説明

水中目標物探索システム、水中目標物探索方法及び水中目標物探索用プログラム

【課題】水中目標物探索システムの回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減する。
【解決手段】送波装置10の励振信号生成手段12は、周波数が直線的に変化する第1励振信号を生成する低ドップラー感度励振信号生成部12Aと、周波数が非直線的に変化する第2励振信号を生成する高ドップラー感度励振信号生成部12Bと、第2励振信号を順次変調して周波数範囲が異なる複数の第2励振信号を生成するドップラー変調処理部12Cと、第1励振信号に複数の励振信号を付加して励振用合成信号を生成するパルス列生成部12Eと、を備える構成にした。送波装置10の送波手段11は、励振用合成信号に応じた音波を目標物30に向けて発信する。目標物30からの反射波は、受波装置に受信される受信信号と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理によって受信信号に含まれるエコー信号が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中目標物探索システム等に係り、特に、音波を送受信して水中内の目標物からのエコー音波から得られるドップラー効果に基づいて、当該目標物を探知するための水中目標物探索システム、水中目標物探索方法及び水中目標物探索用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音波を送受信して水中内の目標物からのエコー音波から得られるドップラー効果に基づいて、当該目標物を探知する水中目標物探索システムとしてアクティブソナー装置が広く知られている。
【0003】
関連技術におけるアクティブソナー装置は、目標探索用の音波を水中内の目標物に向けて発信し、その目標物からの反射波であるエコー音波及び海底からの残響の音波やその他のノイズ成分を含む音波を、受波センサによって受信し信号処理して目標物の方向を特定する。次に、この種のアクティブソナー装置では、捕捉した受信信号に含まれているエコー信号を検出して、目標物までの距離を特定する。特定された目標物の方向及び目標物までの距離は、例えば、横軸を方向とし、縦軸を距離とした2次元の画像によって表示される。
【0004】
アクティブソナー装置では、一般に、受信信号からエコー信号を検出する方法として、レプリカ信号を用いた相関信号処理を行っている。レプリカ信号とは、励振信号を複製(レプリカ)した信号であり、狭義には、励振信号の虚数部の位相を反転した共役信号で構成される。しかし、広義には、励振信号を複製したものでなくても、受信信号と相関信号処理を行うための被相関信号をレプリカ信号と称している。
【0005】
この相関信号処理においては、受信信号に対してレプリカ信号の時間をずらしながら相互相関を繰り返すことにより、波形がもっとも類似した時刻で相関度の最大値が現れる。この相関信号処理のために使用されるレプリカ信号の元となる励振信号としては、周波数が線形に変調された直線状周波数変調(LFM:Linear Frequency Modulation )信号と、一定周波数連続波(PCW:Pulse Continuous Wave) 信号の2種類が主に用いられている。
【0006】
アクティブソナー装置には、目標物に向けて音波を送信する送信側と目標物からの反射波を受信する受信側とが一体になっているモノスタティックソナー方式と、送信側と受信側とが分離して異なる位置に配置されるマルチスタティックソナー方式とがある。
【0007】
モノスタティックソナー方式の関連技術として、例えば、LFMパルス信号とPCWパルス信号とを重畳して加算する加算器を設け、LMFパルス信号とPCWパルス信号とを重ね合わせて励振信号を生成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0008】
図11に、上記特許文献1によるアクティブソナー装置の構成を示すブロック図を示す。この図11に示すアクティブソナー装置は、目標物の探索のための音波を送受波する送受波部100と、送受波部100に対して励振信号を供給する送信部200と、送受波部100から供給される受信信号を処理する受信部300と、探索結果の表示やその他の処理を行う表示制御部400とを備えている。以下、この特許文献1における特徴的な技術について説明する。
【0009】
この図11において、送信部200は、LFMパルス発生部201で生成されたLFMパルス及びPCWパルス発生部202で生成されたPCWパルスの両パルスを加算器203によって重ね合わせて、1系統の励振信号を生成する。
【0010】
又、受信部300には、目標物からの反射により得られるエコー信号を含む受信信号が入力される。この受信信号は、周波数分離されてLFM整相器301とPCW整相器302とにそれぞれ入力され、その後、送信部200の励振信号に基づくレプリカ信号に基づいて相関信号処理がなされる。
【0011】
受信部300の前記LFM整相器301は、時間分解能の高いLFMパルス成分の受信信号に応じた相関信号処理により目標物の位置(距離)を検出し、その検出結果をビデオ系処理部303に出力する。一方、PCW整相器302は、ドップラー分解能(周波数分解能)の高いPCWパルス成分の受信信号に応じた相関信号処理により目標物の移動変化を表すドップラーシフト量を検出して、その検出結果をドップラー系処理部304に出力する。
【0012】
一方、マルチスタティックソナー方式の関連技術として、周波数が直線的に増加するLFM信号と周波数が直線的に減少するLFM信号とを連続させた励振信号を生成し、検出時のエコー信号の時間差からドップラーシフト量を検出する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0013】
又、マルチスタティックソナー方式の他の関連技術として、受信信号とレプリカ信号との相関信号処理をするため、異なる周波数からなるレプリカ信号を複数用意して、エコー信号のドップラーシフトの有無を検出する技術が知られている(特許文献3参照)。
【0014】
更に又、モノスタティックソナー方式の他の関連技術として、環境計測のために広帯域のLFM信号を生成し、その検出結果を踏まえて、環境に対して適切なパラメータにチューニングされた高い時間分解能及び高いドップラー分解能(周波数分解能)を同時に実現するために、周波数が不規則に変化する周波数ホッピング方式のPCW信号を用いると共に、受信信号を複数の帯域に分割して、各分割受信信号と周波数ホッピング方式のレプリカ信号とのマッチドフィルタ処理を行う技術が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−281234号公報
【特許文献2】特開昭59−225375号公報
【特許文献3】特開平3−242586号公報
【特許文献4】特開2000−304859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献4にも記載されているように、アクティブソナー装置の性能を向上させるためには、時間分解能とドップラー分解能(周波数分解能)とを同時に満たす必要がある。
【0017】
特に、ドップラー分解能の向上を図るためには、周波数ホッピング信号やHFM(Hyperbolic Frequency Modulation)信号等のように、周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる複数の励振信号を送信側で生成し、この送信側の複数の励振信号のレプリカ信号を受信側で用意して、受信側で受信した反射波の受信信号とこのレプリカ信号との相関信号処理を行うようになっている。
【0018】
このため、上記特許文献1乃至特許文献4においては、受信側において、周波数範囲が異なる複数のレプリカ信号を生成する信号生成回路を設けてドップラー分解能の向上を実現している。
【0019】
しかしながら、このような複数のレプリカ信号を生成する信号生成回路を設けることは、回路規模が増大すると共に、受信信号と複数のレプリカ信号との相関信号処理の負荷も増加するという課題がある。
【0020】
特に、特許文献2及び特許文献3のように送信側と受信側とが分離しているマルチスタティックソナー方式の場合には、送信側の励振信号を利用することができないので、発振回路や分周回路等も必要になり、よりいっそう回路規模が増大するという課題がある。
【0021】
更に、上記特許文献2及び特許文献3においては、LFM信号に基づく2つのレプリカ信号だけでドップラーシフト量を検出するようになっているが、受信信号とLFM信号との相関信号処理では十分な相関信号出力が得られないので、実際の残響や雑音が多く存在する環境ではドップラーシフト量の誤検出が多く発生するという課題がある。
【0022】
〔発明の目的〕
本発明は、このような関連技術の有する課題を解決するために成されたもので、受信側における回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減することを可能にすると共に、実際の残響や雑音が多く存在する環境においても、目標物を確実に検出することを可能にする水中目標物探索システム、水中目標物探索方法、及び水中目標物探索処理用プログラムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明に係る水中目標物探索システムは、目標探索用の音波を水中内目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信する受波手段と、前記音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段とを備えた水中目標物探索システムにおいて、前記励振信号生成手段が、周波数が直線的に変化する第1励振信号と予め設定されている複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号とを生成する励振信号生成機能と、前記第1励振信号に前記複数の区間の第2励振信号を付加して励振用合成信号を生成して前記音波出力用の励振信号とする合成信号生成機能を備え、前記受信信号と前記励振信号生成手段によって生成された前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する受信信号処理手段を備えたことを特徴とする。
【0024】
又、上記目的を達成するため、本発明に係る水中目標物探索方法は、音波出力用の励振信号を励振信号生成手段が生成し、この生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて送波手段が発信し、前記目標物からの反射波を受波手段が受信して受信信号に変換し、この変換された受信信号を受信信号処理手段が信号処理することによって前記目標物を特定する水中目標物探索方法において、周波数が直線的に変化する第1励振信号と予め設定されている複数の一定時間の区間ごとに周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる第2励振信号とを、前記励振信号生成手段が個別に生成し、次に、前記複数の区間ごとの前記第2励振信号を前記第1励振信号に付加して励振用合成信号を前記励振信号生成手段が生成し、この励振用合成信号を、前記送波手段から変換出力される音波出力用の励振信号として使用し、前記受信信号と前記生成された前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を前記受信信号処理手段が検出することを特徴とする。
【0025】
又、上記目的を達成するため、本発明に係る水中目標物探索用プログラムは、音波出力用として生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信し受信信号に変換する受波手段と、前記音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段と、を備えた水中目標物探索システムにあって、前記励振信号の生成に際しては、前記音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が直線的に変化する第1励振信号を生成する第1励振信号生成機能、前記音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を生成する第2励振信号生成機能、及び前記第1励振信号に前記複数の区間の第2励振信号を付加して励振用合成信号を生成する合成信号生成機能を、前記励振信号生成手段が備えているコンピュータに実行させるようにしたことを特徴とする。
【0026】
又、上記目的を達成するため、本発明に係る水中目標物探索用プログラムは、音波出力用として生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信し受信信号に変換する受波手段と、周波数が直線的に変化する第1励振信号及び当該第1励振信号に連結される周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を前記音波出力用の励振用合成信号として生成する励振信号生成手段と、前記受信信号を受信信号処理手段が信号処理することによって前記目標物を特定する水中目標物探索システムにあって、前記捕捉された受信信号と前記励振信号生成手段によって生成された第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する受信信号処理機能を備え、この受信信号処理機能の実行内容を、前記受信信号を分析し前記目標物からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出処理機能、この検出された信号ピーク位置を起点とする前記励振用合成信号に対応した時間長の信号部分を抽出する時間長信号抽出機能、及び前記抽出した時間長の信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って当該受信信号に含まれる前記エコー信号を検出するエコー信号検出機能、により構成し、これらを前記受信信号生成手段が備えているコンピュータに実行させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は以上のように構成したので、これによると、送信側では、周波数が直線的に変化する第1励振信号及び第1励振信号に連結される周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を音波出力用の励振信号として生成し、受信側では、受信信号と第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理、及び受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って、受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する構成にしたので、受信側における回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減することができると共に、実際の残響や雑音が多く存在する環境においても、目標物を確実に検出することができるという優れた水中目標物探索システム、水中目標物探索方法及び水中目標物探索用プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態における水中目標物探索システムにおける送波装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態における水中目標物探索システムにおける受波装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態における水中目標物探索システムの送信及び受信の各装置の配置の例を示す説明図である。
【図4】図1中に開示した励振信号生成手段によって生成される励振信号を示す波形図である。
【図5】図1中に開示した受信信号処理手段によって処理される信号波形を示す波形図である。
【図6】本発明の第1実施形態における目標物のドップラーシフトの概念を示す概念図である。
【図7】本発明の第2実施形態における水中目標物探索システムの送波装置の構成を示すブロック図である。
【図8】図7に開示した送波装置における励振信号発生処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態における水中目標物探索システムの受波装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図9に開示した受波装置における受信信号処理の手順を示すフローチャートである。
【図11】関連技術におけるアクティブソナー装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るマルチスタティックソナー方式の水中目標物探索システムの第1実施形態を、図1乃至図6に基づいて説明する。
[第1実施形態]
まず、図3において、水中目標物探索システム1は、探索対象の海に設置された1つの送波装置10及び3個の受波装置20A、20B、及び20Cで構成されたマルチスタティック方式の水中目標物探索システムであり、送波装置10からの音波の送波を受けた目標物30による反射波を各受波装置20が受信することによって、海中や海上を移動する目標物30を探索する。
【0030】
図1は図3に示した送波装置10の内部構成を示すブロック図である。この図1において、送波装置10は、目標探索用の音波を水中内の目標物30に向けて発信する送波手段11と、送波手段11に入力するための音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段12と、を備えている。又、送波装置10は、図1の各受波装置20(20A、20B、20C)との間で無線通信を行う無線通信部13と、この無線通信部13に接続されていると共に空中において電波を送受信するために海面から上に延びたアンテナ14と、を備えている。
【0031】
図2は図3に示した受波装置20の内部構成を示すブロック図である。この図2において、受波装置20は、目標物30からの反射波を受信して受信信号を捕捉する受波手段21と、受波手段21によって捕捉された受信信号と送波装置10の励振信号生成手段12によって生成された励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する受信信号処理手段22と、送波装置10との間で無線通信を行う無線通信部23と、無線通信部23に接続されると共に空中において電波を送受信するために海面から上に延びたアンテナ24と、受信信号処理手段22によって検出されたエコー信号を表示信号に変換処理する表示処理部25と、この表示処理部25で処理された表示信号に基づく画像を表示する表示部26と、を備えている。
【0032】
このため、受信信号と励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理によってエコー信号を検出し、エコー信号の到達時刻、無線通信によって得られる送波装置10における音波の発信時刻、及び音波の速度によって目標物30の位置を特定することができる。
【0033】
ここで、図には示していないが、受波手段21に受信方向センサが設けられており、この受信方向センサによって受信した反射波の方向に基づいて目標物30が存在する方向を特定することができる。この受信方向センサについては、関連技術において既に広く知られているので詳細な説明は省略する。
【0034】
(励振信号生成手段の構成)
次に、上記送波装置10の主要部である励振信号生成手段12について説明する。図1の励振信号生成手段12は、目標物探索に用いる励振信号を予め生成する。この励振信号生成手段12は、本実施形態では、励振信号生成機能及び合成信号生成機能を備えている。この内、励振信号生成機能は、目標物30に音波を発信する際に、直線的に周波数が変化する第1励振信号(本実施形態では、図4に示すLFM信号)を生成する低ドップラー感度励振信号生成部12Aと、非直線的に周波数が変化する第2励振信号(本実施形態では図4に示すように、周波数が双曲線的に変化するHFM(Hyperbolic Frequency Modulation)信号を予め生成する高ドップラー感度励振信号生成部12Bとによって実現される。
【0035】
これにより、簡単なデジタル回路又はソフトウェアの簡単なアルゴリズムによって、直線的に周波数が変化する第1励振信号(LFM信号)及び非直線的に周波数が変化する第2励振信号(HFM信号)を容易に生成することができる。
【0036】
又、励振信号生成手段12は、高ドップラー感度励振信号生成部12Bによって生成された各第2励振信号を順次変調して、予め設定されている3個の一定時間の区間(本実施形態では、図4に示す区間A、区間B、区間C)ごとに周波数範囲が異なる3個の第2励振信号(図4に示す3個のHFM信号)を生成するドップラー変調処理部12Cと、ドップラー変調処理部12Cによって順次変調された3個の第2励振信号を目標物探索動作に先立って予め格納する励振信号データベース12Dとを備えている。ここで、高ドップラー感度励振信号生成部12B及びドップラー変調処理部12Cは3個よりも多い複数のHFM信号を生成するように構成してもよい。
【0037】
これにより、広い周波数範囲をカバーする第2励振信号を生成することができると共に、目標物探索動作の開始に際して、複数の第2励振信号をリアルタイムで生成する必要がなくなり迅速な探索動作が可能になる。
【0038】
更に、励振信号生成手段12の機能の内、前述した合成信号生成機能は、目標物30に向けて音波を発信する際に、上記の励振信号データベース12Dに格納されている複数の第2励振信号を読み出してこれと低ドップラー感度励振信号生成部12Aによって生成される第1励振信号に連結することにより、励振用合成信号のパルス列を生成するパルス列生成部12Eによって実行される。
【0039】
これにより、目標物探索動作の開始に際して、励振用合成信号のパルス列を迅速に生成することができる。
【0040】
又更に、励振信号生成手段12は、パルス列生成部12Eによって生成された励振用合成信号を音波出力用の電力として十分なレベルに増幅して送波手段11に出力する増幅器12Fを備えている。
【0041】
目標物探索動作の開始によって、励振信号生成手段12から励振用合成信号を受けて送波手段11から発信された音波は、水中内を伝搬して目標物30に到達すると共に各受波装置20にも到達する。目標物30に到達した音波は目標物30によって反射され、その音波の反射波が水中内を伝搬する。この場合において、目標物30が移動しているときは、反射波はその移動変化の影響を受ける。
【0042】
この目標物30の移動変化は、反射波のドップラーシフト量の変化として表れ、そのドップラーシフト量の変化が反射波を受信する受波装置20における相関信号処理(これについては後述する)によって、目標物30の移動変化として検出される。すなわち、ドップラーシフト量の複数の予想値に対応して目標物30の複数の移動変化値が検出される。
【0043】
このため、図1に示したドップラー変調処理部12Cは、複数の第2励振信号を順次変調する場合に、図2に示した受波装置20内の受波手段21によって捕捉された受信信号に含まれるドップラーシフト量の予想値に対応して変調する。すなわち、ドップラー変調処理部12Cは、予め予想される受信信号のドップラーシフト量に対応した周波数で第2励振信号を変調する。
【0044】
この場合において、ドップラー変調処理部12Cは、ドップラーシフト量が無いと想定される場合におけるシフト値0に対応して基準励振信号を生成すると共に、この生成された基準励振信号を複数のドップラーシフト量(複数の予想値)に対応してそれぞれ変調して、励振信号データベース12Dに格納する。すなわち、励振信号生成手段12は、生成される第2励振信号を第1励振信号との合成用として記憶する励振信号データベース12D(記憶手段)を併設した構成になっている。
【0045】
これにより、励振信号生成手段12は、予め適切なドップラーシフト量を予想することにより、目標物30の正確な移動変化を検出することが可能となると共に、合成用の複数の第2励振信号を励振信号データベース12Dから読み出して、極めて迅速に励振用合成信号を生成することができる。
【0046】
更に、この場合において、ドップラー変調処理部12Cは、シフト値0に対応した基準励振信号に対するドップラーシフト量に応じた変調を、ドップラーシフト量の増加又は減少に対応して周波数を増加又は減少させるようにして変調する。したがって、目標物30が送波装置10に近づいてくる場合や送波装置10から遠ざかる場合に、その目標物30の位置及び速度変化を高い精度で特定することができる。
【0047】
(励振信号生成手段の動作)
次に、励振信号生成手段12による励振信号生成の動作について図4に基づいて説明する。図1に示したパルス列生成部12Eにおいて、低ドップラー感度励振信号(第1励振信号)に複数(本第1実施形態では3個)の高ドップラー感度励振信号(第2励振信号)が連結されて励振用合成信号を構成している。
【0048】
図4に示すように、第1励振信号である低ドップラー感度励振信号は、LFM信号で構成されている。また、低ドップラー感度励振信号に付加された3つの区間A、区間B、区間Cの各第2励振信号である高ドップラー感度励振信号は、HFM信号で構成されている。そして、LFM信号に3個のHFM信号を連結した励振用合成信号は、一定の時間長Tで構成されている。区間A、区間B、区間Cの3個のHFM信号は、目標物30が送波装置10から遠ざかる速度が3ノット(kt)、2ノット、1ノットのドップラーシフト量に対応して、励振信号生成手段12において生成されたものである。
【0049】
例えば、3ノットに対応する区間AのHMF信号の中心周波数を806Hz、2ノットに対応する区間BのHMF信号の中心周波数を804Hz、1ノットに対応する区間CのHMF信号の中心周波数を802Hzとする。この場合において、1ノットの移動速度に対してドップラーシフトによる周波数の低下は2Hzである。したがって、目標物30が送波装置10から3ノット、2ノット、又は1ノットで遠ざかるとすると、目標物30によって反射されて受波装置20で受信されたエコー信号の中心周波数は、ドップラーシフトによって806Hz、804Hz、802Hzからそれぞれ6Hz、4Hz、2Hzだけ減少していずれも800Hzに低下する。
【0050】
ここで、本第1実施形態では目標物30が送波装置10に近づく速度が3ノット、2ノット、1ノットのドップラーシフト量の減少に対応して作成された3個のHFM信号を組み合わせた場合について説明したが、ドップラーシフト量が増加する場合も含めて、合計6個のHFM信号がLFM信号に付加されたものを使用してもよい。もっとも、LFM信号に付加するHFM信号の個数は6個に限定されるものではなく、探索対象の目標物に応じて適宜に作成されて付加される。このように、複数の第2励振信号は、周波数が双曲線的に変化する信号であるので、デジタル信号処理によって簡単に複数の第2励振信号を作成することができる。
【0051】
又、上記第2励振信号として、双曲線的周波数変調に代えて、周波数が不規則に変化する周波数ホッピング方式の信号を用いる構成でもよい。周波数ホッピング方式(FH−SS: Frequency Hopping Spread Spectrum)とは、スペクトラム拡散方式の1つであり、極めて短い時間(例えば、0.1秒程度)ごとに周波数を変更するものである。第2励振信号を周波数ホッピング方式で構成した場合も、異なる周波数範囲の複数の第2励振信号(FH−SS信号)を第1励振信号(LFM信号)に付加する。したがって、例えば、携帯電話等に広く使用されていることにより、量産効果による安価な構成の周波数ホッピング方式で第2励振信号を生成すれば、極めて短い時間ごとに周波数を変更することができるので、目標物30の移動変化範囲が大きい場合にも対応することができる。
【0052】
(受信信号処理手段の構成)
次に、図2に示した受波装置20の主要部である受信信号処理手段22の構成について説明する。図2に示す受信信号処理手段22は、送波装置10の励振信号生成手段12において生成された低ドップラー感度励振信号(第1励振信号)に基づく共役信号のレプリカ信号(第1レプリカ信号)のデータが予め格納されているLFMレプリカ信号のメモリ22A1と、予め設定されている単一の周波数800Hzからなる単一周波数レプリカ信号のデータが予め格納されているメモリ22A2とを有するレプリカ信号データベース22Aを備えている。
【0053】
すなわち、第1励振信号に基づく第1レプリカ信号及び単一周波数の第2レプリカ信号は、受信信号処理手段22が予め備えているレプリカ信号データベース22A(メモリ)に格納したものを使用する構成になっている。したがって、受信信号とレプリカ信号との相関信号処理を迅速に行うことができる上、新たに受波装置20を増設する場合でも、既存の受波装置20のレプリカ信号データベース22Aから読み出したレプリカ信号をその新たな受波装置20に転送して容易に格納することができる。
【0054】
又、受信信号処理手段22は、受波手段21から得られる受信信号の信号処理を行うために十分なレベルに増幅する増幅器22Bを備えている。
【0055】
更に、受信信号処理手段22は、受信信号から得られる目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出機能と、この検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の励振用合成信号に対応した時間長(図4に示した時間長T)の信号部分を抽出する時間長信号抽出機能と、この抽出した時間長の信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれるエコー信号を検出するエコー信号検出機能と、を備えている。
【0056】
したがって、励振用合成信号に対応した時間長の信号部分からエコー信号を検出するための相関信号処理において、単一の周波数からなるレプリカ信号を用いるので、複数のレプリカ信号を生成する場合に比べて、受信側における回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減することができる。
【0057】
受信信号処理手段22のピーク位置検出機能は、上記の反射ピーク信号を受信信号と第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行うことにより検出する機能である。そして、このピーク位置検出機能は、増幅器22Bによって増幅された受信信号とレプリカ信号データベース22Aから読み出した単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行う低ドップラー感度レプリカ信号相関部22Cと、低ドップラー感度レプリカ信号相関部22Cによって相関信号処理された受信信号に含まれる反射ピーク信号(これを第1反射ピーク信号と称する)の信号ピーク位置を、予め設定されている閾値TH1と比較することで、時間座標上にて検出する低ドップラー感度レプリカ信号検出部22Dと、によって実現される。
【0058】
又、受信信号処理手段22の時間長信号抽出機能は、低ドップラー感度レプリカ信号相関部22Cと低ドップラー感度レプリカ信号検出部22Dとによって検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の励振用合成信号に対応した時間長Tの信号部分を抽出する検出信号切り出し部22Eによって実現される。
【0059】
そして、受信信号処理手段22のエコー信号検出機能は、検出信号切り出し部22Eによって抽出された時間長Tの信号部分とレプリカ信号データベース22Aから読み出した単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行う高ドップラー感度レプリカ信号相関部22Fと、高ドップラー感度レプリカ信号相関部22Fによって相関信号処理された信号部分に含まれる反射ピーク信号(これを第2反射ピーク信号と称する)の信号ピーク位置を、予め設定されている閾値TH2と比較することで、エコー信号として検出する高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gと、によって実現される。
【0060】
更に、受信信号処理手段22は、高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gによって検出されたエコー信号に含まれるドップラーシフト量に基づいて、目標物30の位置及び移動変化を特定するドップラーシフト量検出部22H(目標物特定手段)を備えている。
【0061】
(受信信号処理手段の動作)
次に、目標物30の位置及び移動変化を特定するために、受信信号処理手段22による信号処理の動作について図5に基づいて説明する。
【0062】
図5(a)は、低ドップラー感度レプリカ信号相関部22Cにおける受信信号と第1レプリカ信号との相関信号処理後の信号と、閾値TH1とを比較した状態を示す波形図である。受信信号と第1レプリカ信号との相関信号処理の場合には相関度のレベルが高いので、閾値TH1を高い値に設定しても相関信号出力の中から信号ピーク位置を検出することが可能である。図5(a)において、閾値TH1を超える相関出力信号の信号ピーク位置は、励振用合成信号の先頭部分すなわち第1励振信号(LFM信号)と第1レプリカ信号との相関信号処理によって検出された音波の先頭を表している。
【0063】
送波装置10から発信された音波は、目標物30及び海底や岩等によって反射されるが、その反射波が受波装置20に到達する前に、送波装置10から発信された直接波の音波のほうが先に到達する。したがって、最初の信号ピーク位置P1は、目標物30又は海底や岩等からの反射波に起因するものではなく、送波装置10からの直接波の音波に起因するものである。すなわち、2番目の信号ピーク位置P2、3番目の信号ピーク位置P3、及び図示しない4番目以降の信号ピーク位置が、目標物30又は海底や岩等からの反射波に起因するものとなる。このため、低ドップラー感度レプリカ信号検出部22Dは、2番目以降の信号ピーク位置を反射波に起因するものとして検出する。検出信号切り出し部22Eは、2番目以降の信号ピーク位置を起点とする時間長T(図4に示した励振用合成信号の時間長T)を抽出する。
【0064】
図5(b)は、信号ピーク位置P2を起点とする時間長Tの信号部分と800Hzの単一周波数レプリカ信号との相関信号処理後の信号と、閾値TH2とを比較した状態を示す波形図である。受信信号と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理においては相関度のレベルが低いので、閾値TH2は閾値TH1よりも低い値に設定されている。
【0065】
図5(b)に示すように、高ドップラー感度レプリカ信号検出部26Gは、励振用合成信号に対応する時間長Tの期間内の区間Bの中央において相関度が高いピーク信号を検出している。すなわち、目標物30が2ノットの速度で遠ざかることを想定して生成されたHFM信号に基づく第2レプリカ信号の区間Bに対応する時間座標上において、高ドップラー感度レプリカ信号検出部26Gは、閾値TH2を超えるピーク信号の信号ピーク位置をエコー信号の到達時刻として検出して、ドップラーシフト量検出部22Hに入力する。
【0066】
図4に示した励振用合成信号を構成する3つのHFM信号の周波数、すなわち送波装置10から発信する3つのHFM信号に対応する音波の周波数はそれぞれ806Hz、804Hz、802Hzである。このため、目標物30が送波装置10から一定の速度(例えば、xノット)で遠ざかっている場合には、上記したように、受波装置20で受信した受信信号のうち3つのHFM信号に対応する反射波の周波数は、1ノットに対して2Hzだけ低下するので、目標物30がxノットで遠ざかっている場合には、受信信号の周波数は2xHzだけ低下する。
【0067】
高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gで検出されたエコー信号の位置は、図5に示すように、送波装置10から発信された804HzのHFM信号の区間Bの中央である。したがって、下記の演算式により、目標物30は2ノットで遠ざかっていることが分かる。
804−2x=800
x=2
【0068】
ここで、送波装置10から発信された区間Bに対応するHFM信号の周波数範囲を804Hz±1Hzとすると、目標物30が2ノット±y(0<y<0.5)ノットで遠ざかっている場合には、検出されるエコー信号の位置は区間Bの中央から前方又は後方にずれる。
【0069】
仮に、高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gで検出されたエコー信号の位置が区間A又は区間Cの中央である場合には、下記の演算式により、目標物30は3ノット又は1ノットで遠ざかっていることが分かる。
806−2x=800
x=3
802−2x=800
x=1
【0070】
ドップラーシフト量検出部22Hは、高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gによって検出されたエコー信号の到達時刻によって、ドップラーシフト量すなわち目標物30の移動変化(実施形態では、2ノットの速度で遠ざかっている状態)を特定すると共に、音波の送波時刻からエコー信号の到達時刻までの時間と水中内の音速とによって、目標物30までの距離を算出する。
【0071】
例えば、無線通信部23を介して図1に示した送波装置10の無線通信部13から受信した送波手段11の送波時刻をt0とした場合、図2に示す高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gによって検出されたエコー信号の到達時刻がt1であるとする。この場合には、ドップラーシフト量検出部22Hは、海洋環境の条件によって特定される音速vによって、送波装置10から目標物30までの距離D1及び目標物30から受波装置20までの距離D2を下記の演算式によって算出する。
【0072】
D1+D2=(t1−t0)×v
算出された距離(D1+D2)は、送波装置10及び受波装置20を楕円の2つの焦点とした場合に、目標物30がその楕円の円周上に存在することを示している。上記したように、受波装置20には受信した反射波の方向すなわち目標物30の方向を検出する受信方向センサ(図示せず)が設けられているので、楕円の円周及び目標物30の方向によって、目標物30の位置を特定することができる。
【0073】
図5(c)は、ピーク位置P3を起点とする時間長Tの信号部分と第2レプリカ信号との相関信号処理後の信号と、閾値TH2とを比較した状態を示す波形図である。この場合には、閾値TH2を超えるピーク信号は検出されない。この状態は、受信信号に含まれるエコー信号のドップラーシフト量が0又はそれに近い値である状態を表している。すなわち、ピーク位置P3を起点とする時間長Tの信号部分に対応する反射波は、海底や岩などの移動しない物からの残響などのノイズ成分を含む反射波であることを表している。したがって、受信信号処理手段22は、このような海底や岩などからの残響などのノイズ成分を含む反射波を目標物30からの反射波として誤検出することがない。
【0074】
図6は、送波装置10から発信された音波が目標物30で反射され、その反射波を3個の受波装置20A、20B及び20Cによって受信する様子を示す図である。この場合において、目標物30は、受波装置20Aを中心とする円を描くように移動している。すなわち、受波装置20Aと目標物30との間の距離は変化しない。したがって。受波装置20Aにおいては、目標物30からの反射波によって検出されたエコー信号のドップラーシフト量は0である。
【0075】
これに対して、目標物30は、受波装置20Bに近づくように移動すると共に、受波装置20Cから遠ざかるように移動している。したがって、受波装置20Bにおいては、目標物30からの反射波によって検出されたエコー信号のドップラーシフト量は、受波装置20Aのドップラーシフト量を基準とすると正の値で増加している。これに対して、受波装置20Cにおいては、目標物30からの反射波によって検出されたエコー信号のドップラーシフト量は、受波装置20Aのドップラーシフト量を基準とすると負の値で増加している。したがって、3個の受波装置20A、20B及び20Cにおけるドップラーシフト量のデータを受信した送波装置10は、目標物30の移動方向及び移動速度を正確に特定することができる。
【0076】
このように、本第1実施形態では、図1に示した送波装置10において、音波出力用の励振信号を励振信号生成手段12が生成し、この生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物30に向けて送波手段11が発信する。そして、図2に示した受波装置20において、目標物30からの反射波を受波手段21が受信して受信信号に変換し、この変換された受信信号を受信信号処理手段22が信号処理する構成になっている。
【0077】
この場合において、送波装置10における励振信号生成手段12は、周波数が直線的に変化する第1励振信号と周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる複数の第2励振信号とを個別に生成する。次に、励振信号生成手段12は、複数の第2励振信号を第1励振信号に付加して励振用合成信号を生成し、この励振用合成信号を、送波手段11から変換出力される音波出力用の励振信号として使用する。
【0078】
これに対して、図2に示した受波装置20における受信信号処理手段22は、受信信号を分析して目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出する。次に、受信信号処理手段22は、この検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の時間長Tの信号部分を抽出する。更に、受信信号処理手段22は、この抽出した時間長の信号部分と基準信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する。
【0079】
ここで、図1に示した励振信号生成手段12内の低ドップラー感度励振信号生成部12Aは、目標物30に音波を発信する際に、第1励振信号を生成するようにしたが、第1励振信号についても、第2励振信号と同様に、目標物30に音波を発信する前に予め生成して励振信号データベース12Dに格納しておき、目標物30に音波を発信する際に、パルス列生成部12Eが、第1励振信号及び複数の第2励振信号の双方を励振信号データベース12Dから読み出して、パルス列の励振用合成信号を生成する構成にしてもよい。このようにすれば、目標物30に音波を発信する際の低ドップラー感度励振信号生成部12Aによるリアルタイムの第1励振信号の生成処理時間を短縮できる利点がある。
【0080】
(第1実施形態の効果)
以上のように、本第1実施形態の水中目標物探索システム1によれば、送信側では、周波数が直線的に変化する第1励振信号及び第1励振信号に連結される周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を音波出力用の励振信号として生成し、受信側では、受信信号と第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理、及び受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って、受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する構成にしたので、受信側における回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減することができる。
【0081】
更に、受信信号処理手段50は、受信信号を分析し目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出し、この検出された信号ピーク位置を起点とする励振用合成信号に対応した時間長Tの信号部分を抽出し、抽出した時間長Tの信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれるエコー信号を検出するので、相関度の高い相関信号処理によって目標物30からの反射波の先頭となる信号ピーク位置を検出した後に、その信号ピーク位置を起点とする一定の時間長の信号部分に対して相関度の低い相関信号処理を行う2段階の相関信号処理により、実際の残響や雑音が多く存在する環境においても、目標物を確実に検出することができる。
【0082】
[第2実施形態]
(励振信号生成手段の構成)
次に、本発明の第2実施形態について、図7乃至図10を参照すると共に第1実施形態における図4及び図5を援用して説明する。図7は、第2実施形態における励振信号生成手段40の構成を示したブロック図である。この図7において、送波装置10は、目標探索用の音波を水中内の目標物30に向けて発信する送波手段11と、送波手段11に入力するための音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段40と、を備えている。
【0083】
更に、この励振信号生成手段40は、この励振信号生成手段40を全体的に制御するCPU(Central Processing Unit)41、及びCPU41と下記の各部との間でデータ及びコマンドの授受をするためのシステムバス42を備えている。
【0084】
このシステムバス42には、CPU41によって実行されるプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)43、CPU41によって処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)44、目標物探索用のメッセージ等を表示する表示部47及び目標物探索の条件等のデータやコマンドを入力するキーボードやポインティングデバイス等からなる入力部48とCPU41との間でデータの授受を行うI/F(Interface)45が接続されている。
【0085】
又、システムバス42には、CPU41によって生成された音波出力用の励振信号をデジタル信号からアナログ信号に変換して送波手段11に入力するD/A変換器(Digital to Analog Converter)46を備えている。図7では省略されているが、D/A変換器46と送波手段11との間には、図1に示した第1実施形態における増幅器12Fと同様の構成からなる増幅器が設けられている。
【0086】
第2実施形態における励振信号生成手段40は、図1に示した第1実施形態における励振信号生成手段12の一部に相当するものである。励振信号生成手段40におけるCPU41は、ROM43に格納されたプログラムを実行することによって、図1に示したように、直線的に周波数が変化する第1励振信号(図4に示したLFM信号)を生成する機能(図1に示した低ドップラー感度励振信号生成部12Aに相当する機能)、非直線的に周波数が変化する第2励振信号(図4に示した3個のHFM信号)を予め生成する機能(図1に示した高ドップラー感度励振信号生成部12Bに相当する機能)、生成された複数の第2励振信号を順次変調して周波数範囲が異なる複数の第2励振信号を生成する機能(図1に示したドップラー変調処理部12Cに相当する機能)、及び第1励振信号に複数の第2励振信号を付加して励振用合成信号を生成する機能(図1に示したパルス列生成部12Eに相当する機能)を実現する。
【0087】
その他の情報処理、例えば、I/F45を介した入力部49からの指令情報の入力処理や表示部48に対する画像情報の出力処理などについても、CPU41がROM43に格納されたプログラムを実行することによって実行される。
【0088】
又、第2実施形態におけるRAM44は、図1に示した第1実施形態における励振信号データベース12Dに相当するものであり、CPU41によって生成された励振用合成信号、すなわち図4に示したLFM信号(第1励振信号)に3つの一定時間の区間ごとに異なる周波数範囲の3個のHFM信号(第2励振信号)を連結して付加した励振用合成信号を記憶する。
【0089】
本第2実施形態においても、実際は、目標物30が送波装置10に近づく速度が1ノット、2ノット、3ノットのドップラーシフト量の増加に対応して作成された3個のHFM信号を含めて、合計6個のHFM信号がLFM信号に付加されている。又、LFM信号に付加するHFM信号の個数は6個に限定されるものではなく、探索対象の目標物に応じて適宜に作成されて付加される。このように、複数の第2励振信号は、周波数が双曲線的に変化する信号であるので、CPU41が実行するデジタル信号処理のアルゴリズムによって簡単に複数の第2励振信号を作成することができる。
【0090】
ここで、上記第2励振信号として、双曲線的周波数変調に代えて、周波数が不規則に変化する周波数ホッピング方式のFH−SS信号で構成してもよい。第2励振信号を周波数ホッピング方式の信号で構成した場合も、複数の一定時間の区間ごとに異なる周波数範囲の第2励振信号(FH−SS信号)を第1励振信号(LFM信号)に付加する。したがって、周波数ホッピング方式で第2励振信号を生成すれば、極めて短い時間ごとに周波数を変更することができるので、目標物30の移動変化範囲が大きい場合にも対応することができる。
【0091】
前述した第1実施形態の場合には、図1に示したように、高ドップラー感度励振信号生成部12B及びドップラー変調処理部12Cによって生成された複数の第2励振信号を励振信号データベース12Dに格納し、パルス列生成部12Eが、励振信号データベース12Dに格納された複数の第2励振信号を読み出して、低ドップラー感度励振信号生成部12Aによってリアルタイムで生成される第1励振信号に付加する構成にした。
【0092】
しかしながら、この第2実施形態においては、高速処理が可能なハードウェアの低ドップラー感度励振信号生成部12Aに代えて、CPU41によって実行されるソフトウェアで第1励振信号を生成するので、送波出力の際に、リアルタイムでの第1励振信号の生成が間に合わないおそれもある。このため、第1励振信号についても予め作成してRAM44に記憶する構成とする。
(励振信号生成手段の動作)
【0093】
次に、図7に示した励振信号生成手段40のCPU41によって実行される励振信号生成処理の動作について、図8のフローチャートに基づいて説明する。CPU41は、第1励振信号を生成する処理(ステップS101)、及び、その生成した励振信号をRAM44に記憶する処理(ステップS102)により、音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が直線的に変化する第1励振信号を生成する第1励振信号生成工程を実行する。
【0094】
次に、CPU41は、シフト量0に対応する基準の第2励振信号を生成する処理(ステップS103)、その基準の第2励振信号を予測のドップラーシフト量に対応する第2励振信号に変調する処理(ステップS104)、全ての予測シフト量に対応する変調処理が終了したか否かを判別する処理(ステップS105)、及び、全ての予測シフト量に対応する変調処理が終了していない場合(ステップS105;NO)には、全ての予測シフト量に対応する変調処理が終了するまで(ステップS105;YES)ステップS104の処理を繰り返すことにより、音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる複数の第2励振信号を生成する第2励振信号生成工程を実行する。
【0095】
次に、CPU41は、RAM44に記憶した第1励振信号に複数の第2励振信号を付加する処理(ステップS106)により、励振用合成信号を生成する合成信号生成工程を実行する。この結果、図4に示したLFM信号(第1励振信号)に複数のHFM信号(第2励振信号)を付加して連結された時間長Tの励振用合成信号が予めRAM44に記憶される。
【0096】
このように、励振信号生成手段40は、予め想定される受信信号のドップラーシフト量に対応した周波数で第2励振信号を変調する。この場合において、CPU41は、ドップラーシフト量が無いと想定される場合におけるシフト値0に対応して基準励振信号を生成すると共に、この生成された基準励振信号を複数のドップラーシフト量(複数の予想値)に対応してそれぞれ変調して、RAM44に格納する。すなわち、励振信号生成手段40は、生成される第2励振信号を第1励振信号との合成用として記憶するRAM44(記憶手段)を併設した構成になっている。
【0097】
したがって、励振信号生成手段40は、予め適切なドップラーシフト量を予想することにより、目標物30の正確な移動変化を検出できると共に、合成用の複数の第2励振信号をRAM44から読み出して、極めて迅速に励振用合成信号を生成することができる。
【0098】
更に、この場合において、CPU41は、シフト値0に対応した基準励振信号に対するドップラーシフト量に応じた変調を、ドップラーシフト量の増加又は減少に対応して周波数を増加又は減少させるようにして変調する。したがって、目標物30が送波装置10に近づいてくる場合や送波装置10から遠ざかる場合に、その目標物30の位置及び速度変化を高い精度で特定することができる。
【0099】
その後、入力部49から音波の発信指令すなわち目標物30の探索動作開始の指令が入力されたときは、CPU41は、RAM44から励振用合成信号を読み出して、D/A変換器46及び図示しない増幅器を介して送波手段11に入力する。
(受信信号処理手段の構成)
【0100】
図9は、第2実施形態における受信信号処理手段50の構成を示したものである。図9において、受信信号処理手段50は、この受信信号処理手段50を全体的に制御するCPU(Central Processing Unit)51、及びCPU51と下記の各部との間でデータ及びコマンドの授受をするためのシステムバス52を備えている。
【0101】
このシステムバス52には、CPU51によって実行されるプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)53、CPU51によって処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)54、探索した目標物30のデータを表示する表示部57及び表示するデータの選択その他の条件を入力するキーボードやポインティングデバイス等からなる入力部58とCPU51との間でデータの授受を行うI/F(Interface)55が接続されている。
【0102】
又、システムバス52には、受波手段21によって捕捉された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換してCPU51に入力するA/D変換器(Analog to Digital Converter)56を備えている。図9には示していないが、受波手段21とA/D変換器56との間には図2に示した増幅器22Bと同様の増幅器が設けられている。
【0103】
この第2実施形態におけるRAM54は、図2に示したレプリカ信号データベース22Aに対応する記憶エリアを有し、図7に示した励振信号生成手段40によって生成され、RAM44に記憶された第1励振信号に基づくレプリカ信号(第1レプリカ信号)及び単一周波数レプリカ信号(第2レプリカ信号)を予め記憶している。
【0104】
すなわち、第1励振信号に基づく第1レプリカ信号及び第2レプリカ信号(単一周波数レプリカ信号)は、受信信号処理手段50が予め備えているRAM54(メモリ)に格納したものを使用する構成になっている。したがって、受信信号とレプリカ信号との相関信号処理を迅速に行うことができる上、新たに受波装置20を増設する場合でも、既存の受波装置20のRAM54から読み出したレプリカ信号をその新たな受波装置20に転送して容易に格納することができる。
【0105】
又、第2実施形態における受信信号処理手段50は、図2に示した第1実施形態における受信信号処理手段22の一部に相当するものである。すなわち、受信信号処理手段50は、受波手段21によって捕捉された受信信号とRAM54に記憶されたレプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれるエコー信号を検出する。
【0106】
又、この受信信号処理手段50は、ROM53に格納されたプログラムをCPU51に実行させることによって、受信信号から目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出機能と、この検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の励振用合成信号に対応した時間長の信号部分を抽出する時間長信号抽出機能と、この抽出した時間長の信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれるエコー信号を検出するエコー信号検出機能と、を備えている。
【0107】
この場合において、受信信号処理手段50のピーク位置検出機能は、上記の反射ピーク信号を受信信号と第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行うことにより検出する機能である。そして、このピーク検出機能は、受信信号とRAM54から読み出した第1レプリカ信号との相関信号処理を行う機能(図2に示した低ドップラー感度レプリカ信号相関部22Cに相当する機能)と、相関信号処理された受信信号に含まれる反射ピーク信号(第1反射ピーク信号)の信号ピーク位置を予め設定されている閾値TH1と比較することで時間座標上にて検出する機能(図2に示した低ドップラー感度レプリカ信号検出部22Dの機能)と、によって実現される。
【0108】
又、受信信号処理手段50の時間長信号抽出機能は、上記ピーク位置検出機能によって検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の励振用合成信号に対応した時間長(図4に示した時間長T)の信号部分を抽出する機能(図2に示した検出信号切り出し部22Eに相当する機能)によって実現される。
【0109】
そして、受信信号処理手段50のエコー信号検出機能は、上記時間長信号抽出機能によって抽出された時間長Tの信号部分とRAM54から読み出した単一周波数レプリカ信号(第2レプリカ信号)との相関信号処理を行う機能(図2に示した高ドップラー感度レプリカ信号相関部22Fに相当する機能)と、この機能によって相関信号処理された信号部分に含まれる反射ピーク信号(第2反射ピーク信号)の信号ピーク位置を予め設定されている閾値TH2と比較することで、エコー信号として検出する機能(図2に示した高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gに相当する機能)と、によって実現される。
【0110】
更に、受信信号処理手段50は、高ドップラー感度レプリカ信号検出部22Gに相当する機能によって検出されたエコー信号に含まれるドップラーシフト量に基づいて、目標物30の位置及び移動変化を特定する機能(図2に示したドップラーシフト量検出部22Hに相当する機能)を実現する。
【0111】
(受信信号処理手段の動作)
次に、図9の受信信号処理手段50のCPU51によって実行される受信信号処理の動作について説明する。
【0112】
図7の送波手段11から発信された音波が目標物30によって反射され、その反射波が図9の受波手段21によって捕捉される。受信信号処理手段50は、受波手段21によって捕捉された受信信号を図示しない増幅器及びA/D変換器56を介してCPU51に入力する。
【0113】
図10のフローチャートにおいて、CPU51は、受信信号と第1レプリカ信号受信信号を捕捉する処理(ステップS111)、第1閾値と受信信号とを比較する処理(ステップS112)、及び、信号ピーク位置を検出したか否かを判別する処理(ステップS113)により、その受信信号を分析し目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出処理工程を実行する。
【0114】
次に、CPU51は、ステップS113によって検出されたピーク信号が図7の送波手段11からの直接波であるか否かを判別し(ステップS114)、直接波である場合(ステップS114;YES)には、その後の処理を行わず、ステップS112に移行して、ピーク位置検出処理工程を再度実行する。
【0115】
CPU51は、ステップS113において検出したピーク信号が図7の送波手段11からの直接波でない場合(ステップS114;NO)には、ピーク信号の信号ピーク位置を起点とする信号部分を抽出する処理(ステップS115)により、この検出された信号ピーク位置を起点とする励振信号に対応した時間長の信号部分を抽出する時間長信号抽出工程を実行する。又、その抽出した信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理(ステップS116)、第2閾値と抽出された信号部分とを比較する処理(ステップS117)、及びピーク信号を検出したか判別する処理(ステップS118)により、抽出した時間長の信号部分と励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行って、その受信信号に含まれるエコー信号を検出するエコー信号検出工程を実行する。
【0116】
このように、本第2実施形態では、図7に示した送波装置10において、音波出力用の励振信号を励振信号生成手段40が生成し、この生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物30に向けて送波手段11が発信する。そして、図9に示した受波装置20において、目標物30からの反射波を受波手段21が受信して受信信号に変換し、この変換された受信信号を受信信号処理手段22が信号処理する構成になっている。
【0117】
この場合において、送波装置10における励振信号生成手段40は、周波数が直線的に変化する第1励振信号と周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる複数の第2励振信号とを個別に生成する。次に、励振信号生成手段40は、複数の第2励振信号を第1励振信号に付加して励振用合成信号を生成し、この励振用合成信号を、送波手段11から変換出力される音波出力用の励振信号として使用する。
【0118】
これに対して、図9に示した受波装置20における受信信号処理手段50は、受信信号を分析して目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出する。次に、受信信号処理手段50は、この検出された信号ピーク位置を起点とする受信信号の時間長Tの信号部分を抽出する。更に、受信信号処理手段50は、この抽出した時間長の信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する。
【0119】
(第2実施形態の効果)
本第2実施形態の水中目標物探索システム1によれば、図7に示した送信側では、周波数が直線的に変化する第1励振信号及び第1励振信号に連結される周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を音波出力用の励振信号として生成し、図9に示した受信側では、受信信号と第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理、及び受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って、受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する構成にしたので、受信側における回路規模を削減して相関信号処理の負荷を軽減することができる。
【0120】
更に、受信信号処理手段50は、受信信号を分析し目標物30からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出し、この検出された信号ピーク位置を起点とする励振用合成信号に対応した時間長Tの信号部分を抽出し、抽出した時間長Tの信号部分と単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って受信信号に含まれるエコー信号を検出するので、相関度の高い相関信号処理によって目標物30からの反射波の先頭となる信号ピーク位置を検出した後に、その信号ピーク位置から励振信号に対応する時間長の信号部分に対して相関度の低い相関信号処理を行う2段階の相関信号処理によって、実際の残響や雑音が多く存在する環境においても、目標物を確実に検出することができる。
【0121】
ここで、上記第1及び第2実施形態においては、送波装置10と各受波装置20との間で無線通信を行う構成にしたが、送波装置10を海底の設置した水中目標物探索システムも考えられる。この場合には、各受波装置20との間で無線通信を行うことができないので、双方をケーブルで接続して有線通信を行うことになる。あるいは、各受波装置20で特定した目標物30の位置及び移動変化を送波装置10以外の情報管理システムに無線送信する構成の場合には、各受波装置20で必要な送波装置10の情報は、送波の発信時刻だけである。
【0122】
したがって、海底に設置した送波装置10と海面近くの水中内に設置した各受波装置20との間の距離が予め確定している場合には、ある受波装置20において、確定している距離をD、図5(b)に示した直接波の信号ピーク位置P1の到達時刻をt0’とすると、送波装置10の送波の発信時刻t0は、温度センサ(図示せず)によって測定される現在温度によって特定される海中内の音速vを用いて、下記の式で表される。
【0123】
t0=t0’−D/v
このように、送波装置10を海底に設置した水中目標物探索システムにおいても、各受波装置20によって目標物30の位置及び移動速度を特定することができる。
【0124】
尚、上記各実施形態においては、水中内の目標物を探索する水中目標物探索システムについて本発明を説明したが、飛行物体等の大気中の目標物を探索する空中目標物探索システムについて本発明を応用することも可能である。例えば、海上又は陸上において、ある位置に配置された送波装置から探索対象の空間に向けて音波を発信し、他の位置に配置した受波装置によって探索空間からの反射波を受信して、その探索空間を通過する目標物の位置及び移動変化を検出する空中目標物探索システムが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、送波装置と受波装置とが分離した水中目標物探索システム、又は、送波装置と受波装置とが一体化された水中目標物探索システムを製造する製造業や、その他これに関連する産業に適用可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 水中目標物探索システム
10 送波装置
11 送波手段
12 励振信号生成手段
12A 低ドップラー感度励振信号生成部
12B 高ドップラー感度励振信号生成部
12C ドップラー変調処理部
12D 励振信号データベース
12E パルス列生成部
20 受波装置
21 受波手段
22 受信信号処理手段
22A レプリカ信号データベース
22C 低ドップラー感度レプリカ相関部
22D 低ドップラー感度レプリカ検出部
22E 検出信号切り出し部
22F 高ドップラー感度レプリカ相関部
22G 高ドップラー感度レプリカ検出部
22H ドップラーシフト量検出部
30 目標物
40 励振信号生成手段
41 CPU
44 RAM
50 受信信号処理手段
51 CPU
54 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標探索用の音波を水中内目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信する受波手段と、前記音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段とを備えた水中目標物探索システムにおいて、
前記励振信号生成手段が、
周波数が直線的に変化する第1励振信号と予め設定されている複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号とを生成する励振信号生成機能と、前記第1励振信号に前記複数の区間の第2励振信号を付加して励振用合成信号を生成して前記音波出力用の励振信号とする合成信号生成機能を備え、
前記受信信号と前記励振信号生成手段によって生成された前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する受信信号処理手段を備えたことを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記複数の区間ごとの各第2励振信号は、周波数が双曲線的に変化する信号であることを特徴とした水中目標物探索システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記複数の区間ごとの各第2励振信号は、周波数が不規則に変化する信号であることを特徴とした水中目標物探索システム。
【請求項4】
請求項1に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記受信信号処理手段は、前記受信信号と前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理によって前記目標物からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出機能と、この検出された信号ピーク位置を起点とする前記受信信号の前記励振用合成信号に対応した時間長の信号部分を抽出する時間長信号抽出機能と、この抽出した時間長の信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って当該受信信号に含まれる前記エコー信号を検出するエコー信号検出機能と、を備えていることを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記受信信号処理手段のピーク位置検出機能は、前記反射ピーク信号を、前記受信信号と前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行うことにより検出する機能であり、前記受信信号処理手段のエコー信号検出機能は、前記複数の区間の第2励振信号に対応した信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理によって1つの区間内の信号ピーク位置を前記エコー信号のドップラーシフト量として検出するドップラーシフト量検出機能を備えていることを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記第1励振信号に基づくレプリカ信号及び前記単一周波数レプリカ信号は、前記受信信号処理手段が予め備えているメモリに格納したものを使用する構成としたことを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項7】
請求項5に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記励振信号生成手段の励振信号生成機能は、周波数が直線的に変化する第1励振信号を生成する低ドップラー感度励振信号生成部と、前記複数の区間ごとに周波数が非直線的に変化する前記第2励振信号を生成する高ドップラー感度励振信号生成部及びドップラー変調生成部とにより実現する機能であることを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項8】
請求項7に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記励振信号生成手段の合成信号生成機能は、生成された前記複数の区間の第2励振信号を前記第1励振信号に連結するパルス列生成部によって実現する機能であることを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一つに記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記受信信号処理手段に、当該受信信号処理手段によって検出されたエコー信号に基づいて前記目標物の位置及び移動変化を特定する目標物特定手段を併設したことを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項10】
請求項1に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記励振信号生成手段は、
前記第2励振信号を、予め想定される受信信号のドップラーシフト量に対応した周波数で変調して生成する機能を有し、
この変調による前記第2励振信号の生成に際しては、前記ドップラーシフト量が無いと想定される場合におけるシフト値0に対応して基準励振信号を生成すると共にこの生成された基準励振信号を前記ドップラーシフト量に対応してそれぞれ変調する構成とし、
前記励振信号生成手段に、当該励振信号生成手段で生成される前記第2励振信号を前記第1励振信号との合成用として記憶する記憶手段を併設したことを特徴とした水中目標物探索システム。
【請求項11】
請求項10に記載の水中目標物探索システムにおいて、
前記基準励振信号に対する前記ドップラーシフト量に応じた変調は、前記ドップラーシフト量の増加又は減少に対応して周波数を増加又は減少させるようした変調であることを特徴とする水中目標物探索システム。
【請求項12】
音波出力用の励振信号を励振信号生成手段が生成し、この生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて送波手段が発信し、前記目標物からの反射波を受波手段が受信して受信信号に変換し、この変換された受信信号を受信信号処理手段が信号処理することによって前記目標物を特定する水中目標物探索方法において、
周波数が直線的に変化する第1励振信号と予め設定されている複数の一定時間の区間ごとに周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる第2励振信号とを、前記励振信号生成手段が個別に生成し、
次に、前記複数の区間ごとの前記第2励振信号を前記第1励振信号に付加して励振用合成信号を前記励振信号生成手段が生成し、
この励振用合成信号を、前記送波手段から変換出力される音波出力用の励振信号として使用し、
前記受信信号と前記生成された前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を前記受信信号処理手段が検出することを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項13】
請求項12に記載の水中目標物探索方法において、
前記受信信号を分析して前記目標物からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて前記受信信号処理手段が検出し、
この検出された信号ピーク位置を起点とする前記受信信号の前記励振用合成信号に対応する時間長の信号部分を前記受信信号処理手段が抽出し、
この抽出した時間長の信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って当該受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を前記受信信号処理手段が検出する、構成としたことを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項14】
請求項13に記載の水中目標物探索方法において、
前記受信信号処理手段による前記ピーク位置の検出工程は、前記反射ピーク信号を、前記受信信号と前記第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理を行うことにより実行され、前記受信信号処理手段による前記エコー信号の検出工程は、前記複数の区間の第2励振信号に対応した信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理によって1つの区間内の信号ピーク位置を前記エコー信号のドップラーシフト量として検出することにより実行されることを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項15】
請求項13に記載の水中目標物探索方法において、
前記励振信号生成手段による前記励振信号の生成に際しては、周波数が直線的に変化する第1励振信号を低ドップラー感度励振信号生成部が生成し、前記複数の区間ごとに周波数が非直線的に変化し且つ周波数範囲が異なる第2励振信号を高ドップラー感度励振信号生成部及びドップラー変調処理部が生成する構成としたことを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項16】
請求項15に記載の水中目標物探索方法において、
前記励振信号生成手段による励振用合成信号の生成に際しては、生成された前記複数の区間の第2励振信号を、パルス列生成部が前記第1励振信号に連結するようにしたことを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項17】
請求項16に記載の水中目標物探索方法において、
前記受信信号処理手段によって検出されたエコー信号に基づいて、予め装備された目標物特定手段が前記目標物の位置及び移動変化を特定する構成としたことを特徴とする水中目標物探索方法。
【請求項18】
音波出力用として生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信し受信信号に変換する受波手段と、前記音波出力用の励振信号を生成する励振信号生成手段と、を備えた水中目標物探索システムにあって、
前記励振信号の生成に際しては、
前記音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が直線的に変化する第1励振信号を生成する第1励振信号生成機能、
前記受信手段における相関信号処理に使用される単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号に対応して、前記音波出力用の励振信号の一部を成す周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を生成する第2励振信号生成機能、
及び前記第1励振信号に前記複数の区間の第2励振信号を付加して励振用合成信号を生成する合成信号生成機能、
を、前記励振信号生成手段が備えているコンピュータに実行させるようにしたことを特徴とする水中目標物探索用プログラム。
【請求項19】
音波出力用として生成された励振信号を目標探索用の音波に変換して水中の目標物に向けて発信する送波手段と、前記目標物からの反射波を受信し受信信号に変換する受波手段と、周波数が直線的に変化する第1励振信号及び当該第1励振信号に連結される周波数が非直線的に変化し且つ複数の一定時間の区間ごとに周波数範囲が異なる第2励振信号を前記音波出力用の励振用合成信号として生成する励振信号生成手段と、前記受信信号を受信信号処理手段が信号処理することによって前記目標物を特定する水中目標物探索システムにあって、
前記捕捉された受信信号と前記励振信号生成手段によって生成された第1励振信号に基づくレプリカ信号との相関信号処理及び前記受信信号と予め設定されている単一の周波数からなる単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って前記受信信号に含まれる目標物特定用のエコー信号を検出する受信信号処理機能を備え、
この受信信号処理機能の実行内容を、
前記受信信号を分析し前記目標物からの反射波である反射ピーク信号の信号ピーク位置を時間座標上にて検出するピーク位置検出処理機能、
この検出された信号ピーク位置を起点とする前記励振用合成信号に対応した時間長の信号部分を抽出する時間長信号抽出機能、
及び前記抽出した時間長の信号部分と前記単一周波数レプリカ信号との相関信号処理を行って当該受信信号に含まれる前記エコー信号を検出するエコー信号検出機能、
により構成し、これらを前記受信信号生成手段が備えているコンピュータに実行させるようにしたことを特徴とする水中目標物探索用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−38993(P2011−38993A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189254(P2009−189254)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】