説明

水中用超音波アレイセンサ

【課題】圧電型薄膜センサの耐久性(防水・防圧性)を高め、水中用超音波アレイセンサを提供する。
【解決手段】ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサ1において、超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護される。そして、超音波アレイセンサ1の一部に、超音波アレイセンサ1の背面スペース30と導通する導通孔32が設けられる。又は、超音波アレイセンサ1の背面スペース30に油または水などの難圧縮性液体が封入される。又は、超音波アレイセンサ1の背面スペース30に樹脂が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサに関し、特に、水中用として使用可能な耐圧構造に優れた超音波アレイセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から実用化されている超音波センサとしては、圧電体のバルクセラミックスを用いたものが主流である。しかし、小型化の要請があるものの、数cm程度のスケールで多素子アレイ化は困難であるという問題がある。小型で多素子アレイ化が可能なバルクセラミックスのセンサも市場に出始めているものの、現状非常に高価でありコスト的な問題がある。そのため、このバルクセラミックスに代わるものとして、シリコンマイクロマシニング技術を用いたダイアフラム上に種々のタイプの超音波センサが作製されており、ピエゾ抵抗型や、コンデンサマイクロフォン型、圧電型が研究開発されている。
【0003】
特に近年、所定の共振周波数を有し超音波を検出可能な圧電型トランスデューサにてなる複数の超音波センサ素子を所定の2次元アレイ状に配置した超音波アレイセンサを用いて、電子走査による物体の三次元計測画像を得ることが実用化されている。このような超音波アレイセンサでは、各々の超音波センサ素子からの出力信号を処理することにより、機械的走査部をなくし、超音波センサ素子自身は固定したままで電気的に計測方位を走査することが可能である。
【0004】
この圧電型として、空中用と水中用のそれぞれで圧電型薄膜センサが研究されている。空中用としては、空気中での三次元計測を目指した圧電薄膜を用いたマイクロ超音波アレイセンサが知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。また、水中用としては、非特許文献1に開示されているものが知られている。
かかる圧電型薄膜センサは、作製プロセスの簡略化、マスク枚数の低減化、歩留まり及び信頼性の向上によるコスト低下が見込まれ、実用化・量産化に適した方式である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−284182号公報
【特許文献2】特開2005−167820号公報
【非特許文献1】J.J. Bernstein et al., "Micromachined High FrequencyFerroelectric Sonar Transducers", IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelectrics and Freq. Control, Vol. 44, pp. 960-969, 1997.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように圧電型薄膜センサは、実用化・量産化に適した方式であるが、そのままでは水中で使用できるようにするための対策が十分ではないといった問題がある。
すなわち、以下の問題点が挙げられる。
第1の問題点は、薄膜センサ自体の耐力の問題である。薄膜センサは数ミクロン程度の厚さであり、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避する手立てを講じなければならない。薄膜センサの厚みを厚くしてそれ自身で耐圧性を持たせたものがあるが、感度が悪く、また耐圧性に不安が残る。
第2の問題点は、薄膜センサ表面の問題である。薄膜センサ素子上の上部電極や配線パッド、ステムのピンやボンディング配線が外部に露出しているため、これらが水中で水に直接触れるのを回避する手立てを講じなければならない。
第3の問題点は、センサ出力の増幅系や信号処系などの後段の回路部が水中で動作可能となっていない点である。
【0007】
上記の問題点に鑑み、本発明は、圧電型薄膜センサの耐久性を高めて、水中用超音波アレイセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々の試作品を作製し、改良を重ねた結果、本発明に係る水中用超音波アレイセンサを完成した。
本発明の第1の観点からは、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)超音波アレイセンサの一部に、超音波アレイセンサの背面スペースと導通する導通孔が設けられた水中用超音波アレイセンサが提供される。
【0009】
かかる第1の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、周縁部が樹脂モールド成形により保護され、かつ、背面スペースと導通する導通孔が設けられていることで、超音波アレイセンサの耐久性を高めることができ、水中用として用いることができる。
ここで、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサとは、薄板構造としてダイアフラム(円形若しくは四辺)形状を用い、その上に複数の圧電型トランスデューサからなる超音波センサ素子を所定間隔で並設したものである。この薄板構造は、公知の通り、その材質及び寸法が同じであれば、正方形板において各超音波センサ素子の共振周波数には一定の関係が成立する。また、同形状の薄板構造の場合、各超音波センサ素子の共振周波数は、薄板構造の一辺の長さの二乗に反比例して低くなるといった特性がある。
【0010】
本発明の第1の観点においては、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護されている。
ここで、超音波アレイセンサの周縁部とは、上部電極配線パッドからボンディングワイアを経て、ステムのピンまでの領域をいう。この超音波アレイセンサの周縁部を樹脂モールド成形することで、ステムとのボンディング部分の保護を図ることとしている。なお、具体的には、エポキシ樹脂によりモールドしている。
【0011】
また、本発明の第1の観点においては、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、超音波アレイセンサの一部に、超音波アレイセンサの背面スペースと導通する導通孔が設けられている。
かかる超音波アレイセンサの一部に、超音波アレイセンサの背面スペースと導通する導通孔を設けることにより、薄膜構造であるダイアフラム構造の表面と裏面とを均圧とすることができ、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避することができる。超音波アレイセンサの一部とは、例えば、表面露出部の一部に導通孔を設けたり、横から導通孔をあけたりすることで対応する。なお、導通孔にはフィルタ機能を持たせて、孔から塵などが背面スペースに入らないようにすることが好ましい。
【0012】
次に、本発明の第2の観点からは、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)超音波アレイセンサの背面スペースに油または水などの難圧縮性液体が封入された水中用超音波アレイセンサが提供される。
第2の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、周縁部が樹脂モールド成形により保護され、かつ、背面スペースに油または水などの難圧縮性液体が封入されていることで、超音波アレイセンサの耐久性を高めることができ、水中用として用いることができる。
第2の観点の水中用超音波アレイセンサは、第1の観点の水中用超音波アレイセンサと異なり、超音波アレイセンサの背面スペースに油または水などの難圧縮性液体が封入された構成を有する。かかる構成により、薄膜センサ自体の耐力を高め、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避できる。
【0013】
次に、本発明の第3の観点からは、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)超音波アレイセンサの背面スペースに樹脂が充填された水中用超音波アレイセンサが提供される。
第3の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、周縁部が樹脂モールド成形により保護され、かつ、背面スペースに樹脂が充填されていることで、超音波アレイセンサの耐久性を高めることができ、水中用として用いることができる。
第3の観点の水中用超音波アレイセンサは、第1の観点の水中用超音波アレイセンサと異なり、超音波アレイセンサの背面スペースに樹脂が充填された構成を有する。かかる構成により、薄膜センサ自体の耐力を高め、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避できる。
【0014】
上記の第2の観点および第3の観点の水中用超音波アレイセンサにおいては、薄膜センサの背面(背圧側)に均圧のため流体、プラスチックなどを充填している。かかる場合、超音波の背面での反射波に減衰が生じることとなる。この薄膜センサの背面での超音波の発生は、それが信号源となって波形の解析の障害となるか否かの観点から考察した場合、超音波の背面での反射波に生じる減衰は好ましい結果を招くことになる。一般的に、バルクセンサでは、背面にダンパ材が貼付けてあり、圧電素子に生じた振動を強制的に押さえ込んで(ダンピングをかけて)、パルス幅を小さく(波数を少なく)して時間分解能を高めている。
上記の第2の観点および第3の観点の水中用超音波アレイセンサは、薄膜センサの背面に、流体、プラスチックなどの充填材が設けられており、これらの充填材によりダンピング効果を同時に得ることができるのである。
【0015】
次に、本発明の第4の観点からは、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)超音波アレイセンサの背面スペースに作動流体が封入され、背面スペース内部と外部との間を連通する連通部を設け、伸縮吸収用のベローズを付設した水中用超音波アレイセンサが提供される。
第4の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、周縁部が樹脂モールド成形により保護され、かつ、背面スペース内部と外部との間を連通する連通部が設けられ、その連通部に伸縮吸収用のベローズが付設されることで、超音波アレイセンサの耐久性を高めることができ、水中用として用いることができる。
第4の観点の水中用超音波アレイセンサは、第1の観点の水中用超音波アレイセンサと異なり、超音波アレイセンサの背面スペースに作動流体が封入され、背面スペース内部と外部との間を連通する連通部を設け、伸縮吸収用のベローズを付設した構成を有する。かかる構成により、薄膜センサ自体の耐力を高め、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避できる。
【0016】
次に、本発明の第5の観点からは、上述した第1の観点から第4の観点の超音波アレイセンサにおいて、それぞれの超音波アレイセンサ素子の表面に、ポリイミド、サイトップ、パリレンの群から選択される1種または2種以上の表面保護層がコーティングされた水中用超音波アレイセンサが提供される。
第5の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、素子表面に表面保護層がコーティングされていることから、薄膜センサの表面(信号受信側)の耐環境性を向上させることができる。
【0017】
本発明の水中用超音波アレイセンサでは、流体を伝搬する超音波の振動をセンサダイアフラムの撓み振動としてとらえる。かかる場合、減衰や界面での反射波について考える必要はなく、第5の観点の水中用超音波アレイセンサのようにコーティングが存在する場合、かかるコーティングの存在が薄膜の振動に影響を及ぼすか否かが問題となる。また、薄膜が振動することによって、コーティングに剥離が生じて、超音波の発生状況に変化が生じる可能性があるといった問題がある。
本発明の水中用超音波アレイセンサでは、まずセンサダイアフラムを構成する部材に比べて十分に柔軟なコーティング材料を用いることにより薄膜の振動に影響を及ぼさないようにしている。またコーティング膜の形成過程を工夫することによりコーティングが剥離することを防いでいる。
【0018】
なお、さらに汚れなど薄膜センサの表面保護のために、プラスチックのフィルム、シートなどでカバーを設けてもよい。この場合に、薄膜センサの表面に若干の隙間をあけてフィルム又はシートのカバーが存在するため、薄膜センサの表面に液体の薄い層とカバー材の薄い層が連続することになり、超音波の伝搬の障害になる可能性が生じる。材料としては水と同じ音響インピーダンスのカバー材を用いることで、かかる影響はほとんどなくなるものの、プラスチックのフィルム、シートなどの固体材料で水と同じ音響インピーダンスを有する材料は現状見当たらない。両者の音響インピーダンスの差が大きいほど、界面での反射率が大きくなり、その影響が著しくなってしまう。それ以上に媒質中での波長以下の厚さの層が超音波の伝搬経路に存在すると、その層で多重反射を起こしてそれが干渉して振幅に大きく影響する可能性もある。例えば、層の厚さが波長の1/4の場合、多重反射した音波がお互いに弱めあって、著しく振幅が低下する可能性がある。このことから、カバー材の層の厚さは、波長を無視できるほど大きいか小さいかいずれかを選択することが好ましい態様である。
【0019】
次に、本発明の第6の観点からは、上述した第1の観点から第5の観点の超音波アレイセンサにおいて、下記1)〜4)の特徴を備えた水中用超音波アレイセンサが提供される。
1)周縁部と超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングを設ける。
2)周縁部とケーシングとの隣接部に弾力性のある部材からなるOリングを介在させ、周縁部とケーシングとの間をシールする。
3)超音波アレイセンサの背面部であってケーシング内部の空間に油充填層を設ける。
4)ケーシング内部の油充填層とケーシング外部の圧力調整する均圧調整手段を設ける。
【0020】
かかる第6の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、現状の超音波アレイセンサのセンサ出力の増幅系や信号処系などの後段の回路部が水中で動作可能となっていないといった問題点を克服し、回路部を防水・耐圧構造とし、高圧下、水中下で、回路部を動作させることができる。
ここで、樹脂モールド成形は、エポキシ樹脂によるプラスチックモールド成形であることが好ましい。
また好ましくは、均圧調整手段は、伸縮吸収用のベローズを付設すると共に、ケーシング内部の油充填層とケーシング外部との間を連通する連通部を設けたものである態様とする。
【0021】
次に、本発明の第7の観点からは、上述した第1の観点から第5の観点の超音波アレイセンサにおいて、下記1)〜2)の特徴を備えた水中用超音波アレイセンサが提供される。
1)周縁部と超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングを設ける。
2)超音波アレイセンサの背面部であってケーシング内部の空間に樹脂モールドを充填する。
【0022】
かかる第7の観点の水中用超音波アレイセンサによれば、現状の超音波アレイセンサのセンサ出力の増幅系や信号処系などの後段の回路部が水中で動作可能となっていないといった問題点を克服し、回路部を防水・耐圧構造とし、高圧下、水中下で、回路部を動作させることができる。
また、第7の観点の水中用超音波アレイセンサは、第6の観点の水中用超音波アレイセンサとは異なり、背面部のケーシング空間に、均圧油を充填するのではなく、樹脂をケーシング内に充填モールドするので、超音波アレイセンサはケーシングと固体の一体となる。このため、外水圧に対して強固に耐えることができるとともに、第6の観点の水中用超音波アレイセンサの構造で必要であったOリングによるシールや均圧ベローズが不要になるといった利点がある。
【0023】
なお、上述した第1の観点から第7の観点の超音波アレイセンサにおいて、圧電型トランスデューサは、具体的には、電極に挟まれた圧電体を配置してキャパシタ構造とし、超音波振動により圧電的に生じた分極変化を、キャパシタを通じて電圧として取り出すものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水中用超音波アレイセンサによれば、薄膜センサ自体の耐力性を向上させ、薄膜センサ表面および背面側の回路部を防水・耐圧構造とし、高圧下、水中下において超音波アレイセンサを使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更および変形が可能である。
【0026】
先ず、本発明の実施形態において、超音波アレイセンサを構成するそれぞれの超音波センサ素子について説明する。以下の実施形態で用いる超音波センサ素子は、薄膜状のダイアフラム構造上に、電極に挟まれた圧電体を配置してキャパシタ構造とし、超音波振動により圧電的に生じた分極変化をこのキャパシタを通じて電圧として取り出すようになっている。ここで圧電体材料としては、強誘電体であるPZT(Pb(Zr0.52Ti0.48)O3)セラミックス薄膜層を用いている。かかる圧電体はそれ自身が分極変化を生ずるので、静電型センサのように非常に狭い空隙を隔てた対向電極を形成する必要がなく、複雑な構造を必要としない。従って、この超音波センサ素子は、作製プロセスの簡略化、マスク枚数の低減化、歩留まり及び信頼性の向上によるコスト低下が見込まれ、実用化や量産化に適したものである。
【0027】
図1は、従来から知られている超音波アレイセンサ装置の断面図の一例を示している。超音波アレイセンサ装置は、超音波アレイセンサ1と、それを設置するステム9と、回路部2と、(図示しない)信号処理部から構成される。
超音波アレイセンサ1は、ステム9上に支持具(7a,7b)を介して配設されている。超音波アレイセンサ1自体は、薄板構造としてダイアフラム(四辺固定)形状を呈しており、その周囲にそって支持具(7a,7b)が形成されている。
この超音波アレイセンサ1で超音波信号を受信すると、圧電信号として処理され、超音波アレイセンサ1のパターン配線を経由して、圧電信号がボンディングワイヤ(6a,6b)から引き出される。
ボンディングワイヤ(6a,6b)からピン(5a〜5d)を経て、回路部2に電線(8a,8b)が送られている。回路部2は、通常ケーシングで覆われており、そのケーシング内部のスペースを用いて、電線(8a,8b)やプリアンプ回路等の回路が収納されている。電線(8a,8b)は回路部2内で集束され、信号ケーブル3となって、ケーブル接続部4から外部の(図示しない)信号処理部に接続されている。
【0028】
ここで、図1に示すように、超音波アレイセンサ1とステム9の間(超音波アレイセンサ1の裏側)には、薄い層状の空間30が形成されている。水中用として超音波アレイセンサ装置を使用する場合、この層状の空間30が存在すると、水圧で簡単に超音波アレイセンサ1に歪が生じたり、ひどい場合は破損することになる。
【0029】
次に、超音波アレイセンサ1の素子構造について、図2を参照して説明する。図2は、図1の断面模式図で矢印Aが指し示す点線部分の拡大図である。図2において、超音波センサ素子20においては、SOI(Silicon
On Insulator)構造を有するSi半導体基板を裏面から、EPW(Ethylenediamine Pyrocatechol Water;エチレンジアミンとピロカテコールと水との混合液)による異方性エッチング法を用いてエッチングを行うことにより、0.7mm角のダイアフラム構造を作製する。また、圧電層としては強誘電体のPZTセラミックス薄膜層17を用いる。
【0030】
各層の膜厚とダイアフラムの寸法は、共振周波数が100kHzとなるように設計している。超音波アレイセンサの形状は7×7の正方形で合計49素子、素子間隔はいずれも約1.7mmで、アレイ全体は一辺が約11mmの正方形の領域に収まる大きさである。
ここで、SOI構造を有するSi半導体基板11の裏面に、厚さ0.4μmのSiOにてなる絶縁膜層12を形成する。そして、Si半導体基板11上に、厚さ0.1μmのSiOにてなる絶縁膜層13を形成し、さらに厚さ2.2μmのSi半導体活性層14を形成する。そして、厚さ0.4μm程度の絶縁膜層15を形成する。
【0031】
そして、下部電極層16は、Pt/TiをRFスパッタ装置により製膜して形成している。その上にPZTセラミックス薄膜層17を形成する。上部電極層18は、Auを抵抗加熱蒸着法により製膜して形成している。かかる構成とすることで、下部電極層16および上部電極層1に挟まれたPZTセラミックス薄膜層17がキャパシタ構造となり、超音波振動により圧電的に生じた分極変化を、PZTセラミックス薄膜層17を通じて電圧として取り出すことが可能となる。
【0032】
そして、下部電極層16および上部電極層18に対して、ボンディングワイヤ(図示しない)を接続して、センサチップを完成する。そして、超音波センサ素子20を2次元マトリックス状に並置し、超音波アレイセンサ1を形成している。
なお、PZTセラミックス薄膜層17の短絡保護のための絶縁膜層としてフォトレジスト層19を形成している。
【0033】
そして、複数の超音波センサ素子が並置されて、超音波アレイセンサが構成されている。複数の超音波センサ素子の測定動作中において、各超音波センサ素子の2つの電極間にそれぞれ所定のバイアス電圧を印加することにより、各超音波センサ素子の共振周波数が互いに実質的に一致するように変化させている。
【0034】
以下の実施例では、この超音波アレイセンサを水中用として用いるための、防水・防圧構造の実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
(薄膜センサの耐圧構造について)
本発明の水中用超音波アレイセンサの一実施形態として、ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、超音波アレイセンサの周縁部を樹脂モールド成形により保護し、かつ、超音波アレイセンサの表面露出部の一部に超音波アレイセンサの背面スペースと導通する導通孔を設けたものを実施例1として説明する。
【0036】
図3は、実施例1の水中用超音波アレイセンサの断面模式図を示している。また、図4は、複数の超音波センサ素子20を用いてアレイ配置したときの素子配置を示す水中用超音波アレイセンサを示す上面図である。
実施例1の水中用超音波アレイセンサは、図3に示されるように、超音波アレイセンサ1の周縁部が、エポキシ樹脂によりモールドされている。周辺部は、上部電極層18からボンディングワイア(6a,6b)を経て、ステム9のピン(5a,5b)までの領域をいう。この超音波アレイセンサの周縁部は、エポキシ樹脂によりモールド成形されており、これにより、ステム9とのボンディングワイヤ(6a,6b)部分の保護を図っている。このエポキシ樹脂によるモールド成形は、図4に示されるように、超音波アレイセンサ1の周囲全体に形成している。
【0037】
そして、超音波アレイセンサ1の表面露出部の一部に超音波アレイセンサの背面スペース30と導通する導通孔32を設けている。これにより、薄膜構造であるダイアフラム構造の表面と裏面とを均圧とすることができ、水中で使用した場合に水圧で膜が変形したり、膜が破損したりするのを回避している。
【実施例2】
【0038】
(薄膜センサの他の耐圧構造について)
実施例1では、超音波アレイセンサ1の表面露出部の一部に超音波アレイセンサの背面スペース30と導通する導通孔32を設けているが、他の実施例として、超音波アレイセンサ1の背面スペース30に油または水などの難圧縮性液体を封入したもの、又は、超音波アレイセンサ1の背面スペース30に樹脂を充填したものでもよい。
図5に、超音波アレイセンサの背面スペースに樹脂を充填した断面模式図を示す。
図5に示すように、超音波アレイセンサ1の背面スペース30には、例えば、エポキシ樹脂を用いて背面スペース30の空間をなくしている。
【0039】
また、超音波アレイセンサ1の表面露出部の一部に超音波アレイセンサ1の背面スペース30と導通する導通孔32を設ける替わりに、超音波アレイセンサ1の背面スペース30に作動流体を封入し、背面スペース30内部と外部との間を連通する連通部を設け、伸縮吸収用のベローズを付設するものでもよい。
【実施例3】
【0040】
(超音波アレイセンサの防水・防圧構造:油充填均圧型)
次に、実施例3の水中用超音波アレイセンサを説明する。
実施例3の水中用超音波アレイセンサは、実施例1または実施例2の超音波アレイセンサの回路部を防水・防圧構造にするもので、超音波アレイセンサの周縁部と超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングを設け、その周縁部とケーシングとの隣接部に弾力性のある部材からなるOリングを介在させ、該周縁部とケーシングとの間をシールし、超音波アレイセンサの背面部であってケーシング内部の空間に油充填層を設け、ケーシング内部の油充填層とケーシング外部の圧力調整する均圧調整手段を設けたものである。
均圧調整手段としては、均圧ベローズを用いている。
【0041】
図6〜8に、実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図を示す。以下、図6〜8を参照して、実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサについての説明を行う。
先ず、図6は、実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面図を示す。図6に示すように、周縁部を樹脂モールドで保護された超音波アレイセンサをケーシング47の上部に置き、その上から押え金42をビス41によって取り付け固定している。また、周縁部の樹脂モールド保護部は、下面を機械加工により平滑に仕上げ、Oリング43によりケーシング47と水密、油密に密封固定できるようになっている。
【0042】
ここで、ケーシング47内部は、超音波アレイセンサのピン5と貫通水密構造のコネクタ46の間の電線8の配線を収納している。なお、コネクタ46と耐圧構造の信号ケーブル3は、ハーメチックシール型のものが存在しており、市販されているものを使用している。
ケーシング47内部には、均圧のために油を充填し、外部の水圧が超音波アレイセンサ1の上面と下面に同時にかかる均圧状態とすることによって、超音波アレイセンサ1に圧力負荷がかかることを回避している。ただし、外部の水圧や温度変化により均圧油はわずかに体積変化を生ずるので、これを補償する必要があるため、均圧ベローズ35を設けている。
【0043】
次に、図7は、周縁部を樹脂モールドで保護された超音波アレイセンサを示す。周縁部の樹脂モールドは下面を平滑に仕上げ、Oリングによりケーシングと水密、油密に密封固定できるようになっていると共に、ボンディングワイヤ6の保護にもなっている。
【0044】
また、図8は、図7の応用例であり樹脂モールドの保護を、超音波アレイセンサ1の周縁だけではなく全面にモールドしたものである。すなわち、超音波アレイセンサ1全体をプラスチックなどの樹脂50で覆うものである。これにより超音波アレイセンサ1の周縁だけではなく全面にモールドすることにより超音波アレイセンサ1がより強力に保護されることとなる。
【実施例4】
【0045】
(超音波アレイセンサの防水・防圧構造:プラスチックモールド型)
次に、実施例4の水中用超音波アレイセンサを説明する。
実施例4の水中用超音波アレイセンサは、実施例1または実施例2の超音波アレイセンサの回路部を防水・防圧構造にするもので、超音波アレイセンサの周縁部と超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングを設け、超音波アレイセンサの背面部であってケーシング内部の空間に樹脂モールドを充填したものである。
実施例4の水中用超音波アレイセンサは、超音波アレイセンサ全体をプラスチックでモールドしたものである。耐水圧性に優れたものである。
【0046】
図9に、実施例4のプラスチックモールド型の超音波アレイセンサの断面模式図を示す。
実施例4のプラスチックモールド型の超音波アレイセンサは、上述の実施例3の水中用超音波アレイセンサにおける油充填層の均圧油の代わりに、樹脂をケーシング内に充填モールドしたものである。
超音波アレイセンサの上面部は、実施例3の水中用超音波アレイセンサと同様、図8に示すように平滑に仕上げている。この場合、超音波アレイセンサをケーシングの位置決め金物の上に保持したあと、超音波アレイセンサの上下部を樹脂にて充填モールドし、上面を平滑に仕上げることにしている。
このようにすれば、超音波アレイセンサ1はケーシング47と固体の一体となるので、外水圧に対して強固に耐えることができるとともに、実施例3の水中用超音波アレイセンサの構造で必要であったOリングによるシールや均圧ベローズが不要になる。
なお、樹脂モールドの内部に空洞が残らないようにする必要があり、装置の製作に当たって、空気混入、空気の滞留の防止を図っている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の水中用超音波アレイセンサは、ソナー用超音波センサ装置や水中用カメラや水中用探傷検査装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1に係る超音波アレイセンサの断面模式図
【図2】本発明に係る一実施形態である超音波センサ素子の構造を示す断面図
【図3】実施例1の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図
【図4】複数の超音波センサ素子を用いてアレイ配置したときの素子配置を示す超音波アレイセンサを示す上面図
【図5】実施例2の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図
【図6】実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図(1)
【図7】実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図(2)
【図8】実施例3の油充填均圧型の超音波アレイセンサの断面模式図(3)
【図9】実施例4のプラスチックモールド型の超音波アレイセンサの断面模式図
【符号の説明】
【0049】
1 超音波アレイセンサ
2 回路部
3 信号ケーブル
4 接続部
5,5a〜5d ピン
6,6a,6b ボンディングワイヤ
7a,7b 支持具
8,8a,8b 電線
9 ステム
10 半導体チップウエハ
11 Si半導体基板
12,13,15 絶縁膜層
14 半導体活性層
16 下部電極層
18 上部電極層
17 PZTセラミックス薄膜層
20 超音波センサ素子
30 背面スペース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)前記超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)前記超音波アレイセンサの一部に、前記超音波アレイセンサの背面スペースと導通する導通孔が設けられた、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項2】
ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)前記超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)前記超音波アレイセンサの背面スペースに、油または水などの難圧縮性液体が封入された、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項3】
ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)前記超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)前記超音波アレイセンサの背面スペースに樹脂が充填された、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項4】
ダイアフラム構造上にアレイ状に配設された複数の圧電型トランスデューサからなる超音波アレイセンサにおいて、
1)前記超音波アレイセンサの周縁部が樹脂モールド成形により保護され、
2)前記超音波アレイセンサの背面スペースに作動流体が封入され、前記背面スペース内部と外部との間を連通する連通部を設け、伸縮吸収用のベローズを付設した、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの水中用超音波アレイセンサにおいて、それぞれの超音波アレイセンサ素子の表面に、ポリイミド、サイトップ、パリレンの群から選択される1種または2種以上の表面保護層がコーティングされたことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの水中用超音波アレイセンサにおいて、
1)前記周縁部と前記超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングが設けられ、
2)前記周縁部と前記ケーシングとの隣接部に弾力性のある部材からなるOリングを介在させることにより前記周縁部と前記ケーシングとの間がシールされ、
3)前記超音波アレイセンサの背面部であって前記ケーシング内部の空間に油充填層が設けられ、
4)前記ケーシング内部の前記油充填層と前記ケーシング外部の圧力調整する均圧調整手段が設けられた、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項7】
前記樹脂モールド成形は、エポキシ樹脂によるプラスチックモールド成形である、
ことを特徴とする請求項6に記載の水中用超音波アレイセンサ。
【請求項8】
前記均圧調整手段は、伸縮吸収用のベローズを付設すると共に、前記ケーシング内部の前記油充填層と前記ケーシング外部との間を連通する連通部を設けたものである、
ことを特徴とする請求項6に記載の水中用超音波アレイセンサ。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかの水中用超音波アレイセンサにおいて、
1)前記周縁部と前記超音波アレイセンサを蓋部とするケーシングが設けられ、
2)前記超音波アレイセンサの背面部であって前記ケーシング内部の空間に樹脂モールドが充填された、
ことを特徴とする水中用超音波アレイセンサ。
【請求項10】
前記圧電型トランスデューサは、電極に挟まれた圧電体を配置してキャパシタ構造とし、超音波振動により圧電的に生じた分極変化を、前記キャパシタを通じて電圧として取り出すことを特徴とする請求項1〜9に記載の水中用超音波アレイセンサ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244235(P2009−244235A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94424(P2008−94424)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(508098822)株式会社IngenMSL (2)
【出願人】(591226645)ポニー工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】