説明

水処理剤および水処理方法

【課題】ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる水処理剤およびこの水処理剤を用いる水処理方法を提供する。
【解決手段】水を主成分とし、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とにより前記水に配合した水処理剤を構成し、この水処理剤をボイラ給水に注入してボイラ水管の伝熱面の腐食防止とスケール抑制とをバランスよく行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理剤および水処理方法に係り、特にボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる水処理剤およびこの水処理剤を用いる水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラは、加熱用、発電用などのエネルギー供給設備として幅広く使用され、蒸気を生成する装置である。ボイラで蒸気を発生させる水管の内側表面部(ボイラ水管の伝熱面)は高温高圧の環境にあり、この伝熱面にはボイラへ供給された水(ボイラ給水)に含まれているカルシウムなどの成分がスケールとして付着(スケーリング)したり、ボイラ給水によって腐食したりする。スケールが伝熱面に付着すると、このスケールによって熱の伝達が妨げられ、ボイラ効率等の伝熱特性が低下する。また、伝熱面が腐食すると、この腐食によってボイラ水管が破損し、このボイラ水管の破損によってはボイラの運転を停止する場合がある。
【0003】
そこで、従来は、このボイラ水管の伝熱面におけるスケーリングや腐食を防止(抑制)するために、スケール抑制剤、pH調整剤などの薬剤が水処理剤としてボイラ給水に添加されていた。しかし、従来の水処理剤は、ボイラ水管の伝熱面のスケーリング防止や腐食の防止のために個別的に用いられており、ボイラ水管の伝熱面のスケーリング防止と腐食防止とを同時にバランスよく行うことがむずかしかった。すなわち、伝熱面のスケーリング防止を目的に水処理剤をボイラ給水に添加すると、伝熱面のスケーリングを防止することができても水管の伝熱面の腐食を防止することが充分ではなかった。一方、伝熱面の腐食防止を目的に水処理剤をボイラ給水に添加すると、伝熱面の腐食を防止することができても、伝熱面のスケーリングを防止することが充分ではなかった。
【0004】
そのため、伝熱面のスケーリング防止と腐食防止を同時にバランスよく行うことができる水処理剤として、水分の影響により生じる伝熱面の腐食およびスケールの生成を抑制するために、シリカとpH調整剤と、スケール抑制剤とを含んでいるもので構成されている水処理剤が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−159597号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水処理剤は、ボイラ水管の伝熱面の腐食を防止するために、シリカ成分とpH調整剤によって、伝熱面に腐食防止用のシリカ層と鉄水酸化物層(たとえば、オキシ水酸化鉄)を形成している。しかし、伝熱面に形成されたシリカ層と鉄水酸化物層の厚さが不充分であると、防食作用が発揮されないため、伝熱面に腐食が生じてしまう場合がある。そして、この腐食生成物によって伝熱面が被覆されると、腐食生成物の熱伝導率が小さいため、ボイラの伝熱特性が悪くなるという問題がある。また、このシリカ層と鉄水酸化物層が伝熱面全体を略均一に被覆することができない場合には、伝熱面に局部腐食(孔食)を生じてしまうことがある。伝熱面が局部腐食されると、ボイラ水管を貫通する孔があく場合があり、この孔からボイラの炉内へ水漏れが生じるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる水処理剤およびこの水処理剤を用いる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので,請求項1の発明は、水を主成分とし、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とが前記水に配合されていることを特徴としている。この構成により、ボイラ水管の伝熱面に腐食を抑制できる皮膜が皮膜形成剤により形成され、ボイラ給水中の溶存酸素は脱酸素剤により除去され、さらにボイラ水管の伝熱面のスケーリングはスケール抑制剤で防止され、ボイラ給水のpHはpH調整される。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の皮膜形成剤が、シリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸塩、ポリケイ酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴としている。この構成により、ボイラ水管の伝熱面に腐食を抑制できる皮膜がシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸塩、ポリケイ酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上から形成される。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の脱酸素剤が、ビタミンCおよびその塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸およびその塩、亜硫酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴としている。ここで、脱酸素剤にビタミンCおよびその塩などが用いられるのは、強い還元力によりボイラ給水に溶存している酸素を除去することができ、ヒドラジンのような毒性もないからである。溶存酸素が除去されたボイラ給水はボイラ水管の伝熱面に対し、腐食作用が小さくなる。この構成により、ボイラ給水中の溶存酸素はビタミンCおよびその塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸およびその塩、亜硫酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなる脱酸素剤により除去される。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1,2又は3に記載のスケール抑制剤が、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリアクリル酸およびその塩、ポリマレイン酸およびその塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴としている。ここで、スケール抑制剤が用いられるのは、ボイラ水管の伝熱面に対しスケールが付着する(スケーリング)のを防ぐことができるからである。すなわち、このスケール抑制剤にクエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩が用いられた場合には、ボイラ給水に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオンは、このスケール抑制剤によってキレート化され、ボイラ水管の伝熱面に対しスケールとして付着することができなくなる。また、このスケール抑制剤にポリアクリル酸、ポリマレイン酸などが用いられた場合には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンによって形成されたスケールの結晶核の成長が妨げられ、ボイラ水管の伝熱面に対しスケールとして付着することができなくなる。この構成により、ボイラ水管の伝熱面のスケーリングはクエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリアクリル酸およびその塩、ポリマレイン酸およびその塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなるスケール抑制剤で防止される。
【0011】
さらに、請求項5の発明は、請求項1,2,3又は4に記載のpH調整剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴としている。ここで、このpH調整剤が用いられるのは、ボイラ水管の伝熱面の腐食を防止するために、ボイラ給水のpHをアルカリ側へ調整するためである。この構成により、ボイラ給水のpHは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のうちの少なくとも1種又は2種以上からなるpH調整剤によりpH調整される。
【0012】
また、請求項6の発明は、請求項1,2,3,4又は5に記載の水処理剤を所定の濃度に調整する工程と、給水タンクに溶解しているシリカ濃度と溶存酸素量を検出する工程と、前記給水タンクへ供給される前記水処理剤の量を制御する工程とからなることを特徴としている。この構成により、ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量に変動が生じた場合、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とが配合され、所定の濃度に調整された水処理剤について、給水タンクへ供給する量を前記変動に対応して制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、ボイラ水管の伝熱面に腐食を抑制できる皮膜が皮膜形成剤であるシリカなどにより形成されるため、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食をより一層防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、ボイラ給水中の溶存酸素はビタミンCなどの毒性のない脱酸素剤により除去されるため、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食をさらに一層防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
請求項4に記載の発明によれば、ボイラ水管の伝熱面のスケーリングはスケール抑制剤であるエチレンジアミン四酢酸およびその塩などにより防止されるため、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、より一層優れた伝熱特性を得ることができる。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、ボイラ給水のpHは水酸化ナトリウムなどのpH調整剤によりpH調整されるので、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
また、請求項6に記載の発明によれば、ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量に変動が生じた場合でも、水処理剤を所定の濃度に調整し、この濃度調整された水処理剤の給水タンクへの供給量を前記変動に対応して制御することにより、ボイラ水管の伝熱面における全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、水を主成分とし、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とを前記水に配合する構成とすることによって実現される。
【0017】
この水処理剤の皮膜形成剤には、シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸塩、ポリケイ酸塩などの公知のものが少なくとも1種又は2種以上用いられる。この皮膜形成剤は、ボイラ水管の伝熱面に吸着されて皮膜を形成し、ボイラ水管の伝熱面をこの皮膜で被覆するものである。この皮膜形成剤によって形成された皮膜は、ボイラ水管の伝熱面を覆うことによりバリヤ層(遮蔽層)として働き、腐食に対する保護皮膜として作用するため、この保護皮膜によって被覆されたボイラ水管の伝熱面は、腐食が抑制される。
【0018】
また、この皮膜形成剤と共に用いられる脱酸素剤には、ビタミンCおよびその塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸およびその塩、亜硫酸塩などの公知のものが少なくとも1種又は2種以上用いられる。この脱酸素剤は、ヒドラジンのような毒性もなく、ボイラ給水に溶存している酸素を除去することができる。ボイラ給水に溶存している酸素は、酸化剤としてボイラ水管の伝熱面を腐食する作用がある。そのため、ボイラ給水に溶存している酸素が脱酸素剤によって除去されると、ボイラ給水中の酸化剤濃度は低くなるので、ボイラ水管の伝熱面における全面腐食が防止される。また、ボイラ給水に溶存している酸素が除去されると、ボイラ水管の伝熱面において酸素濃度の不均一性が小さくなるため、酸素濃淡電池が形成されにくくなり、ボイラ水管の伝熱面における局部腐食も防止される。ここで、本発明の実施形態に係る水処理剤によってボイラ水管の伝熱面の局部腐食が防止されることについて詳しく説明する。
【0019】
一般に、ボイラ水管の伝熱面に腐食を抑制できる皮膜が形成されると、このボイラ水管の伝熱面に用いられる材料(たとえば、炭素鋼)はボイラ給水によって腐食されにくくなる。このボイラ水管の伝熱面に形成されている皮膜は、たとえばシリカ成分が炭素鋼の表面に吸着されたり、オキシ水酸化鉄が炭素鋼の表面に形成されたものである。しかし、このボイラ水管の伝熱面の表面には、皮膜形成を阻害する要因によって皮膜の形成が不充分な部分(皮膜欠陥部分)が存在している場合がある。この皮膜形成を阻害するものには、ボイラ給水中に皮膜形成を阻害する塩素イオンの存在、炭素鋼に含まれている硫黄(硫化物)などの表面偏析による表面の不均一性、ボイラ水管内を流れているボイラ給水の流速が不均一なことによる皮膜形成剤の濃度の不均一性などいろいろな要因がある。この皮膜形成を阻害する要因があると、ボイラ水管の伝熱面の表面には、シリカ又は鉄水酸化物によって形成された皮膜部分(健全な皮膜部分)と、この皮膜の形成が不充分な部分(皮膜欠陥部分)とが存在し、健全な皮膜部分と皮膜欠陥部分で局部電池が形成され、局部腐食が起きる場合がある。
【0020】
ところで、一般に、隙間腐食や孔食等の局部腐食(金属表面の腐食が均一でなく、局部的に集中して生じる腐食をいう)は全面腐食(金属表面にほぼ均一に生じる腐食をいう)が起きにくい環境で生じやすいことが知られている。全面腐食は金属表面にほぼ均一に生じるため、金属表面が局部的に腐食されることはないのに対し、局部腐食は不動態皮膜や保護皮膜によって金属表面の腐食が全体的に抑制されている(健全な皮膜が形成されて全面腐食が抑制されている)場合に皮膜欠陥部分に起きやすい。これは、健全な皮膜部分と比べて皮膜欠陥部分が腐食されやすく、皮膜欠陥部分が局部的に集中して腐食されるからである。
【0021】
すなわち、この皮膜欠陥部分は、健全な皮膜部分との間で局部電池を形成し、この皮膜欠陥部分が局部電池のアノード電極(電池の負極、酸化反応が起こり、金属は溶解される、すなわち腐食される)となり、健全な皮膜部分が局部電池のカソード電極(電池の正極、還元反応が起こり、金属は溶解されない、すなわち腐食されない)となるからである。この局部電池は、酸素濃淡電池が形成されて、電池反応が進行する。酸素濃淡電池は、一般にカソードを形成する健全な皮膜部分とアノードを形成する皮膜欠陥部分の酸素量(濃度)の比が大きい(電池起電力が大きい)ほど腐食速度が大きいことが知られている。このことは、逆にいえば、健全な皮膜部分と皮膜欠陥部分の酸素量(濃度)の比を小さくすることができれば、皮膜欠陥部分による局部腐食を防止(抑制)することができることを意味している。
【0022】
本発明の水処理剤は、上記皮膜形成剤により形成されたボイラ水管の伝熱面の皮膜が何らかの原因で皮膜欠陥部分を形成しても、脱酸素剤によってボイラ給水中に溶存している酸素量(濃度)を減らして酸素濃淡電池を形成しがたくしているため、局部腐食を防止している。すなわち、ボイラ給水中に溶存している酸素量(濃度)が減ると、健全な皮膜部分の酸素量(濃度)の絶対量が減るため、健全な皮膜部分と皮膜欠陥部分との酸素量(濃度)の比が小さくなるので、酸素濃淡電池の起電力が小さくなり、局部腐食を防止することができる。
【0023】
また、本発明の水処理剤には、脱酸素剤のほかにスケール抑制剤が配合されている。このスケール抑制剤には、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸などの公知のものが少なくとも1種又は2種以上用いられる。スケール抑制剤にクエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩(EDTA−Na)が用いられた場合には、ボイラ給水に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオンは、このスケール抑制剤によってキレート化され、ボイラ水管の伝熱面に対してスケールが付着されにくくなる。また、スケール抑制剤にポリアクリル酸およびその塩、ポリマレイン酸およびその塩などが用いられた場合には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンによって形成されたスケールの結晶核の成長が妨げられ、ボイラ水管の伝熱面にはスケールが付着しにくくなる。このように、ボイラ水管の伝熱面にスケールが付着しにくくなると、ボイラは優れた伝熱特性を維持して運転することができる。
【0024】
さらに、この水処理剤にはpH調整剤が配合されている。pH調整剤には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などの公知のものが少なくとも1種又は2種以上用いられる。このpH調整剤は、ボイラ水管の伝熱面の腐食を防止するために、ボイラ給水のpHをアルカリ側へ調整するものである。
【0025】
ところで、本発明における皮膜形成剤、脱酸素剤、スケール抑制剤、pH調整剤は個別の薬剤として水に溶解させた形で供給することが可能であるが、水処理剤の投入(薬注)の手間を考えると、一液の製剤にすることが望ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る水処理剤の一実施例について、実施例1〜実施例3を挙げて、表1に基づいて詳しく説明する。
【表1】

【0027】
(1)実施例1
表1に示されている実施例1の水処理剤は、水処理剤全量100g当たり純水に皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤を所定量配合したものである。すなわち、実施例1の水処理剤は、皮膜形成剤にケイ酸ナトリウム(和光純薬、特級試薬)1.26gと、脱酸素剤にビタミンC(L-アスコルビン酸)(和光純薬、特級試薬)2.5gと、スケール抑制剤にEDTA−2Na(和光純薬、特級試薬)0.4gと、pH調整剤に水酸化ナトリウム(和光純薬、特級試薬)4.0gが配合されたもので、これを軟水化した水に1リツトル当たり500mg投入した。ここで、ボイラ給水として軟水化した水は、すなわち大阪市の軟化水を人工的に調整したものが用いられており、pHが7.5、電気伝導度が25mS/m、Mアルカリ度が20mg/リツトル−CaCO、硬度が1mg/リツトル−CaCOの水質を有するものである。この水処理剤の実施例および比較例に用いられる軟水化した水には、この大阪市の軟化水を人工的に調整した水が用いられており、この軟水化した水についての記載は以下省略する。
【0028】
(2)実施例2
実施例2の水処理剤は、実施例1の水処理剤と同様に、水処理剤全量100g当たり純水に皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤を所定量配合したものである。すなわち、実施例2の水処理剤は、皮膜形成剤にケイ酸ナトリウム(和光純薬、特級試薬)5.46gと、脱酸素剤にビタミンC(L-アスコルビン酸)(和光純薬、特級試薬)5.0gと、スケール抑制剤にEDTA−2Na(和光純薬、特級試薬)0.4gと、pH調整剤に水酸化ナトリウム(和光純薬、特級試薬)4.0gが配合されたもので、これを軟水化した水に1リツトル当たり500mg投入した。
【0029】
(3)実施例3
実施例3の水処理剤は、実施例1の水処理剤と同様に、水処理剤全量100g当たり純水に皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤を所定量配合したものである。すなわち、実施例3の水処理剤は、皮膜形成剤にケイ酸ナトリウム9.66gと、脱酸素剤にビタミンC(L-アスコルビン酸)(和光純薬、特級試薬)7.5gと、スケール抑制剤にEDTA−2Na(和光純薬、特級試薬)0.4gと、pH調整剤に水酸化ナトリウム(和光純薬、特級試薬)4.0gが配合されたもので、これを軟水化した水に1リツトル当たり500mg投入した。
【0030】
<比較例>
(1)比較例1
比較例1の水処理剤は、水処理剤全量100g当たり純水に皮膜形成剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤を所定量配合したものである。すなわち、比較例1の水処理剤は、皮膜形成剤にケイ酸ナトリウム(和光純薬、特級試薬)0.04gと、スケール抑制剤にEDTA−2Na(和光純薬、特級試薬)0.4gと、pH調整剤に水酸化ナトリウム(和光純薬、特級試薬)4.0gが配合されたもので、これを軟水化した水に1リツトル当たり500mg投入した。
【0031】
(2)比較例2
比較例2の水処理剤は、比較例1の水処理剤と同様に、水処理剤全量100g当たり純水に皮膜形成剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤を所定量配合したものである。すなわち、比較例2の水処理剤は、皮膜形成剤にケイ酸ナトリウム(和光純薬、特級試薬)21.5gと、スケール抑制剤にEDTA−2Na(和光純薬、特級試薬)0.4gと、pH調整剤に水酸化ナトリウム(和光純薬、特級試薬)4.0gが配合されたもので、これを軟水化した水に1リツトル当たり500mg投入した。
【0032】
<評価>
(1)実験条件
実施例1〜3、比較例1〜2に示された水処理剤を所定量添加したボイラ給水を用いて、ボイラ水管の伝熱面におけるスケール付着特性と腐食の評価を行った。このスケール付着特性と腐食の評価は、蒸発量が1.35kg/時間の実験用貫流ボイラに、実施例1〜3、比較例1〜2に示された水処理剤を所定量添加した軟水をボイラ給水用に供給し、圧力が0.3MPaの蒸気を連続的に発生させながら、ボイラ給水のブロー率が10%となるようにして運転された実験用貫流ボイラを用いて行われた。この実験用貫流ボイラの運転は、ボイラ水管の伝熱面におけるスケール付着特性と腐食の評価ができるだけ実機の評価に近いものとなるために、48時間連続して行われた。ボイラ水管の伝熱面におけるスケール付着特性は、ボイラの運転開始から24時間後にボイラ水(ボイラ水管内の水で加熱を受けた水をいう)を採水し、ボイラ水中のCa濃度を測定し、Caの溶解度を評価するとともに、48時間の運転終了後に実験用貫流ボイラから評価用のボイラ水管を抜き出し、このボイラ水管の伝熱面を観察して評価した。また、ボイラ水管の伝熱面における腐食は、前記評価用のボイラ水管の伝熱面を観察して評価した。
【0033】
(2)スケール付着特性の評価
ボイラ水管の伝熱面におけるスケール付着特性は、以下の手順で評価される。
先ず、ボイラの運転開始から24時間後にボイラ水の採水を行い、採水されたボイラ水のCa濃度はICP発光分析装置によって測定され、この測定されたCa濃度からCa溶解度を評価し、ボイラ水管の伝熱面におけるスケール付着特性が評価される。ここで、Ca溶解度の評価によるスケール付着特性の評価は、ボイラ水管の伝熱面にCaがスケールとして析出すると、ボイラ水のCa濃度、すなわちCa溶解度が低下することに着目してなされたものである。具体的には、Ca濃度が1.0mg/リツトル−CaCO含まれたボイラ給水をボイラのブロー率10%の条件下で実験用貫流ボイラを運転した場合において、ボイラ水管の伝熱面にCaがスケールとして析出していなければ、ボイラ水のCa溶解度は低下せずに、Ca濃度は約10mg/リツトルを維持した濃度として検出される。一方、仮にボイラ水管の伝熱面の表面にCaがスケールとして析出する場合には、ボイラ水のCa溶解度は低下し、Ca濃度は10mg/リツトルよりも低い濃度として検出される。
【0034】
次に、ボイラの運転開始から48時間後に実験用貫流ボイラの運転を停止し、この停止されたボイラからボイラ水管を抜き取り、このボイラ水管の伝熱面にCaがスケールとして付着しているか否かを肉眼およびルーペで観察し、スケール付着特性を評価する。また、スケール付着特性は、ボイラ水管の伝熱面に付着したスケールの厚さを膜厚計を用いて測定し、スケールの厚さから評価を行うこともできる。
【0035】
このようにして、表1には、実施例1〜3、比較例1〜2に示された水処理剤を所定量添加したボイラ給水について、ボイラの運転開始から24時間後におけるCa濃度としてのボイラ水のCa溶解度が示されている。
【0036】
この表1に示された結果によれば、実施例1〜3および比較例1の水処理剤を所定量添加したボイラ給水は、Ca溶解度は10mg/リツトル以上であった。一方、比較例2の水処理剤を所定量添加したボイラ給水は、Ca溶解度は10mg/リツトル以下であった。比較例2の水処理剤において、Ca溶解度が小さかったのは、ボイラ給水中のケイ酸ナトリウムの濃度が大きいため、ケイ酸ナトリウム中のシリカ成分と硬度(Ca)が結合してボイラ水管の伝熱面に厚く付着したからである。
【0037】
(3)腐食の評価
ボイラ水管の伝熱面における腐食の評価は、以下の手順にて行われた。先ず、ボイラの運転を48時間後に停止し、この停止されたボイラからボイラ水管を抜き取って水管表面からスケールを水洗や酸洗によって除去する。次に、スケールが除去されたボイラ水管の表面を肉眼やルーペなどで目視観察して全面腐食の有無を調べる。最後に、局部腐食について、スケールが除去されたボイラ水管の表面に孔食(ピッチングともいう)が発生しているか否かを肉眼やルーペなどで目視観察して調べ、孔食が起きている部位の深さを光学的変位計で測定し、孔食の最大深さを求める。
【0038】
表1には、実施例1〜3、比較例1〜2に示された水処理剤を所定量添加したボイラ給水について、ボイラ水管の伝熱面における全面腐食の有無、局部腐食の有無、孔食の最大深さが、それぞれ示されている。
【0039】
この表1に示された結果によれば、実施例1〜3および比較例2の水処理剤を所定量添加したボイラ給水には、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食が防止されていた。一方、比較例1の水処理剤を所定量添加したボイラ給水には、全面腐食は防止されていたが、ボイラ水管の伝熱面の局部腐食は防止されていなかった。
【0040】
以上のことから、この実施例1〜3に係る水処理剤によれば、ボイラ水管の伝熱面に腐食を抑制できる皮膜が皮膜形成剤により形成され、ボイラ給水中の溶存酸素は脱酸素剤により除去され、さらにボイラ水管の伝熱面のスケーリングはスケール抑制剤で防止され、ボイラ給水のpHはpH調整されるので、ボイラ水管の伝熱面の全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
【0041】
次に、蒸気ボイラ装置に本発明の水処理剤を用いた水処理方法の一実施例について、図1に基づいて説明する。図1には、蒸気ボイラ装置の概略構成が示されている。
図1において、蒸気ボイラ装置1は、給水装置部2と、蒸気ボイラ3と、水処理剤供給部4と、制御部5とから構成されている。
【0042】
給水装置部2は、ボイラ給水を蒸気ボイラ3へ供給する各種の前処理装置から構成されており、軟水器21と、脱気装置22と、給水タンク23とが備えられている。軟水器21は、補給水供給路W1を経て外部から供給される水道水又は工業用水などの補給水を軟水化処理(軟化)する装置である。補給水を軟水化処理(軟化)するのは、補給水に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオンを取り除くためである。ここで、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを取り除くのは、これらがボイラ水管の伝熱面にスケールとして付着して伝熱特性が低下するのを防ぐためである。この軟水器21で軟化された補給水(軟水)は、脱気装置22で脱気される。
【0043】
脱気装置22は、軟水中に溶存酸素が存在すると、この酸素によりボイラ水管の伝熱面は腐食されやすくなるため、主として軟水中の溶存酸素を予め取り除く装置である。脱気装置22には、気体分離膜や加熱により連続して酸素を除去する装置と減圧や超音波を利用するバッチ式装置等が用いられる。このうち、気体を通し、液体を通さない膜である気体分離膜を用いる装置は、操作性が容易で、安定して連続運転ができ、コストが安価なことから好ましい装置である。すなわち、気体分離膜を用いる装置は、気体分離膜の内側に、軟水化処理された水(軟水)を流し、膜の外側を真空状態にするとこの軟水に含まれている気体を膜の間を通って膜の外側へ排気し、軟水を脱気することができる。
【0044】
この脱気装置22で溶存酸素が取り除かれた軟水は、給水タンク23に貯留される。給水タンク23には、蒸気ボイラ3へ供給するボイラ給水が貯留され、ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量を測定し、検出する検出部24が備えられている。この給水タンク23には、脱気装置22で脱気された軟水と、蒸気ボイラ3で生成された蒸気が負荷装置(図示省略)において熱交換した復水とが復水回収路(図示省略)を経て供給される。また、給水タンク23には、ボイラ給水を薬品処理するために後述する水処理剤タンク41に貯留されている水処理剤が薬剤供給ポンプP1により水処理剤供給路W2を経て供給される。この水処理剤は、上記本発明の実施形態に記載されている水処理剤であり、水を主成分とし、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とが配合されている。そのため、この水処理剤をボイラ給水へ供給すると、ボイラ水管の伝熱面の腐食やスケールの付着を防止することができる。このボイラ給水は、給水ポンプP2により給水タンク23から給水路W3を経て蒸気ボイラ3へ供給される。
【0045】
ここにおいて、検出部24で検出されるシリカ濃度は、シリカ(二酸化ケイ素)としての濃度であり、JIS K 0101に記載のモリブデン黄吸光光度法に従って測定され、検出される。また、溶存酸素量は、JIS K 0101に記載の工業用水試験法に従って測定され、検出される。
【0046】
このボイラ給水が供給された蒸気ボイラ3では、蒸気が生成され、この蒸気は蒸気ラインS1を経て各種の負荷装置(図示省略)へ供給される。
蒸気ボイラ3は、ボイラ給水を加熱して蒸気を生成するものであり、高温高圧環境にある。中でもボイラ水管(図示省略)は、管の外面側で加熱源から輻射熱を直接受け、管の内面側(ボイラ水管の伝熱面)に高温高圧のボイラ給水又は蒸気が流れているため、過酷な環境にある。このボイラ水管の伝熱面は、ボイラ給水の水質がよくない場合は、腐食が生じたり、スケールが付着するため、蒸気ボイラ3は安定した運転を長期間連続して行うことができなくなるおそれがある。そのため、ボイラ給水の水質管理は重要な項目であり、本実施例に示すようなボイラ給水の水処理方法が求められている。
【0047】
本実施例の水処理方法は、給水タンク23に貯留されているボイラ給水中に溶解しているシリカ濃度や溶存酸素量に変動が生じた場合、所定の濃度に予め調整されて水処理剤タンク41に貯留されている水処理剤を、前記変動に対応して給水タンク23へ供給する方法である。この場合、給水タンク23へ供給される水処理剤は、シリカ濃度や溶存酸素量の変動に対応して供給量が制御されている。水処理剤の供給量の制御は、後述する制御部5により水処理剤供給部4の薬剤供給ポンプP1の吐出量を制御して行われる。
【0048】
水処理剤供給部4は、前述した水処理剤を貯留している水処理剤タンク41と、水処理剤タンク41から給水タンク23へ供給する薬剤供給ポンプP1から構成されている。水処理剤タンク41は所定の濃度に予め調整された水処理剤を貯留する。
ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量の変動は、ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量を給水タンク23に備えられている検出部24で検出し、検出されたシリカ濃度や溶存酸素量に基づいて制御部5により判断される。
【0049】
制御部5は、図1に示すように、給水装置部2および水処理剤供給部4を構成する各機器に電気的に接続されている。具体的には、制御部5は、ボイラ給水タンク23に備えられている検出部24および薬剤供給ポンプP1に電気的に接続されている。
制御部5は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、中央演算処理ユニットのCPU51、一時的にデータを記憶するRAM52、処理プログラムが記憶されたROM53、あるいは各種信号を入出力する入出力ポート54が備えられている。制御部5は、前述したように、シリカ濃度や溶存酸素量に関する情報を検出部24から入力し、これに基づいて、薬剤供給ポンプP1の吐出量の制御信号を出力し、薬剤供給ポンプP1の吐出量を制御する。
【0050】
ここで、薬剤供給ポンプP1の吐出量を制御するのは、給水タンク23へ供給される水処理剤の供給量が多くなると、ボイラ水管の伝熱面にスケールが付着し易くなり、伝熱特性が悪くなるので、これを防ぐためである。一方、給水タンク23へ供給される水処理剤の供給量が少なくなると、ボイラ水管の伝熱面に形成されるシリカ層又は鉄水酸化物層の厚さが薄くなり、ボイラ水管の伝熱面が全面腐食されたりするので、これを防ぐためである。また、ボイラ水管の伝熱面に形成されるシリカ層又は鉄水酸化物層の厚さの分布が不均一になると、ボイラ水管の伝熱面は局部腐食され易くなるので、これを防ぐためである。
【0051】
このように、本実施例の水処理方法によれば、ボイラ給水中のシリカ濃度や溶存酸素量に変動が生じた場合、ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、脱酸素剤と、スケール抑制剤と、pH調整剤とが配合され、所定の濃度に調整された水処理剤について、水処理剤タンクから給水タンクへ供給する量を前記変動に対応して制御することにより、ボイラ水管の伝熱面における全面腐食と局部腐食を防止するとともに、優れた伝熱特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例2に係る蒸気ボイラ装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 蒸気ボイラ装置
2 給水装置部
3 蒸気ボイラ
4 水処理剤供給部
5 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主成分とし、
ボイラ水管の伝熱面に皮膜を形成する皮膜形成剤と、
脱酸素剤と、
スケール抑制剤と、
pH調整剤と、
が前記水に配合されていることを特徴とする水処理剤。
【請求項2】
前記皮膜形成剤は、シリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸塩、ポリケイ酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の水処理剤。
【請求項3】
前記脱酸素剤は、ビタミンCおよびその塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸およびその塩、亜硫酸塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理剤。
【請求項4】
前記スケール抑制剤は、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリアクリル酸およびその塩、ポリマレイン酸およびその塩のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1,2,又は3に記載の水処理剤。
【請求項5】
前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のうちの少なくとも1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の水処理剤。
【請求項6】
請求項1,2,3,4又は5に記載の水処理剤を所定の濃度に調整する工程と、
給水タンクに溶解しているシリカ濃度と溶存酸素量を検出する工程と、
前記給水タンクへ供給される前記水処理剤の量を制御する工程とからなることを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−274427(P2006−274427A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99551(P2005−99551)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】