説明

水溶性又は非水溶性治療剤の身体内腔表面への局所送達

正常な又は病的な身体内腔の表面へ水溶性又は非水溶性治療剤を局所送達するための方法及び装置を開示する。バルーンカテーテルのバルーンなどの医療用使い捨て装置の拡張可能構造を、治療剤及び両親媒性ポリマー又はコポリマーを含む両親媒性ポリマー皮膜で被覆する。医療用使い捨て装置を身体内腔に挿入し、両親媒性ポリマー皮膜が身体内腔に接触するように拡張させる。ポリマー又はコポリマーが生体内で全て溶解することで、両親媒性ポリマー皮膜に伴うあらゆる塞栓の危険性が防がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本一部係属出願は、2008年9月15日に出願された係属中の米国特許出願第12/210,344号の優先権の利益に関し、該特許出願を引用により組み入れるとともに、本明細書によりこの特許出願の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明の実施形態は、医療用治療剤の送達の分野に関する。より詳細には、本発明の実施形態は、水溶性又は非水溶性治療剤を正常な又は病的な身体内腔の表面へ局所送達するために使用する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
著しい罹患率及び死亡率を伴う突発性、遺伝性、環境性、及び医原性の疾患は、内皮細胞が株化した及び上皮細胞が株化した身体内腔の壁内で発症する。例えば、アテローム性動脈硬化症及び処置後再狭窄は動脈壁に発症する。腺癌、食道静脈瘤、及び胆管癌は、消化器管壁に発症する。病変組織への不適切な薬物送達及び/又は非病変組織における用量制限毒性効果により、これらの疾患に対する全身的薬物治療の有効性が制限されることがある。薬剤を身体内腔壁の病変組織へ局所送達することによりこれらの制限を克服することができ、全身毒性を伴わない薬物の治療濃度を実現することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態は、身体内腔の表面への局所的治療剤送達に使用できるバルーンカテーテルのバルーンなどの医療用使い捨て装置の拡張可能構造を被覆するための新規な方法を開示する。この方法は、(パクリタキセルなどの)高レベルの治療剤による皮膜の形成を可能にし、単純な、再現可能な、従って容易に製造可能な応用プロセスを使用して、バルーン表面にわたって均一な治療剤濃度を提供する皮膜の形成を可能にするように設計された独自の化学製剤を利用する。この新規な被覆プロセスを使用して均一な用量の水溶性及び非水溶性治療剤を局所送達し、身体内腔壁に生じる様々な疾患を治療することができる。しかも、この新規な被覆方法は、異なる治療標的を対象とする(パクリタキセルと酢酸デキサメタゾンなどの)治療剤を組み合わせた治療レベルに対応して処置の治療効率を高めることができる。
【0005】
1つの実施形態では、拡張可能構造の外面上に両親媒性ポリマー皮膜を形成するために、被覆溶液が、冠動脈又は末梢動脈のいずれかに有用な血管形成バルーンなどの、外面を有する拡張可能構造上に単一浸漬被覆される。被覆溶液は、大部分又は全体が非水性溶媒である両親媒性ポリマー又はコポリマーと、治療剤又は(パクリタキセルと酢酸デキサメタゾンなどの)治療剤の組み合わせと、任意の可塑剤及び/又はワックスを含む。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーが、この両親媒性ポリマー又はコポリマーに共有結合していないヨウ素と錯体形成する。この被覆溶液は、複数の両親媒性ポリマー又はコポリマーを含むこともできる。被覆後は、送達のためにバルーンを乾燥させて折り畳む。
【0006】
その後、この被覆した医療用使い捨て装置を治療作業で使用することができる。1つの実施形態では、被覆した医療用使い捨て装置を身体内腔に挿入し、両親媒性ポリマー皮膜が身体内腔に接触するように拡張させる。生体内の血液などの液体にさらされるとすぐに皮膜の水和反応が生じ、両親媒性ポリマー皮膜が溶解して治療剤が身体内腔の組織内に放出されるようになる。両親媒性ポリマー又はコポリマーが血液中に全て溶解することで、両親媒性ポリマー皮膜に伴うあらゆる塞栓の危険性が防がれる。従って、両親媒性ポリマー皮膜は生分解性かつ非耐久性である。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜の少なくとも90%が、膨張後300秒以内に、より好ましくは膨張後90秒で溶解する。また、この両親媒性ポリマー皮膜の活性溶解が、パクリタキセルなどの疎水性の非水溶性治療剤をバルーンから組織へ移す支援を行う。
【0007】
本発明の実施形態によれば、両親媒性ポリマー又はコポリマーが、ヨウ素と錯体形成することができる。錯体形成したヨウ素は、水性条件においてパクリタキセル、ラパマイシン及びエベロリムスなどの非水溶性治療剤の溶解度を高めることが実証されている。このことは、錯体形成したヨウ素が、生体内で非水溶性治療剤の組織内取り込みをさらに支援できることを示唆する。1つの実施形態では、乾燥した両親媒性ポリマー皮膜が、ヨウ素と錯体形成した少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマー、任意の可塑剤及び/又はワックスを含むポリマーマトリクス中に分散した治療剤を含む。1つの実施形態では、乾燥した両親媒性ポリマー皮膜が、ヨウ素と錯体形成した少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーと、ヨウ素と錯体形成していない少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む。1つの実施形態では、乾燥皮膜中の両親媒性ポリマー又はコポリマー全体の25〜100重量パーセントがヨウ素と錯体形成する。例えば、乾燥皮膜は、ヨウ素と錯体形成できない両親媒性ポリマーを0〜75重量パーセント、及び両親媒性ポリマー成分として25〜100重量パーセントのヨウ化PVPを含むことができる。
【0008】
1つの実施形態では、バルーン上に存在する乾燥皮膜が、1〜30%のヨウ素対ヨウ素錯体形成可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマー重量比(I/P)、25〜100%の治療剤(薬剤)対ポリマーマトリクス重量比(D/P)、及び約0.1〜10.0μg/mm2の薬剤濃度を有する。1つの実施形態では、カテーテルバルーン上に乾燥皮膜が存在し、薬剤がパクリタキセルであり、両親媒性ポリマーがPVPである。乾燥皮膜は、1〜30%のヨウ素対PVP重量比(I/P)、25〜100%のパクリタキセル対ポリマーマトリクス重量比(D/P)、及び約0.1〜5.0μg/mm2のパクリタキセル濃度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】バルーンが拡張位置にある間のバルーンカテーテルの側面図である。
【図1B】バルーンが拡張位置にある間の被覆溶液に浸漬されたバルーンカテーテルの等角図である。
【図1C】バルーン表面を被覆したバルーンカテーテルの側面図である。
【図2A】引き込み式シースで覆われて身体内腔に挿入されたバルーンカテーテルの拡張していないバルーンの外面上に施された両親媒性ポリマー皮膜の側面図である。
【図2B】身体内腔内の局所的治療剤送達の焦点領域に隣接するバルーンカテーテルの拡張していないバルーンの外面上に施された両親媒性ポリマー皮膜の側面図である。
【図2C】バルーンカテーテルの拡張したバルーンの外面上に施された両親媒性ポリマー皮膜と、身体内腔内の局所的治療剤送達の焦点領域との接触面の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態は、水溶性又は非水溶性治療剤を正常な又は病的な身体内腔の表面へ局所送達するために使用する方法及び装置を開示する。
【0011】
本明細書に記載する様々な実施形態について図を参照しながら説明する。しかしながら、いくつかの実施形態は、これらの具体的な詳細の1又はそれ以上を伴わずに、又はその他の公知の方法及び構成と組み合わせて実施することができる。以下の説明では、本発明の十分な理解をもたらすために、具体的な構成、組成、及びプロセスなどの数多くの具体的な詳細について説明する。他の例では、本発明を不必要に曖昧にしないために、周知のプロセス及び製造技術については特に詳細に説明していない。本明細書を通じて「1つの実施形態」又は「或る実施形態」への言及は、本発明の少なくとも1つの実施形態に、この実施形態に関連して説明する特定の特徴、構成、組成、又は特性が含まれることを意味する。従って、本明細書を通じて様々な場所に出現する「1つの実施形態では」又は「或る実施形態」という語句は、必ずしも本発明の同じ実施形態について言及するものとは限らない。さらに、1又はそれ以上の実施形態において、特定の特徴、構成、組成、又は特性をあらゆる好適な方法で組み合わせることができる。
【0012】
1つの態様では、本発明の実施形態は、拡張可能構造の外面上に両親媒性ポリマー皮膜を施した医療用使い捨て装置を開示する。両親媒性ポリマー皮膜は、少なくとも1つの治療剤及び少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーを含む。両親媒性ポリマー皮膜は、任意に可塑剤及び/又はワックスなどの追加成分を含むことができる。治療剤は、水溶性又は非水溶性のいずれであってもよい。生体内の血液などの液体に露出されるとすぐに両親媒性ポリマー皮膜の水和反応が生じ、両親媒性ポリマー皮膜が溶解して治療剤が身体内腔の組織内に放出されるようになる。ポリマー又はコポリマーが血液中に全て溶解することで、両親媒性ポリマー皮膜に伴うあらゆる塞栓の危険性が防がれる。
【0013】
1つの実施形態では、医療用使い捨て装置が、治療剤を含む両親媒性ポリマー皮膜を有する拡張可能なバルーンを備えたカテーテルである。カテーテルが身体内腔内を進んでバルーンを標的組織と位置合わせし、バルーンは、2〜20気圧に拡張して両親媒性ポリマー皮膜を標的組織と接触させ、装置が標的組織と約5〜300秒という短時間しか接触しないので、両親媒性ポリマー皮膜を溶解させて治療剤のペイロードが生体内の標的組織へ向けて急速に放出されるようにする。装置は、短時間しか使用されず、その後体内から除去されるので、「埋め込み式」ではなく「医療用使い捨て」装置であると考えられる。
【0014】
本明細書で使用する両親媒性という用語は、以下に限定されるわけではないが、生体内の血液などの水性溶媒中で、並びに以下に限定されるわけではないが、エタノール、メタノール、及び/又はイソプロパノールなどの非水性溶媒中で溶解できることを意味する。従って、本発明の実施形態による「両親媒性ポリマー皮膜」及び「両親媒性ポリマー又はコポリマー」は、水性及び非水性溶媒の両方の中で溶解できる。両親媒性ポリマー皮膜に含まれる全ての成分が、必ずしも水性及び非水性溶媒の両方に溶解できるものでなくてもよいが、両親媒性ポリマー皮膜のポリマーマトリクス全体は、水性及び非水性溶媒の両方に溶解できると理解されたい。例えば、本発明の実施形態は、例えば両親媒性ポリマー皮膜のポリマーマトリクス全体の中に相互に分散した水溶性及び/又は非水溶性治療剤、並びに非水溶性ワックス、或いはごくわずかな疎水性ポリマー又はコポリマーを利用することができる。例えば、ごくわずかな疎水性ポリマー又はコポリマーを加えて、生体内における皮膜の寿命を延ばし、又は治療剤の放出速度をわずかに遅らせることができる一方で、生体内における皮膜の急速かつ均一な溶解も依然として可能である。両親媒性ポリマー皮膜の個々の又は複数の成分が水性及び非水性溶媒の両方に溶解できなくてもよいが、にもかかわらず、連続したポリマーマトリクス全体を均一に溶解させて水性及び非水性溶媒の両方の基質から除去することができる。従って、両親媒性ポリマー皮膜という用語は、皮膜のポリマーマトリクス全体が、均一に溶解可能であるとともに水性及び非水性溶媒の両方の基質から除去可能であることを意味すると理解されたい。
【0015】
両親媒性ポリマー又はコポリマー
1つの態様では、本発明の実施形態が、1又はそれ以上の両親媒性ポリマー又はコポリマーを含む両親媒性ポリマー皮膜を開示する。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーが、非イオン性熱可塑性ポリマー又はコポリマーである。1つの実施形態では、両親媒性ポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)又はポリビニルピロリドン(PVP)である。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーがヨウ素と錯体形成し、このヨウ素は、両親媒性ポリマー又はコポリマーに共有結合されない。例えば、PVP及びHPCがヨウ素と錯体形成することができる。ヨウ素と錯体形成したPVPは、ポビドンヨードとしても知られている。驚いたことには、表Iの結果によって示唆するように、非イオン両親媒性ポリマーをヨウ素と錯体形成させることにより、生体内におけるパクリタキセル、ラパマイシン及びエベロリムスなどの非水溶性治療剤の溶解度を高めることができ、従って非水溶性治療剤の組織内取り込みを支援することができる。これにより、医療処置の時間要件、及び機械的圧力の量、及び/又は拡張可能構造の持続的膨張により引き起こされる代謝不全を低減することができる。1つの実施形態では、皮膜中のヨウ素錯体形成可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーと錯体形成したヨウ素の量が、乾燥したヨウ素錯体形成可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの重量の1〜30重量パーセントである。
【0016】
1つの実施形態では、乾燥皮膜が、ヨウ素と錯体形成した少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーと、ヨウ素と錯体形成していない少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む。1つの実施形態では、乾燥皮膜中の総両親媒性ポリマー又はコポリマーの25〜100重量パーセントがヨウ素と錯体形成する。例えば、ポリマーマトリクス中の総両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの25〜100重量パーセントをポビドンヨードとすることができる。
【0017】
ヨウ素と錯体形成することで追加の作用をもたらすこともできる。両親媒性ポリマー皮膜に琥珀の色合いを与え、体外からの視覚化及び被覆プロセスを支援する。しかも、ヨウ素は核半径が大きいので、蛍光透視法下で放射線不透過性を示し、拡張可能構造が蛍光下で見えるようになるとともに、両親媒性ポリマー皮膜の溶解を時間の関数としてモニタすることができる。
【0018】
1つの実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーが、イオン熱可塑性ポリマー又はコポリマーである。例えば、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、(米国ニュージャージー州ウェーンのインターナショナル・スペシャルティ・プロダクツ(ISP)社からGantrez ES−425という商標名で市販されている)ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、又は(米国ニュージャージー州ウェーンのインターナショナル・スペシャルティ・プロダクツ(ISP)社からGantrez ES−225という商標名で市販されている)ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)とすることができる。
【0019】
HPC(非ヨウ化)、ヨウ化HPC、ヨウ化PVP(ポビドンヨード)、ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)は、低表面張力及び急速蒸発を示す低級アルコールに、水を一切使用せずに溶解できる。本明細書で使用する「低級アルコール」という用語は、炭素原子が4つ以下のアルコールを意味する。これらは水にも溶けやすく、生体内で急速に溶解する。1つの実施形態では、膨張後90〜300秒以内に治療剤の移送が行われることが望ましい場合、このことが有利である。上記の両親媒性ポリマー又はコポリマーが十分なエタノール中に単独で又は組み合わせによって溶解する場合、これらはアセトンとも混和されやすい。1つの実施形態では、治療剤がパクリタキセルを含む場合、パクリタキセルは(エタノール、2−プロパノール、n−ブタノールなどの)低級アルコールと温アセトンの混合物中で非常に溶解しやすく、この溶媒の組み合わせは薬剤の装填量を高めるので、このことが有利となり得る。別の実施形態では、ポリマー又はコポリマーが完全に両親媒性でなくてもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、非水性溶媒中では完全に溶解できないが、等級によっては、約10%の水と90%の非水性溶媒とを含む溶液中に溶解できる。
【0020】
1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜が、ポリマーマトリクス内に任意に可塑剤を含むことができる。可塑剤は、延性を高めて皮膜の割れ又は剥離を防ぐ一方で、乾燥状態で曲げたり又は折り畳んだりするのに特に有用となり得る。好適な可塑剤としては、以下に限定されるわけではないが、分子量が10Kダルトン未満のポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、グリセロール、及びセバシン酸ジブチルが挙げられる。1つの実施形態では、可塑剤がPEG−400である。1つの実施形態では、両親媒性ポリマーがPVPベース(ヨウ化又は非ヨウ化)であり、可塑剤がPVPの30〜85重量%存在する。1つの実施形態では、両親媒性ポリマーがHPCベース(ヨウ化又は非ヨウ化)であり、可塑剤がHPCの5〜15重量%存在する。
【0021】
1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜が、ポリマーマトリクス内に任意にワックスを含むことができる。ワックス状表面は、身体内腔表面との関係において、及び/又は両親媒性ポリマー皮膜を覆う任意の保護シースとの関係において両親媒性ポリマー皮膜の滑走性を促進する。好適なワックスとしては、以下に限定されるわけではないが、蜜ろう、カルナバろう、ポリプロピレングリコール、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びPDMS誘導体が挙げられる。
【0022】
1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜が、任意にポリマーマトリクス内にごくわずかな疎水性ポリマー又はコポリマーを含んで、生体内における皮膜の寿命を延ばし、又は治療剤の放出速度をわずかに遅らせることができる一方で、生体内における皮膜の急速かつ均一な溶解も依然として可能である。
【0023】
治療剤
別の態様では、本発明の実施形態が、治療剤を送達して身体内腔壁に生じる様々な疾患を治療するための器具及び方法を開示する。本発明による有用な治療剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。治療剤は、非水溶性(すなわち、溶媒可溶性)及び/又は水溶性とすることができる。1つの実施形態では、乾燥皮膜が、25〜100%の治療剤(薬物)対ポリマーマトリクス重量比(D/P)を有する。本明細書で使用するD/P比のDは、D/P比が皮膜内の単一の薬剤を具体的に表すように別様に利用されない限り、皮膜内の薬剤を全て含む。D/Pは、両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの分子量、及び可塑剤及び/又はワックスなどの追加成分の存在に依存することができる。D/P比が100%よりも高いと、生体内における溶解時間が長くなり、この結果、送達バルーンの膨張時間が300秒未満の場合に治療作業中の薬剤送達の効率が悪くなる恐れがある。また、D/P比が100%よりも高いと、特に非水溶性薬剤の場合に粒子が発生する可能性が高まる恐れがある。D/P比が25%を下回ると、医療用使い捨て装置に必要な治療剤を装填するために過剰な皮膜厚が必要となる場合がある。1つの実施形態では、D/P比が35〜60%である。
【0024】
1つの実施形態では、乾燥皮膜が、約0.1〜10.0μg/mm2の治療剤(薬剤)濃度を有する。薬剤濃度は、具体的な薬剤及びポリマーマトリクスの選択などの要因によって様々であってよい。1つの実施形態では、カテーテルバルーン上に乾燥皮膜が存在し、薬剤がパクリタキセルであり、両親媒性ポリマーがPVPであり、乾燥皮膜が約0.1〜3.0μg/mm2のパクリタキセル濃度を有する。
【0025】
1つの実施形態では、大部分又は全体が非水性の溶媒を含む皮膜組成物中の成分として非水溶性治療剤が特に有用である。例えば、パクリタキセルなどの非水溶性抗増殖剤を、抗炎症剤デキサメタゾンなどの別の治療剤と組み合わせて使用することができる。1つの実施形態では、単独で又は組み合わせて正常な又は病的な身体内腔の表面に局所送達することができる治療剤を、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤のカテゴリに分類することができる。これらの分類をさらに細分化することもできる。例えば、抗増殖剤を抗有糸分裂剤とすることができる。抗有糸分裂剤は、細胞分裂を抑制し又はこれに影響を与えることにより、本体なら細胞分裂に関与するプロセスが起きなくなる。抗有糸分裂剤の1つの下位クラスには、ビンカアルカロイドが含まれる。非水溶性ビンカアルカロイドの代表的な例としては、以下に限定されるわけではないが、パクリタキセル(アルカロイド自体及び自然発生的な形態及びこれらの誘導体、並びにこれらの合成及び半合成形態を含む)、ビンクリスチン、エトポシド、インジルビン、及び、例えばダウノルビシン、ダウノマイシン及びプリカマイシンなどのアントラサイクリン誘導体が挙げられる。抗有糸分裂剤の他の下位クラスとしては、例えば、非水溶性ホテムスチンなどの抗有糸分裂アルキル化剤、及び、例えば非水溶性アザチオプリン、ミコフェノール酸、レフルノミド、テリフルノミド、フルオロウラシル、及びシタラビンなどの有糸分裂代謝物質が挙げられる。抗有糸分裂アルキル化剤は、DNA、RNA、又は蛋白を共有結合的に修飾することによって細胞分裂に影響を与え、これによりDNA複製、RNA転写、RNA翻訳、蛋白合成、又はこれらの組み合わせを抑制する。
【0026】
同様に使用できる非水溶性抗炎症剤の例としては、以下に限定されるわけではないが、デキサメタゾン、プレドニゾン、ヒドロコーチゾン、エストラジオール、トリアムシノロン、モメタゾン、フルチカゾン、クロベタゾール、及び例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェン、及びスリンダクなどの非ステロイド性抗炎症剤が挙げられる。アラキドン酸代謝物のプロスタサイクリン又はプロスタサイクリン類似体は、血管作動性抗増殖剤の例である。
【0027】
細胞増殖、免疫修飾及び炎症に多面発現効果を有する治療剤を使用することもできる。このような非水溶性薬品の例としては、以下に限定されるわけではないが、シロリムス(ラパマイシンなど)、タクロリムス、エベロリムス、テムシロリムスなどのマクロライド及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0028】
抗血小板剤は、(1)血小板の表面、一般的には血栓形成面への付着の抑制、(2)血小板凝集の抑制、(3)血小板の活性化の抑制、又は(4)これらの組み合わせによって作用する治療物である。血小板付着の抑制剤として作用する非水溶性抗血小板剤としては、以下に限定されるわけではないが、gpIIbIIIa又はαvβ3への結合を抑制するチロフィバン及びRGD(Arg−Gly−Asp)ベースの(ペグ化された)ペプチド、これらのそれぞれの配位子へのP選択又はE選択結合を遮断する化合物が挙げられる。ADP仲介血小板凝集を抑制する薬品としては、以下に限定されるわけではないが、シロスタゾールが挙げられる。
【0029】
抗血栓剤は、凝固経路内のあらゆる段階で介在し得る化学的及び生物学的実体を含む。具体的な非水溶性実体の例としては、以下に限定されるわけではないが、要因Xaの活性を抑制する小分子が挙げられる。また、例えば、アルガトロバン、イノガトランなどの直接トロンビン抑制剤も挙げられる。
【0030】
使用できる他の非水溶性治療剤には、例えば、アポトーシス誘導物質などの細胞毒性剤、並びにイリノテカン及びドキソルビシンを含むトポイソメラーゼ抑制剤、及びバルプロ酸を含むヒストンデアセチラーゼの抑制剤などの細胞分化を調整する薬剤がある。
【0031】
使用できる他の非水溶性治療剤としては、以下に限定されるわけではないが、フェノフィブレート、クロフィブレート、及びロシグリタゾンを含む抗リパエデミック剤、例えばバチミスタットなどの基質メタプロテイナーゼ抑制剤、例えばダルセンタンなどのエンドセリンA受容体の拮抗剤が挙げられる。
【0032】
別の実施形態では、水溶性治療剤を使用することができる。水溶性抗有糸分裂剤としては、エポチロンA、エポチロンB及びエポチロンD並びに他の全てのエポチロンが挙げられる。水溶性抗血小板剤としては、gpIIbIIIa又はαvβ3への結合を抑制するRGD(Arg−Gly−Asp)ベースペプチドが挙げられる。水溶性抗血栓剤としては、例えば、ヘパリン、ヘパリン硫酸、例えばClivarin.RTMという商標の化合物などの低分子量ヘパリンなどのFXa及びトロンビンの両方と、例えばArixtra.RTMという商標の化合物などの合成オリゴ糖とを直接的に又は間接的に抑制することができるヘパリノイド型薬品が挙げられる。水溶性血栓溶解剤は、血栓(血餅)を分解するのに役立つ薬品と定義することができるが、血餅を溶解させる作用が血栓のフィブリン基質内に捕捉された血小板を分散させるのにも役立つので、これを補助剤として使用することもできる。血栓溶解剤の代表的な例としては、以下に限定されるわけではないが、ウロキナーゼ又は組み換えウロキナーゼ、プロウロキナーゼ又は組み換えプロウロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性剤又はその組み換え型、及びストレプトキナーゼが挙げられる。追加の水溶性治療剤としては、抗血小板及び抗エンドセリンの組み換え抗体の適用が挙げられる。
【0033】
上記の又はその他の治療に使用する場合、本発明の実施形態における治療上効果的な量の非水溶性又は水溶性治療剤の1つを、純粋な形が存在する場合には純粋な形で、又は薬剤的に容認できる塩、エステル又はプロドラッグの形で使用することができる。或いは、治療剤を、1又はそれ以上の薬剤的に容認できる賦形剤と組み合わせた関心のある化合物を含む医薬組成物として投与することができる。本明細書で使用する、本発明の治療剤の「治療上効果的な量」という語句は、あらゆる薬物療法に適用できる適度な便益/リスク比で病気を治療するのに十分な治療剤の量を意味する。しかしながら、本発明の実施形態の治療剤及び組成物の総1日投与量は、担当医により音響医療判断の範囲内で決定されることが理解されよう。いずれかの特定の患者に対する具体的な治療上効果的な用量レベルは、治療する病気及び病気の重症度、使用する具体的な化合物の活性、使用する具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的健康状態、性別及び食事、使用する具体的な化合物の投与時間、投与経路、及び排泄率、治療の持続時間、使用する具体的な化合物と組み合わせて又は同時に使用する薬剤、及び医術において周知の同様の要因を含む様々な要因により決定される。例えば、治療剤の投与を、所望の治療効果の達成に必要なレベルよりも低いレベルから開始して、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは十分に当技術の範囲内である。
【0034】
被覆プロセス
1又は複数の治療剤を含む両親媒性ポリマー皮膜及び両親媒性ポリマー又はコポリマーは、蒸着、噴霧被覆、及び浸漬被覆を含む様々な技術で形成することができる。図1A〜図1Cは、バルーンカテーテルのバルーンなどの医療用使い捨て装置の拡張可能構造を被覆溶液又は被覆混合物に浸漬被覆することによって両親媒性ポリマー皮膜を形成する特定の実施形態を示す図である。本発明の実施形態を利用すると、この浸漬被覆プロセスでは、単純で再現可能な単一浸漬を使用してバルーン表面全体に均一な治療剤濃度が提供され、これにより皮膜内に治療剤を装填するために浸漬を複数回行う必要性を排除することができる。
【0035】
図1Aは、拡張位置にある(例えば、膨張した)被覆されていないバルーン112を有するバルーンカテーテル110を示す図である。図1Bに示すように、被覆されていない拡張バルーン112を被覆溶液又は混合物114に浸漬し、その後0.05〜0.4インチ/分の速度で被覆溶液114から取り出すことができる。上述したように、被覆溶液114は、水性又はより好ましくは非水性溶媒、両親媒性ポリマー又はコポリマー、及び治療剤を含むことができる。被覆溶液114は、任意に可塑剤及び/又はワックスなどの追加成分を含むこともできる。
【0036】
1つの実施形態では、被覆溶液114の粘度が、5cps以上かつ約75cps未満である。拡張バルーン112を被覆溶液114に浸漬した後、図1Cに示すように拡張バルーン112を被覆溶液から取り出し、この結果拡張バルーン112上に均一な皮膜116が得られる。1つの実施形態では、被覆前に任意に(アルゴン、酸素などの)気体プラズマをカテーテル上に使用して皮膜の密着性を高めることができる。
【0037】
1つの実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマー及び非水溶性治療剤を使用することにより、非水性溶媒を使用してもポリマー又はコポリマー及び治療剤を溶解できるようになる。代替の実施形態では、治療剤が非水性溶液中に溶解しない場合に水溶液を使用することができる。被覆溶液中の大部分又は全体が非水性の溶媒では、水溶液と比較して蒸発が速く、表面張力が低く、基質の湿潤性が向上し、このことが被覆の均一性を得る上で役立つ。例えば、周囲の条件において急速に蒸発するエタノール、メタノール、又はメチルエチルケトン、イソプロパノール(2−プロパノール)及び/又はブタノールなどの被覆溶液114中で沸点が水よりも低い溶媒を単独で又は組み合わせて使用することができ、この結果たるみなどの重力による表面欠陥が低減される。大部分又は全体が非水性の溶媒を含む被覆溶液への浸漬被覆は、高レベルの治療剤による皮膜の形成を可能にし、単純な、再生可能な、従って容易に製造可能な応用プロセスを使用して、バルーン表面にわたって均一な治療剤濃度を提供する皮膜の形成を可能にする。例えば、十分なエタノール中に、HPC(非ヨウ化)、ヨウ化HPC、ヨウ化PVP(ポビドンヨード)、ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)が溶解する場合、これらはアセトンとも混和されやすい。1つの実施形態では、治療剤がパクリタキセルを含む場合、パクリタキセルは(エタノール、2−プロパノール、n−ブタノールなどの)低級アルコールとアセトンの混合物中で非常に溶解しやすく、この溶媒の組み合わせは薬剤の装填量を高めるので、このことが有利となり得る。1つの実施形態では、治療剤がラパマイシン及びエベロリムスである。
【0038】
被覆溶液114は、治療剤、(単複の)溶媒、ポリマー及び可塑剤などのその他の成分を単一の容器に混入することにより調製することができる。複数の溶液を組み合わせて被覆溶液114を形成する前に、いくつかの混合及び/又は溶解作業を行うこともできる。例えば、両親媒性ポリマー又はコポリマーがヨウ素と錯体形成する場合、錯体形成ポリマー溶液を調製することができる。例えば、I2をアルコール中に溶解させ、その後I2及びアルコールに乾燥ポリマー粉末を加えることができる。溶液を攪拌及び/又は加熱してポリマーを溶解させることができる。例えば、0.05グラムのI2は12グラムの2−プロパノールに溶解する。次に、1.00グラムのPVP(360KD、ISP)を加える。PVPが溶解するまで、懸濁液を約1時間連続して振盪する。1つの実施形態では、結果として得られる溶液が、2−プロパノール溶液中の20%ポビドンヨードである。
【0039】
次に、治療剤を別のアルコール、又はアルコール及びアセトン溶液中に溶解させることができる。例えば、0.1グラムのパクリタキセルは、40℃で0.1グラムのエタノール及びアセトン中の0.18gの50%PEG−400中に溶解する。次に、この溶液を室温まで冷却し、2−プロパノール溶液中の0.55グラムの20%ポビドンヨードに加えることができる。1つの実施形態では、組み合わせた被覆溶液の薬剤(すなわち、パクリタキセル)対ポリマーマトリクス(すなわち、ヨウ化PVP及びPEG−400)比(D/P)が50%であり、溶液の31.8%が不揮発性であり、不揮発性のうちの33%が薬剤(すなわち、パクリタキセル)である。被覆後、バルーンを乾燥させ、送達のために収縮させて折り畳む。1つの実施形態では、バルーンを乾燥させた後ではあるが送達のために収縮させて折り畳む前に、任意にワックスを含む別の被覆溶液にバルーンを浸漬被覆して、ワックスを両親媒性ポリマー皮膜に組み入れるのではなく、むしろ両親媒性ポリマー皮膜を覆う薄いワックス皮膜(図示せず)を形成することができる。
【0040】
局所的治療剤送達プロセス
図2A〜図2Cは、治療剤及び両親媒性ポリマー又はコポリマーを含む両親媒性ポリマー皮膜を身体内腔の表面に局所送達する特定の実施形態を示す図である。図2Aに示すように、非拡張バルーン212上に両親媒性ポリマー皮膜216を施したバルーンカテーテル210を提供し、これを身体内腔220に挿入する。カテーテル210は、カテーテルが身体内腔220に挿入されたときに両親媒性ポリマー皮膜216が時期尚早に溶解するのを防ぐための任意の保護シース218を非拡張バルーン212上にさらに含むことができる。1つの実施形態では、身体内腔220を、非摂動原発性アテローム血栓症又は再狭窄病変などの焦点領域222を含む動脈とすることができる。1つの実施形態では、身体内腔220を共通胆管又は共通胆管の分枝とし、焦点領域222を腔内腫瘍とすることができる。
【0041】
図2Bに示すように、非拡張バルーン212を焦点領域222に隣接させて位置決めし、保護シース218を後退させる。次に、バルーン212を(膨張により又は別様に)拡張させて、拡張バルーン212上の両親媒性ポリマー皮膜216を焦点領域222が存在する身体内腔220に接触させる。1つの実施形態では、拡張バルーン212がバルーンカテーテルであり、このバルーンを2〜20気圧に拡張させる。皮膜216は両親媒性であるため、生体内の血液などの水性液体にさらされるとすぐに溶解する。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜216の少なくとも90%が、膨張後300秒以内に溶解する。1つの実施形態では、両親媒性ポリマー皮膜216の少なくとも90%が、膨張後90秒以内に溶解する。
【0042】
血管形成術のための臨床的使用では、バルーン212が5〜300秒間のみ拡張することが好ましい場合がある。バルーンを膨張させた状態で長時間使用すると、焦点の又は隣接する組織が損傷し、これが治療上の処置目的にとって有害なものとなる恐れがあるので、この時間制限は医療処置の種類によって行われる。この損傷は、バルーンの持続的膨張により引き起こされる機械的圧力及び/又は代謝不全により生じる可能性があり、以下に限定されるわけではないが、組織構造、組織の炎症、細胞死、及び器官内への反応性瘢痕の導入を含む。1つの実施形態では、標準的な技術を使用して被覆血管形成バルーンを標的病変まで追跡することができ、任意の保護シースが後退し、血管形成バルーンが膨張して動脈壁に接する。すぐに皮膜の水和が生じ、治療剤が組織内に放出され、被覆ポリマー又はコポリマーが溶解し、両親媒性ポリマー皮膜の一部がバルーンから動脈壁へ移動するようになる。この舗床(paving)は、薬剤リザーバとして機能するが一時的なものである。ポリマー又はコポリマーが血液中に全て溶解することで、皮膜に伴うあらゆる塞栓の危険性が防がれる。また、このポリマー又はコポリマーマトリクスの活性溶解が、パクリタキセルなどの疎水性治療剤がバルーンから組織へ移動する支援となる。
【0043】
以下、PETクーポンの被覆に関する以下の非限定的な実施例を参照しながら本発明のいくつかの実施形態について説明する。提示する溶液パーセントは重量パーセントである。
【実施例1】
【0044】
エタノール中の60KダルトンHPCの7.5%溶液1(1.0)グラムを、アセトン中のプロピレングリコール(可塑剤)の1%溶液0.15グラム、0.075グラムのパクリタキセル、及び0.08グラムのn−ブタノールと混合する。混合物を水槽内で加熱してパクリタキセルを溶解させ、澄明な溶液を得る。約10インチ/分の浸漬速度でPETクーポンに浸漬被覆(単一浸漬)して室温で乾燥させると、結果としてわずかに乳白色の乾燥皮膜が得られる。クーポンごとにクーポン表面の約3cm2を被覆する。重量分析によって求めた平均皮膜濃度は6μg/mm2であり、推定パクリタキセル濃度は3μg/mm2である。乾燥皮膜は、180度の曲げに対して割れ又は剥離を生じずに耐えるほど十分に延性を有する。
【0045】
上記のように被覆したクーポンを、37℃の水3ml中に攪拌しながら3分間液浸し、その後クーポンを除去し、濁った懸濁液を9mlの硫酸ジメチル(DMSO)で希釈して澄明な溶液を生成する。260nm及び280nmにおける標準曲線と退避させた定量的UV分析では88%の回復を示す。この結果は、生体内の両親媒性ポリマー皮膜の急速な溶解及び薬剤の放出を実証するものである。生体内環境は、サーファクタント効果を有する血清蛋白質を示し、これが生体内の薬剤及び被覆ポリマーの溶解速度を高めると予想される。
【実施例2】
【0046】
0.075グラムのパクリタキセルを、2−プロプラノロール中の20%のポビドンヨード溶液0.9グラム、2−プロプラノロール中の10%のプロピレングリコール溶液0.06グラム及び0.04グラムのアセトンと混合する。約10インチ/分の浸漬速度でPETクーポンに浸漬被覆(単一浸漬)して室温で乾燥させると、結果として澄んだ琥珀色の乾燥皮膜が得られる。約2.5μg/mm2のパクリタキセルが堆積する。
【0047】
上記クーポンを、37℃の水1.5ml中に30秒間液浸させる。皮膜は全て水中に溶解し、溶液は全体的に透明な琥珀色であり、実施例1のように濁っていない。
【実施例3】
【0048】
実施例2と同一の処方を行うが、ポビドンヨードの代わりに同じ分子量(40K「ダルトン」)の非ヨウ化PVPを使用する。10インチ/分の浸漬速度でPETクーポンに浸漬被覆(単一浸漬)して室温で乾燥させると、結果として澄んだ無色透明の乾燥皮膜が得られる。約2.5μg/mm2のパクリタキセルが堆積する。
【0049】
このクーポンを、37℃の水1.5ml中に30秒間液浸させる。被覆ポリマーは全て水中に溶解し、溶液は針状結晶の懸濁液を示す。24時間後には、この懸濁液はさらに濁るが、実施例2から得た上記琥珀色の溶液は透明なままである。これは、ポビドンヨードがパクリタキセルの水性溶解度を変化させることを実証するものである。
【実施例4】
【0050】
(米国マサチューセッツ州ウォバーンのLCラボラトリーズ社から市販されている)0.1グラムのラパマイシンを、2−プロパノール中の10%プロピレングリコール溶液0.08グラム及び0.053グラムのアセトン中に40℃で溶解させる。溶液を室温まで冷却し、その後2−プロパノール中のポビドンヨードの20%溶液1.2グラムに加える。この処方したものを、ナイロン12クーポンに浸漬被覆(単一浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを、37℃の水1ml中に1分間液浸させる。皮膜は全て水中に溶解し、溶液は澄んだ琥珀色である。
【実施例5】
【0051】
実施例4と同一の処方を行うが、ポビドンヨードの代わりに非ヨウ化C−30PVPを使用する。この処方したものを、ナイロン12クーポンに浸漬被覆(単一浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを、37℃の水1ml中に1分間液浸させる。皮膜は全て水中に溶解し、溶液は非水溶性ラパマイシンの影響で濁っている。
【実施例6】
【0052】
(米国マサチューセッツ州ウォバーンのLCラボラトリーズ社から市販されている)0.1グラムのエベロリムスを、2−プロパノール中の10%プロピレングリコール溶液0.08グラム及び0.053グラムのアセトン中に40℃で溶解させる。溶液を室温まで冷却し、その後2−プロパノール中のポビドンヨードの20%溶液1.2グラムに加える。この処方したものを、ナイロン12クーポンに浸漬被覆(単一浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを、37℃の水1ml中に1分間液浸させる。皮膜は全て水中に溶解し、溶液は澄んだ琥珀色である。
【実施例7】
【0053】
実施例6と同一の処方を行うが、ポビドンヨードの代わりに非ヨウ化C−30PVPを使用する。この処方したものを、ナイロン12クーポンに浸漬被覆(単一浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを、37℃の水1ml中に1分間液浸させる。皮膜は全て水中に溶解し、溶液は非水溶性エベロリムスの影響で濁っている。
【0054】
600nm及び700nmにおける光散乱実験を行って、(ポビドンヨードを含む)実験2、4及び6の薬剤(パクリタキセル、ラパマイシン及びエベロリムス)及びポリマー溶出水溶液を、(非ヨウ化PVPを含む)実験3、5及び7と比較した。以下の表Iに示す結果では、実験3、5及び7の非ヨウ化PVP溶出水溶液と比較して、実験2、4及び6のポビドンヨード溶出水溶液中のパクリタキセル、ラパマイシン及びエベロリムスの溶解度が全く予想外に高まっている。従って、及び全く予想外ではあるが、この結果は、ヨウ素錯体形成PVPポリマーが生体内の非水溶性治療剤の組織内取り込みを支援できることを示唆している。
表I 光学濃度測定値

【0055】
臨床研究
0.1グラムのパクリタキセルを、アセトン中の0.1グラムのエタノール及び0.18グラムの50%PEG−400に45℃で溶解させた。その後、溶液を室温まで冷却し、2−プロパノール中の20%のポビドンヨード0.55グラムに加えた。結果として得られた被覆溶液は、50%のD/P比、31.8重量パーセントの不揮発性成分を含み、パクリタキセルが不揮発性成分の33.3重量パーセントを示していた。
【0056】
(米国ミネソタ州プリマスのev3インコーポレーテッド社から市販されている)2つの2.0×20オーバーザワイヤバルーンカテーテルを膨張させ、2−プロパノール中で超音波処理により30秒間洗浄した。その後、カテーテルを室温で乾燥させ、アルゴン雰囲気で18秒間プラズマ処理しながら、バルーンを0.17インチ/分で回転させた。このバルーンを、結果として得られた被覆溶液に浸漬し、30rpmで回転させながら水平から30度の角度で取り出した。乾燥すると、バルーン上の乾燥皮膜の量は約1.1〜1.2mgであった。第1のバルーンを0.17インチ/分で取り出した結果、乾燥時にはバルーン表面上に約2.8μg/mm2のパクリタキセル濃度を生じた。第2のバルーンを0.15インチ/分で取り出した結果、乾燥時にはバルーン表面上に約2.4μg/mm2の薬剤濃度を生じた。
【0057】
パクリタキセルの組織内取り込みの有効性を、3匹のニュージーランド白ウサギの生体内で試験した。頚動脈及び大腿動脈を切開により露出して、カテーテルを直接動脈セグメントに挿入し、公称直径まで60秒間膨張させ、その後収縮させて取り外した。処理した動脈セグメントを、収縮後40分で摘出してすぐにドライアイス上に保存した。その後の液体クロマトグラフェイー質量分析計(LC/MS)によるパクリタキセルの分析では、第1のバルーンの組織内平均薬剤濃度が500μgパクリタキセル/グラム組織、及び第2のバルーンでは381μgパクリタキセル/グラム組織であることが示された。両方の例において、組織による平均パクリタキセル取り込み量は、(ドイツ・ベルリンのB.Braun Vascular Sysemsから入手可能な)SeQuent(登録商標)Please製品カタログ番号6050120に示されている、ポリマーを含まない皮膜中に3μg/mm2のパクリタキセル剤を装填したものを利用した収縮後のおおよそ同じ期間(約40分)のブタの冠動脈における約325μgパクリタキセル/グラム組織の組織濃度を報告しているデータよりも大きかった。
【0058】
血管系の疾患
本発明の実施形態を適用できる1つの治療領域に、血管系の管腔疾患の治療がある。一般に、管腔疾患は、先天性(アテローム硬化性、血栓塞栓性)又は医原性(再狭窄)の疾患として分類することができる。これらの管腔疾患としては、以下に限定されるわけではないが、アテローム性動脈硬化症、アテローム病変、不安定プラーク、血栓塞栓性閉塞、血管移植病、動静脈瘻病、動静脈移植病及び再狭窄を挙げることができる。
【0059】
アテローム性動脈硬化症は、炎症、増殖、脂質堆積及び血栓形成の相互作用を伴う血管壁の複合疾患である。アテローム性動脈硬化症は、数年にわたってゆっくりと進行し、臨床的には狭心症として現れる進行性の血管腔閉塞につながり得るアテローム斑の形成を促進する。アテローム斑はまた、白血球細胞(主にマクロファージ)及び脂質(コレステロールを含む)が動脈壁において不安定に集積することによって「不安定プラーク」となり、特に破裂しやすい場合もある。一般に、不安定プラークの破裂は、破裂部位において血餅が急速に形成されることによる血管腔の突然の血栓性閉塞の原因となり、心臓発作又は脳卒中という臨床症状につながると考えられている。不安定プラークは、破裂するまでは血管腔を著しく閉塞することはなく、従ってこれらは前閉塞性病変である。望ましい治療標的は、不安定プラークが破裂する前にこれらを治療することにより血管腔の閉塞を防ぐことであると想定される。具体的には、本発明の実施形態を拡張可能な先端を有するカテーテルに適用して、管腔アテローム性プラーク又は不安定プラークの部位との均一かつ完全な接触とこれらへの治療剤の送達とを可能にすることができる。治療剤の局所送達は、全身送達によって達成できたであろうよりもはるかに高い、標的化した、前記薬剤の局所濃度を可能にすると考えられる。さらに、局所送達の方法は、全身送達では効果を得るのに必要な濃度における生物学的利用能の欠如及び/又は望ましくない又は中毒性の副作用に起因して適応性が悪いものであったはずの治療剤の使用を可能にすると考えられる。
【0060】
再狭窄
本発明の実施形態を適用できる1つの治療領域は、再狭窄のプロセスを抑制することである。再狭窄は、経皮的又は外科的血管介入に対する反応により活性化される炎症及び増殖を伴う複合プロセスの結果である。これらの経皮的又は外科的介入の例として、以下に限定されるわけではないが、血管バイパス移植、動静脈瘻、動静脈移植の血管再生、並びに冠状動脈、大腿動脈及び頚動脈血管の経皮的血管再生を挙げることができる。動脈壁に起因するアテローム斑は流断面積を減少させ、これが下流器官への流れを制限する恐れがある。病変を変位(拡張可能バルーン又はステントなど)又は除去(方向性又は回転性アテローム切除術など)することにより、流断面積を回復させることができる。血管再生後の数ヶ月から数週間内に、動脈壁の平滑筋細胞の局所増殖性により、元々のアテローム斑の部位において流れに対する閉塞物が形成される可能性がある。パクリタキセルは、微小管重合を促進することにより細胞質分裂を抑制する複合タキサン環を含むジテルペン分子である。パクリタキセルは、哺乳類の動脈におけるバルーン血管形成後の平滑筋細胞の増殖及び再狭窄を抑制する。パクリタキセルは、血管再生処置後に保持された埋め込み金属ステントから数日乃至数週間にわたって送達された場合、人における経皮的冠動脈血管再生後の再狭窄を抑制する。パクリタキセルに短時間(20分未満)さらされることにより、持続期間(14日)にわたって平滑筋細胞の増殖を抑制することができる。臨床研究では、薬剤で被覆した拡張可能バルーンからパクリタキセルが短期間(数分)にわたって送達された場合、大腿動脈及び冠状動脈血管再生後の再狭窄も効果的に抑制できることが実証されている。
【0061】
再狭窄は、平滑筋細胞増殖及び炎症プロセスの両方を伴う複合分子プロセスである。デキサメタゾンは、哺乳動物の動脈におけるバルーン血管形成後の炎症及び再狭窄を抑えるグルココルチコイドである。このことは、パクリタキセルなどの抗有糸分裂剤をデキサメタゾンなどの抗炎症剤と組み合わせて、これら2つの治療剤で被覆された拡張可能バルーンから送達することに臨床的利点があり得ることを示唆する。
【0062】
肺疾患
本発明の実施形態を適用できる別の治療領域は、肺及び気道の限局性疾患を治療及び予防するための正常な又は病的な気道の管腔表面である。この実施形態は、通常、標的治療領域へのアクセス及びこの領域の視覚化を容易にするために使用される剛性のある気管支鏡又は可搬性のある気管支鏡の両方とともに使用することができる。
【0063】
一般に、気道領域の新生物の限局性疾患は、良性又は悪性のいずれかとして分類される。原発性新生物は、上皮性、間葉性又はリンパ性腫瘍として分類することができ、20種類よりも多くの気管新生物についての記述がある。
【0064】
カルチノイド腫瘍は、気管気管支樹の腺腫の約85パーセントを示す。腺様嚢胞癌は、最も多い気管の腺腫である。腺様嚢胞癌(又は円柱腫)は、2番目に多い悪性腫瘍であるとともに、2番目に多い原発性気管新生物でもある。
【0065】
従来の肺癌治療は、腫瘍の外科的除去、化学療法、又は放射線療法、並びにこれらの方法の組み合わせによるものである。どの治療が適切であるかについての判断では、腫瘍の局在性及び範囲、並びに患者の全体的健康状態が考慮される。補助療法の例には、全ての腫瘍細胞が死滅したことを確実にするために、腫瘍の外科的除去後に行われる化学療法又は放射線療法がある。
【0066】
具体的な新生物の種類及び性質、並びに診断時間に応じて、新生物は、気道の管腔の物理的閉塞又は管腔内への突起物を示すことがあり又は示さないこともある。機能的な管腔開通性を回復させる方法は、腫瘍をバルーンで変位させることにより管腔開通性を機械的に回復させること、又は腫瘍の大きさを減少させることであり、その後薬剤を局所送達して腫瘍成長及び/又は腫瘍生存を抑制することであると想定される。本発明の実施形態を使用する局所的薬剤送達は、良性又は悪性新生物に対して有効な化学療法剤を管腔の腫瘍の特徴へ送達する効果的な方法となり得る。具体的には、本発明の実施形態をカテーテル又は気管支鏡に適用し、局所的薬剤送達の目標部位に順行的に又は逆行的に進めることができる。本発明の実施形態は、生物活性(治療)剤を正常な又は病的な気道管腔の表面へ局所送達できるようにし、またこの実施形態を単独で、又は外科的除去法、化学療法及び放射線療法と組み合わせて使用できると想定される。治療剤の局所送達は、全身送達によって達成できたであろうよりもはるかに高い、標的化した、前記薬剤の局所濃度を可能にすると考えられる。さらに、局所送達の方法は、全身送達では効果を得るのに必要な濃度における生物学的利用能の欠如及び/又は望ましくない又は中毒性の副作用に起因して適応性が悪いものであったはずの治療剤の使用を可能にすると考えられる。治療剤の標的化した局所送達を使用して、腫瘍の大きさを減少させて外科的除去を容易にすることができ、またこの局所送達により、数多くの不快な副作用を伴う全身化学療法又は放射線療法の必要性を排除し及び/又はこれらの継続時間又は強度を低減させることができる。
【0067】
消化器疾患
本発明の実施形態を適用できる別の治療領域は、以下に限定されるわけではないが、食道、胆道、結腸、及び小腸の良性及び悪性腫瘍を含む消化器疾患である。
【0068】
食道腫瘍は、食道平滑筋又は上皮細胞の異常分裂が原因となる。腫瘍は、良性(平滑筋腫など)又は悪性(扁平上皮癌又は腺癌)のいずれかの場合がある。これらの腫瘍は、管腔内へと成長して食道の機能的断面積を損ない、嚥下障害(異常嚥下)及び結果的に栄養不良を引き起こす恐れがある。
【0069】
機能的な管腔開通性を回復させる方法は、腫瘍をバルーン又は金属拡張器で変位させることにより管腔開通性を機械的に回復させること、又は腫瘍の大きさを減少させること(レーザ切断など)であり、その後治療剤を局所送達して腫瘍成長及び/又は腫瘍生存を抑制することであると想定される。本発明の実施形態を使用する局所的治療剤送達は、良性又は悪性食道腫瘍に対して有効な化学療法剤を管腔の腫瘍の特徴へ送達する効果的な方法となり得る。具体的には、本発明の実施形態をカテーテル又は内視鏡に適用し、局所的薬剤送達の目標部位に順行的に又は逆行的に進めることができる。この態様において有効となり得る化学療法剤としては、以下に限定されるわけではないが、微小管安定剤(パクリタキセル及びエポチロンを含むタキサンなど)、トポイソメラーゼI抑制剤(イリノテカンなど)、プラチナ誘導体(オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチンなど)、アントラサイクリン(ダウノルビシン、エピルビシン)、5−FU、及び標的化した生物学的療法(ベバシズバムなどの抗VEGF抗体など)が挙げられる。この方法の利点は、高用量の効果的な化学療法剤を、全身毒性を伴わずに腫瘍に送達することができ、食物嵌入を防ぐために患者の食事を修正する必要がなく、間接的気管圧迫、ステント移動、及びステント閉塞を含むステント留置による機械的合併症を回避できる点である。カルボプラチン、シスプラチン、エポチロン、及び(抗VEGF抗体ベバシズマブなどの)抗体などの標的蛋白質のような、水のみへの溶解性を示し又は可溶化に水を必要とする上記に示したもののための治療剤を、溶媒の一部又は全てとして水を使用することにより、開示する両親媒性ポリマー皮膜に配合することができる。
【0070】
胆道の悪性腫瘍にも類似の方法を使用することができる。胆管癌は、最も一般的な胆管悪性腫瘍である。この癌は、胆管細胞の異常分裂が原因となる。これらの腫瘍は、肝内又は肝外胆道系の機能的管腔を損ない、胆汁鬱滞及び結果として胆管炎、掻痒症、脂肪吸収不全症、及び食欲不振を引き起こす恐れがある。
【0071】
機能的な管腔開通性を回復させる方法は、腫瘍をバルーン、ブレード又は金属拡張器で変位させることにより管腔開通性を機械的に回復させること、又は腫瘍の大きさを減少させること(レーザ切断など)であり、その後、本発明の実施形態を利用して治療剤を局所送達して腫瘍成長及び/又は腫瘍生存を抑制することであると想定される。この態様において有効となり得る化学療法剤としては、以下に限定されるわけではないが、微小管安定剤(パクリタキセル及びエポチロンを含むタキサンなど)、プラチナ誘導体(オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチンなど)、アントラサイクリン(ダウノルビシン、エピルビシン)、5−FU、DNA架橋剤(マイトマイシンC)、アルキル化ニトロソウレア(ロムスチン)、インターフェロン(インターフェロンα)、及び標的化した生物学的に活性化した薬剤(セツキシマブなどのEFGR抑制剤)が挙げられる。この方法の利点は、高用量の効果的な化学療法剤を、全身毒性を伴わずに腫瘍に送達することができ、ステント移動、及びステント閉塞を含むステント留置による機械的合併症を回避できる点である。
【0072】
食道及び胆道の悪性腫瘍に関して上述したものと類似の方法を、小腸及び結腸の悪性腫瘍に展開することができる。類似の方法を使用して、(炎症性腸疾患を治療するために送達される抗炎症剤などの)治療剤を非悪性消化器疾患に局所送達することもできる。カルボプラチン、シスプラチン、エポチロン、インターフェロン(インターフェロンα)、及び(EGFR抑制剤セツキシマブなどの)抗体などの標的蛋白質のような、水のみへの溶解性を示し又は可溶化に水を必要とする上記に示したもののための治療剤を、溶媒系の一部又は全てとして水を使用することにより、開示する両親媒性ポリマー皮膜に配合することができる。
【0073】
上述の明細書では、本発明の様々な実施形態について説明した。しかしながら、添付の特許請求の範囲に記載する本発明のより広い思想及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正及び変更を行うことができることが明らかであろう。従って、明細書及び図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味で評価すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面を有する拡張可能構造と、
前記拡張可能構造の前記外面上に施され、治療剤と、ヨウ素と錯体形成した両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む両親媒性ポリマー皮膜と、
を含むことを特徴とする医療用使い捨て装置。
【請求項2】
前記両親媒性ポリマー又はコポリマーが、非イオン化熱可塑性物質である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項3】
前記両親媒性ポリマー又はコポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項4】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、分子量が10Kダルトン未満のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、グリセロール、及びセバシン酸ジブチルからなる群から選択された可塑剤をさらに含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項5】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、蜜ろう、カルナバろう、ポリプロピレングリコール、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びPDMS誘導体をからなる群から選択されたワックスをさらに含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項6】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項7】
前記治療剤が、パクリタキセル及び酢酸デキサメタゾンである、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項8】
前記拡張可能構造を覆って伸びることができるとともに前記拡張可能構造から引き込み可能なシースをさらに含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項9】
前記拡張可能構造が、バルーンカテーテルのバルーンである、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項10】
外面を有する拡張可能構造と、
前記拡張可能構造の前記外面上に施され、基本的に少なくとも1つの治療剤と、ヨウ素と錯体形成した少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーとで構成される皮膜と、
を含むことを特徴とする医療用使い捨て装置。
【請求項11】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項10に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項12】
前記皮膜が、ヨウ素と錯体形成した前記少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーの20重量パーセント未満の濃度の可塑剤をさらに含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項13】
前記皮膜が、ヨウ素と錯体形成した前記少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーの1重量パーセント未満の濃度のワックスをさらに含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項14】
前記拡張可能構造が、バルーンカテーテルのバルーンである、
ことを特徴とする請求項10に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項15】
医療用使い捨て装置を被覆する方法であって、
拡張可能部分を有する医療用使い捨て装置を提供するステップと、
前記拡張可能部分の外面上に両親媒性ポリマー皮膜を形成するステップと、
を含み、
前記両親媒性ポリマー皮膜が、治療剤と、ヨウ素と錯体形成した両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、前記外面にわたって実質的に均一である、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、可塑剤及びワックスからなる群から選択された成分をさらに含む、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、前記拡張可能部分を被覆溶液中で浸漬被覆するステップを含む、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、前記被覆溶液中で単一浸漬を利用して形成される、
ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記被覆溶液が、大部分又は全体が非水性の溶媒中に溶解した前記1又はそれ以上の両親媒性ポリマー又はコポリマーと前記治療剤とを含む、
ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記被覆溶液が、5cps〜75cpsの粘度を有する、
ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記拡張可能部分を前記被覆溶液中に浸漬する前に、前記拡張可能部分を拡張させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
治療剤を身体内腔へ送達する方法であって、
治療剤と、ヨウ素と錯体形成した両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む両親媒性ポリマー皮膜を医療用使い捨て装置の拡張可能構造上に施した前記医療用使い捨て装置を提供するステップと、
前記医療用使い捨て装置を身体内腔に導入するステップと、
前記医療用使い捨て装置の前記拡張可能構造を、前記両親媒性ポリマー皮膜が前記身体内腔に接触するように拡張させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記両親媒性ポリマー皮膜の少なくとも90%が、前記拡張の300秒以内に溶解する、
ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記医療用使い捨て装置を身体内腔に導入した後でありかつ前記拡張可能構造を拡張させる前に、前記拡張可能構造上からシースを後退させるステップを含む、
ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項28】
外面を有する拡張可能構造と、
前記拡張可能構造の前記外面上に施され、治療剤と、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)からなる群から選択された両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む両親媒性ポリマー皮膜と、
を含むことを特徴とする医療用使い捨て装置。
【請求項29】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項28に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項30】
前記拡張可能構造を覆って伸びることができるとともに前記拡張可能構造から引き込み可能なシースをさらに含む、
ことを特徴とする請求項28に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項31】
医療用使い捨て装置を被覆する方法であって、
拡張可能部分を有する医療用使い捨て装置を提供するステップと、
前記拡張可能部分の外面上に両親媒性ポリマー皮膜を形成するステップと、
を含み、
前記両親媒性ポリマー皮膜が、治療剤と、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)からなる群から選択された両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項32】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、単一浸漬を利用して前記拡張可能部分を被覆溶液中に浸漬被覆するステップを含む、
ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、前記外面にわたって実質的に均一であり、前記被覆溶液が、5cps〜75cpsの粘度を有する、
ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項35】
治療剤を身体内腔へ送達する方法であって、
治療剤と、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸モノエチルエステル)からなる群から選択された両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む両親媒性ポリマー皮膜を医療用使い捨て装置の拡張可能構造上に施した前記医療用使い捨て装置を提供するステップと、
前記医療用使い捨て装置を身体内腔に導入するステップと、
前記医療用使い捨て装置の前記拡張可能構造を、前記両親媒性ポリマー皮膜が前記身体内腔に接触するように拡張させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記両親媒性ポリマー皮膜の少なくとも90%が、前記拡張の300秒以内に溶解する、
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記医療用使い捨て装置を身体内腔に導入した後でありかつ前記拡張可能構造を拡張させる前に、前記拡張可能構造上からシースを後退させるステップを含む、
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項39】
外面を有する拡張可能構造と、
治療剤と、ヨウ素と錯体形成した両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む、前記拡張可能構造の前記外面上に施された両親媒性ポリマー皮膜と、
を含み、前記ヨウ素が、該ヨウ素と錯体形成した前記両親媒性ポリマー又はコポリマーの1〜30%の重量比で皮膜中に存在する、
ことを特徴とする医療用使い捨て装置。
【請求項40】
前記治療剤が、前記外面上に約0.1〜10.0μg/mm2の濃度で存在する、
ことを特徴とする請求項39に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項41】
前記両親媒性ポリマー皮膜が、25〜100%の治療剤対ポリマーマトリクス重量比を有する、
ことを特徴とする請求項39に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項42】
前記ポリマーマトリクスが、可塑剤と、前記ヨウ素と錯体形成した前記両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含む、
ことを特徴とする請求項39に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項43】
前記両親媒性ポリマー又はコポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項39に記載の医療用使い捨て装置。
【請求項44】
医療用使い捨て装置上の皮膜であって、
ヨウ素と錯体形成した第1の両親媒性ポリマーと、
第2の両親媒性ポリマーと、
薬剤と、
を含み、
前記ヨウ素が、該ヨウ素と錯体形成した前記第1の両親媒性ポリマーの1〜30%の重量比で前記皮膜中に存在する、
ことを特徴とする皮膜。
【請求項45】
前記第1の両親媒性ポリマーが、前記第1及び第2の両親媒性ポリマーの総重量の25〜100重量パーセントを構成する、
ことを特徴とする請求項44に記載の皮膜。
【請求項46】
前記ヨウ素と錯体形成した前記第1の両親媒性ポリマーがPVPである、
ことを特徴とする請求項44に記載の皮膜。
【請求項47】
前記第2の両親媒性ポリマーがヨウ素と錯体形成していない、
ことを特徴とする請求項46に記載の皮膜。
【請求項48】
医療用使い捨て装置を被覆する方法であって、
非水溶性薬剤と、第1の低級アルコールと、アセトンとを含む第1の溶液を調製するステップと、
第2の低級アルコールと、ヨウ素と、両親媒性ポリマーとを含む第2の溶液を調製するステップと、
前記第1及び第2の溶液を混合して被覆溶液を形成するステップと、
医療用使い捨て装置の拡張可能構造を前記被覆溶液中に浸漬被覆するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項49】
前記第2の溶液を調製するステップが、前記ヨウ素を前記第2の低級アルコール中に溶解させるステップと、その後前記両親媒性ポリマーを加えるステップとを含む、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記第2の溶液を、前記両親媒性ポリマーが溶解するまで攪拌及び加熱するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記第1の低級アルコールがエタノールを含む、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記第2の低級アルコールが2−プロパノールを含む、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記薬剤対両親媒性ポリマー重量比が25〜100%である、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項54】
前記薬剤がパクリタキセルである、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項55】
前記浸漬被覆するステップの前に、前記医療用使い捨て装置の前記拡張可能構造をアルゴンプラズマ中で処理するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項56】
前記両親媒性ポリマーがPVPである、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項57】
前記両親媒性ポリマーがHPCである、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項58】
前記浸漬被覆するステップが、前記医療用使い捨て装置の前記拡張可能構造を前記被覆溶液から0.05〜0.4インチ/分の速度で取り出すステップを含む、
ことを特徴とする請求項48に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公表番号】特表2012−502690(P2012−502690A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527028(P2011−527028)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/056842
【国際公開番号】WO2010/030995
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511138032)シーヴィー インジェニュイティ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】