説明

水中油型乳化組成物

【課題】小麦タンパク質の加水分解物を界面活性剤として使用しながらも、保存安定性に優れた水中油型乳化組成物を提供すること。
【解決手段】小麦タンパク質の加水分解物、並びに、カルボキシビニルポリマー及びアクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体から選択される少なくとも1種、を含有する水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品等として使用可能な水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化粧品として使用されている水中油型乳化組成物においては、乳化状態を簡単に形成するために合成界面活性剤が配合されている。ところが、合成界面活性剤は環境上の問題があり、また、皮膚に対する刺激等の悪影響も懸念されることから、天然物由来の界面活性剤を使用することが望まれている。
【0003】
天然物由来の界面活性剤として、特許文献1では、小麦、とうもろこし、または大豆由来の植物性タンパク質の部分加水分解物が開示されている。
【特許文献1】特公平6−91793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載されている小麦タンパク質の加水分解物を界面活性剤として使用して調製した乳化物は、乳化後時間の経過に伴い油相と水相が分離しやすく、保存安定性が十分でないことが判明した。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、小麦タンパク質の加水分解物を界面活性剤として使用しながらも、保存安定性に優れた水中油型乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、小麦タンパク質の加水分解物とともに、特定の重合体成分を配合して乳化物を調製することにより、乳化物の保存安定性が著しく向上することを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明の水中油型乳化組成物は、小麦タンパク質の加水分解物、並びに、カルボキシビニルポリマー及びアクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体から選択される少なくとも1種、を含有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、小麦タンパク質の加水分解物を界面活性剤として使用しながらも、保存安定性に優れた水中油型乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水中油型乳化組成物は、界面活性剤として、小麦タンパク質の加水分解物を含有する。本発明で使用する小麦タンパク質の加水分解物とは、小麦タンパク質を酸やアルカリ、酵素等により加水分解することで低分子量化したものをいう。
【0010】
一般に、小麦タンパク質の80%は分子量が約200万のグルテンによって占められているが、グルテンは構成アミノ酸のうち約3分の1がグルタミンであるために、グルタミン残基間で形成される水素結合により会合して水不溶性である。ところが、小麦タンパク質を部分加水分解すると、低分子量化するとともに、グルタミン酸残基において脱アミド化が進行してカルボキシル基を生じ、親水性が向上する。このような小麦タンパク質の加水分解物は陽イオン性の解離基(NH3+)と陰イオン性の解離基(COO-)を併せ持ち、両性界面活性剤としての機能を有する。本発明で特に好ましい小麦タンパク質の加水分解物は平均分子量が約5〜6万程度のものである。
【0011】
小麦タンパク質の加水分解物の製法としては、例えば、上掲の特公平6−91793号公報に記載の製法が挙げられる。
【0012】
本発明で使用可能な小麦タンパク質加水分解物の市販品としては、例えば、グルパール19S(片山化学工業研究所製)、DRAGODERM 118726(シムライズ社製)、PHYTOKERATIN(Arch Personal Care社製)、プロモイス WG(成和化成社製)、CROPEPTIDE W(クローダジャパン社製)、Liftiline(シラブ社製)TRITISOL(クローダジャパン社製)等が挙げられる。
【0013】
本発明の水中油型乳化組成物において、前記小麦タンパク質加水分解物の含有量は、組成物全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。この範囲内では、安定性の高い水中油型乳化組成物を調製することができる。前記小麦タンパク質加水分解物の含量が多くなると乳化安定性が低下する傾向があるので、より好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは1〜3質量%である。
【0014】
水中油型乳化組成物の油相を構成する油成分と前記小麦タンパク質加水分解物の割合としては適宜設定することが可能であるが、乳化安定性の観点から、1:0.01〜1:1.2(質量比)程度の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の水中油型乳化組成物は、小麦タンパク質加水分解物とともに、他の界面活性剤を含有してもよい。しかしながら、合成界面活性剤を配合しないことによって、肌にも環境にもやさしい自然派の水中油型乳化組成物を提供することができる。また、合成界面活性剤に特有のベタツキが少なく、使い心地の良好な水中油型乳化組成物を提供することができる。
【0016】
本発明の水中油型乳化組成物は、乳化助剤として、カルボキシビニルポリマー及びアクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体から選択される少なくとも1種を含有する。この成分を配合することによって、小麦タンパク質の加水分解物を界面活性剤として含有する水中油型乳化組成物の乳化安定性が著しく向上する。
【0017】
カルボキシビニルポリマーとはアクリル酸の重合体であってカルボキシル基を有するものである。特に限定されないが、例えば、カーボポール940、カーボポール941、カーボポール934、カーボポール981、カーボポールETD2050(以上、NOVEON社製)等の市販品を使用することができる。
【0018】
アクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル及び/又はメタクリル酸アルキルを構成モノマーとする重合体であるが、所望により、構成モノマーのひとつとして、ジビニルエーテル等の架橋のためのモノマーを含んでもよい。前記アルキル基の炭素鎖としては炭素数10〜30のものが好ましく、炭素数10〜30の炭素鎖の混合物が特に好ましい。特に限定されないが、例えば、カーボポール1342、カーボポール1382、カーボポールETD2050、ペミュレンTR−1、ペミュレンTR−2(以上、NOVEON社製)等の市販品を使用することができる。
【0019】
以上の乳化助剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の水中油型乳化組成物において、前記乳化助剤の総含有量は、組成物全量に対して0.005〜1質量%であることが好ましい。この範囲内では、保存安定性の高い水中油型乳化組成物を調製することができる。また、前記小麦タンパク質加水分解物と前記乳化助剤の割合としては、保存安定性の観点から、1:0.01〜1:1程度の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の水中油型乳化組成物の油相を構成する油成分としては、特に限定されず、その用途に応じた油成分を使用すればよい。化粧品用途の場合には、例えば、アボカド油、アルモンド油、オリーブ油、ゴマ油、サザンカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、メドウフォーム油、シア脂、ホホバ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油、モクロウ、ミツロウ、ヤシ油、硬化ヒマシ油等の植物性油脂類、タートル油、ミンク油、卵黄油、牛脂、豚脂等の動物性油脂類、ミツロウ、カルナウバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、キャンデリラロウ、ホホバ油等のロウ類、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プリスタン等の炭化水素類、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、コレステロール等のアルコール類、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等のエステル類、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油類等が挙げられ、水中油型乳化組成物の形態に応じて適宜選択すればよい。
【0022】
本発明の水中油型乳化組成物の性状としては、ローション、乳液等の、流動性を有する形態や、クリーム等の、流動性を有しない形態が挙げられる。
【0023】
本発明の水中油型乳化組成物は特に化粧用の水中油型乳化組成物として好適に使用することができるが、この場合、一般に化粧料に配合される成分、例えば、粉体、スクラブ剤、美容成分、紫外線吸収剤、染料、着色剤、香料、防腐剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
以下の実施例及び比較例では下記の成分を使用した。
加水分解小麦タンパク質:商品名グルパール19S(片山化学工業研究所製)
カルボキシビニルポリマー:商品名カーボポール941(NOVEON社製)
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体:商品名ペミュレンTR−1(NOVEON社製)
表1に記載の各成分を使用して水中油型乳化物を調製した。まず、ステアリン酸からメドウフォーム油までの油相成分を混合し、70℃にて加熱溶解した。別途、精製水以下に記載した水相成分を混合し、70℃にて加熱溶解した。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化した。
【0026】
得られた各乳液について下記条件で保存安定性を評価した。
(1)各乳化物を、50℃に調整した恒温槽内で保存し、1週間後の乳化状態を観察した。
○:乳化状態が良好である。
△:少し乳化状態が変化している。
×:クリーム層と水層の分離が認められる。
(2)各乳化物を室温で保存した後、6カ月後に至るまで乳化状態を観察したところ、実施例1〜6では6カ月後でも乳化状態は良好であったが、比較例1〜5では、乳化物調製の翌日には分離が認められた。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

表1及び表2の結果から、小麦タンパク質の加水分解物のみ又は特定の重合体成分のみを配合した比較例1〜5では乳化物の保存安定性が不十分であったが、当該加水分解物と特定の重合体成分を併用することにより、乳化物の保存安定性が著しく向上したことが分かる。
【0029】
以下に本発明の水中油型乳化組成物の処方例を示す。
【0030】
(処方例1)乳液
(1)スクワラン 10.00(質量%)
(2)イソオクタン酸セチル 4.00
(3)加水分解小麦タンパク質 4.00
(4)グリセリン 4.00
(5)パラオキシ安息香酸メチル 0.10
(6)カルボキシビニルポリマー 0.15
商品名カーボポール940(NOVEON社製)
(7)精製水 全量を100とする量
(8)アルギニン(1質量%水溶液) 10.0
製法:(1)、(2)の油相成分を70℃にて加熱溶解する。別途、(3)〜(7)の水相成分を70℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却を開始し、(8)を加え、均一に混合する。
【0031】
(処方例2)水中油型クリーム
(1)ミツロウ 6.00(質量%)
(2)セタノール 5.00
(3)還元ラノリン 8.00
(4)スクワラン 27.50
(5)加水分解小麦タンパク質 4.00
(6)プロピレングリコール 5.00
(7)パラオキシ安息香酸メチル 0.10
(8)精製水 全量を100とする量
(9)アクリル酸・メタクリル酸共重合体(1質量%水溶液) 10.00
商品名ペミュレンTR−2(NOVEON社製)
(10)水酸化カリウム(1%水溶液) 5.00
製法:(1)〜(4)の油相成分を70℃にて加熱溶解する。別途、(5)〜(9)の水相成分を70℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却を開始し、(10)を加え、均一に混合する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の水中油型乳化組成物は、化粧品や医薬品等として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦タンパク質の加水分解物、並びに
カルボキシビニルポリマー及びアクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体から選択される少なくとも1種、を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。
【請求項2】
組成物全量に対する前記小麦タンパク質の加水分解物の含有量が0.1〜10質量%である、請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
組成物全量に対する前記カルボキシビニルポリマー及び前記アクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体の総含有量0.005〜1質量%である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2009−269837(P2009−269837A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119806(P2008−119806)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】