説明

水処理方法および水処理装置

【課題】浸漬膜活性汚泥処理により処理する水処理において、浸漬膜の目詰まり、また後段でRO膜による処理を行う場合はRO膜の目詰まりが急激に生じず、低濃度の有機物含有原水の水処理、または水回収を安定して行うことができる水処理方法を提供する。
【解決手段】逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を用いる浸漬膜活性汚泥処理により、TOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の活性汚泥処理を行い、活性汚泥処理における滞留時間が1時間〜24時間の範囲である水処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度の有機物含有原水を浸漬膜活性汚泥処理により処理する水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、浄化槽や食品工場などの中小規模の排水処理設備や海外の下水処理場において、浸漬膜活性汚泥処理装置が導入され始めている。これらの場合、処理対象の原水の濃度として、BOD200mg/L以上から数千mg/L程度の排水において、多くの実績ができつつある。浸漬膜活性汚泥処理の特徴として、汚泥濃度を通常の浮遊式活性汚泥に比較して高濃度に保持可能であることから、反応槽をコンパクト化でき、また膜処理によりろ過されるため、処理水質が従来法より非常に良好であることが挙げられる。
【0003】
しかし、浸漬膜活性汚泥処理を適用する場合、膜の目詰まりに伴う運転トラブルが発生する可能性があり、適用にあたって充分留意する必要がある。特に、汚泥負荷(BOD−SS負荷)に関して、高すぎるとフロックを形成しない分散菌の増大、過剰な汚泥濃度の付着などにより、浸漬膜の透過水量(フラックス)が低下することが指摘されており、一定の汚泥負荷範囲、例えば0.15〜0.40kgBOD/kgVSS/dayで運転することが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方で、余剰汚泥の削減などを目的に汚泥濃度を高めることで、汚泥負荷を低くして浸漬膜活性汚泥処理を行うことも検討されているが、汚泥負荷が低い条件での運転においても、汚泥が分散し、特に菌の自己酸化状況では汚泥フロックが解体し、膜分離が困難であることから、その対策が検討され、提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献2の方法では、主要な分散菌とされる汚泥中の特定細菌(CFBグループ)の培養や遺伝子レベルでの検出などの煩雑な操作を伴ってモニタリングすることが必要とされていた。
【0005】
近年、半導体製造工程や液晶パネル製造工場などの電子産業工場、化学工場、自動車工場などで大量の製造水、純水、超純水などが利用されており、工業用水の取水制限、水資源確保、排水放流先への環境影響、下水料金の高騰などから工場内で排水を回収再利用する検討が進められている。しかし、食品工場などとは異なり、有機性排水の他に大量の無機性排水も排出されていることなどから、対象排水の有機物濃度はTOC10〜50mgC/L程度の低濃度のケースが多くなっている。
【0006】
現状、上記の工場内の排水回収処理として、生物処理後に逆浸透膜(RO膜)処理を行って水を回収再利用するケースが増えつつあるが、本処理法では微生物または代謝産物などによるRO膜の目詰まりが早く、フラックスが急速に低下することが課題となっている。RO膜の目詰まりが生じると、頻繁にアルカリ洗浄などを行う必要が有り、運転管理上、およびランニングコスト上の大きな課題となる。そこで、RO膜の通水をアルカリで運転する方法などが提案されている(特許文献3参照)が、常にアルカリ運転を実施することによるランニングコストの上昇、RO膜の寿命、および本法でも薬品洗浄を実施する必要があり、運用上の課題となっている。
【0007】
上記背景において、浸漬膜活性汚泥処理を工場内の排水回収で使用する検討が開始されているが、原水濃度が低いために、従来浸漬膜が適用されていたケースに比較して、常に汚泥濃度、BOD容積負荷、および汚泥負荷が従来より低い状況での運転となる。しかし、現状、このような原水低濃度、低汚泥濃度、低汚泥負荷の状況での浸漬膜活性汚泥処理の報告事例がほとんどなく、汚泥フロック解体、分散菌の出現による膜の目詰まりや、汚泥濃度が低いと活性汚泥に吸着されない微細な粒子成分が膜の目詰まりを進行させることが懸念されている(例えば、非特許文献1参照)。低汚泥濃度(例えば、6,000mg/L)で曝気運転動力を削減する検討も行われているが、水温低下などの影響などで膜目詰まりの進行が確認されている(非特許文献1参照)。
【0008】
浸漬膜が目詰まりを起こした場合、活性汚泥内に浸漬したまま次亜塩素酸などを注入するインライン洗浄、または浸漬膜を生物反応槽内から取り出して次亜塩素酸、クエン酸などに漬けおき洗浄することが必要となる。薬品洗浄実施のタイミングは、通常、浸漬膜の吸引圧力の差圧が30〜50kPa程度に達した際に行われるのが一般的であり、その頻度は少なくとも3ヶ月以上、好ましくは6ヶ月から1年に1回が運用上好ましい。
【0009】
【特許文献1】特開2003−53363号公報
【特許文献2】特開2006−212470号公報
【特許文献3】特開2005−81268号公報
【非特許文献1】第10回日本水環境学会シンポジウム講演集、p.97−98(平成19年9月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、浸漬膜活性汚泥処理による水処理において、浸漬膜の目詰まり、また後段でRO膜による処理を行う場合はRO膜の目詰まりが急激に生じず、低濃度の有機物含有原水の水処理、または水回収を安定して行うことができる水処理方法および水処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を用いる浸漬膜活性汚泥処理により、TOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の活性汚泥処理を行い、前記活性汚泥処理における滞留時間が1時間〜24時間の範囲である水処理方法である。
【0012】
また、前記水処理方法において、前記活性汚泥処理におけるBOD−SS負荷が、0.005〜0.15kgBOD/kgSS/dayの範囲であることが好ましい。
【0013】
また、前記水処理方法において、前記活性汚泥処理における汚泥濃度が、10,000mg/L以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記水処理方法における、前記活性汚泥処理の後段において、逆浸透膜を用いた分離処理を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を備える浸漬膜ユニットと、TOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の活性汚泥処理を行うための生物反応槽と、前記浸漬膜を逆洗する逆洗手段と、を備え、前記活性汚泥処理における滞留時間が1時間〜24時間の範囲である水処理装置である。
【0016】
また、前記水処理装置において、前記生物反応槽の後段に逆浸透膜を有する分離手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を用いて、所定の滞留時間でTOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の浸漬膜活性汚泥処理を行うことにより、浸漬膜の目詰まり、また後段でRO膜による処理を行う場合はRO膜の目詰まりが急激に生じず、低濃度の有機物含有原水の水処理、または水回収を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明者らは、低濃度の有機物含有原水への浸漬膜活性汚泥処理の適用について検討した。この結果、実施例において後述するように、世界的に実績の多いポリエチレン(PE)製の平膜型浸漬膜では非常に短期で吸引圧力が発生するため、実用化できないという問題を明確にした。これに対し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製などの逆洗可能な中空糸型浸漬膜を適用することで、従来排水処理で適用されているフラックス(0.4m/day)を確保しながら、安定して良好な処理を行えることを明確にした。この結果、従来、低濃度の有機物含有原水の処理回収システムで問題となっていた浸漬膜の目詰まり、RO膜の目詰まりによる運転トラブル、アルカリ運転に伴うコストの増加を解決して、運転管理が容易で安定した水処理を実施することが可能となった。
【0020】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。水処理装置1は、原水槽10と、生物反応槽12と、逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を備える浸漬膜ユニット14と、生物処理水槽16と、逆洗手段である逆洗ポンプ18と、逆浸透膜(RO膜)を有する分離手段であるRO膜分離装置20とを備える。
【0021】
図1の水処理装置1において、原水槽10の出口は原水ポンプ22を介して原水配管24により生物反応槽12の下部と接続されている。生物反応槽12には、浸漬膜ユニット14が設置され、浸漬膜ユニット14の中空糸型浸漬膜は、吸引ポンプ26を介して生物処理水配管28により生物処理水槽16と接続されている。生物処理水槽16の出口は、フィルタ30、ポンプ32を介して生物処理水配管34により、RO膜分離装置20の入口に接続されている。RO膜分離装置20の出口には、処理水配管36が接続されている。また、生物処理水槽16の下部は、逆洗ポンプ18を介して逆洗配管38により生物処理水配管28の途中の吸引ポンプ26下流側に接続されている。生物反応槽12の底部には、曝気手段であるコンプレッサ40が曝気配管42により接続されている。
【0022】
本実施形態に係る水処理方法及び水処理装置1の動作について説明する。
【0023】
図1の水処理装置1において、有機物を含む有機物含有原水(以下、単に「原水」と呼ぶ場合がある)は、原水槽10に流入した後、原水ポンプ22により原水配管24を通して、生物反応槽12に送液される。生物反応槽12には、好気性の活性汚泥が存在する。一方、生物反応槽12の底部から、コンプレッサ40からの空気が曝気配管42を通して送気されている。生物反応槽12において、活性汚泥により原水中の有機物の分解処理が行われる(活性汚泥処理工程)。浸漬膜ユニット14の中空糸型浸漬膜は吸引ポンプ26により吸引され、固液分離が行われる(固液分離工程)。固液分離された生物処理水は、生物処理水配管28を通して、生物処理水槽16に送液される。生物処理水を回収、再利用する場合には、さらにポンプ32によりフィルタ30を経由して生物処理水配管34を通してRO膜分離装置20に送液され、RO膜分離装置20において、RO膜によりRO膜処理が行われる(RO膜処理工程)。RO膜処理された処理水は処理水配管36を通して系外に排出される。また、所定の間隔で、生物処理水槽16の生物処理水の少なくとも一部は逆洗水として、逆洗ポンプ18により逆洗配管38、生物処理水配管28を通して浸漬膜ユニット14の中空糸型浸漬膜に送液され、中空糸型浸漬膜が逆洗される。
【0024】
<処理対象原水>
本実施形態において、処理対象となる有機物含有原水のTOC濃度は、50mgC/L以下である。このようなTOC濃度50mgC/L以下の濃度が低い有機物含有原水を、中空糸型で逆洗可能な浸漬膜を用いて浸漬膜活性汚泥処理を行う。
【0025】
また、BOD濃度が150mg/L以下である有機物含有原水に本方法を適用することが好ましい。
【0026】
処理対象となる原水は、例えば、半導体工場、液晶工場、その他の分野から排出される有機性排水である。主なものとして、2−アミノエタノール、2−プロパノール、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸、シュウ酸などの有機酸、界面活性剤などを含んだ有機物含有排水であるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0027】
<浸漬膜活性汚泥処理条件>
浸漬膜活性汚泥処理における生物反応槽12の処理条件としては、汚泥濃度が10,000mg/L以下、好ましくは、3,000〜8,000mg/Lの範囲、汚泥粘度が60mPa・s以下、好ましくは、50mPa・s以下、生物反応槽12の負荷が1.5kgBOD/m/day以下、好ましくは0.4〜1.0kgBOD/m/dayの範囲で運転することが好ましい。
【0028】
汚泥濃度が10,000mg/Lを超えると汚泥の粘度が急激に上昇し、浸漬膜が目詰まる場合があり、3,000mg/L未満であると汚泥当たりのBOD負荷が高くなり、処理水質が悪化する場合がある。汚泥粘度が60mPa・sを超えると汚泥の粘度が急激に上昇し、浸漬膜が目詰まる場合がある。また、生物反応槽12の負荷が1.5kgBOD/m/dayを超えると処理水質の悪化と浸漬膜の目詰まりが起こる場合があり、0.4kgBOD/m/day未満であると浸漬膜の目詰まりが起き、また生物反応槽が大きく不経済となる場合がある。
【0029】
生物反応槽12における滞留時間は、1時間〜24時間の範囲であり、2〜5時間の範囲が好ましい。滞留時間が1時間未満であると処理を十分に行うことができない。24時間を超えると処理コストが増大する。また、フロックが分散化してしまう。
【0030】
生物反応槽12における汚泥負荷(BOD−SS負荷)については、0.005〜0.15kgBOD/SS/dayの範囲が好ましい。汚泥負荷が0.005kgBOD/SS/day未満であると低負荷により汚泥が分散状態となり浸漬膜が目詰まる場合があり、0.15kgBOD/SS/dayを超えると高負荷により処理水質が悪化し、また菌の代謝産物の増加により浸漬膜が目詰まる場合がある。
【0031】
生物反応槽12における液のpHは、6.0〜8.5の範囲、特に6.5〜7.5の範囲となるように調整することが好ましい。pHが6.0未満や8.5を超えると生物処理性能が悪化する場合がある。
【0032】
生物反応槽12におけるDO(溶存酸素)濃度は、0.5mg/L以上、特に1.5〜3.5mg/Lの範囲であることが好ましい。DO濃度が0.5mg/L未満であると生物処理性能が悪化する場合があり、3.5mg/Lを超えるとフロックが分散化してしまい、また処理コストが増大して不経済となる場合がある。
【0033】
生物反応槽12における栄養源としては、微生物が有機物を分解し、増殖していくためには、窒素、リンのほか、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属類や鉄、マンガン、亜鉛などの金属類といった微量金属類が必要となる。窒素源としては、外部から尿素、アンモニア塩などを添加することができる。リン源としては、外部からリン酸塩、リン酸を添加することができる。また、窒素源・リン源としては、原水中に十分量含まれていれば外部から添加する必要はなく、また、窒素・リンを含む他の排水を有機物含有原水に添加することでも対応することができる。微量金属類は、半導体工場や液晶工場での有機物含有原水では、不足することが多い。このため、水道水、工業用水などの微量金属類を含む水を導入する、微量元素を含む製剤を添加するなどの方法で補給することもできる。
【0034】
<浸漬膜>
浸漬膜は生物反応槽12内に浸漬し、浸漬膜の吸引ろ過によって生物処理水を得ることができるが、生物反応槽12の後段に別途、膜分離槽を設けて、そこに浸漬膜を浸漬することもできる。本実施形態では、定期的に逆洗可能な形態、すなわち中空糸膜を用いる。平膜では端部破損のおそれがあるため逆洗が困難である。浸漬膜としては、精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜を用いることができる。浸漬膜の材質は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが適用でき、膜の詰まりにくさなどの点からPVDFが好ましい。膜の孔径は0.1μm以下が好ましい。膜の透過流速は、0.1〜0.8m/hr程度で運転することができ、より好ましくは0.2〜0.6m/hrの範囲で運転することができる。
【0035】
<RO膜>
RO膜としては、ポリエーテルアミド複合膜、ポリビニルアルコール複合膜、芳香族ポリアミド膜などが使用でき、微生物の代謝産物などに対してより詰まりにくいとされているポリアミド製の荷電中和膜(例えば、日東電工製LF−10)などの適用が好ましい。これらのRO膜のモジュール形状は、スパイラル型、中空糸型、管状型など、いずれの形状でも使用できる。
【0036】
また、有機物含有原水が、非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールなどを含む場合、RO膜が目詰まりやすいことから、そのような場合には例えば図2に示すように、RO膜分離装置20の前段側に活性炭処理手段である活性炭処理装置44を設置することが好ましい。また、RO膜の前処理として孔径10μm程度のフィルタ30を設置することが好ましい。
【0037】
カルシウムなどの無機分でスケールを生じる可能性がある場合、RO膜分離装置20に分散剤の添加手段、または軟化装置を設置することが好ましい。さらに、長期的な運転で微生物起因のスライム発生による目詰まりを防止することを目的として、スライムコントロール剤(イソチアゾリン系など)の添加、硫酸などによる酸ショック付与、アルカリ運転(pH9.5以上)などを行うことができる。
【0038】
処理水は、工場などの冷却水、または製造用水、純水、超純水などとして再利用することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置により、浸漬膜に逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を用いることにより、従来より低濃度の有機物含有原水の浸漬膜活性汚泥処理の安定運転、および後段のRO処理も含めた安定運転が可能となる。したがって、特にRO膜を組み合わせた排水回収システムにおいて有効な方法となる。今後、低濃度の有機物含有原水の水処理、回収は、国内、海外も含めて、水資源確保、排水放流の観点から非常に望まれており、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置は非常に有用と考えられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1、比較例1)
浸漬膜の素材、水逆洗、膜孔径の異なる浸漬膜を用いて、低濃度の有機物含有原水向けの浸漬膜適用評価を現場の実排水を用いて実験した。テストには、代表的な2タイプの膜(実施例1:PVDF製中空糸型浸漬膜(孔径0.1μm)、比較例1:PE製平膜型浸漬膜(孔径0.4μm))を用いて、浸漬膜の吸引圧力、処理水質、後段RO膜の目詰まりについての評価を実施した。用いた実験装置を図3,4に示す。
【0042】
<通水条件>
原水:電子産業工場の実排水TOC濃度25〜50mgC/L(原水BOD濃度:20〜120mg/L)
【0043】
<実験装置>
生物反応槽(MBR槽)、浸漬膜ユニット、RO膜は、以下のような実験装置(図3参照)を用いて実施した。
[生物反応槽]
容量:1.3m
pH:6〜7で制御
水温:20〜25℃
滞留時間:22時間
汚泥濃度(MLSS):4,000〜8,000mg/L
BOD−SS負荷:0.01〜0.03kgBOD/kgSS/day
DO:1〜2mgO/L
送気風量:5Nm/hr
[浸漬膜ユニット(表1参照)]
実施例1:PVDF製中空糸型浸漬膜(孔径0.1μm)
比較例1:PE製平膜型浸漬膜(孔径0.4μm)
浸漬膜のフラックス:0.4m/day
[RO膜]
膜:日東電工製 LF−10 2インチモジュール 水回収率70%
【0044】
【表1】

【0045】
<結果>
比較例1では、通常実用化されているフラックス0.4m/dayで2日で薬品洗浄を必要とする差圧30kPaに達したが、実施例1では約5ヶ月急激な目詰まりがなく安定して処理することが可能であった(図5参照)。
【0046】
このように、テスト条件として、通常の排水処理で実施されているフラックス0.4m/dayで運転したところ、2つの浸漬膜の目詰まりの指標である吸引圧力の上昇の仕方が、当業界の常識を超えて顕著な差がでることが明確になった。世界的に実績が多い比較例1のPE製平膜については、薬品洗浄の実施タイミングである30kPaにわずか2日で達し、実用的な運転ができなかったのに対し、実施例1のPVDF製中空糸型浸漬膜では、同じ原水、同じ汚泥(種類、濃度、汚泥負荷)を用いたにも関わらず5ヶ月以上、30kPa以下で安定した運転が可能であった。今回の結果は、膜素材、孔径も影響していることが考えられるが、特に水逆洗の有無が吸引圧力に大きな差を生じたものと考えられる。
【0047】
また、原水、処理水の代表的な値を表2に示すが、両系とも安定処理後、共に処理水5〜10mgC/Lであったが、実施例1の中空糸型浸漬膜の水質が若干良好であった。
【0048】
【表2】

【0049】
汚泥濃度と汚泥粘度について検討した結果(図6参照)、汚泥濃度が10,000mg/L以上で急激に粘度が上昇することを見出した。一般に、粘度が上昇すると膜の差圧に影響すると考えられるため、汚泥濃度を10,000mg/L以下、汚泥粘度を50mPa・s以下で運転することで安定した運転が可能であることを見出した。
【0050】
また、図7に浸漬膜活性汚泥の後段においてRO処理を実施した時のRO膜のフラックスと差圧変化を示すが、後段のRO膜においても目詰まりがほとんどなく安定して処理できることを確認した。また、RO処理水質についても0.5mgC/Lと回収再利用水として良好な水質であることを確認した。
【0051】
このように、当業者が想定する以上に浸漬膜の選定、運転条件が低濃度有機物含有原水処理の安定運転に重要であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施例で用いた水処理装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施例で用いた水処理装置を示す概略構成図である。
【図5】本発明の実施例における、浸漬膜の吸引圧力変化を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例における、汚泥濃度(MLSS)と汚泥粘度の検討結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例における、RO膜のフラックスと差圧変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1,3 水処理装置、10 原水槽、12 生物反応槽、14 浸漬膜ユニット、16 生物処理水槽、18 逆洗ポンプ、20 RO膜分離装置、22 原水ポンプ、24 原水配管、26 吸引ポンプ、28 生物処理水配管、30 フィルタ、32 ポンプ、34 生物処理水配管、36 処理水配管、38 逆洗配管、40 コンプレッサ、42 曝気配管、44 活性炭装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を用いる浸漬膜活性汚泥処理により、TOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の活性汚泥処理を行い、
前記活性汚泥処理における滞留時間が1時間〜24時間の範囲であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記活性汚泥処理におけるBOD−SS負荷が、0.005〜0.15kgBOD/kgSS/dayの範囲であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理方法であって、
前記活性汚泥処理における汚泥濃度が、10,000mg/L以下であることを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
前記活性汚泥処理の後段において、逆浸透膜を用いた分離処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
逆洗可能な中空糸型の浸漬膜を備える浸漬膜ユニットと、
TOC濃度が50mgC/L以下の有機物含有原水の活性汚泥処理を行うための生物反応槽と、
前記浸漬膜を逆洗する逆洗手段と、
を備え、
前記活性汚泥処理における滞留時間が1時間〜24時間の範囲であることを特徴とする水処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水処理装置であって、
前記生物反応槽の後段に逆浸透膜を有する分離手段を備えることを特徴とする水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−189943(P2009−189943A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32739(P2008−32739)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】