説明

水分計測装置及び水分計測方法

【課題】メンテナンスコストを低減できる水分計測装置及び水分計測方法を提供することにある。
【解決手段】γ線源1は、被検査体4にγ線を照射する。中性子検出器6は、被検査体4に付着した水の中の重水素による(γ,n)反応によって発生した中性子を検出する。ここで、γ線源1が照射するγ線のエネルギーを、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも高く、被検査体4を構成している物質の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーとし、重水素の(γ,n)反応により発生する光中性子を中性子検出器6で計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器に付着した水の位置を特定するための水分計測装置及び水分計測方法に係り、特に、光核反応を用いた水分計測装置及び水分計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油化学プラントでは、原料となる重油は、配管を用いて、プラント内を移送される。この配管は、その周囲を保温材で被覆されたものが用いられる。ここで、配管の外側腐食が問題となっている。外側腐食の主要因は、配管周囲を被覆する保温材の内側の水分である。
【0003】
従来、配管の外側腐食の有無を検査するには、保温材を外した上で、検査する必要があった。一般に、配管の腐食の有無を検査する方法としては、超音波探触子を用いるものや、渦電流を用いるものが知られているが、これらの方法では、保温材を被覆したまま配管の外側検査を行うことができないためである。
【0004】
なお、後述する本発明に関連して、従来、(γ,n)反応のしきいエネルギーが物質によって異なることを利用し、被検査体にγ線を照射し、特定の物質から放出される光中性子を検出することで、その特定物質の密度分布を検査する技術は存在しており、その特定物質としては放射性廃棄物中に含まれる核燃料物質や原子番号92以上の超ウラン元素に限定されていた(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−268055号公報
【特許文献2】特開平2−222886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、配管の外観検査には、保温材の取り外し、再取り付けが必要であり、メンテナンスコストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、メンテナンスコストを低減できる水分計測装置及び水分計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、光核反応を起こす物質から発生する光中性子を計測する水分計測装置であって、被検査体にγ線を照射するγ線照射手段と、被検査体に付着した水の中の重水素による(γ,n)反応によって発生した中性子を検出する中性子検出手段とを備え、前記γ線照射手段が照射するγ線のエネルギーを、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも高く、被検査体を構成している物質の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーとし、重水素の(γ,n)反応により発生する光中性子を前記中性子検出手段で計測することで、被検査体に付着している水の位置を特定するようにしたものである。
かかる構成により、メンテナンスコストを低減し得るものとなる。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記γ線照射手段が照射するγ線のエネルギーは、γ線による重水素の(γ,n)反応の最大反応断面積を与えるエネルギーである。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記γ線照射手段と前記中性子検出手段とを同時に移動する移動手段を備えるようにしたものである。
【0011】
(4)上記目的を達成するために、本発明は、光核反応を起こす物質から発生する光中性子を計測する水分計測方法であって、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも高く、被検査体を構成している物質の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーのγ線を照射し、重水素の(γ,n)反応により発生する光中性子を計測することで、被検査体に付着している水の位置を特定するするようにしたものである。
かかる方法により、メンテナンスコストを低減し得るものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配管の外側腐食の検査のためのメンテナンスコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の一実施形態による水分計測装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による水分計測装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による水分計測装置の構成を示すシステム構成図である。
【0014】
本実施形態の水分計測装置は、γ線源1と、コリメータ2と、遮へい体5と、中性子検出器6と、中性子信号処理装置7と、表示装置8と、移動装置9とから構成される。配管などの被検査体4の表面には、水3が付着している状態を図示している。なお、配管などの被検査体4の表面は、保温材等で被覆されているが、保温材の図示は省略している。
【0015】
γ線照射部のγ線源1は、γ線を発生する装置である。ある程度の強度をもったγ線源を実現するために、γ線源1として、電子線加速器を使用する。電子線加速器では、加速した電子線を白金板等に照射して発生する制動放射線を利用し、光核反応に使用されるγ線源は、重水素の(γ,n)反応において最大の反応断面積を与えるエネルギーのγ線(約5MeV)を使用する。光核反応については、図2を用いて後述する。γ線のエネルギーは、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約2MeV)より高く、非検査体の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーとしており、この理由については、図3を用いて後述する。また、最大の反応断面積を与えるエネルギーについては、図4を用いて後述する。
【0016】
γ線源1としては、電子線加速器以外にも、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約2MeV)より高く、非検査体の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーのγ線を放出する放射性同位元素であれば、用いることができる。
【0017】
γ線源1は、コリメータ2の中に配置される。コリメータ2は、細くコリメートしたγ線を取り出すために使用する。γ線の線束が広がると、検出位置の測定精度が低下するため、コリメートすることで、検出位置の測定精度を向上できる。
【0018】
中性子検出器6は、被検査体4に付着した水3に含まれる重水素が(γ,n)反応を起こして発生する光中性子10を検出するものである。遮へい体5は、中性子検出器6を取り囲むようにして配置され、被検査体4に付着した水3で発生する光中性子以外の、例えば、自然界にあるバックグランド中性子を極力減らす目的で設置する。
【0019】
γ線源1及びコリメータ2からなるγ線照射装置と、中性子検出器6及び遮へい体5からなる中性子検出装置とは、移動手段9によって同時に1方向に移動可能である。被検査体4が固定された状態で、移動手段9により、γ線照射装置及び中性子検出装置を移動させ、ある位置において、バックグランド中性子よりも中性子数の増加が確認できれば、被検査体4のγ線を照射した位置において水3が存在することが確認できる。計測する中性子は、熱中性子から高速中性子までのどのエネルギー範囲であっても構わなく、中性子検出器の種類については限定しない。
【0020】
被検査体4は、保温材等その周囲を取り囲む物質がある場合でも、入射するγ線が細くコリメートされた状態で被検査体表面まで到達できれば、被検査体表面の水を検知可能である。
【0021】
中性子信号処理装置7は、中性子検出器6で計測した中性子強度を電気信号に変換する。また、中性子信号処理装置7には、移動手段9から移動距離の信号が入力しているので、中性子信号処理装置7は、照射位置(移動位置)と中性子強度の関係を算出できる。
【0022】
表示装置8は、中性子信号処理装置7で電気信号に変換したものを、照射位置とその位置における中性子強度の関係を表示する。水分がない場合には、バックグランド中性子のみによる中性子強度が観察されるが、水分がある場所では、バックグランド中性子に加えて、水による中性子が検出されるため、計測された中性子が増大した位置に、水が存在することを検出できる。
【0023】
一般に、配管等の被検査体4においては、その外側表面で、水が付着しやすい場所は概ね特定される。例えば、配管がU字状の場合、そのU字の底辺の下側の外側,要するに、配管の表面に付着した水が、重力で降下して集まる位置に付着しやすいものである。このように、水が付着しやすい場所がわかっているときは、γ線照射装置及び中性子検出装置を一方向に移動させることで、水の有無を検出することができる。
【0024】
次に、図2を用いて、本実施形態による水分計測装置による計測原理について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による水分計測装置による計測原理の説明図である。
【0025】
図2に示すように、被検査体4の表面には、水3が付着している箇所と付着していない箇所が存在する。水は水素と酸素から構成されており、天然の水素には重水素が0.0115%存在する。重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーは約2MeVであり、殆どの場合、被検査体の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低い(この詳細については、図3を用いて後述する)。このような断面に、2MeVより高く、被検査体4の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーより低いγ線を入射する。
【0026】
図示のγ線1の場合のように、入射したγ線の経路上に水が存在すると、γ線と重水素が(γ,n)反応を起こし、光中性子10が発生する。一方、γ線2の場合のように、入射したγ線の経路上に水が存在しなければ、光中性子10は発生しない。
【0027】
したがって、中性子発生の有無を、被検査体の外側に設置した中性子検出器6で検出することにより、被検査体表面のどの位置に水が存在しているかを検知することができる。
【0028】
次に、図3を用いて、本実施形態による水分計測装置に用いるγ線による(γ,n)反応のしきいエネルギーについて説明する。
図3は、本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による(γ,n)反応のしきいエネルギーの説明図である。
【0029】
(γ,n)反応とは、高エネルギーγ線によって生じる核反応で、原子核がγ線のエネルギーを吸収すると励起し、不安定な状態となり、中性子を放出することで安定な状態になる核反応である。(γ,n)反応が起こるγ線のエネルギーはしきい値があり、物質毎に(γ,n)反応が起こるγ線の最低エネルギーが決まっている。
【0030】
図3において、横軸は原子番号を示し、縦軸は(γ,n)反応が起こるしきいエネルギー(MeV)を示している。
【0031】
重水素H(原子番号=1)の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーは、2MeVである。一方、被検査体4が鉄Fe(原子番号=26)の場合、(γ,n)反応に対するしきいエネルギーは、約10MeVである。また、被検査体4が鉄の他に、クロムCrやニッケルNiを含む場合でも、(γ,n)反応に対するしきいエネルギーは、約10MeVである。
【0032】
したがって、被検査体に照射するγ線のエネルギーを、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約2MeV)より高く、非検査体の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約10MeV)よりも低いエネルギーとすることで、重水素の(γ,n)反応は生じるが、非検査体の(γ,n)反応は生じないようにできるので、重水素の(γ,n)反応によってのみ中性子が発生するので、水の存在を検出することができる。
【0033】
次に、図4及び図5を用いて、本実施形態による水分計測装置に用いるγ線による(γ,n)反応の反応断面積について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による重水素の(γ,n)反応の反応断面積の説明図である。図5は、本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による鉄−56の(γ,n)反応の反応断面積の説明図である。
【0034】
図4及び図5において、横軸はγ線のエネルギー(MeV)を示し、縦軸は反応断面積(barn)を示している。
【0035】
図4は、γ線による重水素の(γ,n)反応の反応断面積を示しており、重水素の場合、最大の反応断面積を与えるエネルギーは、5MeVである。一方、図5は、γ線による鉄−56の(γ,n)反応の反応断面積を示している。
【0036】
上記のように、水中に含まれる重水素は微量であり、重水素の(γ,n)反応の反応断面積の値が全体に小さいことから、被検査体に付着した水分量が少ないと検出限界以下になる可能性がある。したがって、本発明を実施するにあたっては、線源に使用するγ線のエネルギーは、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約2MeV)より高く、非検査体の(γ,n)反応に対するしきいエネルギー(約10MeV)よりも低いエネルギーであり、重水素の(γ,n)反応において最大の反応断面積を与えるエネルギーのγ線(約5MeV)を使用することで、水の検知効率を上げることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、被検査体に付着した水分を非破壊的に検査できるため、その適用範囲は広く、例えば、石油化学コンビナートの配管表面に付着した水分を、外側の保温材等を剥がすことなく検知することができ、配管腐食を早期に発見することができる。これにより、設備のメンテナンス等において工期短縮、コスト低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態による水分計測装置の構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による水分計測装置による計測原理の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による(γ,n)反応のしきいエネルギーの説明図である。
【図4】本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による重水素の(γ,n)反応の反応断面積の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態による水分計測装置に用いるγ線による鉄−56の(γ,n)反応の反応断面積の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…γ線源
2…コリメータ
3…水
4…被検査体
5…遮へい体
6…中性子検出器
7…中性子信号処理装置
8…表示装置
9…移動手段
10…光中性子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光核反応を起こす物質から発生する光中性子を計測する水分計測装置であって、
被検査体にγ線を照射するγ線照射手段と、
被検査体に付着した水の中の重水素による(γ,n)反応によって発生した中性子を検出する中性子検出手段とを備え、
前記γ線照射手段が照射するγ線のエネルギーを、重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも高く、被検査体を構成している物質の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーとし、重水素の(γ,n)反応により発生する光中性子を前記中性子検出手段で計測することで、被検査体に付着している水の位置を特定することを特徴とする水分計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の水分計測装置において、
前記γ線照射手段が照射するγ線のエネルギーは、γ線による重水素の(γ,n)反応の最大反応断面積を与えるエネルギーであることを特徴とする水分計測装置。
【請求項3】
請求項1記載の水分計測装置において、
前記γ線照射手段と前記中性子検出手段とを同時に移動する移動手段を備えることを特徴とする水分計測装置。
【請求項4】
光核反応を起こす物質から発生する光中性子を計測する水分計測方法であって、
重水素の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも高く、被検査体を構成している物質の(γ,n)反応に対するしきいエネルギーよりも低いエネルギーのγ線を照射し、重水素の(γ,n)反応により発生する光中性子を計測することで、被検査体に付着している水の位置を特定することを特徴とする水分計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−157763(P2008−157763A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347171(P2006−347171)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】