説明

水密材およびそれを用いた屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線

【課題】 十分な水密性を維持すると共に水密絶縁電線とした場合に皮剥ぎ性にも優れた水密材、並びに前記の特性を有する屋外用の架橋ポリエチレン絶縁電線を提供することにある。
【解決手段】 メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、80〜86%の架橋度にDCPによって化学架橋された水密材とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外配線用として用いる架橋ポリエチレン絶縁電線、並びに前記架橋ポリエチレン絶縁電線の浸水防止に用いる水密材に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外配線用として用いる絶縁電線は、複数の素線を撚り合せた導体上に絶縁層を押出し被覆したものであり、前記複数の素線を撚り合せた導体には雨水等の浸入を防止するために、導体素線間に水密処理が行なわれている。例えば前記素線を撚り合わせる際に、ジェリー状の樹脂混和物や硬化性の液状ゴムを充填したり、前記素線を撚り合わせて導体とした後に、水密性を有する粘度が低い樹脂組成物を圧入する方法で行なわれている。さらには、熱可塑性樹脂に塩化カルシウム等の吸水性材料を配合した樹脂組成物よりなるテープ状或いは紐状体を、前記素線と共に撚り合せたり、前述の樹脂組成物を前記素線上に押出被覆した後ダイス等で圧縮して前記素線間に充填する方法等が行なわれている。また、水密材としては、導体と絶縁体との密着力のみならず絶縁体を剥ぎ取る際に水密材が導体上に残らないような皮剥ぎ性が要求されている。このため、特許文献1に記載されるような、エチレン系樹脂とホットメルト樹脂を主成分とする水密材が提案されている。そして、前記エチレン系樹脂、ホットメルト樹脂として、エチレン・アクリル酸エステル共重合体が記載されているが、このエチレン・アクリル酸エステル共重合体の特性が特定されておらず、またこのような水密材は、添加物が多いために水密特性とのバランス調整が難しい問題点がある。さらに特許文献2には、オレフィン系樹脂に無水マレイン酸変性ポリオレフィンとカーボンブラックを配合した水密材が開示されている。そして、オレフィン系樹脂として、エチレン−エチルアクリレート共重合体が記載されている。しかしながら、この特許文献2においても、エチレン−エチルアクリレート共重合体の特性が特定されていないと共に、添加物が多いために水密特性とのバランス調整が難しくなる問題点があった。そこで、これらの問題点を改良した水密材や水密絶縁電線が求められていた。
【特許文献1】特開2001−23450号公報
【特許文献2】特開2002−175730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、十分な水密性を維持すると共に水密絶縁電線とした場合に皮剥ぎ性にも優れた水密材、並びに前記の特性を有する屋外用の架橋ポリエチレン絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、80〜86%の架橋度にジクミルパーオキサイド(以下DCP)によって架橋された水密材とすることによって、解決される。また請求項2に記載されるように、請求項1に記載の水密材が、導体素線間に充填されている屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)(以下MFR)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体(以下EEA)或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物(以下EEA混合物)が、80〜86%の架橋度にDCPによって化学架橋された水密材としたので、導体と絶縁体層との密着性が良く水密性に優れると共に、導体素線間に十分充填させることができる。また特定の架橋度に架橋して用いるので、水密絶縁電線に用いた場合には皮剥ぎ性が良好である。そして、前述の水密材を導体素線間に充填した屋外用の架橋ポリエチレン絶縁電線(以下架橋PE絶縁電線)とすることによって、優れた水密性を有する水密絶縁電線として機能し、布設作業時等においては適度な皮剥ぎ性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される水密樹脂組成物は、MFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEA混合物であって、架橋度を80〜86%にDCPによって化学架橋して用いる水密材である。このように、ベース樹脂としてMFRの大きなEEA等を用いているので水密性に優れ、また特定の架橋度に架橋されて用いるので、水密絶縁電線とした場合には皮剥ぎ性に優れた架橋PE絶縁電線が得られる。
【0007】
前述したように、水密絶縁電線の水密材としてEEAが多用されているが、MFRの大きなEEAは高い水密性を有するために好ましいとされている。しかしながら、このようなベース樹脂を水密材として用いると、水密絶縁電線とした場合の皮剥ぎ時に導体上に水密材が残留する問題がある。これは、前記EEAが柔らかく、皮剥ぎ時にかかる力にEEAが耐えられずに破断するためである。このため破断強度の大きな樹脂を使用することが考えられるが、一般にはMFRが大きくなると破断強度が小さくなることが知られている。そこで、MFRが大きく水密性に優れると共に、破断強度も十分な水密材について検討した。すなわち、MFR(190℃、2.16kg)が275g/10minのEEAを用い、これを種々の架橋度に架橋することによって皮剥ぎ性がどのように変化するかを実験例によって調べた。架橋はDCPを用い、架橋度が72%、81%、86%、(88%)の水密材を作製した。さらに、未架橋の水密材も用意した。ついでこの水密材を、19個撚りの導体上にモールドした後、剥離性を調べた。結果は表1に示すように、DCPによる架橋度がおおよそ80〜86%の水密材を用いた場合には、導体上に水密材が残留せず好ましいことが確認された。すなわち、架橋度が72%の場合には、若干の水密材の残留が見られ、また未架橋の場合にはかなりの残留が見られた。なお、架橋度が88%の場合は皮剥ぎ性には合格するが、架橋度が大き過ぎするため水密性が問題となった。
【0008】
【表1】

【0009】
以上の実験結果から、EEAを水密材のベース樹脂とする場合には、80〜86%の架橋度にDCPを用いて化学架橋することによって、皮剥ぎ性に優れた水密材が得られることが判ったので、次に、EEA単独或いはEEA混合物のMFRの範囲、水密性並びに皮剥ぎ性について検討した。MFR(190℃、2.16kg)値は、種々のMFRのEEAを種々の割合に混合することによって、目的とする値に調整した。すなわち、表2に示す実施例および比較例の組成物を用いて架橋PE絶縁電線を作製し、EEA或いはEEA混合物のMFR(190℃、2.16kg)の範囲と水密性並びに皮剥ぎ性を確認した。
【実施例】
【0010】
表2に記載するMFRの異なるEEAを用い、EEA単独或いはそれ等の混合物(質量%で表示)によってMFRの異なるベース樹脂とし、このベース樹脂100質量部に対して架橋助剤(日本化成社のTAIC)3.2質量部、老化防止剤として大内新興化学工業社のノクラック300を0.5質量部およびDCPをそれぞれの必要量添加して水密材とした。なおEEAは、三井・デュポンポリケミカル社のA−707(エチレンアクリレート含有量が25質量%、190℃、2.16kgでのMFRが275g/10min)およびA−713(エチレンエチルアクリレート含有量が25質量%、190℃、2.16kgでのMFRが20g/10min)である。ついでこの水密材を、DCPを添加した未架橋のポリエチレン混和物(以下PE混和物)が被覆された19本撚線導体(導体サイズ60cm)間に充填し、ついでPE混和物を架橋処理することによって、架橋度の異なる水密材を得た。
【0011】
以上のように作製した架橋PE絶縁電線を用いて、水密性並びに皮剥ぎ性試験を行なった。まず、前述の架橋PE絶縁電線を10倍径における5往復曲げを加えた後、水密性試験として、架橋PE絶縁電線の片方の端部50mmが水圧0.05MPaとなるように23℃の水中に24時間浸漬し、水の浸入距離(mm)を測定したものである。2000mm以上浸入している場合が不合格である。試験結果は、水の浸入距離を浸水長さ(mm)として記載した。また皮剥ぎ性は、工具GSピーラを用いて皮剥ぎを行ない、3つの導体上に跨って水密材が残留していない場合を合格として○印で、3つの導体上に跨って水密材の残留が見られる結果を不合格として×印で、また前記の評価がばらついている場合を△印で記載した。なお水密材の架橋度は、JIS C3005、4.25のゴム・プラスチック絶縁電線試験方法に準拠した。さらにMFR(190℃、2.16kg)は、JIS K7210プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法に準拠した。結果を表2に示した。
【0012】
【表2】

【0013】
表2から明らかなとおり、本発明のようにMFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEA混合物であって、DCPによる化学架橋によって架橋度を80〜86%とした水密材を用いた架橋PE絶縁電線は、実施例1〜7で示したとおり水密性並びに皮剥ぎ性が実用上優れていた。これに対して、比較例1〜7に記載される本発明の範囲を外れた水密材を使用した架橋PE絶縁電線は、水密性或いは皮剥ぎ性のいずれかに問題があった。より詳細に説明する。実施例1に示されるように、MFRが275g/10minのEEAを架橋度86%に架橋した水密材を使用した場合は、浸水長が900mm以下と水密性に優れ、皮剥ぎ性も良好で作業性の良いものであることが判る。また実施例2〜4に示されるように、EEA混合物であってMFRが187g/10minで、架橋度を80〜86%とした水密材を使用した場合は、浸水長が1000mm以下と十分水密性を有し、皮剥ぎ性も良好で作業性の良いものであることが判る。さらに実施例5および6に示されるように、EEA混合物であってMFRが74g/10minで、架橋度を84および86%とした水密材を使用した場合は、浸水長が700mm以下と十分水密性を有し、皮剥ぎ性も良好で作業性の良いものであることが判る。また実施例7に示されるように、MFRが57g/10minのEEAを架橋度86%に架橋した水密材を使用した場合も、浸水長が700mm以下と水密性に優れ、皮剥ぎ性も良好で作業性の良いものであることが判る。
【0014】
これに対して比較例1のように、MFRが275g/10minであっても未架橋の場合には、皮剥ぎを行なった場合導体に水密材が残留し皮剥ぎ性に問題があった。また比較例2〜6のようにMFRが275〜57g/10minであっても、架橋度が70%、78%、73%、75%および76%と低い場合には、皮剥ぎ性に問題があった。さらに比較例7のように、MFRが57g/10minであっても架橋度が88%と高くなると、浸水長が2000mmに到達するものがあり水密性に問題があった。以上の結果から、MFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEA混合物を用い、DCPによって化学架橋を行なって架橋度を80〜86%の範囲とした水密材とすることが好ましいことが判る。
【0015】
なお、EEA或いはEEA混合物は、MFR(190℃、2.16kg)が前述の範囲であれば種々のグレードのものを使用できるが、エチルアクリレート量(以下EA量)が10〜35wt%程度のものが好ましい。そしてEEAは、前述のように単独或いは混合物として使用される。具体的な商品としては、三井・デュポンポリケミカル社のA−704、A−713、A−709や日本ユニカー社のNUC−6570、NUC−6070等が使用可能である。また、前記水密材には、日本化成社のTAIC等の架橋助剤、ノクラック300(大内新興化学工業社)等のチオビスフェノール系の酸化防止剤や商品名がイルガノックス1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社)等のヒンダードフェノール系の酸化防止剤、FEFカーボン(東海カーボン社製)等のカーボンブラック、酸化マグネシウム(MgO)等の中和剤や、その他必要な添加剤を配合することができる。そして、例えば加圧ニーダー、2軸混練機等の公知の手段によって前記水密材を作製することができる。
【0016】
次に前記水密材を用いた、請求項2に記載される架橋PE絶縁電線について説明する。一例を図1に示す。この架橋PE絶縁電線は屋外用の水密絶縁電線として用いるもので、複数の素線1を撚り合わせて導体2が形成され、この素線1間に前述の水密材3が充填・被覆される水密性を保持させるものである。そして、その上にPE混和物が押出し被覆され、架橋されて架橋ポリエチレンからなる架橋絶縁体層4が形成され、架橋PE絶縁電線となる。具体的な水密絶縁電線の製造方法について述べると、銅素線等からなる撚線導体間に、MFR(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのEEA或いはEEA混合物中に特定量のDCPを添加した水密材を圧入すると共に、架橋剤が配合された未架橋のPE混和物を押出し被覆し、ついで前記PE混和物を化学架橋処理すると同時に、水密材も80〜86%の架橋度に架橋される。このように、架橋PE絶縁体層の架橋処理と同時に目的とする架橋度の水密材とすることができるので、屋外用の架橋PE絶縁電線を効率よく作製することができることになる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の水密材は、水密性と皮剥ぎ性に優れているので、屋外用の架橋PE絶縁電線としても水密性が十分維持され、また布設作業時等の皮剥ぎ性が優れているので実用的な屋外用の水密絶縁電線として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一例を示す水密絶縁電線の概略断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 素線
2 導体
3 水密材
4 絶縁体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトマスフローレート(190℃、2.16kg)が57〜275g/10minのエチレン・エチルアクリレート共重合体或いはエチレン・エチルアクリレート共重合体どうしの混合物が、80〜86%の架橋度にジクミルパーオキサイドによって化学架橋されたことを特徴とする水密材。
【請求項2】
請求項1に記載の水密材が、導体素線間に充填されていることを特徴とする屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2006−328152(P2006−328152A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151128(P2005−151128)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】