説明

水分散体の製造法

【課題】凝集力の強いカーボンブラックを安定に分散した水分散体及びその製造法、並びに分散性、濾過性及び保存安定性に優れ、高印字濃度を付与するインクジェット記録用水系インクを提供すること。
【解決手段】カーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子が水に分散してなる水分散体であって、前記カーボンブラックがDBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラックであり、前記水不溶性ビニルポリマーが塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマーである水分散体、(A)DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラック、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマー、該水不溶性ビニルポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を含有する混合物を混練し、(B)得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させた後、(C)得られた分散物を濾過する工程を含む前記水分散体の製造法、並びに前記水分散体を含有してなるインクジェット記録用水系インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インク並びに該水系インクに用いられる水分散体及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに使用されるインクには、耐水性や耐光性を向上させるために、近年、顔料インクが使用されている。
【0003】
印字濃度を高めるために、比表面積が高いカーボンブラックを用いる技術が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、比表面積が高いカーボンブラックを用いたインクは、その粘度が非常に高いために吐出性が低下してしまい、大幅な印字濃度向上にはつながらないという欠点がある。また、耐光性、高印字濃度を向上させる技術として、水酸基含有モノマーを含む水不溶性ポリマーを用いた顔料インクも提案されているが(特許文献2参照)、特に普通紙に対してはより一層の印字濃度の向上が望まれている。
【0004】
一方、インクジェット記録用水系インクの製造方法では、一般に、有機溶媒あるいは水中で、5〜30重量%程度の低固形分濃度の顔料を分散させることによって製造されているが、比表面積が高いカーボンブラックを用いる場合、この製法では充分に分散させることが困難である(特許文献3及び4参照)。
【0005】
更に、カーボンブラックを用いたインクは、染料インクと比べて保存安定性が劣るため、分散粒径をできる限り小さくすることが好ましい。また、カーボンブラックを用いたインクは、粗大粒子が多く、濾過性に劣るため、より優れた濾過性が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002-542368号公報
【特許文献2】国際公開第00/39226号パンフレット
【特許文献3】特開平8-183920号公報
【特許文献4】特開平8-218013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、凝集力の強いカーボンブラックを安定に分散した水分散体及びその製造法、並びに分散性、濾過性及び保存安定性に優れ、高印字濃度を付与するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕カーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子が水に分散してなる水分散体であって、前記カーボンブラックがDBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラックであり、前記水不溶性ビニルポリマーが塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマーである水分散体、
〔2〕(A)DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラック、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマー、該水不溶性ビニルポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を含有する混合物を混練し、
(B)得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させた後、
(C)得られた分散物を濾過する
工程を含む前記〔1〕記載の水分散体の製造法、並びに
〔3〕前記〔1〕記載の水分散体を含有してなるインクジェット記録用水系インク
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、凝集力の強いカーボンブラックを安定に分散した水分散体を得ることができる。さらに、本発明の水分散体を用いて、分散性、濾過性及び保存安定性に優れ、高印字濃度を付与するインクジェット記録用水系インクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、カーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子が水に分散した水分散体において、カーボンブラックとして、特定のDBP吸油量を有する顔料が用いられている点に1つの特徴がある。本発明におけるカーボンブラックのDBP吸油量は、分散性及び印字濃度向上の観点から、100(cm3/100g)以上、好ましくは110(cm3/100g)以上、より好ましくは150(cm3/100g)以上であり、また、分散の容易さの観点から、350(cm3/100g)以下が好ましい。なお、DBP吸油量とは、DBP(ジブチルフタレート)法により測定された吸油量をいい、具体的には、ASTM D2414-65Tに従って測定される。
【0011】
カーボンブラックは、前記DBP吸油量を有するカーボンブラックであれば特に限定されないが、分散性及び印字濃度をより一層向上させるためには、ストラクチャーが高いカーボンブラックが好ましい。かかる観点から、カーボンブラックの比表面積は、110m2/g以上が好ましく、140m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上が特に好ましく、また、分散の容易さの観点から、5000m2/g以下が好ましい。なお、比表面積は、窒素吸着(BET法)法にて測定した値である。
【0012】
また、比表面積と同様の観点から、カーボンブラックの粒子径は、24nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、18nm以下が特に好ましく、また、分散の容易さの観点から、3nm以上が好ましい。なお、かかる粒子径とは、カーボンブラックの一次粒子径をいい、電子顕微鏡等により測定することができる。
【0013】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0014】
カーボンブラックの量は、印字濃度の観点から、ポリマーの樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは100〜1200重量部、より好ましくは150〜900重量部、更に好ましくは280〜600重量部である。
【0015】
さらに、カーボンブラック以外の無機顔料又は有機顔料を、水不溶性ビニルポリマー粒子に含有させてもよい。また、必要により、それらと体質顔料とを併用することもできる。
【0016】
カーボンブラック以外の無機顔料としては、金属酸化物、金属硫黄物、金属塩化物等が挙げられる。
【0017】
有機顔料としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。本発明において好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13, 17, 74, 83, 97, 109, 110, 120, 128, 151, 154, 155, 174, 180、C.I.ピグメント・レッド48, 57:1, 122, 146, 176, 184, 185, 188, 202、C.I.ピグメント・バイオレット19, 23、C.I.ピグメント・ブルー15, 15:1, 15:2, 15:3, 15:4, 16, 60、C.I.ピグメント・グリーン7, 36等が挙げられる。
【0018】
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0019】
本発明では、水不溶性ビニルポリマーとして、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマーが用いられる。かかる水不溶性ビニルポリマーは、塩生成基を中和させた後の水不溶性ビニルポリマーの25℃での水に対する溶解度が、水系インクの低粘度化の観点から10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
【0020】
水不溶性ビニルポリマーとしては、
(A)塩生成基含有モノマー、
(B)マクロマー、
(C)ノニオン性の親水性モノマー、並びに
(D)塩生成基含有モノマー、マクロマー及びノニオン性の親水性モノマーと共重合可能な疎水性モノマー
を含有するモノマー混合物(以下、モノマー混合物という)を重合させたものが好ましい。なお、本発明の課題を解決できる範囲内で、他のモノマーを用いることができる。
【0021】
塩生成基含有モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられる。
【0022】
アニオン性モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸〔(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらの混合物を意味する〕、スチレンカルボン酸、マレイン酸系モノマー〔無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸モノアミド、又はそれらのうちの2種類以上の混合物〕、イタコン酸等が挙げられる。
【0024】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-アルキル(炭素数1〜4)プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0025】
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0026】
これらの中では、印字濃度及び保存安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0027】
カチオン性モノマーとしては、不飽和3級アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。
【0028】
不飽和3級アミン含有モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン等が挙げられる。不飽和アンモニウム塩含有モノマーとしては、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
なお、塩生成基含有モノマーとして、水不溶性ビニルポリマーがアニオン性ポリマーであるためには、アニオン性モノマーが用いられていることが好ましく、また水不溶性ビニルポリマーがカチオン性ポリマーであるためには、カチオン性モノマーが用いられていることが好ましい。
【0030】
マクロマーとしては、数平均分子量が好ましくは400〜100,000、より好ましくは600〜12,000の重合可能な不飽和基を有するマクロマーが挙げられる。マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0031】
マクロマーの具体例としては、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系マクロマー、例えばメチルメタクリレート系マクロマー、ブチルアクリレート系マクロマー、イソブチルメタクリレート系マクロマー等が挙げられる。これらの中では水不溶性ビニルポリマーにカーボンブラックを十分に含有させる観点から、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。これらは単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0032】
スチレン系マクロマーは、ビニルポリマーにカーボンブラックを十分に含有させる観点から、好適に使用しうるものである。
【0033】
スチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体又はスチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。これらの中では、片末端に重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するものが好ましい。
【0034】
スチレンと他のモノマーとの共重合体におけるスチレン含量は、カーボンブラックが十分に水不溶性ビニルポリマーに含有されるようにする観点から、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。他のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0035】
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、東亜合成(株)製のAS-6、AS-6S, AN-6、AN-6S, HS-6、HS-6S等が挙げられる。
【0036】
シリコーンマクロマーの中では、一般式(I):
X(Y)qSi(R13-r(Z)r (I)
(式中、Xは重合可能な不飽和基、Yは2価の結合基、R1はそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基、アリール基又はアルコキシ基、Zは500以上の数平均分子量を有する1価のシロキサンポリマーの残基、qは0又は1、rは1〜3の整数を示す)
で表されるシリコーンマクロマーが、インクジェットプリンターのヘッドの焦げ付きを防止する観点から好ましい。
【0037】
一般式(I)で表されるシリコーンマクロマーにおいて、Xは重合可能な不飽和基であるが、その代表例としては、CH2=CH−、CH2=C(CH3)−等の炭素数2〜6の1価の不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0038】
Yは、2価の結合基であるが、その代表例としては、−COO−、−COO(CH2)a−(aは1〜5の整数を示す)、フェニレン基等の2価の結合基が挙げられる。これらの中では-COOC3H6-が好ましい。
【0039】
1は、それぞれ独立して水素原子、低級アルキル基、アリール基又はアルコキシ基であるが、その具体例としては、水素原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基;フェニル基等の炭素数6〜20のアリール基;メトキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基等が挙げられる。これらの中では、メチル基が好ましい。
【0040】
Zは、好ましくは500以上の数平均分子量を有する1価のシロキサンポリマーの残基であるが、好ましいZとしては、数平均分子量500〜5000のジメチルシロキサンポリマーの1価の残基が挙げられる。
【0041】
qは0又は1であるが、好ましくは1である。rは1〜3の整数であるが、より好ましくは1である。
【0042】
シリコーンマクロマーの代表例としては、下記の一般式(II)、(III)、(IV)、(V)で表されるシリコーンマクロマー等が挙げられる。
【0043】
CH2=CR2-COOC3H6-[Si(R3)2-O]b-Si(R3)3 (II)
CH2=CR2-COO-[Si(R3)2-O]b-Si(R3)3 (III)
CH2=CR2-Ph-[Si(R3)2-O]b-Si(R3)3 (IV)
CH2=CR2-COOC3H6-Si(OE)3 (V)
〔式中の各記号の意味は次のとおり;
2:水素原子又はメチル基
3:それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基
b:5〜60の数
Ph:フェニレン基
E:-[Si(R2)2-O]c-Si(R2)3基(R2は前記と同じ。cは5〜65の数を示す)〕
これらの中では、一般式(II)で表されるシリコーンマクロマーが好ましく、特に次の一般式(VI):
CH2=C(CH3)-COOC3H6-[Si(CH3)2-O]d-Si(CH3)3 (VI)
(式中、dは8〜40の数を示す)
で表されるシリコーンマクロマーが好ましい。その具体例として、FM-0711〔チッソ(株)製〕等が挙げられる。
【0044】
ノニオン性の親水性モノマーとしては、下記一般式で示されるものが好ましく、オキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位を構成単位として有するモノマーが好ましく、pは、好ましくは2〜25である。
【0045】
CH2=CR4COO(AO)pR5
〔式中、AOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン単位を示し(但し、p個のオキシアルキレン単位は、同一でも異なっていてもよい。)、オキシアルキレン単位が異なる場合は、ブロック付加、ランダム付加、及び交互付加のいずれでもよい。R4は水素原子又はメチル基、pは1〜50の数、R5は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜9のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。〕
【0046】
ノニオン性の親水性モノマーとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
商業的に入手しうるノニオン性の親水性モノマーの具体例としては、新中村化学(株)製のNKエステルM-20G, 40G, 90G, 230G, 日本油脂(株)のブレンマーPEシリーズ、PME-100, 200, 400, 1000, PP-1000, PP-500, PP-800, AP-150, AP-400, AP-550, AP-800, 50PEP-300, 70PEP-350B, AEPシリーズ, 30PPT-800, 50PPT-800, 70PPT-800等が挙げられる。
【0048】
疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー、環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。疎水性モノマーには、耐水性及び耐擦過性の観点から、芳香環含有モノマーより選ばれた1種以上が含有されていることが好ましい。
【0049】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のエステル部分が炭素数1〜22のアルキル基である(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
なお、前記(イソ又はターシャリー)及び(イソ)は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。
【0051】
芳香環含有モノマーは、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸及びネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステルからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。これらの中ではスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンからなる群より選ばれた1種以上が、耐水性及び耐擦過性の観点からより好ましい。
【0052】
環式(メタ)アクリレートとしては、炭素数3以上の単環式、二環式、さらには三環式以上の多環式(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、炭素数3以上の単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、二環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、三環式(メタ)アクリレートとしてはアダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、保存安定性の観点から、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート及びアダマンチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
モノマー混合物における塩生成基含有モノマーの含量(原料基準)は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜45重量%、更に好ましくは3〜40重量%である。
【0054】
モノマー混合物におけるマクロマーの含量(原料基準)は、分散安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
【0055】
モノマー混合物におけるノニオン性の親水性モノマーの含量(原料基準)は、吐出安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0〜40重量%、より好ましくは2〜35重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0056】
モノマー混合物における疎水性モノマーの含量(原料基準)は、印字濃度及び分散安定性の観点から、好ましくは5〜93重量%、より好ましくは10〜80重量%、更に好ましくは15〜75重量%である。
【0057】
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、カーボンブラックの分散安定性及びインク粘度への影響を考慮して、好ましくは3,000〜300,000、より好ましくは3,500〜250,000、更に好ましくは4,000〜200,000である。水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、実施例に示す方法を用いて測定したときの値である。
【0058】
水不溶性ビニルポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
【0059】
溶液重合法で用いる溶媒は、極性有機溶媒であることが好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。
【0060】
極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらと水との混合液が好ましい。必要に応じてトルエンを用いてもよい。
【0061】
なお、重合の際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスブチレート、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物が好適である。また、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を使用することもできる。
【0062】
重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
【0063】
なお、重合の際には、更に重合連鎖移動剤を添加してもよい。重合連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、タービノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、α−メチルスチレンダイマー、9,10−ジヒドロアントラセン、1,4−ジヒドロナフタレン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン等の不飽和環状炭化水素化合物;2,5−ジヒドロフラン等の不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられる。これらの重合連鎖移動剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜85℃であり、重合時間は好ましくは2〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0065】
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成した水不溶性ビニルポリマーを単離することができる。また、得られた水不溶性ビニルポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0066】
本発明の水分散体を製造する方法は特に限定されないが、
(A)DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラック、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマー、該水不溶性ビニルポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を含有する混合物を混練し、
(B)得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させた後、
(C)得られた分散液を濾過する
工程を有する方法により、凝集力の高いカーボンブラックを用いる場合であっても、カーボンブラックが充分に微粒化した水分散体を得ることができる。
【0067】
工程(A)において用いる中和剤としては、水不溶性ポリマーが有する塩生成基の種類に応じて酸又は塩基を使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、及び酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中和剤の量は、特に限定されないが、通常、得られる水分散体のpHが4.0〜10.0となるように調整することが好ましい。なお、カーボンブラックと中和剤とを混合する前に、予め塩生成基を中和剤で中和しておいてもよい。
【0068】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0069】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0070】
芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒としては、塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等が挙げられる。
【0071】
前記有機溶媒の中では、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0072】
水は、イオン交換水又は蒸留水を用いるのが好ましい。また、ノズルの目詰まり防止等の観点から、不純分をできる限り除去して用いることが望ましい。
【0073】
水の量は、カーボンブラックのなじみやすさの観点から、前記有機溶媒100重量部に対して、好ましくは100〜1000重量部、より好ましくは100〜600重量部である。
【0074】
混合物における固形分濃度は、混合物を混練する際に、有効な剪断力を得る観点から、20重量%以上が好ましく、また得られる混練物の粘度が高くなりすぎて均一な混練ができなくなるのを回避するとともに、混練物が崩壊して粒子状となることを回避する観点から、80重量%以下が好ましい。これらの観点から、前記混合物における固形分濃度は、20〜80重量%が好ましく、20〜75重量%がより好ましい。なお、ここで、混合物における固形分は、カーボンブラック、ポリマー及び中和剤の固形分を合わせたものである。
【0075】
本発明においては、混練時に、カーボンブラック及びポリマー以外に中和剤、有機溶媒及び水が混合物中に存在するため、カーボンブラックへのポリマーの吸着力が強くなり、微粒化を十分に行うことができる。
【0076】
混合物を混練する際には、混練装置として、例えば、ニーダー、プラネタリーミキサー、エクストルーダー、ロールミル等を用いることができる。これらの中では、剪断応力が強く、また操作条件の制御が容易という観点から、ニーダーが好ましい。
【0077】
なお、混練装置によって得られた混練物には、粗大粒子が含まれる場合がある。したがって、この場合には、その混練物を更にロールミルで混練することが好ましい。ロールミルとしては、2本ロールミルや3本ロールミルを用いることができる。その混練の際には、水を添加することが好ましい。
【0078】
混合物を構成する各原料を混練装置に投入する際には、(1)それぞれ別々に混練装置に投入してもよく、(2)あらかじめ、カーボンブラック、ポリマー、該ポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を、別容器で混合した後、一括して混練装置に投入してもよく、あるいは(3)ポリマー、有機溶媒、水及び中和剤をあらかじめ別容器で混合し、得られた混合物とカーボンブラックとを混練装置に投入してもよい。これらの方法の中では、ポリマーの中和及びカーボンブラックのなじみやすさの点から、(I-1)ポリマー、有機溶媒、水及び中和剤を混練装置内で混合するか、又は(I-2)これらの原料を別容器内で混合した後、得られた混合物を混練装置に投入し、(II)ついでカーボンブラックを投入する方法が好ましい。
【0079】
混練時の温度は、混練に適した剪断応力を得る観点から、50℃以下が好ましく、5〜50℃がより好ましく、10〜35℃が更に好ましい。混練時の温度は、混練装置のジャケットに流す冷却媒体の温度又は流量で調節することができる。
【0080】
混練は、混合物を構成している原料が均一に分散するまで行うことが好ましい。かくして混練を行った後に、得られた混練物を工程(B)に供する。
【0081】
工程(B)では、得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させる。水系インクに用いる場合には、水分散体から有機溶媒を除去するため、水を添加することが好ましい。
【0082】
混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させる方法には、特に限定がなく、公知の希釈装置を用いることができる。かかる装置としては、例えば、ディスパーやバタフライミキサー等が挙げられる。
【0083】
混練物に添加する水及び/又は有機溶媒の総量は、得られる混合液中の固形分濃度が、通常、10〜45重量%程度となる量に調整するのが好ましい。ここでの固形分は前記と同じ意味である。
【0084】
工程(C)では、得られた分散物を濾過し、粗大粒子を除去する。濾過の方法は、特に限定されないが、フィルター濾過等により行うことができ、必要に応じて、遠心分離を行った後に、濾過を行ってもよい。濾過に用いるフィルターのメッシュは、100〜300メッシュ(目開き0.144〜0.045mm)が好ましい。
【0085】
必要に応じて、工程(C)で得られた濾液中の固形分を更に分散装置で分散させてもよい。前記工程(C)の濾液を用いることで、分散の効率が上がり、粒径の均一なポリマー粒子が得られやすい。
【0086】
分散装置としては、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速撹拌型分散機等が挙げられる。これらの中では、無機不純物の混入が少ないことから、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0087】
高圧ホモジナイザーとしては、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するもの、処理液の流路の幅を調整しうる均質バルブを有するもの等が挙げられる。処理液の流路が固定されたチャンバーを有する高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製、商品名)、ナノマイザー(ナノマイザー社製、商品名)、アルティマイザー(スギノマシン社製、商品名)等が挙げられる。均質バルブを有する高圧ホモジナイザーとしては、高圧ホモジナイザー(ラニー社製、商品名)、高圧ホモジナイザー〔三丸機械工業(株)製、商品名〕、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製、商品名)等が挙げられる。
【0088】
高圧ホモジナイザーで分散する際の圧力は、所望の粒径を有するポリマー粒子を短時間で容易に得ることができることから、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上である。
【0089】
高圧ホモジナイザー等を用いて固形分を分散させた分散液は、さらに、フィルター等を用いて濾過してもよい。
【0090】
かくして、本発明の水分散体が得られる。DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の含有量は、水分散体中、2〜30重量%が好ましく、DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラックの含有量は、水分散体中、1〜25重量%が好ましい。
【0091】
本発明の水分散体を用いて水系インクを製造する場合、この水分散体から有機溶媒を除去することが好ましい。
【0092】
水分散体から有機溶媒を除去する方法としては、特に限定されないが、減圧蒸留法が好ましく、薄膜式がより好ましい。
【0093】
なお、必要に応じて、遠心分離、フィルター濾過等により、水分散体から粗大粒子を除去してもよい。
【0094】
カーボンブラックを含有するポリマー粒子の平均粒径は、ノズルの目詰まり防止及び保存安定性の観点から、好ましくは0.01〜0.50μm、より好ましくは0.02〜0.30μm、更に好ましくは0.04〜0.20μmである。平均粒径は実施例に示す方法で測定される。
【0095】
水分散体には、必要に応じて湿潤剤、分散剤、消泡剤、防黴剤、キレート剤等の添加剤を添加することにより、本発明のインクジェット記録用水系インクを得ることができる。本発明の水系インクにおいて、「水系」とは、インクに含有された溶媒中、水が最大割合を占めていることを意味するものであり、溶媒は、水100%であっても、水と1種又は2種以上の有機溶剤との混合物であってもよい。水系インク中、水の含有量は、60〜90重量%が好ましい。水系インクにおける水分散体中の固形分の含有量は、印字濃度及び吐出安定性の観点から、水系インクに含まれているカーボンブラック含有ポリマー粒子の水分散体中のポリマー粒子の含有量(固形分)が1〜30重量%、好ましくは2〜15重量%となるように調整することが望ましい。水系インク中、DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラックの含有量は、0.8〜25重量%が好ましい。
【実施例】
【0096】
製造例1
反応容器内に、メチルエチルケトン20重量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03重量部、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート2.5重量部、メタクリル酸1.4重量部、スチレンモノマー5.1重量部及びスチレン系マクロマー1.0重量部を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行って混合溶液を得た。
【0097】
一方、滴下ロートに、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート22.5重量部、メタクリル酸12.6重量部、スチレンモノマー45.9重量部及びスチレン系マクロマー9.0重量部を仕込み、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.27重量部、メチルエチルケトン60重量部及び2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.2重量部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
【0098】
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その混合溶液の液温を75℃で2時間維持した後、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3重量部をメチルエチルケトン5重量部に溶解した溶液を該混合溶液に加え、更に75℃で2時間、85℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0099】
得られたポリマー溶液の一部を、減圧下で105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、標準物質としてポリスチレン、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、得られたポリマーの重量平均分子量を測定したところ、60000であった。
【0100】
なお、本製造例にて用いた各化合物の詳細は、以下のとおりである。
・メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート:数平均分子量:293、新中村化学工業(株)製、NKエステルM-40G
・メタクリル酸:三菱瓦斯化学(株)製、GE-110
・スチレンモノマー:新日鉄化学(株)製、スチレンモノマー
・スチレン系マクロマー:東亜合成(株)製、AS-6
【0101】
実施例1
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー20重量部をメチルエチルケトン溶液40重量部に溶解し、得られた溶液にイオン交換水78重量部及び5N-水酸化ナトリウム水溶液6.9重量部を添加し、ディスパー翼で30分間混合した後、ニーダーに仕込んだ。更に、カーボンブラック〔キャボット(株)製、MONARCH880〕80重量部をこれに加えた。この際の固形分濃度は45重量%であった。密閉状態でジャケットに1℃の冷却水を流して20℃で2時間混練して混練物を得た。
【0102】
得られた混練物に、3本ロールミルで混練しながらイオン交換水10重量部を加えた。その後、イオン交換水50重量部を加えて希釈分散後、200メッシュ(目開き0.077mm)のフィルターを用いて濾過した濾液を、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製、商品名)で、150MPaの圧力で10パス分散処理した。
【0103】
得られた分散処理物にイオン交換水30重量部を加えて撹拌した後、減圧下で60℃で有機溶媒と一部の水を除去し、更に平均孔径5μmのフィルター〔日本ポール(株)製〕で濾過し、粗大粒子を除去し、固形分濃度が20重量%のカーボンブラック含有ポリマー粒子の水分散体を得た。
【0104】
次に、得られたカーボンブラック含有ポリマー粒子の水分散体40重量部、グリセリン15重量部、2-{2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシ}エタノール5重量部、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数:10)0.5重量部及びイオン交換水39.5重量部を混合し、水系インクを得た。
【0105】
実施例2
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー40重量部をメチルエチルケトン溶液60重量部に溶解し、得られた溶液にイオン交換水140重量部及び5N-水酸化ナトリウム水溶液13.9重量部を添加し、ディスパー翼で30分間混合した後、ニーダーに仕込んだ。更に、カーボンブラック〔キャボット(株)製、BLACK PEARLS 2000〕60重量部をこれに加えた。この際の固形分濃度は33重量%であった。密閉状態でジャケットに1℃の冷却水を流して20℃で2時間混練して混練物を得た。
【0106】
得られた混練物を用い、実施例1と同様にして、水系インクを得た。
【0107】
比較例1
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー20重量部をメチルエチルケトン溶液30重量部に溶解し、得られた溶液に、イオン交換水65重量部及び5N-水酸化ナトリウム水溶液6.9重量部を添加し、ディスパー翼で30分間混合した後、更にカーボンブラック〔キャボット(株)製、Regal 330R〕80重量部を加え、ニーダーに仕込んだ。この際の固形分濃度は、50重量%であった。密閉状態でジャケットに1℃の冷却水を流して20℃で2時間混練して混練物を得た。
【0108】
得られた混練物を用い、実施例1と同様にして、水系インクを得た。
【0109】
得られた水系インクについて、下記方法により分散性、濾過性、保存安定性及び印字濃度を評価した。その結果を、実施例及び比較例で用いたカーボンブラックの物性とともに、表1に示す。
【0110】
(1)分散性
大塚電子(株)製、レーザー粒子解析システムELS-8000を用い、水系インク中に分散したポリマー粒子の平均粒径を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0111】
〔評価基準〕
○:平均粒径が180nm以下
△:平均粒径が180nm以上240nm未満
×:平均粒径が240nm以上
【0112】
(2)濾過性
5μmのフィルター〔アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士写真フイルム(株)製〕を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ〔テルモ(株)製〕で濾過し、フィルター1個が目詰まりするまでの通液量を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0113】
〔評価基準〕
○:通液量が100mL以上
△:通液量が20mL以上100mL未満
×:通液量が20mL未満
【0114】
(3)保存安定性
水系インクを、70℃で14日間保存し、保存前後の水系インクの粘度を、東機産業(株)製、RE80L型粘度計(ローター1)を用い、20℃で100r/minで測定した。
測定した粘度の値を用い、下記式より保存安定度を算出し、以下の評価基準に基づいて保存安定性を評価した。
〔保存安定度(%)〕=(〔保存後の粘度〕/〔保存前の粘度〕)×100
【0115】
〔評価基準〕
○:保存安定度が90%以上110%未満
△:保存安定度が80%以上90%未満、又は110%以上120%未満
×:保存安定度が80%未満、又は120%以上
【0116】
(4)印字濃度
市販のエプソン社製のインクジェットプリンター(型番:EM900C)を用い、市販の普通紙(XEROX4200)にベタ印字し、25℃で24時間放置後、印字濃度をマクベス濃度計(マクベス社製、品番:RD914)で測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0117】
〔評価基準〕
○:印字濃度が1.2以上
△:印字濃度が1.0以上1.2未満
×:印字濃度が1.0未満
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示された結果から、実施例1、2によれば、比較例1と対比して、分散粒子の平均粒径がより小さい水分散体、及びそれが用いられた分散性、濾過性及び保存安定性に優れ、かつ高印字濃度を付与する水系インクが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の水分散体は、インクジェット記録用水系インクに好適に用いることができる。
【0121】
なお、本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
〔1〕 カーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子が水に分散してなる水分散体であって、前記カーボンブラックのDBP吸油量が100(cm3/100g)以上であり、前記水不溶性ビニルポリマーが塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマーである水分散体。
〔2〕 カーボンブラックの、比表面積が110m2/g以上又は粒子径が24nm以下である前記〔1〕記載の水分散体。
〔3〕 水不溶性ビニルポリマーが、
(A)塩生成基含有モノマー、
(B)マクロマー、
(C)ノニオン性の親水性モノマー、並びに
(D)塩生成基含有モノマー、マクロマー及びノニオン性の親水性モノマーと共重合可能な疎水性モノマー
を重合させてなるものである、前記〔1〕又は〔2〕記載の水分散体。
〔4〕 共重合可能な疎水性モノマーが芳香環含有モノマーである前記〔3〕記載の水分散体。
〔5〕 (A)DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラック、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマー、該水不溶性ビニルポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を含有する混合物を混練し、
(B)得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させた後、
(C)得られた分散液を濾過する
工程を含む前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の水分散体の製造法。
〔6〕 工程(A)において、混合物をニーダーで混練し、更にロールミルで混練した後、得られた混練物を工程(B)に供する前記〔5〕記載の水分散体の製造法。
〔7〕 工程(C)の後に、得られた濾液中の固形分を高圧ホモジナイザーで分散させる前記〔5〕又は〔6〕いずれか記載の水分散体の製造法。
〔8〕 前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の水分散体を含有してなるインクジェット記録用水系インク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有する水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子が水に分散してなる水分散体であって、前記カーボンブラックのDBP吸油量が100(cm3/100g)以上であり、前記水不溶性ビニルポリマーが塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマーである水分散体。
【請求項2】
カーボンブラックの、比表面積が110m2/g以上又は粒子径が24nm以下である請求項1記載の水分散体。
【請求項3】
水不溶性ビニルポリマーが、
(A)塩生成基含有モノマー、
(B)マクロマー、
(C)ノニオン性の親水性モノマー、並びに
(D)塩生成基含有モノマー、マクロマー及びノニオン性の親水性モノマーと共重合可能な疎水性モノマー
を重合させてなるものである、請求項1又は2記載の水分散体。
【請求項4】
共重合可能な疎水性モノマーが芳香環含有モノマーである請求項3記載の水分散体。
【請求項5】
(A)DBP吸油量が100(cm3/100g)以上のカーボンブラック、塩生成基を有する水不溶性ビニルポリマー、該水不溶性ビニルポリマーを中和するための中和剤、有機溶媒及び水を含有する混合物を混練し、
(B)得られた混練物に水及び/又は有機溶媒を添加し、混練物を分散させた後、
(C)得られた分散液を濾過する
工程を含む請求項1〜4いずれか記載の水分散体の製造法。
【請求項6】
工程(A)において、混合物をニーダーで混練し、更にロールミルで混練した後、得られた混練物を工程(B)に供する請求項5記載の水分散体の製造法。
【請求項7】
工程(C)の後に、得られた濾液中の固形分を高圧ホモジナイザーで分散させる請求項5又は6いずれか記載の水分散体の製造法。
【請求項8】
請求項1〜4いずれか記載の水分散体を含有してなるインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2011−174071(P2011−174071A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56914(P2011−56914)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【分割の表示】特願2003−277786(P2003−277786)の分割
【原出願日】平成15年7月22日(2003.7.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】