説明

水力発電用昇降ゲートおよび昇降型水力発電装置

【課題】流水路の水力エネルギを利用した水力発電に適した構造を有し、設置後のメンテナンス作業を容易に行い得る構成を備えた水力発電用昇降ゲートおよび昇降型水力発電装置を提供する。
【解決手段】本発明における水力発電用昇降ゲート1は、河川に設置可能で、河川における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な取付用孔部5を有する矩形板状ゲート本体部2と、ゲート本体部2の底部に設置され、ゲート本体部2の起立状態を保持しつつ伸縮自在な可変長脚部3と、可変長脚部3を伸縮させる油圧シリンダ4を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や水路等における流水を利用した水力発電に用いられる水力発電用昇降ゲートおよび昇降型水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダムや堰で堰き止めた水を落下させることによって得られる運動エネルギ(以下「水力エネルギ」という)を利用した水力発電に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には貯水域を開閉自在に仕切る昇降可能な可動ゲートと、可動ゲートに装着された軸流水車発電装置とを有する水力発電装置が開示されている。この水力発電装置は、軸流水車発電装置が貯水域からの流水を供給する導水管および放流管とともに可動ゲートの開閉動作に伴い昇降するようになっている。
また、特許文献2には、複数個の水車発電装置が取り付けられた昇降可能な主ゲートを放水路に設け、その主ゲートにフラップ形式の越流ゲートを配設してダム貯水を放流可能にした昇降式発電設備が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−21041号公報
【特許文献2】特開昭57−99273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したとおり、従来から、水力エネルギを利用した水力発電に関しては、水車発電装置が用いられていた。この種の水車発電装置の適用範囲をダムや堰のほか、河川、流水、水路等(以下「流水路」という)の治水、利水、灌漑等を目的に多数建設された取水堰(頭首工)、分水堰、河口堰にも拡大し、水車発電装置によって、河川等を流れる水の水力エネルギを利用した水力発電を行えるようになれば、水力発電による電力の増大を図ることが可能となる。
【0005】
しかし、水車発電装置をゲートに組込むなどして設置するためには、水車発電装置を組込んで重くなったゲートに対応するため、そのゲートを昇降するための巻き上げ機を大型化することが必要になる。そのため、水車発電装置の点検や、整備等のメンテナンス作業を行うためには、大型巻き上げ機(常設のゲート巻き上げ機あるいは移動式のクレーン)を配備した上で、その大型巻き上げ機によって、水車発電装置をゲートとともに吊り上げる(またはゲートから取り外した上で)作業が必要になる。
巻き上げ機を大型化すると、設置スペースの確保や、設置費用、保守費用といった費用の増大、さらには、景観上の問題も発生する。一方、堰の構造によっては、大型巻き上げ機の設置スペースが得られずに水車発電装置を設置できない場合もある。常設のゲート巻き上げ機の代わりに大型の移動式クレーンを用いる場合でも、クレーンの設置に多大なコストや時間を要するという問題がある。
【0006】
また、大雨、台風等の影響で、流水路に洪水が発生し、一時に大量の水や異物が流れると、水車発電装置が昇降ゲートとともに押し流されたり、破損したりすることが想定され、さらに流水中の水車発電装置が河川の流下能力を阻害するおそれもある。そのため、水車発電装置やゲートを流水よりも高い位置に持ち上げることが必要になる。一方、農業用水や上工水の取水堰の場合は常時一定水量を流下したり、上流域の水位を一定に保つことが求められ、そのためにはゲートを開く大きさを制御する必要がある。
これらのため、ゲートを開く大きさを常時制御する必要があり、常設の大型巻き上げ機の設置が不可欠になってしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、流水路の水力エネルギを利用した水力発電に適した構造を有し、設置後のメンテナンス作業を容易に行い得るとともに、洪水や利水の対応を可能とした水力発電用昇降ゲートおよび昇降型水力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、本発明は、流水路に設置可能な水力発電用昇降ゲートであって、流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を有する矩形板状ゲート本体部と、そのゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在な可変長脚部とを有する水力発電用昇降ゲートを特徴とする。
この水力発電用昇降ゲートは、可変長脚部がゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在であるため、水車発電装置を取付けた状態で発電装置取付部が昇降するようになっている。
【0009】
また、本発明は、流水路における流水方向と交差するように設置可能な水力発電用昇降ゲートであって、流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を幅方向に沿って複数配設してなる矩形板状ゲート本体部と、そのゲート本体部の底部における幅方向両側に設置された可変長脚部とを有し、その各可変長脚部が、発電装置取付部を流水路の水面から浮上させ得る浮上可能範囲内でゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在な水力発電用昇降ゲートを提供する。
【0010】
この水力発電用昇降ゲートは、可変長脚部がゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在であり、水車発電装置を取付けた状態で発電装置取付部が昇降するが、その昇降の範囲が、発電装置取付部を流水路の水面から浮上させ得る浮上可能範囲内になっている。また、水力発電用昇降ゲートは、水車発電装置を複数取付けられるようになっている。
【0011】
上記いずれの水力発電用昇降ゲートも、可変長脚部を伸縮させる伸縮手段をさらに有することが好ましい。
これにより、その伸縮手段によって、可変長脚部を伸縮させることができる。
【0012】
また、本発明は、流水路に設置可能な水力発電用昇降ゲートと、その水力発電用昇降ゲートに取付けられた水車発電装置とを有する昇降型水力発電装置であって、水力発電用昇降ゲートが、流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を有する矩形板状ゲート本体部と、そのゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在な可変長脚部とを有する昇降型水力発電装置を提供する。
【0013】
この昇降型水力発電装置も、可変長脚部を伸縮させる伸縮手段をさらに有することが好ましい。
これにより、その伸縮手段によって、可変長脚部を伸縮させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、流水路の水力エネルギを利用した水力発電に適した構造を有し、設置後のメンテナンス作業を容易に行い得るとともに、洪水や利水の対応を可能とした水力発電用昇降ゲートおよび昇降型水力発電装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。尚、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る昇降型水力発電装置を流水路に設置したときの構成を示す斜視図、図2は本発明の第1の実施形態に係る水力発電用昇降ゲートを示す正面図、図3は水車発電装置を示す斜視図である。また、図4は、本発明の第1の実施形態に係る昇降型水力発電装置を示す平面図である。
【0017】
昇降型水力発電装置10は、堤防31,31の間を流水Fの流れる方向(流水方向)に沿って水が流れる河川30(本実施の形態では、利根川や信濃川のように、規模の大きな河川を想定している)に設置可能な水力発電用昇降ゲート1と、水力発電用昇降ゲート1に取付けられた水車発電装置20とを有している。
水力発電用昇降ゲート1は、図2に示すように、河川30における流水方向と交差するように設置可能な構成を有している。この水力発電用昇降ゲート1は、鋼で構成されていて、ゲート本体部2と、可変長脚部3と、油圧シリンダ4とを有している。
【0018】
ゲート本体部2は、河川30の川幅をほぼ二分割した部分に対応する横幅(河川30の川幅の半分の横幅)と、好ましくは河川30の水深よりも大きい高さを有する矩形板状に形成されていて、水車発電装置20を取付ける取付用孔部5を幅方向に沿って複数(図2では、6つ)有している。また、ゲート本体部2は、幅方向両側に油圧シリンダ4,4を内蔵する一方、下側(底部)の幅方向両側に可変長脚部3,3を有している。なお、後述するように、ゲート本体部2は、河川30の川幅や水深に対応して大きさを大きくする必要があるときは、取付用孔部5の有る下側と、その上側とに2分割して設け、その上側を後述する副ゲート28としてもよい。この副ゲート28は、水力発電用昇降ゲート1を河川30に設置する際に用いられる。
【0019】
可変長脚部3,3は、ゲート本体部2を支えるために設けられていて、それぞれ油圧シリンダ4が作動し、伸縮するのに対応して、ゲート本体部2から張り出す部分の長さ(張出長)hが変わる可変長構造を有している。図2に示すように、その張出長hは、長さ0から好ましくは河川30を流れる水の平常時における水面(平常水位)L2を越えて、さらに河川30の洪水時に想定され得る水面(計画洪水位)L1より取付用孔部5を浮上させ得るような範囲(浮上可能範囲)内で長さが変わるようになっているのがよいが、張出長hはこれには限定されない。また、可変長脚部3,3は、ゲート本体部2を河川30の底部32に設置するための足部3a,3aを有し、浮上可能範囲内において、足部3a,3aを底部32に接面させながら、ゲート本体部2の起立状態を保持しつつ伸縮するようになっている。
【0020】
なお、可変長脚部は、幅方向両側に2本設けられていなくてもよく、例えば図9に示す水力発電用昇降ゲート11のように、ゲート本体部2の幅方向中央に、可変長脚部3よりも太い太さを有する可変長脚部13を設けてもよい。ただし、幅方向両側に2本の可変長脚部3,3を設けることによって、水力発電用昇降ゲート1を安定させることができる。水力発電用昇降ゲート11は、水力発電用昇降ゲート1の場合よりも、河川30の川幅が狭い場合(例えば、河川30が規模の小さい中小の河川や農業用の用水路の場合)を想定したもので、川幅に対応して横幅を狭くしている。
また、川幅が広くゲート本体部2の幅が広い場合には、幅方向両側の2本の可変長脚部のほかに、ゲート本体部2の幅方向中央に可変長脚部を追加してもよい。
【0021】
油圧シリンダ4,4は、可変長脚部3,3が固定されており、その可変長脚部3,3を伸縮させる本発明における伸縮手段を構成している。各油圧シリンダ4,4は、後述する注入ホース51を介して、後述する油圧ポンプ50から加圧された油が注入、注出されるのに対応して進退動作を行い、これによって、可変長脚部3,3の張出長hを変えるようになっている。なお、図示はしないが、本発明における伸縮手段は、図示した油圧シリンダ4,4に限定されるものではなく、例えばボールねじやジャッキなど、可変長脚部3,3の張出長hを変え得る構成を有していればよい。また、伸縮手段の動力源も油圧に限らず、例えば、水圧や電力でもよい。
【0022】
取付用孔部5は、本発明における発電装置取付部であって、それぞれ水車発電装置20の外形に対応した大きさを有している。各取付用孔部5は、ゲート本体部2の一面側からその裏面側に貫通していて、水車発電装置20を挿通し、その挿通した水車発電装置20をボルト、ナットなどを用いてゲート本体部2に固定して取り付けられるようになっている。なお、図2に示す水力発電用昇降ゲート1の場合、取付用孔部5は幅方向一列に配列された一連の孔部群6を形成しているが(図2では、6つ並んでいる)、孔部群6は複数有していてもよい。例えば、図10に示す水力発電用昇降ゲート12のように、孔部群6を2段有する多段構成にしてもよい。
【0023】
水車発電装置20は、図3に示すように、水車21および水車21と同じ回転軸に固定された発電機22を有する発電機ユニット23と、発電機ユニット23が固定片24,24を介して内側に固定される概ね円筒状の本体部25と、本体部25に連結されているドラフトチューブ(吸出し管)26とを有している。この水車発電装置20は、発電機ユニット23が設けられている本体部25の開口部から流水Fを取り込み、その流水Fの水力エネルギによって水車21を回転させることによって、同軸上に固定されている発電機22のロータを回して発電するようになっている。流水Fは、発電機22を通過すると、ドラフトチューブ26の中を通って整流されたのち、ドラフトチューブ26から河川30に放流されるようになっている。なお、この水車発電装置20としては、例えばVATECH社のHYDROMATRIX(登録商標)を用いることができる。
【0024】
次に、水車発電装置20を河川30に設置するときの手順について、図5〜図8までを参照して説明する。ここで、図5〜図8は、水車発電装置20を河川30に設置するときの手順を示す河川30の流水方向に交差する方向の断面図である。水車発電装置20は、上述した水力発電用昇降ゲート1を用いて以下の手順で設置する。
水車発電装置20を設置するにあたり、河川30には、水力発電用昇降ゲート1の幅に対応した配置間隔を置いて、予め3基のゲート支持用ピア101が設置されている。また、図5に示すように、水力発電用昇降ゲート1を吊り上げ、ピア101に固定するための移動式の大型クレーン102がピア101に併設されている作業台103に配備されている。
【0025】
さらに、図5では、ピア101,101間において、河川30における水車発電装置20の設置箇所よりも上流側に主ゲート104が全閉状態で設置されており、この主ゲート104によって、その上流側の流水Fを堰き止めて貯水Wとし、かつ下流側の、主ゲート104と水力発電用昇降ゲート1との間における堰止領域Rへの水の流出を停止させている。
【0026】
そして、図5のように、まず、上述した構成を有する水力発電用昇降ゲート1を大型クレーン102で吊り上げる。この水力発電用昇降ゲート1には、予め水車発電装置20のドラフトチューブ26と、ゲート本体部2を挟んでドラフトチューブ26の反対側に、図示しない作業員が乗って、水車発電装置20の着脱作業を行える広さの作業台27が取り付けられている。
【0027】
次に、大型クレーン102により、水力発電用昇降ゲート1をピア101,101の間に引き下ろす。水力発電用昇降ゲート1は、可変長脚部3,3を伸長させるとともに、河川30の底部32に接面させて、ゲート本体部2を起立状態で、ピア101,101へ据え付ける。なお、河川30の底部32には、可変長脚部3,3の足部3a,3aを載置するための載置板33を設置しておくことが好ましい。載置板33を設置することによって、河川30の底部32が、汚泥の蓄積などにより緩くなっている場合でも、足部3a,3aのめり込みをなくして、水力発電用昇降ゲート1を安定的に据え付けることができる。なお、図5では、大型クレーン102で吊り下げ状態の水力発電用昇降ゲート1と、据付状態の水力発電用昇降ゲート1とをともに示している。
【0028】
次いで、図6に示すように、大型クレーン102で、上述した副ゲート28を吊り上げ、水力発電用昇降ゲート1の上に重ねて設置する。この副ゲート28は、ゲート本体部2と一体となって水力発電用昇降ゲート1を構成し、河川30における流水を堰き止めるように作用する。
また、ドラフトチューブ26を外した水車発電装置20を大型クレーン102で吊り上げて、作業台27の内側に引き下ろす。そして、作業員が水車発電装置20を取付用孔部5に挿通するとともに、ボルト締結等によりドラフトチューブ26も取付ける。これによって、水力発電用昇降ゲート1に水車発電装置20が取付けられて本発明における昇降型水力発電装置10が完成する。
【0029】
そして、図7に示すように、スクリーン41を大型クレーン102で吊り上げて、水力発電用昇降ゲート1(昇降型水力発電装置10)に対し、水車発電装置20を囲むようにして取付ける。このスクリーン41は、金属、樹脂等からなる適当な太さの棒を格子状にくみ上げて構成されていて、河川30を流れる流木、ごみ等から水車発電装置20を保護するために取付ける。
【0030】
さらに続いて、図8に示すように、ピア101上に油圧ポンプ50を設置するとともに、油圧ポンプ50と、水力発電用昇降ゲート1の油圧シリンダ4,4とに油圧ホース51を接続する配管作業を行う。次に、油圧ポンプ50から、油圧ホース51を介して油圧シリンダ4,4からオイルの抜き取りを行い、伸長している可変長脚部3,3の長さを縮小してゲート本体部2を河川30の川底につける。これによって、河川30における水力発電用昇降ゲート1の下流側が閉鎖される。
【0031】
そして、主ゲート104を引き上げて、主ゲート104の上流側の貯水Wを水力発電用昇降ゲート1で仕切られた堰止領域Rに流し込む。これによって、貯水Wが水力発電用昇降ゲート1によって堰き止められるので、水車発電装置20が貯水Wによって、水中に隠れるようになって設置される。また、水車発電装置20を取付けるための取付用孔部5が流水方向に沿って、水車発電装置を取付け可能な構成を有しているから、貯水Wに上流側から流水Fが供給されると、水車発電装置20に流水Fが供給されて水車21が回転し、同軸上に固定されている発電機22のロータが回って発電(水力発電)が行われる。こうして、水力発電用昇降ゲート1では、ゲート本体部2を河川30の川底につけた状態で発電が行われる。
【0032】
ところで、河川30によっては、下流の利水、灌漑などのため、融雪期、梅雨時などでは上流域の水位を一定に保つため、水車発電装置20が必要とする以上の水量を流下させることがある。しかし、その場合でも、水力発電用昇降ゲート1は、可変長脚部3,3を有し、可変長脚部3,3の長さを油圧シリンダ4,4によって変えることができるので、可変長脚部3,3の長さを変えて、水車発電装置20の流水F中における底部32からの高さ(水中高)を変えることができる。すると、流水Fの一部がゲート本体部2の下側を通って下流側に流れるので、流水Fの流量を調節することができる。そのため、水力発電用昇降ゲート1を用いることによって、流量の調節を行いつつ水力エネルギを用いた安定的な水力発電を行える。また、可変長脚部3,3は、ゲート本体部2の起立状態を保持しつつ伸縮自在であるから、伸縮するときに、ゲート本体部2が傾くようなこともなく、水車発電装置20を安定的に昇降させることができる。また、水力発電用昇降ゲート1がゲート本体部2と可変長脚部3,3および油圧シリンダ4,4を有する簡易な構造を有しているから、ゲート本体部2を浮上させるときに負担もかからない。
【0033】
一方、水車発電装置20については、発電開始後、保守点検などの定期的な通常メンテナンス作業が必要になると考えられる。その場合でも、可変長脚部3,3の長さが可変であるから、可変長脚部3,3の長さを伸ばして水車発電装置20を流水F中から浮上させることができる。また、水力発電用昇降ゲート1に作業台27が取付けられているから、作業台27に作業員を配置することができ、その作業員によって、水車発電装置20の保守点検などの通常メンテナンス作業を行える。よって、水力発電用昇降ゲート1を用いれば、水車発電装置20の設置後のメンテナンス作業が容易になる。
【0034】
従来の場合、水車発電装置の通常メンテナンス作業を行うためには、常設のゲート巻き上げを堰堤の上に設置したり、移動式の大型クレーンを配備して、水車発電装置をゲートとともに吊り上げ、水中から引き上げる必要があった。また、常設の巻き上げ機を設置できない場合は、大型クレーンの搬入や、周辺道路における通行止め等の交通規制が不可避であった(大型クレーンの設置によって周囲の景観を損なう問題もある)。しかし、本実施の形態における水力発電用昇降ゲート1を用いて、水車発電装置20を設置すれば、可変長脚部3の伸長によって、水力発電用昇降ゲート1が自らゲート本体部2を持ち上げて、水車発電装置20を流水Fから浮上させることができるから、
常設の巻き上げ機の設置や、移動式の大型クレーン102の搬入は必要とされない。そのため、本実施の形態における水力発電用昇降ゲート1によれば、定期的な通常メンテナンス作業に要するコストや時間を大幅に省力化することができるようになる。
【0035】
一方、流水Fの水位が急激に上昇する洪水が発生すると、その影響で流木やごみ等が流れることによって水車発電装置20が破損したり、流水中に水車発電装置20が配備されていることに伴い、河川30の流下能力が低下する事態も考えられる。その場合は、油圧ポンプ50から油圧ホース51を介して油圧シリンダ4,4からオイルの供給を行って可変長脚部3を伸長させればよい。そうすると、可変長脚部3の伸長によって、ゲート本体部2が持ち上がり、水車発電装置20を流水Fから浮上させることができる。つまり、水力発電用昇降ゲート1が可変長脚部3を有することによって、これをいたずらに堅牢かつ強固な構造にしなくても、急激な水位の上昇による流木等の衝突を回避することができるし、また、河川30の流下能力を阻害しないようにすることもできる。したがって、水力発電用昇降ゲート1および昇降型水力発電装置10は、河川30における水力エネルギを利用した水力発電を行うための継続的な設置に適した構造を有している。
【0036】
従来は、このような洪水の影響が想定される場合にも、上述した通常メンテナンスの場合と同様に常設の巻き上げ機の設置や、移動式の大型クレーンの配備、大型クレーンによる水車発電装置の吊り上げなどを行う必要があり、そうしなければ、水車発電装置の破損や流水路の流下能力を阻害するおそれがあった。しかし、本実施の形態における水力発電用昇降ゲート1を用いて、水車発電装置20を設置すれば、可変長脚部3の伸長によって、水力発電用昇降ゲート1が自らゲート本体部2を持ち上げて、水車発電装置20を流水Fから浮上させることができるから、常設の巻き上げ機の設置や、移動式の大型クレーン102の搬入は必要とされない。そのため、水力発電装置の退避作業が必要になる非常時においても、退避作業に要するコストや時間を大幅に省力化できるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る昇降型水力発電装置を流水路に設置したときの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る水力発電用昇降ゲートを示す正面図である。
【図3】水車発電装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る昇降型水力発電装置を示す平面図である。
【図5】水車発電装置を河川に設置するときの手順を示す河川の流水方向に交差する方向の断面図である。
【図6】図5の後続の工程を示す断面図である。
【図7】図6の後続の工程を示す断面図である。
【図8】図7の後続の工程を示す断面図である。
【図9】別の水力発電用昇降ゲートを示す正面図である。
【図10】さらに別の水力発電用昇降ゲートを示す正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1,11,12…水力発電用昇降ゲート
2…ゲート本体部、3…可変長脚部
4…油圧シリンダ、5…取付用孔部
10…昇降型水力発電装置、20…水車発電装置
30…河川、50…油圧ポンプ、51…油圧ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水路に設置可能な水力発電用昇降ゲートであって、
前記流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を有する矩形板状ゲート本体部と、
該ゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在な可変長脚部とを有することを特徴とする水力発電用昇降ゲート。
【請求項2】
流水路における流水方向と交差するように設置可能な水力発電用昇降ゲートであって、
前記流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を幅方向に沿って複数配設してなる矩形板状ゲート本体部と、
該ゲート本体部の底部における幅方向両側に設置された可変長脚部とを有し、
該各可変長脚部が、前記発電装置取付部を前記流水路の水面から浮上させ得る浮上可能範囲内で前記ゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在なことを特徴とする水力発電用昇降ゲート。
【請求項3】
前記可変長脚部を伸縮させる伸縮手段をさらに有することを特徴とする請求項1または2記載の水力発電用昇降ゲート。
【請求項4】
流水路に設置可能な水力発電用昇降ゲートと、該水力発電用昇降ゲートに取付けられた水車発電装置とを有する昇降型水力発電装置であって、
前記水力発電用昇降ゲートが、前記流水路における流水方向に沿って水車発電装置を取付け可能な発電装置取付部を有する矩形板状ゲート本体部と、該ゲート本体部の起立状態を保持しつつ伸縮自在な可変長脚部とを有することを特徴とする昇降型水力発電装置。
【請求項5】
前記可変長脚部を伸縮させる伸縮手段をさらに有することを特徴とする請求項4記載の昇降型水力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−16894(P2006−16894A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197203(P2004−197203)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】