説明

水溶性フェノール樹脂の製造方法

【課題】 無機繊維製品等のバインダーとして有用な、作業性に優れる水溶性フェノール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 フェノール類(P)とアルデヒド類(A)を、モル比A/Pが2.0−4.5となるように配合して、水酸化バリウム存在下で反応させ、反応終了後に中和剤として硫酸と有機酸を用いて25℃におけるpHを6.0−8.0に調整することを特徴とする水溶性フェノール樹脂の製造方法であり、有機酸としては、その有機酸と水酸化バリウムからなる中和塩の水への溶解度が5g/水100g(0℃)以上であるものが好ましく、中和後に、使用したアルデヒド類(A)に対して、5−90重量%の尿素、ジシアンジアミド、及びメラミンから選ばれた1種又は2種以上を添加し、次いで反応せしめることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はグラスウール、ロックウールやセラミック繊維等のミネラル繊維からなる断熱材、防音材、成型品(自動車の屋根およびボンネットのライナーなど)および未硬化グラスウールなどの無機繊維製品の製造におけるバインダーとして有用な、作業性に優れる水溶性フェノール樹脂の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、グラスウール、ロックウール等の無機繊維製品は、製造時にバインダーとして水溶性フェノール樹脂を主成分とした混合液が用いてられてきた。使用される水溶性フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類を付加縮合反応させる為の触媒として主に水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、トリエチルアミン等を用いた樹脂が使用されている。その中でも、触媒として水酸化バリウムを用い、中和剤として硫酸を用いた樹脂が、加熱処理後の硬化物の吸湿性が低いという利点と触媒のコストも比較的安価であることより特に多く使用されている。しかし、このタイプの樹脂は触媒中和塩である硫酸バリウムが樹脂中に溶解しない。このため、この硫酸バリウム粒子が凝集等によりフェノール樹脂を保管するタンクの底に沈降し、定期的なタンク清掃が必要になったり、バインダー液調合後に製造ラインでフィルター詰まりを起こす危険性があり、他の反応触媒を用いた樹脂に比べ頻繁なフィルターの清掃・交換が必要であるという作業性上の問題を抱えている。フィルターは、バインダー調合液が無機繊維にスプレーされる製造工程を経る為、スプレーの詰まり防止のためにも必要不可欠な装置であり、フィルターの清掃・交換頻度が高いことは作業性の低下に直結するものである。
【0003】また、水溶性フェノール樹脂には未反応のフェノール類とアルデヒド類が含まれているが、両者とも人体に有害で且つ臭気を伴う物質である為、近年それらの低減が強く要求されている。両者を同時に低減し、且つ良好な水溶性を維持したフェノール樹脂を合成するには、触媒量を増やし、反応温度を低くする方法が一般的である。しかし、触媒が水酸化バリウムで中和剤が硫酸の場合、触媒量を増やすと触媒中和塩である硫酸バリウム量が増加し、硫酸バリウムの沈降・フィルターの交換など前述した作業性を更に低下させてしまう傾向にある。従って、従来の反応触媒が水酸化バリウムで中和剤が硫酸である無機繊維結合用の水溶性フェノール樹脂と比較し、水溶性や硬化性や機械的強度、樹脂硬化物の吸湿性などの特性は同等以上で、且つ樹脂に不溶な中和塩である硫酸バリウムの量を低減した無機繊維結合用として好適な水溶性フェノール樹脂の開発が長年求められて来た。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の水溶性フェノール樹脂の製造方法は、フェノール類とアルデヒド類の反応触媒が水酸化バリウムで中和剤が硫酸である水溶性フェノール樹脂の硬化性や無機繊維製品等のバインダーとして使用したときの機械的強度、樹脂硬化物の吸湿性などの従来からの特性を維持しつつ、樹脂に不溶な中和塩である硫酸バリウムの量を低減した水溶性フェノール樹脂を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、フェノール類(P)とアルデヒド類(A)を、モル比A/Pが2.0−4.5となるように配合して、水酸化バリウム存在下で反応させ、反応終了後に中和剤として硫酸と有機酸を用いて25℃におけるpHを6.0−8.0に調整することを特徴とする水溶性フェノール樹脂の製造方法である。
【0006】以下、本発明で使用する各成分について説明する。本発明におけるフェノール類(P)とアルデヒド類(A)の反応モル比(A/P)は2.0−4.5である。A/Pが2.0より低くなると未反応のフェノール量が増加し臭気が問題となり、また水溶性が低下してしまう。また、A/Pが4.5より高くなると未反応のホルムアルデヒド量が増加し臭気が問題となる。使用するフェノール類の種類としては、フェノール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、エチルフェノール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、クミルフェノール、ビスフェノールAなどから選ばれた1種又は2種以上である。次にアルデヒド類の種類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどから選ばれた1種又は2種以上である。
【0007】本発明で使用される触媒は、水酸化バリウムに限定される。これ以外の触媒では、樹脂硬化物の吸湿性が低下してしまう。次に中和剤としては、硫酸と有機酸を併用する。硫酸単独では中和塩である硫酸バリウムの量が多くなり、無機繊維製品等の製造時バインダーとしての作業性が低下する。有機酸単独では樹脂硬化物としての吸湿性が大きく、無機繊維製品等の品質を低下させてしまう。両触媒を併用することにより、硫酸バリウムの生成量が少なく、かつ樹脂硬化物の吸湿性が小さい。これらの割合は、硫酸1重量部に対して有機酸0.2〜1.0重量部であることが好ましい。有機酸の量が0.2重量部未満であると硫酸バリウムの生成量が多くなり、1.0重量部を越えると樹脂硬化物の吸湿性が大きくなる。使用する有機酸は、有機酸と水酸化バリウムからなる中和塩の水への溶解度が5g/水100g(0℃)以上となる有機酸が好ましい。該当する有機酸としては、乳酸、酢酸、ギ酸などが挙げられる。中和塩の溶解度が5g/水100g(0℃)を下回る有機酸を使用した場合、樹脂の水溶性が低下してしまう。また、中和後のフェノール樹脂のpH(25℃)は6.0−8.0が望ましい。これ以外のpHでは、保管時の安定性が低下してしまう。
【0008】中和後に未反応のアルデヒド類の低減を目的に、使用したアルデヒド類の重量に対し5−90%の尿素、ジシアンジアミド、メラミンから選ばれた1種又は2種以上を添加し、反応せしめてもよい。この時、5%未満の添加量ではアルデヒド類の低減効果が少なく、90%を越える添加量では樹脂の低温貯蔵性が低下したり、バインダーとしての強度が低下してしまう。
【0009】本発明の水溶性フェノール樹脂の製造方法の実施の態様について詳しく説明する。攪拌機、温度計及び熱交換器を備えた反応装置にフェノール類(P)とアルデヒド類(A)とをモル比A/Pが2.0−4.5となるように仕込み、更に反応触媒として水酸化バリウムを添加して所定の温度で所定の時間反応させる。この時、急激な反応熱の発生を抑えることを目的に、水酸化バリウム、アルデヒド類(A)を分割して添加しても良い。その後、触媒中和剤として硫酸と有機酸を使用して中和し、25℃におけるpHを6.0−8.0に調整する。この後、必要に応じ中和後に尿素、ジシアンジアミド、メラミン等を添加し、所定の温度で所定の時間反応させてもよい。以上の方法により、本発明の水溶性フェノール樹脂が得られる。
【0010】
【実施例】以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、この実施例及び比較例に記載している「部」及び「%」はすべて「重量部」及び「重量%」を示す。
【0011】〔実施例1〕攪拌機、温度計及び熱交換器を備えた反応装置にフェノール(P)500部、37%ホルマリン(A)1639部(モル比A/P=3.8)、水酸化バリウム90部をそれぞれ仕込んだ。徐々に加熱昇温させて液温を65℃に保ち180分間反応させた。その後冷却し、液温を30℃以下にした。冷却後、中和剤として25%硫酸74部、50%乳酸20部を添加した。中和剤添加後、反応混合物の25℃におけるpHは7.1であった。次に尿素70部を添加し、再度加熱して液温を50℃に保ち30分間反応させた。その後、10℃以下まで冷却し、水溶性フェノール樹脂を得た。
【0012】〔比較例1〕実施例1と同型の反応装置にフェノール(P)500部、37%ホルマリン(A)1639部(モル比A/P=3.8)、水酸化バリウム90部をそれぞれ仕込んだ。徐々に加熱昇温させて液温を65℃に保ち180分間反応させた。その後冷却し、液温を30℃以下にした。冷却後、中和剤として25%硫酸94部を添加した。中和剤添加後、反応混合物の25℃におけるpHは7.1であった。次に尿素70部を添加し、再度加熱して液温を50℃に保ち30分間反応させた。その後、10℃以下まで冷却し、水溶性フェノール樹脂を得た。
【0013】〔実施例2〕実施例1と同型の反応装置にフェノール(P)500部、37%ホルマリン(A)1466部(モル比A/P=3.4)、水酸化バリウム90部をそれぞれ仕込んだ。徐々に加熱昇温させて液温を65℃にて160分間反応させた。その後冷却し、液温を30℃以下にした。冷却後、中和剤として25%硫酸58部、酢酸13部を添加した。中和剤添加後、反応混合物の25℃におけるpHは7.1であった。その後10℃以下まで冷却して水溶性フェノール樹脂を得た。
【0014】〔比較例2〕実施例1と同型の反応装置にフェノール(P)500部、37%ホルマリン(A)1466部(モル比A/P=3.4)、水酸化バリウム90部をそれぞれ仕込んだ。徐々に加熱昇温させて液温を65℃にて160分間反応させた。その後冷却し、液温を30℃以下にした。冷却後、中和剤として酢酸28部を添加した。中和剤添加後、反応混合物の25℃におけるpHは7.1であった。その後10℃以下まで冷却して水溶性フェノール樹脂を得た。
【0015】実施例1、2及び比較例1、2で得られたフェノール樹脂について、合成時の反応モル比A/P、中和剤種、また、得られた樹脂の特性として不揮発分(固形分)、ゲル化時間、pH、未反応フェノールと未反応ホルムアルデヒド、灰分、水溶性を表1に示す。
【0016】
【表1】


【0017】(測定方法)
1.不揮発分:JIS−K−6909−1997に準ずる。
2.ゲル化時間:JIS−K−6910−1997に準ずる。
3.未反応フェノール:ガスクロマトグラフィーにより測定。
4.未反応ホルムアルデヒド:塩酸ヒドロキシルアミン法による測定。
5.灰分:磁性るつぼに試料を入れて800℃の電気炉にて6時間の熱処理を行う。熱処理後の試料重量を熱処理前の試料重量で除して重量%に換算する。
【0018】6.水溶性ガラス製メスシリンダーに試料10mlを入れ、純水を少しずつ添加する。純水の添加は液温を25℃に調整しながら行い、沈殿、凝集物が発生するまで純水を添加する。目視にて、沈殿、凝集物の発生が確認された時点の液量を読みとり、下式に従い計算する。
水溶性(倍)=[沈殿、凝集物の発生した時点の液量(ml)−10(ml)]/10(ml)
【0019】7.透視度得られた樹脂:純水=10:200の割合で混合した液を用い、「上水道試験方法1970年版」(日本水道協会発行)に記載の透視度法の測定方法に基づき測定を実施した。これにより、樹脂と水に不溶な中和塩量の比較を行った。
【0020】8.曲げ強度径100μmのガラスビーズ1000部に固形樹脂分が50部に相当する樹脂を添加混練し、金型に充填して230℃で30分間加熱硬化させて試験片を作製した。試験片をそのまま曲げ強度測定したものを常態曲げ強度とした。また、試験片を60℃の温水に2時間浸漬する処理を行った後の曲げ強度を湿態曲げ強度とした。湿態曲げ強度保持率は(湿態曲げ強度/常態曲げ強度)×100より算出した。
9.吸水率:前記浸漬処理前後の試験片の重量増加率を求める。
【0021】
【発明の効果】表1の結果から明らかな様に、本発明により得られた水溶性フェノール樹脂は、反応触媒が水酸化バリウムであり、中和剤が硫酸である従来の水溶性フェノール樹脂と同等の水溶解性(水溶性)、硬化性(ゲル化時間)や機械的強度(曲げ強度)、樹脂硬化物の吸湿性(湿態曲げ強度保持率、吸水率)を維持しつつ、無機繊維製品等の製品製造時の作業性低下の原因となる樹脂に不溶な中和塩量を低減するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フェノール類(P)とアルデヒド類(A)を、モル比A/Pが2.0−4.5となるように配合して、水酸化バリウム存在下で反応させ、反応終了後に中和剤として硫酸と有機酸を用いて25℃におけるpHを6.0−8.0に調整することを特徴とする水溶性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】 有機酸が、その有機酸と水酸化バリウムからなる中和塩の水への溶解度が5g/水100g(0℃)以上である有機酸から選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】 中和後に、使用したアルデヒド類(A)に対して5−90重量%の尿素、ジシアンジアミド、及びメラミンから選ばれた1種又は2種以上を添加し、次いで反応せしめる請求項1または2記載の方法。

【公開番号】特開2001−131253(P2001−131253A)
【公開日】平成13年5月15日(2001.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−314829
【出願日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(000183277)住友デュレズ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】