説明

水中油型乳化組成物の製造方法

【課題】微小粒子が均一に分散し、単分散な粒子径分布で、安定な水中油型乳化組成物を
製造する方法の提供。
【解決手段】(A)界面活性剤、(B)25℃で液状の油性成分及び(C)水を含有する組成物を高圧流体となし、当該高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段と、該ノズル手段へ前記高圧流体を導入するための導入流路とを備えた微粒化装置により乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法であって、
前記ノズル手段は、高硬質材料からなるノズル本体を有し、該ノズル本体に、ノズル本体外周面から軸心に向かって形成された複数の貫通孔からなる高圧流体の衝突用流路と、これら衝突用流路同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路とを備え、前記導入流路に導かれた高圧流体が、前記ノズル本体の外周から前記衝突用流路の各外周側端部開口へ導入されるものであり、
前記衝突用流路は、前記導出流路に連通する下流側の大口径流路と、この大口径流路の上流側に設けられて前記外周側端部開口から導入された高圧流体を該大口径流路内に噴出する小口径の噴射流路とを備えた微粒化装置
を用いて乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量の油性成分が均一に分散し、単分散な粒子径分布で、安定な水中油型乳化組成物を、効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中油型乳化組成物は、化粧料に広く用いられており、その使用感は非常に重要な課題となっている。化粧料に用いられる油性成分は、保湿等のスキンケア効果のために必要な成分である。従来、このような油性成分を安定に配合した水中油型乳化組成物を調製するため、乳化粒子を微細化することが行われてきた。しかしながら、このような微細乳化粒子を調製しようとすると、乳化剤の種類が限られたり、乳化剤の含有量を多くする必要があり、べたつき感が生じたり、人によっては皮膚に刺激を感じる場合があった。
【0003】
油性成分を比較的多量に含有する乳化物は、効率的な破砕、分散、乳化を行なう目的で、工業的には、一般に高圧乳化機を用いて製造される。特許文献1には、高圧乳化機で乳剤(乳化物)を製造する際に、高圧乳化処理部の高圧乳化作用点にかかる圧力に対し0.2%以上5%未満の背圧をかけることにより、超微小な乳剤粒子から構成される乳化組成物を製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法で得られる乳化組成物は、乳化粒子が微小であるものの、粒子径は均一でなく、十分な安定性を得ることはできなかった。
【0004】
一方、乳化粒子径分布の狭い単分散な乳化組成物を調製することで、乳化安定性を向上することが行われている。高度な単分散性を備えた乳化分散体や微粒子を製造する技術として、特許文献2に記載されているマイクロチャネル乳化技術が知られている。この技術は、分散相と連続相とを区切る膜に人工的に一様な構造を与え、微粒子の直径の標準偏差/微粒子の平均直径が0.03以下になる、非常に単分散の高い微粒子を得られるようにするものである。しかしながら、この方法により、均一な乳化粒子径を得ることはできるものの、その乳化粒子径は1μm程度の大きいものであった。従って、微細な乳化粒子径で、単分散性の高い乳化組成物の製造方法が熱望されていた。
【特許文献1】国際公開第95/35157号パンフレット
【特許文献2】特開2000−273188公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多量の油性成分を安定に乳化した微細な乳化粒子で、単分散な粒子径分布の水中油型乳化組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、(A)界面活性剤、(B)25℃で液状の油性成分及び(C)水を含有する組成物を、簡便な構成でありながら、従来よりも原料液の導入における圧力損失及び速度損失を抑えつつ十分な衝突力が確保できると共に部材内部に引張り応力による割れが生じることのないノズル手段を備えた微粒化装置を用いて乳化させることにより、油性成分を多く含有する系においても、高単分散で安定な水中油型乳化組成物が、効率良く得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)界面活性剤、(B)25℃で液状の油性成分及び(C)水を含有する組成物を高圧流体となし、当該高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段と、該ノズル手段へ前記高圧流体を導入するための導入流路とを備えた微粒化装置により乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法であって、
前記ノズル手段は、高硬質材料からなるノズル本体を有し、該ノズル本体に、ノズル本体外周面から軸心に向かって形成された複数の貫通孔からなる高圧流体の衝突用流路と、これら衝突用流路同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路とを備え、前記導入流路に導かれた高圧流体が、前記ノズル本体の外周から前記衝突用流路の各外周側端部開口へ導入されるものであり、
前記衝突用流路は、前記導出流路に連通する下流側の大口径流路と、この大口径流路の上流側に設けられて前記外周側端部開口から導入された高圧流体を該大口径流路内に噴出する小口径の噴射流路とを備え、
前記噴射流路の外周側端部開口から前記大口径流路に達するまでの長さL1が、0.15mm以上0.6mm以下、前記大口径流路の長さL2が、1.5mm以上4mm以下、前記噴射流路1個の断面積A1と前記大口径流路1個の断面積A2の比が、2≦A2/A1≦7であると共に、前記噴射流路の断面積の流路個数分の合計nA1と前記導出流路の断面積A3の比が、2≦A3/nA1≦80を満たす微粒化装置
を用いて乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、当該製造方法により得られる水中油型乳化組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多量の油性成分を含有する系においても、微小粒子が均一に分散し、単分散な粒子径分布で、非常に安定な水中油型乳化組成物を、効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で製造される水中油型乳化組成物は、特に制限されず、多量の油性成分を含有する場合にも、安定な乳化組成物を得ることができる。
本発明により得られる水中油型乳化組成物は、(A)界面活性剤、(B)25℃で液状の油性成分及び(C)水を含有するものである。
【0010】
(A)界面活性剤としては、親水性界面活性剤が好ましく、一般に化粧料に用いられるものであって、例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれでも良く、特にアニオン界面活性剤が好ましい。具体的には、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン塩;N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩;モノステアリルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩;ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩;リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩;レシチン、水素添加レシチン等の天然系界面活性剤などが挙げられる。
【0011】
これらのうち、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム等の長鎖N−アシルタウリン塩;モノステアリルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩;N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ミリストイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩が好ましい。特に、アルキル鎖長が16以上の長鎖N−アシルタウリン塩、長鎖N−アシルグルタミン酸塩が好ましい。
【0012】
(A)界面活性剤は、1種以上を用いることができ、全組成中に0.01〜5質量%、特に0.1〜2.5質量%含有されるのが好ましい。
【0013】
(B)油性成分としては、通常化粧料に用いられるもので、25℃で液状の、合成及び天然由来の油性成分で、例えば炭化水素油、エステル油、エーテル油、シリコーン油、フッ素油等が含まれる。
より具体的には、ホホバ油等の植物油;液状ラノリン等の動物油;流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素油;脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、グリセリン誘導体、アミノ酸誘導体等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油;フルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルシリコーン等のフッ素油;パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル等の紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0014】
(B)油性成分は、1種以上を用いることができ、保湿性と使用感の点から、全組成中に0.11〜60質量%、特に1.1〜30質量%であるのが好ましい。
【0015】
本発明においては、少ない(A)界面活性剤量で、多量の(B)油性成分を乳化させることができ、成分(A)に対する成分(B)の質量割合が、11質量倍以上とすることができ、好ましくは11〜38質量倍、より好ましくは12〜24質量倍、特に好ましくは15〜20質量倍とすることができる。
【0016】
本発明において、(C)水の含有量は、全組成中に10〜99質量%、特に10〜95質量%であるのが好ましい。
また、その他の水性基剤、例えばエタノールやプロパノール等の炭素数1〜4の低級アルコールなどを含有することもできる。
【0017】
本発明の水中油型乳化組成物には、更に(D)両親媒性脂質(25℃で固体)を含有させることができ、少ない処理回数で微細粒子径のエマルションを得ることができる。
かかる両親媒性脂質としては、例えば、ミリスチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸;セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;スフィンゴシン等のスフィンゴシン類;セラミド類などが挙げられる。セラミド類としては、例えばRobson K.J. et al., J. Lipid Res.,35,2060(1994)や、Wertz P.W. et al., J. Lipid Res.,24,759(1983)等に記載されているタイプI〜VIIのセラミドや、特開昭62-228048号公報記載のセラミド類似化合物などが含まれ、前者の市販品としては、セラミドIII、セラミドIIIB、セラミドIIIA、セラミドIV、フィトセラミドI(以上、デグサ社)、セラミドII(セダーマ社)、セラミドTIC−001(高砂香料社)等が挙げられる。
【0018】
両親媒性脂質は、1種以上を用いることができ、全組成中に0.01〜20質量%、特に0.1〜10質量%含有するのが好ましい。
【0019】
本発明の水中油型乳化組成物には、更に(E)多価アルコール含有させることができ、少ない処理回数で微細粒子径のエマルションを得ることができる。
かかる多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、キシリット、ソルビット、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0020】
多価アルコールは、1種以上を用いることができ、全組成中に0.5〜50質量%、特に0.5〜30質量%含有するのが好ましい。また、多価アルコールは、油性成分に対して0.8〜2質量倍であるのが好ましい。
また、(D)両親媒性脂質と(E)多価アルコールを組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明の水中油型乳化組成物は、例えば、全成分を混合して粗乳化液とし、これを高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段と、該ノズル手段へ前記高圧流体を導入するための導入流路とを備えた微粒化装置であって、
前記ノズル手段は、高硬質材料からなるノズル本体を有し、該ノズル本体に、ノズル本体外周面から軸心に向かって形成された複数の貫通孔からなる高圧流体の衝突用流路と、これら衝突用流路同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路とを備え、前記導入流路に導かれた高圧流体が、前記ノズル本体の外周から前記衝突用流路の各外周側端部開口へ導入されるものであり、
前記衝突用流路は、前記導出流路に連通する下流側の大口径流路と、この大口径流路の上流側に設けられて前記外周側端部開口から導入された高圧流体を該大口径流路内に噴出する小口径の噴射流路とを備え、
前記噴射流路の外周側端部開口から前記大口径流路に達するまでの長さL1が、0.15mm以上0.6mm以下、前記大口径流路の長さL2が、1.5mm以上4mm以下、前記噴射流路1個の断面積A1と前記大口径流路1個の断面積A2の比が、2≦A2/A1≦7であると共に、前記噴射流路の断面積の流路個数分の合計nA1と前記導出流路の断面積A3の比が、2≦A3/nA1≦80を満たす微粒化装置
を用いて乳化させることにより、製造することができる。
【0022】
粗乳化液とは、成分(A)、(B)及び(C)、必要に応じて、成分(D)、(E)、及びその他の成分を加え、これらそれぞれが溶解し得る温度以上に加温してプロペラ撹拌、あるいはホモジナイザー等によって油性成分と水性成分が見かけ上、ほぼ均一に混合された状態であるものをいう。
【0023】
粗乳化液は、装置内の貯蔵槽に充填され、接続する増圧シリンダーに移送され、高い圧力がかけられる。粗乳化液は、微粒化装置に導入される。
【0024】
本発明で用いる微粒化装置は、高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段として、高硬質材料からなるノズル本体に、該本体外周面から軸心に向かって形成された複数の貫通孔からなる高圧流体の衝突用流路と、これら衝突用流路同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路とが設けられ、前記導入流路に導かれた高圧流体が、ノズル本体の外周から前記衝突用流路の各外周側端部開口へ導入されるものを備えた微粒化装置であり、衝突用流路が、導出流路に連通する下流側の大口径流路と、この大口径流路の上流側に設けられて外周側端部開口から導入された高圧流体を該大口径流路内に噴出する小口径の噴射流路とを備えているものである。
【0025】
すなわち、ノズル手段においては、噴射流路とこれに続く大口径流路とが設けられて衝突用流路を構成し、該衝突用流路がノズル本体軸心と直交する面上あるいはそれ以上の角度をもって導出流路と連通するものであるため、各衝突用流路の各外周側端部開口から導入される高圧流体は、各噴射流路から大口径流路を経由してノズル本体軸心上の合流点へ向かって進み、該合流点で衝突し、衝突後には該合流点から軸心方向に沿って形成された導出流路からノズル本体外へ導出される。
【0026】
噴射流路とは、ノズル手段において高圧流体が流れる最も断面積の狭い流路であり、高圧流体がここを流れる際に圧力エネルギーが速度エネルギーに変換される流路である。これに連通する大口径流路内では、噴射流路から噴射される高圧流体はその噴射力により高速ジェットを形成し、この高速ジェットが周囲の流体と強い液−液間でのせん断力を生じる。この液−液間でのせん断力及び大口径流路を通った後のジェットが衝突空間で衝突することによって微粒化は促進される。
【0027】
従って、ノズル手段においては、まず高圧流体が部材内で屈曲して形成された流路を進むことなく噴射流路に導入できるため、圧力損失がほとんど発生することなく良好に流速が増大されて噴射流路から大口径流路へ向かって高速ジェットが噴射され、さらに大口径流路内では良好な液−液間でのせん断力を発生させることができ、それと共に大口径流路から噴射したジェットは高速を維持した状態で別の大口径流路から同様に噴射されたジェットと導出流路内で衝突するため、優れた微粒化性能を実現することができる。
【0028】
またさらに、ノズル本体について噴射流路や大口径流路、導出流路の長さや径等の設計寸法を特定の条件範囲内に規定することによって、高硬質材料の使用量を少なく抑えつつもより耐久性に優れ、高性能、高効率さらに大流量での高圧微粒化処理が可能なものが得られる。
【0029】
流量は、噴射流路の個数nと口径d1によって大略決定する。例えば、噴射流路断面形状が真円でn=2のとき、圧力245MPaにおいて、d1=0.1mmで流量0.5L/min、d1=0.25mmで流量4L/min、d1=0.35mmで流量7.5L/min、d1=0.5mmで流量12L/minとなる。
【0030】
一方、高速ジェットの速度を最大限高めるためには、噴射流路の長さL1を短くして流路内壁面と流体との摩擦による速度損失を極力低下させることが望ましい。しかし、短すぎるとノズル本体の強度が十分ではなく破損を招く要因となるため、最低限の長さは必要である。具体的には噴射流路の長さL1を、0.15mm以上0.6mm以下、より好ましくは0.25mm以上0.4mm以下の範囲内とすることが好適である。
【0031】
噴射流路からの高速ジェットは大口径流路に噴射され、大口径流路内で周囲の流体との液−液間でのせん断及び大口径流路を通った後のジェットが衝突空間で衝突することによって原料液の微粒化を実現する。すなわち、噴射流路1個の断面積A1と大口径流路1個の断面積A2の比を、2≦A2/A1≦7、より好ましくは2.5≦A2/A1≦6とすることにより、液−液間でのせん断力及び衝突エネルギーを最大限に高めることができる。なお、噴射流路と大口径流路とは同軸上に設けることが好ましい。
【0032】
また、液−液間でのせん断力及び衝突によるエネルギーは大口径流路の長さL2を好適な範囲にすることによってさらに高めることができる。すなわち、大口径流路の長さL2を1.5mm以上4mm以下、より好ましくは2mm以上3mm以下の範囲内とすることによって、十分な液−液間でのせん断力を得て、かつエネルギーを高いレベルに維持したままジェットを導出流路内で衝突させることができる。
【0033】
さらに、衝突後の流体は導出流路を通ってノズル本体から排出されるが、導出流路の径が小さすぎると導出流路での圧力損失が支配的となり、噴射流路出口での高速ジェットの速度が十分に大きくならないため、導出流路径は適切な大きさにすれば良い。すなわち、噴射流路の断面積の流路個数分の合計nA1と、導出流路の断面積A3の比を、2≦A3/nA1≦80、より好ましくは2.5≦A3/nA1≦65とすることにより、ジェット同士の衝突速度を上げることができ、衝突エネルギーを高め、微粒化性能をより向上させることができる。
【0034】
なお、ノズル本体の高硬質材料としては、超硬合金、SUS440C等金属材料の耐磨耗性を向上させた材料や、窒化珪素、ジルコニア、アルミナ等のセラミックス、さらに、ダイヤモンド、サファイア、ルビーなどが挙げられる。噴射流路には、高硬質材料として特に耐摩耗性に優れるダイヤモンドを用いることが望ましい。ダイヤモンドを用いる場合、最も硬度の高い天然ダイヤモンドの他、人工単結晶ダイヤモンド、人工多結晶ダイヤモンド、焼結ダイヤモンドがあり、いずれも用いることができるが、十分な硬度を持ち揃った大きさの粒が得られ、入手のし易さから人工単結晶ダイヤモンドを用いることが最も望ましい。
【0035】
また、ノズル本体の衝突用流路は、主に下流側の大口径流路と上流側の噴射流路とで構成されるものであるため、これらの流路をそれぞれ別体の部材に形成し、互いに連通するように組み合わせて構成することが可能である。この場合、高い耐久性が必要な噴射流路のみをダイヤモンド等の高硬質材料で形成し、他の流路を安価で加工性の優れた別の高硬質材料で形成することができる。
【0036】
すなわち、第1部材として導出流路とこれに連通する全ての大口径流路とを形成し、各噴射流路を衝突用流路の個数分の第2部材としてそれぞれ形成し、第1部材の各大口径流路端部に形成された凹部にそれぞれ第2部材を嵌合した状態において各噴射流路がそれぞれ対応する大口径流路に連通するようにノズル本体を構成すれば、ノズル本体の全体寸法を決定するのは第1部材でありこれに対し各第2部材は格段に小さくてすむため、第2部材のみを高価なダイヤモンドとし、第1部材は大口径流路と導出流路に充分な強度をもつ安価な高硬質材料とすれば、微粒化処理の大流量化のためのノズル本体の大型化も低コストで容易に実現可能となる。
【0037】
なお、軸心方向に沿って設けられた導出流路の噴出方向と衝突用流路、すなわち大口径流路とがなす角度を開き角度とすると、軸心に対して90度の角度をもって大口径流路が導出流路と連通する場合、衝突用流路と導出流路は側面視でT字形状を形成することとなる。また、前記開き角度が軸心に対して90度を超える角度であればこれら衝突用流路と導出流路とが側面視で略Y字形状を形成することとなる。
【0038】
大口径流路より流出したジェットは導出流路内で衝突するが、導出流路の噴出方向と大口径流路の開き角度が90度で大口径流路が対向して設けられている場合、ジェットは点で合流するため、確実に衝突させるには高精度な芯出しが要求され、また使用開始時はジェット同士が確実に衝突した場合も、長時間の使用によって軸が変化し互いを損傷する可能性がある。しかし、90度を上回る開き角度とするとジェットは線で合流するため、軸心と直交する面上でジェット同士が対向していれば開き角度が加工や使用経過によって変化した場合でもジェット同士は衝突する。すなわち、開き角度を95度以上150度以下とすることにより、ジェット流の衝突確率が向上し微粒化性能も向上させることができる。
【0039】
また、ノズル手段では、高圧流体の圧力をノズル本体の外周全体にかかるようにしたため、内圧を相殺することができるので各衝突用流路の方向の外周側端部からそれぞれ外側に向かって拡径するテーパ形状開口部分を設けることができ、このテーパ形状開口部分によって高圧流体の導入をよりスムーズにすることができると共に、実質的に微小口径領域である噴射流路が短くなって壁面抵抗による速度損失をさらに低減することができる。
【0040】
このようなテーパ形状開口部分を形成した場合、図3(a)に示すように実質的な噴射流路の長さL1は、ノズル本体表面に露呈する開口端から大口径流路に達する領域のうち、テーパ形状部分を除く長さであり、これはすなわち、噴射流路の方向の外周側開口部にテーパ形状部分を形成することによって、より流体抵抗を減少せしめ、より高速で大口径流路内に噴射し、大口径流路内における高速ジェット周囲の強い液−液間でのせん断及び導出流路内での高速な流体同士の衝突を実現できるものである。なお、前述のように、噴射流路が、大口径流路が形成されている第1部材とは別の第2部材に形成される場合、このテーパ形状開口部分も噴射流路と連続して同じ第2部材に形成すれば良い。
【0041】
また噴射流路、大口径流路、導出流路の断面形状は、円形状が流体と流路内壁面との摩擦損失の低減、加工の容易さ、機械的強度といった点から望ましいが、断面が円形である噴射流路から噴射される高速ジェットの断面も円であるため精度よく衝突させることは困難である。しかし、断面を矩形とし、矩形の長辺が軸心に直交する面と平行する方向に衝突用流路を設ければ、衝突空間におけるジェットの衝突確率は向上し、さらに高速ジェットの表面積が増大するため液−液間でのせん断力も向上させることができる。すなわち、噴射流路および大口径流路の断面が矩形であれば、さらに耐久性および微粒化性能を向上させることができる。
【0042】
さらに、導出流路は下流出口側開口に向かって拡径するテーパ形状としても良い。この場合、導出流路断面積A3はテーパ部の無い衝突空間14Xの断面積で代表できる。
【0043】
なお、ノズル手段において、ノズル本体の導出流路から導出される衝突済み流体は、ノズル本体が設置される微粒化装置のハウジング部材に設けられた導出流路を経て装置外へ送られるため、流体の漏れのない導出のためには、このノズル本体側の導出流路と装置ハウジング部材側の導出流路とが良好なシール状態で連通される必要がある。
【0044】
そこで、ノズル本体の導出流路がハウジング部材側の導出流路に対して同軸上に位置決めされた状態で、ノズル本体をハウジング部材へ押圧するシール手段を設ければ良い。このシール手段としては、ノズル本体が高圧流体の導入時に発生する圧力を利用できることから、ネジ等の強固で加減が困難な締め付け手段は必要なく、バネの付勢力を利用した簡便なもので充分である。
【0045】
また、噴射流路、大口径流路及び導出流路内でキャビテーションを発生する場合、従来のプレート同士を強固にネジ止め固定していたノズル手段ではネジ穴部分等にキャビテーションによる圧力変動に伴う振動の影響を受けたネジの緩みやネジ自身の振動によるネジ穴部分での損傷が発生する恐れがあったが、本発明においては一つの部材からなるノズル本体自身はもちろん、バネを利用したシール手段により押圧された装置ハウジング部材側との間にもネジ穴部などを設ける必要がないため、振動による悪影響を受ける恐れもなくなる。むしろ、バネのみによる押圧固定状態であっても、そのバネによる振動の吸収緩和作用により、ノズル手段のハウジング側の導出流路との軸ズレ防止効果が期待できる。
【0046】
以上、詳述したノズル手段は、特に処理原料を特定することなく微粒化に用いることができるが、流体と固体壁との摩擦による損失を極力抑えつつ、高速な流体を連接する大口径流路に噴射することで高速ジェット周囲に強い液−液間でのせん断力を発生させることができ、その後さらにジェット同士を効率的に衝突させることができる。このため、連続相と分散相とが共に液体である分散系すなわちエマルジョンの微粒化に特に優れた性能を発揮する。
【0047】
本発明において、衝突流路通過前の流体圧力は70000〜245000kPa、特に120000〜210000kPaであるのが好ましく、それにより、微細で高単分散性な粒径分布を持つ乳化粒子を得ることができる。
【0048】
また、本発明においては、流体衝突部にかかる圧力に対し、5〜20%、特に5〜10%の背圧をかけるのが、より効率良く微細乳化物を得ることができ、少ない処理回数で微細な乳化粒子を得ることができるので好ましい。背圧は、微粒化装置のノズル通過直後の圧力をいう。
背圧をかけるための装置は、組成物の流出量を調整する弁で対応でき、流体衝突部の出口側に直接装着するか、又は出口側の配管と耐圧ジョイント等で接続して用いることができる。
【0049】
従来、多量の油性成分を微細に乳化させる場合、強力な剪断エネルギーを発生させるために、高処理圧を与えなくてはならず、これが高圧乳化機の寿命を短くする要因となっていた。本発明においては、高圧乳化処理部の構造を選択することにより、乳化粒子の微細化に必要な処理圧力を、従来より下げることができる。これは、構造上の省エネルギー化ばかりでなく、流体衝突装置の耐久性への負荷が大きく削減できる点でも非常に有効である。得られる乳化粒子は粒径が小さく、単分散であり、透明性が高く、安定性に優れた水中油型乳化組成物が得られるものである。また、圧力エネルギーが、油滴の微細化エネルギーとして効率よく転換されるため、発熱量が少なく抑えることができるため、付属する冷却装置を簡略化することができる。
【0050】
さらに、流体衝突処理中又は処理直後の平均液温度を80℃以下にするのが、微小粒子がより均一に分散し、透明性が高く安定な乳化組成物が得られるので好ましい。具体的には、流体衝突処理部を通過直後に、乳化液を冷却するのが好ましく、流体衝突処理部開口部から25cm以内、特に15cm以内に冷却装置を配設するのが好ましい。市販の高圧乳化機に冷却装置が配設されている場合があるが、通常冷却装置の位置は、高圧乳化処理部開口部から遠い位置(25cmより離れている)であり、冷却効果も十分ではない。
【0051】
本発明によれば、微細粒子に乳化され、油滴の平均粒子径が好ましくは0.01〜0.5μm、特に好ましくは0.025〜0.2μm、更に好ましくは0.025〜0.1μmとなるような乳化組成物を得ることができる。さらに、微細乳化粒子の粒度分布は単分散であり、粒度分布の単分散性を表わすCV値が、好ましくは3〜50%、特に好ましくは5〜25%、更に好ましくは7〜10%となる乳化組成物を得ることができる。
【0052】
CV値は平均粒子径に対する標準偏差の割合で算出される。平均粒子径と標準偏差は動的光散乱法を原理とした粒径測定装置によって測定される。例えば、堀場製作所製LB−500、大塚電子製DLS−7000などを用いることができる。測定には試料濃度が高いと内部光散乱(多重散乱)が生じるため、十分に希釈した試料を用いることが必要である。例えば、堀場製作所製LB−500では、試料濃度を電圧で表示している、0.5V〜16.0Vの範囲にはいるように希釈する。また、測定時には測定温度での分散媒粘度を入力しなければならない。通常は水で希釈する場合が多く、水の粘度に対し、温度補正を行った数値が用いられている。粒子に当たった散乱光はその粒子径に応じて光ゆらぎ信号として検出器にて検出され、その解析により平均粒子径、粒径分布が計算される。その際に様々な算出法が採用されているが、本測定においては、体積基準による粒径分布、メジアン平均粒子径にて行った。
このように高単分散性を持って微細乳化されることにより、乳化組成物は透明性と安定性が高く、油性成分が多量に含有されていても、安定な水中油型乳化物を得ることができる。
【0053】
本発明により得られる水中油型乳化組成物は、そのまま化粧料等として、特に透明性の高い化粧料として、好適に使用することができる。
また、高圧乳化により得られた水中油型乳化組成物を、水等の水性成分、またはそれらに水溶性の有効成分や添加剤を加えたもので希釈して、例えば化粧水や美容液等の化粧料として用いることができる。本発明により得られる水中油型乳化組成物は、さらに希釈によって水等の水性成分が添加されても、高圧乳化により得られた乳化状態が維持され、油滴の平均粒子径が、0.01〜0.5μmであって、透過率が45〜90%の化粧料を得ることが可能である。
【0054】
このような有効成分や添加剤としては、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸等の水溶性ビタミン類;オウバクエキス、カンゾウエキス、アロエエキス、スギナエキス、茶エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、ハマメリス抽出液、プラセンタエキス、海藻エキス、マロニエエキス、ユズエキス、ユーカリエキス、アスナロ抽出液等の動・植物抽出液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩等のpH調整剤;カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸ナトリウム等の増粘剤などが挙げられる。
【実施例】
【0055】
参考例1
本発明で用いる微粒化装置1として、原料液の高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段に、同軸上に配置された噴射流路と大口径流路とで2本の衝突用流路が構成され、下流側の大口径流路と軸心とが同一面上で軸心に対して角度をもって設けられ、大口径流路と軸心方向に沿った導出流路とが側面視で略Y字状に設けられてなるノズル本体を備えた装置を図1に示す。図1(a)は微粒化装置1の概略構成を示す側断面図であり、(b)はノズル本体部分の拡大図である。微粒化装置1は、略カップ状のハウジング2にプラグ部材6を嵌合して内部に形成されるチャンバ9内に、プラグ部材6側の押さえ部材7とハウジング2側からバネ5により付勢されるノズル押さえ3との間でノズル本体10が保持されるものである。
【0056】
ノズル本体10は、例えば超硬合金などの高硬質材料からなる第1部材11に、互いに軸心方向へ向かい合うように軸心に対して角度をもって形成された大口径流路13とこの大口径流路13同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路14とが略Y字状に設けられ、第1部材11の各大口径流路開口端部に形成された凹部11xに、噴射流路12Yが形成された単結晶ダイヤモンド等の高硬質材料からなる第2部材16がそれぞれ嵌合されて構成されたものである。なお、第1部材11と第2部材16との接合固定は、ろう付、例えば銀ろう等によって行われる。
【0057】
各第2部材16には、それぞれ外側に向かって拡径するテーパ形状開口部分12Xを備えた噴射流路12Yが形成されており、前記凹部11xへの嵌合状態にて各噴射流路12Yが大口径流路13に同軸上に連通し、噴射用流路が構成される。なお、ノズル本体10へ高圧流体を導入するための導入流路15は、ノズル押さえ3とプラグ側の押さえ部材7との間でノズル本体10の外側空間に形成される。
【0058】
従って、衝突処理対象原料である高圧流体は、ハウジング2の端部からチャンバ9およびノズル押さえ3に形成された供給流路4を経て導入流路15へ送られ、この導入流路15からノズル本体10の外周面全体に圧をかける状態で供給され、ノズル本体外周面に開口する各第2部材16のテーパ形状開口12Xからそれぞれ噴射流路12Yへ導かれ、高速ジェットとして各大口径流路13に噴射され、その後ジェットはそれぞれ衝突空間14Xへ送られ、軸心上の合流点にて衝突する。
【0059】
従って、以上のような構成のノズル本体10を備えた微粒化装置1では、高圧流体がノズル本体10内で屈曲する衝突用流路を進むことが無いため、圧力損失をほとんど発生することなく衝突空間14Xへ導入される。
【0060】
また、微粒化装置1では、ノズル本体10を二種の部材で構成し、噴射流路12Yはダイヤモンド等の高硬質材料を用い、他の大口径流路13、導出流路14等は安価な高硬質材料を用いた。これによって、安価で自由な流路設計を行うことができる。
【0061】
なお、各噴射流路12Yの外周側端部からそれぞれ外側に向かって拡径するテーパ形状開口部分12Xを設けたことにより、高圧流体の導入、加速がよりスムーズになる。このテーパ形状開口部分12Xでは、高圧流体導入時に引っ張り応力が生じるが、前述のように本ノズル本体10ではその外周面全体に高圧流体の圧力がかかることにより相殺されるため問題ない。
【0062】
このようなテーパ形状開口部分12Xを設けた場合、高圧流体の縮流等によって高圧流体が噴射流路に導入される際の抵抗をなくすことができ、良好なジェットを形成させることができる。
【0063】
また、噴射流路と大口径流路とからなる衝突用流路を、軸心方向と直交する面上ではなく軸心に対して角度をもって設けた場合、衝突空間14Xにおいてジェットはより確実に衝突し、高い衝突エネルギーを得ることができ、ジェットによって対向する大口径流路等を損傷する可能性も低減することができる。さらに、噴射流路、大口径流路を矩形のスリットとし高速ジェットの形状を扁平とすることで、大口径流路13における液−液間でのせん断力を高め、衝突空間14Xにおけるジェット同士が正確に衝突され、微粒化性能を高めることができる。
【0064】
さらに、微粒化装置1では、ノズル本体10を装置ハウジング側、ここでは押さえ部材7に対して押圧固定し、当接面を良好にシールしてノズル本体10の導出流路14とハウジング側の導出流路8との間の流体漏れを防止するためのシール手段として、バネ5によるノズル押さえ3を設けた。
【0065】
微粒化装置1におけるノズル本体10は、第1部材11と第2部材16との二種類の部材で構成し、大口径流路13、導出流路14を設けた安価な高硬質材料に、噴射流路12Yが形成されたダイヤモンド等の高硬質材料を用いた第2部材16を組み込んだ構成となっており、また、高圧流体が導入流路15に満たされることによりノズル本体10の外周全体に高圧流体の圧力がかかることから、従来の二つのプレートの重なりによって構成された場合のようにネジ止め等の部材破損が生じる危険のある強固で調整加減が困難な締め付け手段は必要なく、上記のようなバネ5の付勢力を利用した簡便なものでノズル本体10とハウジング間は良好なシール状態が得られ、流体漏れは充分に防止できる。
【0066】
なお、微粒化装置1では、導出流路14が断面円形で出口側がテーパ状に拡径したものの場合を示したが、導出流路の形状をこれに限定するものではなく、実際の微粒化工程における原料液や各条件に応じて、良好な衝突条件が得られる衝突空間が形成されると共に衝突後の流体の導出がよりスムーズに行えるものであればよい。なお、導出流路断面積A3はテーパ部の無い衝突空間14Xの断面積で定義される。
【0067】
例えば、図2((a)はノズル本体の側断面図、(b)は(a)のA−A断面矢視図、
(c)は(a)のB−B断面矢視図)に示すノズル本体20のように、第1部材21に断面略長方形状で衝突空間から出口側に亘って同じ断面積で形成された導出流路24が挙げられる。この導出流路24を断面略長方形状としたことによって、横方向の面積を拡げることとなり、衝突距離を変更せずに、衝突後の原料液がスムーズに流れる。
【0068】
より具体的な実施様態として、図3、図4に示す各タイプのノズル本体(30,40)を組み込んで図1に示すように構成した微粒化装置が挙げられる。
【0069】
図3のタイプのノズル本体30は、(a)の側断面図に示すように、噴射流路32Yの外周側端部から外側に向かうテーパ形状開口部分32Xが形成され、噴射流路32Y、大口径流路33とも断面形状は円形である。図3(b)は(a)のA−A断面矢視図、(c)は(b)のB−B断面矢視図である。
【0070】
また、図4のタイプのノズル本体40は(a)の側断面図に示すように、噴射流路42Yの外周側端部から外側に向かうテーパ形状開口部分42Xが形成され、噴射流路42Y、大口径流路43とも断面形状は矩形である。図4(b)は(a)のA−A断面矢視図、(c)は(b)のB−B断面矢視図である。
【0071】
いずれのタイプのノズル本体(30,40)とも、噴射流路(32Y,42Y)がダイヤモンドからなる第2部材(36,46)に形成され、超硬合金等の第1部材(31,41)に形成された大口径流路(33,43)の端部の凹部に第2部材(36,46)が嵌合されることにより噴射流路と大口径流路とが同軸上に連通されて衝突用流路が構成されるものである。いずれも衝突用流路の個数n=2とした。
【0072】
なお、上記においては、ノズル本体に外周面から軸心に向かい合う二つの貫通孔からなる衝突用流路が軸心に対して角度をもって設けられ導出流路と略Y字形状を成すものの場合を示したが、これに限るものではなく、例えば、図5に示すような互いに等角度間隔で放射状に形成された3本以上の貫通孔からなる衝突用流路(噴射流路52Y及び大口径流路53)を備えたノズル本体50のように、衝突用流路の数や配置は、実際の原料液や処理条件に応じてより高い衝突処理効率が望めるものを適宜選択すればよい。
【0073】
実施例1〜3
図3に示したタイプで、表1に示すノズル形状を備えたノズル本体30を組み込み、図1に示すように構成した微粒化装置を用い、水中油型乳化組成物を製造した。
すなわち、流動パラフィン250g、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム15g、ステアリン酸30g、グリセリン200g及び精製水505gを混合し、80℃に加熱混合し、ホモジナイザーで撹拌して粗乳化液とした。この粗乳化液を収容した原料タンクから高圧ポンプを介して操作圧力175MPaで微粒化装置へ送り、微粒化装置の導出流路から排出される衝突済み処理液を背圧調整バルブ(背圧0〜15MPa)を介して冷却機(冷却水入口温度15℃)へ送り、冷却後に再び原料タンクへ回収し、次の衝突処理工程を繰り返す。
【0074】
衝突処理を5回繰り返し、回収した液体を室温まで冷却して、水中油型乳化組成物を得た。得られた組成物を水で100倍に希釈し、光散乱式粒度分布測定装置(LB−500、堀場製作所社製)を用いて、メジアン平均粒子径、標準偏差を測定し、CV値を算出した。結果を表1に併せて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
比較例1、2
実施例1〜3と同じ手順、同条件にて調製した粗乳化液を既存の高圧微粒化装置にて処理し、水中油型乳化組成物を得た。得られた乳化組成物を、水で100倍に希釈し、光散乱式粒度分布測定装置(LB−500、堀場製作所社製)を用いて、メジアン平均粒子径、標準偏差を測定し、CV値を算出した。結果を以下に示す。
【0077】
(比較例1)
高圧微粒化装置:マイクロフルイダイザーM−140K(microfluidics社製)、
標準Y型チャンバー装着。
平均粒子径0.070μm、CV値63%
(比較例2)
高圧微粒化装置:アルティマイザーHJP−25005(タウテクノロジー社製)、
標準液−液衝突型チャンバー装着。
平均粒子径0.120μm、CV値71%
【0078】
実施例4〜9、比較例3〜6
実施例1〜3、比較例1、2で得られた乳化組成物、及びそれらの乳化組成物を精製水で10倍希釈した乳化組成物について、保存安定性を評価した。保存開始時の外観は、いずれも透明であり、保存後の外観を目視にて評価して、透明の場合:○、半透明の場合:△、白濁の場合:×と示した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例10
図4に示したタイプで、表3に示すノズル形状を備えたノズル本体40を組み込み、図1に示すように構成した微粒化装置を用い、水中油型乳化組成物を製造した。
すなわち、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム25g、スクワラン100g、ジメチルポリシロキサン(6cs)200g、セラミドIII20g、グリセリン450gに、精製水205mLを加え、ホモジナイザーで撹拌して粗乳化液とした。この粗乳化液を、微細化装置にて、処理圧180000kPa、背圧10500kPaにて、5回繰返し処理し、水中油型乳化組成物を得た。
得られた組成物を水で100倍に希釈し、光散乱式粒度分布測定装置(LB−500、堀場製作所社製)を用いて、メジアン平均粒子径、標準偏差を測定し、CV値を算出した。結果を表3に併せて示す。
この組成物250mLに、4%アスコルビン酸マグネシウム水溶液750mLを混合し、外観が透明な美容液を得た。この美容液を5℃、20℃、30℃の環境下で6ヶ月保存した結果、いずれも外観に変化は認められなかった。
【0081】
【表3】

【0082】
実施例11
ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム30g、ジメチルポリシロキサン(6cs)330g、セラミドIII10g、グリセリン200gに、精製水430mLを加え、ホモジナイザーで撹拌して粗乳化液とした。この粗乳化液を、図3に示したタイプで、表1に示す実施例2のノズル形状を備えたノズル本体30を組み込み、図1に示すように構成した微細化装置にて、処理圧125000kPa、背圧12000kPaにて、7回繰返し処理し、水中油型乳化組成物を得た。
得られた水中油型乳化組成物の平均粒子径は0.041μm、CV値9%であった。この乳化物を5℃、20℃、40℃の環境下で6ヶ月保存した結果、いずれも外観に変化は認められなかった。
【0083】
比較例7
実施例11と同じ組成からなる粗乳化物を、比較例1で用いた微細化装置にて、処理圧処理圧125000kPa、背圧12000kPaにて、10回処理し、水中油型乳化組成物を得た。
得られた水中油型乳化組成物の平均粒子径は0.043μm、CV値63%であった。この乳化物を5℃、20℃、40℃の環境下で6ヶ月保存した結果、20℃では外観に変化は認められなかったが、5℃、40℃ではクリーミングが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明で用いる微粒化装置の一例の概略構成図である。(a)は微粒化装置の概略構成を示す側断面図であり、(b)はノズル本体部分の拡大図である。
【図2】本発明で用いる微粒化装置における、ノズル本体の別の例を示す概略構成図である。(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面矢視図、(c)は(a)のB−B断面矢視図である。
【図3】本発明で用いる微粒化装置において、噴射流路および大口径流路が円柱の場合のノズル手段の概略構成図である。(a)は噴射流路の外周側端部から外側に向かうテーパ形状開口部分が形成され、噴射流路、大口径流路とも断面形状が円形であるノズル本体、(b)は(a)のA−A断面矢視図(拡大図)、(c)は(b)のB−B断面矢視図(拡大図)である。
【図4】本発明で用いる微粒化装置において、噴射流路および大口径流路が矩形の場合のノズル手段の概略構成図である。(a)は噴射流路の外周側端部から外側に向かうテーパ形状開口部分が形成され、噴射流路、大口径流路とも断面形状が矩形であるノズル本体、(b)は(a)のA−A断面矢視図(拡大図)、(c)は(b)のB−B断面矢視図(拡大図)である。
【図5】本発明で用いる微粒化装置において、他のノズル本体の構成を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1:微粒化装置
2:ハウジング
3:ノズル押さえ
4:高圧流体供給流路
5:バネ
6:プラグ部材
7:押さえ部材
8:導出流路
9:チャンバ
10,20,30、40,50:ノズル本体手段
11,21,31,41,51:第1部材
11X:凹部
12X,22X,32X,42X,52X:テーパ形状開口部分
12Y,22Y,32Y,42Y,52Y:噴射流路
13,23,33、43,53:大口径流路
14,24,34,44,54:(ノズル本体の)導出流路
14X:衝突空間
14Y:テーパ状出口
14L:衝突距離
15:導入流路
16,26,36,46,56:第2部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)界面活性剤、(B)25℃で液状の油性成分及び(C)水を含有する組成物を高圧流体となし、当該高圧流体同士を衝突させるためのノズル手段と、該ノズル手段へ前記高圧流体を導入するための導入流路とを備えた微粒化装置により乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法であって、
前記ノズル手段は、高硬質材料からなるノズル本体を有し、該ノズル本体に、ノズル本体外周面から軸心に向かって形成された複数の貫通孔からなる高圧流体の衝突用流路と、これら衝突用流路同士の合流点から軸心方向に沿って形成された衝突後の流体を導出するための導出流路とを備え、前記導入流路に導かれた高圧流体が、前記ノズル本体の外周から前記衝突用流路の各外周側端部開口へ導入されるものであり、
前記衝突用流路は、前記導出流路に連通する下流側の大口径流路と、この大口径流路の上流側に設けられて前記外周側端部開口から導入された高圧流体を該大口径流路内に噴出する小口径の噴射流路とを備え、
前記噴射流路の外周側端部開口から前記大口径流路に達するまでの長さL1が、0.15mm以上0.6mm以下、前記大口径流路の長さL2が、1.5mm以上4mm以下、前記噴射流路1個の断面積A1と前記大口径流路1個の断面積A2の比が、2≦A2/A1≦7であると共に、前記噴射流路の断面積の流路個数分の合計nA1と前記導出流路の断面積A3の比が、2≦A3/nA1≦80を満たす微粒化装置
を用いて乳化させる水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項2】
水中油型乳化組成物が、油滴の平均粒子径が0.01〜0.5μmであり、CV値が3〜50%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水中油型乳化組成物が、(B)成分/(A)成分の質量割合が11倍以上である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
水中油型乳化組成物が、更に(D)両親媒性脂質を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
水中油型乳化組成物が、更に(E)多価アルコールを含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られる水中油型乳化組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−113010(P2009−113010A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292164(P2007−292164)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】