説明

水溶性高分子の製造方法

【課題】容易に製造することができ、澱粉に高分子量の重合体をグラフトすることができるうえ、残存モノマー量が少なく、得られる水溶性高分子を凝集剤として使用した場合、各種凝集性能に優れる水溶性高分子の製造方法の提供。
【解決手段】多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性ラジカル重合性単量体を必須とする水溶性ラジカル重合性単量体を重合させる水溶性高分子の製造方法。この製造方法により得られた水溶性高分子からなる高分子凝集剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類の存在下に水溶性単量体を重合する水溶性高分子の製造方法に関するものであり、高分子の重合に関する技術分野で賞用され、得られた水溶性高分子は、凝集剤、汚泥脱水剤、歩留り向上剤及び増粘剤等の種々の技術分野で賞用され得るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性高分子、特に高分子量の水溶性高分子は、高分子凝集剤、歩留り向上剤及び増粘剤等の種々の技術分野で利用されている。
【0003】
上記水溶性高分子としては、歩留り向上剤等の製紙用添加剤の用途に関しては、パルプとの馴染みが良く、得られる紙が各種性能に優れるものとなるため、澱粉を水溶性高分子で変性した高分子(以下澱粉変性高分子という)を使用する場合がある。
又、澱粉変性高分子は、製紙用添加剤以外の用途として、汚泥脱水剤等の凝集剤としての検討もなされている。
【0004】
澱粉変性高分子又はその製造方法としては、特定のカチオンエーテル化澱粉を幹ポリマーとし、4級アンモニウム変性したカチオン性基をグラフト側鎖に持ち、特定粘度を有する高分子(特許文献1)、多糖類の幹ポリマーに、側鎖として(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸又はその塩のとのコポリマーをグラフトさせたもの(特許文献2)、水溶性高分子に、水溶性モノマーを水溶媒中でグラフト重合して得られる共重合体の水溶性ゲルの水溶液を、有機溶媒中に添加して粉末状に析出させ製造する方法(特許文献3)、多糖類とジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩とを、レドックス重合開始剤又はセリウム系重合開始剤を使用して製造する方法(非特許文献1)等がある。
【0005】
【特許文献1】特公昭62−21007号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−254306号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平8−41212号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】日本化学会誌、1976年、10巻、1625〜1630頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の製造方法では、澱粉に高分子量の高分子をグラフトすることができなかったり、又は高分子量の高分子をグラフトすることができたとしても、残存モノマー量が多くなってしまうという問題を有するものであった。又、得られた澱粉変性高分子を、汚泥脱水剤及び歩留り向上剤等の高分子凝集剤として使用した場合、凝集・脱水性能が不十分となる場合があった。
又、特許文献3の様な、澱粉変性高分子の製造方法は、溶剤等への再沈操作等が必要であるため、プロセス的に煩雑になり、コスト高にもなるという問題があった。
さらに、非特許文献1の澱粉変性高分子の製造方法では、残存モノマー量が多くなってしまう問題の他、グラフト化が不十分となるため、得られる高分子が、グラフト化した高分子とそうでない高分子とで、二層分離してしまうことがあった。
本発明者らは、容易に製造することができ、澱粉に高分子量の重合体をグラフトすることができるうえ、残存モノマー量が少なく、得られる水溶性高分子を凝集剤として使用した場合、各種凝集性能に優れる水溶性高分子の製造方法を見出すため鋭意検討を行ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の検討の結果、特定の重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下に、多糖類にカチオン性単量体を必須成分とする水溶性単量体を重合させる製造方法が有効であること見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表し、アクリルアミド又はメタクリルアミドを(メタ)アクリルアミドと表す。
【0008】
1.水溶性高分子の製造方法
本発明の水溶性高分子の製造方法は、多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性ラジカル重合性単量体(以下単にカチオン性単量体という)を必須とする水溶性ラジカル重合性単量体(以下単に水溶性単量体という)を重合させる水溶性高分子の製造方法に関する。
以下、多糖類、水溶性単量体、アゾ系重合開始剤、水素引抜き剤及び製造方法について説明する。
【0009】
1)多糖類
本発明における多糖類としては、種々のものが使用できる。
例えば、天然物系多糖類としては、澱粉が挙げられ、具体的には、馬鈴薯澱粉、モチ馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、モチトウモロコシ澱粉、高アミローストウモロコシ澱粉、小麦粉澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グルマンナン及びガラクタン等、並びに小麦粉、トウモロコシ粉、切干甘藷及び切干タピオカ等の原料澱粉等が挙げられる。
澱粉以外の多糖類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、キチン並びにキトサン等が挙げられる。
【0010】
多糖類としては、澱粉が好ましく、具体的には、前記したもの等が挙げられ、馬鈴薯澱粉、モチ馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、モチトウモロコシ澱粉、高アミローストウモロコシ澱粉、小麦粉澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グルマンナン及びガラクタン等が好ましい。
澱粉としては、化学的又は酵素的に修飾して得られる加工澱粉を使用することができる。加工方法としては、例えば、酸化、エステル化、エーテル化及び酸処理化等が挙げられる。
【0011】
本発明における多糖類としては、前記した多糖類を常法によりカチオン化又は両性化されたものが、後記する水溶性単量体との共重合性に優れ、又凝集剤としての性能に優れるため好ましい。
【0012】
多糖類のカチオン化は、常法に従えば良い。
カチオン化としては、原料澱粉をカチオン化剤で処理する方法が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、ジエチルアミノエチルクロライド等の3級アミン、並びに3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及びグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
カチオン化された多糖類のカチオン置換度は、窒素原子換算で0.01〜0.06質量/質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.06質量/質量%である。
【0013】
多糖類としては、カチオン化後に、公知の反応がなされたものであっても良い。例えば、アニオン化反応がなされた両性多糖類でも良い。アニオン化反応の具体例としては、無機リン酸等によるリン酸エステル化;尿素リン酸化及び次亜ハロゲン酸塩等による酸化;モノクロロ酢酸によるカルボキシメチル化;並びに硫酸化等が挙げられる。
【0014】
多糖類としては、糊液として使用することが好ましいため、多糖類にクッキングの処理がなされたものを使用することが好ましい。ここで、クッキングとは、多糖類を糊化温度以上に加熱処理する方法である。この場合の加熱温度としては、使用する澱粉の種類に応じて適宜設定すれば良いが、70℃以上が好ましい。澱粉のクッキングは、バッチ式でも、連続式でも行うことができる。
クッキングは、前記カチオン化後に行うことも、カチオン化と同時に行うこともできる。
使用する澱粉糊液の粘度は、固形分濃度が10〜40質量%で、25℃においてB型粘度計で測定した値が、100〜10000mPa・sであることが好ましい。
【0015】
本発明で使用する多糖類の糊液は、水で希釈して3〜10質量%のスラリーとしたものを使用することが好ましい。
尚、使用する多糖類の糊液が老化し、固化したり、水への分散性が乏しくなった場合には、使用前にクッキングの処理がなされたものを使用することが好ましい。この場合のクッキングの方法としては、前記と同様の方法が挙げられる。
【0016】
2)水溶性単量体
本発明における水溶性単量体は、カチオン性単量体を必須とする。
カチオン性単量体としては、ラジカル重合性を有するものであれば種々の化合物が使用でき、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノ‐2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩酸塩及び硫酸塩等の3級塩;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩酸塩及び硫酸塩等の3級塩;ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩化メチル付加物等のハロゲン化アルキル付加物及び塩化ベンジル付加物等のハロゲン化アリール付加物等の4級塩、並びにジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル付加物等のハロゲン化アルキル付加物及び塩化ベンジル付加物等のハロゲン化アリール付加物等の4級塩等が挙げられる。
これらの中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩が好ましく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのハロゲン化アルキル付加物がより好ましい。
【0017】
本発明における水溶性単量体としては、必要に応じてアニオン性ラジカル重合性単量体(以下アニオン性単量体という)及びノニオン性ラジカル重合性単量体(以下ノニオン性単量体という)を併用することができる。
アニオン性単量体としてもラジカル重合性を有するものであれば種々の化合物が使用でき、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸及びその塩が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0018】
ノニオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド及びヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加メトキシ(メタ)アクリレート及びエチレンオキサイド付加(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0019】
単量体としては、必要に応じて、水溶性単量体にこれ以外の単量体を併用することもできる。当該単量体の例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びビニルアセテート等が挙げられる。
【0020】
本発明の製造方法における、多糖類と水溶性単量体の割合としては、多糖類及び全単量体の合計量に対して、水溶性単量体が50質量%以上が好ましく、50〜99質量%がより好ましい。
水溶性単量体の割合が50質量%に満たない場合は、得られる高分子が水に不溶性となったり、得られる高分子を凝集剤として使用する場合において、高分量の高分子が得られない場合がある。
【0021】
本発明で使用する水溶性単量体は、カチオン性単量体を必須とするものである。この場合の好ましい割合としては、全水溶性単量体中に10〜99質量%が好ましく、より好ましくは30〜90質量%である。
【0022】
3)アゾ系重合開始剤
本発明では、アゾ系重合開始剤を使用する。アゾ系重合開始剤は、水溶性単量体の重合開始剤として機能する他、残存モノマー量を低減させる機能を有する。
アゾ系重合開始剤としては、種々の化合物が使用でき、例えば、アゾ系重合開始剤の具体例としては、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(10時間半減期温度69℃、以下括弧内の温度は同様の意味を示す)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]塩酸塩(57℃)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート(66℃)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(65℃)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(51℃)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトチル)(67℃)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(88℃)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}(80℃)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](86℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩(56℃)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩(41℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩(44℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]硫酸塩(47℃)、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]塩酸塩(58℃)、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}塩酸塩(60℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](61℃)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドキシム)ジヒドロクロライド(57℃)及び1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニル)エタン(61℃)等を挙げることができる。
アゾ系重合開始剤は、単独で使用しても又は2種以上を併用しても良い。
【0023】
前記したアゾ系重合開始剤の中でも、水に対する溶解性が高い点、不溶解分を含有しないか又は含有量の少ない水溶性高分子を生成する点、高分子量の水溶性高分子を生成する点、水溶性高分子中の未反応単量体が少ない点等から、アゾ系重合開始剤として、10時間半減期温度が50℃以上の化合物が好ましく、50〜90℃の化合物がより好ましく、50〜70℃の化合物が更に好ましい。
【0024】
当該アゾ系重合開始剤の好ましい具体例としては、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(69℃)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]塩酸塩(57℃)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}(80℃)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](86℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩(56℃)、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]塩酸塩(58℃)、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}塩酸塩(60℃)及び2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドキシム)ジヒドロクロライド(57℃)等が挙げられる。
【0025】
アゾ系重合開始剤の使用割合としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して、50〜5000ppmが好ましく、より好ましくは100〜3000ppmであり、更に好ましくは300〜1000ppmである。アゾ系重合開始剤の使用割合が50ppmに満たない場合は、重合が不完全で残存モノマーが多くなり、一方5000ppmを超えると得られる水溶液高分子が低分子量体となる。
【0026】
4)水素引抜き剤
本発明では、多糖類に水溶性単量体を好ましくグラフト共重合させるため、水素引抜き剤を使用する。
【0027】
水素引抜き剤としては、レドックス系水素引抜き剤(以下RD引抜き剤という)及び光重合開始剤系水素引抜き剤(以下PT引抜き剤という)等が挙げられる。RD引抜き剤及びPT引抜き剤は、多糖類から水素引き抜きする他、水溶性単量体の重合開始剤としても機能する。
【0028】
RD引抜き剤としては、過酸化物が好ましい。過酸化物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド等の有機過酸化物、過酸化水素、並びに臭素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、重合開始時の低温状態においても水素引き抜き効果に優れる点で、過硫酸塩が好ましい。
有機過酸化物を使用する場合においては、有機過酸化物のラジカル発生を容易にし、水素引抜き効果を有効にすることができる点で、還元剤を併用することが好ましい。過酸化物は、還元剤によりパーオキサイドラジカルを発生し、これが多糖類の水素引き抜きを起す。
還元剤としては、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩、アスコルビン酸及びその塩、ロンガリット、亜ニチオン酸及びその塩、トリエタノールアミン、並びに硫酸第一銅が挙げられる。
過酸化物と還元剤の好ましい組合わせとしては、過硫酸塩と亜硫酸塩、過硫酸塩と亜硫酸水素塩等が挙げられる。
【0029】
RD引抜き剤の割合としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して、10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmであり、特に好ましくは20〜200ppmである。この割合が10ppmに満たないと、水素引き抜きが不十分となり、一方1000ppmを超えると、水溶性高分子の分子量が小さくなり十分な性能が発揮できないことがある。
還元剤の割合としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmである。
【0030】
PT引抜き剤としては、ケタール型光重合開始剤及びアセトフェノン型光重合開始剤等が好ましい。この場合、光開裂して発生してベンゾイルラジカルが発生し、これが水素引抜き剤として機能する。
ケタール型光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1-オン及びベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
アセトフェノン型光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、4‐(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン及び2−ヒドロキシ−2メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕のオリゴマー等が挙げられる。
PT引抜き剤としては、前記以外にも特開2002−097236で記載された様な、ポリアルキレンオキサイド基を有する光重合開始剤も使用することができる。
【0031】
PT引抜き剤の割合としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して、10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmであり、更に好ましくは20〜200ppmである。この量が10ppmに満たないと、水素引き抜きが不十分となるか又は残存モノマーが多くなることがあり、1000ppmを超えると水溶性高分子の分子量が小さくなり性能が発揮できないことがある。
【0032】
5)その他の重合開始剤、重合促進剤
本発明においては、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤を必須とするものであるが、必要に応じてその他の重合開始剤及び重合促進剤等を併用することが可能である。
例えば、前記したケタール型、アセトフェノン型光重合開始剤以外の光重合開始剤が挙げられる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、o‐ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4´−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3´,4,4´−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6,−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−〔2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル〕ベンザメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン及び2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロライド等が挙げられる。
光重合開始剤を使用する場合には、トリエタノールアミン及びメチルジエタノールアミン等のアミン系光増感剤等の光増感剤を併用することもできる。
【0033】
光重合開始剤を使用する場合の割合としては、水溶性単量体に対して、前記のPT引抜き剤と同様の割合が好ましい。
【0034】
RD引抜き剤を使用する場合には、重合促進剤として、塩化第二銅及び塩化第一鉄等の無機金属系の重合促進剤を添加することが好ましい。重合促進剤は、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して0.1〜1.0ppm添加することが好ましい。
【0035】
6)重合方法
本発明は、多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性単量体を必須とする水溶性単量体を重合させる水溶性高分子の製造方法である。
本発明において、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤を併用することにより、多糖類に高分子量の重合体をグラフトすることができるうえ、残存モノマー量が少なく、得られる水溶性高分子を凝集剤として使用した場合、各種凝集性能に優れる理由は、以下の通りであると推定している。
即ち、水素引抜き剤は、多糖類の骨格から水素引き抜きし、水溶性単量体を多糖類にグラフト重合させる起点とすることができ、同時に重合開始剤として機能し、発生したラジカルにより水溶性単量体の主鎖の成長促進させることができる。さらに、アゾ系重合開始剤は、高温においてラジカルを発生するため、水溶性単量体が高分子量体となり、発熱量が多くなり高温となった時点でラジカルを発生するため、未反応の残存モノマーをこれが消費する。
【0036】
重合形式としては、水溶液重合、逆相懸濁重合及び逆相エマルション等が挙げられ、水溶液重合及び逆相エマルションが好ましく、取り扱いが容易である点で、水溶液重合がより好ましい。
水溶液重合を採用する場合においては、水性媒体中に、多糖類及び水溶性単量体を溶解又は分散させ、重合開始剤の存在下10〜100℃で重合させる。原料の多糖類及び水溶性単量体は、水中に溶解又は分散させたものを、水性媒体に添加して使用する。
逆相エマルション重合を採用する場合においては、多糖類及び単量体を含む水溶液と、HLBが3〜6である疎水性界面活性剤を含む有機分散媒とを攪拌混合し乳化させた後、重合開始剤の存在下10〜100℃で重合させ、油中水型(逆相)重合体エマルションを得る方法が挙げられる。有機分散媒としては、ミネラルスピリット等の高沸点炭化水素系溶剤等が挙げられる。
水性媒体中又は有機分散媒中の多糖類及び単量体の割合は、目的に応じて適宜設定すれば良く、20〜70質量%が好ましい。
【0037】
重合方法としては、使用する重合開始剤の種類に従い、光重合やレドックス重合等を行えば良い。
具体的な重合方法としては、水素引抜き剤として、RD引抜き剤を使用する場合には、多糖類及び水溶性単量体を含む水溶液に、アゾ系重合開始剤及びRD引抜き剤を添加すれば良く、水素引抜き剤として、PT引抜き剤を使用する場合には、多糖類及び水溶性単量体を含む水溶液に、アゾ系重合開始剤及びPT引抜き剤を添加した後、光照射すれば良い。
重合方法としては、光重合とレドックス重合を併用することも可能である。
【0038】
分子量の調節を行う場合、連鎖移動剤を使用しても良い。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール及びメルカプトプロピオン酸等のチオール化合物や、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸水素ナトリウム及び次亜リン酸ナトリウム等の還元性無機塩類等が挙げられる。
【0039】
本発明では、重合時間が早く生産性に優れるため、重合を光照射下で行うことが好ましい。
【0040】
光照射重合を行う場合において、照射する光としては、紫外線又は/及び可視光線が用いられ、そのうちでも紫外線が好ましい。
光照射の強度は、水溶性単量体の種類、光重合開始剤及び/又は光増感剤の種類や濃度、目的とする水溶性高分子の分子量、重合時間などを考慮して決定されるが、一般に0.5〜1,000W/m2が好ましく、5〜400W/m2がより好ましい。
光源としては、例えば、蛍光ケミカルランプ、蛍光青色ランプ、メタルハライドランプ及び高圧水銀ランプ等を使用することができる。
【0041】
光照射重合反応において、水溶性単量体の水溶液の温度は特に制限されないが、光重合反応を温和な条件下で円滑に進行させるために、通常は、5〜100℃であることが好ましく、10〜95℃であることがより好ましい。重合開始時の温度としては、得られる水溶性高分子の分子量を大きいものとすることができ、さらに除熱が容易である点で、5〜15℃が好ましい。
【0042】
水溶性単量体の水溶液の光照射重合反応は、バッチ式で行っても、又は連続式で行っても良い。
【0043】
本発明で得られる水溶性高分子の使用にあたっては、本発明で得られる水溶性高分子は、多糖類に水溶性単量体の高分子がグラフト化した、グラフト共重合体が主成分であるが、水溶性重合体が存在していても良い。
【0044】
本発明で得られる水溶性高分子は、分子量の指標である0.5%塩粘度が5〜200mPa・sのものが好ましく、後記する高分子凝集剤として使用する場合、安定した脱水処理を達成するためには、10〜120mPa・sのもの15〜90mPa・sがより好ましい。
尚、本発明において0.5%塩粘度とは、4%塩化ナトリウム水溶液に水溶性高分子を0.5%溶解した試料を25℃で、B型粘度計にて、ローターNo.1又は2を用いて、60rpmで測定した値をいう。
【0045】
本発明の製造方法によれば、不溶解分を抑制することができる。得られる高分子としては、0.1%不溶解分量が洗浄後で5ml以下のものが好ましい。
尚、本発明において0.1%不溶解分量では、高分子を純水に溶解し、400mlの0.1質量%(固形分換算)溶液を調製する。この溶液全量を直径20cm、83メッシュの篩で濾過し、篩上に残った不溶解分を集めてその容量を測定した値をいう。
【0046】
水溶液重合により得られた高分子は、通常ゲル状で、公知の方法で細断し、バンド式乾燥機、遠赤外線式乾燥機等で温度60〜150℃程度で乾燥し、ロール式粉砕機等で粉砕して粉末状の高分子とされ、粒度調整され、あるいは添加剤等が加えられて使用される。
【0047】
本発明で得られる水溶性高分子は、種々の用途に粉末状品のものが好ましく使用される。
【0048】
2.用途
本発明で得られる水溶性高分子は、種々の用途に応用することが可能であり、特に高分子凝集剤として有用である。高分子凝集剤としては、さらに汚泥脱水剤、及び歩留向上剤等の製紙工程における抄紙用薬剤等に好ましく使用できる。
本発明の高分子凝集剤は、特に汚泥脱水剤及び歩留向上剤として有用なものである。以下、汚泥脱水剤及び歩留向上剤について説明する。
【0049】
1)汚泥脱水剤及び汚泥の脱水方法
本発明の汚泥脱水剤(以下高分子凝集剤ということもある)の使用に際しては、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム及びスルファミン酸等、脱水処理に悪影響がでないかぎり公知の添加剤と混合して使用しても良い。
【0050】
本発明の汚泥脱水剤は、種々の汚泥に適用可能であり、下水、し尿、並びに食品工業、化学工業及びパルプ又は製紙工業汚泥等の一般産業排水で生じる有機性汚泥及び凝集沈降汚泥を含む混合汚泥等を挙げることができる。
本発明の汚泥脱水剤は、特に繊維分が少ない汚泥、即ち余剰比率の高い汚泥に好ましく適用できるものである。具体的には、余剰比率が10SS%以上の汚泥に好ましく適用でき、より好ましくは20〜50SS%の汚泥に適用できる。
【0051】
本発明の汚泥脱水剤を使用する脱水方法は、具体的には、汚泥に汚泥脱水剤を添加した後、これにより汚泥フロックを形成させるものである。フロックの形成方法は、公知の方法に従えば良い。
【0052】
又、必要に応じて、無機凝集剤、有機カチオン性化合物、カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用することができる。
【0053】
無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄及び硫酸第一鉄及びポリ硫酸鉄等を例示できる。
【0054】
有機カチオン性化合物としては、ポリマーポリアミン、ポリアミジン及びカチオン性界面活性剤等を例示できる。
【0055】
無機凝集剤又は有機カチオン性化合物を添加した場合においては、pHを4〜8とすることが、より効果的に汚泥の処理を行うことができるため好ましい。
pHの調整方法としては、無機凝集剤又は有機カチオン性化合物を添加した後、当該pH値を満たす場合は、特にpH調整の必要はないが、本発明で限定する範囲を満たさない場合は、酸又はアルカリを添加して調整する。
酸としては、塩酸、硫酸、酢酸及びスルファミン酸等を挙げることができる。又、アルカリとしては、苛性ソーダ、苛性カリ、消石灰及びアンモニア等が挙げられる。
【0056】
カチオン性高分子凝集剤としては、前記したカチオン性単量体の単独重合体及び前記したカチオン性単量体及びノニオン性単量体の共重合体等を挙げることができる。
【0057】
アニオン性高分子凝集剤としては、前記したアニオン性単量体の単独重合体及び前記したアニオン性単量体及びノニオン性単量体の共重合体等を挙げることができる。
【0058】
高分子凝集剤の汚泥に対する添加割合としては、5〜500ppmが好ましく、SSに対しては0.05〜1質量%が好ましい。高分子凝集剤とその他の高分子凝集剤を併用する場合は、全高分子凝集剤の合計量が前記添加割合を満たすことが好ましい。
【0059】
汚泥脱水剤、その他凝集剤の添加量、攪拌速度、攪拌時間等は、従来行われている脱水条件に従えば良い。
【0060】
このようにして形成したフロックは、公知の手段を用いて脱水し、脱水ケーキとする。
【0061】
脱水装置としては、スクリュープレス型脱水機、ベルトプレス型脱水機、フィルタープレス型脱水機及びスクリューデカンター等を例示することが出来る。
【0062】
又、本発明の汚泥脱水剤は、濾過部を有する造粒濃縮槽を使用する脱水方法にも適用可能である。
具体的には、汚泥に、無機凝集剤を添加し、さらに汚泥脱水剤を添加した後、又は汚泥脱水剤と共に、該汚泥の濾過部を有する造粒濃縮槽に導入し、該濾過部からろ液を取り出すと共に造粒し、この造粒物を脱水機で脱水処理する方法等が挙げられる。
【0063】
2)歩留向上剤及び抄紙方法
本発明の水溶性高分子を歩留向上剤として使用する場合、高分子としては、粉末状のものが好ましい。又、実際の使用に当たっては、原料の高分子を水に溶解させ、0.01〜0.5質量%水溶液として使用することが好ましく、より好ましくは0.01〜0.1質量%水溶液である。
歩留向上剤の使用方法としては常法に従えば良く、例えば、紙料を抄紙機に送入する最終濃度に希釈する際、又は希釈後に添加する。
【0064】
歩留向上剤が適用される紙料としては、通常の抄紙工程で使用されるものであればよく、通常、少なくともパルプ及び填料を含み、必要に応じて填料以外の添加剤、具体的には、サイズ剤、定着剤、紙力増強剤及び着色剤等を含むものである。
填料としては、白土、カオリン、アガライト、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸石灰、硫酸バリウム、酸化亜鉛及び酸化チタン等が挙げられる。サイズ剤としては、アクリル酸・スチレン共重合体等が挙げられ、定着剤としては、硫酸バンド、カチオン澱粉及びアルキルケテンダイマー等が挙げられ、紙力増強剤としては、澱粉及びカチオン性又は両性ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0065】
歩留向上剤の好ましい添加割合としては、紙料中の乾燥パルプ質量当たり、0.05〜0.8質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
歩留向上剤の添加後の紙料のpHとしては、5〜10に維持することが好ましく、より好ましくは5〜8である。歩留向上剤の添加後に、紙料は直ちに抄紙機に送入される。
【発明の効果】
【0066】
本発明は、簡便な方法で、多糖類に高分子量の重合体をグラフトすることができるうえ、残存モノマー量が少なく、得られる水溶性高分子は、特に凝集剤として各種凝集性能に優れ、特に高分子凝集剤及び歩留まり向上剤として優れた特性をも発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
本発明は、多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性単量体を必須とする水溶性単量体を重合させる水溶性高分子の製造方法である。
アゾ系重合開始剤としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して、50〜5000ppm使用することが好ましい。
水素引抜き剤として、過酸化物を使用することが好ましく、これを多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して10〜1000ppmを使用することが好ましい。
水溶性単量体としては、多糖類及び水溶性単量体の合計量に対して50質量%以上使用することが好ましい。
得られる水溶性高分子の0.5%塩粘度は、5〜200mPa・sであるものが好ましい。又、前記重合は、光重合により行うことが好ましい。
さらに、本発明の製造方法で得られる水溶性高分子は、高分子凝集剤として好ましく使用でき、特に汚泥脱水剤及び歩留り向上剤として好ましく使用できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
尚、以下において、「%」とは、質量%を意味する。
【0069】
〇実施例1
ステンレス製ジュワー瓶に、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩(以下、「DAC」という。)水溶液、アクリルアミド(以下、「AM」という。)水溶液を、重量比でDAC/AM=60/40(モル比で35/65)で固形分56%となる様に760g仕込んだ。
両性化澱粉スラリー〔王子コンスターチ(株)製エースKT−245。固形分:22%以下、「KT−245」という。〕を、イオン交換水を使用して、固形分5%まで希釈し、さらに80℃で30分加熱しクッキングし、固形分6%の両性化澱粉スラリーとした。これを、単量体及び澱粉の固形分換算合計量に対して3%分に相当する220gを仕込み、イオン交換水を20g加えて、全単量体及び澱粉の固形分濃度43%、総重量1.0kgに調整して、攪拌分散させた。
続いて、窒素ガスを60分間溶液に吹き込みながら溶液温度を10℃に調節後、全単量体及び澱粉の固形分重量を基準として、アゾビスアミジノプロパン塩酸塩(以下、V−50という。)を1000ppm、過硫酸アンモニウム(以下、APSという)を30ppm、亜硫酸水素ナトリウムを30ppm、塩化第二銅を0.3ppmとなるように加えて、重合を開始して、60分後に含水ゲル状の水溶性高分子を得た。
得られた高分子を容器から取り出し細断した。これを温度80℃で5時間乾燥後粉砕して粉末状の高分子を得た。この高分子をA−1という。A−1について0.1%不溶解分量(以下単に不溶解分という)、0.5%塩粘度(以下単に塩粘度という)及び残存モノマー量を、以下の方法に従い測定した。それらの結果を表1に示す。
【0070】
・不溶解分
高分子を純水に溶解し、400mlの0.1%(固形分換算)水溶液を調製する。
この水溶液の全量を直径20cm83メッシュの篩で濾過し、篩上に残った不溶解分を集めてその容量を測定する。
【0071】
・塩粘度
高分子を4%の塩化ナトリウム水溶液に溶解し、0.5%高分子水溶液を調製する。B型粘度計を用いて、25℃、60rpm、5分後の高分子水溶液の粘度を測定する。
【0072】
・残存モノマー量
高分子2.0gを30ml三角フラスコに秤量して、8/2=アセトン/水の混合液を20ml加えて1時間抽出後、日立製作所(株)製G−3000型を使用して、ガスクロマトグラフィーにより未反応アクリルアミド量を測定する。
【0073】
〇実施例2
表1に示す単量体及び多糖類を使用し、実施例1と同様の条件で重合を行い、含水ゲル状の水溶性高分子を得た。尚、KT−36は、王子コンスターチ(株)製カチオン化澱粉(商品名:エースKT−36。固形分:22%。以下「KT−36」という)であり、実施例1と同様の条件でクッキングしたものを使用した。
得られた高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の高分子を得た。
得られた高分子について、実施例1と同様の方法に従い不溶解分、塩粘度及び残存モノマー量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0074】
○比較例1〜同3
表1に示す単量体及び多糖類を使用し、実施例1と同様の条件で重合を行い、含水ゲル状の水溶性高分子を得た。
得られた高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の高分子を得た。
得られた高分子について、実施例1と同様の方法に従い不溶解分、塩粘度及び残存モノマー量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1、同2及び比較例1では、問題なく重合が進行し、高い塩粘度で、不溶解分及び残存モノマー量の少ない高分子を得ることができた。但し、後記する比較例8で示す通り、比較例1で得られた高分子は、凝集剤としての性能が不十分なものであった。
一方、水素引抜き剤を使用しない比較例2では、グラフト化が不十分であったため、得られる高分子のゲルが、澱粉リッチな高分子と単量体リッチな高分子と考えられる、二層に分離してしまうという問題が発生した。又、アゾ系重合開始剤を使用しない比較例3では、得られる高分子の塩粘度が低く、残存モノマー量が多いものとなってしまった。
【0077】
○実施例3
ステンレス製反応容器に、DAC水溶液及びAM水溶液を、重量比でDAC/AM=60/40(モル比で35/65)で固形分56%となる様に760g仕込んだ。
KT−245を、実施例1と同様の条件でクッキングした、固形分6%のものを使用した。これを、単量体及び澱粉の固形分換算合計量に対して3%分に相当する220gを仕込み、イオン交換水を20g加えて、全単量体及び澱粉の固形分濃度43%、総重量1.0kgに調整して、攪拌分散させた。
続いて、窒素ガスを60分間溶液に吹き込みながら溶液温度を10℃に調節後、全単量体及び澱粉の固形分重量を基準として、V−50を1000ppm、塩化第二銅を0.3ppm、APSを30ppm、亜硫酸水素ナトリウムを30ppmとなるように加えて、反応容器の上方から、100Wブラックライトを用いて6.0mW/cm2の照射強度で60分間照射して重合を行い、含水ゲル状の水溶性高分子を得た。
得られた高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の高分子を得た。この高分子をA−3という。
得られた高分子について、実施例1と同様の方法に従い不溶解分、塩粘度及び残存モノマー量を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0078】
○実施例4〜同6
表2に示す単量体及び多糖類を使用し、実施例3と同様の条件で重合を行い、含水ゲル状の水溶性高分子を得た。
尚、表2において、AAは、アクリル酸を意味する。
得られた高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の高分子を得た。
得られた高分子について、実施例1と同様の方法に従い不溶解分、塩粘度及び残存モノマー量を測定した。それらの結果を表2に示す。
実施例4〜同6では、問題なく重合が進行し、高い塩粘度で、不溶解分及び残存モノマー量の少ない高分子を得ることができた。
【0079】
【表2】

【0080】
○比較例4〜同7
表3に示す単量体及び多糖類を使用し、実施例3と同様の条件で重合を行い、含水ゲル状の水溶性高分子を得た。
得られた高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の高分子を得た。
得られた高分子について、実施例1と同様の方法に従い不溶解分、塩粘度及び残存モノマー量を測定した。それらの結果を表3に示す。
澱粉を使用しない比較例4及び同5では、問題なく重合が進行し、高い塩粘度で、不溶解分及び残存モノマー量の少ない高分子を得ることができた。但し、後記する比較例9及び同10で示す通り、比較例4及び同5で得られた高分子は、凝集剤としての性能が不十分なものであった。
一方、水素引抜き剤を使用しない比較例6では、グラフト化が不十分であったため、得られる高分子のゲルが二層分離してしまうという問題が発生した。又、アゾ系重合開始剤を使用しない比較例7では、得られる高分子の塩粘度が低く、残存モノマー量が多いものとなってしまった。
【0081】
【表3】

【0082】
○実施例7及び同8(汚泥脱水剤としての応用)
処理対象汚泥として製紙用廃水(pH=6.5,SS=40000mg/l)を用い、汚泥脱水性能を評価した。凝集剤としては、前記実施例で得られた高分子A−1及びA−2の0.1%水溶液を使用した。
汚泥200mlを500mlのビーカーに採取し、凝集剤を汚泥に添加した後、攪拌機を用いて90秒間攪拌して汚泥フロックを生成させ、フロックの粒径を測定した。
その後、80メッシュの網をフィルターとして用いて、前記汚泥フロック分散液を重力濾過した。10秒後の濾液容量を測定しこれを濾過速度として示した。これらの評価結果を表4に示す。
【0083】
○比較例8(汚泥脱水剤としての応用)
実施例7において、凝集剤として高分子B−1の0.2%水溶液を使用する以外は実施例7と同様にして汚泥フロックを生成させ、フロックの粒径を測定した。
その後、実施例7と同様にして、濾過速度及び含水量を測定した。それらの評価結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4の結果から、本発明の高分子凝集剤は、フロック径も大きく、初期の濾水速度も速く、水切りも良好で非常に性能が良好なフロックが得られた。
一方、澱粉変性しない水溶性高分(比較例8)は、汚泥脱水性能が不十分なものであった。
【0086】
○実施例9〜同12(汚泥脱水剤としての応用)
処理対象汚泥として製紙用廃水(pH=7.0,SS=30700mg/l)を用い、汚泥脱水性能を評価した。凝集剤としては、前記実施例で得られた高分子A−3〜A−6の0.1%水溶液を使用した。
実施例7と同様の方法で汚泥フロックを生成させ、フロックの粒径を測定した。
その後、実施例7と同様にして、濾過速度及び含水量を測定した。それらの評価結果を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
○比較例9〜同11(汚泥脱水剤としての応用)
実施例9において、凝集剤として、前記比較例で得られた高分子B−4〜B−6の0.2%水溶液を使用した以外は実施例9と同様にして汚泥フロックを生成させ、フロックの粒径を測定した。
その後、実施例7と同様にして、濾過速度及び含水量を測定した。それらの評価結果を表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
表5及び表6の結果から、本発明の高分子凝集剤は、フロック径も大きく、初期の濾水速度も速く、水切りも良好で非常に性能が良好なフロックが得られた。
一方、澱粉変性しない水溶性高分子(比較例9及び同10)や、澱粉変性するが、アゾ系重合開始剤のみで、水素引抜き剤を使用しないで製造された水溶性高分子(比較例11)では、汚泥脱水性能が不十分なものであった。
【0091】
〇実施例13及び同14、比較例12(歩留り向上剤としての応用)
脱墨した後の古紙(以下DIPという)を、離解、叩解した1%のパルプスラリー(以下原料パルプスラリーという)を使用した。尚、DIPの離解は、1%の試料を使用する以外は、JIS P 8121に準拠したカナダ標準ろ水度(カナディアン スタンダード フリーネス、以下CSFという)で280mlとなるまで行った。
原料パルプスラリーを1000rpmで攪拌しながら、硫酸バンドをパルプ固形分に対して0.5質量%添加した後、歩留り向上剤として、得られた水溶性高分子の0.05%水溶液をパルプ固形分に対して200ppm添加した。
調製したスラリ−を300ml採取し、1000mlにメスアップしてCSFヘッドボックスに移液後落水させた時の濾水量を計量した。最終pH=7.0であった。
【0092】
・歩留り率
原料パルプスラリーを1000rpmで攪拌しながら、上記の同様の割合で硫酸バンド及び歩留り向上剤を添加した後、ダイナミックドレネージャー法にて総歩留り率を測定した。
【0093】
・抄紙後の地合い性
歩留り向上剤添加後のパルプスラリーを使用して、熊谷理機工業(株)製角型ブロンズスクリ−ンにより抄紙し、角型シートマシーンプレスにてプレス後、オートドライヤー100℃にて乾燥して出来た紙の地合を目視にて確認した。尚、表7における、○及び△の意味は、以下の通りである。
〇:紙が均一である、△:繊維分が若干凝集している箇所有り
【0094】
【表7】

【0095】
本発明の歩留り向上剤は、澱粉変性しない比較例12の歩留り向上剤に対して、濾水量及び歩留まり率が良好で、抄紙後の紙も非常に地合性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の製造方法は、水溶性高分子の製造に利用でき、得られる水溶性高分子は、高分子凝集剤として好ましく利用でき、特に汚泥脱水剤及び歩留り向上剤としてより好ましく利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性ラジカル重合性単量体を必須とする水溶性ラジカル重合性単量体を重合させる水溶性高分子の製造方法。
【請求項2】
多糖類及び水溶性ラジカル重合性単量体の合計量に対して、アゾ系重合開始剤を50〜5000ppm使用する請求項1記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項3】
前記水素引抜き剤として、過酸化物を使用する請求項1又は請求項2のいずれかに記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項4】
多糖類及び水溶性ラジカル重合性単量体の合計量に対して、前記過酸化物を10〜1000ppmを使用する請求項3記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項5】
水溶性ラジカル重合性単量体を、多糖類及び水溶性ラジカル重合性単量体の合計量に対して50質量%以上使用する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項6】
得られる水溶性高分子の0.5%塩粘度が5〜200mPa・sである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項7】
前記重合を光照射下に行う請求項1〜請求項6のいずれかに記載の水溶性高分子の製造方法。
【請求項8】
多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性ラジカル重合性単量体を必須とする水溶性ラジカル重合性単量体を重合させ得られた水溶性高分子からなる高分子凝集剤。
【請求項9】
請求項8記載の高分子凝集剤からなる汚泥脱水剤。
【請求項10】
請求項8記載の高分子凝集剤からなる歩留り向上剤。

【国際公開番号】WO2005/054316
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515959(P2005−515959)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017936
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】