説明

水晶電極成膜用メタルマスク

【課題】 水晶板の洗浄に当たり洗浄液の水切りが良く、洗浄シミの発生が少ない水晶電極成膜用メタルマスクを得る。
【解決手段】 第1の開口部を有する下電極メタルマスクと、水晶板を充填する第2の開口部を有する中板と、第3の開口部を有する上電極メタルマスクとを備えた水晶電極成膜用メタルマスクであって、前記中板の第2の開口部と連なる少なくとも1つの第4の開口部を設け、下電極メタルマスク及び上電極メタルマスクの第1及び第3の開口部に近接してそれぞれ少なくとも1つの第5及び第6の開口部を備えた水晶電極成膜用メタルマスクを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶板の洗浄及び電極成膜を兼ねるメタルマスクに関し、特に水晶板洗浄後、水晶板上に残る洗浄液の液留まりを大幅に低減し、水晶板上に生じる洗浄シミを改善した水晶電極成膜用メタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は小型であること、経年変化が小さいこと、高精度、高安定な周波数が容易に得られること等のため、通信機器から電子機器まで広く用いられている。中でも周波数−温度特性が3次曲線を呈するATカット水晶振動子は、携帯電話等に多量に用いられている。従来、水晶振動子の製造工程における水晶板の洗浄方法としては、例えばガラス容器に洗浄液と水晶板とを入れ、このガラス容器を超音波洗浄槽に浸して水晶板を洗浄する手法が行われていた。水晶板を洗浄し、乾燥した後は、図5(a)の製造フローに示すように、成膜用メタルマスクに詰め、蒸着装置等の真空中で金属を蒸着して水晶板上に電極を成膜し、パッケージ内に気密封止して水晶振動子を構成する。
【0003】
しかし、多数の水晶板をガラス容器に入れて洗浄する方法では、水晶板同志の重なり合い等により洗浄むらが生じ、乾燥後に水晶板上にシミが残るという問題があった。この解決法の一つとして、洗浄用治具に水晶板を一個づつ詰めて洗浄する方法が、特開平10−145166号公報に開示されている。この場合の水晶振動子の製造フローは図5(b)のようになる。図6は洗浄治具の要部(一個の水晶板を収容する部分)を示す斜視図であって、下部プレート21、上部プレート22及び薄板23とからなり、それらの材質は耐食性のあるステンレス板材等である。下部プレート21と上部プレート22とは、例えば熱圧着して一体化し基板20としてもよい。
【0004】
下部プレート21には切り欠き窓(開口部)24aがあり、その周縁に複数の爪状の支持片25を備えている。上部プレート22も切り欠き窓24bがあり、その周縁に複数の凸湾曲状の間隔保持片26が形成されている。そして、薄板23にも切り欠き窓24cがあり、その周縁に複数の爪状の押さえ片27が形成され、切り欠き窓24a、24b、24cは重ねて組み立てる際に上下対向する。長方形の水晶板28は上部プレート22の切り欠き窓24bに収容される際に、凸湾曲状の間隔保持片26の先端に当接し、下部プレート21の爪状の支持片25と薄板23の爪状の押さえ片27とにより上下より保持される構造となっている。
【0005】
図7は実用に供される洗浄治具の模式的斜視図であり、基板20は下部プレート21と上部プレート22とを熱圧着し一体化したもので、上部プレート22の切り欠き窓24bに水晶板28を収容し、この上に薄板23を重ね、ネジ29等を用いて基板20と薄板23とを固定する。このとき、水晶板28は上下対向する爪状の支持片25と爪状の押さえ片27とによって保持され、切り欠き窓24bの中では凸湾曲状の間隔保持片26に点接触し、水抜きの隙間Sが大きく確保されることになる。
【0006】
基板20に水晶板を充填し、薄板23を重ねて固定した洗浄治具30を用いて水晶板を洗浄し、乾燥した後、洗浄治具30を2つの成膜用プレート31で上下から挟むように装着し、ネジ33にて洗浄治具30と成膜用プレート31、31とを固定したものが図8である。成膜用プレート31には励振電極生成部32aと、引き出し電極生成部32bとからなる透孔32が形成されている。これを蒸着装置等に入れ、真空中で金属を蒸発させることにより透孔32を介して水晶板に所望の電極が形成される。
【0007】
しかし、上記の洗浄治具を用いて水晶板を洗浄した後、成膜用プレート31を装着する手法では、成膜用プレート31を装着する工数が発生することと、成膜用プレート31をネジ33で取り付ける際に細かなゴミが発生し、このゴミが水晶板28に付着した状態で電極が形成されるおそれがあった。細かなゴミが付着した水晶振動子では、エージング特性、ドライブレベル特性等に問題が生じるおそれがある。
そこで、図9に示すように水晶板を成膜用メタルマスクに装填した後、成膜用メタルマスク全体を洗浄装置に入れて、洗浄、水切り、乾燥した後、真空中にて成膜する製造フローを用いて水晶振動子を製作する場合がある。
【0008】
図10はこのような水晶電極成膜用メタルマスクの一例の模式的斜視図であり、下枠治具40a、下電極マスク41a、中板42、上電極マスク41b、上枠治具40bとからなる。下枠治具40a、上枠治具40bにはそれぞれ開口部43a、43bがあり、下電極マスク41a、上電極マスク41bにはそれぞれ所望の電極形状パターンの開口部44a、44bが形成されている。そして、開口部43a、43bの形状は開口部44a、44bの形状より十分に大きくする。中板42には水晶板を収容する開口部45が形成されており、中板42の厚さは水晶板の厚さより若干厚く設定する。下電極マスク41a、上電極マスク41bの厚さは薄い方が望ましいが、マスクの大きさと強度を考慮して適切に設定する。また、材質としては耐蝕性のあるステンレスを用いる場合が多い。
【0009】
水晶電極成膜用メタルマスクの使用法は、下枠治具40aのガイドピンPに順に下電極マスク41a、中板42のガイドピン孔46を通して重ね、中板42の開口部45に水晶板Xを充填した後、さらに上電極マスク41b、上枠治具40bのガイドピン孔46を通して重ね、ネジ孔47にネジ48を挿入回転して固定する。この水晶電極成膜用メタルマスクを洗浄装置に浸して水晶板を洗浄する。
【特許文献1】特開平10−145166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開平10−145166号公報の洗浄治具を用いて水晶板を洗浄した後、成膜用プレートを装着する手法では、図11に示すように成膜用プレート31と水晶板28との間に隙間Gが生じ、成膜した電極の輪郭に膜ボケが発生するという問題があった。また、図10に示した水晶電極成膜用メタルマスクでは、中板42に水晶板Xを充填し、洗浄装置に浸して洗浄した後、水切り、乾燥させる際に、洗浄液が水晶板Xと中板42との間に残り、完全に除去することが難しい。この状態を水晶電極成膜用メタルマスクの要部断面図で示すと図12のようになり、水晶板Xと下電極マスク41a、中板42、上電極マスク41bとの間に点状に示すような洗浄液の液溜まり50が生じ、水晶板を乾燥すると部分的に洗浄シミが発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る水晶電極成膜用メタルマスクの請求項1の発明は、第1の開口部を有する下電極メタルマスクと、水晶板を充填する第2の開口部を有する中板と、第3の開口部を有する上電極メタルマスクとを備えた水晶電極成膜用メタルマスクにおいて、前記中板の第2の開口部と連なる少なくとも1つの第4の開口部を設け、下電極メタルマスク及び上電極メタルマスクの第1及び第3の開口部に近接してそれぞれ少なくとも1つの第5及び第6の開口部を設けた水晶電極成膜用メタルマスクを構成することを特徴とする。
請求項2の発明は、前記下電極メタルマスクと前記中板と前記上電極メタルマスクとを順次組み立てる際に、第4、第5、第6の開口部が上下にほぼ対向することを特徴とする請求項1に記載の水晶電極成膜用メタルマスクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水晶電極成膜用メタルマスクの請求項1の発明では、下枠治具、下電極マスク、中板、上電極マスク、上枠治具にそれぞれに水切り用の開口部を設けたため、水晶板を洗浄した後、これらの開口部を介して洗浄液を逃がすことができるので、水切り後の液溜まりを大幅に低減することが可能となり、その結果、洗浄シミをほぼ無くすことができるという利点がある。
請求項2の発明では、前記開口部をほぼ対向して設けたので、洗浄液の逃がしがより効果的に行えるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係る水晶洗浄及び電極成膜用メタルマスクの実施の形態を示す模式的斜視図であって、下枠治具1a、下電極マスク2a、中板3、上電極マスク2b、上枠治具1bとを備えている。下枠治具1a、上枠治具1bはそれぞれ開口部4a、4bを有し、下枠治具1aの端にはガイドピンPとネジ孔8とを設け、上枠治具1bにはガイドピン孔7とネジ孔8とを設ける。また、下電極マスク2a、上電極マスク2bにはそれぞれ成膜用開口部5a、5bを形成し、それぞれの端にはガイドピン孔7とネジ孔8とを設ける。また、中板3には水晶板を充填するための開口部6を形成し、端にはガイドピン孔7とネジ孔8とを設ける。そして、中板3の厚さは水晶板の厚さより若干厚く設定し、下電極マスク2a、上電極マスク2bの厚さは薄い方が望ましいが、マスクの大きさとその強度を考慮して適切に設定する。また、これらの材質としては耐蝕性のあるステンレスを用いる場合が多い。
【0014】
水晶電極成膜用メタルマスクの使い方は、下枠治具1aのガイドピンPに下電極マスク2a、中板3のそれぞれのガイドピン孔7を通して重ね、中板3の開口部6に水晶板Xを充填した後、上電極マスク2b、上枠治具1bのそれぞれのガイドピン孔7を通して重ね、ネジ孔8にネジ9を挿入回転して固定する。固定した水晶電極成膜用メタルマスクを洗浄装置に入れ、水晶板を洗浄すると共に上、下枠治具1a、1b等に付着する細かいゴミも同時に取り除く。これは蒸着装置の中で水晶電極成膜用メタルマスクを回転させる際に、上、下枠治具1a、1b上にあるゴミが水晶板に付着することを避けるためでもある。なお、下枠治具1a及び上枠治具1bの開口部4a、4bの大きさは水晶板洗浄と電極成膜とに支障のないように大きく空ける必要がある。
【0015】
図2は実用に供する中板3の構成を示す平面図であり、同図(a)は中板全体図、同図(b)は同図(a)の一部の開口部αを拡大した平面図である。開口部6は、中央の長方形の開口部6a(第2の開口部)と、下部の2つの矩形の開口部6b(第2の開口部)と、上部の2つの矩形の開口部6c(第4の開口部)とからなり、開口部6a、6b、6cで一体の開口部6を構成している。図2(b)の右側の図は開口部6aに破線で示す水晶板Xを充填した場合の平面図である。
【0016】
下電極マスク2a、上電極マスク2bは、ほぼ同様な形状の開口部を有するので、上電極マスク2bの平面図のみを示す。図3は実用に供する上電極マスク2bの構成を示す平面図であり、同図(a)は上電極マスク全体図、同図(b)は同図(a)の一部βを拡大した平面図である。開口部5bは、中央の長方形の開口部5b1(第3の開口部)と、下部の2つの開口部5b2(第3の開口部)と、上部の2つの矩形の開口部5b3(第6の開口部)とからなり、開口部5b1と開口部5b2の図中右方の開口部とで一体の開口部を構成している。なお、下電極マスク2aの開口部5aは、中央の長方形の開口部5a1(第1の開口部)と、図中下部の2つの開口部5a2(第1の開口部)と、上部の2つの矩形の開口部5a3(第5の開口部)とからなり、開口部5a1と開口部5a2の1つとで一体の開口部を構成している。そして、開口部5a1、5b1を介して水晶振動子の主面に主電極が形成され、開口部5a2、5b2を介してリード電極が形成される。開口部5a3、5b3は水晶板洗浄の際の洗浄液の水切りとして用いられる。図3(b)の右側の図は開口部5bと破線で示す水晶板Xとの位置関係を示す平面図である。
【0017】
図4(a)は本発明の前述の如き水晶電極成膜用メタルマスクに水晶板を充填した場合の、中板3と水晶板Xと上電極マスク2bとの上下の位置関係を示す平面図(理解を容易にするように便宜的に下電極マスクを省いている)であって、太線は上電極マスク2b、細線は中板3、波線は水晶板である。図4(b)は同図4(a)のQ−Qにおける断面図である。図4(a)と(b)との対応関係を容易にするために、図4(a)の平面図上の点P1からP5に対応する点を、図4(b)の断面図上に点P1からP5で図示した。図4(b)の断面図から明らかなように水晶板Xに接する中板3の開口部6c(第4の開口部)と、下電極マスク2aの開口部5a3(第5の開口部)と、上電極マスク2bの開口部5b3(第6の開口部)とから洗浄後の液が容易に除去できる。開口部6b(第2の開口部)、5a2(第1の開口部)、5b2(第3の開口部)からも同様に洗浄液が除去できる。そのため、水晶板上の液溜まりは大幅に低減することが可能になり、洗浄シミを大幅に少なくすることができた。また、図4(b)の要部の断面図に示すように下、上電極マスク2a、2bが水晶板Xに接しているので電極の膜ボケが生じることはない。
【0018】
以上説明したように、本発明の特徴は、中板に水晶板を収容する開口部の他に該開口部に連なる、洗浄液を逃がすための開口部を設けると共に、下、上電極マスクに洗浄液を逃がすための開口部を設けたところにある。本発明の水晶電極成膜用メタルマスクを組み立てた場合、これらの開口部は上下にほぼ対向して位置することになり、洗浄液を早く逃すことができる。そのため、水晶板上に液溜まりがすることは極めて少なくなり、洗浄シミを大幅に低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る水晶電極成膜用メタルマスクの構成を示す模式的斜視図である。
【図2】(a)は中板の全体平面図、(b)は一部αの平面図である。
【図3】下電極マスクの全体平面図、(b)は一部βの平面図である。
【図4】(a)本発明に係る中板、水晶板、上電極マスクの位置関係を示す平面図、(b)はQ−Qにおける断面図である。
【図5】(a)は従来の製造フローの一部を示す図、(b)は改良を施した従来の製造フローの一部を示す図である。
【図6】従来の洗浄治具の要部の構成を示した斜視図である。
【図7】従来の洗浄治具の構成を示した斜視図である。
【図8】洗浄治具の上下から成膜用プレートを装着する様子を示す斜視図である。
【図9】従来の製造フローの一部を示す図である。
【図10】従来の水晶成膜用メタルマスクの構成を示す概略斜視図である。
【図11】洗浄治具に成膜用プレートを装着したものの要部の断面図である。
【図12】従来の水晶電極成膜用メタルマスクを用いて洗浄した後の要部の断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1a 下枠治具
1b 上枠治具
2a 下電極マスク
2b 上電極マスク
3 中板
4a、4b 開口部(下、上枠治具の)
5a、5a1、5a2、5a3 開口部(下電極マスクの)
5b、5b1、5b2、5b3 開口部(上電極マスクの)
6、6a、6b、6c 開口部(中板の)
7 ガイドピン孔
8 ネジ孔
P ガイドピン
9 ネジ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口部を有する下電極メタルマスクと、水晶板を充填する第2の開口部を有する中板と、第3の開口部を有する上電極メタルマスクとを備えた水晶電極成膜用メタルマスクにおいて、
前記中板の第2の開口部と連なる少なくとも1つの第4の開口部を設け、下電極メタルマスク及び上電極メタルマスクの第1及び第3の開口部に近接してそれぞれ少なくとも1つの第5及び第6の開口部を設けることを特徴とする水晶電極成膜用メタルマスク。
【請求項2】
前記下電極メタルマスクと前記中板と前記上電極メタルマスクとを順次組み立てる際に、第4、第5、第6の開口部が上下にほぼ対向することを特徴とする請求項1に記載の水晶電極成膜用メタルマスク。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−51329(P2007−51329A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237110(P2005−237110)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】