説明

水熱酸化分解処理装置

【課題】流体状の被処理物の酸化分解を効率よく進めることにより被処理物の処理効率を向上させることが可能な水熱酸化分解処理装置を提供する。
【解決手段】水熱酸化分解処理装置は、被処理物を酸化処理するための反応室24を形成する反応器20を備えている。反応室24内には、被処理物を導入するための導入管12が接続されているとともに、同導入管12の下方に棚板25,26が備えられている。棚板25,26を回転自在に貫通している駆動軸31の表面には撹拌棒33,34が水平方向に設けられている。また、棚板25,26上には、複数の球体から構成される被着体36,37が充填されている。さらに、被着体36,37の上方および下方には、酸化剤を供給する供給管51,52,53が接続されている。反応室24に導入された被処理物は被着体36,37に付着した後、撹拌棒33,34により被着体36,37と共に撹拌されながら酸化分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体状の被処理物を高温・高圧の条件下で酸化分解処理する水熱酸化分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、PCB(ポリ塩素化ビフェニル)またはダイオキシンなどの有害物質や食品加工残渣、下水汚泥または家畜排泄物などの有機性廃棄物を無害な物質に分解処理する水熱酸化分解処理装置が知られている。水熱酸化分解処理装置は、高温・高圧状態の水の中に酸化剤と被処理物とを投入して被処理物を酸化分解する装置である。例えば、下記特許文献1および特許文献2には、超臨界水(水を臨界温度(374℃)以上に加熱するとともに、臨界圧力(22MPa)以上に加圧した状態の流体)と酸化剤(酸素)とを用いて、有害性有機物や難分解性有機物などを含む被処理物を酸化反応させて二酸化炭素、水、無機塩などの無害な物質に転化する水熱酸化分解処理装置がそれぞれ開示されている。
【特許文献1】特開2002−273194号公報
【特許文献2】特開2002−186843号公報
【0003】
一般に、このような水熱酸化分解処理装置においては、被処理物を液状またはスラリー状にして処理を行っている。しかしながら、被処理物が固形分を含むなどによってスラリー状の場合、液体状の被処理物に比べて酸化分解に多くの時間を要し処理効率の点で問題となる。特に、被処理物を酸化分解させる反応室が垂直方向(縦方向)に延びて形成された所謂縦型の反応器を備える水熱酸化分解処理装置においては、酸化分解効率が低い反応器の底部に被処理物の一部がスラリー状態を保って溜まり易く、処理効率の低下が問題となる。
【発明の開示】
【0004】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、スラリー状、半固体状または液体状の被処理物、すなわち、流体状の被処理物の酸化分解を効率よく進めることにより被処理物の処理効率を向上させることが可能な水熱酸化分解処理装置を提供することにある。
【0005】
なお、上記特許文献1には、予熱器を用いて反応器内に導かれる被処理物の温度を反応器内の温度に近い温度に予め熱することにより、反応器内に投入された被処理物の酸化分解を迅速に開始させることができる水熱酸化分解処理装置が開示されている。しかし、本発明は、これとは異なる手法によって、流体状の被処理物の酸化分解を促進する水熱酸化分解処理装置を提供するものである。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、流体状の被処理物を導入するための導入口、および被処理物を酸化分解することにより生成される反応物質を排出するための排出口を有し、加熱および加圧された条件下で水と酸化剤とを用いて被処理物を酸化分解する反応器と、反応器内に酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを備えた水熱酸化分解処理装置において、反応器内に供給された流体状の被処理物を付着させることにより、同被処理物の表面積を拡大するための被着部を備えたことにある。
【0007】
この場合、前記被着部を、例えば、複数の物体の集合で構成するとよい。また、この場合、前記被着部を構成する前記複数の物体を、例えば、球体にするとよい。また、これらの場合、反応器内の水として、例えば、超臨界水、亜臨界水、または温度が水の臨界温度(374℃)以上700℃以下、圧力が5MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満の高圧過熱水蒸気を用いるとよい。
【0008】
なお、上記した超臨界水とは、水を水の臨界温度(374℃)以上の温度に加熱するとともに、水の臨界圧力(22MPa)以上の圧力に加圧した状態の流体である。また、亜臨界水とは、水を200℃〜350℃の温度に加熱するとともに、同加熱した温度に対応する飽和水蒸気圧以上(200℃では1.55MPa、350℃では16.5MPa)の圧力に加圧した状態の流体である。
【0009】
このように構成した本発明の特徴によれば、導入口から反応器内に導入された流体状の被処理物、例えば、スラリー状、半固体状または液体状の被処理物を付着させるための被着部を備えている。この被着部は、反応器内に導入されたスラリー状、半固体状または液体状の被処理物の表面積を拡大するものである。これにより、反応器内に導かれ被着部に付着したスラリー状、半固体状または液体状、すなわち、流体状の被処理物の表面積を拡大し酸化剤との接触面積を拡大することができる。この結果、流体状の被処理物の酸化分解を効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。
【0010】
なお、上記特許文献2には、反応器内に導入された被処理物の流路を規制しながら排気管に導く流路規制手段を備えた水熱酸化分解処理装置が開示されている。しかし、上記特許文献2に開示された水熱酸化分解処理装置は、霧状の被処理物の反応器内での滞留時間を確保して水熱酸化分解反応を促進させようとするものある。一方、本発明に係る水熱酸化分解処理装置は、スラリー状、半固体状または液体状の被処理物の反応器内での表面積を拡大して水熱酸化分解反応を促進させようとするものである点において上記特許文献2に開示された水熱酸化分解装置とは異なる技術的特徴を有するものである。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記水熱酸化分解処理装置において、導入口と反応器の底部との間で被着部を支持するとともに、被処理物が透過可能な支持部を備えたことにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、被処理物を酸化分解するために必要な温度および圧力が安定的に維持される領域に支持部を設けて被着部を支持することができる。このため、同領域に被処理物を滞留させることができ被着部に付着した被処理物を効率よく安定的に酸化分解することができる。この結果、流体状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記水熱酸化分解処理装置において、被着部を撹拌するための被着部撹拌手段を備えたことにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、被着部を撹拌するための被着部撹拌手段を備えている。これにより、より多くの被着部に被処理物が付着させることができるとともに被処理物を分散することができ、さらに酸化剤との接触面積を大きくすることができる。また、被着部が互いに擦れ合うことにより被処理物に含まれる固形分がすり潰されて酸化分解が促進される。この結果、流体状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。なお、被着部が撹拌されることにより反応器の内壁面に付着する固体残渣も掻き取ることができ、固体残渣の収率の向上および反応器のメンテナンスの負担も軽減される。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記水熱酸化分解処理装置において、反応器の底部に導かれた物質を撹拌するための底部撹拌手段を備えたことにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、反応器内の底部に導かれる物質を撹拌するための底部撹拌手段を備えている。これにより、被着部を介しても酸化分解仕切れなかった被処理物が反応器の底部に導かれた場合であっても、これらの残留被処理物を撹拌して酸化分解を促すことができる。また、被処理物が酸化分解された反応物質(例えば固体(無機)残渣)が反応器の底部に導かれた場合には、反応物質の堆積の偏りを防ぐことができるとともに堆積する反応物質の固化を防止することができ、反応器内からの反応物質の排出が容易となる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記水熱酸化分解処理装置において、酸化剤供給手段は、被着部ごとに互いに異なる複数の位置から酸化剤を供給したことにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、被着部ごとに複数の位置から酸化剤を供給している。これにより、被着部に付着して表面積が拡大した被処理物に充分な酸化剤を供給することができる。この結果、スラリー状、半固体状または液体状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る水熱酸化分解処理装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、高圧過熱水蒸気を用いて家畜排泄物や下水汚泥を酸化分解して無害な物質に転化する水熱酸化分解処理装置の全体構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態においては、水を450℃に加熱するとともに15MPaに加圧した状態の高圧過熱水蒸気を用いる。この水熱酸化分解処理装置は、被処理物を貯留する貯留タンク11を備えている。
【0020】
貯留タンク11は、水熱酸化分解処理装置の処理対象であるスラリー状(流体状)の被処理物を貯留するための容器である。本実施形態においては、家畜排泄物や下水汚泥に所定量の水を加えてスラリー状にした被処理物を貯留する。貯留タンク11の底部には、導入管12が接続されている。導入管12は、貯留タンク11に貯留されているスラリー状の被処理物を高圧ポンプ13およびバルブ14を介して第1反応器20に導くための配管である。高圧ポンプ13は、貯留タンク11に貯留されている被処理物を導入管12を介して第1反応器20に供給するための送液ポンプであり、図示しない制御装置により作動が制御される。また、高圧ポンプ13は、前記制御装置による作動制御により、第1反応器20内の圧力を15MPaに加圧し維持するとともに、後述する第2反応器64の反応室内(図示せず)の圧力を15MPaに加圧し維持する。バルブ14は、導入管12を介して第1反応器20に供給される被処理物の流量を調節するための手動弁である。
【0021】
第1反応器20は、図2(A),(B)に示すように、垂直方向(縦方向に)に沿って略円筒状に形成された筐体21を備えている。筐体21の上部には、略円盤状に形成された上蓋22が3つのボルト22a(1のみ図示)によって固定されている。また、筐体21の下部には、略円盤状に形成された底板23が3つのボルト23a(1のみ図示)によって固定されている。これらの上蓋22および底板23により筐体21の内部が密閉されて反応室24を形成している。反応室24は、高圧過熱水蒸気を用いて被処理物を酸化反応させて分解処理するための領域である。すなわち、この第1反応器20は、被処理物を酸化処理するための領域である反応室24が垂直方向(縦方向)に延びて形成された所謂縦型の反応器である。この第1反応器20を構成する筐体21、上蓋22および底板23は、被処理物を酸化反応させて分解処理する温度(本実施形態においては、450℃)および圧力(本実施形態においては、15MPa)に耐えられる材料、例えばステンレス材でそれぞれ構成されている。
【0022】
第1反応器20の内部における略中央部および下部には、網状に形成された棚板25,26がそれぞれ設けられている。棚板25,26は、ステンレス材で構成されており、筐体21の内径に対応した外径の略円盤状に形成されている。棚板25,26は、中心部に向かって錘状に僅かに傾斜して形成されており、その中心部に貫通孔25a,26aがそれぞれ設けられている。これらの貫通孔25a,26aには、駆動軸31がそれぞれ貫通している。駆動軸31は、丸棒状に形成されており、その一端部(図示上側)が上蓋22の略中心部を貫通して撹拌モータ32に連結支持されているとともに、他端部(図示下側)が軸受け27を貫通した状態で回転自在に支持されている。軸受け27は、4つの支持軸28(2つのみ図示)によって筐体21の下部中央部に支持されている。撹拌モータ32は、上蓋22の外側壁面(図示上側壁面)に固定された電動モータであり、前記制御装置によって作動が制御されて駆動軸31を回転させる。
【0023】
棚板25,26の各上方における駆動軸31の外周面には、各4つの撹拌棒33、34が互いに異なる高さの位置で、かつ互いに水平に直交した状態でそれぞれ設けられている。また、駆動軸31の下端部(図示下側)の外周面には、互いに異なる長さの2つの撹拌棒35が互いに異なる高さの位置で、かつ互いに水平に直交した状態でそれぞれ設けられている。棚板25,26の各上面には、複数の球体からなる被着体36,37がそれぞれ載置されている。被着体36,37は、それぞれ直径約2cmのセラミック製のボールの集合であり、棚板25,26の各上方にある撹拌棒33,34が埋もれる程度(500〜700個程度)にそれぞれ充填されている。したがって、駆動軸31が回転駆動することにより撹拌棒33,34が回転駆動して各被着体36,37が撹拌される。また、これと同時に駆動軸31の下端部に設けられた撹拌棒35も回転駆動する。なお、図2(B)においては、棚板25および撹拌棒33の理解を容易にするため被着体36を破線で示している。
【0024】
第1反応器20における筐体21の側面には、7つの配管がそれぞれ接続されている。具体的には、筐体21の側面における前記棚板25上に設けられた被着体36の上方に前記導入管12が接続されているとともに、同導入管12に対向する側面に給水管41が接続されている。給水管41は、第1反応器20の反応室24内に水を供給するための配管である。この給水管41の下方には、第1反応器20の反応室24内に酸化剤である空気(酸素)を供給するための3つの供給管51,52,53が縦方向に並んでそれぞれ接続されている。また、筐体21の側面における導入管12の下方には、被処理物を酸化分解することにより生成される反応ガスを排出するための2つの排気管61,62が縦方向に並んでそれぞれ接続されている。
【0025】
筐体21の外周面であって前記導入管12、排気管61,62および供給管51,52,53の各配管の間には、電熱コイル29が巻き回された状態で設けられている。電熱コイル29は、前記制御装置によって作動が制御される加熱装置であり、反応室24内の温度を450℃に加熱するとともに、同温度状態を維持する。すなわち、この電熱コイル29は、被処理物に含まれる水を高圧過熱水蒸気にするための熱源である。
【0026】
給水管41の上流側には、バルブ42および送水ポンプ43を介して貯水タンク44が接続されている。バルブ42は、給水管41を流れる水の流量を調整するための手動弁である。送水ポンプ43は、前記制御装置によりに作動が制御される送液ポンプであり、貯水タンク44に貯留された水を給水管41を介して第1反応器20内、すなわち反応室24に供給する。また、供給管51,52,53の各上流側には、バルブ51a,52a,53a、共通配管54およびコンプレッサー55を介して空気取込口56が接続されている。バルブ51a,52b,53cは、供給管51,52,53内をそれぞれ流れる空気の流量を調節するための手動弁である。コンプレッサー55は、前記制御装置により作動が制御される空気圧縮装置である。具体的には、コンプレッサー55は、空気取込口56を介して大気中から吸引した空気を圧縮して反応室24に供給して反応室24および後述する第2反応器64の反応室内の圧力を15MPaに加圧し維持する。
【0027】
排気管61,62の各下流側は、バルブ61a,62aおよび共通排気管63を介して第2反応器64に接続されている。バルブ61a,62aは、排気管61,62内をそれぞれ流れる反応ガスの流量を調節するための手動弁である。第2反応器64は、第1反応器20と同様に略円筒状に形成されており、その内部(すなわち、第2反応器64の図示しない反応室)に第1反応器20から排気された反応ガスに含まれるアンモニアを窒素ガスに転化するための図示しない触媒(例えば、二酸化マンガン)を備えている。この第2反応器64の外周面には、第2反応器64の内部(第2反応器64の図示しない反応室)を加熱するための電熱コイル65が巻き回された状態で設けられている。電熱コイル65は、前記電熱コイル29と同様に、前記制御装置によって作動が制御される加熱装置であり、第2反応器64内の温度を400℃に加熱するとともに、同温度状態を維持する。すなわち、この電熱コイル65は、触媒が効率よく作用する温度に加熱するための熱源である。
【0028】
第2反応器64の上部には、前記触媒を透過した反応ガスを第2反応器64から排気するための排気管66が接続されている。排気管66の下流側には、冷却器67、焼結フィルタ68および気液分離器69がそれぞれ設けられている。冷却器67は、排気管66を空冷および水冷方式により冷却して第2反応器64から排気された反応ガスの温度を大気温度に略等しい温度にまで下げる冷却装置であり、前記制御装置によって作動が制御される。焼結フィルタ68は、第2反応器64から排気された反応ガスに含まれる固形分を分離するためのものである。また、気液分離装置69は、第2反応器64から排気された反応ガスに含まれる水蒸気を液体として分離するとともに、同水蒸気が除かれた反応ガスを大気中に放出するための装置である。
【0029】
一方、反応室24の底部を形成する底板23には、反応室24内にて生成された固体(無機)残渣を廃棄するための廃棄管71が接続されている。この廃棄管71が接続された底板23の反応室24側の上面はすり鉢状に窪んだ形状に形成されており、反応室24内で生成された固体(無機)残渣が廃棄管71に導かれ易くなっている。廃棄管71の下流側には、残渣受器72およびバルブ73がそれぞれ設けられている。残渣受器72は、第1反応器20にて生成された固体(無機)残渣を回収して貯留しておく容器である。また、バルブ73は、残渣受器72に貯留された固体(無機)残渣を放出するための手動弁である。
【0030】
上記のように構成した水熱酸化分解処理装置の作動について説明する。まず、作業者は、家畜排泄物(または下水汚泥)と水とを混ぜ合わせたスラリー状の被処理物(含水率約60%)を貯留タンク11内に貯留するとともに、貯水タンク44に水を貯める。そして、水熱酸化分解処理装置における図示しない電源スイッチを投入して、被処理物の処理の開始を制御装置に指示する。この指示に応答して前記制御装置は、コンプレッサー55および電熱コイル29,65の各作動を開始させる。これにより、第1反応器20における反応室24内は、450℃に加熱されるとともに15MPaに加圧された状態となる。この場合、排気管61,62および共通排気管63を介して接続されている第2反応器64の反応室内の圧力も15MPaに加圧される。また、第2反応器64の反応室内の温度は400℃に加熱される。
【0031】
次に、制御装置は、撹拌モータ32の作動を開始させる。これにより、反応室24内の駆動軸31の回転が開始され、棚板25,26上に充填された被着体36,37がそれぞれ撹拌される。そして、制御装置は、高圧ポンプ13および冷却器68の各作動をそれぞれ開始させる。これにより、高圧ポンプ13は、第1反応器20の反応室24内に貯留タンク11に貯留されている被処理物の供給を開始する。
【0032】
導入管12を介して反応室24内に導入された被処理物は、反応室24の底部に向かって自由落下する。この場合、落下途中の被処理物に含まれる水分は450℃かつ15MPaの雰囲気中に曝されてその一部が高圧過熱水蒸気となり、被処理物に含まれる有機物を溶解する。高圧過熱水蒸気に溶解した有機物は、反応室24内に供給されている酸化剤によって酸化分解されて、水蒸気、二酸化炭素ガスおよびアンモニアガス等からなる反応ガスに転化する。また、被処理物に含まれる無機物(アルミナ、シリカ、リンなど)は粉状の固体(無機)残渣として析出する。なお、被処理物の酸化分解に必要な高圧過熱水蒸気が不足する場合、または反応室24内の圧力が不足する場合には、制御装置は送水ポンプ43の作動を制御して貯水タンク44に貯水されている水を反応室24内に適宜供給する。
【0033】
一方、高圧過熱水蒸気に至らなかった水分を含む被処理物および前記固体残渣は、被着体36上に落下して同被着体36の表面に付着する。この場合、被着体36は前記したように撹拌棒33の回転駆動によって撹拌されている。このため、被着体36に付着した被処理物は、被着体36と共に棚板25上で撹拌されながら酸化分解される。すなわち、被着体36に付着した被処理物に含まれる水分の一部が、前記と同様にして高圧過熱水蒸気となり被処理物の一部を酸化分解する。この場合、被着体36上に落下した被処理物は、被着体36に付着することにより表面積が拡大して酸化剤との接触面積が拡大する。また、被着体36は、被処理物の酸化分解に適した450℃かつ15MPaの雰囲気中に配置されている。これらにより、被処理物の酸化分解は良好に進行する。また、被着体36同士の接触により被処理物に含まれている固形分がすり潰されて酸化分解が促進される。さらに、被着体36および反応室24の壁面に付着した固体(無機)残渣も、被着体36の接触により擦り落とされる。
【0034】
また、高圧過熱水蒸気に至らなかった水分を含む被処理物および被処理物の酸化分解によって生じた固体残渣は、被着体36および棚板25を透過して被着体37上に落下する。この場合、棚板25を透過して落下途中の被処理物の一部も前記と同様にして酸化分解される。また、被着体37上に落下した被処理物も前記被着体36に付着した被処理物と同様に酸化分解される。これにより、被処理物は略完全に酸化分解されるとともに、酸化分解により生成された固体残渣は被着体37および棚板26を透過して反応室24の底部に落下する。反応室24の底部に落下した固体残渣は、撹拌棒35の回転駆動により撹拌されながら平坦に均される。また、被着体37内で完全に酸化分解されずに反応室24の底部にスラリー状の被処理物が落下した場合であっても、撹拌棒35によって撹拌され酸化分解が促される。
【0035】
被処理物の酸化分解によって生成された前記反応ガスは、排気管61,62および共通排気管63を介して第2反応器64に導かれる。第2反応器64は、反応ガスに含まれるアンモニアガスを窒素ガスに転化して排気管66から排気する。第2反応器64から排気された反応ガスは、排気管66を介して冷却器67、焼結フィルタ68および気液分離器69に導かれる。気液分離器69は、反応ガスに含まれる水蒸気を液化して貯留するとともに、二酸化炭素ガスおよび窒素ガスを大気中に放出する。
【0036】
一方、被処理物の酸化分解によって生成された固体(無機)残渣は、廃棄管71を介して残渣受器72内に回収され、作業者により適宜取り出される。このようにして、被処理物の酸化分解処理が連続的に実行されて、有機物を含む被処理物が水、二酸化炭素ガス、窒素ガスおよび無機物質などの無害な物質に分解される。そして、すべての被処理物を酸化処理した場合には、作業者は水熱酸化分解処理装置の作動を停止させて被処理物の酸化処理作業を終了する。
【0037】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、第1反応器20の反応室24内に被処理物を導入する導入管12の開口部の下方に複数の球体で構成される被着体36,37を備えている。このため、反応室24に導かれたスラリー状の被処理物は自由落下した後、被着体36,37に付着する。これにより、スラリー状の被処理物の表面積が拡大し酸化剤との接触面積が拡大する。この結果、スラリー状の被処理物の酸化分解を効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。
【0038】
また、上記実施形態によれば、被処理物を酸化分解するために必要な温度および圧力が安定的に維持される領域に棚板25,26を設けて被着体36,37を支持している。このため、同領域に被処理物を滞留させることができ被着体36,37に付着した被処理物を効率よく安定的に酸化分解することができる。この結果、スラリー状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。また、上記領域に被処理物を滞留させることができるため、反応室24の高さ方向の長さを短くすることができ、反応器20をコンパクトに形成することができる。
【0039】
また、上記実施形態によれば、撹拌棒33,34を回転駆動することにより被着体36,37を撹拌している。このため、より多くの被着体36,37に被処理物が付着するとともに被処理物を分散することができ、さらに酸化剤との接触面積を大きくすることができる。また、被着体36,37が互いに擦れ合うことにより被処理物に含まれる固形分がすり潰されて酸化分解が促進される。この結果、スラリー状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。なお、被着体36,37が撹拌されることにより、筐体21の側面(反応室24の壁面)および被着体36,37自身に付着する固体残渣も掻き取ることができ、固体残渣の収率の向上および第1反応器20のメンテナンスの負担が軽減される。
【0040】
また、上記実施形態によれば、被着体36,37ごとに酸化剤を供給するための供給管51,52,53を設け、被着体36,37の上方および下方から酸化剤を供給している。これにより、表面積が拡大した被処理物に充分な酸化剤を供給することができる。この結果、スラリー状の被処理物の酸化分解をさらに効率よく進めることができ、被処理物の処理効率を向上させることができる。
【0041】
また、上記実施形態によれば、反応室24の底部に導かれる被処理物および固体残渣を撹拌するための撹拌棒35を備えている。これにより、被着体36,37を介しても酸化分解仕切れなかった被処理物が反応室24の底部に導かれた場合であっても、これらの残留被処理物を撹拌して酸化分解を促すことができる。また、被処理物が酸化分解された固体残渣が同反応室24の底部に導かれた場合には、固体残渣の堆積の偏りを防ぐことができるとともに堆積する固体残渣の固化を防止することができ、固体残渣の反応室24からの排出が容易となる。
【0042】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0043】
上記実施形態においては、被処理物を酸化分解するために水の温度を450℃に加熱するとともに圧力を15MPaに加圧した状態の高圧過熱水蒸気を用いたが、被処理物を水熱酸化分解処理できれば、これに限定されるものではない。したがって、本実施形態とは異なる温度および圧力の高圧過熱水蒸気、具体的には、温度が水の臨界温度(374℃)以上700℃未満、圧力が5MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満の高圧過熱水蒸気の他、超臨界水または亜臨界水を用いて被処理物を酸化分解するようにしてもよい。ここで、超臨界水とは、水を水の臨界温度(374℃)以上の温度に加熱するとともに水の臨界圧力(22MPa)以上の圧力に加圧した状態の流体である。また、亜臨界水とは、水を200℃〜350℃の温度に加熱するとともに、同加熱された温度に対応する飽和水蒸気圧以上(200℃では1.55MPa、350℃では16.5MPa)の圧力に加圧した状態の流体である。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0044】
なお、上記実施形態においては、被処理物を第1反応器20および第2反応器64の2つの反応器を用いて処理したが、被処理物を適切に水熱酸化分解処理できれば、これに限定されるものではない。上記実施形態においては、処理温度が低い第1反応器20ではアンモニアガスを窒素ガスに転化できないため、第2反応器64を設けてアンモニアガスを窒素ガスに転化するようにした。したがって、第1反応器20のみによって被処理物を最終生成物にまで転化可能であれば2つ以上の反応器を設ける必要はない。
【0045】
また、上記実施形態においては、棚板25,26を設けて被着体36,37を反応室24の中央部および下部に設けて構成したが、被処理物を適切に水熱酸化分解処理できれば、これに限定されるものではない。上記実施形態においては、被処理物を酸化分解するために必要な温度および圧力が安定的に維持される領域に棚板25,26を設けたものである。したがって、被処理物を酸化分解するために必要な温度および圧力が安定的に維持される領域に棚板25,26を設けるようにすれば、棚板25,26の位置、数および形状等は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、同領域を反応室24の底部付近に設定した場合には、反応室24の底部に被着体36を配置することもできる。すなわち、棚板25,26は、必ずしも必要ではない。また、棚板25,26の数も1つでもよいし、3つ以上でもよい。なお、棚板を複数個設けることによって被着体を反応室24内に分散して配置することができる。これにより、反応室24内における温度分布の偏りを防止することができる。さらに、棚板25,26の形状も網状以外の形状、例えば平板に円形または楕円形の貫通孔を設けた形状に形成してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0046】
また、上記実施形態においては、撹拌棒33,34によって被着体36,37を撹拌するように構成したが、必ずしも撹拌する必要はない。被処理物が透過可能な状態で棚板25,26上に単に被着体36,37を充填した構成であってもよい。これによっても、反応室24内に導入された被処理物の表面積を拡大することができ被処理物の酸化分解を促進することができる。また、被着体36,37を撹拌する手法も、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、駆動軸31と棚板25,26とを連結して棚板25,26を回転駆動するように構成してもよい。この場合、回転駆動する棚板25,26に対して固定的に撹拌棒33,34を設けるとよい。さらに、被着体36,37を撹拌する撹拌棒33,34の形状および数も上記実施形態に限定されるものではない。例えば、平板または平板を捻った羽根体を用いて被着体36,37を撹拌するようにしてもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0047】
また、上記実施形態においては、駆動軸31の下端部に撹拌棒35を設け反応室24の底部に落下した被処理物を撹拌または同底部に堆積した固体残渣を撹拌および均すように構成した。しかし、反応室24の底部においてこれらの被処理物および固体残渣の撹拌が必要でない場合には、撹拌棒35は必ずしも必要ではない。また、撹拌棒35の形状および数なども上記実施形態に限定されるものではない。上記撹拌棒33,34と同様に平板または平板を捻った羽根体を用いるようにしてもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0048】
また、上記実施形態においては、3つの供給管51,52,53から反応室24内に酸化剤を供給するように構成した。これは、被着部35,36ごとに酸化剤を供給することにより被着部35,36に付着した被処理物の酸化分解を促進するためである。したがって、被着部35,36に付着する被処理物に充分な酸化剤を供給することができれば、酸化剤を供給する位置や数は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、1つの供給管(例えば、供給管52)のみから酸化剤を供給するようにしてもよいし、4つ以上の供給管から酸化剤を供給するように構成してもよい。これらによっても、被処理物の酸化分解を促進することができる。
【0049】
また、上記実施形態においては、被着体36,37の形状を球体に形成したが、被処理物を付着させることができる物体であれば、被着体36,37の形状、大きさ、材質、表面性状等は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、断面形状が楕円状の球体または多角形などの形状に形成してもよいし、被着体36,37を構成する個々の物体の形状を不定形としてもよい。また、被着体36,37を構成する材質もセラミック以外の材質、例えば、アルミナ、ジルコニア、ステンレス材または鉄鋼などを用いることもできる。また、被着体36,37をスチールウールなどの繊維上のものも使用してもよい。さらに、被着体36,37の表面に凸状の突起および/または凹状に窪んだ凹みを設けてもよいし、同表面を梨地状または多孔質状などに形成してもよい。すなわち、被着体36,37の形状は、被処理物が付着し易い形状、および/または付着した被処理物の表面積が拡大する形状に形成することが好ましい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0050】
また、被着体を上記実施形態と全く異なる形体とすることもできる。例えば、図3に示すように、反応室24内における導入管12の開口部と排気管62の開口部との間に略円盤状に形成された平板81を縦方向に複数枚備える。各平板81は、筐体21の内径に対応した外形に形成されるとともにその一部が切り欠かれており、導入口12から導入された被処理物が底部に向かって流れ落ちるように互い違いに傾斜して設けられている。これによれば、導入口12から導入された被処理物は、各平板81上を広がりながら交互に流れ落ちる過程において酸化分解される。これによっても、被処理物の酸化分解を促進することができる。
【0051】
また、例えば、図4に示すように、反応室24内における導入管12の開口部と反応室24の底部との間に略円盤状に形成された平板82を縦方向に複数枚備える。各平板82には、各平板82ごとに互いに異なる位置に複数の貫通孔82aが形成されている。これによれば、導入口12から導入された被処理物は、各平板81上に広がりながら貫通孔82aを通じて下方に流れ落ちる過程において酸化分解される。これによっても、被処理物の酸化分解を促進することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、反応室24が垂直方向(縦方向)に延びて形成された
所謂縦型の第1反応器20を用いたが、被処理物を水熱酸化分解処理物する反応器の形態は、これに限定されるものではない。すなわち、反応室24が水平方向(横方向)に延びて形成された所謂横型の反応器、または同横型の反応器を傾斜させた傾斜型の反応器に本発明を適用してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0053】
また、上記実施形態においては、酸化剤として空気を用いたが、被処理物を酸化処理できる物質であれば、これに限定されるものではない。例えば、酸素、オゾンまたは過酸化水素などを用いることができる。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0054】
また、上記実施形態においては、家畜排泄物および下水汚泥を被処理物としたが、被着体36,37に付着することによって変形し表面積が拡大する処理物、すなわち、流体状の処理物であれば、これに限定されるものではない。例えば、家畜排泄物および下水汚泥以外のバイオマス系廃棄物(例えば、廃材、食品加工残渣など)、PCB(ポリ塩素化ビフェニル)、ダイオキシンなどの物質を含むスラリー状または液体状の被処理物を処理対象としてもよい。また、可塑性物質で構成される所謂半固体状の被処理物であってもよい。例えば、一定形状を保った軟質の家畜排泄物と水とを別々に反応室24内に投入して酸化分解処理を行うように構成してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る水熱酸化分解処理装置の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】(A)図1に示す水熱酸化分解処理装置における反応器を示す一部破断正面図であり、(B)は(A)のA−A断面から見た反応器を示す断面図である。
【図3】本発明の変形例に係る反応器を示す一部破断断面図である。
【図4】本発明の他の変形例に係る反応器を示す一部破断断面図である。
【符号の説明】
【0056】
11…貯留タンク、12…導入管、13…高圧ポンプ、20…第1反応器、21…筐体、22…上蓋、23…底板、24…反応室、25,26…棚板、29…電熱コイル、31…駆動軸、32…撹拌モータ、33,34,35…撹拌棒、36,37…被着体、41…給水管、44…貯水タンク、51,52,53…供給管、55…コンプレッサー、61,62…排気管、64…第2反応器、71…廃棄管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体状の被処理物を導入するための導入口、および前記被処理物を酸化分解することにより生成される反応物質を排出するための排出口を有し、加熱および加圧された条件下で水と酸化剤とを用いて前記被処理物を酸化分解する反応器と、
前記反応器内に前記酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを備えた水熱酸化分解処理装置において、
前記反応器内に供給された前記流体状の被処理物を付着させることにより、同被処理物の表面積を拡大するための被着部を備えたことを特徴とする水熱酸化分解処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記被着部は、複数の物体の集合で構成される水熱酸化分解処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記被着部を構成する前記複数の物体は、球体である水熱酸化分解処理装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記導入口と前記反応器の底部との間で前記被着部を支持するとともに、前記被処理物が透過可能な支持部を備える水熱酸化分解処理装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記被着部を撹拌するための被着部撹拌手段を備えた水熱酸化分解処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記反応器の底部に導かれた物質を撹拌するための底部撹拌手段を備えた水熱酸化分解処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記酸化剤供給手段は、前記被着部ごとに互いに異なる複数の位置から前記酸化剤を供給する水熱酸化分解処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載した水熱酸化分解処理装置において、
前記反応器内の水は、超臨界水、亜臨界水、または温度が水の臨界温度(374℃)以上700℃以下、圧力が5MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満の高圧過熱水蒸気である水熱酸化分解処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−207135(P2008−207135A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48193(P2007−48193)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】