説明

水性塗料組成物、複層塗膜の形成方法、及び塗装物

【課題】水性塗料を用いてウェットオンウェットにより複層塗膜を形成する場合に、作業効率を向上でき、低エネルギー化が可能で、外観及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有する水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体等の塗装に利用される水性塗料組成物、その水性塗料組成物を用いた複層塗膜の形成方法、及びその複層塗膜の形成方法によって得られる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体等を被塗装物とする塗装は、鋼板の上に電着塗膜を形成した後、中塗り塗膜、ベース塗膜、及びクリヤ塗膜とからなる複層塗膜を積層して形成している。この複層塗膜を形成する場合、所定の塗膜特性を付与するため各塗膜用の塗料が塗装される毎に焼付け硬化する方法が行われていたが、作業効率の向上、二酸化炭素等の環境負荷物質の削減、及び塗装工程の低エネルギー化を実現するため、各塗膜を完全に硬化させることなく、未硬化の状態で上層の塗料を順次ウェットオンウェットで塗装した後、一度に焼付け硬化を行う方法が採用されるようになってきている。
【0003】
一方、上記のような各塗料は有機溶剤型の塗料組成物が使用されてきたが、塗料成分中の有機溶剤から発生する揮発成分が環境に及ぼす影響を低減すべく、低VOC(Volatile Organic Compound)化が求められている。このため、塗料中に含有する有機溶剤を低減し、希釈溶剤として水を用いた水性塗料への転換が進められおり、中塗り塗膜及びベース塗膜用の塗料として水性塗料を用いるとともに、これらの塗料を有機溶剤型の塗料と同様にウェットオンウェットで塗装して複層塗膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
例えば、被塗装物に水性第1塗料を塗装し、形成される第1の塗膜のゲル分率を5質量%以上に調整してから水性第2塗料を塗装し、形成される第2の塗膜中の水分を揮散させた後、クリヤ塗料を塗装し、次いで得られる三層塗膜を加熱して同時に硬化せしめる複層塗膜形成方法や、粘度1600〜2000cpの水性塗料をウエットオンウエットで重ね塗りする場合に、重ね塗りした水性塗料の塗装面に純水又は純水と水性塗料の溶剤成分との混合液を塗装する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2001−342423号公報
【特許文献2】特開平8−215633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような水性塗料を中塗り塗膜及びベース塗膜用の第1水性塗料及び第2水性塗料として用いてウェットオンウェットで各塗膜が完全硬化されることなく順次塗装される場合、水性塗料に含まれる水は乾燥性に劣るため、塗膜が未乾燥状態では各層間で塗料の混合が生じ、塗膜欠陥を発生して外観不良を招くこととなる。このため、水性塗料で優れた外観の複層塗膜を得るためには、各塗料を塗装した後、塗膜中の水分を蒸発させて塗膜粘度を上昇させるために80〜100℃程度のプレヒート工程が必要とされる。また、そのプレヒートによって塗膜が加熱されるため、次の塗料を塗装する前に塗膜を冷却する必要がある。従って、ウェットオンウェットにより各塗料の塗装毎の焼付け硬化の工程を除いているにも拘らず、各水性塗料の塗装毎にプレヒート工程とクーリング工程を設ける必要があり、水性塗料がウェットオンウェットでの塗装に使用される場合には十分な作業効率の向上や低エネルギー化が図られていないのが現状である。
【0006】
一方、プレヒート工程やクーリング工程における作業効率の向上及びエネルギーの低減には、プレヒート工程における温度の低下と、それによるクーリング工程の短時間化あるいは省略が有効であるが、従来の水性塗料ではプレヒート工程における温度の低下によって塗膜間、特にベース塗膜とクリヤ塗膜の間になじみが生じて外観不良が発生することが明らかとなった。
【0007】
さらに、作業効率を向上するためには、水性塗料においても貯蔵安定性に優れるとともに、塗装ごとに乾燥、完全硬化を行った場合と同様の耐水性も確保する必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、低VOC化のために水性塗料を用いてウェットオンウェットにより複層塗膜を形成する場合に、作業効率を向上でき、低エネルギー化が可能で、外観及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる水性塗料組成物、及びそれを用いた複層塗膜の形成方法、並びにその複層塗膜によって得られる塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明とは、第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料を順次ウェットオンウェットで塗装して複層塗膜を形成するための第2水性塗料用の水性塗料組成物であって、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有する水性塗料組成物である。上記構成によれば、前記(a)エマルション樹脂は、多官能性ビニルモノマーをモノマー成分とするとともに、この多官能性ビニルモノマーと反応しうるカルボキシル基含有ビニルモノマー及び水酸基含有ビニルモノマーをモノマー成分とするモノマー混合物を乳化重合することにより得られるエマルション樹脂であるため、エマルション粒子内に架橋構造を形成することができ、このため水性塗料を用いてウェットオンウェットで塗装された場合でも、クリヤ塗料成分の下層塗膜への浸入が抑制され、上層塗膜とのなじみ性を改善することができる。また、上記エマルション樹脂とともに、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション、及び(d)硬化剤をそれぞれ一定組成で含有するため、貯蔵安定性に優れた水性塗料、及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる。
【0010】
本発明の上記水性塗料組成物は、前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造を有することが好ましい。上記構成によれば、(a)エマルション樹脂がコア・シェル構造を有するため、塗料にチキソ性を付与することができる。
【0011】
また、本発明の上記水性塗料組成物は、前記(a)エマルション樹脂として、前記コア・シェル構造のコア部、シェル部のいずれもが前記多官能性ビニルモノマーをモノマー成分として含有する各モノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂を用いることが好ましい。上記構成によれば、架橋構造を有するコア部及びシェル部が得られるとともに、コア部及びシェル部の両方に多官能性ビニルモノマーと反応しうる反応性のモノマーを有しているため、コア・シェル間でも架橋構造を有するエマルション樹脂が得られ、さらにクリヤ塗料成分の浸入が抑制され、なじみ性が低減されて優れた外観の複層塗膜が得られる。
【0012】
さらに、本発明の上記水性塗料組成物は、前記(a)エマルション樹脂の酸価が1〜30mgKOH/gであることが好ましい。上記構成によれば、エマルション樹脂やそれを用いた水性塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。
【0013】
またさらに、本発明の上記水性塗料組成物は、顔料を1〜20質量%含有することが好ましく、前記顔料は光輝性顔料を含有することがより好ましい。本発明の塗料組成物は(a)エマルション樹脂とともに、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション、及び(d)硬化剤をそれぞれ一定組成で含有するため、顔料を含有する場合でも、顔料の分散性に優れ、貯蔵安定性に優れた水性塗料が得られる。
【0014】
また、本発明は、第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料を順次ウェットオンウェットで塗装する工程、及び塗装された三層を一度に焼付け硬化する工程を有する複層塗膜の形成方法であって、前記第2水性塗料は、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有する複層塗膜の形成方法である。上記構成によれば、第2水性塗料中の(a)エマルション樹脂が多官能性ビニルモノマーをモノマー成分とするとともに、この多官能性ビニルモノマーと反応しうるカルボキシル基含有ビニルモノマー及び水酸基含有ビニルモノマーをモノマー成分とするモノマー混合物を乳化重合することにより得られるエマルション樹脂であるため、エマルション粒子内に架橋構造を形成することができ、ウェットオンウェットで第2水性塗料上にクリヤ塗料が塗装され、塗装された三層が一度に焼付け硬化される場合でも、クリヤ塗料成分の下層塗膜への浸入が抑制され、上層塗膜とのなじみ性を改善することができる。また、上記エマルション樹脂とともに、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション、及び(d)硬化剤をそれぞれ一定組成で含有するため、貯蔵安定性に優れた水性塗料、及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる。
【0015】
本発明の上記複層塗膜の形成方法において、前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造を有することが好ましい。上記構成によれば、(a)エマルション樹脂がコア・シェル構造を有するため、塗料にチキソ性を付与することができる。
【0016】
また、本発明の上記複層塗膜の形成方法は、前記(a)エマルション樹脂として、前記コア・シェル構造のコア部、シェル部のいずれもが前記多官能性ビニルモノマーをモノマー成分として含有する各モノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂を用いることが好ましい。上記構成によれば、架橋構造を有するコア部及びシェル部が得られるとともに、コア部及びシェル部の両方に多官能性ビニルモノマーと反応しうる反応性のモノマーを有しているため、コア・シェル間でも架橋構造を有するエマルション樹脂が得られ、さらにクリヤ塗料成分の浸入が抑制され、なじみ性が低減されて優れた外観の複層塗膜が得られる。
【0017】
さらに、本発明の上記複層塗膜の形成方法は、前記(a)エマルション樹脂の酸価が1〜30mgKOH/gであることが好ましい。上記構成によれば、エマルション樹脂やそれを用いた水性塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。
【0018】
そして、本発明の上記複層塗膜の形成方法は、前記第2水性塗料を塗装した後、クリヤ塗料を塗装する前に、40〜60℃で乾燥するプレヒート工程を有することが好ましい。本発明の第2水性塗料は、ウェットオンウェットで塗装された場合でもクリヤ成分の浸入が抑制されているため高温でプレヒート工程を行う必要がなく、40〜60℃の低温でプレヒートが行なわれても、クリヤ塗料とのなじみ性が改善される。そして、本発明の上記複層塗膜の形成方法は、前記プレヒート工程が低温であるため、クーリング工程を行うことなく、クリヤ塗料を塗装することができる。
【0019】
また、本発明の上記複層塗膜の形成方法は、前記第2水性塗料が顔料を1〜20質量%含有することが好ましく、前記顔料は、光輝性顔料を含有することがより好ましい。本発明の塗料組成物は(a)エマルション樹脂とともに、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション、及び(d)硬化剤をそれぞれ一定組成で含有するため、顔料を含有する場合でも、顔料の分散性に優れ、貯蔵安定性に優れた水性塗料が得られる。
【0020】
そして、本発明は、上記の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜を有する塗装物である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料を順次ウェットオンウェットで塗装して複層塗膜を形成する場合に、作業効率を向上でき、低エネルギー化が可能で、外観及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、第1水性塗料とクリヤ塗料との間にウェットオンウェットで塗装される第2水性塗料として、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有する水性塗料組成物を用いる。
【0023】
一般に、ビニルモノマーを乳化重合して得られる非架橋のエマルション樹脂は溶剤に溶解しやすく、このためクリヤ塗料に含まれる溶剤、樹脂等となじみやすいことから、第2水性塗料上にウェットオンウェットでクリヤ塗料が塗装された場合、未硬化の状態ではクリヤ塗料中の溶剤、樹脂等がエマルション中に浸入しやすい。これに対して、本発明は、多官能性ビニルモノマーをモノマー成分とするとともに、この多官能性ビニルモノマーと反応しうるカルボキシル基含有ビニルモノマー及び水酸基含有ビニルモノマーをモノマー成分とするモノマー混合物を乳化重合することにより得られるエマルション樹脂であるため、エマルション粒子内に架橋構造を形成することができ、上記のようなクリヤ塗料成分の下層塗膜への浸入が抑制される。
【0024】
本発明の(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造を有することが好ましい。本発明では単層のエマルション樹脂を用いることもできるが、この場合低粘度となって塗装した際に塗料のずれが生じ、いわゆるタレ性が不良となる場合がある。これに対して、コア・シェル構造を有するエマルション樹脂は塗料にチキソ性を付与することができるため、タレ性も改善される。
【0025】
また、本発明の(a)エマルション樹脂において、多官能性ビニルモノマーはコア部及びシェル部のいずれのモノマー成分として使用されても良いが、コア部及びシェル部の両方のモノマー成分として用いられることが好ましい。コア部及びシェル部の両方に多官能性ビニルモノマーをモノマー成分として含有するモノマー混合物を乳化重合することにより得られるエマルション樹脂であれば、架橋構造を有するコア部及びシェル部が得られるとともに、コア部及びシェル部の両方に多官能性ビニルモノマーと反応しうる反応性のモノマーを有しているため、コア・シェル間でも架橋構造を有するエマルション樹脂が得られ、クリヤ塗料成分の浸入が抑制され、なじみ性が低減されて優れた外観の複層塗膜が得られる。特に、上記のようなエマルション樹脂を含む水性塗料組成物であれば、第2水性塗料のプレヒートが40〜60℃の低温で行なわれても、クリヤ塗膜とのなじみ性が低減され、さらに、低温でのプレヒート工程後にクーリング工程を設けることなくクリヤ塗料が塗装されても、クリヤ塗料成分の浸入が十分に抑えられる。
【0026】
本発明のエマルション樹脂の重合に用いられる多官能性ビニルモノマーとしては、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等も挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記多官能性ビニルモノマーのモノマー構成中の使用量としては、モノマー組成全体に対して、0.5〜10質量%、好ましくは2〜9質量%である。0.5質量%未満では、多官能性ビニルモノマーの量が少なすぎ、架橋性が低下するため、なじみ性が劣化し、一方、10質量%より多いと、樹脂の製造工程でゲル化しやすくなり、製造が困難となる。
【0028】
本発明のエマルション樹脂は、上記多官能性ビニルモノマー以外に、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及びその他のビニル重合性モノマーがモノマー成分として使用される。
【0029】
カルボキシル基含有ビニルモノマーをモノマー成分として用いることにより、前記モノマーが多官能性ビニルモノマーと反応して架橋構造を形成するとともに、コア・シェル構造のエマルション樹脂の場合、コア部の表面に存在するカルボキシル基とシェル部の多官能性ビニルモノマーが反応して、コア・シェル間の架橋構造を形成することができる。また、得られるエマルション樹脂の保存安定性等の安定性が向上するとともに、塗料組成物の硬化の際、(a)エマルション樹脂と(d)硬化剤との硬化反応促進触媒としても作用する。
【0030】
上記カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0031】
また、水酸基含有ビニルモノマーをモノマー成分として用いることにより、前記モノマーが多官能性ビニルモノマーと反応して架橋構造を形成するとともに、コア・シェル構造のエマルション樹脂の場合、コア部の表面に存在する水酸基とシェル部の多官能性ビニルモノマーが反応して、コア・シェル間の架橋構造を形成することができる。また、水酸基に基づく親水性がエマルション樹脂に付与され、得られるエマルション樹脂を塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性が増すとともに、硬化剤との硬化反応性が向上する。
【0032】
上記水酸基含有ビニルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ダイセル化学工業(株)製の、「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、及び「プラクセルFM−3」等のε−カプロラクトン変性アクリルモノマー等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0033】
さらに、上記ビニルモノマー以外の他のビニル重合性モノマーとしては、通常アクリルエマルション樹脂の製造に使用されるカルボキシル基や水酸基を含有しない重合性のビニルモノマーである、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記のような他のビニル重合性モノマーを使用することにより、得られるエマルション樹脂のガラス転移温度、及び溶解度パラメータを調整することができる。
【0035】
本発明のエマルション樹脂を構成するモノマーとしては、上記以外にスチレン系モノマーが使用されてもよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンの他にα−メチルスチレン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0036】
本発明の(a)エマルション樹脂は、上記のようなモノマー成分を使用し、これを従来公知の方法により乳化重合することにより得られるが、エマルション樹脂全体の酸価は、1〜30mgKOH/gとすることが好ましい。この範囲の樹脂の酸価とすることにより、エマルション樹脂やそれを用いた水性塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。上記酸価は各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように選択することによって得ることができる。
【0037】
また、本発明の(a)エマルション樹脂全体の水酸基価は、30〜80mgKOH/gとすることが好ましい。この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、エマルション樹脂を含む塗料組成物として用いた場合の作業性や凍結に対する安定性が増すとともに、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性も十分となり、優れた耐水性とともに耐チッピング性も向上する。上記水酸基価は各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択することによって得ることができる。
【0038】
本発明において、コア・シェル構造を有するエマルション樹脂の場合、コア部及びシェル部のモノマー混合物中の各モノマー組成は、コア部及びシェル部全体のモノマー組成として多官能性ビニルモノマー、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及びその他のビニル重合性モノマーを含有すればコア部及びシェル部の各組成は限定されるものではないが、クリヤ塗料とのなじみを低減するためにシェル部のモノマー混合物中の多官能性ビニルモノマーの含有量をコア部のそれより高くすることが好ましい。シェル部のモノマー組成中の多官能性ビニルモノマーの含有量を多くすることにより、シェル部の架橋性が向上し、クリヤ塗料の浸入がさらに抑制される。また、同様にシェル部の架橋性を向上するため、シェル部のモノマー組成中のカルボキシル基含有モノマーの含有量を、コア部のそれよりも多くすることが好ましい。シェル部のモノマー組成中のカルボキシル基含有ビニルモノマーの含有量を多くすることにより、多官能性ビニルモノマーとの反応点が増加してシェル部の架橋性が向上し、クリヤ塗料の浸入がさらに抑制される。このため、カルボキシル基含有モノマーはシェル部のみに使用されてもよい。
【0039】
また、本発明のコア・シェル構造を有するエマルション樹脂の場合、コア部及びシェル部の割合としては、コア/シェルの質量比で、50/50〜95/5が好ましい。前記コア部及びシェル部の範囲は、多段階での重合で各モノマー混合物量を調整することによって得られる。
【0040】
本発明の(a)エマルション樹脂は、上記のようなモノマー成分を用い、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法等によって得られる。コア・シェル構造を有するエマルション樹脂の場合、まず、上記の多官能性ビニルモノマーを含むモノマー混合物の乳化重合を行なってコア部を形成し、さらに多官能性ビニルモノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合することによってシェル部を形成することにより製造することができる。
【0041】
上記の乳化重合においては、例えば、水または必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体中でラジカル重合開始剤、及び乳化剤の存在下で、各モノマー混合物を滴下し、加熱撹拌することにより行うことができる。反応温度は、例えば、30〜100℃程度として、反応時間は、例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合液又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行ってもよい。
【0042】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0043】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステル等の親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤が用いられる。またこれら汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤等も適宜、単独又は2種以上組み合わせて使用される。
【0044】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)が併用されてもよい。
【0045】
上記のようにして得られる(a)エマルション樹脂の粒径としては、50〜500nmが好ましい。この範囲であれば、作業効率を向上できるとともに、優れた外観を有する複層塗膜が得られる。この粒径の調節は、例えば、モノマー組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。
【0046】
本発明の水性塗料組成物において、上記の(a)エマルション樹脂の含有量は、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り40〜60質量部である。(a)エマルション樹脂の含有量が、40質量部未満では(a)エマルション樹脂の量が不足してなじみ性が劣化し、一方、60質量部より多いと、粒状のエマルション樹脂の性質によりエマルション粒子が凝集しやすくなり塗膜の表面凹凸が顕著となって、いずれの場合も外観不良となる。
【0047】
本発明の水性塗料組成物は、上記の(a)エマルション樹脂とともに、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂を塗料樹脂固形分100質量部当り1〜5質量部含有する。アミド基含有水溶性アクリル樹脂を含有することにより、前記樹脂は極性が高いためクリヤ塗料との分離が明瞭となり、なじみを低減することができる。アミド基含有水溶性アクリル樹脂の含有量が1質量部未満では、なじみ性が劣化し、一方、5質量部より多いと、耐水性が不足する。
【0048】
本発明おいて、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂としては、アミド基含有モノマーがモノマー成分として用いられた樹脂であればよく、通常(メタ)アクリルアミドである。このような(メタ)アクリルアミドの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミド、N,N−ジオクチルアクリルアミド、N,N−ジオクチルメタクリルアミド、N−モノブチルアクリルアミド、N−モノブチルメタクリルアミド、N−モノオクチルアクリルアミド、N−モノオクチルメタクリルアミド等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0049】
また、本発明の水性塗料組成物は、上記の(a)エマルション樹脂とともに、(c)ウレタンエマルションを塗料樹脂固形分100質量部当り5〜20質量部含有する。ウレタンエマルションを含有することにより、水性塗料が増粘するため、低温のプレヒート工程で塗膜中の水分量が大きく低減されなくても、なじみ性を低減することができる。このため、ウレタンエマルションの含有量が5質量部未満では、なじみ性が劣化し、一方、20質量部より多いと、塗料の安定性が低下する。
【0050】
ウレタンエマルションは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、ジイソシアネートと、グリコール及びカルボン酸基を有するグリコールとを反応させてウレタンプレポリマーを作製し、次いで、このプレポリマーを中和及び鎖伸長し、蒸留水を添加することにより、ウレタンエマルションが得られる。
【0051】
ウレタンプレポリマーを作る際に用いられるジイソシアネートとしては、特に限定されるわけではないが、例えば、脂肪族、脂環式、または芳香族ジイソシアネートが挙げられ、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートエステル、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0052】
上記グリコール類としては、特に限定されるわけではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の低分子量グリコール、あるいは、ポリオールであるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、エチレングリコールとアジピン酸、ヘキサンジオールとアジピン酸、エチレングリコールとフタル酸等の縮合物であるポリエステル類、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0053】
以上に述べた原料を反応させて得られたウレタンプレポリマーを中和及び鎖伸長し、蒸留水を添加して、ウレタンエマルションを得る際に用いられる中和剤としては、特に限定されるわけではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンのようなアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0054】
更に、鎖伸長剤としては、特に限定されるわけではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のポリオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂肪族、脂環式、または芳香族ジアミン、及び水等が挙げられる。
【0055】
本発明に使用できるウレタンエマルションの市販品としては、特に限定されるものではないが、例えば、大日本インキ社製の「ボンディック」シリーズ、住化バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、アビシア社製の「ネオレッツ」シリーズ等を挙げることができる。本発明のウレタンエマルションは、1種または2種以上が併用されてもよい。
【0056】
本発明の水性塗料組成物は、上記のような塗料成分とともに、(d)硬化剤を含有する。本発明に用いられる(d)硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂等の従来公知の硬化剤が1種または2種以上混合して用いられ、これらの中でもメラミン樹脂が好ましい。また、硬化剤の含有量としては、水性塗料組成物の樹脂固形分100質量部当り15〜35質量部である。硬化剤の含有量が15質量部未満の場合、塗膜としたときに硬化性が低下し耐水性が不良になり、一方、35質量部より多いと、塗料の安定性が低下し、十分な貯蔵安定性が得られなくなる。
【0057】
本発明の水性塗料組成物は、上記以外の樹脂成分として、例えば水溶性のアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が添加されてもよく、これらの中でも顔料等の固形分が添加された場合に顔料の分散性を付与するために、水溶性アクリル樹脂を用いることが好ましい。本発明に使用できる水溶性アクリル樹脂としては、通常の水性塗料で使用されるアクリル樹脂であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、日本触媒社製のアクアリックシリーズ、東亞合成社製のアロンシリーズ等が挙げられ、これらは1種または2種以上が併用されてもよい。水溶性アクリル樹脂の含有量としては、特に限定されるものではないが、例えば、水性塗料組成物の樹脂固形分100質量部当り5〜20質量部が好ましい。5質量部以上とすることにより、顔料の分散性に優れ塗料の良好な貯蔵安定性が得られるとともに、20質量部以下とすることにより、他の樹脂成分の効果が十分に発現される。
【0058】
本発明の水性塗料組成物は、上記の樹脂成分とともに、顔料が添加されてもよい。顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に制限されない。具体的には、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化鉄、チタンエロー、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等の着色顔料;タルク、クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナホワイト等の体質顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、雲母、酸化チタンで被覆した雲母粉末等の光輝性顔料等が挙げられ、これらは1種または2種以上が併用されてもよい。顔料の配合量は、水性塗料組成物中に含まれる固形分全体に対して、1〜20質量%とすることが好ましい。1質量%以上とすることにより、顔料の効果が十分に発現され、20質量%以下とすることにより平滑性の良好な塗膜が得られる。
【0059】
本発明の水性塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、配合物をニーダやロール等を用いて混練、サンドグラインダミルやディスパ等を用いて分散する等の方法が用いられる。
【0060】
本発明の上記水性塗料組成物が第2水性塗料として使用される場合、下層に塗装される第1水性塗料としては、従来ウェットオンウェットによる塗装において中塗り塗料として使用される水性塗料であれば特に限定されない。例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料等の顔料、各種添加剤等を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等を使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせが好ましい。硬化剤、顔料、各種添加剤も、通常用いられるものを使用することができる。第1水性塗料は、本発明の水性塗料組成物と同様の方法によって調製することができる。また、第1水性塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルション等の形態であればよい。
【0061】
本発明の上記水性塗料組成物を第2水性塗料として使用する場合、上層に塗装されるクリヤ塗料としては、従来ウェットオンウェットによる塗装においてクリヤ塗料として使用される塗料であれば特に限定されない。例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いると良い。透明性又は耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/またはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0062】
クリヤ塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含有させても良い。
【0063】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、例えば、自動車車体等の電着塗装等がなされた被塗装物に対して、第1水性塗料、本発明の水性塗料組成物からなる第2水性塗料、及びクリヤ塗料を塗装するに際し、各塗料が塗装される毎に焼付け硬化を行わず、未硬化の状態で順次ウェットオンウェットにより三層を形成した後、一度に加熱硬化することによって3コート1ベーク(3C1B)の複層塗膜が形成される。水性塗料の塗装方法は、特に限定されず、例えば、エア静電スプレー、回転霧化式の静電塗装機等を用いてスプレーすることにより塗装することができる。
【0064】
上記の塗装においては、第1水性塗料及び第2水性塗料がウェットオンウェットで塗装される際、塗装後に塗膜中の水分を蒸発させ固形分濃度を増加するためにプレヒート工程を設ける必要があるが、本発明の水性塗料組成物を第2水性塗料として使用すれば、塗料にチキソ性を付与でき、また未硬化の状態でクリヤ塗料が塗装されてもクリヤ塗料成分の下層塗膜への浸入を抑制できるため、従来行われていた80〜100℃の高温でプレヒートする必要がない。例えば、完全な水分の蒸発が行われない40〜60℃程度の低温のプレヒート工程でもクリヤ塗膜との塗膜間のなじみが低減され、優れた外観の塗膜が得られる。なお、作業効率の向上、及び低エネルギー化のためにプレヒート工程における時間は短時間が好ましいが、本発明によれば、上記の低温の条件で1〜3分間の短時間でもなじみ性が十分に低減された複層塗膜が得られる。そして、本発明では上記のように低温でのプレヒート工程が利用できるため、プレヒート工程後の塗膜の温度も高温となっておらず、そのためウェットオンウェットでクリヤ塗料を塗装するために必要とされていたクーリング工程の時間も短縮化あるいは省略することもできる。従って、本発明によれば、水性塗料を用いたウェットオンウェットによる塗装工程においても、低エネルギー化が達成される。
【0065】
本発明において、上記のようにして塗装された複層塗膜は三層が一度に焼付け硬化される。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不充分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【0066】
以下、本発明について実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は「質量部」を意味する。
【実施例】
【0067】
<エマルション樹脂の製造例>
撹拌機、温度計、冷却管、滴下ロート、及び窒素導入管等を備えた通常のエマルション樹脂製造用の反応容器に、135.4部のイオン交換水を窒素気流中で撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、表1に示す各組成の1段階目モノマー種、乳化剤として0.5部のアクアロンHS−10(第一工業製薬社製)、0.5部のアデカリアソープ(旭電化工業社製,80%水溶液)、及び49.7部のイオン交換水からなるモノマー混合物(コア部)と、0.24部の過硫酸アンモニウム及び10部のイオン交換水からなる開始剤溶液とを80℃で、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0068】
次に、表1に示す2段階目モノマー種、0.2部のアクアロンHS−10、及び24.7部のイオン交換水からなるモノマー混合物(シェル部)と、0.08部の過硫酸アンモニウム及び7.4部のイオン交換水からなる開始剤溶液とを80℃で、0.5時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0069】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、87.1部のイオン交換水及び0.32部のジメチルアミノエタノールを加えpH6.5に調整して各エマルション樹脂(固形分30質量%)を得た。なお、エマルション樹脂Cについては、シェル部を作製せず、単層エマルション樹脂を製造した。得られた各エマルション樹脂の特性について表1に併せて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
<実施例1〜10及び比較例1〜7>
第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料として下記の各塗料を使用した。
【0072】
(第1水性塗料)
130部のルチル型二酸化チタン分散ペースト(ビックケミー社製Disperbyk 190分散剤含有ペースト,樹脂固形分75質量%)、165部のアクリルエマルション(日本ペイント社製,樹脂固形分30質量%)、65部のウレタンエマルション(アビシア社製,樹脂固形分30質量%)、及び硬化剤として35部のサイメル327(三井サイテック社製メラミン樹脂,樹脂固形分90質量%)を混合した後、1.0部のアデカノールUH−814N(旭電化工業社製ウレタン会合型増粘剤,有効成分30質量%)を混合撹拌し、第1水性塗料とした。
【0073】
(第2水性塗料)
上記のようにして得られた各エマルション樹脂を使用し、アルペーストMH8801(東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料)、水溶性アクリル樹脂(酸価50mgKOH/g,樹脂固形分30質量%)、コーガムHW−62(昭和高分子社製ポリアクリルアミド、樹脂固形分15質量%)、及び硬化剤としてサイメル204(三井サイテック社製メラミン樹脂,樹脂固形分80質量%)を表2に示す組成で混合した後、ネオレッツR960(アビシア社製ウレタンエマルション,樹脂固形分33質量%)、ジメチルエタノーテルアミン水溶液(10%)をさらに混合して、各第2水性塗料とした。なお、表2中、樹脂固形分の合計量を100質量部としたときの各樹脂成分の組成を括弧書きで示す。
【0074】
(クリヤ塗料)
クリヤ塗料として、マックフロー O−1800Wクリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤ塗料)を用いた。
【0075】
なお、上記の第1水性、第2水性塗料及びクリヤ塗料は、下記条件で希釈してから、塗装に用いた。
・第1水性塗料
シンナー:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
・第2水性塗料
シンナー:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
・クリヤ塗料
シンナー:エトキシエチルプロピオネート/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0076】
(複層塗膜の形成)
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後、冷却して、鋼板基板を準備した。得られた基板に、上記第1水性塗料をエアースプレー塗装にて20μm塗装し、80℃で5分間プレヒートを行い、クーリングを室温で1分間行った後、その塗板に、表2に示す組成を有する実施例及び比較例の各第2水性塗料をエアースプレー塗装にて10μm塗装し、60℃で3分間プレヒートを行った。そして、プレヒート後のクーリングは行わずに、更に、その塗板に上記のクリヤ塗料をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、各試験片を得た。上記のようにして作製した各試験片について、以下の評価を行った。これらの評価結果を併せて表2に示す。
【0077】
[仕上がり性]
各試験片の表面状態をBYK−Gardner社製塗膜外観測定装置「ウェーブスキャン」を用いて評価した。測定値Waは塗膜の肌のうねりのうち0.1〜0.3mmの粗度のものの量を意味し、塗膜のつや感を表している。Wcは塗膜の肌のうねりのうち1〜3mmの粗度のものの量を意味し、塗膜の下地隠蔽性を表している。Wdは塗膜の肌のうねりのうち3〜10mmの粗度のものの量を意味し、塗膜の平滑性を表している。各測定値とも数値が小さいほど良好である。
【0078】
[光輝感]
変角光度計MA−68(X−Rite社製)を用いて各試験片の塗装面のフロップインデックスを光輝感として測定した。そして、フロップインデックスが12以上であった場合を非常に良好である、フロップインデックスが10以上、12未満であった場合を良好である、フロップインデックスが10未満であった場合を良好でないとして評価した。
【0079】
[耐水性]
試験片を40℃の温水に10日間浸漬し、浸漬前後の試験片の塗装面の60度光沢を測定した。光沢保持率(浸漬後の60度光沢/浸漬前の60度光沢*100)が90%以上の場合には、その耐水性を異常なしとした。
【0080】
[貯蔵安定性]
第2水性塗料を、一定容量のフォードカップNo.4に一定量だけ満たし、一定の口径をもつ穴から流下させ、その流下時間を測定することで、その粘度(単位:秒)を測定した(所謂フォードカップNo.4法)。その後、塗料を40°Cで10日間放置した後、その塗料の粘度を同じ方法で測定し、増粘があるかどうかを評価した。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示されるように、本発明の水性塗料組成物を第2水性塗料として用いて作製された実施例1〜10の塗装物は、低温のプレヒート工程で、プレヒート後にクーリング工程を設けることなくウェットオンウェットにより塗装されても、仕上がり性に優れていることが分かる。従って、本発明の水性塗料組成物を使用することにより、未硬化の状態の第2水性塗料の上に更にクリヤ塗料が塗装されても、両塗膜間におけるなじみが改善されている。また、光輝性顔料を含有する水性塗料であっても、優れた光輝感が得られており、光輝性顔料の分散性に優れているとともに、エマルション樹脂以外の他の水性塗料成分も一定組成としているため、貯蔵安定性に優れており、十分な耐水性も確保されている。
【0083】
これに対して、比較例1〜7の水性塗料を第2水性塗料として用いて作製された塗装物のうち、モノマー成分として多官能性ビニルモノマーを含有しないエマルション樹脂が使用された場合、また多官能性ビニルモノマーが使用されていてもモノマー成分中の組成が本発明の範囲外である場合、あるいはさらに水性塗料中の組成が本発明の範囲外である場合、低温でのプレヒート工程のみでは仕上がり性、光輝感、耐水性、及び貯蔵安定性の少なくとも1つの特性が劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料を順次ウェットオンウェットで塗装して複層塗膜を形成するための第2水性塗料用の水性塗料組成物であって、
塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有することを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造を有することを特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造のコア部、シェル部のいずれもが前記多官能性ビニルモノマーをモノマー成分として含有する各モノマー混合物を乳化重合して得られることを特徴とする請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記(a)エマルション樹脂の酸価が1〜30mgKOH/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
顔料を1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記顔料は、光輝性顔料を含有することを特徴とする請求項5に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤ塗料を順次ウェットオンウェットで塗装する工程、及び塗装された三層を一度に焼付け硬化する工程を有する複層塗膜の形成方法であって、
前記第2水性塗料は、塗料組成物中の樹脂固形分100質量部当り、(a)多官能性ビニルモノマー0.5〜10質量%(全モノマー成分に対する量)、カルボキシル基含有ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、及び他のビニル重合性モノマーを含有するモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂40〜60質量部、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂1〜5質量部、(c)ウレタンエマルション5〜20質量部、及び(d)硬化剤15〜35質量部を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項8】
前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造を有することを特徴とする請求項7に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記(a)エマルション樹脂は、コア・シェル構造のコア部、シェル部のいずれもが前記多官能性ビニルモノマーをモノマー成分として含有する各モノマー混合物を乳化重合して得られることを特徴とする請求項8に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項10】
前記(a)エマルション樹脂の酸価が1〜30mgKOH/gであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項11】
前記第2水性塗料を塗装した後、クリヤ塗料を塗装する前に、40〜60℃で塗膜を乾燥するプレヒート工程を有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項12】
前記プレヒート工程後、クーリング工程を行うことなく、前記クリヤ塗料を塗装することを特徴とする請求項11に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項13】
前記第2水性塗料は、顔料を1〜20質量%含有することを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項14】
前記顔料は、光輝性顔料を含有することを特徴とする請求項13に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか1項に記載の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜を有することを特徴とする塗装物。

【公開番号】特開2007−297545(P2007−297545A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128107(P2006−128107)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】