説明

水中探知装置及び水中探知システム

【課題】他船の航跡からの反射信号に関わらず、魚群信号を識別容易に表示する。
【解決手段】スキャニングソナー10は、レーダ装置10から他船の位置の情報を継続して取得する。表示画像処理部134は、この他船の位置情報に所定の加工、すなわち輝点を表す画像信号に変換する処理を施す。変換された輝点画像は、航跡情報に沿って線状となり、探知画像に重畳されて表示部に導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自船に搭載され、水中に超音波探知信号を送波して水中物標からの反射波を受信し、表示部に平面視で表示する水中探知装置及び水中探知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自船の近くで他の漁船が操業している場合、自船のソナー装置の表示部に表示されている水中探知映像中に、他の漁船に搭載されたソナー装置から送波された超音波信号が干渉映像として混入することがあり、探知対象とする魚群映像と干渉映像との識別が困難になるといった問題があった。かかる問題を解決するため、例えば特許文献1には、レーダ装置等の外部航行装置から他船の位置データを取得し、表示部の画面上の対応する位置に他船マークを併記するようにして、干渉映像を魚群映像と識別容易にしたソナー装置が提案されている。また、干渉映像とは異なり、ソナー装置のように所望のティルト角で水中を探知する場合、例えばティルト角が小さいほど、近辺を通過したりする他船の船尾後方に生じる気泡によって航跡が生じ、この航跡に探知用の超音波信号が当たると、反射を生じて帰来し、不要信号として受信される可能性が高くなる。
【0003】
特許文献2には、所望のティルト角で水中の全方位に超音波を送波し、反射波を水平視で表示部に表示するスキャニングソナーが知られている。特許文献2のスキャニングソナーは、水平全方位を探知する水平モードによって周期的に探知動作を繰り返し、探知動作毎の探知画像を平面視で表示部に表示することで、過去の探知画像も併せて認識可能にしたものである。このスキャニングソナーの場合も、航跡からの不要信号が混入するという同様な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−146367号公報
【特許文献2】特開2008−128900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他船のソナー装置からの周期的な干渉信号や海底からの反射信号は、公知の方法で比較的除去することは可能である。また、自船のプロペラノイズは、自船の移動履歴が既知であることから、ソナー画面上で航跡に起因した不要映像か探知対象である魚群映像かを認識することは可能である。一方、他船の航跡からの不要信号については、現状、この不要信号自体を効果的に除去できるまでには至っていない。特許文献2のスキャニングソナーにおいても、同様に他船の航跡からの不要信号が魚群からの受信信号に混入する可能性があるため、不要信号の映像と魚群映像との識別は容易ではない。この場合、特許文献1のように他船マークを併記する方法も考えられるが、例えば、複数回の探知動作分の探知映像を1つの表示部に併記表示する表示方式を備えたソナー装置に適用するとした場合、複数回の探知動作の間に他船も移動していると考えると、各探知位置毎に対応して他船マークを多数表示する必要があるが、そうすると、他船マークの表示処理が勢い複雑となり、しかも、同一画面上に表示される多数の他船マークと探知対象である魚群映像とを識別容易に表示することは容易ではない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、他船の航跡を利用し、かかる航跡を示す情報を加工して探知画像に重畳表示することで、魚群等の、探知対象の物標からの画像を識別容易に表示する水中探知装置及び水中探知システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の水中探知装置は、自船に搭載され、送受波部によって所定ティルト角方向に超音波探知信号を送波すると共に水中物標からの反射波を受信し、探知画像として表示部に平面視で表示する水中探知装置において、外部から他船位置情報取得部を介して継続的に取得される他船の位置の履歴を示す航跡情報に画像処理のための所定の加工を施して、前記探知画像に重畳して前記表示部に導く表示画像処理手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項7に記載の水中探知システムは、自船に搭載され、送受波部によって所定ティルト角方向に超音波探知信号を送波すると共に水中物標からの反射波を受信し、探知画像として表示部に平面視で表示する水中探知装置と、他船の位置の情報を取得する他船位置情報探知部とを備え、前記水中探知装置は、前記他船位置情報探知部から他船位置情報取得部を介して継続的に取得される他船の位置の履歴を示す航跡情報に画像処理のための所定の加工を施して、前記探知画像に重畳して前記表示部に導く表示画像処理手段を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
これらの構成によれば、水中に送波された超音波探知信号に基づいて受信された受信信号は、表示部に平面視のモードで探知画像として表示される。一方、外部から、例えばレーダ装置から他船の位置の履歴を示す航跡情報が取得され、この航跡情報に対して画像処理のための所定の加工が施される。加工された信号は探知画像に重畳して表示部に導かれる。所定の加工によって航跡情報が画像として作成された場合、探知画像に重畳表示され、あるいは探知画像とは異なる態様(色や点滅等)で重畳表示される。あるいは、航跡位置に消去用の情報として加工される態様では、表示部で航跡部分の探知画像が消去される。このように、探知画像を航跡画像に比して識別容易に表示し、あるいは航跡画像部分を実質的に消去することで探知対象の物標画像がより顕在化(識別容易に)されて表示可能となる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の水中探知装置において、前記送受波部は、前記超音波探知信号を繰り返し送信するものであり、前記表示画像処理手段は、複数回分の探知画像を前記表示部に表示するもので、外部から自船位置情報取得部を介して前記超音波探知信号の送波毎に取得される自船の位置の情報に対応させて前記複数回分の探知画像を前記表示部に表示することを特徴とする。
【0011】
また、請求項8記載の発明は、請求項7記載の水中探知システムにおいて、自船の位置の情報を探知する自船位置情報探知部を備え、前記送受波部は、前記超音波探知信号を繰り返し送信するものであり、前記表示画像処理手段は、複数回分の探知画像を前記表示部に表示するもので、前記自船位置情報探知部から自船位置情報取得部を介して前記超音波探知信号の送波毎に取得される自船の位置の情報に対応させて前記複数回分の探知画像を前記表示部に表示することを特徴とする。
【0012】
これらの構成によれば、複数回分の探知画像は、送波毎に取得される自船の位置の情報に対応されて表示部に表示される。従って、より長期にかつ広範囲の水中の探知画像が表示されることとなり、航跡信号と識別容易に表示することが効果的となる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の水中探知装置において、前記自船位置情報取得部は、前記外部から緯度経度情報を取得するものであることを特徴とする。この構成によれば、探知画像の表示を地球座標系で表示することが可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の水中探知装置において、前記表示画像処理手段は、前記所定の加工として、前記他船の位置の履歴を示す情報に所定の色を表す信号を設定するものであることを特徴とする。この構成によれば、いわゆる航跡情報に所要の色(輝度、色相等)を付すことで、探知対象の画像との識別性が向上する。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の水中探知装置において、前記表示画像処理手段は、前記所定の加工として、前記他船の位置の履歴を示す情報に消去のための信号を設定するものであることを特徴とする。この構成によれば、表示部で航跡部分の探知画像が実質的に消去されるので、探知対象の物標画像がより顕在化(識別容易に)されて表示可能となる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の水中探知装置において、前記超音波探知信号は、前記所定ティルト角を有し、水平方向に無指向性を有する傘状の送信ビームであり、前記送信ビームとティルト角を等しくし、水平方向に旋回される、狭幅の指向性を有する受信ビームであることを特徴とする。この構成によれば、いわゆるスキャニングソナーに好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、他船の航跡からの反射信号の受信に関わらず、魚群等、探知対象の物標からの信号を識別容易に表示部に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る水中探知装置をスキャニングソナーに適用した場合の概略構成図である。
【図2】スキャニングソナーによる水中探知動作を説明するための斜視図である。
【図3】スキャニングソナー10の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】スキャニングソナーの表示画面の一例を示す図である。
【図5】レーダ装置の表示部に表示された他船の航跡が表示されたレーダ探知画像の一例を示す画面図である。
【図6】他船の航跡画像を重畳する方法、すなわち、図4の画面上に図5の他船航跡を重畳した状態を示す画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る水中探知装置をスキャニングソナーに適用した場合の概略構成図である。スキャニングソナー10は、自船の船底等に装備され、超音波を用いて水中を探知するもので、水中の物標からの反射信号を受波して表示部に表示するようになっている。スキャニングソナー10には、外部の航法装置、例えば自船に搭載されたレーダ装置20が接続されている。スキャニングソナー10は、他船位置情報探知部として機能するレーダ装置20で探知された他船の位置の情報を取得するようにしている。すなわち、スキャニングソナー10は、レーダ装置20で探知された、自船の周囲に存在する他船の位置の情報を周期的に取り込む。
【0020】
GPS(Global positioning system)受信器30は、自船に搭載され、自船の位置を地球座標系の緯度経度情報として取得するものである。GPS受信器30から取得する緯度経度情報の利用形態は、後述するように複数考えられる。本実施形態では、GPS受信器30で探知された位置情報はスキャニングソナー10に送信され、また、レーダ装置20にも送信される。
【0021】
方位センサ40は、自船に搭載され、自船の船首方位を検出するものである。検出された方位情報は、スキャニングソナー10及びレーダ装置20に送信される。方位センサ40は、マグネットコンパスやジャイロコンパスでもよく、あるいは2台のGPS受信器を例えば船首と船尾に設置して両者の位置情報の差から船首方位を算出するものでもよい。また、船の進行方向が船首方向であるとすると、GPS受信器30からの継続的な位置信号の変化を利用して進路方向、すなわち船首方位を探知する態様としてもよい。
【0022】
レーダ装置20は、探知用の電磁波を送受波する空中線部21、送受波信号に対して所定の信号処理を施す信号処理部22、及び受信した信号の表示を行う表示部23を備えている。公知のように、空中線部21は、垂直軸周りに回転するアンテナから狭指向性を有するパルス状の電磁波を水平方向に周期的に送波し、水上(海上)の他船等で反射した電磁波を受波するものである。信号処理部22は、電磁波の送信を行うための処理、及び受信信号に所定の処理を施して、表示のための画像情報を作成する等の処理を行うものである。他船の方向及び距離は自船を基準にした相対的な極座標で探知される。公知のように、探知方向はアンテナが船首方向を向いた時に機械的に得られるスイッチの信号を基準として利用し、距離は送波時点からの時間で決定される。
【0023】
また、信号処理部22は、自船を基準にした他船の極座標での相対的な位置情報を、GPS受信器30から取得する自船の緯度経度情報及び方位センサ40から取得する船首方位情報を利用して、他船の位置を緯度経度情報に変換し、かつこの情報をスキャニングソナー10に送信する。なお、信号処理部22が、複数回の探知に伴う受信信号を記録可能な態様では、表示部23上に、他船の位置情報を履歴的に、すなわち航跡として表示することができる(図5参照)。
【0024】
スキャニングソナー10は、超音波信号を水中に送波し、反射信号を受波するための複数の送受波器及び送受波回路部を備えた送受波部11と、各種の設定を行うための操作部12と、送受波部11への送波のための信号を生成したり、受信信号から表示信号を生成したりする信号処理部13、及び生成された表示信号を表示する液晶等の表示部14とを備えている。送受波部11は、複数の送受波器111(図3参照)から構成されている。より詳細には、送受波部11は、球状又は円柱状の表面に複数の送受波器111の送波面が位置するように配列されている。そして、後述するように水平全方位に対して所定のティルト角θ(図2参照)で傘状の送信ビームが形成され、一方、送信ビームに対して所定の狭ビーム幅を有する受信ビームが形成される。信号処理部13は、GPS受信器30からの緯度経度信号を用いて、表示画面を緯度経度の座標系に変換する。
【0025】
図2は、スキャニングソナーによる水中探知動作を説明するための斜視図である。図2において、送受波部11は、自船SHの船底等に装備されている。送信ビーム50は、送受波部11から水中の全方位へ向けて一定のティルト角θで同時に所定時間幅だけ送波されるパルス状の傘状ビームである。受信ビーム60は、送信ビーム50と同一ティルト角θを有し、図中矢印で示すように周方向に、所与の距離分解能を得る速度で旋回(走査)される狭幅の指向性を有するビームである。なお、受信ビーム60は所定の方向、例えば船首方向を基準に走査を開始するように設計しておくことで水平面上での探知方向が判るようになっている。この受信ビーム60によって水中の全方位から帰来する反射信号が受信され、受信された反射信号に対して所定の処理を施すことで、魚群の分布状況や動き等の水中情報を得ることが可能となる。
【0026】
図3は、スキャニングソナー10の電気的構成を示したブロック図である。送受波器111は、送受波部11を構成する超音波振動子であって、1個の送受波器111毎に1個の送受信チャンネルCh(Ch1,Ch2,…)が設けられている。各送受信チャンネルChの構成は同一であるため、以下、送受信チャンネルCh1について説明する。
【0027】
また、スキャニングソナー10は、操作部12や表示部14を備える筐体部を備えている。より詳細には、操作部12は、各種のキーやスイッチ類を備え、探知距離(レンジ)、ティルト角の設定等の探知条件の設定、また表示モードの選択等の表示条件の設定を行う。
【0028】
送受信チャンネルCh1は、送受波器111、送信動作と受信動作との切り替えを行う送受切替回路112、パルス幅変調された送信信号を送受波器111に供給する送信回路113、送受波器111で受信された受信信号に対して、超音波の水中伝搬に伴う減衰補正のためのゲイン調整やノイズ除去等の処理を行う受信回路114、受信回路114から出力される受信信号を所定周期でサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換器115、及び後段の回路との間で信号の授受を行うためのインターフェース116を備えている。
【0029】
信号処理部13は、インターフェース116との間で信号の授受を行うインターフェース130、CPU(Central Processing Unit)等から構成され、スキャニングソナー1の全体の動作を制御するとともに、外部装置20,30,40から各データの受信(取得)処理を制御する制御部131、送信ビーム50を形成する送信ビーム形成部132、受信ビーム60を形成する受信ビーム形成部133、受信信号を一時的に保存するバッファメモリ1341を有し、表示部14に表示するための探知画像を作成し、作成した画像をビデオRAM1342を介して表示部14に出力する表示画像処理部134、及び所要の内容を記憶するメモリ部135を備えている。
【0030】
送信ビーム形成部132は、送信周期毎に、ティルト角及びビーム形状を規定するための各チャンネル間の遅延量やウェイト値を計算してチャンネル毎の送信ビームを生成することで、合成された前記送信ビーム50を形成するものである。
【0031】
受信ビーム形成部133は、複数の送受波器111を用い、さらに、これらの送受波器111間の位相情報及び送受波器111に付加されるウエイト情報を用いて狭幅の受信ビーム60を合成して生成し、かつ使用される送受波器111を周方向に順番に高速で切り替えることで受信ビーム60を周方向に旋回させるものである。受信ビーム形成部133は、水中から帰来してくる反射波に対して前述の合成された受信ビーム60を適用することで受信信号が得られる。
【0032】
表示画像処理部134は、制御部131と共同して、受信ビーム形成部133から出力される受信信号を用いて、後述する探知画像の生成及びその表示を行う。また、表示画像処理部134は、例えば操作部12からの指示によって選択された所望の表示モードでの画像表示を行う。以下では、平面視に相当する平面視モードで画像表示を行う態様で説明する。この平面視モードは、極座標系で検出した受信信号を直交座標系に変換して表示するものである。特に、本実施形態では、平面視モードとして直交座標系の一つである地球座標、すなわち緯度経度座標系での表示を行う。表示画像処理部134の行う処理は、より具体的には、例えば、表示部14が地球座標系で平面視モードにある場合に、水中探知の送信ビーム50(受信ビーム60)のティルト角θが、説明の便宜上、今、例えば60°であるとすると、探知距離情報は、水平方向成分cosθに変換、すなわち1/2の尺度に変換される。
【0033】
表示画像処理部134は、制御部131の演算処理機能を用いて、探知レンジ、ティルト角情報及びGPS受信器30、更には方位センサ40からの自船の緯度経度情報及び船首方位情報から、探知された受信信号を送受波動作時の極座標系から緯度経度の位置情報に変換する。以下、表示画像処理部134によって行われる、複数回分の探知動作によって得られた受信信号を表示部14の画面141の平面視モード上に重畳表示する場合について説明する。
【0034】
なお、メモリ部135は、水中探知動作用や画像表示用の動作制御プログラム情報、基本画面の画像情報、また演算、処理時に要する各種の情報やパラメータ等を記憶するプログラム情報等記憶部1351、受信情報等を一時的に記憶する受信情報記憶部1352、レーダ装置20やGPS受信器30から受信する情報である自船、他船の位置情報を一時的に記憶する位置情報記憶部1353、及び地球座標系、すなわち平面視モードで画面141に表示される所定間隔毎の緯度線Lat、経度線Lon(図4参照)情報を記憶する緯度経度情報記憶部1354を有している。
【0035】
表示画像処理部134は、最初の探知動作で受信された極座標系での受信信号を、所定の間隔で規定される緯度経度の位置座標に変換して受信情報記憶部1352に記憶する。所定の間隔はスキャニングソナー10としての所与の探知分解能に相当する値が設定される。
【0036】
次いで、次回の探知動作に応じて受信された新たな受信信号であって、緯度経度の位置座標に変換された受信信号が、受信情報記憶部1352に記憶されている同一緯度経度情報の信号に加算され、かつ加算回数に応じた平均化処理が施される。あるいは、加算平均化処理に代えて、大小比較して大きい側の値に更新する処理であってもよい。このようにして、表示画像処理部134は、探知毎に同一の緯度経度位置の受信信号をそれぞれ更新し、更新後の受信信号を再び受信情報記憶部1352に記憶する。従って、探知の合間に自船が移動して異なる位置で次の探知動作が行われても、同一の緯度経度位置毎の受信信号の更新が可能となる。なお、各位置座標の探知画像の更新処理については、深度方向全域の受信信号に対して平均化処理あるいは最大値更新処理を施す方法に代えて、本出願人に係る特許出願(特開2008−128900号公報)に記載のように、深度方向に複数のレイヤを分割設定し、レイヤ毎に、前述の平均化処理あるいは最大値更新処理を実行する方法を採用してもよい。
【0037】
かかる同一の緯度経度位置の受信信号を更新する処理を繰り返すことで、探知領域内にあっては受信信号が更新されて最新の情報が反映され、探知領域外となった領域の受信信号は固定化される。
【0038】
表示画像処理部134は、操作部12で設定された表示サイズ(通常は探知レンジに対応したサイズ)で、緯度経度情報記憶部1354に記憶されている緯度線Lat、経度線Lonの各信号をビデオRAM1342に読み出す。表示画像処理部134は、GPS受信器30で受信した自船位置が、ビデオRAM1342のメモリ領域の所定のアドレス位置、例えば中心アドレスに一致するように座標系の位置の読み出しを制御する。
【0039】
また、表示画像処理部134は、受信情報記憶部1352に記憶されている探知情報を、緯度経度の位置情報に一致させてビデオRAM1342に展開、すなわち読み出す。そして、表示画像処理部134は、ビデオRAM1342の記憶内容を繰り返し表示部14に読み出することで、表示部14の画面141に、図4に示すような探知画像の静止画表示を行う。
【0040】
図4は、スキャニングソナーの表示画面の一例を示す図である。表示部14の画面141の右上部には、自船及び地球座標系の位置情報等が表示され、左上部には、探知レンジ及びティルト角の情報が表示されている。画面141の略全体は、探知画像を表示する領域で、その中央位置に自船位置を示す自船マークMa及び線状の自船航跡マークMbが表示されている。自船マークMaからは、画面上方に向けて船首方向を示す自船船首マークMcが表示されている。また、画面内には、所定距離毎に互いに交差する緯度線Lat、経度線Lonが表示され、海域及び表示倍率の認識が容易にされている。
【0041】
また、左上部の表示内容から、この例示では、探知レンジは、800m(メートル)であり、ティルト角は4°であることが判る。画面141には、探知レンジが4分割され、それぞれ水平距離に換算されて各同心円R,R…として表示されている。ティルト角が小さい場合、すなわち表層近くを探知している場合に、近くで操業等している他船の航跡から反射したレベルの高い信号が不要信号として混入し易くなる。
【0042】
画面141には、複数回の探知、あるいは所定時間内の探知に起因する受信信号であって、表示画像処理部134で処理された探知画像が表示されている。図4では、画面141上の各探知画像S1、S2、…は、自船マークMaの周囲の他、自船マークMaから離れた領域にも表示されていることが判る。なお、図4では、自船が2.0kn(ノット)で移動している例であることから、探知毎に自船位置が変化していることになるが、自船の移動に対応して、現在の自船の位置が画面141の中心位置になるように、前述したようにビデオRAM1342への書込位置がシフトされることで画像のシフトが行われる。あるいは、自船位置が画面141の所定表示域内にある間は、書込位置のシフトをすることなく、表示域から外れる時に、表示域の所定位置、好ましくは中心位置に強制的に戻すシフト処理を行う態様としてもよい。
【0043】
さらに、表示画像処理部134は、表示部14に表示されている探知画像に対して、他船の履歴、すなわち他船の航跡に関連して混入する不要な信号に所定の加工処理を施すことで、探知対象である主に魚群の画像を識別容易に表示する処理を行うものである。ここに、識別容易にする加工処理としては種々の態様が考えられる。例えば、平面視モードの探知画像の表示において、(i)他船の航跡画像を重畳する方法、(ii)他船の航跡画像を異なる表示態様で重畳する方法、また、(iii)他船の航跡画像の表示位置と重畳する探知画像の部分を消去(削除)する方法である。
【0044】
図5は、レーダ装置の表示部に表示された他船の航跡が表示されたレーダ探知画像の一例を示す画面図である。図5において、レーダ画面は所定の探知レンジで表示され、その中央を基準にして等間隔で複数個の同心円が表示されている。この中央は、レーダ装置20を搭載した自船に一致している。また、必須ではないが、この画面例では、GPS受信器30からの位置情報を入手して、互いに直交する緯度線、経度線が併記されている。画面内の輝点Poは本レーダ装置20によって探知された他船を示しており、輝点Poから延びる線は当該他船の航行履歴、すなわち探知毎に蓄積された位置情報の履歴である航跡を示す航跡線Lpoである。なお、レーダ装置20としては、航跡線Lpoを表示する態様の装置に限定されるものではない。
【0045】
レーダ装置20は、信号処理部22によって、所定周期でGPS受信器30、方位センサ40からの位置、方位情報を取得して、図5に示すような地球座標系で自船位置を表示している。また、他船は極座標系で探知される一方、信号処理部22によって、他船信号を緯度経度の位置情報に変換している。そこで、信号処理部22は、変換された他船の緯度経度の位置情報を前記所定周期で、あるいはスキャニングソナー10の制御部131からの送信要求に応じて逐次送信するようにしている。受信された他船の緯度経度の位置情報は、GPS受信器30からの自船の緯度経度の位置情報と同様、メモリ部135の位置情報記憶部1353に順次(経時方向に)書き込まれる。
【0046】
表示画像処理部134は、制御部131からの制御によって、他船の緯度経度の位置情報に基づいて、ビデオRAM1342の該当するアドレスに、例えば所定レベルの輝点信号を重畳して書き込む処理を行う。ビデオRAM1342のアドレス内に他船の位置情報が全て書き込まれる結果、輝点は実質的に線状に繋がって、画面141上で航跡画像Gaとして表示される。
【0047】
図6は、(i)他船の航跡画像を重畳する方法、すなわち、図4の画面上に図5の他船航跡を重畳した状態を示す画面図である。図6に示すように、航跡画像Gaに沿って表示されている信号画像は、当該他船の航跡から反射した不要信号と考えられることから、不要信号と、それ以外の信号、すなわち魚群からの信号とが識別容易に表示されることとなる。例えば、航跡画像Gaから離れた探知画像S1は、容易に魚群の画像ということが判る。
【0048】
なお、本発明は、以下の態様が採用可能である。
【0049】
(1)表示画像処理部134は、(ii)他船航跡画像を異なる態様で重畳する方法として、例えば、航跡画像Gaを例えば所定周期で間欠的にビデオRAM1342に書き込むようにすることで、画面141上で点滅して表示するようにして、より識別性を向上させてもよい。また、表示部14がカラー表示可能であって、信号レベルに応じた色で画像標示を行う態様では、航跡信号に探知信号とは異なる色に対応するレベルを付与すれば、同様に識別性が向上する。なお、表示部14がモノトーン表示の場合には、色情報としては輝度で対応すればよい。
【0050】
(2)表示画像処理部134は、(iii)他船航跡画像の表示位置と重畳する探知信号部分を消去(削除)する方法を実行するようにしてもよい。表示画像処理部134は、制御部131からの制御によって、他船の緯度経度の位置情報に基づいて、ビデオRAM1342の該当するアドレスに、例えばレベル“0”信号(信号無し信号)を優先して重畳書き込みする処理を行う。従って、ビデオRAM1342のアドレス内に他船の位置情報が全て書き込まれる結果、レベル“0”信号は航跡に沿って実質的に線状に繋がって、画面141上で航跡部分が消去された画像として表示される。この場合、制御部131によって、レベル“0”の信号範囲をレーダ装置20から受信した他船の緯度経度の位置情報に限定せず、その周囲の所定範囲までレベル“0”信号として設定し、かかる信号をビデオRAM1342に読み出すことで、航跡をいわば所定の幅広の帯状として設定でき、この帯状の範囲の探知画像を消去することが可能となる。この結果、かかる消去範囲の画像は他船の航跡として効果的乃至は実質的に消去されるので、探知対象の物標である魚群の画像のみを顕在的(識別容易)に表示することが可能となる。
【0051】
(3)本実施形態はスキャニングソナーで説明したが、画面が緯度経度の位置情報に変換された平面視モードであれば、単一の狭幅の送受信ビームであって、方位を指定することで水平方向に旋回可能な一般的なソナーの探知画像に対しても適用可能である。
【0052】
(4)本発明は、他船の位置を取得する装置を自船が搭載していない態様にも適用可能である。また、レーダ装置も必ずしも設けなくてもよい。例えば、各船から各々位置情報を周期的に無線で発信する船舶位置情報受信装置(AIS:Automatic Identification System)を利用することで、他船の位置情報を継続的に取得することが可能となり、この継続的な位置情報を他船の航跡情報として利用する態様でもよい。また、船団を構成しているような場合、いずれかの船が搭載するレーダ装置等から各船の位置情報を継続的に取得する態様でもよい。この場合、取得した情報の中から自船の位置情報を抽出する必要があるが、各船の位置情報に識別情報が添付されている態様では、自動的に認識可能である。また、レーダ装置20と前記AISとを併用する態様でもよい。
【0053】
(5)本実施形態では、絶対的な地球座標系を使用したが、本発明は、地球座標系以外の相対的な座標系でも適用可能である。例えば、自船がGPS受信器30を搭載しておらず、レーダ装置20と方位センサ40とを搭載している場合、レーダ装置20の中心とスキャニングソナー10の中心とは、いずれも自船であるから位置的に一致しており、一方が自船位置探知部として機能する。そこで、ビデオRAM1342の中心アドレスを一致させて信号を前記(i)〜(iii)のいずれかの方法で書き込ませれば、自船を基準とした座標系の描画が可能となる。また、直交座標系に限定されず、信号を極座標のままビデオRAM1342に書き込む態様でもよい。
【0054】
(6)本実施形態では、自船位置情報をGPS受信器30から取得し、他船位置情報をレーダ装置20から取得したが、これに代えて、GPS受信器30からの位置情報を一旦レーダ装置20に導いている場合には、レーダ装置20から自船位置情報をスキャニングソナー10に伝送する態様としてもよい。これによれば、GPS受信器30はレーダ装置20にのみ情報を伝送するだけでよい。また、レーダ装置20から取得する他船の位置情報は緯度経度情報としているが、これに限定されず、取得時点では極座標での位置情報とし、取得後に、制御部131側で緯度経度情報に変換する態様でもよい。
【0055】
(7)本実施形態では、レーダ装置120から他船の位置情報を制御部131で取得し、表示画像処理に適用することで、所定の加工として(i)、(ii)で示す方法のとおり、所定の航跡画像を作成し、ビデオRAM1342へ書き込む処理としたが、(iii)で示す方法の場合は前述の方法の他、表示信号処理部134によって施される干渉信号や海底反射信号等の不要信号を除去する処理と併せて、他船の航跡からの受信信号を、航跡位置情報を利用して探知信号内から除去するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 スキャニングソナー(水中探知装置)
11 送受波部
12 操作部
13 信号処理部
14 表示部
131 制御部(表示画像処理手段の一部、他船位置情報取得部、自船位置情報取得部)
134 表示画像処理部(表示画像処理手段)
1341 バッファメモリ
1342 ビデオRAM
135 メモリ部
1352 受信情報記憶部
1353 位置情報記憶部
1354 緯度経度情報記憶部
20 レーダ装置(他船位置情報探知部)
21 信号処理部
30 GPS受信器(自船位置情報探知部)
40 方位センサ
S1,S2,… 探知画像
Ga 航跡画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自船に搭載され、送受波部によって所定ティルト角方向に超音波探知信号を送波すると共に水中物標からの反射波を受信し、探知画像として表示部に平面視で表示する水中探知装置において、
外部から他船位置情報取得部を介して継続的に取得される他船の位置の履歴を示す航跡情報に画像処理のための所定の加工を施して、前記探知画像に重畳して前記表示部に導く表示画像処理手段を備えたことを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
前記送受波部は、前記超音波探知信号を繰り返し送信するものであり、前記表示画像処理手段は、複数回分の探知画像を前記表示部に表示するもので、外部から自船位置情報取得部を介して前記超音波探知信号の送波毎に取得される自船の位置の情報に対応させて前記複数回分の探知画像を前記表示部に表示することを特徴とする請求項1記載の水中探知装置。
【請求項3】
前記自船位置情報取得部は、前記外部から緯度経度情報を取得するものであることを特徴とする請求項2に記載の水中探知装置。
【請求項4】
前記表示画像処理手段は、前記所定の加工として、前記他船の位置の履歴を示す情報に所定の色を表す信号を設定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水中探知装置。
【請求項5】
前記表示画像処理手段は、前記所定の加工として、前記他船の位置の履歴を示す情報に消去のための信号を設定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水中探知装置。
【請求項6】
前記超音波探知信号は、前記所定ティルト角を有し、水平方向に無指向性を有する傘状の送信ビームであり、前記送信ビームとティルト角を等しくし、水平方向に旋回される、狭幅の指向性を有する受信ビームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水中探知装置。
【請求項7】
自船に搭載され、送受波部によって所定ティルト角方向に超音波探知信号を送波すると共に水中物標からの反射波を受信し、探知画像として表示部に平面視で表示する水中探知装置と、他船の位置の情報を取得する他船位置情報探知部とを備え、
前記水中探知装置は、前記他船位置情報探知部から他船位置情報取得部を介して継続的に取得される他船の位置の履歴を示す航跡情報に画像処理のための所定の加工を施して、前記探知画像に重畳して前記表示部に導く表示画像処理手段を備えたことを特徴とする水中探知システム
【請求項8】
自船の位置の情報を探知する自船位置情報探知部を備え、前記送受波部は、前記超音波探知信号を繰り返し送信するものであり、前記表示画像処理手段は、複数回分の探知画像を前記表示部に表示するもので、前記自船位置情報探知部から自船位置情報取得部を介して前記超音波探知信号の送波毎に取得される自船の位置の情報に対応させて前記複数回分の探知画像を前記表示部に表示することを特徴とする請求項7記載の水中探知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122736(P2012−122736A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271076(P2010−271076)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】