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項9】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項8に記載の記録液。
【請求項10】
請求項9に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
【請求項11】
請求項8もしくは9に記載の記録液、又は請求項10に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項12】
請求項8もしくは9に記載の記録液、又は請求項10に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【公開番号】特開2009−242781(P2009−242781A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37167(P2009−37167)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】