説明

水溶性金属加工剤、クーラント及びその調製方法、水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法、並びに金属加工

【課題】耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤、クーラント及びその調製方法、並びに金属加工を提供する。
【解決手段】本発明の水溶性金属加工剤は、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン等のN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物、並びにアニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の少なくとも1種を含有し、水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を0.5〜30質量%含有することを特徴とする。本発明のクーラントは、本発明の水溶性金属加工剤を水等の希釈剤により、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.01質量%以上とすることにより調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性金属加工剤、クーラント及びその調製方法、水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法、並びに金属加工に関する。更に詳しくは、本発明は、切削加工、研削加工、及び塑性加工等の金属加工に用いられ、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤、クーラント及びその調製方法に関する。また、本発明は、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法に関する。更に、本発明は、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤又はクーラントを用いた切削加工、研削加工、及び塑性加工等の金属加工に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水溶性切削油剤及び研削油剤等の水溶性金属加工剤は、鉱油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、界面活性剤、消泡剤、金属防食剤、酸化防止剤、及び防腐・防黴剤等の各成分を、目的に応じて適宜混合することにより製造される。水溶性金属加工剤は、通常、水等の希釈剤により10〜100倍に希釈して使用される。この希釈された水溶性金属加工剤は、「クーラント」と呼ばれている。
【0003】
クーラントには、仕上げ面精度の向上及び工具寿命の延長等の切削性及び研削性に関する性能(以下、「一次性能」という。)と、作業性その他の性能(以下、「二次性能」という。)に優れることが要求される。上記二次性能としては、例えば、防錆性が良いこと、劣化しにくく管理しやすいこと、人体に無害であること、泡立ちが少ないこと、及び悪臭が少ないこと等が挙げられる。
【0004】
通常、水溶性金属加工剤及びクーラントには、細菌、酵母真菌、及び糸状真菌等の微生物に好適な栄養源となる成分が多く含まれている。そして、水溶性金属加工剤及びクーラントを使用していると、希釈水、被加工物及び空気等から微生物が水溶性金属加工剤及びクーラントに混入し、増殖をする結果、水溶性金属加工剤及びクーラントが腐敗するという問題がある。このような腐敗が進行すると、作業環境の悪化を引き起こすだけでなく、循環系統のパイプ詰まり及び加工効率の低下等を引き起こす。このような腐敗による性能低下を防ぐために、適宜水溶性金属加工剤及びクーラントの補給及び交換が行われる。しかし、水溶性金属加工剤及びクーラントの補給及び交換の頻度が高くなれば、油剤管理やコストの上で不利になる。よって、水溶性金属加工剤及びクーラントの微生物による劣化を防ぐことは非常に重要なことである。
【0005】
従来より、水溶性金属加工剤及びクーラントの腐敗を防止するために、各種の殺菌剤や防腐剤が使用されている。例えば、従来より、ホルムアルデヒト放出型化合物及びフェノール系化合物等の防腐剤及び殺菌剤を水溶性金属加工剤に添加することはよく知られている。また、上記問題を解決するために、従来より、様々なアミン化合物を用いた水溶性金属加工剤が開発されてきた。例えば、特許文献1には、ジシクロヘキシルアミン及び/又はシクロヘキシルアミンとm−キシレンジアミン及び/又は1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを特定比で組み合わせた水溶性金属加工剤が開示されている。特許文献2には、炭素数2〜12のアルキレン基を有するアルキレンジアミンを含有する水溶性金属加工剤が開示されている。特許文献3には、N置換ジアルキルジアミンを含有する水溶性金属加工剤が開示されている。特許文献4には、メタ又はオルトキシレンジアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキシルアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、及び1,4−ビスアミノメチルシクロヘキシルアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物を含有する水溶性金属加工剤が開示されている。
【0006】
また、水溶性金属加工剤は、通常、水で希釈して使用することから、機械や加工物に対する防錆性に優れていることが求められる。特に、上記のように、水溶性金属加工剤及びクーラントの微生物による劣化が進むと、さび止め性が急激に低下することが知られている。かかる問題を解決するため、従来より、防錆剤を含有する水溶性金属加工剤が使用されている。例えば、特許文献5には、カルボン酸等の酸性防錆剤及びN,N,N’,N’−テトラアルキル1,8−ナフチレンジアミン等の酸スカベンジャーを含む防錆性潤滑油が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−279688号公報
【特許文献2】特開平2−228394号公報
【特許文献3】特開昭60−49094号公報
【特許文献4】特開平9−316482号公報
【特許文献5】特表2003−522216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、防腐剤は、短期間に分解又は不活性化し、効果が著しく低下するという問題がある。また、このような防腐剤及び殺菌剤を多量に添加すれば、皮膚刺激性等の人体に対する刺激性が激しくなる。人体に対する刺激性が激しいクーラントの使用は、人体(水溶性金属加工剤を扱う作業員等)の健康に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
また、防腐剤及び殺菌剤は、必ずしも全ての微生物に有効に作用するとは限らないという問題がある。例えば、上記特許文献1記載の水溶性金属加工剤は、細菌に対してはある程度効果があり、水溶性金属加工剤の腐敗をある程度抑制することができる。しかし、上記特許文献1記載の水溶性金属加工剤は、酵母真菌に対する抗菌性が弱く、酵母真菌が原因となって生じる水溶性金属加工剤の劣化に対して満足する結果が得られないという問題がある。尚、上記特許文献1記載の水溶性金属加工剤は、アルカリ度が強く、人体に対する刺激性がまだ激しいという問題がある。
【0010】
更に、アルカノールアミン及びジシクロヘキシルアミン等のアミン化合物は、水溶性金属加工剤に長年使用されている。そのため、微生物にこれらのアミン化合物に対する耐性が生じている。その結果、これらのアミン化合物による腐敗の抑制効果が相対的に低下してきている。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものである。本発明は、切削、研削、及び塑性加工等の金属加工に用いられ、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤、クーラント及びその調製方法を提供することを目的とする。また、本発明は、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤又はクーラントを用いた切削加工、研削加工、及び塑性加工等の金属加工を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、微生物の増殖による水溶性金属加工剤の耐腐敗劣化について鋭意検討した。その結果、N,N,N’,N’−テトラアルキルアルキレンジアミン等のテトラアルキルジアミン化合物が、細菌だけでなく酵母真菌及び糸状真菌に対しても極めて良好な抗菌性を示し、水溶性金属加工剤の耐微生物劣化性を長期に渡って著しく向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を含有することを特徴とする水溶性金属加工剤。
〔2〕水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.5〜30質量%である上記〔1〕記載の水溶性金属加工剤。
〔3〕上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物が、下記一般式(1)で表される化合物である上記〔1〕又は〔2〕記載の水溶性金属加工剤。
【化1】

(上記一般式(1)において、R,R,R及びRは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。R,R,R及びRは、同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記一般式(1)において、Rは2価の有機基である。)
〔4〕上記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である上記〔3〕記載の水溶性金属加工剤。
【化2】

(上記一般式(2)において、R,R,R及びRは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。R,R,R及びRは、同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記一般式(2)において、nは3〜10の整数である。)
〔5〕更にアニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の少なくとも1種を含有する上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の水溶性金属加工剤。
〔6〕N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を含有し、クーラント全量を100質量%とした場合、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.01質量%以上であることを特徴とするクーラント
〔7〕上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈して得られる上記〔6〕記載のクーラント。
〔8〕上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈し、クーラント全量を100質量%とした場合、N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量を0.01質量%以上とすることを特徴とするクーラントの調製方法。
〔9〕水溶性金属加工剤に対してN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を添加することを特徴とする水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法。
〔10〕上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の水溶性金属加工剤又は上記〔6〕若しくは〔7〕記載のクーラントを用い、金属被加工物を加工することを特徴とする金属加工。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水溶性金属加工剤は、上記構成を有することにより、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤とすることができる。
本発明の水溶性金属加工剤において、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量を0.5〜30質量%とすると、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤とすることができる。
本発明の水溶性金属加工剤において、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物が、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物であると、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤とすることができる。
本発明の水溶性金属加工剤において、更にアニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の少なくとも1種を含有すると、更に耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる水溶性金属加工剤とすることができる。
本発明のクーラントは、上記構成を備えることにより、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できるクーラントとすることができる。
本発明のクーラントの調製方法は、上記構成を備えることにより、容易に上記作用効果を奏する本発明のクーラントを得ることができる。
本発明の水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法は、上記構成を備えることにより、長期に渡って水溶性金属加工剤の腐敗を十分に抑制できる。
本発明の金属加工は、上記構成を備えることにより、油剤管理を容易にし、作業環境の悪化及び人体の健康に対する悪影響を抑制しつつ、金属加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1)水溶性金属加工剤
本発明の水溶性金属加工剤は、N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物(以下、単に「テトラアルキルジアミン化合物」という。)を含有することを特徴とする。
【0016】
上記テトラアルキルジアミン化合物は、ジアミン化合物に含まれる2つのアミノ基の水素原子が全てアルキル基(N置換アルキル基)により置換された化合物である。上記テトラアルキルジアミン化合物は、この構造を備える限り、その具体的な構造に特に限定はない。上記テトラアルキルジアミン化合物として、N,N,N’,N’−テトラアルキル1,8−ナフチレンジアミン以外のテトラアルキルジアミン化合物を用いてもよい。
【0017】
上記アルキル基の種類には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4である。上記アルキル基の炭素数が上記範囲であると、より優れた耐微生物劣化性を示すことから好ましい。また、上記アルキル基は、直鎖状のアルキル基でもよく、側鎖を有するアルキル基でもよく、環状構造を有するアルキル基でもよい。更に、上記アルキル基は、炭素鎖中に他の原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び塩素原子等のハロゲン原子等)を含んでいてもよい。また、上記アルキル基は、炭素鎖中に他の官能基(例えば、水酸基、チオール基、エーテル基、カルボニル基、及びカルボキシル基等)を含んでいてもよい。上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニルデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。尚、上記テトラアルキルジアミン化合物に含まれる4つのN置換アルキル基は、全て同じアルキル基でもよく、一部又は全部異なる種類のアルキル基でもよい。
【0018】
上記テトラアルキルジアミン化合物として具体的には、例えば、上記一般式(1)で表される化合物(以下、単に「化合物(1)」という。)が挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)において、上記R,R,R及びRは、炭素数が1〜12のアルキル基である。上記R,R,R及びRの炭素数は、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4である。上記炭素数が上記範囲であると、より優れた耐微生物劣化性を示すことから好ましい。更に、上記アルキル基は、直鎖状のアルキル基でもよく、側鎖を有するアルキル基でもよく、環状構造を有するアルキル基でもよい。更に、上記アルキル基は、炭鎖中に他の原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及び塩素原子等のハロゲン原子等)を含んでいてもよい。また、上記アルキル基は、炭素鎖中に他の官能基(例えば、水酸基、チオール基、エーテル基、カルボニル基、及びカルボキシル基等)を含んでいてもよい。上記R,R,R及びRとして具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニルデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及び2−メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。尚、上記R,R,R及びRは、全て同じアルキル基でもよく、一部又は全部異なる種類のアルキル基でもよい。
【0020】
上記一般式(1)において、上記Rは、2価の有機基であればよく、特に構造及び炭素数等に限定はない。上記Rは、通常は、上記一般式(2)のように、鎖状のアルキレン基である。その他、上記Rは、脂環構造でもよく、芳香環でもよい。更に、上記鎖状のアルキレン基及び上記脂環構造は、構造中に不飽和結合を有していてもよい。また、上記鎖状のアルキレン基は、直鎖のアルキレン基でもよく、側鎖を有するアルキレン基でもよい。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物として具体的には、上記一般式(2)で表される化合物(以下、単に「化合物(2)」という。)が挙げられる。また、その他に、上記一般式(1)で表される化合物として、例えば、下記一般式(3)及び(4)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
上記一般式(2)の上記R,R,R及びRの内容は、上記一般式(1)の上記R,R,R及びRの説明が適用される。また、上記一般式(2)において、上記nは3〜15、好ましくは4〜13、更に好ましくは5〜12の整数である。上記nが上記範囲であると、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できるので好ましい。
【0024】
本発明の水溶性金属加工剤全体を100質量%とした場合、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量は、通常0.5〜30質量%、好ましくは1〜25質量%、より好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは2〜15質量%である。上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量が上記範囲内であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性及び耐腐敗性を奏するので好ましい。
【0025】
本発明の水溶性金属加工剤は、上記テトラアルキルジアミン化合物を必須成分として含有する。また、本発明の水溶性金属加工剤は、その他に、通常、水溶性金属加工剤としての基本的性能を維持するために、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の任意成分を必要に応じて適宜含有させることができる。上記任意成分としては、従来の水溶性金属加工剤に用いられている成分が挙げられる。上記任意成分として具体的には、例えば、界面活性剤、基油、極圧添加剤、アルコール、アミン化合物(但し、上記テトラアルキルジアミン化合物は除く。)、消泡剤、金属防食剤、及び防腐剤等が挙げられる。上記任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。本発明において、上記界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の水溶性金属加工剤では、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0027】
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸とアミン化合物との塩又は金属塩、及び石油スルホネート等が用いられる。上記脂肪酸としては、通常の水系の金属加工剤に使用されている炭素数6〜36の脂肪酸が使用される。上記脂肪酸は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸でもよい。上記脂肪酸として、例えばカプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、ラウリン酸、ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リシノレン酸、菜種油脂肪酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が上げられる。これらの中でも、ヤシ油脂肪酸、菜種脂肪酸、オレイン酸、リシノレン酸、エルカ酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が好ましく用いられる。
【0028】
上記金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。よって、上記脂肪酸の金属塩として具体的には、例えば、上記で例示した各脂肪酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0029】
上記ノニオン系界面活性剤として具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックポリマー、並びにヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
【0030】
本発明の水溶性金属加工剤において、上記界面活性剤の含有量は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。本発明の水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、上記界面活性剤の含有量は、通常1〜40質量%、好ましくは3〜35質量%、更に好ましくは5〜35質量%、より好ましくは8〜30質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。上記界面活性剤の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性を奏するので好ましい。
【0031】
本発明の水溶性金属加工剤において、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤を併用する場合、両者の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記アニオン系界面活性剤及び上記非イオン系界面活性剤の含有量の合計を100質量%とした場合、上記アニオン系界面活性剤の含有量は、通常30〜95質量%、好ましくは40〜95質量%、更に好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。上記アニオン系界面活性剤の含有量が上記範囲内であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性を奏するので好ましい。
【0032】
本発明の水溶性金属加工剤において、上記界面活性剤と上記テトラアルキルジアミン化合物の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記界面活性剤及び上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量の合計を100質量%とした場合、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量は、通常1〜40質量%、好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは1〜25質量%、より好ましくは2〜20質量%、特に好ましくは3〜20質量%である。上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量が上記範囲内であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性を奏するので好ましい。
【0033】
上記アミン化合物は、脂肪族アミン、脂環式アミン、及び芳香族アミンのいずれでもよい。また、上記アミン化合物は、アルカノールアミン等、他の官能基を有するアミン化合物でもよい。更に、上記アミン化合物に含まれるアミノ基は、第1級アミノ基、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基のいずれでもよい。また、上記アミン化合物に含まれるアミノ基の数についても特に限定はなく、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、テトラアミン化合物のいずれでもよい。本発明では、上記アミン化合物として、炭素数2〜36、好ましくは2〜20、更に好ましくは2〜15のアミン化合物を好ましく用いることができる。尚、上記アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0034】
上記アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、n−ブチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、及びN−アミノエチルエタノールアミンが挙げられる。この中でも、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びモノイソプロパノールアミンが好ましく用いられる。また、上記脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン、及びヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。更に、上記脂環式アミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。また、上記芳香族アミンとしては、例えば、ベンジルアミン及びジベンジルアミン等が挙げられる。
【0035】
本発明の水溶性金属加工剤において、上記アミン化合物の含有量は、本発明の水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合に、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは0.01〜30質量%、更に好ましくは0.1〜25質量%、特に好ましくは1〜20質量%である。上記アミン化合物の含有量が上記範囲であると、優れた耐微生物劣化性を奏すると共に、優れたさび止め性を奏することからから好ましい。
【0036】
本発明の水溶性金属加工剤において、上記アミン化合物と上記テトラアルキルジアミン化合物の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記アミン化合物及び上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量の合計を100質量%とした場合、上記アミン化合物の含有量は、通常1〜95質量%、好ましくは10〜95質量%、更に好ましくは30〜90質量%、より好ましくは50〜85質量%、特に好ましくは60〜80質量%である。上記アミン化合物の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性を奏するので好ましい。
【0037】
また、本発明の水溶性金属加工剤は、第1級ジアミン化合物等の第1級アミン化合物を含有しない構成、又は皮膚刺激性等の人体に対する刺激性を強めない程度の量(例えば、本発明の水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、0質量%を超え1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下)の第1級アミン化合物を含有する構成とすることができる。本発明の水溶性金属加工剤は、かかる第1級アミン化合物を含まなくても、優れた耐微生物劣化性を奏し、しかも、水溶性金属加工剤及びクーラントの人体に対する刺激性を弱めることができるので好ましい。
【0038】
上記アルコールとしては、炭素数が12〜18のアルコールが好ましく用いられる。上記アルコールの具体的構造については特に限定はない。上記アルコールは、第1級、第2級及び第3級アルコールのいずれでもよい。また、直鎖アルコールでもよく、側鎖を有するアルコールでもよい。更に、上記アルコールの水酸基の数についても特に限定はない。上記アルコールは、モノアルコール、ジアルコール、及びトリアルコールのいずれでもよい。上記アルコールとしては、例えば、n−トリデカノール、iso−トリデカノール、n−ペンタデカノール、及びiso−ペンタデカノール等があげられる。上記アルコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記基油として具体的には、例えば、鉱物油、合成エステル、及び動植物油脂等が挙げられる。本発明の水溶性金属加工剤は、上記基油を含有することにより、更に潤滑性を向上させることができる。本発明の水溶性金属加工剤において、上記基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記鉱物油は、石油を蒸留精製して得られる成分を示す。上記鉱物油は、水素添加や改質等の工程を経た鉱物油を使用できる。上記鉱物油として具体的には、例えば、スピンドル油及びマシン油等が挙げられる。上記鉱物油の物性については特に限定はない。例えば、上記鉱物油の動粘度(40℃)は、通常0.1mm/s以上、好ましくは0.5〜150mm/s、更に好ましくは1〜60mm/s、より好ましくは5〜60mm/sとすることができる。また、上記鉱物油のアニリン点は、通常35〜120℃、好ましくは40℃〜100℃、更に好ましくは45〜100℃、より好ましくは50〜90℃とすることができる。尚、上記鉱物油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記合成エステルは、通常、炭素数10〜30、好ましくは12〜28、更に好ましくは15〜25のカルボン酸と、炭素数1〜30、好ましくは1〜25、更に好ましくは1〜20のアルコールのエステルが用いられる。上記アルコールは、第1級、第2級及び第3級アルコールのいずれでもよい。また、上記アルコールは、モノアルコール、ジアルコール、トリアルコール、テトラアルコールのいずれでもよい。上記合成エステルとして具体的には、例えば、オレイン酸メチル、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレイト、トリメチロールプロパントリオレイト、及びペンタエリスリトールテトラオレイト等があげられる。これらの中でも、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレイト、及びトリメチロールプロパントリオレイトが好ましく用いられる。尚、上記合成エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記動植物油脂としては、例えば、豚脂、牛脂、及び魚油等の動物性油脂、並びに菜種油、大豆油、及びパーム油等の植物性油脂が挙げられる。また、上記動植物油脂としては、上記動植物油脂の水素添加物を用いることもできる。尚、上記動植物油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、上記基油の含有量は、通常80質量%以下、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜75質量%、更に好ましくは、5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは20〜60質量%である。上記基油の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性と共に、優れた潤滑性を奏するので好ましい。
【0044】
また、本発明の水溶性金属加工剤において、上記基油と上記テトラアルキルジアミン化合物の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記基油及び上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量の合計を100質量%とした場合、上記基油の含有量は、通常50〜99質量%、好ましくは60〜98質量%、更に好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜95質量%である。上記基油と上記テトラアルキルジアミン化合物の割合が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工剤は、優れた耐微生物劣化性と共に、優れた潤滑性を奏するので好ましい。
【0045】
本発明の水溶性金属加工剤には、通常、水が配合される。この水の配合量については特に限定はない。上記水の配合量は、通常、本発明の水溶性金属加工剤100質量%中、1〜99質量%、好ましくは5〜90質量%、更に好ましくは5〜80質量%、より好ましくは7〜70質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。
【0046】
本発明の水溶性金属加工剤は、そのまま使用することができる。また、本発明の水溶性金属加工剤は、必要に応じて、使用の際に更に水等の希釈剤で稀釈して使用することもできる。
【0047】
(2)クーラント及びその調製方法
本発明のクーラントは、上記テトラアルキルジアミン化合物を含有し、クーラント全量を100質量%とした場合、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.01質量%以上であることを特徴とする。また、本発明のクーラントの調製方法は、本発明の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈し、クーラント全量を100質量%とした場合、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量を0.01質量%以上とすることを特徴とする。
【0048】
本発明のクーラント100質量%中、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.01〜7質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、特に好ましくは0.05〜5質量%である。上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量が上記範囲であると、耐腐敗性向上効果に優れると共に、経済的であることから好ましい。
【0049】
本発明のクーラントを得る方法には特に限定はない。本発明のクーラントは通常、本発明の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈することにより得ることができる。
【0050】
上記希釈剤の種類については特に限定はない。上記希釈剤として、通常は水が用いられる。また、本発明のクーラントは、本発明の水溶性金属加工剤を希釈することにより本発明のクーラントを得る場合、その希釈倍率についても特に限定はない。上記希釈倍率は通常1.5〜100倍、好ましくは2〜70倍、更に好ましくは5〜50倍、より好ましくは10〜50倍である。
【0051】
(3)水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法
本発明の水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法は、水溶性金属加工剤に対してN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を添加することを特徴とする。
【0052】
上記水溶性金属加工剤の種類及び組成には特に限定はない。上記水溶性金属加工剤は、通常、水を含有する。また、上記水溶性金属加工剤に含まれる成分としては、例えば、上記の水溶性金属加工剤における任意成分、即ち、例えば、界面活性剤、基油、極圧添加剤、アルコール、消泡剤、金属防食剤、及び防腐剤等が挙げられる。上記任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、上記任意成分は、本発明の水溶性金属加工剤の項で詳述した説明が適用される。また、本発明の水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法において、上記「水溶性金属加工剤」は、水溶性金属加工剤を水等の希釈剤で希釈した後の「クーラント」をも含む概念である。
【0053】
上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の内容は、本発明の水溶性金属加工剤の項で詳述した説明が適用される。また、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を添加する方法にも特に限定はない。更に、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の添加量も必要に応じて適宜の添加量とすることができる。上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物は、水溶性金属加工剤(「クーラント」を含む概念)100質量%中、上記テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.01質量%以上、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.01〜7質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、特に好ましくは0.05〜5質量%となるように添加することができる。このような添加量とすれば、耐腐敗性向上効果に優れると共に、経済的であることから好ましい。
【0054】
(4)金属加工
本発明の金属加工は、本発明の水溶性金属加工剤又は本発明のクーラントを用いて、金属被加工物を加工することを特徴とする。
【0055】
上記金属加工は、金属を加工する方法である限り、その具体的内容に特に限定はない。上記金属加工としては、例えば、切削加工、研削加工、及び塑性加工等が挙げられる。また、上記金属加工において、上記水溶性金属加工剤及び上記クーラントを供給する方法には特に限定はない。例えば、循環ポンプを使用してノズルから給油する方法、手づけ給油(ブラシ塗り及び油差し等)、及び噴霧給油等が挙げられる。
【0056】
上記金属被加工物の具体的内容については特に限定はない。例えば、上記金属被加工物の材質は、通常、鉄、炭素鋼及びステンレス鋼等の鋼及び鉄合金であるが、その他、インコネル、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、及び銅合金等の非鉄金属及びその合金でもよい。また、上記金属被加工物の形状についても特に限定はなく、例えば、棒状及びブロック形状等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0058】
(1)水溶性金属加工剤の調製
表1に示す各成分を、表1に示す割合で配合することにより、実験例1〜8の各水溶性金属加工剤を調製した。表1の組成を示す単位は質量%である。尚、表1に記載した各成分の詳細は、以下の通りである。
鉱物油:スピンドル油(動粘度;8mm/s(40℃) アニリン点;59℃)
合成エステル:オレイン酸−2−エチルヘキシル
エーテルカルボン酸:ポリオキシエチレンオレイルエーテルカルボン酸
非イオン性界面活性剤:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(C15及びC16)の混合物
防腐剤:ヘキサヒドロ−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン
【0059】
【表1】

【0060】
(2)微生物劣化試験
表1に示す実験例1〜8の各水溶性金属加工剤を水道水で希釈し、クーラントを調製した。このクーラントを微生物劣化試験の試料として使用した。このクーラント中の水溶性金属加工剤の濃度は3.3質量%である。
【0061】
上記各試料2000gを容量5Lの水槽に入れた。次いで、鋳物切屑200g及び潤滑油(商品名「バクトラNo2SLC」 モービル石油(株)製)100gを上記各試料に加え、ポンプで循環させた。その後、種菌として、腐敗したエマルション(pH7.6、生菌数10個以上/ml、酵母真菌数10個/ml、糸状真菌数10個/ml)を上記各試料に添加した。上記エマルションは、初日に60ml、1日後に20ml、2日後に20ml、7日後に20ml添加し、その後、1週間毎に20mlずつ添加した。試験中、蒸発した水分は、毎日水道水を添加することにより補給した。
【0062】
試験開始から1週間毎に、上記各試料の一部を採取した。そして、以下に記載の方法により、採取した上記各試料の生菌数を測定すると共に、pH及び臭気の有無を測定した。その結果を表2及び表3に示す。
【0063】
(2−1)生菌数、酵母真菌数及び糸状真菌数の測定
生菌数は、普通寒天培地を用い、プレートカウント法により測定した。また、酵母真菌数及び糸状真菌数は、ポテトデキストロース寒天培地を用い、プレートカウント法により測定した。
【0064】
(2−2)臭気の評価
臭気の評価は、臭気の強さを下記の三段階の評価基準に基づいて測定した。
○:腐敗臭なし、
△:やや腐敗臭がある、
×:腐敗臭がある
【0065】
(2−3)さび止め性の評価
さび止め性の評価は、鋳物切屑法によって行った。具体的には、約15gのドライカットした鋳物切屑(FC25、8ないし12メッシュ)をペトリ皿(内径60mm)に採取した。次いで、該ペトリ皿に上記各試料25mlを添加し、十分に振とうした後、約4分間静置した。その後、上記各試料を傾斜法によって除去し、ペトリ皿上に発生するさびを経時により観察した。
◎:さびの発生なし、
○:さびが数点発生、
△:錆が十数点発生、
×:さびが1/3面以上発生
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
(3)評価結果
表2により、本願発明に含まれる実験例1〜4では、4週間経過してもpHの低下が少なく、pHは9.0以上を維持していた。また、実験例1〜4は、4週間経過しても、生菌数が10個/ml未満であり、酵母真菌数及び糸状真菌数は未検出であった。更に、実験例1〜4では、4週間経過しても24時間さびが発生しなかった。
【0069】
一方、表3より、実験例5(N,N−ジアルキルジアミン化合物を使用)、実験例6(アルキレンジアミン(N−無置換アミン)を使用)、実験例7(第二級モノアミン化合物を使用)、及び実験例8(非アミン系防腐剤を使用)では、実験例1〜4と比べてpHの低下が大きく、3週間経過時にpHは9.0未満に低下していた。また、実験例5及び7では3週間経過時に、実験例6では4週間経過時に、実験例8では1週間経過時にそれぞれ腐敗臭が発生した。更に、実験例5〜7では、4週間経過後にさびが発生し、実験例8では、1週間経過時に既にさびが発生していた。
【0070】
また、表3より、実験例5では、3週間経過時に生菌数が10個/mlと著しく増加しており、酵母真菌数は1週間経過時に10個/mlと著しく増加した。実験例6では、3週間経過時には生菌数は10個/ml未満であったが、4週間経過時に10個/mlまで増加していた。また、実験例6では、3週間経過時に酵母真菌数及び糸状真菌数がそれぞれ10個/ml及び10個/mlと増加していた。実験例7でも、3週間経過時に生菌数が10個/mlと増加し、酵母真菌数は1週間経過時で10個/mlと増加していた。実験例8では、1週間経過時に生菌数が10個/ml、酵母真菌数が10個/ml、糸状真菌数は10個/mlに増加していた。尚、実験例8では、2週間経過時点で生菌数が10個/ml以上となり、クーラントが腐敗した。よって、実験例8では、2週間経過時点で実験を中止した。
【0071】
以上より、本発明の水溶性金属加工剤及びクーラントは、細菌だけでなく、酵母真菌及び糸状真菌に対しても優れた耐微生物劣化性を有することが分かる。また、本発明の水溶性加工剤及びクーラントは、長期に渡って耐微生物劣化性を発揮し、腐敗を防止することができることが分かる。更に、本発明の水溶性金属加工剤及びクーラントは、皮膚刺激性の強い1級ジアミン化合物を含まないことから、人体への刺激の弱いことが分かる。
【0072】
尚、本発明は、上記具体的実施例に示すものに限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の水溶性金属加工剤及びクーラントは、従来の水溶性金属加工剤及びクーラントと比べて、耐微生物劣化性に優れ、腐敗を十分に抑制できる。本発明は、切削加工、研削加工、及び塑性加工等の金属加工に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を含有することを特徴とする水溶性金属加工剤。
【請求項2】
水溶性金属加工剤全量を100質量%とした場合、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.5〜30質量%である請求項1記載の水溶性金属加工剤。
【請求項3】
上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1又は2記載の水溶性金属加工剤。
【化1】

(上記一般式(1)において、R,R,R及びRは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。R,R,R及びRは、同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記一般式(1)において、Rは2価の有機基である。)
【請求項4】
上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1又は2記載の水溶性金属加工剤。
【化2】

(上記一般式(2)において、R,R,R及びRは、炭素数1〜12のアルキル基を表す。R,R,R及びRは、同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記一般式(2)において、nは5〜12の整数である。)
【請求項5】
更にアニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の少なくとも1種を含有する請求項1乃至4のいずれかに記載の水溶性金属加工剤。
【請求項6】
N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を含有し、クーラント全量を100質量%とした場合、上記N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量が0.01質量%以上であることを特徴とするクーラント
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈して得られる請求項6記載のクーラント。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水溶性金属加工剤を希釈剤により希釈し、クーラント全量を100質量%とした場合、N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物の含有量を0.01質量%以上とすることを特徴とするクーラントの調製方法。
【請求項9】
水溶性金属加工剤に対してN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン化合物を添加することを特徴とする水溶性金属加工剤の微生物劣化防止方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水溶性金属加工剤又は請求項6若しくは7記載のクーラントを用い、金属被加工物を加工することを特徴とする金属加工。

【公開番号】特開2008−81602(P2008−81602A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263413(P2006−263413)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】