説明

水性塗工液、これを用いた多層構造体およびその製造方法

【課題】 PVA系樹脂が本来有するガスバリア性の低下を抑制しつつ、耐水性を改善したガスバリア層を得ることができる水性塗工液、且つ当該塗工液を用いて形成されたガスバリア層を有する多層構造体を提供すること。
【解決手段】 アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及びグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)を含有することを特徴とする水性塗工液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアルコール系樹脂を含有する水性塗工液に関し、さらに詳しくは、耐水性に優れたガスバリア層を形成できる水性塗工液、さらにかかる水性塗工液を用いて得られるガスバリア層を有する多層構造体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)は透明で、かつ優れたガスバリア性を有することから、食品、薬品、化粧品など、酸素が変質要因となる物品の包装用素材として広く用いられている。
しかしながら、PVA系樹脂は吸湿しやすい上に、吸湿によってガスバリア性が大きく低下するため、PVA系樹脂の表面を水蒸気バリア性に優れた熱可塑性樹脂層で保護したり、水蒸気バリア性に優れた熱可塑性樹脂層を両面に積層した多層構造体として用いられている。
なお、かかるPVA系樹脂を含有する層は、PVA系樹脂が熱溶融成形に適さないことから、通常、PVA系樹脂を含有する水性塗工液を基材上に塗工、乾燥して形成される。
【0003】
しかしながら、PVA系樹脂層を熱可塑性樹脂層等で保護した多層構造体であっても、高湿度下での使用や、水分を多く含む物品の包装材としての使用、あるいはボイル・レトルト処理に供される用途では、PVA系樹脂層への水分の影響を避けることは困難である。従って、PVA系樹脂層自体の耐湿性、耐水性を向上することが重要である。
【0004】
PVA系樹脂に耐水性を付与する方法として、架橋剤によって架橋することが知られており、PVA系樹脂層を含む多層構造体においても、かかる技術が検討されている。
例えば、特開2007−262410号公報(特許文献1)には、耐ボイル性、耐レトルト性を改善したガスバリア層の材料として、PVA系樹脂などの高水素結合性樹脂、無機層状化合物、前記高水素重合樹脂と架橋し得る金属有機化合物を含む混合液をpH5以下に調整した樹脂組成物が提案されている。
【0005】
この特許文献1に記載の技術では、PVA系樹脂を架橋するために、ガスバリア層の原料となる水性塗工液を、pH5以下の強酸性としている。強酸性の塗工液は、基材に与えるダメージが大きい。また、使用する装置についても、耐酸性処理が必要となることから、工業的な制約が大きい。
【0006】
特開2010−77385号公報(特許文献2)には、反応性に優れるアセトアセチル基を有するPVA系樹脂を用い、これを架橋させることにより、PVA系樹脂に高度な耐水性を付与することが提案されている。また、特許文献2に開示されている架橋剤を用いた耐水性PVA系樹脂で、すでに実用化されているものもある。特に、グリオキシル酸塩を架橋剤として添加配合したアセトアセチル基を有するPVA系樹脂の水性塗工液は、常温での安定性に優れ、加熱のみで速やかに架橋反応が進行し、耐水性に優れた塗工層を得ることができることが知られている。
【0007】
なお、アセトアセチル基を有するPVA系樹脂の架橋剤としては、他にジアミン化合物も知られているが、ジアミン化合物は、一般に皮膚刺激性があったり、ポットライフも短いため、生産現場、ユーザーからは、ジアミン化合物に代わる安全性が高くポットライフ長い架橋剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262410号公報
【特許文献2】特開2010−77385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PVA系樹脂の優れたガスバリア性は、水酸基間の水素結合により形成される結晶構造が、単純な樹脂構造により高い結晶性を有することに基づくものと考えられている。
従って、嵩高い側鎖であるアセトアセチル基を有する変性PVA系樹脂は、未変性PVA系樹脂と比べて、ガスバリア性が低下する傾向にある。さらに、PVA系樹脂において、耐水性を満足できるように架橋すると、架橋部分が結晶性を阻害することになるため、PVA系樹脂本来の優れたガスバリア性が損なわれてしまうという問題がある。
【0010】
実際に、特許文献2の実施例で用いられている平均重合度1200、ケン化度99モル%、アセトアセチル基の含有量が5モル%であるアセトアセチル基を有するPVA系樹脂と、グリオキシル酸塩を用いた架橋フィルムでは、充分なガスバリア性が得られないことが確認された。
【0011】
そこで、本発明ではこのような背景下において、PVA系樹脂が本来有するガスバリア性の低下を抑制しつつ、耐水性を改善したガスバリア層を得ることができる水性塗工液、かかる水性塗工液を用いて形成されたガスバリア層を有する多層構造体およびそれの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アセトアセチル基を有するPVA系樹脂にグリオキシル酸金属塩を架橋剤として用いる場合において、ガスバリア性は、グリオキシル酸金属塩の種類と、アセトアセチル基を有するPVA系樹脂のアセトアセチル化度の影響を受けること、即ち、アセトアセチル基含有PVA系樹脂として通常よりもアセトアセチル化が低いアセトアセチル基を有するPVA系樹脂を用い、かつグリオキシル酸塩の塩としてアルカリ土類金属塩を用いることにより、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明の要旨は、アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及びグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)を含有することを特徴とする水性塗工液、
基材及び当該基材の少なくとも一面にガスバリア層が設けられた多層構造体であって、
前記ガスバリア層が、アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)とを含有する水性塗工液の乾燥膜であることを特徴とする多層構造体、
および、基材上に、アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)とを含有する水性塗工液を塗工する工程;及び前記塗工により得られた塗工層を乾燥する工程を含むこと特徴とする多層構造体の製造方法
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性塗工液は、耐水性とガスバリア性、特に高湿度下でのガスバリア性の低下を抑制し、さらに優れた耐水性を保持した塗工層が得られることから、各種基材に対するガスバリア性保護層として、あるいは食品、薬品、農薬、化粧品、電子部品などの包装材料、特にボイル・レトルト処理が必要な包装材料として用いられる多層構造体中のガスバリア層として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
〔アセトアセチル基含有PVA系樹脂〕
まず、本発明で用いられるアセトアセチル基含有PVA系樹脂(以下、「AA化PVA系樹脂」と略記。)について説明する。
本発明で用いられるAA化PVA系樹脂は、側鎖にアセトアセチル基を有するPVA系樹脂であり、AA化PVA系樹脂全体に対するアセトアセチル基の含有量は、0.5〜3モル%である。
【0017】
かかるAA化PVA系樹脂の製造法としては、特に限定されず、例えば、i)PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、ii)PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、iii)酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVA系樹脂が得られるという点から、i)の後変性の方法が好ましく採用される。
【0018】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0019】
また、ビニルエステル系モノマーと、該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマー(共重合モノマー)との共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は全構造単位の10モル%以下、特には5モル%以下である。多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との反応性を阻害したりする場合があるため好ましくない。
【0020】
又、ビニルエステル系モノマーおよび共重合モノマーを重合、共重合する際の重合温度を調整することにより、PVA主鎖中の1,2−ジオール結合を1.0〜3.5モル%程度としたものを使用することも可能である。
【0021】
ジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入には、PVA系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられる。
【0022】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば十分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0023】
AA化PVA系樹脂におけるアセトアセチル基含有量(以下、「AA化度」と略記)は、0.5〜3モル%、好ましくは1〜3モル%、より好ましくは2〜3モル%である。このような範囲のAA化度は、耐水性アップのために一般に用いられているAA化PVA系樹脂のAA化度よりも低いところに特徴がある。ガスバリア性の低下は、AA化PVA系樹脂における結晶性の低下に基づくと考えられ、AA化度が高くなるほど、ガスバリア性の低下が顕著となる。従って、結晶性を低下させる原因となるアセトアセチル基の含有量を少なくすることが好ましいといえるが、本来の耐水性付与の目的から、少なくとも0.5モル%程度のAA化度は必要である。
【0024】
上記AA化度は、AA化PVA系樹脂の全てのビニル構造単位に対するAA基の量(モル%)を表わすものであり、具体的には、1H−NMRスペクトルにおける主鎖のメチレンプロトンに由来するピーク面積とAA基のメチルプロトンに由来するピーク面積の比によって求めることができる。または、下記に示したケン化度と同様の方法によって、AA化PVA系樹脂の総エステル基量(アセト酢酸エステル基+酢酸エステル基)を求め、ケン化度測定で求めた原料PVA系樹脂の酢酸エステル基量との差からAA化度(モル%)を求めることもできる。
【0025】
AA化度、すなわち、AA化PVA系樹脂中のアセトアセチル基含有量は、ジケテンとの反応によりAA化PVA系樹脂を製造する場合、反応させるジケテン量により、調節することができる。
【0026】
本発明で用いられるAA化PVA系樹脂の平均重合度は、通常、300〜5000であり、特に400〜4000、殊に500〜3000である。かかる平均重合度が小さすぎると、PVA系樹脂層の強度が不十分となったり、十分な耐水性が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、これを含む塗工液の粘度が高くなりすぎ、作業性が低下する傾向がある。
なお、平均重合度は、JIS K6726に準じて測定されるものであるが、PVA系樹脂を原料とし、後反応によってアセトアセチル基を導入する場合には、その過程で重合度が変化することはないため、通常は、原料として用いたPVA系樹脂の平均重合度がそのまま用いられる。
【0027】
また、本発明に用いられるAA化PVA系樹脂のケン化度は高ケン化度のものが好ましく、通常、60モル%以上であり、特に80〜100モル%、更に90〜100モル%、殊に98〜100モル%が好ましい。かかるケン化度が低すぎると、耐水性、およびガスバリア性が不十分になる傾向がある。
なお、かかるケン化度についても、平均重合度と同様、原料として用いたPVA系樹脂のケン化度がそのまま用いられる。
【0028】
また、本発明のAA化PVA系樹脂には、製造工程で使用あるいは副生した酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩(主として、ケン化触媒として用いたアルカリ金属水酸化物とポリ酢酸ビニルのケン化によって生成した酢酸との反応物等に由来)、酢酸などの有機酸(PVA系樹脂にアセト酢酸エステル基を導入する際の、ジケテンとの反応時にPVAに吸蔵させた有機酸等に由来)、メタノール、酢酸メチルなどの有機溶剤(PVA系樹脂の反応溶剤、AA化PVA製造時の洗浄溶剤等に由来)が一部残存していても差し支えない。
【0029】
〔グリオキシル酸のアルカリ土類金属塩〕
グリオキシル酸のアルカリ土類金属塩とは、グリオキシル酸と、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の塩であり、中でも、耐水性に優れる塗工層が得られる点からカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0030】
AA化PVA系樹脂の架橋剤として、上述の特許文献2では、グリオキシル酸金属塩が提案されているが、本発明では、アルカリ土類金属塩を特定的に用いるところに特長がある。本発明者らが検討したところ、架橋剤としてグリオキシル酸アルカリ金属塩を用いる場合とアルカリ土類金属塩を用いる場合とでは、ガスバリア性に対する影響が大きく異なることがわかった。グリオキシル酸アルカリ金属塩を用いた場合、ガスバリア性の低下、特に高湿度下でのガスバリア性の低下が顕著であったのに対し、グリオキシル酸のアルカリ土類金属塩を用いた場合には、高湿度下でもガスバリア性の低下を抑制することが可能である。理由は明らかではないが、アルカリ土類金属塩を用いた場合、架橋構造が最大4配位のキレート構造を形成する可能性があるため、アルカリ金属塩を用いた場合よりも、架橋構造として、AA基近傍の構造が固定化され、その結果、高湿度下でも架橋構造が安定しているのではないかと考えられる。そして、このような架橋構造の固定化は、耐水性アップだけでなく、非晶部分のポリマー分子鎖運動によるガスバリア性の低下も抑制できるのではないかと考える。つまり、架橋構造が固定化されることで架橋部分でのガスの透過を阻害することができたのではないかと考える。
【0031】
グリオキシル酸アルカリ土類金属塩の製造法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、(1)グリオキシル酸のアルカリ土類金属化合物による中和反応による方法、(2)グリオキシル酸と酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸のアルカリ土類金属塩との塩交換反応による方法、(3)グリオキシル酸エステルのアルカリ土類金属化合物の存在下での加水分解による方法などを挙げることができる。特に、グリオキシル酸との中和反応に用いるアルカリ土類金属化合物の水溶性が高い場合は(1)の方法が好ましく用いられる。得られるグリオキシル酸塩の水溶性が低く、酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸のアルカリ土類金属塩の水溶性が高い場合は(2)の方法が好ましく用いられる。
【0032】
なお、(1)の方法は通常、水を媒体として行われ、グリオキシル酸とアルカリ土類金属化合物、例えば、水酸化物やアミン化合物を水中で反応させ、析出したグリオキシル酸アルカリ土類金属塩を濾別し、乾燥して製造することができる。
また、(2)の方法も一般的に水中で行われ、(1)の方法と同様にしてグリオキシル酸アルカリ土類金属塩を得ることができる。なお、(2)の方法において用いられるグリオキシル酸より解離定数が大きい酸のアルカリ土類金属塩としては、例えば、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等の脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0033】
なお、本発明で使用するグリオキシル酸アルカリ土類金属塩には、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩の製造に用いられる原料や原料に含まれる不純物、製造時の副生成物等が含まれる可能性があり、例えば、グリオキシル酸、アルカリ土類金属の水酸化物、アミン化合物、脂肪族カルボン酸塩、グリオキザール、シュウ酸、またシュウ酸塩、グリコール酸またはグリコール酸塩などが混入されている場合がある。
【0034】
また、本発明におけるグリオキシル酸アルカリ土類金属塩は、そのアルデヒド基が、メタノール、エタノールなどの炭素数が3以下のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの炭素数が3以下のジオール等によってアセタール化、およびヘミアセタール化された化合物を包含するものである。かかるアセタール基、およびヘミアセタール基は、水中、あるいは高温下では容易にアルコールが脱離し、アルデヒド基と平衡状態をとるため、アルデヒド基と同様の機能を有するものである。
【0035】
本発明の水性塗工液における、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩の含有量は、通常、AA化PVA系樹脂に対して、0.1〜20重量%であり、特に0.5〜15重量%、殊に1〜10重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる含有量が少なすぎると充分な耐水性や耐湿性が得られず、逆に多すぎると、常湿下でのガスバリア性の低下が大きくなる傾向にある。
【0036】
〔水性塗工液〕
本発明の水性塗工液は、上述のAA化PVA系樹脂(A)と、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)を含有するものであり、その他、必要に応じて他の成分を含有することも可能である。
【0037】
本発明の水性塗工液中のAA化PVA系樹脂(A)の含有量は、通常、水、AA化PVA系樹脂(A)、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)の合計量に対して、0.1〜30重量%であり、特に0.5〜20重量%、殊に1〜15重量%の範囲が好適に用いられる。かかるAA化PVA系樹脂(A)の含有量が少なすぎると、所望の厚さの塗工層を得るのが困難になり、複数回の塗工が必要になる場合がある。また、多すぎると、塗工液の粘度が高くなりすぎ、塗工作業が困難となったり、均一な塗工層が得られにくくなる場合がある。
【0038】
本発明の水性塗工液における、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩の含有量は、通常、AA化PVA系樹脂に対して、0.1〜20重量%であり、特に1〜15重量%、殊に2〜10重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる含有量が少なすぎると充分な耐水性や耐湿性が得られず、高湿度下でのガスバリア性が不十分になる傾向があり、逆に多すぎるてもガスバリア性が不十分になる傾向がある。
【0039】
本発明の水性塗工液の製造法としては、複数の水溶性化合物を含有する水性液を調製する公知の方法を採用することができ、例えば、(1)AA化PVA系樹脂(A)の水溶液と、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)の水溶液もしくは水中分散体(スラリー)とをそれぞれ調製し、混合する方法、(2)AA化PVA系樹脂(A)水溶液にグリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)を配合し、溶解する方法、(3)AA化PVA系樹脂(A)とグリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)との混合物を水中に投入し、同時に溶解する方法、などを挙げることができる。中でも、均一で良好な水性液が得られ易いことから(1)の方法が好ましく用いられる。
【0040】
なお、本発明の水性塗工液には、本発明の効果を阻害しない範囲内(通常、樹脂成分の30質量%以下、好ましくは5質量%以下)であれば、AA化PVA系樹脂(A)以外の水溶性樹脂を配合することも可能である。かかる水溶性樹脂としては、未変性PVA、各種変性PVA系樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸のアルカリ金属塩などを挙げることができる。また、各種水性エマルジョンを配合することも可能である。
【0041】
中でも、塗工液中、および塗工層とした場合の相分離の懸念が小さいことから、AA化PVA系樹脂以外のPVA系樹脂が好ましく用いられる。特に、新たな機能を付与する目的で、AA化以外の各種変性PVA系樹脂を用いることができる。
【0042】
かかる変性PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーと各種モノマーとの共重合体をケン化して得られた物であり、かかるモノマーとしては、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0043】
一方、本発明の水性塗工液におけるAA化PVA系樹脂の架橋剤として、グリオキシル酸アルカリ土類金属(B)以外の公知の架橋剤を、本発明の効果を阻害しない範囲内(架橋剤全体の50質量%未満、好ましくは25質量%未満)で併用しても良い。そのような架橋剤としては、グリオキシル酸アルカリ金属塩、水溶性チタニウム化合物や水溶性ジルコニウムなどの多価金属化合物、エチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジドなどのヒドラジン化合物、メチロール化メラミンなどのメチロール基含有化合物、グリオキザールなどのアルデヒド基含有化合物、などを挙げることができる。
【0044】
本発明の水性塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、消泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光染料、防腐剤、防黴剤などの、従来公知の添加剤や、ガスバリア性をさらに向上させるための層状無機化合物やセルロースナノファイバーなどを含有していてもよい。また、基材への濡れ性改善や、乾燥速度調節などの目的で水以外の有機溶剤類を含んでいてもよく、具体的には水との混和性を有する炭素数が1〜4のアルコール類、ケトン類を挙げることができる。
【0045】
本発明の水性塗工液の濃度は、通常、0.1〜50重量%であり、特に0.5〜30重量%、殊に1〜20重量%の範囲のものが好ましく用いられる。
また、水性塗工液の粘度は、通常、1〜10000mPa・sであり、特に2〜5000mPa・s、殊に3〜3000mPa・sの範囲のものが好ましく用いられる。なお、かかる粘度は20℃での測定値であり、B型粘度計によるものである。
かかる濃度、および粘度が高すぎると、気泡が抜けにくくなったり、塗工時の作業性が低下したり、均一な塗工層を得ることが難しくなる傾向がある。逆に、水性塗工液の濃度や粘度が低すぎると、乾燥に長時間を要したり、所望の厚さの塗工層を得ることが困難になり、複数回の塗工を余儀なくされる場合がある。
かくして得られた本発明の水性塗工液は、各種基材に塗工され、乾燥させることで塗工
層(ガスバリア層)を形成できる。
【0046】
〔多層構造体〕
本発明の多層構造体は、基材の少なくとも片面に、上記本発明の水性塗工液を塗工してなる塗工層を有するものである。
【0047】
上記基材としては特に制限はなく、その素材としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの合成樹脂、ガラス、アルミ箔などの金属材料、紙、木などの天然材料、その形状としては、フィルム、シート、不織布、各種成形品などを挙げることができ、中でも、フィルム状、あるいはシート状の基材が好ましく用いられる。
【0048】
基材の材料として用いられる熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン6,6、メタキシリレンジアミン−アジピン酸縮重合物等のポリアミド系樹脂;ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル等のスチレン系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン含有樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
【0049】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等が好ましく用いられ、特に、これらのフィルム、およびさらに一軸延伸または二軸延伸してなるフィルム、さらにその表面にシリカ、アルミナ等を蒸着してなるフィルム等が好ましく用いられる。また、基材によっては、本発明の水性塗工液による塗工層との接着性を向上させるため、プラズマ処理、コロナ処理、電子線処理などの表面処理を施したり、プライマー処理、アンカー処理などを施してもよく、かかるプライマー処理、アンカー処理に用いる材料の例としては、ポリエチレンイミンやポリウレタン系エマルジョン等をあげることができる。
なお、フィルム基材を用いる場合には、その厚みは10〜1000μm程度が適当である。
【0050】
上述の基材に本発明の水性塗工液を塗工する方法としては、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法;2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本ロール法等のロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法、スリットコート法;など、公知の塗工法を用いることができる。
【0051】
本発明の水性塗工液を基材に塗工した後、乾燥によって水分やその他の揮発分が除かれる。その際の乾燥温度は塗工層の厚さによって適宜調節すべきものであるが、通常は、10〜200℃であり、特に20〜150℃、殊に30〜120℃の範囲が好適に用いられる。また、乾燥時間も、揮発分が所定量以下になるように、上述の乾燥温度に応じて適宜調節されるものであるが、通常は0.1〜120分であり、特に0.5〜60分の範囲で行われる。
かかる加熱、乾燥の過程で、本発明のAA化PVA系樹脂(A)は、グリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)によって架橋される。従って、本発明の多層構造体の塗工層には、AA化PVA系樹脂(A)をグリオキシル酸アルカリ土類金属塩(B)で架橋された架橋構造を有するものが含まれる。
【0052】
塗工層の膜厚は、通常0.05〜50μmであり、特に0.1〜30μm、殊に1〜20μmの範囲から好ましく選択される。かかる膜厚が薄すぎると、充分なガスバリア性が得られなくなる場合があり、一方、膜厚が厚すぎると、多層構造体としたときの柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0053】
本発明の多層構造体は、当該基材上又は塗工層上に、さらに他の層、好ましくは他の熱可塑性樹脂層が積層されていることが好ましい。
【0054】
本発明の多層構造体の層構成としては、PVA系樹脂層をa(a1、a2、・・・)、熱可塑性樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b1/b2/a/b3/b4、a1/b1/a2/b2等任意の組み合わせが可能で、特にb/a/bまたはb2/b1/a/b1/b2の層構成が好ましい。
【0055】
なお、かかるPVA系樹脂層(a)と熱可塑性樹脂層(b)との間には、接着剤層を設けてもよい。また、これらの多層構造体の表面、あるいは各層の界面に、金属や無機成分による蒸着層を設けてもよい。
【0056】
かかる多層構造体の膜厚は、通常0.1〜100μmであり、特に1〜50μm、殊に2〜30μmの範囲である。かかる膜厚が薄すぎると充分なガスバリア性が得られなくなる傾向があり、逆に厚すぎると柔軟性が損なわれる傾向がある。
また、多層構造体におけるPVA系樹脂層(a)と熱可塑性樹脂層(b)の厚さの比(a/b)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99〜50/50であり、特に3/97〜35/65、殊に4/96〜25/75の範囲が好ましく用いられる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは重量基準を意味する。
なお、AA化度は、上述した1H−NMRを用いる方法により測定したものである。
【0058】
〔AA化PVA系樹脂の製造〕
(製造例1)AA化PVA系樹脂(1)
温度調節器付きリボンブレンダーに、未変性PVA(平均重合度1100、ケン化度99.1モル%)を、ニーダーに444部仕込み、これに酢酸100部加えて膨潤させ、回転数200rpmで攪拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン30部を0.5時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で6時間乾燥してAA化PVA樹脂(1)を得た。得られたAA化PVA系樹脂(1)のAA化度は2.3モル%であり、ケン化度、重合度は、原料として用いた未変性PVAから、それぞれ99.1モル%、1100であった。
【0059】
(製造例2)AA化PVA系樹脂(2)
ジケテンの添加量を62部に変更し、2時間かけて滴下し、更に1時間反応させた以外は、AA化PVA樹脂と同様にして、AA化PVA樹脂(2)を得た。
得られたAA化PVA系樹脂(2)のAA化度は5.2モル%であった。
【0060】
〔グリオキシル酸金属塩の製造〕
(製造例3)グリオキシル酸カルシウム(GOA−Ca)
2Lの2口反応缶中の25%グリオキシル酸水溶液202g(0.68モル)に、20%酢酸カルシウム水溶液268g(0.34モル)を2時間かけて滴下し、生じた白色結晶をろ過、水洗した後、50℃にて1時間乾燥して、グリオキシル酸カルシウム70.3g(0.32モル、収率93.6%)を得た。
【0061】
(製造例4)グリオキシル酸ナトリウム(GOA−Na)
2Lの2口反応缶中の50%グリオキシル酸水溶液456g(3.10モル)に、20%水酸化ナトリウム水溶液645g(3.22モル)を加え、生じた白色結晶をろ過、水洗した後、50℃にて1時間乾燥して、グリオキシル酸ナトリウム210g(1.84モル、収率59.5%)を得た。
【0062】
[実施例1、比較例1および2]
<実施例1>
製造例1で得られたAA化PVA系樹脂(1)の5%水溶液100重量部に、製造例3で得られたグリオキシル酸カルシウム0.25重量部(AA化PVA系樹脂100重量部に対して5重量部)を添加して混合撹拌し、水性塗工液とした。
調製した水性塗工液を、表面がコロナ処理されたPETフィルム上にバーコーターで塗布し、80℃の熱風オーブンで5分間乾燥して、PETフィルム上に厚み3μmの塗工層を形成し、多層構造体を得た。
得られた多層構造体のガスバリア性(酸素透過度)を以下の要領で評価した。
【0063】
<ガスバリア性>
MOCON社製『OXTRAN2/20』を用い、上記多層構造体の酸素透過度を23℃、65%RH、および23℃、80%RHの条件下で測定し、塗工層の酸素透過度(厚さ3μm換算値)を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例1>
実施例1において、グリオキシル酸カルシウムに代えて、製造例4で得られたグリオキシル酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様に水性塗工液を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例2>
実施例1において、AA化PVA系樹脂(1)に代えて、製造例2で得られたAA化PVA系樹脂(2)を用いた以外は実施例1と同様に水性塗工液を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0066】
<参考例1>
参考例として、実施例1においてAA化PVA樹脂(1)の原料として用いた未変性PVA樹脂(平均重合度1100、ケン化度99.1モル%)を用いた水性塗工液を使用して得られる多層構造体の測定結果も併せて表1に示す。
【0067】
また、得られた多層構造体について、耐水性を測定した。耐水性は、80℃の温水に1時間浸漬したときに温水中に溶け出す量(溶出量(wt%))を測定した。かかる条件は、参考例の未変性PVAでは、全て溶解する条件である。
【0068】
【表1】

【0069】
ガスバリア性についてみると、表1から、アセトアセチル基の含有量が特定範囲であるAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸カルシウムを含有する水性塗工液を用いて得られた実施例1の多層構造体は、65%RHでのガスバリア性に優れ、未変性PVA樹脂を用いた場合の多層構造体と比べても遜色なかった。
一方、グリオキシル酸塩としてグリオキシル酸ナトリウムを用いた比較例1の多層構造体、AA化度が5モル%を超えるAA化PVA樹脂を用いた比較例2の多層構造体では、常温常湿(23℃、65%RH)で、ガスバリア性が低下していた。
【0070】
さらに、高湿度条件下では、いずれの多層構造体もガスバリア性は、常温常湿の場合と比べて低下するが、グリオキシル酸ナトリウムを架橋剤として用いた比較例1ではガスバリア性の低下が顕著であるのに対して、グリオキシル酸カルシウムを架橋剤として用いた実施例1および比較例2では、ガスバリア性の低下を抑制することができている。
そして、高湿度下においても、AA化度が小さいPVA系樹脂を用いた実施例1の多層構造体が最もガスバリア性が優れていた。
【0071】
また、AA化PVA系樹脂を用いた実施例1、比較例1および2の多層構造体は、いずれも耐水性に優れているものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の水性塗工液は、耐水性とガスバリア性に優れる塗工層が得られることから、各種基材に対するガスバリア性付与層として、あるいは食品、薬品、農薬、化粧品、電子部品などの包装材料、特にボイル・レトルト処理が必要な包装材料として用いられる多層構造体中のガスバリア層として有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及びグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項2】
グリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)が、グリオキシル酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の水性塗工液。
【請求項3】
グリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)の含有量が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対して0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性塗工液。
【請求項4】
基材及び当該基材の少なくとも一面にガスバリア層が設けられた多層構造体であって、
前記ガスバリア層が、アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)とを含有する水性塗工液の乾燥膜であることを特徴とする多層構造体。
【請求項5】
乾燥膜が、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)のグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)による架橋物を含有してなることを特徴とする請求項4に記載の多層構造体。
【請求項6】
基材上に、アセトアセチル基の含有量が0.5〜3モル%であるアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とグリオキシル酸のアルカリ土類金属塩(B)とを含有する水性塗工液を塗工する工程;及び
前記塗工により得られた塗工層を乾燥する工程
を含むことを特徴とする多層構造体の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程が、加熱を含むことを特徴とする請求項6に記載の多層構造体の製造方法。

【公開番号】特開2012−188661(P2012−188661A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38637(P2012−38637)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】