説明

水田用作業機

【課題】 多目的化を図った作業機において、転倒などの不都合を招くことなく機体を安定的に走行させるための操縦操作が行われやすくする。
【解決手段】
走行機体1に対する作業装置20の着脱を検出する手段50,51,53と、車速の検出または算出手段60とを備え、作業装置20を外しての走行時には、所定走行速度以上で、作業装置が取り付けられていない状態での走行であることを警告する報知手段15を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを搭載した自走式の走行機体に、播種または苗植付けを行う植播系作業装置や、除草機などの作業装置を着脱自在に構成してある水田用作業機に関し、詳しくは、走行機体から作業装置を取り外して走行する場合や、基準となる作業装置とは異なる種類の作業装置を装備して走行する場合の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の水田用作業機では、例えば、苗植付装置なその重量の大きい作業装置を走行機体の後部に昇降リンク機構を介して連結するように構成された作業機においては、走行機体の前部側重量物を配置するとともにバランスウェイトを装備し、走行機体を前バランス状態に構成することによって、作業装置を連結した状態での機体の安定性の向上を図るようにしている。
そのため、従来では、比較的重量の小さい防除装置を装備した場合には、そのことを検出して機体の最高走行速度を規制するようにして機体の安定化を図っていた(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−89312号公報(段落「0020」、図4,9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の水田用作業機では、走行機体に連結される作業装置の種類に応じて最高速度を規制するものであるから、高速走行での前バランスによる機体安定の崩れが抑制される点で有効である。しかしながら、この構造では、前述の制限速度に達しない状態での走行ではあっても、作業装置が連結されていないことや、軽い作業装置が連結されていることを意識しないで運転した場合、急ブレーキや坂道走行などを考慮した運転が行われない可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、多目的化を図った作業機において、転倒などの不都合を招くことなく機体を安定的に走行させるための操縦操作が行われやすくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために講じた本発明による水田用作業機では、下記の技術手段を講じたものである。
〔解決手段1〕
走行機体の後部に作業装置を着脱自在に連結するように構成した水田用作業機において、走行機体に対する作業装置の着脱を検出する手段と、車速の検出または算出手段とを備え、作業装置を外しての走行時には、所定走行速度以上で、作業装置が取り付けられていない状態での走行であることを警告する報知手段を備えた。
【0007】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記のように、走行機体に対する作業装置の着脱と車速とを検知して、所定走行速度以上で、作業装置が取り付けられていない状態での走行であることを警告する報知手段を備えたものであるから、その報知により運転者に作業装置が取り付いていない状態での機体走行であることの注意を喚起し、特に慎重な運転が必要な作業装置の取り付けられていない状態の走行を可能にしている。
【0008】
〔解決手段2〕
走行機体の後部に作業装置を着脱自在に連結するように構成した水田用作業機において、走行機体に対する所定の作業装置の着脱を検出する手段と、車速の検出または算出手段とを備え、所定の作業装置が取り付けられた状態での走行時には、所定走行速度以上で、所定の作業装置が取り付けられた状態での走行であることを警告する報知手段を備えた。
【0009】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段2にかかる発明では、走行機体に対して連結された作業装置が所定の作業装置であり、その所定の作業装置が取り付けられた状態での走行速度が所定走行速度以上であることを警告する報知手段を備えたものであるから、その報知により、運転者に所定の作業装置が取り付けられた状態での所定速度以上の機体走行であることの注意を喚起し、単に走行速度だけではなく、坂道での走行や急ブレーキ操作などに対しての注意を促すことができる。
【0010】
〔解決手段3〕
上記解決手段1または2に記載の水田用作業機において、変速装置の操作とアクセル操作を連動させ、変速操作位置の検出に基づいて車速を検出するように構成してある。
【0011】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段3にかかる発明では、変速操作がエンジン回転速度の変化や走行速度変化に直結した情報として検出されるので、車速検出手段が簡単になる利点がある。
しかも、エンジン回転数の変化を検出する状態となることで、例えば、作業装置を連結していない走行機体が、何らかの抵抗で停止したままでアイドリング回転数以上の所定速度であるように操作されたことが検出されると、急ブレーキにつながる急発進を避けるために、実際には走り出さなくても警報を出すように設定することも可能になる。
したがって、安定的な機体走行を行うための構成を、より一層簡単な構造によって得られる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔水田用作業機の全体構成〕
【0013】
図1には本発明の水田用作業機の一例である乗用型田植機の全体側面が示されており、この田植機は、乗用型に形成された走行機体1の後部に、油圧式のリフトシリンダ2の作動で昇降揺動するリンク機構3を介して苗植付装置20(本発明の作業装置に相当)を駆動昇降可能に連結して、走行機体1側から延出された動力取り出し軸4で駆動されるように構成してある。
【0014】
図1,2に示すように、走行機体1は、その前部に搭載されたエンジン5からの動力を、静油圧式無段変速装置6やギヤ式変速装置7などを介して、左右の前輪8及び後輪9に走行用として伝達する4輪駆動型に構成され、その中央部には、左右の前輪8を操舵するステアリングホイール10や運転座席11などを備えた搭乗運転部12が形成され、前記エンジン5が設けられたカバー部分の左右両側箇所の機体側部に予備苗のせ台14を装着している。
【0015】
前記静油圧式無段変速装置6は、搭乗運転部12に備えられたレバー型の変速操作具13の揺動操作に基づいて、変速中立位置を境にして、前進方向と後進方向との両方向で高低変速可能に構成してあり、中立位置から離れるほど高速になるように、かつエンジン回転数も同調して増大するように、その連携関係を設定して制御されるように構成してある。
この走行機体1の前記ステアリングホイール10などを設けた操縦パネル部には、後述する制御装置60からの指令に基づいて、各種作業装置の装着状況と、走行速度とにも基づいて出力される信号を、音、光、または画像、あるいはそれらの組み合わせで表示するための警報装置15が報知手段として装備されている。
【0016】
図1に示すように、苗植付装置20は、ギヤ式変速装置7からの作業用動力が伝達される動力分配機構22、その動力分配機構22などを支持する左右向きの主フレーム23、その主フレーム23から後方に向けて延出する3つの植付伝動ケース24、それらの各植付伝動ケース24の後部左右にそれぞれ配備されたロータリ式の植付機構25、6条分のマット状苗(載置苗の一例)を載置する苗載台26、6条分のマット状苗のそれぞれに対応して作動する6つの苗縦送り機構27、苗載台26を左右方向に一定ストロークで往復駆動する横送り駆動機構28、苗載台26が左右のストロークエンドに到達するごとに苗縦送り機構27を作動させる縦送り駆動機構29、及び、苗植え付け箇所を前もって整地する3つの整地フロート21、などを備えた6条植え用に構成されている。
【0017】
図1に示すように、苗植付装置20の後方上部には、苗載台26に載置されたマット状苗に対して所定量の薬剤を供給する薬剤供給装置30が配備されている。
薬剤供給装置30は、顆粒状の薬剤を貯留するホッパー31と、ホッパー31から所定量の薬剤を繰り出す繰出機構32と、繰出機構32で繰り出された薬剤を下方に供給案内する供給ホース33とを備え、苗載台26の下部から立設された支持フレーム34に支持されている。
【0018】
〔作業装置の着脱検出〕
前記苗植付装置20は、リンク機構3に対して着脱自在に構成してあり、図示しないが通常の苗植付装置20に備えられているところの、各種機構部位の作動状態、例えば、苗残量検出や、植付深さ検出のための各種センサ類を備えている。
そして、この各種センサ類の検出信号は、走行機体側に装備されている制御装置60に対して、図4に示すようにコネクタ50および51を介して接続および接続解除自在に構成されている。
【0019】
図3は、走行機体1の後部に対して、前述の苗植付装置20ではなく、別の作業装置として、機械式の除草装置40を連結した状態を示している。
この除草装置40は、植付け苗の条間に位置するように条間ピッチと同ピッチで並列配備した除草ロータ43を横軸芯周りで回転駆動するよう構成されている条間除草機構41と、適度の弾性を有する線材を下向きに垂設してなる除草タイン44を左右に往復移動する可動枠に取付けて構成された株間除草機構42とを前後に並べて一体的に前記リンク機構3装着した周知の構造のものであり、リンク機構3に対して着脱自在に構成されている。
そして、この条間除草機構41と株間除草機構42に備えられているところの、各種機構部位の作動状態、例えば、接地位置検出や、植付け苗位置検出のための各種センサ類を備えており、この各種センサ類の検出信号は、走行機体側に装備されている制御装置60に対して、図4に示すようにコネクタ50および52を介して接続および接続解除自在に構成されている。
【0020】
上記のように構成されているので、走行機体1の後部に対して種類の異なる複数の作業装置を選択して連結するときは、各コネクタ50〜52および短絡具53の接続形態は次のようになる。
すなわち、図4に示すように、走行機体1側のコネクタ50に対して、複数の接続端子(図4においては三つの場合を例示する)a〜cを設けるとともに、種類の異なる作業装置(苗植付装置20または除草装置40等)の各コネクタ51,52(図4においては二つの場合を例示する)と短絡具53とに、それらに応じて配置を異ならせた一対の接続端子x,yを設けて、作業装置側の接続端子x,yが接続される走行機体1側の接続端子a〜cの組み合わせに基づいて、制御装置60に接続結果を示す信号が入力され、これに基づいて制御装置60に記憶格納されているプログラミングで構成された判別手段61が、作業装置の種類及び非連結状態を判別するように構成してある。
【0021】
前記変速操作具13の操作位置はポテンショメータ13Aで検出され、その検出信号が前記制御装置60に伝えられ、制御装置60が所定のプログラムに基づいてエンジン回転数を算出し、そのエンジン回転数から走行速度の値を得るように構成してある。
【0022】
〔制御形態〕
上記のように構成された水田用作業機において、作業装置の着脱と走行速度との関係に基づく警報関連制御を流れ図に基づいて説明する。
図5は、走行機体1に単一の作業装置(苗植付装置20)が装備されているか、否かに基づいて行う場合の制御形態を示す。
【0023】
[1] 先ず、走行機体側のコネクタ50と作業装置側のコネクタ51とが接続されていないか、あるいは走行機体側のコネクタ50と短絡具53とが接続されているかを検出する(ステップ#01)。
[2] 走行機体側のコネクタ50と短絡具53とが接続されていれば、エンジン回転数を検出し、作業装置側のコネクタ51が接続されていれば、制御を行わない(ステップ#02)。
[3] 次ぎに、エンジン回転数の検出結果が、予め許容値aとして設定されている回転数を越えているか否かを判別する(ステップ#03)。
[4] エンジン回転数が許容値aを越えていれば警報aによる報知(ブザーまたはランプなど)を行い、越えていなければ制御を行わない(ステップ#04)。
[5] 警報aによる報知後、再度エンジン回転数の検出を行う(ステップ#05)。
[6] 再度検出されたエンジン回転数が前記許容値aを越えているか否かを検出し、越えていれば再度警報aによる報知を繰り返す(ステップ#06)。
[7] 前記許容値aを越えていなければ、警報を停止し、制御を終了する(ステップ#07)。
[8] 前記ステップ03で許容値aを検出した後、引き続いて前記許容値aよりも大きな許容値、すなわち、より高速でのエンジン回転数であるところの許容値bとして設定されている回転数を越えているか否かを判別する(ステップ#08)。
[9] エンジン回転数が許容値bを越えていれば、前記警報aとは別の警報b(例えば、音量、音色の異なるもの等)を報知し、越えていなければ警報aの報知作動を維持する(ステップ#09)。
[10] 警報bによる報知後、再度エンジン回転数の検出を行う(ステップ#10)。
[11] 再度、検出されたエンジン回転数が前記許容値bを越えているか否かを検出し、越えていれば再度警報bによる報知を繰り返す(ステップ#11)。
【0024】
〔別実施形態〕
図6は、走行機体1に複数種の作業装置(苗植付装置20と除草装置40)のうち、何れが装備されているか、もしくは何れもが装備されていないのかに基づいて行う場合の制御形態を示す。
【0025】
[20] 先ず、走行機体側のコネクタ50と各作業装置(苗植付装置20,除草装置40)側のコネクタ51,52とが接続されていないか、あるいは走行機体側のコネクタ50と短絡具53とが接続されているかを検出する(ステップ#20)。
[21] 走行機体側のコネクタ50と各作業装置(苗植付装置20,除草装置40)側のコネクタ51,52とが何れも接続されていないか、走行機体側のコネクタ50と短絡具53とが接続されていれば、フラグ「0」を設定する(ステップ#21)。
[22] 走行機体側のコネクタ50と所定の作業装置(除草装置40)側のコネクタ52とが接続されていれば、フラグ「1」を設定し、走行機体側のコネクタ50と基準の作業装置(苗植付装置20)側のコネクタ51とが接続されていれば、制御を行わない(ステップ#22,#23)。
[23] エンジン回転数を検出する(ステップ#24)。
[24] 次ぎに、エンジン回転数の検出結果が、予め許容値I(作業装置が外れているときの値)として設定されている回転数を越えているか否かを判別し、越えていなければ制御を行わない(ステップ#25)。
[25] エンジン回転数が許容値Iを越えていればフラグが「0」であるか否かを判断する。(ステップ#26)。
[26] フラグが「0」であれば、予め設定した警報Iによる報知(ブザーまたはランプなど)を行う(ステップ#27)。
[27] ステップ#26において、フラグが「0」でなければ、エンジン回転数が予め許容値II(除草装置40を用いるときの値)として設定されている回転数を越えているか否かを判別し、許容値IIを越えていれば、前記警報Iとは別に設定した警報IIによる報知(例えば、音量、音色の異なるもの等)を行い、越えていなければ警報Iによる報知を行なう(ステップ#28,#29,#27)。
【0026】
〔その他〕
苗植付装置20とは異なる別の作業装置として、前述の実施の形態で示した機械式の除草装置40に限らず、薬剤散布装置や、直播装置などであってもよく、その場合、許容値となる走行速度の値も、使用する作業装置の種類に応じて適宜設定すればよい。本発明は、エンジン5を運転座席11の下側に配置した水田用作業機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】苗植付装置を取り付けた乗用型田植機の側面図
【図2】苗植付装置を外した乗用型田植機の側面図
【図3】除草装置を取り付けた乗用型田植機の側面図
【図4】制御系を示すブロック図
【図5】警報関係の制御形態を示すフローチャート
【図6】警報関係の別の制御形態を示すフローチャート
【符号の説明】
【0028】
1 走行機体
3 リンク機構
5 エンジン
13 変速操作具
13A ポテンショメータ
15 警報装置
20 苗植付装置
30 薬剤供給装置
40 除草装置
50〜52 コネクタ
53 短絡具
60 制御装置
61 判別手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に作業装置を着脱自在に連結するように構成した水田用作業機であって、
走行機体に対する作業装置の着脱を検出する手段と、車速の検出または算出手段とを備え、
作業装置を外しての走行時には、所定走行速度以上で、作業装置が取り付けられていない状態での走行であることを警告する報知手段を備えた水田用作業機。
【請求項2】
走行機体の後部に作業装置を着脱自在に連結するように構成した水田用作業機であって、
走行機体に対する所定の作業装置の着脱を検出する手段と、車速の検出または算出手段とを備え、
所定の作業装置が取り付けられた状態での走行時には、所定走行速度以上で、所定の作業装置が取り付けられた状態での走行であることを警告する報知手段を備えた水田用作業機。
【請求項3】
変速装置の操作とアクセル操作を連動させ、変速操作位置の検出に基づいて車速を検出するように構成してある請求項1または2記載の水田用作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−79515(P2008−79515A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260677(P2006−260677)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】