説明

水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び管内調査方法。

【課題】水中ケーブルを曳航しながら航走する水中航走体と、その支援システム等の小型化と制御の簡単化を図ることができる、水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び、管内調査方法を提供する。
【解決手段】水中ケーブル42の接続点Pを航走用推進器22の推進軸の軸線Cから上下方向に関して距離Hを置いて設けるとともに、航走用推進器22が発生する推進力Tによって発生する接続点P回りの第1モーメントM1と、水中航走体20の水中重量の沈下力Wt又は浮上力Ftによって発生する接続点P回りの第2モーメントM2とが、推進力Tが予め設定した設定推進力T0であるときに等しくなるように、水中重量の沈下力Wt又は浮上力Ftを設定し、水中航走体20の上昇又は下降の制御を、航走用推進器22の推進力Tの増減によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走する水中航走体と、この水中航走体を用いて水道本管等の調査を行う調査システムの小型化と制御の簡単化を図ることができる、水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び管内調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道本管や原子炉施設の排水管等の管内を調査する場合に、本管から上向きに分岐した枝管から、空気弁等を外し、この枝管側から本管にカメラ、カメラ用の照明灯、移動用のプロペラ等を装備すると共に、曳航するケーブルでデータや動力を送受信する管内調査機器(調査用水中ロボット)を挿入して、この管内調査機器によって検査を行っている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
この管内調査では、枝管に設けられた補修弁を閉弁して、枝管から空気弁等を取り外し、管内調査機器を内部に収容した挿入管を枝管に取り付ける。この挿入管を取り付けた後、補修弁を開弁して挿入管内を没水状態とした上で、管内調査機器に連結されたケーブルを挿入管外(水密区画外)から挿入管内(水密区画内)に繰り出しながら、管内調査機器を本管内に挿入し、更に、ケーブルを繰り出しながら管内調査機器を本管内の所定の部位に移動させて、本管内の調査を行う。調査を終了したら、ケーブルを引き込んで管内調査機器を本管内から挿入管に引き込む。その後、補修弁を閉弁して、挿入管を取り外し、枝管に空気弁等を取り付けてから、補修弁を調査作業前の元の状態に戻して一連の作業を終了する。
【0004】
従来技術においては、この有線式水中ロボットである管内調査機器の浮力は重量とバランスして浮き沈みしないように、即ち、中性浮力になるように重量と浮力を調整され、また、管内調査機器の前後方向が本管の管軸方向と同じ方向を向くようにトリム(縦傾斜)も調整される。なお、この管内調査機器に連結したケーブルも中性浮力になるように比重を調整される。
【0005】
この管内調査機器による管内の撮影に際しては、歪みの少ない、質の高い映像データを得るために、管内調査機器を管内の中央に置いて、管内調査機器の方向を本管の管軸方向に合わせて、管内調査機器の側方に配置されたカメラで管壁の直角方向から撮影することが望ましい。また、管内調査機器の姿勢を傾斜させずに管軸方向に維持することで、角度(位置)の誤差の少ない映像データを得ることができる。
【0006】
その一方で、管内で損傷がある部分を発見した場合にはその部分に接近して撮影できるように、管内調査中に管内調査機器を上昇(浮上)及び下降(沈下、潜行)ができることが好ましい。また、単純な制御で管内調査機器を上昇させたり、下降させたりすることができるようになると、流れの中に置かれた管内調査機器を本管の軸心位置に沿って、より精度良く移動させることができるようになる。
【0007】
この管内調査機器の上昇及び下降に際しては、従来技術における湖沼や海洋等のオープンスペースで使用される水中航走体(水中ロボット)では、上下方向に推力を発生できる姿勢制御用スラスタを装備し、この姿勢制御用スラスタで発生する推力を用いて上下方向に移動させたり、水中航走体のトリム方向の姿勢を変更させながら前進させたり、姿勢制御用スラスタ自体の方向を変更させることで、水中航走体を上昇させたり、下降させたりしている。
【0008】
あるいは、水中航走体に姿勢制御用のフィンや舵を備えて、このフィンや舵の迎角を変化させることにより、フィンや舵で発生する流体力の大きさを変化させて水中航走体のトリム方向の姿勢を変更させながら前進させることで、水中航走体を上昇させたり、下降させたりしている。
【0009】
しかしながら、管内調査機器の姿勢制御を姿勢制御用スラスタで行うと、姿勢制御用に必要な電力が必要になるので、電源を大きくする必要が生じる上に曳航するケーブルが太くなるという問題や、姿勢制御用スラスタの個数の増加や姿勢制御用スラスタの向きを変更するための機構を管内調査機器に設ける必要が生じて、管内調査機器が大きくなるという問題がある。そして、管内調査機器が大きくなると必要なスラスタ能力も大きくなるという問題が生じる。
【0010】
また、管内調査機器の姿勢制御を姿勢制御用フィンや舵で行うと、フィンや舵の迎角を変更するための機構を管内調査機器に設ける必要が生じ、管内調査機器が大きくなるという問題がある。また、流体力を発生し易いようにするため、フィンや舵を管内調査機器の本体よりも外側に配置すると、フィンや舵が管内調査機器を挿入管に収容する際に邪魔になるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−91169号公報
【特許文献2】特開平10−221257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走する水中航走体とその支援システムの小型化と制御の簡単化を図ることができる、水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び管内調査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の水中航走体は、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走用推進器により航走する水中航走体において、前記水中ケーブルの接続点を前記航走用推進器の推進軸の軸線から上下方向に関して距離を置いて設けるとともに、前記航走用推進器が発生する推進力によって発生する前記接続点回りの第1モーメントと、該水中航走体の水中重量の沈下力又は浮上力によって発生する前記接続点回りの第2モーメントとが、前記推進力が予め設定した設定推進力であるときに等しくなるように、前記水中重量の沈下力又は浮上力を設定し、該水中航走体の上昇又は下降の制御を、前記推進力の増減によって行うように構成する。
【0014】
なお、ここで用いている「水中」とは「水中」「海中」その他の「液体の中」を含み、ここで用いている「水中航走体」も、湖沼や河川等の水域や、沿岸や遠洋等の海域や、水道管や原子力施設の危険区域の管や狭水路等を航走する水中航走体、海中航走体、特殊な液体中を航走する液中航走体等を含んでいる。
【0015】
従来技術における水中航走体は、浮力と重力が等しくなる中性浮力に調整されるが、この構成では、中性浮力よりも重くして静止状態では沈下するように、又は、中性浮力よりも軽くして静止状態では浮上するように、水中航走体の水中重量の沈下力又は浮上力を設定すると共に、更に、この沈下力又は浮上力が発生する接続点回りの第2モーメントが、航走用推進器が発生する推進力が予め設定した設定推進力を発生しているときの接続点回りの第1モーメントと同じになるように設定する。
【0016】
この設定により、航走用推進器が発生する推進力を設定推進力より大きくすると、推進力による接続点回りの第1モーメントが第2モーメントよりも大きくなるので、水中航走体の前方を、中性浮力よりも重い場合には上方に向けるモーメントが発生し、中性浮力より軽い場合には下方に向けるモーメントが発生する。また、航走用推進器が発生する推進力を設定推進力より小さくすると、この推進力による接続点回りの第1モーメントが第2モーメントよりも小さくなるので、水中航走体の前方を、中性浮力よりも重い場合には下方に向けるモーメントが発生し、中性浮力より軽い場合には上方に向けるモーメントが発生する。
【0017】
このモーメントにより、水中航走体の前方が上方を向くように姿勢が変わることにより、結果として、水中航走体は上昇し、水中航走体の前方が下方を向くように姿勢が変わることにより、結果として、水中航走体は下降する。従って、水中航走体のトリム方向の姿勢制御及び上昇と下降の制御を、航走用推進器の推進力の増減によるという非常に簡単な制御で行うことができるようになる。
【0018】
また、上記の目的を達成するための管内調査システムは、水中ケーブルを曳航しながら管内を調査する管内調査機器と、この管内調査機器を枝管側と本管の間を移動させるための挿入回収装置と、前記管内調査機器と前記挿入回収装置を制御すると共に調査データをモニターするための制御及び監視装置とを備えて、前記挿入回収装置を使用して枝管側から本管に前記管内調査機器を挿入して本管内部を調査し、調査後に、前記挿入回収装置を使用して本管から枝管側に前記管内調査機器を回収する管内調査システムにおいて、前記管内調査機器に、上記の水中航走体を用いるように構成される。
【0019】
ここでいう水道本管とは、水の供給元(浄水場等)と利用先の間にある配管のことをいい、枝管とは、本管から上方に分岐する管で、上方に空気弁、消化栓などを取り付ける管のことをいう。
【0020】
この管内調査システムによれば、管内調査機器のトリムの姿勢制御と上昇・下降の制御を、航走用推進力の増減で行うので、管内調査機器としての水中航走体に、姿勢制御用のスラスタ(推力発生装置)や姿勢制御用のフィン等を設けることが不要になるため、その分の機器の重量と、駆動のための電力が不要になり、管内調査機器を小型化及び軽量化できる。
【0021】
また、管内調査機器側における消費電力が少なくなるので、その分、管内調査機器が曳航する水中ケーブルを細くすることができる。また、水中ケーブルの細線化により、管内調査機器の姿勢、上昇移動及び下降移動への水中ケーブルの影響を小さくできる。
【0022】
上記の目的を達成するための水中航走体の上昇及び下降制御方法は、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走用推進器により航走する水中航走体の上昇及び下降制御方法において、前記水中ケーブルの接続点を前記航走用推進器の推進軸の軸線から上下方向に関して距離を置いて設けるとともに、前記航走用推進器が発生する推進力によって発生する前記接続点回りの第1モーメントと、該水中航走体の水中重量の沈下力又は浮上力によって発生する前記接続点回りの第2モーメントとが、前記推進力が予め設定した設定推進力であるときに等しくなるように、前記水中重量の沈下力又は浮上力を設定し、該水中航走体の上昇又は下降の制御を、前記推進力の増減によって行うことを特徴とする方法である。
【0023】
この方法によれば、航走用推進器が発生する推進力を設定推進力より大きくすると、推進力による接続点回りの第1モーメントが第2モーメントよりも大きくなるので、水中航走体の前方を、水中重量を重くした場合には上方に向けるモーメントが発生し、軽くした場合には下方に向けるモーメントが発生する。また、航走用推進器が発生する推進力を設定推進力より小さくすると、逆方向に向けるモーメントを発生させることができる。また、このモーメントにより、水中航走体の前方が上方を向くように姿勢が変わることにより、結果として、水中航走体は上昇し、水中航走体の前方が下方を向くように姿勢が変わることにより、結果として、水中航走体は下降する。従って、水中航走体のトリム方向の姿勢制御及び上昇と下降の制御を、航走用推進器の推進力の増減によるという非常に簡単な制御で行うことができるようになる。
【0024】
そして、上記の目的を達成するための管内調査方法は、水中ケーブルを曳航しながら管内を調査する管内調査機器と、この管内調査機器を枝管側と本管の間を移動させるための挿入回収装置と、前記管内調査機器と前記挿入回収装置を制御すると共に調査データをモニターするための制御及び監視装置とを備えた管内調査システムで、前記挿入回収装置を使用して枝管側から本管に前記管内調査機器を挿入して本管内部を調査し、調査後に、前記挿入回収装置を使用して本管から枝管側に前記管内調査機器を回収する管内調査方法において、前記管内調査機器の上昇又は下降の制御に、上記の水中航走体の上昇及び下降制御方法を用いることを特徴とする方法である。
【0025】
この管内調査方法によれば、管内調査機器の上昇・下降(浮沈)の制御を、スラスタやフィンや舵を使用せずに、航走用推進力の増減のみで行うので、管内調査機器としての水中航走体は、スラスタ等が不要になるため、その分の機器の重量と、駆動のための電力が不要になり、管内調査機器を小型化及び軽量化できる。
【0026】
また、消費電力が少なくなるので、その分、水中ケーブルを細くすることができる。また、水中ケーブルの細線化により、管内調査機器の姿勢、上昇移動及び下降移動への影響を小さくできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の、水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び、管内調査方法によれば、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走する水中航走体、及び、この水中航走体の支援システムの小型化と軽量化と制御の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】水中航走体(管内調査機器)の平面図である。
【図2】水中航走体(管内調査機器)の側断面図である。
【図3】水中航走体(管内調査機器)の正面図である。
【図4】水中航走体(管内調査機器)の背面図である。
【図5】第1の実施の形態の水中航走体のモーメントバランスと水平姿勢を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図6】図5の水中航走体のモーメントバランスと前方上向き姿勢の関係を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図7】図5の水中航走体のモーメントバランスと前方下向き姿勢の関係を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図8】第2の実施の形態の水中航走体のモーメントバランスと水平姿勢の関係を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図9】図8の水中航走体のモーメントバランスと前方上向き姿勢の関係を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図10】図8の水中航走体のモーメントバランスと前方下向き姿勢の関係を説明するための模式的な水中航走体(管内調査機器)の側面図である。
【図11】水中航走体の上昇を説明するための図である。
【図12】水中航走体の下降を説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態における水道管内調査システムの構成を示す図である。
【図14】管内調査機器へのケーブル繰り出し機構を示す挿入回収装置の構成を示す正面断面図である。
【図15】管内調査機器へのケーブル繰り出し機構を示す挿入回収装置の構成を示す側断面図である。
【図16】格納部材が挿入管内にある状態での格納部材の後部及び挿入ロッド先端部を示す図である。
【図17】格納部材が水道本管内にある状態での格納部材の後部及び挿入ロッド先端を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明に係る水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び、管内調査方法の実施の形態について説明する。ここでは、水道本管を調査する管内調査システムとこの管内調査システムで使用する水中航走体を例にして説明する。
【0030】
しかしながら、本発明はこの説明に用いた水中航走体や管内調査システムに限定されず、原子炉関連や化学工場関連等における、ケーブルを曳航しながら管内調査機器が管内を調査する場合の管内調査システム及び管内調査方法に適用できる。また、水中航走体及び水中航走体の姿勢制御方法は、管内のみならず、原子力施設の危険区域の狭水路等のクローズドエリア(閉鎖領域)、更には、湖沼や河川等の水域や、沿岸や遠洋等の海域等のオープンエリア(解放領域)を航走する水中航走体、海中航走体等にも適用できる。
【0031】
図1〜図4に示すように、本発明に係る水中航走体は、水中点検ロボット等と呼ばれる管内調査機器として使用される水中航走体20であり、本体21の後部に航走用推進器(スラスタ)22を備え、本体21の前部に4つの姿勢安定用フィン(固定フィン)23を備えている。
【0032】
また、側方を向いた側方カメラ(観察用のテレビカメラ)24とカメラ用の側方照明灯(LED照明灯)25を透明のアクリル容器内に備えている。この側方カメラ24は、側方カメラフォーカス機構24aと側方カメラ旋回装置24bにより、焦点と視野を変更できる。また、側方カメラ24に関係する機器の制御や航走用推進器22を駆動するモーター26の制御等のための制御基板27を備えている。
【0033】
この管内調査機器20の航走用推進器22の駆動源であるモーター26、側方カメラフォーカス機構24aや側方カメラ旋回装置24b等の駆動用の動力、これらの操縦用の信号、及び、側方カメラ24で得られた映像データの信号は、本体21の後部に連結されている第1水中ケーブル42経由で送受信する。
【0034】
そして、本発明の第1の実施の形態の水中航走体20においては、図5に示すように、水中ケーブル42の接続点Pを航走用推進器22の推進軸の軸線Cから上方向に距離Hを置いて設ける。それとともに、航走用推進器22が発生する推進力Tが予め設定した設定推進力T0を発生しているときに、この設定推進力T0によって発生する接続点P回りの第1モーメントM1と、重量Wと浮力Fの差である水中重量Wtの沈下力Wtによって発生する接続点P回りの第2モーメントM2とが等しくなるように、水中航走体20の水中重量Wtを設定する。
【0035】
つまり、従来技術における水中航走体では、浮力Fと重力Wが等しくなる中性浮力Wt=W−F=0)になるように調整されるが、この第1の実施の形態の水中航走体20の構成では、中性浮力よりも重くして静止状態では沈下力Wtが作用するように、即ち、Wt=W−F>0になるように、水中航走体20の重量Wと浮力F、即ち、水中重量Wtを設定する。
【0036】
それと共に、更に、この沈下力Wtによって発生する接続点P回りの第2モーメントM2が、航走用推進器22が発生する推進力Tが予め設定した設定推進力T0を発生しているときの接続点P回りの第1モーメントM1と同じ(M1=T0×H=Wt×L=M2)になるように設定する。ここでLは、水中重量Wtの中心と接続点Pとの水平方向の距離である。これにより、設定推進力T0を発生しているときには、両モーメントが釣り合い、水中航走体20のトリム姿勢を変化させるモーメント(トリムモーメント)は発生しない。
【0037】
この設定により、図6に示すように、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0より大きくすると(T>T0)、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2よりも大きくなるので(M1>M2)、水中航走体20の前方を上方に向けるモーメントが発生し、水中航走体22の前方を上方に向ける(傾斜角α)。その結果、図11に示すように、水中航走体20は上昇する。
【0038】
また、図7に示すように、航走用推進器22が発生する推進力Tを予め設定した設定推進力T0より小さくすると(T<T0)、この推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2よりも小さくなるので(M1<M2)、水中航走体22の前方を下方に向けるモーメントが発生し、水中航走体22の前方を下方に向ける(傾斜角β)。その結果、図12に示すように、水中航走体20は下降する。
【0039】
そして、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0にすると(T=T0)、この推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2と等しくなるので(M1=M2)、水中航走体20のトリムモーメントはゼロとなる。図5に示すように水中航走体20を水平姿勢にしてトリムモーメントゼロの状態で航走用推進器22の推進力Tにより前進すると、水中航走体20は上昇も下降もせずに、水平方向に前進する。
【0040】
従って、水中航走体20の上昇・下降の制御を、航走用推進器22の推進力Tの増減によるという非常に簡単な制御で行うことができるようになる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施の形態の水中航走体20においては、図8に示すように、水中ケーブル42の接続点Pを航走用推進器22の推進軸の軸線Cから下方向に距離H置いて設ける。それとともに、航走用推進器22が発生する推進力Tが予め設定した設定推進力T0を発生しているときに、この設定推進力T0によって発生する接続点P回りの第1モーメントM1と、浮力(F)と重量(W)の差である水中重量Wt(=W−F<0)の浮上力(Ft=F−W=−Wt>0)によって発生する接続点P回りの第2モーメントM2とが等しくなるように、水中航走体20の浮上力Ftを設定する。
【0042】
つまり、従来技術における水中航走体では、浮力Fと重力Wが等しくなる中性浮力Wt=W−F=0に調整されるが、この第2の実施の形態の水中航走体20の構成では、中性浮力よりも軽くして静止状態では浮上るように、即ち、浮上力(Ft=F−W>0)があるように水中航走体20の重量Wと浮力Fを設定する。
【0043】
それと共に、更に、この浮上力Ftが発生する接続点P回りの第2モーメントM2が、航走用推進器22が発生する推進力Tが設定推進力T0を発生しているときの接続点P回りの第1モーメントM1と同じ(M1=T0×H=Ft×L=M2)になるように設定する。ここでLは水中における浮上力Ftの中心と接続点Pとの水平方向の距離である。これにより、設定推進力T0を発生しているときには、両モーメントが釣り合い、水中航走体20のトリム姿勢を変化させるモーメント(トリムモーメント)は作用しない。
【0044】
この設定により、図9に示すように、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0より大きくすると(T>T0)、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2よりも大きくなるので(M1>M2)、水中航走体20の前方を下方に向けるモーメントが発生し、水中航走体20の前方を下方に向ける(傾斜角β)。その結果、図12に示すように、水中航走体20は下降する。
【0045】
また、図10に示すように、航走用推進器22が発生する推進力Tを予め設定した設定推進力T0より小さくすると(T<T0)、この推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2よりも小さくなるので(M1<M2)、水中航走体20の前方を上方に向けるモーメントが発生し、水中航走体20の前方を上方に向ける(傾斜角α)。その結果、図10に示すように、水中航走体20は上昇する。
【0046】
そして、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0にすると(T=T0)、この推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1が第2モーメントM2と等しくなるので(M1=M2)、図8に示すように水中航走体20のトリムモーメントはゼロとなる。この水中航走体20を水平姿勢にしてトリムモーメントゼロの状態で航走用推進器22の推進力Tにより前進すると、水中航走体20は上昇も下降もせずに、水平方向に前進する。
【0047】
従って、水中航走体20の上昇・下降の制御を、航走用推進器22の推進力Tの増減によるという非常に簡単な制御で行うことができるようになる。
【0048】
上記の第1及び第2の実施の形態の水中航走体20によれば、水中航走体20の上昇・下降の制御を、航走用推進器22の推進力Tの増減によるという非常に簡単な制御で行うことができるようになる。
【0049】
この第1及び第2の実施の形態の水中航走体20では、スラスタ(推力発生装置)やフィン等が不要になるため、その分の機器の重量と、駆動のための電力が不要になり、小型化及び軽量化できる。また、水中航走体20側における消費電力が少なくなるので、その分、曳航する水中ケーブル42を細くすることができる。また、この水中ケーブル42の細線化により、水中航走体20の上昇移動及び下降移動への水中ケーブル42の影響を小さくすることができる。
【0050】
次に、上記の第1及び第2の実施の形態の水中航走体20を管内調査機器に用いた、本発明に係る水道管内調査システム(以下、管内調査システムという)について説明する。図13〜図15に示すように、この管内調査システム1は、水道本管10を断水させずに、300m〜1000m程度の長い距離にわたって、水中航走体(以下、管内調査機器という)20を使用して、水道本管10の内部の状況や腐食の状況や継ぎ手11部分のずれ等を調査するシステムである。
【0051】
この管内調査システム1は、第1水中ケーブル(水中ケーブル)42を曳航しながら水道本管10内(管内)を調査する管内調査機器20と、この管内調査機器20を枝管側と本管10の間を移動させるための挿入回収装置30と、管内調査機器20と挿入回収装置30を制御すると共に調査データをモニターするための制御及び監視装置50とを備えて、挿入回収装置30を使用して枝管側から本管10に管内調査機器20を挿入して本管10内部を調査し、調査後に、挿入回収装置30を使用して本管10から枝管側に管内調査機器20を回収する調査システム1である。
【0052】
管内調査機器20と制御及び監視装置50の間の操縦及び制御用信号、動力、データ等の送受信は第1接続ケーブル41と第1水中ケーブル42を介して行い、挿入回収装置30と制御及び監視装置50の間の操縦及び制御信号、動力の送受信は第2接続ケーブル43と第2水中ケーブル44を介して行う。これらのケーブル41、42、43、44は、電気信号と電力の複合ケーブルで形成される。
【0053】
図13〜図15に示すように、挿入回収装置30は、水道を止めない状態、即ち、断水しない状態(不断水状態)のままで、管内調査機器20を水道本管10の内部に挿入して送り出しを行い、調査後に、管内調査機器20を回収するための装置である。この挿入回収装置30は、挿入管31とその上部に接続する巻き取り装置格納部材32とから構成され、挿入管31の下部は、水道本管10の分岐部位の補修弁14の上に着脱できるように下部フランジ31aを有し、上部は巻き取り装置格納部材32に接続する上部フランジ31bを有して形成される。また、挿入管31の下部側に水抜き用のコック31cと覗き窓31d(透明アクリル板)を設けてある。
【0054】
巻き取り装置格納部材32は、水道本管10の水圧に耐えることができる水密(液密)区画の第1ケース32aと非水密区画の第2ケース32bを有して構成され、更に、第1ケース32aの上部には、挿入ロッド36が出入りするロッド挿入部32cと第2接続ケーブル43と第2水中ケーブル44の接続部となる第2防水コネクタ32dが設けられ、第1ケース32aの下部には、第1水中ケーブル42を案内するガイドローラー32eが設けられる。
【0055】
この挿入ロッド36は、格納部材34を挿入管31から水道本管10内に移動させ、また、逆に水道本管10内から挿入管31に移動させるために、格納部材34を上下させるためのロッドであり、上部にレバー36aを有している。このレバー36aを手動で上下移動操作することにより挿入ロッド36を上下移動する。
【0056】
更に、巻き取り装置格納部材32には、第1水中ケーブル42の繰り出しと巻き取りを行う巻き取り装置33が設けられる。この巻き取り装置33は、非水密区画の第2ケース32b内部の巻上げ用モーター33bによる回転軸33cの回転により、第1ケース32a内のケーブルドラム33aの回転と、この回転に同期したケーブルシフター33dのガイドローラー33eの横移動を行いながら、第1水中ケーブル42を巻き取る。また、ケーブルドラム33aの回転をフリーにすることにより、第1水中ケーブル42を、格納部材34の後部に設けた繰り出しローラー34aの繰り出しと管内調査機器20の移動に従って繰り出す。
【0057】
また、回転メータ33fによりケーブルドラム33aの回転を検出して制御に使用する。第1水中ケーブル42からの電気信号と動力はスリップリング33gを経由して第1コネクタ33hに導かれる。水密区画の第1ケース32aは、ケーブルドラム33aの回転軸部分33cで水密にされ、水密区画となる。なお、第2ケース32bは非水密区画である。
【0058】
そして、挿入回収装置30の挿入管31に、管内調査機器20を格納する格納部材34を配置し、この格納部材34の後方に、管内調査機器20に連結する第1水中ケーブル42を繰り出すための繰り出しローラー(繰り出し装置)34aを設けて構成する。この繰り出しローラー34aは、このローラーの少なくとも一方の回転により間に挟み込んだケーブルを移動させて繰り出す。この繰り出しローラー34aは、挿入ロッド先端部35に設けられた繰り出しローラー用モーター(駆動装置)35aからフレキシブルジョイントを有する回転軸やフレキシブルな回転軸35b等によって回転を伝達されて駆動される。
【0059】
この繰り出しローラー用モーター35aへの制御信号と動力の伝達のために、第2水中ケーブル44が設けられ、この第2水中ケーブル44で、第2防水コネクタ32dと繰り出しローラー用モーター35aを連結する。この第2水中ケーブル44は、挿入ロッド先端部35の上下動にしたがって伸縮するように、カールコード等で形成される。
【0060】
また、繰り出しローラー34aは、格納部材34が水道本管10に入って、水道本管10の管軸に略平行な状態になったときに、繰り出しローラー34aの軸方向が上下方向になるように配置すると、第1水中ケーブル42の上側にローラーを配置する必要が無くなり、小型化できるので、格納部材34と管内調査機器20のレイアウト上好ましい。また、回転伝動部であるフレキシブルな回転軸35bは屈曲部材34bの曲げに関して外側になるように設けて、屈曲部材34bの曲げのための機構や第1水中ケーブル42の通しに支障が生じないようにすることが好ましい。
【0061】
この構成によれば、水道本管10の調査において、水道本管10に挿入される管内調査機器20に連結された第1水中ケーブル42を繰り出す際に、この繰り出しローラー34aにより挿入管31内の第1水中ケーブル42を引っ張るので、挿入管31内の第1水中ケーブル42に張力を加えた状態で繰り出すことができ、挿入管31内における第1水中ケーブル42の蛇行を防止することができる。
【0062】
また、格納部材34はその後部が、屈曲部材(ケーブルベア(登録商標))34bで挿入ロッド先端部35に接続し、この挿入ロッド先端部35は、挿入ロッド36の下端に固定されて、挿入ロッド36の上下動と共に、挿入管31の内部を上下動する。挿入ロッド36が上端にあるときは、図14及び図15に示すように、格納部材34は管内調査機器20を内部に格納した状態で、挿入管31の下端側の内部にあり、挿入ロッド先端部35もその上にある。一方、挿入ロッド36が下端にあるときは、図13に示すように、格納部材34は挿入管31から押し出されて水道本管10の中にあり、挿入ロッド先端部35は挿入管31の下端側の内部にある。
【0063】
図16及び図17に示すように、この挿入ロッド先端部35と格納部材34を連結する屈曲部材34bは、格納部材34が挿入管31の管軸方向と水道本管10の管軸方向の両方を向くことができるようにする部分であり、複数の関節を有して構成される。この関節は、両側の関節要素部材をピン結合部で連結し、隣接する関節要素部材が相対的にピン結合部回りに所定の角度θ分だけ回動できるように構成する。
この屈曲部材34bを関節で形成することにより、曲がり方向や曲がりの前後の形状を固定することができるので、格納部材34を移動させる時に揺れや振動が少なくなる。また、関節を複数にすることにより、屈曲部材34bの曲がりを滑らかにすることができ、水道本管10内の流れが大きい場合でも曲がり易く、また、直線状態に戻り易くなる。
【0064】
制御及び監視装置50は、図13に示すように、管内調査機器20や挿入回収装置30の操縦及び制御を行う操縦装置51、TVモニター52、映像記録装置53、電源制御装置54等を制御装置ラック55に設けて構成される。なお、この操縦装置51は有線又は無線で操作員の手元で操作できるように構成される。
【0065】
第1接続ケーブル41で、制御及び監視装置50と挿入回収装置30の巻き取り装置の信号取り出し部である第1コネクタ33hとの間の大気中部分を接続し、第1水中ケーブル42で、第1コネクタ33hと管内調査機器20との間を接続して、制御信号、動力、映像データ等を伝達する。また、第2接続ケーブル43で、水中制御及び監視装置50と挿入回収装置30の第2防水コネクタ32dとを接続し、第2水中ケーブル44で、第2防水コネクタ32dと繰り出しローラー用モーター35aとの間を接続して、制御信号と動力を伝達する。
【0066】
次に、上記の水道管内調査システム1の管内調査方法について説明する。図13に示すように、水道本管10の調査にあたっては、マンホールの蓋13を外して、補修弁14を外した後、マンホール12に設定されている消火栓または空気弁(図示しない)を取り外す。そして、補修弁14の上に挿入回収装置30を取り付けて、補修弁14を開く。
【0067】
その後、挿入ロッド36を下側に押し下げて、挿入回収装置30の挿入管31から管内調査機器20を水道本管10内に送り出す。この送り出しは、挿入管31に挿入されていた格納部材34を、管内調査機器20を内部に格納した状態で、水道本管10内に挿入すると、格納部材34は、水道本管10内の水流によって水道本管10の管軸方向に向けられて水流と略平行の状態となる。この状態では、格納部材34と挿入ロッド先端部35との間を連結する屈曲部材34bは略直角に曲がっている。なお、水流が無い時は、屈曲部材34bを強制的に曲げる。
【0068】
格納部材34が水道本管10の管軸方向と略平行な状態になったら、ケーブルドラム33aの回転をフリーにして、繰り出しローラー34aを回転駆動して、第1水中ケーブル42を繰り出す。水流が大きい時は、管内調査機器20は流されて、第1水中ケーブル42の繰り出し量に応じた位置に到達し、水流が小さいときは管内調査機器20に設けられているモーター27で航走用推進器22を回転して推進力を発生し、この推進力により、第1水中ケーブル42の繰り出し量に応じた位置に到達する。
【0069】
この第1水中ケーブル42を繰り出す際に、格納部材34の後部に設けた繰り出しローラー34aにより、管内調査機器20に連結する第1水中ケーブル42を繰り出すことができ、挿入管31内の第1水中ケーブル42を引張力(テンション)を掛けた状態で繰り出すことができる。
【0070】
この第1水中ケーブル42の繰り出し量により、管内調査機器20を水道本管10の任意の調査位置に移動させて、水道本管10の内壁や継ぎ手11等を、カメラフォーカス機構24aとカメラ旋回装置24bの制御で側方カメラ25焦点の調整と視野の変更を行いながら、側方照明灯26の照明のもとで、側方カメラ25で撮影する。地上では、操作員が地上に設置した制御及び監視装置50のTVモニター52で、水道本管10内の映像を見て、管内調査機器20を操縦しながら、観察し、映像を記録する。
【0071】
この水道本管10内の観察及び映像の記録の最中は、航走用推進器22を常時作動状態にして推進力Tを発生させ、曳航している水中ケーブル42に張力が常に作用している状態とし、前進移動する際は水中ケーブル42を繰り出し、後退する際は水中ケーブル42を引き戻す。この観察及び映像の記録の最中に、管内調査機器20を上昇又は下降させる場合には、航走用推進器22の推進力Tの増減により、管内調査機器20の上昇と下降の制御を行う。
【0072】
つまり、水中重量を重くし、沈下力が発生する第1の実施の形態の管内調査機器20を上昇させたいときは、航走用推進器22が発生する推進力Tを予め設定した設定推進力T0より大きくする。これにより、図6に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2よりも大きくして、管内調査機器20の前方を上方に向ける。その結果、図11に示すように、管内調査機器20は上昇する。
【0073】
また、下降させたいときは、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0より小さくする。これにより、図7に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2よりも小さくして、管内調査機器20の前方を下方に向ける。その結果、図12に示すように、管内調査機器20は下降する。
【0074】
また、水平移動させたい場合には、管内調査機器20の姿勢を水平状態にした後に、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0とする。これにより、図5に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2と同じにして、管内調査機器20を水平に維持する。この状態で前進させると、管内調査機器20は水平方向に移動する。
【0075】
また、水中重量を軽くし、浮上力が発生する第2の実施の形態の管内調査機器20を上昇させたいときは、航走用推進器22が発生する推進力Tを予め設定した設定推進力T0より小さくする。これにより、図10に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2よりも小さくして、管内調査機器20の前方を上方に向ける。その結果、図11に示すように、管内調査機器20は上昇する。
【0076】
また、下降させたいときは、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0より大きくする。これにより、図9に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2よりも大きくして、管内調査機器20の前方を下方に向ける。その結果、図12に示すように、管内調査機器20は下降する。
【0077】
また、水平移動させたい場合には、管内調査機器20の姿勢を水平状態にした後に、航走用推進器22が発生する推進力Tを設定推進力T0とする。これにより、図8に示すように、推進力Tによる接続点P回りの第1モーメントM1を第2モーメントM2と同じにして、管内調査機器20を水平に維持する。この状態で前進させると、管内調査機器20は水平方向に移動する。
【0078】
この推進力Tの増減はTVモニター52を見ている操作員が側方カメラ25からの映像を見ながら、管内調査機器20の移動方向を目視しながら操縦装置51を操作して行ってもよいが、上昇と水平と下降の指示により、操縦装置51が推進力Tの増減を行うようにしてもよく、傾斜センサの出力を用いてフィードバック制御するようにしたり、あるいは、上昇量と下降量を入力することで、操縦装置51が、それに見合った推進力Tの増減を自動的に行ったり、深度計の出力を用いてフィードバック制御するようにしたりしてもよい。
【0079】
調査が終了すると、繰り出しローラー34aをフリーにして、ケーブルドラム33aを回転して第1水中ケーブル42を巻き取る。この巻き取りにより第1水中ケーブル42の先端に接続している管内調査機器20を引っ張り込んで格納部材34内に格納する。この格納時点でケーブルドラム33aの回転を停止する。この後、ケーブルドラム33aを回転しながら、挿入ロッド36を上昇させて、管内調査機器20を格納した格納部材34を、挿入管31に引き込む。このとき、屈曲部材34bは曲がっていた状態から真直ぐになって、挿入管31内に引き込まれる。
【0080】
挿入ロッド36が上端に達した状態では、格納部材34は、完全に挿入管31内に入るので、補修弁14を閉じて、水抜き用のコック31cを開けて、挿入回収装置30内の水を抜いた後に、挿入回収装置30を取り外す。その後、消火栓または空気弁(図示しない)を元通りに設置してから、補修弁14の開閉状態を調査開始前の元通りにする。その後、マンホールの蓋13を閉めて調査を終了する。
【0081】
上記の水道本管調査システム(管内調査システム)1及び管内調査方法によれば、管内調査機器20の上昇及び下降制御を、航走用推進力Tの増減で行い、スラスタやフィンを使用せずに行うので、管内調査機器20に姿勢制御用の推力発生装置や姿勢制御用のフィン等が不要になるため、その分の機器の重量と、駆動のための電力が不要になり、管内調査機器20を小型化及び軽量化できる。
【0082】
また、管内調査機器20側における消費電力が少なくなるので、その分、水中ケーブル42を細くすることができる。また、水中ケーブル42の細線化により、管内調査機器20の姿勢、上昇移動及び下降移動への水中ケーブル42の影響を小さくできる。従って、水道管内調査システムの小型化と軽量化と制御の簡略化を図ることができる。
【0083】
また、水道本管10に投入され、第1水中ケーブル42を曳航しながら水道本管10内の調査を行う管内調査機器20において、容易に上昇及び降下の制御を行うことができるので、管内調査機器20の撮影に際して、管内調査機器20を水道本管10内の中央に置いて、管内調査機器20の方向を水道本管10の管軸方向に合わせて直角方向から撮影することが容易にできるようになる。その結果、歪みの少ない映像データを得ることができる。また、管内調査機器20の姿勢を水平状態に維持することも容易にできるようになるので、角度(位置)の誤差の少ない映像データを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び、管内調査方法は、上記のように、水中航走体とこの水中航走体の支援システムの小型化と制御の簡単化を図ることができるので、水中ケーブルを曳航しながら水中を航走する水中航走体、管内調査システム、水中航走体の上昇及び下降制御方法、及び、管内調査方法として利用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 水道管内調査システム
10 水道本管
14 補修弁
20 管内調査機器
21 本体
22 航走用推進器(スラスタ)
23 安定フィン(固定フィン)
24 側方カメラ
30 挿入回収装置
31 挿入管
32 巻き取り装置格納部材
33 巻き取り装置
34 格納部材
41 第1接続ケーブル
42 第1水中ケーブル(水中ケーブル)
43 第2接続ケーブル
44 第2水中ケーブル
50 制御及び監視装置
51 操縦装置
F 浮力
Ft 浮上力
H 上下方向の距離
L 水中重量の沈下力又は浮上力の中心と接続点との水平距離
M1 第1モーメント
M2 第2モーメント
P ケーブルの接続点
T 推進力
T0 設定推進力
W 重量
Wt 水中重量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ケーブルを曳航しながら水中を航走用推進器により航走する水中航走体において、 前記水中ケーブルの接続点を前記航走用推進器の推進軸の軸線から上下方向に関して距離を置いて設けるとともに、
前記航走用推進器が発生する推進力によって発生する前記接続点回りの第1モーメントと、該水中航走体の水中重量の沈下力又は浮上力によって発生する前記接続点回りの第2モーメントとが、前記推進力が予め設定した設定推進力であるときに等しくなるように、前記水中重量の沈下力又は浮上力を設定し、
該水中航走体の上昇又は下降の制御を、前記推進力の増減によって行うことを特徴とする水中航走体。
【請求項2】
水中ケーブルを曳航しながら管内を調査する管内調査機器と、この管内調査機器を枝管側と本管の間を移動させるための挿入回収装置と、前記管内調査機器と前記挿入回収装置を制御すると共に調査データをモニターするための制御及び監視装置とを備えて、前記挿入回収装置を使用して枝管側から本管に前記管内調査機器を挿入して本管内部を調査し、調査後に、前記挿入回収装置を使用して本管から枝管側に前記管内調査機器を回収する管内調査システムにおいて、前記管内調査機器に、請求項1記載の水中航走体を用いることを特徴とする管内調査システム。
【請求項3】
水中ケーブルを曳航しながら水中を航走用推進器により航走する水中航走体の上昇及び下降制御方法において、
前記水中ケーブルの接続点を前記航走用推進器の推進軸の軸線から上下方向に関して距離を置いて設けるとともに、
前記航走用推進器が発生する推進力によって発生する前記接続点回りの第1モーメントと、該水中航走体の水中重量の沈下力又は浮上力によって発生する前記接続点回りの第2モーメントとが、前記推進力が予め設定した設定推進力であるときに等しくなるように、前記水中重量の沈下力又は浮上力を設定し、
該水中航走体の上昇又は下降の制御を、前記推進力の増減によって行うことを特徴とする水中航走体の上昇及び下降制御方法。
【請求項4】
水中ケーブルを曳航しながら管内を調査する管内調査機器と、この管内調査機器を枝管側と本管の間を移動させるための挿入回収装置と、前記管内調査機器と前記挿入回収装置を制御すると共に調査データをモニターするための制御及び監視装置とを備えた管内調査システムで、前記挿入回収装置を使用して枝管側から本管に前記管内調査機器を挿入して本管内部を調査し、調査後に、前記挿入回収装置を使用して本管から枝管側に前記管内調査機器を回収する管内調査方法において、
前記管内調査機器の姿勢制御に、請求項3記載の水中航走体の上昇及び下降制御方法を用いることを特徴とする管内調査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−66680(P2012−66680A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212697(P2010−212697)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】