説明

水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維およびそれを用いた不織布

【課題】低温での水溶解性に優れ、かつ良好な取り扱い性を備えるとともに、水溶解時の発泡が抑制された水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維およびそれを用いた不織布を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする形成材料を用いて、溶融紡糸によって得られる水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維である。そして、この水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維を用いて形成されてなる不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での溶解性に優れ、良好な取り扱い性を備えた、ケミカルレース等の刺繍用基材,自動車等の傷防止保護材,濾過フィルター,医療用手術着等の不織布形成材料に用いられる水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(以下「水溶性PVA」と称す)製繊維およびそれを用いた不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性樹脂からなる繊維およびそれを用いた織布あるいは不織布を用いた製品が各種用途に用いられている。なかでも、PVAを用いて成形してなる繊維製品は、その引張強度が高いことから、様々な分野に使用されている。
【0003】
このようなPVAを用いて成形してなる不織布は、例えば、PVAを湿式紡糸法により紡糸して不織布に成形することが知られている。このようにして得られる従来の不織布は、水溶性を有するPVAで作製されたものであっても、一般には、90℃程度の高温での熱水において溶解性を示すものであった。したがって、例えば、ケミカルレース用基材のような、いわゆる刺繍用基材として用いた場合、基材となる不織布を上記のような熱水にて溶解させなければならないため、刺繍自体が退色したり刺繍糸が劣化するという問題があった。
【0004】
また、部分ケン化型PVAを用いた溶融成形法による繊維および不織布も知られているが、溶融成形時に側鎖部分の−OCOCH3 が脱離することに起因して酢酸臭が発生し、作業環境の低下や、成形機械等に錆が発生するという問題があった。一方、完全ケン化型PVAを用いた場合、結晶性が高くなり、それに伴い融点が高くなるため、溶融成形がし難いという問題があった。さらには、水に易溶であり、かつ取り扱い性に優れた水溶性繊維として、水中溶解温度が100℃以下で、かつ特定の特性を備えた溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性PVA系繊維が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−90714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のPVAを用いて得られた不織布は、高温で水溶解性を示すPVAで作製されたものが一般的であって、例えば、ケミカルレース用基材として用いた場合には上記のような問題を有していた。また、従来の部分ケン化型および完全ケン化型PVAを用いた場合は、酢酸臭の発生に伴う問題や、溶融成形が困難となるという問題があり、しかも水溶解時に泡が発生し溶解作業に不都合が生じるというように、不織布形成材料としては、未だ実用に好適なものが得られていないのが実情である。さらに、上記特許文献1に開示の水溶性PVA系繊維は、製造時に使用する各種溶剤の回収が必要であり、また高速紡糸が困難であり、さらには原料PVAから直接不織布を成形することが不可能であるという点に関して、満足のいくものではなかった。このようなことから、低温での水溶解性に優れ、しかも不織布成形時には酢酸臭の発生が抑制され、かつ溶融成形性の良好な、より実用的な不織布の形成材料となりうるPVAが要望されている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低温での水溶解性に優れ、かつ良好な取り扱い性を備えるとともに、水溶解時の発泡が抑制された水溶性PVA製繊維およびそれを用いた不織布の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAを主成分とする原料糸からなる水溶性PVA製繊維を第1の要旨とする。
【化1】

【0008】
また、本発明は、上記水溶性PVA製繊維を用いて形成されてなる不織布を第2の要旨とする。
【0009】
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するために、不織布形成材料として有用な特性を備えた水溶性PVAを得るべく鋭意検討を重ねた。その結果、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する特定の水溶性PVAを用いると、上記構造単位に起因して結晶性が阻害されるため低温での水溶解性が向上するとともに、酢酸臭の発生が抑制されて作業環境の向上および製造機械の錆等の発生が抑制され、しかも水溶解時の発泡が抑制されることとなり、所期の目的が達成されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明は、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAを主成分とする原料糸からなる水溶性PVA製繊維であり、この水溶性PVA製繊維を用いた不織布である。このため、低温での水溶解性に優れ、かつ水溶解時における発泡の発生が抑制されることとなる。しかも、溶融成形において完全ケン化型PVAを用いることができるため酢酸臭の発生が抑制され、作業環境の向上等が図られる。したがって、本発明の不織布は、良好な水溶解性が要求される各種用途、例えば、ケミカルレース等の刺繍用基材,自動車等の傷防止保護材,濾過フィルター,医療用手術着等の用途として有用である。
【0011】
そして、上記一般式(1)で表される1.2−ジオール構造単位が、前記式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位であると、PVAの結晶性が下がり、融点が低下するため、PVAの分解温度よりもはるかに低温での溶融成形が可能となるため、最適成形温度範囲が広がり、安定した成形が容易となる。また、結晶サイズが小さくなり、一級水酸基に起因する強い水素結合力、分子間凝集力による高い溶融張力によって、溶融紡糸時の2000〜4000m/分という高速の引き取り速度が可能となり、高倍率の延伸が可能になり、その結果、繊維強度の向上を図ることができるという効果を奏する。
【0012】
また、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAが、ビニルエステル系モノマーと、前記一般式(2)で表される化合物との共重合体をケン化することにより得られたものであると、製造段階において1,2−ジオール構造単位を水溶性PVA中に均一に導入しやすいという効果を奏する。
【0013】
なお、本発明の特徴はPVAの側鎖に1,2−ジオール構造を有することによって得られるものである。
これに対し、PVA主鎖の主結合様式である1,3−グリコール結合を、ポリ酢酸ビニルの重合温度を通常よりも高温にすることによって頭−頭、あるいは尾−尾結合の比率を増やして得られる、主鎖1,2−グリコール結合の量が通常の値(1.6モル%程度)よりも多いPVAが知られている(特開2001−355175号)。しかしながら、かかる主鎖1,2−グリコール結合は本発明のPVAの側鎖1,2−ジオール構造と比較して結晶性を低下させる効果が小さい。また、その水酸基はすべて通常のPVAと同様に二級水酸基であるため、側鎖1,2−ジオール構造による一級水酸基の効果は期待できない。
【0014】
また、末端に水酸基を有するα−オレフィンを共重合させて得られる側鎖にモノヒドロキシアルキル基を有するPVAも公知(特開平7−179707号)であるが、かかるPVAは溶融成形等の際に異常流動を起こすことがあり、紡糸性に課題があるものである。 なお、特開平7−179707号公報に開示の製造方法では、共重合モノマーとして水酸基を含有するモノマーしか示されておらず、かかる水酸基含有モノマーは重合溶媒への溶解量の制約によって、高変性品の製造は困難である。
また、本発明の側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVAと異なり、変性による水酸基量の増加がないため、水素結合による溶融張力向上は期待できず、溶融紡糸時の高速引取り性という本発明の効果も期待できない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水溶性PVA製繊維は、特定のPVAを主成分とする成形材料を用い、これを例えば、溶融成形により紡糸して繊維状に成形することにより得られるものである。
【0016】
上記特定のPVAは、下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVAである。すなわち、本発明において、上記特定のPVAは、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有することを特徴とし、それ以外の構造部分は、通常のPVAと同様、ビニルアルコール構造単位と、酢酸ビニル構造単位からなるものであり、その割合はケン化の度合いによって適宜調整される。
【0017】
【化2】

【0018】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位において、式(1)中のR1 〜R3 およびR4 〜R6 は、水素原子または一価の有機基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよいが、なかでも、R1 〜R3 およびR4 〜R6 全て水素原子であることが、製造段階におけるモノマーの共重合反応性および工業的な取り扱い性の点を考慮した場合好適である。ただし、樹脂特性を大幅に損なわない範囲内であれば、R1 〜R3 およびR4 〜R6 の少なくとも一部が有機基であっても差し支えない。上記有機基としては、特に限定するものではなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素1〜4のアルキル基が好ましく、さらに必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0019】
また、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位において、式(1)中のXは、溶融紡糸時の熱安定性阻害要因がない点、過度にPVAの結晶性を低下させない点、溶融流動性を阻害しない点などから、好ましくは単結合である。
なお、かかるXは、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば各種結合鎖であってもよい。上記結合鎖としては、特に限定するものではなく、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素基(これら炭化水素基はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH2 O)m −、−(OCH2 m −、−(CH2 O)m CH2 −、−CO−、−COCO−、−CO(CH2 m CO−、−CO(C6 4 )CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2 −、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4 −、−Si(OR)2 −、−OSi(OR)2 −、−OSi(OR)2 O−、−Ti(OR)2 −、−OTi(OR)2 −、−OTi(OR)2 O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等があげられる。なお、上記各結合鎖において、Rは任意の置換基であって、例えば、水素原子,アルキル基があげられ、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく、また繰り返し数mは自然数である。そして、上記結合鎖のなかでも、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数6以下のアルキレン基、−CH2 OCH2 −が好ましい。
【0020】
したがって、本発明では、上記特定のPVAにおいては、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位として、下記の式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVAを用いることが特に好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
本発明に用いられる上記特定のPVAは、特に限定するものではないが、例えば、以下に述べる3種類の製造方法(α),(β),(γ)に従って製造することができる。なかでも、重合が良好に進行し、1,2−ジオール構造単位をPVA中に均一に導入しやすいという製造時の利点や、得られたPVAを繊維化する際の問題点が少ない点、さらには最終的な水溶性PVA製繊維の特性から、製造方法(α)を採用することが好適である。
【0023】
まず、上記製造方法(α)について述べる。
【0024】
上記製造方法(α)は、ビニルエステル系モノマーと、下記の一般式(2)で表される化合物を共重合させて共重合体を作製し、この共重合体をケン化することにより、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAを製造する方法である。
【0025】
【化4】

【0026】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等があげられる。なかでも、経済的な観点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0027】
上記一般式(2)において、R1 〜R6 およびXは、先に述べた一般式(1)と同様のものがあげられる。また、R7 〜R8 は、水素原子またはR9 −CO−であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。ただし、R7 、R8 のいずれか、あるいは両方が水素原子の場合、重合溶媒への溶解度不足によって、高変性品の製造が困難になる場合があるため、好ましくはR9 −CO−である。なお、上記R9 −CO−中、R9 はアルキル基であり、好ましくは、メチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基またはオクチル基である。そして、上記アルキル基は、共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲内で、ハロゲン基,水酸基,エステル基,カルボン酸基,スルホン酸基等の置換基を有していても差し支えない。
【0028】
上記一般式(2)で表される化合物としては、具体的には、式(2)中のXが単結合である、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等があげられる。また、式(2)中のXがアルキレン基である、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等があげられる。さらに、式(2)中のXが−CH2OCH2−あるいは−OCH2−である、グリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、R1 〜R6 が水素、Xが単結合、R7 〜R8 がR9 −CO−であり、R9 がアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、さらにそのなかでも特にR9 がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0030】
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、であり、これは後述のビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0031】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)であり、これはビニルエチレンカーボネートの場合の、Cx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランの場合のCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)と比較して、重合の阻害要因となって重合度が上がりにくくなったり、重合速度低下の原因となることがないことを示すものである。
【0032】
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が主構造単位である酢酸ビニル構造単位に由来するものと同一であり、その後処理に特別な装置や工程を設ける必要がない点も、工業的に大きな利点である。
【0033】
なお、上記3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、工業生産用ではイーストマンケミカル社の製品を、また試薬レベルではアクロス社の製品をそれぞれ市場から入手することができる。また、1,4−ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することもできる。
また、1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウム等の金属触媒を用いた公知の異性化反応によって3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換して用いることもできる。
【0034】
上記ビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物とを共重合するに際しては、特に限定するものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合またはエマルジョン重合等の公知の重合方法を採用することができるが、通常、溶液重合が行われる。
【0035】
上記共重合時の各モノマー成分の仕込み方法としては、特に限定するものではなく、一括仕込み、分散仕込み、連続仕込み等任意の方法か採用されるが、一般式(2)で表される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させることができる点から滴下重合が好ましく、特に前述の酢酸ビニルとの反応性比を用いたHANNA法に基づく重合方法が好ましい。
【0036】
このような共重合反応において用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類があげられ、工業的には、メタノールが好適に用いられる。
【0037】
上記溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜に選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの場合は、溶媒(S)/モノマー(M)=0.01〜10(重量比)、好ましくはS/M=0.05〜3(重量比)程度の範囲から適宜選択される。
【0038】
そして、共重合に際しては重合触媒が用いられ、上記重合触媒としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等があげられる。上記重合触媒の使用量は、モノマーや触媒の種類により異なり一概には決められるものではないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.01〜0.7モル%が好ましく、特には0.02〜0.5モル%が好ましい。また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度と設定することが好ましく、より具体的には、35〜150℃、好ましくは40〜75℃の範囲である。
【0039】
また、重合終了時にはラジカル重合において用いられる公知の重合禁止剤を反応系内に添加することが好ましく、かかる重合禁止剤としては、m−ジニトロベンゼン、アスコルビン酸、ベンゾキノン、α−メチルスチレンの二量体、p−メトキシフェノール等があげられる。
【0040】
つぎに、得られた共重合体はケン化されるが、このケン化にあたっては、上記反応により得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒または酸触媒を用いて行われる。上記代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等があげられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。また、ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒があげられる。
【0041】
上記ケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は、通常、ビニルエステル系モノマーおよび前記一般式(2)で表される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位の合計量1モルに対して0.1〜30ミリモルに設定することが好ましく、より好ましくは2〜17ミリモルである。また、ケン化反応の反応温度は特に限定するものではないが、10〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0042】
つぎに、前記製造方法(β)について述べる。
【0043】
上記製造方法(β)は、ビニルエステル系モノマーと下記の一般式(3)で表される化合物とを共重合して共重合体を作製し、この共重合体をケン化、脱炭酸することにより、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAを製造する方法である。
【0044】
【化5】

【0045】
上記一般式(3)で表される化合物において、式(3)中のR1 〜R6 およびXは、前述の一般式(1)と同様のものがあげられる。なかでも、入手の容易さ、良好な共重合性を有する点から、R1 〜R6 すべてが水素で、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0046】
上記ビニルエステル系モノマーと上記一般式(3)で表される化合物とを共重合させて共重合体を作製し、この共重合体をケン化する方法では、前述の製造方法(α)と同様に行われる。
【0047】
また、上記脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することにより1,2−ジオール構造に変換される。また、一定圧力下〔常圧(=1.013×105 Pa)〜1×107 Pa〕で、かつ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、このような場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0048】
なお、製造方法(β)による1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAは、ケン化度が低い場合や、脱炭酸が不充分な場合には側鎖にカーボネート環が残存し、溶融紡糸時に脱炭酸することで繊維中に気泡が生じ、糸切れの原因となったり、着色する場合があるため、これに留意して使用する必要がある。
【0049】
さらに、前記製造方法(γ)について述べる。
【0050】
上記製造方法(γ)は、ビニルエステル系モノマーと下記の一般式(4)で表される化合物とを共重合して共重合体を作製し、この共重合体をケン化、脱ケタール化することにより、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAを製造する方法である。
【0051】
【化6】

【0052】
上記一般式(4)で表される化合物において、式(4)中のR1 〜R6 およびXは、前述の一般式(1)と同様のものがあげられる。また、式(4)中のR10,R11は水素原子または有機基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。上記有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。上記アルキル基は、共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン基,水酸基,エステル基,カルボン酸基,スルホン酸基等の置換基を有していても差し支えない。なかでも、入手の容易さ、良好な共重合性を有する点から、R1 〜R6 すべてが水素で、R10およびR11がメチル基で、Xが単結合である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適に用いられる。
【0053】
上記ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で表される化合物とを共重合させて共重合体を作製し、この共重合体をケン化する方法では、前述の製造方法(α)と同様に行われる。
【0054】
なお、上記脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、さらに酸触媒を用いて水系媒体(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。この場合の上記酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等があげられる。
【0055】
また、上記ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
【0056】
本発明における特定のPVAでは、本発明の目的を阻害しない範囲において各種不飽和モノマーを共重合したものを用いることができる。上記不飽和モノマーの導入量としては、特に限定するものでもないが、導入量が多過ぎると水溶性が損なわれたり、ガスバリアー性が低下することがあるため、好ましいものでなく、このような点を考慮して適宜設定される。
【0057】
上記不飽和モノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、グリセリンモノアリルエーテル、アセトアセチル基含有モノマー等があげられる。
【0058】
さらに、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等もあげられる。
【0059】
また、重合温度を100℃以上に設定することにより、PVAの主鎖中に、重合中に生成する異種結合である1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度導入したものを使用することが可能である。
【0060】
なお、製造方法(γ)による1,2−ジオール構造単位を有する水溶性PVAも、製造方法(β)によるものと同様、側鎖に残存したアセタール環が溶融紡糸時に脱離して、繊維中の気泡による糸切れをおこす場合があるため、これに留意して使用する必要がある。
【0061】
このようにして得られる特定のPVAに導入される1,2−ジオール結合量、すなわち、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量としては、例えば、不織布としての使用を考慮した場合、0.1〜30モル%の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、0.5〜25モル%、特に好ましくは3〜16モル%である。すなわち、1.2−ジオール結合量が少な過ぎると、結晶性が上がり、融点も高くなって水溶性に劣る傾向がみられる。また、多過ぎると、金属密着性が高くなり、機械、ダイス、巻取りロール等に付着する等の問題が生じたり、品種切り替え時のパージが困難になったり、紡糸機内で熱架橋や熱劣化によるゲルが発生して、安定した成形が困難になる場合がある。
【0062】
また、特定のPVAのケン化度は、特に限定するものではないが、60モル%以上に設定することが好ましく、より好ましくは75モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。すなわち、ケン化度が低過ぎると、酢酸臭が発生し作業環境の低下や機械の錆等が発生する傾向がみられる。本発明におけるケン化度とは、ビニルエステル系モノマーのエステル部分と、一般式(2)で表される化合物の一例のアセトキシ部分やアシロキシ部分の総量の水酸基への変化率(モル%)で表示される。
【0063】
さらに、特定のPVAの平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、特に限定するものではないが、150〜2000の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは200〜1000、特に好ましくは200〜750である。すなわち、平均重合度が低過ぎると、延伸性は良好となるが、強度が低下する傾向がみられ、高くなり過ぎると、高速の引き取りに追随できなくなる等不織布として成形し難くなるという傾向がみられるからである。
【0064】
本発明の水溶性PVA製繊維は、上記水溶性PVAを主成分とする形成材料を用いて、例えば、溶融紡糸法にしたがって繊維状に作製することができる。
【0065】
なお、上記水溶性PVAを主成分とする形成材料において、主成分とするとは、形成材料全体が水溶性PVAのみからなる場合も含める趣旨であり、実質的には、水溶性PVAが形成材料全体の80重量%以上を占める場合をいう。そして、上記水溶性PVA以外の成分としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール類、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等の糖アルコール類等の可塑剤、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミド化合物、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪族アミド化合物、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪族金属塩、分子量が500〜10000程度の低分子量エチレン、低分子量プロピレン等の低分子量ポリオレフィン等の滑材、およびホウ酸、リン酸等の無機酸、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填剤等があげられ、これらは必要に応じて適宜配合される。
【0066】
上記溶融紡糸の方法としては、特に限定されないが、公知の溶融紡糸機を用い、単一ノズルまたは複合ノズルから溶融紡糸される。紡糸温度は、水溶性PVAが溶融し、かつ変質しない温度で実施され、通常は120〜230℃、さらには140〜225℃、特には150〜220℃の範囲で行われる。このような紡糸工程の後、必要に応じて延伸され、その際の延伸温度80〜190℃が好ましく、延伸倍率2倍以上で処理すると、繊維強度が向上するため好ましい。さらに、必要に応じて、捲縮付与装置で捲縮を与え、巻き取られて本発明の水溶性PVA繊維が得られる。
【0067】
このように、水溶性PVAを含有する形成材料を用いて繊維状に成形した場合の繊維の繊度は、成形方法および用途等に応じて適宜に設定されるが、例えば、好ましくは0.005〜50000デニール、より好ましくは0.01〜500デニール、特に0.05〜5デニールの範囲に設定することが好ましい。このような範囲に設定することにより、繊維強度と柔軟性、水溶性が得られ、特にケミカルレース基材用不織布としたときの強度と低温での良好な水溶性が両立するという効果を奏するようになる。
【0068】
なお、本発明の水溶性PVA製繊維は、通常、不織布または織布として用いるが、特に水溶性不織布として用いるのが望ましい。また、単繊維として用い、中空または板状基材に捲き付けて配設した形で用いてもよい。
【0069】
上記不織布の製法としては、例えば、長繊維不織布の作製に適したスパンボンド法やメルトブローン法、あるいは上述の繊維フィラメントを所定の長さに切断し、これをカード法、エアレイ法等の乾式法によってウェブ化して短繊維不織布を得る方法等があげられるが、原料PVAから直接製造することができ、長繊維であるため強度に優れた不織布が得られることから、スパンボンド法が好ましく用いられる。
【0070】
上記スパンボンド法とは、溶融押出機によりポリマーを溶融混練し、溶融したポリマー流を紡糸ヘッドに導いてノズル孔から吐出させ、この吐出糸条を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズル等の吸引装置を用いて、目的の繊度となるように高速気流で牽引した後、開繊しながら移動式の捕集面の上に堆積させてウェブを形成させ、このウェブを加熱等により部分圧着して巻き取ることによって長繊維不織布を得る方法である。
【0071】
本発明の水溶性PVA製繊維により得られた不織布の目付けおよび密度は、その用途に応じて適宜設定されるが、例えば、目付けは好ましくは5〜200g/m2 、特に10〜100g/m2 、密度は0.03〜1g/cm3 であることが好ましい。特にケミカルレース基材用途に用いる場合には、その目付けは10〜70g/m2 、特には15〜60g/m2 であることが好ましく、密度は0.05〜0.8g/cm3 、特には0.1〜0.6g/cm3 であることが好ましい。すなわち、目付けや密度が小さ過ぎると、PVA製繊維の絶対量が少ないため強度が不充分となる場合があり、逆に大き過ぎると刺繍時に針が折れやすくなるため好ましくない。
【0072】
このようにして得られた本発明の水溶性PVA製繊維からなる不織布は、その特性の一つとして、低温での水溶性に優れるものである。本発明において、低温とは、従来の高温、例えば、90℃程度の熱水に比べて低温領域となる、40〜70℃程度の温度範囲、特に50℃以下での温度をいう。このような温度範囲での優れた水溶性を示すことにより、低温水での溶解が可能となり、例えば、水溶性PVA製不織布をケミカルレース基材用のような刺繍用基材に使用した場合、刺繍自体の退色や刺繍糸の劣化が抑制され好ましいものである。
【0073】
本発明の不織布は、このような優れた特性を備えたものであることから、例えば、ケミカルレース基材用不織布(高級刺繍用基材等)や、自動車等の傷防止保護シート、溶剤等の濾過フィルター、医療用手術着等の用途に有用である。
【0074】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、本発明の要旨を超えない限りこれら実施例に限定されるものではない。また、以下、「%」は重量基準である。
【実施例1】
【0075】
(水溶性PVA−aの作製)
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール2100g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン180g(6モル%対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が80%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0076】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥することにより目的の水溶性PVA−aを作製した。
【0077】
得られた水溶性PVA−aのケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.2モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、500であった。また、前記式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、 1H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ5.9モル%であった。そして、融点は182℃であった。
【0078】
上記水溶性PVA−aのみを用いて、繊維形成材料とし溶融紡糸に供した。
【実施例2】
【0079】
上記水溶性PVA−aに可塑剤としてグリセリンを全体の5%となるよう配合したものを繊維形成材料として準備し溶融紡糸に供した。また、上記繊維形成材料の融点は177℃であった。
【実施例3】
【0080】
上記水溶性PVA−aに可塑剤としてグリセリンを全体の10%となるよう配合したものを繊維形成材料として準備し溶融紡糸に供した。また、上記繊維形成材料の融点は172℃であった。
【実施例4】
【0081】
(水溶性PVA−bの作製)
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル2700g、メタノール800g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン240g(8モル%対仕込み酢酸ビニル)を酢酸ビニルの初期仕込み率10%、酢酸ビニル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを9時間等速滴下の条件で仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が87%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0082】
ついで、上記メタノール溶液をメタノールで希釈し、濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥することにより目的の水溶性PVA−bを作製した。
【0083】
得られた水溶性PVA−bのケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、98.5モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、300であった。また、前記式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、 1H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ8.0モル%であった。そして、その融点は170℃であった。
【0084】
上記水溶性PVA−bのみを用いて、繊維形成材料とし溶融紡糸に供した。
【実施例5】
【0085】
(水溶性PVA−cの作製)
実施例4において、水酸化ナトリウムの添加量を6.5ミリモルとした以外は同様にしてPVA−cを作製した。
【0086】
得られたPVA−cのケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、95モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、300であった。そして、その融点は157℃であった。
【0087】
上記水溶性PVA−cのみを用いて、繊維形成材料とし溶融紡糸に供した。
【0088】
〔比較例1〕
(通常のPVA−dの作製)
実施例1において、酢酸ビニルを1300g、メタノールを2200gとし、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いない以外は同様に重合を行い、重合率が90%となった時点で重合を終了し、水酸化ナトリウムの添加量を酢酸ビニル構造単位1モルに対して5ミリモルとなる割合で加え、同様にケン化を行い、PVA−dを作製した。
【0089】
得られたPVA−dのケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、78.0モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、500であった。そして、その融点は185℃であった。
【0090】
上記PVA−dのみを用いて、繊維形成材料とし溶融紡糸に供した。
【0091】
〔比較例2〕
(通常のPVA−eの作製)
比較例1において、水酸化ナトリウムの添加量を4ミリモルとした以外は同様にしてPVA−eを作製した。
【0092】
得られたPVA−eのケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、72.0モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、500であった。そして、その融点は170℃であった。
【0093】
上記PVA−eにポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量300)を全体の5%となるよう配合したものを繊維形成材料として準備し溶融紡糸に供した。
【0094】
〔比較例3〕
(通常のPVA−fの作製)
比較例1において、水酸化ナトリウムの添加量を8ミリモルとした以外は同様にしてPVA−fを作製した。
【0095】
得られたPVA−fのケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、98.5モル%であった。また、平均重合度(P)は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、500であった。そして、その融点は220℃であった。
【0096】
上記PVA−fのみを繊維形成材料として準備し溶融紡糸に供した。
【0097】
このようにして得られた実施例および比較例の繊維形成材料を用いて、下記の方法に従って不織布を作製し、その特性評価を行った。その結果を後記の表1に併せて示す。
【0098】
まず、各繊維形成材料を用い、スピニングテスター(冨士フィルター工業社製のフジメルトスピニングテスター)を用い、スクリュー押出部の温度を190℃、紡糸ノズル部を220℃とし、40μmのフィルターエレメントを用い、0.5×1−28Hの口金にて押出量12g/分の条件で溶融紡糸し、フィラメント(繊維)を作製した。なお、引き取り速度はフィラメントが切れない最大の速度とした。ついで、このフィラメントを用い熱プレスにより熱溶融圧着(条件:融点よりも10℃低い温度で10MPaの圧力にて2分間圧着)させることにより、不織布(目付け40g/m2 、厚み0.5mm)を作製した。
【0099】
また、上記フィラメントの延伸性評価として、実施例1の繊維形成材料を用いて紡糸したフィラメントの太さを基準として比較し、その相対値を算出した。その結果を後記の表1に示す。
【0100】
〔水溶解性〕
上記不織布1.5gを、500ml容積の恒温水槽(温度50℃)に投入し、スリーワンモーター300rpmで攪拌し、目視により完全に溶解した時間を確認し測定した。その結果、下記の評価を行った。
○:30分以内に完全に水溶解した。
△:30分を超え1時間以内に完全に水溶解した。
×:1時間を超えても完全に水溶解しなかった。
【0101】
〔臭気(酢酸臭)の有無〕
パネラー5人により上記不織布の臭気を嗅ぎ、臭気(酢酸臭)の有無を判断した。
【0102】
〔泡立ち評価〕
上記不織布を1重量%濃度、および4重量%濃度となるように精製水に完全溶解させ試験用溶解水を準備した。そして、図1に示すように、恒温槽1内の1リットルメスシリンダー4内に試験用溶解水2を投入し、ポンプ(図示せず)からの空気を管3を通じて試験用溶解水2に吹き込み、その際に生じた泡高さh(mm)を測定するとともに、エアー吹き込みを停止してからの破泡状況を目視により確認した。この測定条件を下記に示す。
水温:40℃
試験用溶解水の濃度:1重量%、4重量%
液量:200g
測定容器4:1リットルメスシリンダー
エアー吹き込み量:200ml/分、開始から5分間(エアー吹き出し口:エアーストーン5使用)
【0103】
【表1】

【0104】
上記結果から、実施例品はいずれも水溶解性が良好であり、かつ酢酸臭の臭気も無く優れた不織布が得られた。しかも実際に不織布を溶解して得られる水溶液を想定した際の濃度範囲での泡立ち評価においても泡高さが10mm以下と小さく泡の発生が抑制されたことがわかる。
【0105】
これに対して、何ら変性されていない一般的なPVAを用いた比較例品は、ケン化度の低い比較例1,2品においては、水溶解性に劣り、しかも酢酸臭が発生した。さらに、泡立ち評価においても泡高さが1000mm以上で破泡無しと泡の発生が顕著であった。また、ケン化度の高い比較例3品は、酢酸臭は確認されなかったが、水に対して全く溶解せず、しかも泡立ち評価においても泡高さが1000mm以上で破泡無しと泡の発生が顕著にみられた。
【0106】
このような結果から、上記実施例品の不織布は、例えば、その一用途である刺繍台紙用として用いた場合、臭気も無く取り扱い性において良好であり、かつ低温での水溶解性に優れていることから、50℃程度の低温にて水溶解させることが可能となり、刺繍自体の退色や刺繍糸の劣化を抑制することが可能となり、非常に有用であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の水溶性PVA製繊維を用いた不織布は、例えば、高級刺繍台紙用等のケミカルレース基材用不織布や、自動車等の傷防止保護シート、溶剤等の濾過フィルター、医療用手術着等の用途等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例および比較例での泡立ち評価試験に用いる測定装置の構成を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有する水溶性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする原料糸からなる水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維。
【化1】

【請求項2】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位が、下記の式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位である請求項1記載の水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維。
【化2】

【請求項3】
上記水溶性ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル系モノマーと、下記の一般式(2)で表される化合物との共重合体をケン化することにより得られたものである請求項1または2記載の水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維。
【化3】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水溶性ポリビニルアルコール系樹脂製繊維を用いて形成されてなる不織布。

【図1】
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【公開番号】特開2007−239171(P2007−239171A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25647(P2007−25647)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】