説明

水溶性重合体、その製造方法及びその用途

【課題】再汚染防止能や重金属イオンキレート能等の優れた特性を有するとともに、粘度の経時変化が抑制されて保存安定性にも優れ、各種用途において有用な水溶性重合体、その製造方法及びその用途を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造単位を有する水溶性重合体であって、該水溶性重合体は、H−NMR測定における下記式;5〜7ppmのピークの積分値×100/3.0〜3.8ppmのピーク積分値により算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下である水溶性重合体。


式中、Rは、水素原子又はメチル基。Rは、水素原子、メチル基、−CHCOOM又は−CHOH。Rは、2価の基。Xは、−NH−、−NR−又は−S−。Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性重合体、その製造方法及びその用途に関する。より詳しくは、各種用途に有用なカルボキシル基、アミノ基等の水溶性を発現する基を含有する水溶性重合体、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基、アミノ基等を有する重合体は、これらの基に起因して水溶性となり、種々の特性を発揮することになる。このような水溶性重合体の用途としては、例えば、洗剤組成物、繊維処理剤、分散剤、凝集剤、スケール防止剤、キレート剤、漂白助剤、pH調整剤、水処理剤、過酸化物安定剤等を挙げることができる。特に洗剤組成物や繊維処理剤の用途においては、カルシウムイオン捕捉能、クレー(泥粒子)分散能、鉄、銅等の重金属イオン捕捉能、鉄イオン沈着防止能、銅イオン過酸化水素安定化能等の性質を有することが求められていることから、これらの特質を向上することができる水溶性重合体が求められることになる。水溶性共重合体が用いられるその他の技術分野においても、処理能力等の基本性能の向上が求められている。
【0003】
従来の水溶性重合体としては、主鎖にアミド結合と、カルボキシル基を有する特定の構造単位を有し、重量平均分子量が500〜100000である、水溶性重合体(例えば、特許文献1参照。)、及び、アミン価3.0mmol/g以上である、水溶性重合体(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。これらの水溶性重合体としては、無水マレイン酸とポリアルキレンポリアミン等より誘導されるアミドモノマー、及び、これをマイケル付加重合することによる水溶性重合体が好ましい例として記載されている。
これらの水溶性重合体は、例えば洗剤組成物や繊維処理剤、水処理剤として用いた場合に再汚染防止能や重金属イオンキレート能等の性能に優れ、水溶性重合体が用いられる種々の分野において優れた特性を発揮することが可能であるものであるが、製品の保存中において、ハンドリング性能を向上し、保存安定性を優れたものとする点で工夫の余地があった。すなわち、再汚染防止能や重金属イオンキレート能等の優れた特性を有する水溶性重合体において、保存安定性を向上することができれば、種々の有用な用途において性能面及び品質面の両面で優れたものとすることができることから、そのような水溶性重合体が求められることになる。
【特許文献1】特開2000−319385号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開2003−292617号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、再汚染防止能や重金属イオンキレート能等の優れた特性を有するとともに、保存安定性にも優れ、各種用途において有用な水溶性重合体、その製造方法及びその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、洗剤組成物や繊維処理剤、水処理剤等の種々の用途に用いることができる水溶性重合体について種々検討したところ、主鎖にアミド結合と、カルボキシル基を有する特定の構造単位を有する水溶性重合体が両性ポリマーとしての性質を有して再汚染防止能や重金属イオンキレート能等の優れた特性を発揮することができることに着目した。該水溶性重合体は、例えばアミドモノマーをマイケル付加重合して製造することができるものである。そして、水溶性重合体に残存する炭素−炭素二重結合量を特定値以下とすると、ポリマー末端等に残存する未反応の炭素−炭素二重結合が充分に低減されることになり、保存中に徐々に進行するマイケル付加反応が充分に抑制されるため、ポリマーの分子量の経時的な増加が充分に抑制されることを見いだした。また、分子量の経時変化が充分に抑制されることに起因して粘度等が変化することなく、ポリマーの性能が保たれることになり、長期間保存してもハンドリングが容易なものとできることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、洗浄剤、水処理剤又は分散剤等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0006】
従来の水溶性重合体においては、製品の保存中に粘度が経時的に変化し、粘度上昇が生じるという現象が起こり、いわゆる保存安定性を向上維持することができるようにするという改良点を有していた。保存安定性は、洗剤組成物等の製品にとって、重要な製品品質の一つである。本発明では、粘度の経時変化を抑制することにより、保存安定性にも優れた水溶性重合体とすることができることを見いだした。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有する水溶性重合体であって、上記水溶性重合体は、H−NMR測定における下記式;
【0008】
【数1】

【0009】
により算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下である水溶性重合体である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基、−CHCOOM又は−CHOHを表す。Rは、同一若しくは異なって、炭素数2〜16までの2価の基を表す。Xは、同一若しくは異なって、−NH−、−NR−又は−S−を表す。Rは、同一若しくは異なって、メチル基、エチル基、−CHCOOM又は−CHCHOHを表す。Mは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。
【0013】
本発明はまた、上記水溶性重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を重合中又は重合後に反応させる工程を含んでなる水溶性重合体の製造方法でもある。
本発明は更に、上記水溶性重合体を含む洗浄剤、水処理剤又は分散剤でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明の水溶性重合体は、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有するものである。上記一般式(1)及び(2)において、Rとしては、同一若しくは異なって、下記一般式(3)〜(8);
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、pは、2〜6の整数である。qは、1〜6の整数である。rは、1〜4の整数である。Mは、同一若しくは異なって、上記一般式(1)中のMと同様である。)からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。なお、Rが上記一般式(3)である場合は、pが2〜6であるため、Rは炭素数2〜16を満たすことになる。
上記一般式(5)中、Rは、同一若しくは異なって、下記一般式(9)又は(10);
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Mは、同一若しくは異なって、上記一般式(1)中のMと同様である。)であることが好ましい。
【0019】
上記一般式(1)において、R及びRの少なくとも一方が、水素原子であることが好ましい。これらの中でも、(i)R及びRが水素原子であり、Rが炭素数2〜10までの2価の基であり、−X−が−NH−である構成単位を有する水溶性重合体、(ii)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−(CHCHNH)−である構成単位を有する水溶性重合体(nは、1〜7の整数を表す。)、(iii)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−(CH−NH−である構成単位を有する水溶性重合体(mは、2〜6の整数を表す。)、(iv)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−CHCHN(CHCHNH)CHCHNH−である構成単位を有する水溶性重合体、(v)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−CH(COOM)(CHNH−である構成単位を有する水溶性重合体、(vi)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−CH(COOM)CHS−である構成単位を有する水溶性重合体、(vii)R及びRが水素原子であり、−R−X−が−CHCHS−である構成単位を有する水溶性重合体がより好ましい。
【0020】
上記(i)〜(vii)の中でも、(i)の形態が更に好ましい。このように、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有する水溶性重合体であって、該水溶性重合体は、H−NMR測定における上記式により算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下である水溶性重合体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
この形態においては、上記式中、R及びRは、水素原子を表す。Rは、同一若しくは異なって、炭素数2〜10までの2価の基を表す。Xは、−NH−を表す。Mは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。
なお、上記(ii)においては、nが1である−CHCHNH−を構成単位として有する水溶性重合体、nが3である−R−X−が−(CHCHNH)−を構成単位として有する水溶性重合体が好適である。
【0021】
上記水溶性重合体は、上記一般式(1)及び(2)で表される構造単位の両方を有するものであってもよく、片方のみを有するものであってもよい。水溶性重合体が上記構造単位の両方を有する場合、構造単位の割合としては、上記一般式(1)で表される構造単位/上記一般式(2)で表される構造単位が、99/1〜1/99であることが好ましい。
【0022】
本発明の水溶性重合体構造は、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を必須として含むものである限り、その他の成分を含んでいてもよい。
上記その他の成分としては、一般式(11)及び(12)において−COOMを有しないアミド系単量体等が挙げられる。
上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位の割合は、水溶性重合体中、モル比で80〜100%であり、好ましくは、モル比で90〜100%であり、さらに好ましくは、モル比で100%である。
【0023】
上記水溶性重合体の重量平均分子量は、500〜100000であることが好ましい。より好ましくは、500〜50000、さらに好ましくは、500〜20000、特に好ましくは、1000〜20000、最も好ましくは、1400〜15000である。
上記水溶性重合体の粘度としては、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、1000mPa・s以下が更に好ましい。
【0024】
本発明の水溶性重合体は、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有するものであって、H−NMR測定により上記式(1)を用いて算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下のものである。炭素−炭素二重結合量を2%以下とすることで、水溶性重合体に存在する重合体の二重結合が、重合体に含まれる(特に末端の)アミノ基にさらに付加反応したり、重合体間の二重結合同士が反応したりすることを充分に減少させることができ、これらの反応により水溶性重合体の分子量が増加することを充分に抑制することができることから、水溶性重合体の経時的な粘度の上昇を抑制することができ、水溶性重合体を長期に渡って安定に保存することができる。
【0025】
上記水溶性重合体の炭素−炭素二重結合量としてより好ましくは、1%以下であり、更に好ましくは、0.5%以下であり、最も好ましくは、実質的に含まないことである。
上記式(1)中、炭素−炭素二重結合を有する炭素原子に結合した水素原子が5〜7ppmのピークに帰属され、カルボニル基に隣接する炭素に結合した水素原子が3.0〜3.8ppmのピークに帰属される。従って、本発明においては、上記ピークを積分して得られる値を、それぞれ、炭素−炭素二重結合量及び炭素−炭素原子一重結合量の指標とする。
なお、R及びRが共に水素原子でない場合は、上記炭素−炭素二重結合量は、臭素付加法により分析することができる。
【0026】
上記炭素−炭素二重結合量の測定は、以下のH−NMR測定条件にて行った。
装置:Varian社製 UNITY plus−400
溶媒:重水
内部標準物質:3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)(DSSを重水に0.1%の割合で添加)
45°パルスを用い、パルス遅延時間20秒、積算回数16回、温度室温で測定を行った。
【0027】
本発明はまた、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有する水溶性重合体であって、該水溶性重合体は、アミド系単量体を含む単量体成分を重合して得られるものであり、該アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量が、2%以下である水溶性重合体でもある。このような水溶性重合体の形態もまた、本発明の一つである。
また上記アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量が2%以下である形態は、上述したH−NMR測定において求められる炭素−炭素二重結合量が2%以下である水溶性重合体の好適な形態でもある。すなわち、H−NMR測定において求められる炭素−炭素二重結合量が2%以下である形態と、上記アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量が2%以下である形態とを組み合わせることによって、H−NMR測定において求められる炭素−炭素二重結合量をアミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量とし、これを2%以下とした水溶性重合体とすることが本発明の好ましい形態である。
【0028】
上記アミド系単量体は、α,β−不飽和カルボニル基とアミド基とを有し、マイケル付加することができる化合物であればよく、好ましい形態としては、下記一般式(11)及び(12)で表される化合物である。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
式中、R〜R、X及びMは、同一若しくは異なって、上記一般式(1)〜(10)中のR〜R、X及びMと同様である。また、これらのR〜R、X及びMの好適な例としては、上述と同様である。
【0032】
上記水溶性重合体において、α,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量が、2%以下であるとは、アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の水溶性重合体中に残存する炭素−炭素二重結合量が、炭素−炭素シングルボンドとなったものに対し、2%以下であることを意味する。言い換えれば、アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基由来の水溶性重合体中に残存する炭素−炭素二重結合量(モル)を、アミド系単量体のα,β−不飽和カルボニル基の炭素−炭素二重結合が炭素−炭素結合(シングルボンド)になったものの量(モル)で割って求めた値を百分率で表した数値が2%以下であることを意味する。
【0033】
アミド系単量体からマイケル付加重合によって水溶性重合体の調製する場合、アミド系単量体が重合するにしたがってα,β−不飽和カルボニル基の炭素−炭素二重結合が炭素−炭素結合(シングルボンド)になって当該単量体が重合体の構成単位を構成することになるが、重合体の末端等にα,β−不飽和カルボニル基の炭素−炭素二重結合が残存することになる。このような炭素−炭素二重結合が水溶性重合体中に残存していると、α,β−不飽和カルボニル基とそれに付加することができる部位とが存在することから、重合体を製品として保存しているときにも、徐々にマイケル付加が進行し、経時的に重合体の分子量が増加し、粘度上昇によるハンドリング性の低下が生じ、また水溶性重合体の特性に影響を与える可能性がある。
【0034】
本発明の上記実施形態においては、α,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量を2%以下とすることにより、再汚染防止能や鉄イオン沈着防止能、銅イオン過酸化水素安定化能、重金属イオンキレート能等の優れた特性を有するとともに、粘度の経時変化が抑制されて、製品の保存中におけるハンドリング性能が向上され、保存安定性にも優れるものとすることができ、洗剤組成物や繊維処理剤、水処理剤、過酸化物安定剤等の各種用途において有用な水溶性重合体とすることができる。すなわち、重合後に残存する重合体の二重結合が、重合体に含まれる(特に末端の)アミノ基にさらに付加反応することや、重合体間の二重結合同士が反応することで分子量が増加することをつきとめ、この二重結合と反応性の高い化合物(具体例については、後述する)と反応させて、重合体中の二重結合の割合を一定(2%)以下にすることで、重合体の経時変化を抑制できることを見いだした。
上記α,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合量の好適な範囲としては、2%以下であることが好ましい。より好ましくは、1%以下であり、更に好ましくは、0.5%以下であり、最も好ましくは、実質的に含まないことである。
【0035】
上記水溶性重合体の炭素−炭素二重結合量は、H−NMR測定や、場合によってはその他の方法を用いて算出することができる。H−NMR測定においては、炭素−炭素シングルボンド由来のシグナルと、α,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合由来のシグナルとから求めることになるが、これらのシグナルに、その他の官能基等に由来するシグナルが重なっている場合は、そのシグナルに由来する積分値を差し引いて求めることになる。
【0036】
上記水溶性重合体は、重合体主鎖に結合したカルボキシル基及び重合体主鎖にアミド基を有し、さらにアミノ基、チオエーテル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するものとできる。このため、カルシウムイオンや重金属イオンの捕捉に有効に働き、鉄イオン沈着防止能、クレー分散能、銅イオン過酸化水素安定化能のいずれに対しても優れた能力を有し、布等に対する吸着性を向上させることができ、各種用途において優れた性能を発現することができる。
【0037】
上記水溶性重合体のアミン価、クレー分散能、鉄イオン沈着防止能、銅イオン過酸化水素安定化能及びカルシウムイオン捕捉能としては、以下の範囲のものであることが好ましい。このような範囲とすることで、水溶性重合体の機能が充分に発揮されることになり、洗浄剤、水処理剤又は分散剤等の各種用途において、有効に用いられることができる。上記水溶性重合体のアミン価は、3.0mmol/g以上であることが好ましい。このように、上記水溶性重合体は、アミン価が3.0mmol/g以上である水溶性重合体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。より好ましくは、4.0mmol/g以上であり、さらに好ましくは、5.0mmol/g以上である。
上記水溶性重合体のクレー分散能は、20%以上であることが好ましい。クレー分散能が20%未満であると、特に洗浄剤として用いた場合に、洗浄効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは、30%以上であり、さらに好ましくは、40%以上である。
【0038】
上記水溶性重合体の鉄イオン沈着防止能は、30%以上であることが好ましい。鉄イオン沈着防止能が30%未満であると、洗浄剤として用いた場合に、洗浄効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは、40%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。上記水溶性重合体の銅イオン過酸化水素安定化能は、20%以上であることが好ましい。より好ましくは、30%以上であり、さらに好ましくは、45%以上であり、特に好ましくは、60%以上である。上記水溶性重合体のカルシウムイオン捕捉能は、20mgCaCO/g以上であることが好ましい。カルシウムイオン捕捉能が20mgCaCO/g未満であると、洗浄剤として用いた場合に、洗浄効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは、25mgCaCO/g以上であり、さらに好ましくは、30mgCaCO/g以上である。
上記水溶性重合体のアミン価、クレー分散能、鉄イオン沈着防止能、銅イオン過酸化水素安定化能及びカルシウムイオン捕捉能の指標(設定範囲)において、上記範囲内であれば、水溶性重合体の有する機能を充分に発揮し得ることになるが、これらの各種指標の好ましい範囲を組み合わせて満たすような水溶性重合体とすることが好ましい。
【0039】
本発明はまた、上記水溶性重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を重合中又は重合後に反応させる工程を含んでなる水溶性重合体の製造方法でもある。
上記水溶性重合体を製造する方法としては、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を重合中又は重合後に反応させる工程を含むものであって、本発明の作用効果を発揮する水溶性重合体を得る方法である限り特に限定されないが、下記方法により水溶性重合体を得るものであることが好ましい。
【0040】
上記水溶性重合体を製造する方法としては、(1)上記アミド系単量体をアミド化反応等により得る工程、(2)上記アミド系単量体をマイケル付加重合する工程、(3)マイケル付加重合中又は重合後、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を反応させる工程を含むものであることが好ましい。
上記(1)の工程としては、上記一般式(11)及び(12)で表されるアミド系単量体は、例えば、酸無水物やエステルとアミン化合物とのアミド化反応により得ることが好適である。
上記酸無水物としては、下記一般式(13);
【0041】
【化7】

【0042】
(式中、R及びRは、上記一般式(1)中のR及びRに同じ。)で表される酸無水物を好適に用いることができる。これらの中でも、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物が好ましい。特に好ましいのは、無水マレイン酸である。
上記エステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸類が好適である。
上記アミン化合物としては、下記一般式(14);
【0043】
【化8】

【0044】
(式中、R及びXは、上記一般式(1)中のR及びXに同じ。)で表されるアミン化合物が好ましい。上記アミン化合物としてより好ましくは、Xが−NH−又はNR−の場合は、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、リジン、アルギニン、シスチン等であり、Xが−S−の場合は、システイン、システアミン、アミノエチルメルカプトエチルエチルアミン等である。更に好ましくは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンである。
【0045】
上記アミド化反応としては、(i)水系溶媒中(好ましくは水中)のアミン化合物に酸無水物(固体状であるものは好ましくは粉末状にしたもの)を、攪拌下、徐々に添加してアミド化させる方法、(ii)トルエン、キシレン等不活性有機溶剤中で、酸無水物とアミン化合物又は酸無水物の加水分解物とアミン化合物を従来公知の方法でアミド化させる方法、(iii)トルエン、キシレン等不活性有機溶剤中で、酸無水物のモノエステルとアミン化合物とを従来公知のエステルアミド交換反応によりアミド化させる方法等を好適に用いることができる。これらの中でも、(i)の方法が好ましい。(i)の方法によると、水系溶媒で合成することができるため、有機溶剤を用いる場合に必要な除去工程等が不要であり、高濃度での合成も可能であるので、経済的にも優れたものとできる。また、次工程の重合を水系溶媒(好ましくは水)で行う場合において好ましく、安全性、環境面からも優れた方法である。
【0046】
上記(i)の方法で用いる溶媒としては、水又は水系溶媒であることが好ましい。このような水系溶媒としては、アミンの溶解性を向上させるために、水と混合できる有機溶媒を10%以下の量で適宜加えた水系溶媒であることが好適である。上記水と混合できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;等であり、これらは、1種類又は2種類以上を適宜選択して用いることができる。
上記アミド化反応の反応温度は、50℃以下が好ましい。50℃を越えると、アミド化反応よりも酸無水物の単なる加水分解反応が進行してしまうおそれがある。より好ましくは、40℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。また、アミド化反応においては、酸無水物を10分以上に渡って実質上連続添加し、酸無水物をすべて添加後、さらに10分以上熟成させるのが好ましい。
【0047】
上記アミド化反応においては、反応が進むにつれて酸が生成し、アミン化合物が中和されて反応速度が低下することがある。このような場合には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物等の塩基性化合物を、中和されているアミンに相当する量を添加することが好適である。
【0048】
本発明の水溶性重合体の好ましい製造方法において、上記(2)の工程としては、上記一般式(11)及び/又は(12)で表されるアミド系単量体を含む単量体成分をマイケル付加重合する方法であることが好ましい。中でも、無水マレイン酸とポリアルキレンポリアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等)より合成されるアミドモノマーをマイケル付加重合することが好ましい。また、得られる両性ポリマーであって、炭素−炭素二重結合量が一定量以下であるポリマーは、本発明の好ましい水溶性重合体の一つである。
【0049】
上記アミド系単量体の分子量は、100〜1000であることが好ましく、150〜800であることがより好ましく、180〜500であることがさらに好ましい。
上記単量体成分としては、必要に応じて他の単量体を含んでいてもよい。上記他の単量体としては、上記一般式(11)及び(12)で表されるアミド系単量体とマイケル付加重合が可能な単量体であれば、特に制限はないが、例えば、上記一般式(11)及び(12)において、−COOMを有しないアミド系単量体等が挙げられる。
上記他の単量体を用いる場合、他の単量体の使用量としては、単量体成分100モル%に対して20モル%未満とすることが好ましく、10モル%未満とすることがより好ましい。
なお、上記水溶性重合体の製造方法においては、上記アミド化反応によってアミド系単量体を得た後、得られたアミド系単量体を一旦単離してマイケル付加重合に供してもよく、アミド化反応後、引き続きマイケル付加重合を行ってもよい。
【0050】
本発明でマイケル付加重合を行うための重合方法としては、溶液重合が好ましく、この場合、攪拌下、静置下の何れでもよい。上記溶液重合を行う際の溶媒は、上記アミド化反応において例示した水系溶媒を好適に用いることができる。上記溶液重合を行う際の触媒は基本的に不要であるが、必要に応じて重合に悪影響を及ぼさないものを適宜使用することができる。
上記溶液重合を行う際の単量体濃度は特に限定されないが、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上である。また、重合溶液のpHも特に限定されず、単量体の溶解性にもより適宜設定することができる。マイケル付加重合では一般的にpHが高い方が重合性が高いため、好ましくは7以上であり、より好ましくは10以上である。
上記溶液重合を行う際の重合温度は、20〜100℃が好ましく、アミド結合の開裂を防ぐため80℃以下であることがより好ましい。重合時間は特に限定されず、重合圧力は、常圧(大気圧)、加圧、減圧の何れでもよい。
【0051】
本発明の水溶性重合体の好ましい製造方法において、上記(3)の工程としては、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を重合中又は重合後に反応させる工程であることが好ましい。炭素−炭素二重結合に特定の化合物を付加することで、水溶性重合体の炭素−炭素二重結合量を充分に低下させることができ、マイケル付加反応が生じる要因が減少するため、分子量の増加が抑えられ、粘度の上昇や性能劣化が充分に抑制された経時安定性に優れる水溶性重合体を得ることができる。
上記炭素−炭素二重結合を付加する反応としては、アミド系単量体を含む単量体成分の重合中又は重合後に行うことができる。
上記付加反応の反応条件としては、特に制限されないが、室温〜約80℃の温度で10分〜24時間行うことが好ましい。
【0052】
上記炭素−炭素二重結合に付加する化合物は、アミン類、チオール類、亜硫酸塩類及び重亜硫酸塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種のものであることが好ましい。
上記アミン類としては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エタノールアミンが好適である。上記チオール類としては、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸及びその塩及びエステルが好ましい。上記亜硫酸塩類としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムが好適である。上記重亜硫酸塩類としては、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)、亜硫酸水素カリウムが好適である。
上記炭素−炭素二重結合に付加する化合物としては、これらの中でも、SBSが好ましい。
上記(3)の工程としては、上記アミドモノマーをマイケル付加重合して得られる両性ポリマーに重亜硫酸塩、チオール、アミン等を反応させる工程であることが好ましく、この工程を含む炭素−炭素二重結合量が一定量以下であるポリマーの製造方法は、本発明の製造方法として好適に用いることができる。
【0053】
上記炭素−炭素二重結合に付加する方法としては、上記に限定されず、例えば、特開平10−212302号公報に記載のミハエル付加反応、特開平5−78412号公報又は特開2001−200011に記載の(a)界面活性剤、及び、(b)ビニル炭素−炭素結合を超えて付加することのできる化合物の混合物を加えることを含む方法であってもよい。
上記ミハエル付加反応においては、1種以上の単−及び/又は多官能価求核化合物を反応させるものであり、求核化合物としてSH基を有する化合物が好適であり、例えば、メルカプトエタノール、1,2−ビス−(2−メルカプトエトキシ)−エタン、及び、これらの混合物、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ペンタエリトリット−テトラキス−(2−メルカプト−アセテート)、及び、これらの混合物が好ましい。
【0054】
上記(a)界面活性剤としては、メトキシ末端エチレンオキシド、シロキサンの付加物、C12−C14脂肪アルコールの4〜24モルエチレンオキシド付加物、10〜30個の炭素原子を含む脂肪酸スルフェートのアルカリ金属塩、グリコールもしくはグリセリンのエチレンオキシド/プロピレンオキシド付加物、又はこれらの混合物、フェノールもしくは置換フェノール又はエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドのオリゴマーのエチレンオキシド付加物、10〜30個の炭素原子を含む脂肪酸もしくは脂肪酸の塩、10〜30個の炭素原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩、ステアリン酸及び/又はラウリン酸のナトリウムもしくはカリウム塩からなる群より選ばれる単一の界面活性剤又は界面活性剤の混合物が好適である。
【0055】
上記(b)ビニル炭素−炭素結合を超えて付加することのできる化合物としては、a.亜硫酸アルカリ金属塩b.亜硫酸水素アルカリ金属塩c.アルキルもしくはアリール又は置換アルキルもしくはアリールスルフィン酸、又はその塩d.チオ硫酸のアルカリ金属塩e.次亜リン酸及びその塩f.硫黄含有アミノ酸及びその塩及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0056】
本発明はまた、上記水溶性重合体を含む洗浄剤、水処理剤又は分散剤でもある。
本発明の水溶性重合体は、種々の用途に用いることができるものであり、より具体的には、有機キレート剤、スケール防止剤、凝集剤、洗剤用ビルダー、漂白助剤、マスキング剤、繊維処理剤、紙・パルプ用添加剤、半導体洗浄剤、写真薬剤、土壌改質剤、pH調整剤、洗浄用、添加剤、スキンケア剤等として用いることができるものである。例えば、各種洗浄用途において、車、風呂、衣料用、食器用、身体用、歯磨用に用いることができ、ガラス、プラスチックや金属等の硬質表面に付着した汚れを洗浄、除去するのに好適に用いられるものである。洗浄方法としては、浸漬洗浄、噴射洗浄、循環洗浄、ブラシ洗浄、スプレー洗浄等の方法を用いることができる。
【0057】
本発明の洗浄剤、水処理剤又は分散剤は、上記水溶性重合体を必須として含むものであればよく、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。上記洗浄剤、水処理剤又は分散剤中の水溶性重合体の配合量は、0.1〜20重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜15重量%である。上記界面活性剤の配合量は5〜70重量%であるのが好ましい。さらに好ましくは、20〜60重量%である。上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤及びカチオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを好ましく使用することができる。
【0058】
上記アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩、アルキル又はアルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸又はエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキル又はアルケニルリン酸エステル又はその塩が好ましい。
上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイドが好ましい。
上記両性界面活性剤としては、カルボキシ型又はスルホベタイン型両性界面活性剤を挙げることができ、カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0059】
上記洗浄剤等は、必要に応じて、酵素を含有していてもよい。酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を使用することができる。特に、アルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼ及びアルカリセルラーゼが好ましい。酵素の配合量は、0.01〜5重量%が好ましい。この範囲を外れると、界面活性剤とのバランスがくずれ、洗浄力を向上させることができない。また、必要に応じて、公知のアルカリビルダー、キレートビルダー、再付着防止剤、蛍光剤、漂白剤、香料等の洗浄剤に常用される成分やゼオライトを含有していてもよい。アルカリビルダーとしては、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩等を用いることができる。キレートビルダーとしては、ジグリコール酸、オキシカルボン酸塩、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、クエン酸等を必要に応じて使用することができる。
【0060】
本発明の洗浄剤等は、再汚染防止能に優れると同時に、洗浄液中に存在する鉄イオン等の重金属イオンの捕捉能、及びクレー分散能にも優れることから、例えば衣料用の洗剤として非常に有効である。また、本発明の洗浄剤は、粉末洗剤用として用いることもできるし、液体洗剤用あるいはジェル状洗剤用として用いることもできる。
【0061】
本発明は更に、上記水溶性重合体を保存及び/又は輸送する方法であって、該保存及び/又は輸送する方法は、濃度が30〜70質量%、温度が0〜50℃で行う保存及び/又は輸送方法でもある。本発明の水溶性重合体は、このような濃度及び温度で好適に保存及び/又は輸送することができるため、洗浄剤、水処理剤又は分散剤等種々の用途に好適に用いることができる。
上記濃度としては、30〜70質量%で行うことである。30質量%より低いと輸送が大量となり、70質量%より高いと粘度が高くなり、水溶液の扱いが煩雑になるおそれがある。好ましくは、35〜65質量%であり、より好ましくは、40〜60質量%である。
上記温度としては、0〜50℃で行うことである。0℃より低いと、水溶液が凍結するおそれがあり、50℃より高いと、ポリマーが分解するおそれがある。好ましくは、10〜45℃であり、より好ましくは、15〜40℃である。
【発明の効果】
【0062】
本発明の水溶性重合体は、上述の構成よりなり、各種用途に有用な水溶性重合体であって、ポリマーの安定性を充分なものとすることができる水溶性重合体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0064】
実施例で得られたポリマーの重量平均分子量は、以下のようにして測定した。
<重量平均分子量>
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により測定した。
装置:日立社製L−7000シリーズ
検出器:RI
カラム:SHODEX社製 SB−G+SB−804HQ+SB−803HQ+SB−802.5HQ
カラム温度:40℃
検量線:ジーエルサイエンス社製「POLYETHYLENE OXIDE STANDARD」
GPCソフト:日本分光社製「BORWIN」
溶離液:0.5M酢酸+0.5M酢酸ナトリウム
流速:0.8ml/分
【0065】
実施例1及び比較例1
還流冷却器、攪拌機を備えた容量0.5リットルのガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水118gを仕込み、エチレンジアミン60gを添加した。その後攪拌下、氷冷により15℃以下に保ちながら、乳鉢にて粉砕した無水マレイン酸98gを徐々に添加した。添加終了後、30分以上反応させた後、48%水酸化ナトリウム水溶液84gを徐々に添加して中和し、マレイン酸−エチレンジアミンアミドモノマーの水溶液を得た。この水溶液を80℃で4時間攪拌することにより固形分50%、最終中和度100%の水溶性重合体1を得た。次にこの重合体水溶液を容量50ミリリットルのガラス製ねじ口ビンに40gずつ小分けし、これに35%亜硫酸水素ナトリウム(SBS)水溶液を0.57g、1.71g及び2.86g(重合体1に対して1、3及び5質量%)添加し、室温下、マグネチックスターラーで攪拌して、残存するα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合を減少させたものを、それぞれ重合体1A、1B及び1Cとし、SBSを添加しなかったものを重合体1Dとした。
【0066】
重合体1A、1B、1C及び1Dの各水溶液を下記の透析により精製した後、減圧乾燥して得た各重合体のH−NMRを測定し、炭素−炭素二重結合量を算出したところ、それぞれ、0.8%、0.2%、0.1%、2.2%であった。H−NMR測定は、重合直後(重合後24時間以内)に行い、この測定日を0日として、重合体1A(□)、1B(■)、1C(○)及び1D(◆)を、密閉された容器内で25℃にて保存したときの重量平均分子量の変化を図1に示す。
(透析方法)
長さ30cmにカットした透析膜(ダイアライシスメンブラン36;和光純薬社製)をイオン交換水で洗浄した後、重合体水溶液8gを入れ密閉した。この透析チューブを、1Lビーカーに入った1000gのイオン交換水に浸した。2時間後にビーカーのイオン交換水を交換して、更に2時間透析を行った。ビーカーから透析膜を取り出し、透析膜の外側をイオン交換水で洗い流した後、透析膜の中身を取り出し、透析後の重合体水溶液を得た。
【0067】
実施例2及び比較例2
還流冷却器、攪拌機を備えた容量0.5リットルのガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水130.7gを仕込み、ヘキサメチレンジアミン87.2gを添加した。その後攪拌下、氷冷により15℃以下に保ちながら、乳鉢にて粉砕した無水マレイン酸73.5gを徐々に添加した。添加終了後、30分以上反応させた後、48%水酸化ナトリウム水溶液62.5gを徐々に添加して中和し、マレイン酸−ヘキサメチレンジアミンモノアミドモノマーの水溶液を得た。この水溶液を80℃で4時間攪拌することにより固形分50%、最終中和度100%の水溶性重合体2を得た。更に実施例1と同様にしてSBSによる付加反応を行い、重合体2A(□)、2B(■)、2C(○)及び2D(◆)を得た。
実施例1と同様にして重合体2A、2B、2C及び2Dの透析による精製、H−NMR測定を行い、炭素−炭素二重結合量を算出したところ、それぞれ、1.8%、0.4%、0.2%、2.8%であった。実施例1と同様に保存したときのこれらの重量平均分子量の変化を図2に示す。
【0068】
実施例3及び比較例3
還流冷却器、攪拌機を備えた容量1リットルのガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水245.9gを仕込み、トリエチレンテトラミン175.5gを添加した。その後攪拌下、氷冷により15℃以下に保ちながら、乳鉢にて粉砕した無水マレイン酸117.6gを徐々に添加した。添加終了後、30分以上反応させた後、48%水酸化ナトリウム水溶液100gを徐々に添加して中和し、マレイン酸−トリエチレンテトラミンモノアミドモノマーの水溶液を得た。この水溶液を80℃で1時間攪拌することにより固形分50%、最終中和度100%の水溶性重合体3を得た。次にこの重合体水溶液を容量50ミリリットルのガラス製ねじ口ビンに40g小分けし、これに35%亜硫酸水素ナトリウム(SBS)水溶液2g(重合体3に対して3.5質量%)を添加し、室温下、マグネチックスターラーで攪拌して、残存するα,β−不飽和カルボニル基由来の炭素−炭素二重結合を減少させたものを重合体3Aとし、SBSを添加しなかったものを重合体3Bとした。
実施例1と同様にして重合体3A、3Bの透析による精製、H−NMR測定を行い、炭素−炭素二重結合量を算出したところ、それぞれ、0.4%、3.2%であった。実施例1と同様に保存したときの重合体3A(■)及び3B(◆)の重量平均分子量の変化を図3に示す。
【0069】
図1〜3より、比較例の重合体1D、2D及び3Bに比べて、実施例の重合体1A〜1C、2A〜2C及び3Aの方が、重量平均分子量の経時変化が抑制され、保存安定性に優れた重合体である。
尚、上述した実施例及び比較例では、マレイン酸とエチレンジアミンの重合体、マレイン酸とヘキサメチレンジアミンの重合体及びマレイン酸とトリエチレンテトラミンの重合体を水溶性重合体として用いているが、上記(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有する水溶性重合体であれば、重量平均分子量の経時変化が抑制させる機構は同様である。したがって、上記式により算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下であれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、マレイン酸とエチレンジアミンの重合体、マレイン酸とヘキサメチレンジアミンの重合体及びマレイン酸とトリエチレンテトラミンの重合体の場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、重合体1A〜1Dの重量平均分子量の経時変化を示すグラフである。
【図2】図2は、重合体2A〜2Dの重量平均分子量の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、重合体3A及び3Bの重量平均分子量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び/又は(2)で表される構造単位を有する水溶性重合体であって、
該水溶性重合体は、H−NMR測定における下記式;
【数1】

により算出される炭素−炭素二重結合量が、2%以下であることを特徴とする水溶性重合体。
【化1】

【化2】

式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基、−CHCOOM又は−CHOHを表す。Rは、同一若しくは異なって、炭素数2〜16までの2価の基を表す。Xは、同一若しくは異なって、−NH−、−NR−又は−S−を表す。Rは、同一若しくは異なって、メチル基、エチル基、−CHCOOM又は−CHCHOHを表す。Mは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を表す。
【請求項2】
前記水溶性重合体は、アミン価が3.0mmol/g以上であることを特徴とする請求項1記載の水溶性重合体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水溶性重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、炭素−炭素二重結合に付加する化合物を重合中又は重合後に反応させる工程を含んでなることを特徴とする水溶性重合体の製造方法。
【請求項4】
前記炭素−炭素二重結合に付加する化合物は、アミン類、チオール類、亜硫酸塩類及び重亜硫酸塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項3記載の水溶性重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の水溶性重合体を含むことを特徴とする洗浄剤、水処理剤又は分散剤。
【請求項6】
請求項1又は2記載の水溶性重合体を保存及び/又は輸送する方法であって、
該保存及び/又は輸送する方法は、濃度が30〜70質量%、温度が0〜50℃で行うことを特徴とする保存及び/又は輸送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−246785(P2007−246785A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74063(P2006−74063)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】