説明

水分散型感圧性接着剤組成物とその製造方法、及び粘着シート

【課題】 粘着シートとした際に、溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量及び端末剥がれ性の経時安定性に優れた水分散型感圧性接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 水分散型感圧性接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる高分子を含有する。この組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含まない組成で重合した場合に溶剤不溶分が5%以下となる樹脂組成物が得られる単量体混合物と、該単量体混合物100重量部に対して0.005〜1重量部のシラン系単量体とを前記と同一条件下で共重合して得られる高分子を含有する水分散型感圧性接着剤組成物であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系の水分散型感圧性接着剤(粘着剤)とその製造方法及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
水分散型のアクリル系粘着剤を用いた粘着シートは、溶剤を用いないため、環境衛生上望ましく、耐溶剤性の点でも優れるなどの利点を有している。一般に、この粘着シートは、粘着剤層の保持力等に影響を及ぼす溶剤不溶分を調整するため、アクリル系モノマーを主成分とする単量体混合物の重合終了後に架橋剤を添加して粘着剤組成物を調製し、これを基材上に塗布することにより製造している。しかし、このようにして得られた粘着シートでは、粘着剤層を構成する粘着剤の溶剤不溶分及び該粘着剤の溶剤可溶部の分子量が経時的に変化し、それに伴って端末剥がれ性(被着体貼付後において端部が剥がれにくい性質)も変化するという問題があった。また、溶剤型の粘着剤を用いた粘着シートと比較した場合、上記の水分散型粘着剤を用いた粘着シートは端末剥がれ性と保持性の2つの性能を両立することが困難であるという欠点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、粘着シートとした際に、溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量及び端末剥がれ性の経時安定性に優れた水分散型感圧性接着剤組成物とその製造方法、及び前記の優れた特性を有する粘着シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、溶剤型粘着剤と同等か又はそれ以上に優れた端末剥がれ性及び保持性を示す水分散型感圧性接着剤組成物とその製造方法、及び前記特性を有する粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、水分散型の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物において、シラン系単量体と必要に応じて連鎖移動剤を添加して重合すると、溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量及び端末剥がれ性の経時安定性が良好な粘着剤組成物が得られることを見出した。また、特に、ポリマーとしたときの溶剤不溶分が特定値以下となるような(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物に対しシラン系単量体を特定の割合で添加して共重合させると、水分散型粘着剤であっても、優れた端末剥がれ性と高い保持性とを両立できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる高分子を含有する水分散型感圧性接着剤組成物を提供する。
【0006】
この組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含まない組成で重合した場合に溶剤不溶分が5%以下となる樹脂組成物が得られる単量体混合物と、該単量体混合物100重量部に対して0.005〜1重量部のシラン系単量体とを前記と同一条件下で共重合して得られる高分子を含有する水分散型感圧性接着剤組成物であってもよい。
【0007】
本発明は、また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物を乳化重合に付す水分散型感圧性接着剤組成物の製造方法を提供する。乳化重合は連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0008】
本発明は、さらに、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物の共重合体からなる粘着剤層を備えた粘着シートを提供する。
【0009】
なお、本明細書において、「溶剤不溶分」とは、所定量(約500mg)の試料を精秤し(そのうち不揮発分の重量をW1mgとする)、これを酢酸エチル中に室温で3日間浸漬した後、不溶物を取り出し、この不溶物を100℃で2時間乾燥させて重量(W2mg)を測定し、下記式
溶剤不溶分(重量%)=(W2/W1)×100
に従って算出したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水分散型のアクリル系粘着剤を用いるので環境衛生上望ましいだけでなく、水分散型であるにもかかわらず、溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量及び端末剥がれ性の経時安定性に優れる。
また、特に、ポリマーとしたときの溶剤不溶分が特定値以下となるような単量体混合物に対してシラン系単量体を特定の割合で共重合させた場合には、極めて優れた端末剥がれ性と保持性とが発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において主構成単量体として用いる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、一般式(1)
CH2=C(R1)COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数2〜14のアルキル基を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0012】
前記R2として、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基などが例示できる。なかでも、R2として、ブチル基、2−エチルヘキシル基などの炭素数2〜10のアルキル基が好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独でまたは2種以上混合して使用できる。例えば、アクリル酸アルキルエステルとして、アクリル酸ブチル単独、又はアクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとを組み合わせて使用できる。この場合、アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸ブチルとの割合は、前者/後者=0/100〜55/45(例えば、5/95〜60/40)程度である。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物中の該(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、上記(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステル]の比率は、一般に80重量%以上(例えば80〜99.8重量%程度)、好ましくは85重量%以上(例えば85〜99.5重量%程度)、さらに好ましくは90重量%以上(例えば90〜99重量%程度)である。
【0014】
前記単量体混合物は、熱架橋するための架橋点を導入するため、通常、官能基含有単量体(熱架橋性官能基含有単量体)を含んでいる。該官能基含有単量体をコモノマー成分として用いることにより被着体に対する接着力も向上する。
【0015】
前記官能基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体又はその酸無水物;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのグリシジル基含有単量体;(メタ)アクリロニトリル、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドンなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体又はその酸無水物などが好ましい。上記の官能基含有単量体は1種または2種以上使用することができる。
【0016】
上記官能基含有単量体の使用量は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル100重量部に対して、例えば0.5〜12重量部、好ましくは1〜8重量部程度である。
【0017】
また、前記単量体混合物には、凝集力等の特性を高めるため、必要に応じて、その他の共重合性単量体が含まれていてもよい。このような共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル:酢酸ビニルなどのビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;シクロペンチルジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの共重合性単量体も1種または2種以上使用できる。
【0018】
本発明において、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合されるシラン系単量体としては、ケイ素原子を有する重合性化合物であれば特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対する共重合性に優れている点で(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン誘導体などの(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物が好ましい。シラン系単量体としては、例えば、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。これらのシラン系単量体は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
また、上記以外に、共重合可能なシラン系単量体として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−ビニルブチルトリメトキシシラン、4−ビニルブチルトリエトキシシラン、8−ビニルオクチルトリメトキシシラン、8−ビニルオクチルトリエトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン、10−アクリロイルオキシデシルトリエトキシシランなども使用できる。
【0020】
シラン系単量体の量は前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの種類や用途などに応じて適宜選択できるが、シラン系単量体の共重合量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物(シラン系単量体を除く)100重量部に対して、1重量部を超えると接着できない程度まで粘着力が低下する場合があり、また0.005重量部未満ではポリマー強度の不足で凝集力が低下しやすくなる。従って、本発明では、前記単量体混合物(シラン系単量体を除く)100重量部に対するシラン系単量体の量は、0.005〜1重量部が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部の範囲である。
【0021】
本発明では、粘着剤の用途に応じて架橋剤を用いることができる。前記架橋剤としては、通常用いる架橋剤を使用することができ、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤などが挙げられる。架橋剤は、油溶性及び水溶性の何れであってもよい。
【0022】
本発明の水分散型感圧性接着剤組成物は、例えば、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし且つシラン系単量体を含む単量体混合物を慣用の乳化重合に付して、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水分散液を得、これに必要に応じて前記架橋剤を添加することにより調製できる。
【0023】
重合方法としては、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合などを採用でき、重合温度は、例えば20〜100℃程度である。
【0024】
重合に用いる重合開始剤としては、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤;フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせなどのレドックス系開始剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。重合開始剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.005〜1重量部程度である。
【0025】
また、重合には連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、慣用の連鎖移動剤、例えば、ドデカンチオール等のメルカプタン類等が例示できる。連鎖移動剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.001〜0.5重量部程度である。
【0026】
また、乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン系乳化剤などを使用できる。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.2〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部程度である。
【0027】
なお、水分散型感圧性接着剤組成物は、上記方法のほか、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を乳化重合以外の方法で得た後、必要に応じて前記架橋剤を添加し、乳化剤により水に分散させて調製してもよい。
【0028】
水分散型感圧性接着剤組成物には、その他、必要に応じて、pHを調整するための塩基(アンモニア水など)や酸、粘着剤に通常使用される添加剤、例えば、粘着付与樹脂、界面活性剤、老化防止剤、充填剤、顔料、着色剤などが添加されていてもよい。
【0029】
本発明の水分散型感圧性接着剤組成物において、特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし且つシラン系単量体を含まない組成で重合した場合に溶剤不溶分が5%以下となる樹脂組成物が得られる単量体混合物と、該単量体混合物100重量部に対して0.005〜1重量部のシラン系単量体とを、前記シラン系単量体を含まない組成で重合した場合と同一条件下で重合して得られる共重合体を含有する水分散型感圧性接着剤組成物では、水分散型であるにもかかわらず、優れた端末剥がれ性と高い保持性とを両立させることが可能である。
【0030】
上記の「同一条件下」とは、シラン系単量体の有無を除く他の重合条件、例えば、反応温度、反応時間、重合開始剤の種類及び使用量、連鎖移動剤の種類及び使用量等が同一であることを意味する。
【0031】
なお、シラン系単量体を含まない組成で重合した場合に溶剤不溶分が5%を超える樹脂組成物が得られる単量体混合物とシラン系単量体とを重合に付す場合には、端末剥がれ性が低下しやすい。
【0032】
本発明の粘着シートは、シラン系単量体を含み且つ(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物の共重合体からなる粘着剤層を備えている。
【0033】
この粘着シートは、例えば、上記の水分散型感圧性接着剤組成物を基材上に塗布し、熱架橋して粘着剤層を形成することにより得られる。また、セパレータ上に上記粘着剤層を形成することにより基材を有しない粘着シートを得ることもできる。
【0034】
基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックフィルム;クラフト紙などの紙;金属箔などを使用できる。前記プラスチックフィルムは、無延伸フィルム及び延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムの何れであってもよい。また、基材のうち粘着剤を塗布する面には、通常使用される下塗剤やコロナ放電方式などによる表面処理が施されていてもよい。基材の厚みは、目的に応じて適宜選択できるが、一般には10〜500μm程度である。
【0035】
水分散型感圧性接着剤組成物の塗布は、慣用のコーター、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどを用いて行うことができる。前記水分散型感圧性接着剤組成物は、乾燥後の粘着剤層の厚みが、例えば10〜100μm程度となるように塗布される。
【0036】
熱架橋は、慣用の方法、例えば、シラン系単量体や架橋剤の種類に応じて架橋反応が進行する温度にまで加熱することにより行われる。架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分は、例えば15〜70重量%程度である。また、架橋後の粘着剤層の溶剤可溶部の分子量(重量平均分子量;標準ポリスチレン換算)は、例えば10万〜60万程度、好ましくは20万〜45万程度である。架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分や溶剤可溶部の分子量は、例えば、モノマー総量に対する前記シラン系単量体又は官能基含有単量体の割合、連鎖移動剤や架橋剤の種類や量、特にシラン系単量体と連鎖移動剤の量を適宜調整することにより任意に設定することができる。粘着シートは、ロール状に巻回した粘着テープであってもよい。
【0037】
本発明の粘着シートは、水分散型のアクリル系粘着剤を用いるにもかかわらず、粘着シートの粘着剤層を構成する粘着剤の溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量、及び被着体に貼付したときの端末剥がれ性の経時安定性に優れている。すなわち、粘着シートを長時間保存しても、前記溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量及び端末剥がれ性の変動が極めて小さい。そのため、高い信頼性が得られる。
【0038】
このような優れた効果が奏される理由は必ずしも明確ではないが、シラン系単量体が有する珪素原子含有基の縮合反応が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物との共重合時(乳化重合時)よりもむしろ感圧性接着剤組成物を基材等に塗布した後の乾燥工程で主に起こるため、共重合工程では溶剤不溶分が過剰に生成することがなく、それ故優れた保持性が発現するとともに、乾燥後には水が介在しないため加水分解が起こらず、縮合反応が進行しないことから、構造及び物性が変化しにくく、よって良好な経時安定性が得られるものと推察される。
【0039】
また、特に、シラン系単量体を含まない組成で重合した場合の重合終了時の溶剤不溶分が5%以下となるような単量体混合物にシラン系単量体を共重合する場合には、熱架橋時において、水分散型感圧性接着剤の粒子の内部と外側が均一に架橋されるため、端末剥がれ性と保持性能とを高いレベルで両立できるものと推測される。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0041】
実施例1
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器を用い、アクリル酸ブチル70部、アクリル酸2−エチルヘキシル30部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.05部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.07部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.5部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整することにより、アクリル系共重合体の水分散液を得た。これを厚さ40μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。
【0042】
実施例2
アクリル酸ブチル90部、アクリル酸2−エチルヘキシル10部、アクリル酸4部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.06部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.5部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整することにより、アクリル系共重合体の水分散液を得た。これを厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。
【0043】
比較例1
アクリル酸ブチル70部、アクリル酸2−エチルヘキシル30部、アクリル酸3部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.07部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.5部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整することにより、アクリル系共重合体の水分散液を得た。これにトルエンに溶解した油溶性のエポキシ型架橋剤(テトラッド−C:三菱瓦斯化学株式会社製)を0.05部添加して、これを厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。
【0044】
比較例2
アクリル酸ブチル90部、アクリル酸2−エチルヘキシル10部、アクリル酸4部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.5部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整することにより、アクリル系共重合体の水分散液を得た。これにトルエンに溶解した油溶性のエポキシ型架橋剤(テトラッド−C:三菱瓦斯化学株式会社製)を0.06部添加して、これを厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。
【0045】
評価試験1
以上の実施例1、2、比較例1、2で得た粘着剤及び粘着シートについて次の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0046】
(溶剤不溶分)
作製直後(初期)の粘着シートと、作製して50℃の雰囲気下に14日間放置した粘着シートの粘着剤層から試料を採取し、前記の方法により溶剤不溶分を測定した。
【0047】
(分子量)
作製直後(初期)の粘着シートと、作製して50℃の雰囲気下に14日間放置した粘着シートの粘着剤層から試料を採取した。この試料を酢酸エチルに一定時間浸漬し、不溶分を濾過後、濾液を乾燥し、残留物(酢酸エチル溶出物)にテトラヒドロフラン(THF)を加え、0.1%のTHF溶液を調製した。これを孔径0.45μmのフィルターで濾過し、この濾液を用いてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)により分子量(溶剤可溶部の分子量;Mw)を測定した。測定条件は以下の通りである。
測定条件:溶出液THF、液送量1.0ml/min、
カラム温度38℃、標準ポリスチレン換算
【0048】
(端末剥がれ性試験)
粘着剤層をPETフィルム上に付設する代わりに、セパレーター基材上に付設した点以外は同様にして、各実施例及び比較例に対応するテープサンプルを得た。作製直後(初期)のテープサンプルと、作製して50℃の雰囲気下に14日間放置したテープサンプルを、それぞれ厚さ0.5mmのアルミニウム板(面積:10mm×100mm)に貼り付けた後、前記セパレーター基材を剥がし、露出した粘着剤層面を直径50mmの円筒状のアクリルの丸棒の側面に貼り合わせた。これを、70℃の雰囲気下に2時間置き、その時のアルミニウム板の端部の剥がれた高さを測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より明らかなように、比較例1及び2では、溶剤不溶分は経時的に増大し、溶剤可溶部の分子量は経時的に減少し、端末剥がれ性は経時的に悪化するのに対し、実施例1及び2では、溶剤不溶分、溶剤可溶部の分子量はほとんど変化せず、端末剥がれ性も悪化しなかった。
【0051】
実施例3
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器を用い、アクリル酸ブチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.05部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、シラン系単量体を混合しない組成で同様にして重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は0%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液を厚さ40μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は50%であった。
【0052】
実施例4
アクリル酸ブチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.05部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、シラン系単量体を混合しない組成で同様にして重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は0%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液を厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は50%であった。
【0053】
実施例5
アクリル酸ブチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.01部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、シラン系単量体を混合しない組成で同様にして重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は0%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液を厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は20%であった。
【0054】
実施例6
アクリル酸ブチル95部、アクリル酸5部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.05部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、シラン系単量体を混合しない組成で同様にして重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は0%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液を厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は50%であった。
【0055】
実施例7
アクリル酸ブチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン0.04部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、シラン系単量体を混合しない組成で同様にして重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は0%、シラン系単量体を混合した組成で重合した場合の重合終了時の重合体の溶剤不溶分は40%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液に、トルエンに溶解した油溶性のエポキシ型架橋剤(テトラッド−C:三菱瓦斯化学株式会社製)を0.02部添加して、これを厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は50%であった。
【0056】
比較例3
アクリル酸ブチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部、アクリル酸3部、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)]ジヒドロクロライド(開始剤)0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)3部を添加した水100部に加えて乳化重合したのち、10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し、アクリル系共重合体の水分散液を得た。なお、この時のアクリル系共重合体の溶剤不溶分は0%であった。
上記で得られたアクリル系共重合体の水分散液に、水に溶解した水溶性のオキサゾリン型架橋剤(エポクロスWS−500:日本触媒化学工業株式会社製)を0.1部添加して、これを厚さ40μmのPETフィルムに塗布し、120℃で3分乾燥し、厚さ50μmの粘着剤層を付設して粘着シートを作製した。この粘着剤層の溶剤不溶分は50%であった。
【0057】
評価試験2
実施例3〜7及び比較例3で得た粘着剤(アクリル系共重合体の水分散液)及び粘着シートについて次の特性を調べた。結果を表2に示す。
【0058】
(端末剥がれ性試験)
各実施例及び比較例の方法に準じて粘着剤層をセパレーター基材に付設したテープサンプルを、厚さ0.5mmのアルミニウム板(面積:10mm×100mm)に貼り付けた後、前記セパレーター基材を剥がし、露出した粘着剤層面を直径50mmの円筒状のアクリルの丸棒の側面に貼り合わせた。これを、(1)23℃の雰囲気下に24時間、又は(2)70℃の雰囲気下に2時間置いた後、アルミニウム板の端部の剥がれた高さを測定した。
【0059】
(保持力試験)
幅10mmの粘着シートをフェノール樹脂板に対し10mm×20mmの接触面積で貼り付け、20分経過後80℃に20分放置した後、フェノール樹脂板を垂下し、粘着テープの自由端に600gの均一荷重を負荷して、80℃での粘着シートの落下時間を測定した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2より、比較例3では端末剥がれ性が劣るのに対し、実施例3〜7では、優れた端末剥がれ性と高い保持力とを両立できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる高分子を含有する水分散型感圧性接着剤組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含まない組成で重合した場合に溶剤不溶分が5%以下となる樹脂組成物が得られる単量体混合物と、該単量体混合物100重量部に対して0.005〜1重量部のシラン系単量体とを前記と同一条件下で共重合して得られる高分子を含有する請求項1記載の水分散型感圧性接着剤組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物を乳化重合に付すことを特徴とする水分散型感圧性接着剤組成物の製造方法。
【請求項4】
連鎖移動剤の存在下で乳化重合を行う請求項3記載の水分散型感圧性接着剤組成物の製造方法。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、且つシラン系単量体を含む単量体混合物の共重合体からなる粘着剤層を備えた粘着シート。

【公開番号】特開2007−146170(P2007−146170A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350122(P2006−350122)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【分割の表示】特願2000−163655(P2000−163655)の分割
【原出願日】平成12年5月31日(2000.5.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】