説明

水処理方法ならびに水処理装置

【課題】 一定レベルの水質を有する水を安定的に得る水処理方法ならびに水処理装置の提供を課題としている。
【解決手段】 逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールに塩類を含有する原水を流入させて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で分離し、しかも、前記原水を膜分離モジュールに連続的に流入させることにより、前記濃縮水を膜分離モジュールから連続的に流出させるとともに、前記処理水を膜分離モジュールから連続的に流出させる水処理方法であって、前記処理水の膜分離モジュールからの流出量を一定に制御するとともに、前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御し得るように前記逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて前記原水の流入量を変化させることを特徴とする水処理方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩類を含有する原水を逆浸透膜により膜分離させる水処理方法ならびに水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、離島や少雨地域など淡水を得ることが困難な地域において、海水などを原水として淡水を製造し、得られた淡水を飲み水や農業用水として利用することが実施されている。
この海水の淡水化といったような水処理においては、海水にアニオンやカチオンなどの状態で含まれている種々の塩類を除去する必要があることから、従来、逆浸透膜による膜分離が実施されている。
【0003】
通常、この逆浸透膜による膜分離においては、逆浸透膜により隔てられた空間の一方側に塩類を含有する原水を流入させて該原水よりも塩類の濃度が低い淡水化された処理水を前記逆浸透膜を通じて他方側に透過させることにより、原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水を一方側から流出させるとともに前記他方側から処理水を連続的に流出させる処理プロセスが実施されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、逆浸透膜により隔てられた供給水室と透過水室とを有する膜分離モジュールを用いて海水を淡水化させることが記載されている。
より詳しくは、下記特許文献1には、膜分離モジュールの前記供給水室に原水を連続的に流入させることにより、塩類の濃度(以下、「塩濃度」ともいう)が低い淡水化された処理水を逆浸透膜を通じて透過水室側に透過させて該透過水室から淡水を連続的に流出させるとともに供給水室から塩濃度が高められた濃縮水を連続的に流出させることが記載されている。
【0005】
また、このような海水の淡水化以外にも、例えば、金属精錬工場などにおける洗浄排水などに含まれる金属塩を除去して同工場内における工業用水として再利用するような場合においても逆浸透膜による水処理が実施されたりしている。
【0006】
このような海水の淡水化や、工場排水の再利用などにおいては、通常、一定レベルの水質を有する水を安定した量で生成することが求められている。
【0007】
このような水質レベルの安定化や安定した水量の確保の要望に対し、水量の安定化については、逆浸透膜を透過する処理水の量を逆浸透膜を介して隣接する空間(例えば、供給水室と透過水室)の圧力差などによって変化させることが容易であることから比較的容易に実施可能である。
一方で、水質、すなわち、処理水に含有される塩類の量は、逆浸透膜を通過する塩類の量によって変化し、この逆浸透膜を通過する塩類の量は、通常、逆浸透膜を介して隣接する濃縮水に含まれる塩類の量と逆浸透膜の性能によって変化する。
【0008】
したがって、例えば、常時一定の塩濃度を有する原水を用いて水処理を実施すれば一定レベルの水質を有する水を安定的に供給することが比較的容易となるものの、例えば、金属精錬工場の洗浄排水は工場の稼動状況や製造されている製品の種類などによって塩濃度が大きく変動し、海水の淡水化などにおいても潮流や天候の関係によって塩濃度は変化する。
したがって、このような常時一定の塩濃度を有する原水を得ることは、実質上困難で、従来、水質レベルの安定化は困難となっている。
【0009】
また、このような問題に対しては、従来、殆ど検討されておらず解決策も得られていない。
すなわち、従来の水処理方法ならびに水処理装置では、一定レベルの水質を有する水を安定的に得ることが困難であるという問題を有している。
【0010】
【特許文献1】特開平9−299944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、一定レベルの水質を有する水を安定的に得る水処理方法ならびに水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決すべく、逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールに塩類を含有する原水を流入させて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で分離し、しかも、前記原水を膜分離モジュールに連続的に流入させることにより、前記濃縮水を膜分離モジュールから連続的に流出させるとともに、前記処理水を膜分離モジュールから連続的に流出させる水処理方法であって、前記処理水の膜分離モジュールからの流出量を一定に制御するとともに、前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御し得るように前記逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて前記原水の流入量を変化させることを特徴とする水処理方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記課題を解決すべく、逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールを備え、該膜分離モジュールに塩類を含有する原水が流入されて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で分離され、しかも、前記原水が膜分離モジュールに連続的に流入されることにより、前記濃縮水が膜分離モジュールから連続的に流出されるとともに、前記処理水が膜分離モジュールから連続的に流出される水処理装置であって、前記処理水の膜分離モジュールからの流出量を一定に制御する制御機構と、前記逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて前記原水の流入量を変化させることにより前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御する制御機構とを備えていることを特徴とする水処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールに前記原水を流入させて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で膜分離する水処理方法ならびに水処理装置において前記処理水の流出量を一定に制御することから、安定した水量が確保されることとなる。
【0015】
しかも、処理水の流出量を一定に制御することから、膜分離モジュールに流入される水の量の内、逆浸透膜を透過して除去される処理水の量が一定となる。
すなわち、例えば、膜分離モジュールに単位時間当たりに流入する水量を変化させることで濃縮水の濃縮度合いを制御することができる。
したがって、例えば、逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて原水の流入量を変化させることにより濃縮水の塩濃度を調整して逆浸透膜を透過する塩類の量を調整することができる。
すなわち、本発明によれば、原水の流入量を変化させることにより前記処理水の塩類の濃度が所定値以下に制御され、安定した水質が確保されることとなる。
しかも、濃縮水の塩濃度が調整されることにより、逆浸透膜の汚染速度の抑制も図りうる。
【0016】
このことから、本発明によれば、水処理方法ならびに水処理装置において一定レベルの水質を有する水を安定した量で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について金属精錬工場からの洗浄排水(以下「排水」ともいう)を原水として、この排水を、含有されている塩類が工業用水として再利用可能な状態にまで低減された処理水と、原水よりも塩濃度が高められた濃縮水とに分離する水処理を例に説明する。
【0018】
まず、水処理装置について説明する。
図1は、本実施形態における水処理装置の構成を示す概略ブロックである。
図1中の1は、膜分離モジュールを表しており、11は、該膜分離モジュール1の外殻を形成し内部に原水ならびに処理水を貯留する収容空間が形成された筐体であり、12は、前記筐体11の内部に収容されている逆浸透膜であり、該逆浸透膜12により前記筐体11の内部の空間が二分されている。
【0019】
該逆浸透膜12としては、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニールアルコールなどの素材により形成された直径数mmの中空糸状に形成されたいわゆる中空糸膜などと呼ばれるタイプのものや、該中空糸膜よりも径の太い数cm程度の太さを有するいわゆるチューブラー膜と呼ばれるタイプのもの、さらには、使用時に内部にメッシュなどの支持材が配された状態でロール状に巻回されて用いられる封筒状のいわゆるスパイラル膜と呼ばれるものなど従来公知のものを採用することができる。
【0020】
図1中の13は、前記逆浸透膜12によって二分された膜分離モジュール1の内部空間の内の一方の空間である供給水室であり、14は、二分された空間の内の他方の空間である透過水室である。
また、前記筐体11の前記供給水室13側には、原水を流入させるための原水流入口と濃縮水を流出させるための濃縮水流出口とが開口されており、前記透過水室14側には、逆浸透膜12を通過して塩濃度が低減された処理水を排出させるための処理水排出口が開口されている。
【0021】
図1中の2は、前記膜分離モジュール1に原水(排水)を流入させるべく設けられた原水搬送機構であり、21は、原水の流通流路となる原水配管部である。
該原水配管部21は、その一端側が原水の供給ポイント(図示せず)に接続されており、この供給ポイントから原水を前記供給水室13に流入させるべく他端部が前記膜分離モジュール1の筐体11に形成された原水流入口に接続されている。
また、22は、原水を搬送するための搬送ポンプ(以下「原水搬送ポンプ」ともいう)であり、該原水搬送ポンプ22は、前記原水供給ポイントから前記膜分離モジュール1に向けて原水を流通させ得るように前記原水配管部21の途中箇所に設けられている。
【0022】
図1中の3は、前記膜分離モジュール1で塩類が除去された処理水を該処理水のユースポイント(図示せず)に供給すべく設けられた処理水搬送機構であり、31は処理水の流通流路となる処理水配管部である。
該処理水配管部31は、前記透過水室14から処理水を排出させるべく、その一端側が前記膜分離モジュール1の筐体11に形成された透過水排出口に接続されて水処理装置に備えられている。
また、32は、処理水の排出量を一定量に制御するために前記処理水配管部31に設けられた処理水定量化機構であり、該処理水定量化機構32としては、例えば、定流量弁などが用いられたもの採用することができ、該定流量弁としては、例えば、弁の入口側にオリフィスを備え、流量の変動によってオリフィス前後に発生する差圧によって主弁の開度を調整して流量を一定に保持するタイプのものなどを採用することができる。
また、33は、この処理水配管部31内を流通する処理水の塩濃度を測定するための塩濃度測定機構であり、本実施形態の塩濃度測定機構33は、得られた測定結果を信号として発信し得るように形成されている。
該塩濃度測定機構33としては、塩濃度を測定するための電気伝導度計やイオン計などを備えたものを例示することができる。
なお、電気伝導度は、塩濃度との相関関係を有し測定も容易である点において、前記塩濃度測定機構33としては、電気伝導度を測定する機構を有するものが好適である。
しかも、電気伝導度計は、安価でメンテナンスも容易であることから、電気伝導度計を備えた塩濃度測定機構33は、水処理装置の装置コスト、メンテナンスコストの低減に有効である。
【0023】
図1中の4は、前記膜分離モジュール1から塩濃度が濃縮された濃縮水を系外に排出させるべく設けられた濃縮水搬送機構であり、41は、濃縮水の流通流路となる濃縮水配管部である。
該濃縮水配管部41は、前記供給水室13から濃縮水を排出させるべく、その一端側が前記膜分離モジュール1の筐体11に形成された濃縮水排出口に接続されて水処理装置に備えられている。
また、42は、膜分離モジュール1から流出される濃縮水の量を調整すべく設けられた濃縮水量調整機構であり、該濃縮水量調整機構42には、前記塩濃度測定機構33から発信された信号に基づいて、膜分離モジュール1から流出される濃縮水量を変化させるべくバタフライ弁など開度調整可能な開度調整弁が用いられている。
【0024】
図1中の5は、前記塩濃度測定機構33から発信された信号を、例えば、開度調整弁の開度を変更する制御信号として前記濃縮水量調整機構42に伝達するための信号伝達機構を表している。
【0025】
上記のように本実施形態の水処理装置には、処理水の流出量を一定に制御する制御機構として、処理水定量化機構32が設けられていることから、濃縮水の流量を制御する濃縮水量調整機構42は、膜分離モジュール1への原水の流入量を制御する制御機構として機能することとなる。
また、この原水の流入量を制御する濃縮水量調整機構42は、塩濃度測定機構33と該塩濃度測定機構33の測定値に基づく信号を濃縮水量調整機構42に伝達する信号伝達機構5とによって、逆浸透膜12を透過する塩類の量に応じて原水の流入量を制御し得るように水処理装置に備えられている。
この逆浸透膜12を透過する塩類の量に応じて原水の膜分離モジュール1への流入量を制御する制御方法については後段において詳述する。
【0026】
なお、ここでは詳述しないが、従来公知の水処理装置に用いられている各種の装置類を本発明の効果を損ねない範囲において上記水処理装置に採用する事も可能である。
【0027】
次いで、このような水処理装置を用いて排水を工業用水として再利用すべく実施する水処理方法について説明する。
上記排水としては、例えば、電気伝導度が数千μS/cmから一万数千μS/cmレベルとなる程度に塩類を含有するものを例示することができ、該排水を、電気伝導度が1000μS/cm以下の、例えば、数百μS/cmの軟水状態とすることで、一般的な工業用水として再利用可能とすることができる。
なお、本実施形態の水処理においては、処理水の電気伝導度の上限値を、例えば、200μS/cm〜300μS/cmのいずれかの値に設定して処理を実施させることができる。
このように、排水を原水として再利用可能な工業用水(処理水)として再生させる水処理方法は、以下のようにして実施する。
【0028】
まず、前記原水搬送機構2の原水搬送ポンプ22を一定回転数で運転させて原水の供給ポイントから原水(排水)を吸引し原水配管部21を通じて膜分離モジュール1の供給水室13に排水を流入させる。
【0029】
このとき膜分離モジュール1の筐体11の内部においては、原水が逆浸透膜12に接することにより、該原水中の主として水分が逆浸透膜12を透過して透過水室に流入するとともに供給水室13においては、当初の原水中から水分が除去された状態となって塩濃度が上昇した濃縮水が形成される。
【0030】
そして、引き続き原水搬送機構2により原水を連続的に供給水室13に流入させることで供給水室13を原水よりも塩濃度が高い濃縮水で充満させるとともに、透過水室14を原水よりも塩濃度が低い処理水で充満させる。
さらに原水搬送機構2により原水を連続的に供給水室13に流入させることで透過水室14の処理水を処理水排出口から排出させて処理水搬送機構3によりユースポイントまで搬送する。
このとき、例えば、定流量弁などを用いた処理水定量化機構32により膜分離モジュール1の透過水室14から流出する処理水の流量が一定流量となるように制御を実施する。
【0031】
一方、原水搬送機構2で原水を供給水室13に流入させることで供給水室13内の濃縮水を濃縮水排出口から押し出して濃縮水搬送機構4により系外に排出する。
このときバタフライ弁などが用いられた濃縮水量調整機構42により、例えば、バタフライ弁の開度を調製して系外に排出される濃縮水の流量を、これまで流入されていた原水の量から前記処理水の流出量を差し引いた量よりも少ない量に設定する。
【0032】
処理水の流量と、濃縮水の流量との合計量をこれまでの原水流入量よりも少なく設定することで、供給水室13の水圧が上昇し、原水搬送ポンプ22の負荷がわずかに上昇する。
この供給水室13の内部の水圧の上昇にともなって原水搬送ポンプ22の負荷が増大し、原水が供給水室13に流入する量が減少するとともにバタフライ弁を通過する濃縮水の流量がわずかに減少する。
その後、処理水の流量と濃縮水の流量との合計量と原水の流入量とが同じになるようバランスされる。
なお、処理水は、定流量弁などで一定流量に制御されていることから供給水室13の水圧が上昇しても、該水圧の上昇に拮抗するように透過水室14内の水圧が上昇して流量の変動は生じない。
【0033】
このとき、電気伝導度計などにより処理水の水質を測定しつつ水処理を実施し、例えば、原水の塩濃度が上昇するなどして処理水の塩濃度の上昇が観測された場合には、前記バタフライ弁の開度を上昇させるべく制御信号を発信させる。
【0034】
このことにより濃縮水の流量を増大させることで供給水室13内の水圧が低下し原水搬送ポンプ22の負荷が低下して原水の流入量も増大されることとなる。
そして、原水の流入量を増大させることにより、供給水室13の塩濃度を低下させて処理水の塩濃度を所定値以下に制御する。
【0035】
この原水の流入量を変化させることにより処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御する方法について、より詳しく説明する。
【0036】
逆浸透膜を一定時間に通過する水分の量は、通常、逆浸透膜の種類が一定であれば、その面積と、逆浸透膜を介して隣接する空間における水圧の差(以下「差圧」ともいう)と水温によって定まる。
一方で、逆浸透膜を一定時間に通過する塩類の量は、通常、濃縮水に含まれる塩類の量と逆浸透膜の性能によって変化する。
【0037】
本実施形態においては、処理水の流出量が一定に制御されていることから、供給水室13に流入される原水の塩濃度が上昇しても逆浸透膜を一定時間に通過する水分の量は一定である。
したがって原水の流入量に変化がない場合には、一定量の原水から一定量の処理水だけが除去されて一定に濃縮された濃縮水が供給水室13に形成されることとなる。
また、逆浸透膜を通過する塩類の量は、原水に含有されている塩類の量に比べてわずかであり、原水に含有されている塩類の大部分が濃縮水とともに膜分離モジュール1から流出される。
そして流入される原水の塩濃度が上昇した場合に、膜分離モジュール1に流入させる原水の量を塩濃度が上昇する前と同量とすると、供給水室13の塩濃度も上昇することとなり、供給水室13側から逆浸透膜12を通過して透過水室14側に移動する塩類の量が増大することとなる。
【0038】
しかし、本実施形態の水処理方法においては、原水の塩濃度が上昇して透過水室14側に移動する塩類の量が増大する場合には、原水の流入量(濃縮水流出量)を増大させることから透過水室14側に移動する塩類の量の増大を抑制させることができる。
仮に、原水の単位時間当たりの流入量をV0、処理水の単位時間当たりの流出量をVTとし、濃縮水の単位時間当たりの流出量をVCとすると、この濃縮水の単位時間当たりの流出量VCは、下記式(1)で与えられる。
【0039】
【数1】

【0040】
そして、このV0の量の原水中に含有される塩類の量をC0、VTの量の処理中に含有される塩類の量をCTとし、VCの量の処理水中に含有される塩類の量をCCとすると、原水に含有される塩類の量に比べて処理水に含有される塩類の量は極めて微量(C0>>CT)であることから、VCの量の濃縮水中に含有される塩類の量CCは、下記式(2)で与えられる。
【0041】
【数2】

【0042】
したがって、濃縮水の塩濃度をDCとすると、該塩濃度は、下記式(3)で与えられることとなる。
【0043】
【数3】

ここで、本実施形態の水処理方法においては処理水の量(VT)が一定とされている。
したがって、原水の塩濃度が上昇し、原水中に含有される塩類の量(C0)が増大したとしても、原水の流入量(V0)を増大させることで濃縮水の塩濃度(DC)の上昇を抑制させることができ供給水室13側の塩濃度が上昇することを抑制させることができる。
このことにより、逆浸透膜12を透過して透過水室14に移動する塩類の量が増大することを抑制させることができる。
【0044】
なお、供給水室13側に流入させる原水の流入量を変化させた後に逆浸透膜12を透過して透過水室14に移動する塩類の量は、必ずしも、原水の塩濃度が上昇する前と同等の値に調整する必要はなく、要すれば、濃縮水の塩濃度を原水の塩濃度上昇前よりも低下させて、逆浸透膜12を透過して透過水室14に移動する塩類の量を原水の塩濃度が上昇する前の状態よりも低減させることもできる。
【0045】
また、処理水の塩濃度が工業用水に使用可能な範囲の上限値に対してはるかに小さな値となっており、多少の塩濃度の上昇を許容できる状態にある場合には、逆浸透膜12を透過して透過水室14に移動する塩類の量を原水の塩濃度上昇前に比べて増大させる原水流入量とすることも可能である。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の水処理方法においては、水処理装置に逆浸透膜12を透過する塩類の量に応じて供給水室13側に流入させる原水の流入量を変化させる制御機構が備えられていることにより、該制御機構で前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御させて水処理を実施させることができる。
【0047】
なお、上記制御においては、原水の塩濃度が上昇した際に濃縮水の流量を規制する開度調整弁の開度が向上されて供給水室13の水圧が低下することとなるがこの水圧低下にともなって透過水室14内の水圧も低下し、処理水の流出量に見合う差圧を有する状態でバランスし、処理水量は一定に維持されることとなる。
【0048】
また、ここでは詳述しないが逆浸透膜は、一般に、温度が上昇すると塩類を透過させやすい。
したがって、原水の塩濃度に変化がない場合でも原水の温度の変化によって処理水の水質が影響される場合がある。
このような場合も、上記と同様にして処理水の流出量を一定に制御するとともに供給水室13に流入させる原水の流入量を変化させることにより処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御させることができる。
【0049】
また、上記においては、原水の塩濃度が上昇した際において処理水の塩濃度を所定の値以下にさせる制御を説明したが、例えば、この所定値を上限値とする一方で、別途、下限値を設けて、処理水を所定の塩濃度の範囲に制御させることも可能である。
すなわち、例えば、逆浸透膜12を透過する塩類の量に応じて供給水室13側に流入させる原水の流入量を変化させる制御機構に処理水の塩濃度の上限値を設定するとともに下限値を設定し、処理水の塩濃度が上限値を超えることが予測される場合に原水の流入量を増大させ、下限値未満となることが予想される場合に原水の流入量を低減させる制御を実施させる事も可能である。
【0050】
また、ここでは詳述しないが、従来公知の水処理方法における各種の制御や設備運転方法を本発明においても採用可能である。
【0051】
例えば、図2乃至図10の概略ブロック図のような設備によって水処理方法を実施させることも可能である。
図1に示す水処理装置においては、原水搬送ポンプ22を一定回転数で運転させて、塩濃度測定機構33の測定結果に基づいて濃縮水量調整機構42による濃縮水の流出量の制御を実施して供給水室13に流入させる原水の量を変化させ、処理水の塩濃度を所定値以下に制御すべく、塩濃度測定機構33からの信号が濃縮水量調整機構42に伝達されるように信号伝達機構5が設けられている。
【0052】
一方で、この図2の水処理装置では、濃縮水搬送機構4に濃縮水量調整機構が設けられておらず、塩濃度測定機構33の測定結果に基づいて原水搬送ポンプ22の回転数を変化させて供給水室13に流入させる原水の量を変化させるべく原水搬送ポンプ22の回転数を変化させるためのインバータ51が設けられており、信号伝達機構5が該インバータ51に接続されている。
この図2の水処理装置を用いた水処理方法も図1に示す水処理装置の場合と同様に実施せることができる。
【0053】
例えば、処理水の塩濃度の上昇が観測された際には、インバータ51により原水搬送ポンプ22を高回転で運転させ、供給水室13に流入させる原水の量(前記式(3)における「V0」)を増大させることにより逆浸透膜12を透過して透過水室14側に移動する塩類の量が増大することを抑制させることができる。
また、要すれば、逆浸透膜12を透過して透過水室14側に移動する塩類の量を、処理水の塩濃度の上昇が観測される以前の量に比べて増減させ得る点も同様である。
この図2の水処理装置を用いることにより、図1に例示の水処理装置に比べて、膜分離モジュール1の内部の水圧の変動を抑制しつつ原水の流入水量を変化させることができ、逆浸透膜12の破損といったトラブルを抑制させつつ水処理を実施させ得る。
【0054】
これら図1、図2に示す水処理装置は、塩濃度測定機構33が処理水配管部31内を流通する処理水の塩濃度を測定すべく備えられているが、次に説明する図3、図4に図示された水処理装置は、この塩濃度測定機構33が原水配管部21を流通する原水の塩濃度を測定すべく備えられている点において異なっている。
すなわち、原水側の塩濃度が上がる場合には、通常、供給水室13での塩濃度が上昇して、供給水室13から透過水室14へ透過する処理水の塩濃度が上昇することになるため濃縮水量調整機構42による供給水室13への原水流入量の制御(図3の場合)あるいは、インバータ51での原水搬送ポンプ22の回転数制御による供給水室13への原水流入量の制御(図4の場合)を実施する。
この図3、図4の水処理装置を用いることにより、処理水の塩濃度の増大を未然に把握することができ、処理水の水質をより確実に維持させうる。
【0055】
また、図5、図6に示す水処理装置は、供給水室13から流出された濃縮水の一部を原水搬送ポンプ22よりも上流側(原水供給ポイント側)の原水配管部21に還流させる濃縮水還流機構6を備えており、該濃縮水還流機構6を構成する還流配管部61が原水配管部21と濃縮水配管部41とを連結する状態で備えられている点以外は、図2、図4に示す水処理装置とそれぞれ同様である。
また、この還流配管部61には、還流させる濃縮水の量を一定に制御するための還流水定量化機構63が設けられている。
なお、この還流水定量化機構63としては、処理水定量化機構32に用いた定流量弁などを採用し得る。
【0056】
この図5、図6に示す水処理装置は、濃縮水の一部が原水と混合された混合水が原水配管部21を通じて膜分離モジュール1に流入されることから、原水搬送ポンプ22の運転状況が同等であれば、図2、図4に示す水処理装置に比べて還流された濃縮水の分だけ供給ポイントから採取される原水の量が低減される。
また、系外に排出される濃縮水の量は減少されることとなる。
【0057】
したがって、原水の量を十分確保することが困難である場合、原水の量の変動が激しく図2、図4に示す水処理装置などでは安定した運転状態が確保し難い場合などに好適な態様であると言える。
すなわち、図5、図6に示す水処理装置で水処理を実施することにより設備の運転状態を安定化させ得るという効果を奏する。
また、濃縮水に対して、何らかの後処理を実施しなければならないような場合においては、その手間を削減させうるという効果を奏する。
図5、図6に示す水処理装置で膜分離モジュール1に流入される濃縮水と原水との混合水は、原水よりも塩濃度が高くなることから、濃縮水または原水の塩濃度が比較的低濃度である場合などに特に適した水処理方法であるといえる。
【0058】
さらに、図6に示す水処理装置で水処理を実施する場合に、処理水の塩濃度が上昇することを未然に把握することができ、処理水の水質をより確実に維持させうる点においては図3に示す水処理装置で水処理を実施する場合と同じである。
【0059】
図7、図8に示す水処理装置は、原水配管部21と濃縮水配管部41とを連結する還流配管部61が備えられており、該還流配管部61が原水搬送ポンプ22よりも上流側(原水供給ポイント側)において原水配管部21に接続され、膜分離モジュール1の供給水室13から流出された濃縮水の一部を原水搬送ポンプ22よりも上流側(原水供給ポイント側)の原水配管部21に還流させる濃縮水還流機構6を備えている点において、図1、図3に示す水処理装置と異なっている。
【0060】
また、図7、図8に示す水処理装置においては、還流配管部61との接続箇所よりも上流側(還流配管部61との接続箇所と膜分離モジュール1との間)において濃縮水配管部41に供給水室13からの濃縮水の流出量を調整する濃縮水量調整機構42が備えられており、しかも、該濃縮水量調整機構42に供給水室13からの濃縮水の流出量を一定量に制御する定流量弁が用いられている点において図1、図3に示す水処理装置と異なっている。
【0061】
さらには、還流配管部61との接続箇所よりも下流側において濃縮水配管部41に系外に排出する濃縮水の量を調整する排出量調整機構62が備えられており、しかも、塩濃度測定機構33で測定された処理水の塩濃度(図7の場合)、あるいは原水と還流された濃縮水との混合水の塩濃度(図8の場合)の結果に基づいて排出量調整機構62による濃縮水の系外排出量を制御し得るように信号伝達機構5が配されている点において図1、図3に示す水処理装置と異なっている。
【0062】
この図7、図8に示す水処理装置を用いた水処理においては、透過水室14からの処理水の流出量ならびに供給水室13からの濃縮水の流出量がいずれも一定量となるように処理水定量化機構32と濃縮水量調整機構42とが設けられていることから、膜分離モジュール1に流入させる混合水の量は一定である。
この図7、図8に示す水処理装置は、濃縮水還流機構6を備えている点において図5、図6に示した水処理装置と共通しているが、系外に排出される濃縮水の量が処理水の塩濃度、あるいは混合水の塩濃度に基づいて制御される点において図5、図6に示した水処理装置と異なっている。
【0063】
系外に排出される濃縮水の量が処理水の塩濃度、あるいは混合水の塩濃度に基づいて制御されることから、例えば、逆浸透膜12を透過する塩類の量が増大したことを塩濃度測定機構33が感知した場合には、排出量調整機構62により系外への濃縮水排出量を増大させて還流配管部61により還流される濃縮水量を減少させて混合水に占める原水の割合を増大させることができる。
すなわち、供給水室13に流入させる原水の流入量を増大させて、塩濃度を低下させた状態で混合水を供給水室13に流入させることで供給水室13の内部の塩濃度を低下させて処理水の塩濃度を所定値以下に制御させることができる。
【0064】
これら図7、図8に示す水処理装置を用いた水処理に、設備の運転状態を安定化させる効果を期待し得る点、ならびに、濃縮水の後処理の手間の削減を期待し得る点においては、図5、図6に示す水処理装置を用いる場合と同様である。
【0065】
また、図8に示す水処理装置で水処理を実施する場合に、処理水の塩濃度が所定の値以上になってしまうことを未然に把握することができ、処理水の水質をより確実に維持させうる点においては図3に示す水処理装置で水処理を実施する場合と同じである。
【0066】
図9、図10に示す水処理装置は、還流配管部61により濃縮水配管部41と原水配管部21とが接続されている点、還流配管部61との接続箇所よりも下流側において濃縮水配管部41に系外に排出する濃縮水の量を調整する排出量調整機構62が備えられており、しかも、塩濃度測定機構33で測定された処理水の塩濃度、あるいは原水と還流された濃縮水との混合水の塩濃度の結果に基づいて排出量調整機構62による濃縮水の系外排出量を制御し得るように信号伝達機構5が配されている点において図7、図8に示す水処理装置と同様に構成されている。
【0067】
また、還流配管部61との接続箇所よりも上流側に濃縮水の流出量を一定量に制御する定流量弁が用いられた濃縮水量調整機構42が備えられている点においても、図7、図8と同様に構成されている。
一方で、図7、図8などに示された水処理装置においては、いずれも、処理水配管部31に設けられた処理水定量化機構32として定流量弁などの例を挙げているが、この図9、図10に示す水処理装置は、処理水定量化機構32として処理水配管部31に設けられた流量計32aと、該流量計32aの計測値に基づいて原水搬送ポンプ22の回転数を変化させるインバータ32bと、これらの制御ライン32c(以下「処理水定量化制御ライン32c」ともいう)が備えられている点において図7、図8に記載の水処理装置と異なっている。
【0068】
すなわち、この図9、図10に示す水処理装置は、供給水室13の内部の水圧を制御し得るように構成されており、例えば、逆浸透膜に付着物が生じたり、あるいは、膜分離モジュールに導入される水の温度が変化したりして逆浸透膜の水の透過性能が変動した場合に当該変動に応じて供給水室13の内部の濃縮水の水圧を変動させて一定量の処理水が得られるように構成されている。
【0069】
このようなことから、図9、図10に示す水処理装置を用いた水処理方法は、逆浸透膜に付着物を発生させるような成分の含有量や水温といった水質に変動が大きい排水を処理するのに適した水処理方法であるといえる。
【0070】
なお、このような図1乃至図10を参照しつつ説明した事例のみならず、従来公知の水処理方法における各種の制御や設備運転方法を採用可能である。
また、上記には、金属精錬工場における洗浄排水を原水とした水処理を例に説明したが、例えば、海水の淡水化などの水処理も本発明の意図する範囲であり、本発明の水処理方法ならびに水処理装置によれば海水の淡水化などにおいても一定レベルの水質を有する水を安定的に得ることができるという効果を奏させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】一実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図2】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図3】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図4】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図5】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図6】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図7】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図8】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図9】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【図10】他実施形態に用いる水処理装置を示す概略ブロック図。
【符号の説明】
【0072】
1 膜分離モジュール
2 原水搬送機構
3 処理水搬送機構
4 濃縮水搬送機構
5 信号伝達機構
6 濃縮水還流機構
11 筐体
12 逆浸透膜
13 供給水室
14 透過水室
21 原水配管部
22 原水搬送ポンプ
31 処理水配管部
32 処理水定量化機構
32a 流量計
32b インバータ
32c 制御ライン(処理水定量化制御ライン)
33 塩濃度測定機構
41 濃縮水配管部
42 濃縮水量調整機構
51 インバータ
61 還流配管部
62 排出量調整機構
63 還流水定量化機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールに塩類を含有する原水を流入させて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で分離し、しかも、前記原水を膜分離モジュールに連続的に流入させることにより、前記濃縮水を膜分離モジュールから連続的に流出させるとともに、前記処理水を膜分離モジュールから連続的に流出させる水処理方法であって、
前記処理水の膜分離モジュールからの流出量を一定に制御するとともに、前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御し得るように前記逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて前記原水の流入量を変化させることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
逆浸透膜を透過する塩類の量を前記原水または前記処理水の電気伝導度により求める請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
逆浸透膜が用いられている膜分離モジュールを備え、該膜分離モジュールに塩類を含有する原水が流入されて、前記原水よりも塩類の濃度が低い処理水と、前記原水よりも塩類の濃度が高い濃縮水とに前記逆浸透膜で分離され、しかも、前記原水が膜分離モジュールに連続的に流入されることにより、前記濃縮水が膜分離モジュールから連続的に流出されるとともに、前記処理水が膜分離モジュールから連続的に流出される水処理装置であって、
前記処理水の膜分離モジュールからの流出量を一定に制御する制御機構と、前記逆浸透膜を透過する塩類の量に応じて前記原水の流入量を変化させることにより前記処理水の塩類の濃度を所定値以下に制御する制御機構とを備えていることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
逆浸透膜を透過する塩類の量を求め得るように、前記原水または前記処理水の電気伝導度を測定する電気伝導度計が備えられている請求項3記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−106832(P2009−106832A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280154(P2007−280154)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】