説明

水系表面処理剤、プレコート金属材料の下地処理方法、プレコート金属材料の製造方法およびプレコート金属材料

【課題】塗装密着性、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れるプレコート金属材料を得ることができるプレコート金属材料の製造方法およびプレコート金属材料の下地処理方法、ならびにそれに用いる貯蔵安定性に優れた水系表面処理剤を提供する。
【解決手段】金属材料の表面に、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、ホウ素、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(B)とを含有する水系表面処理剤を塗布した後、水洗することなく乾燥して、0.01〜1g/m2の下地処理層を形成する、プレコート金属材料の下地処理方法、および、前記下地処理層の上に、樹脂層を形成する塗装工程とを具備するプレコート金属材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属材料の下地処理剤として用いる水系表面処理剤、プレコート金属材料の下地処理方法、プレコート金属材料の製造方法およびプレコート金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用等の部品に、加工後塗装されていた従来のポスト塗装製品はりん酸塩等の前処理が多く施されているが、近年特に家電用に関しては、このような前処理に代わって、着色した有機皮膜を被覆したプレコート鋼板が使用されるようになってきている。このプレコート鋼板は、下地処理を施した鋼板上に有機皮膜を被覆したもので、美観を有しながら、良好な加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。
【0003】
プレコート鋼板の加工は、曲げ加工、絞り加工等が挙げられる。塗膜が鋼板に追従できない場合、亀裂、剥離といった塗膜の破壊問題が発生する。そこで、このような加工に耐えられるように下地処理に求められる第一の特性は塗装密着性(加工密着性)であり、下層である素地金属および上層であるプライマー等との2つの界面ともに良好に密着することが求められる。この塗装密着性は沸騰水に所定時間浸漬後に評価する場合もあり、これを特に塗装二次密着性と呼び、沸騰水に浸漬する前の塗装密着性である塗装一次密着性と区別する。これら一次、二次の密着性とも、後加工により複雑な形状物に加工されることを前提とするプレコート鋼板には必須の極めて重要な特性である。折り曲げ試験は極めて厳しい試験として、プレコート鋼板の密着性評価に用いられる。更に厳しい試験として冷間時の折り曲げ試験が挙げられる。これは、寒冷地で行なわれる加工に対して求められる特性であり、常温より皮膜が硬くなり、加工密着性が悪化する。従って、常温での折り曲げ試験より厳しい試験として用いられる。これらの加工によって外観を損なうだけでなく、耐食性が低下する場合もある。
【0004】
プレコート鋼板の下地処理に求められる第二の特性として、耐コインスクラッチ性が挙げられる。これは密着性のみでなく、下地処理の皮膜硬度等にも影響される特性である。
【0005】
次にプレコート鋼板の下地処理に求められる第三の特性として、耐食性が挙げられる。プレコート鋼板の場合、通常、鋼板の上に順に、下地処理、プライマー塗布処理、そしてトップコート塗布処理を行う。従来のクロメート処理を施したプレコート鋼板の場合、下地処理層のみで無く、プライマー層にもクロメートを含有する。特に通常0.5μmを超えて使用されることの無い下地処理に比べ、3〜10μmと厚く使用されるプライマー層は多くのクロム成分を防錆顔料として含有し、プレコート鋼板に対する耐食性付与の主たる役割を担っている。ところが、クロムを含有しないプレコート鋼板におけるプライマーは、クロム系防錆顔料を含むプライマーに到底及ばない耐食性しか付与できないのが実状である。そのため、クロムフリーのプレコート鋼板において、下地処理部分は耐食性付与の役割を従来のクロメートシステム以上に担うことが望まれている。
【0006】
特許文献1には、タンニン酸とシランカップリング剤を含有する水溶液で亜鉛および亜鉛合金を表面処理することで、耐白錆性および加工密着性を向上させる技術が開示されているが、この方法では現在求められるプレコート鋼板に要求される水準の諸性能を確保することはできない。
【0007】
特許文献2には、マンガン等の金属イオン、チタン、ジルコニウム等のフッ化物、活性水素を含有するアミノ基、エポキシ基等の官能基を持つシランカップリング剤およびフェノール骨格を持つ重合物から形成される表面処理剤が開示されているが、この表面処理剤ではフェノール骨格を持つ重合物とシランカップリング剤との単なる混合物であり、フェノール部位とシランカップリング剤が共有結合ような強固な結合状態にあるわけではない。従って、プレコート鋼板に要求される加工密着性、耐薬品性および耐食性等の諸性能を満足できない。
【0008】
特許文献3には、フェノール等ベンゼン環を持つ化合物の重合物から成る表面処理剤が記載されている。この表面処理剤は、鋼材との接触によって皮膜が析出するような反応型表面処理剤に分類されるものである。この表面処理剤を塗布型表面処理剤として用いた場合、塗布工程後に水洗工程がない等本発明とは処理方法および使用用途が大きく異なるため、プレコート鋼板に求められる耐薬品性や耐食性等が特に得られない。
【0009】
特許文献4には、シランカップリング剤、フェノール系重合物を含む表面処理剤が記載されている。この表面処理剤においても特許文献3と同様の理由によりプレコート鋼板に求められる十分な性能が得られない。
【0010】
また、特許文献5には、シランカップリング剤、水分散性シリカおよび水性樹脂からなる金属表面処理剤が開示されているが、この表面処理剤でもプレコート鋼板に要求される加工密着性および耐食性は十分なものとは言えない。
【0011】
特許文献6には、フルオロメタレートアニオン、2価あるいは4価のカチオン成分、リン含有無機系オキシアニオン、水溶性有機系ポリマーから成る金属表面処理用水性液組成物が記載されている。しかしこの方法を用いて達成される塗装密着性は比較的良好であるものの、耐食性や耐薬品性ではクロメート処理した場合に達成されるそれらには及ばないのである。
【0012】
特許文献7には、チタン化合物、ジルコニウム化合物、フェノール樹脂から成る化成皮膜が記載されている。しかし、この化成皮膜はプレコート鋼板に求められる加工密着性、耐薬品性を満足できない。
【0013】
特許文献8には、分子中に共鳴構造を有する有機化合物であって、且つ親電子反応性の官能基およびリン酸基、シラノール基、アルコキシシリル基等の有機官能基等を有する有機化合物、バナジウム等の金属化合物、更にエッチング剤から形成された表面処理剤が記載されている。この表面処理剤は、工業的に用いるための安定性が十分でない。その上、加工密着性、耐薬品性等もプレコート鋼板に求められるレベルには達していない。
【0014】
特許文献9には、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1個の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤からなるシランカップリング剤成分およびフェノール樹脂、更にシリカ、金属化合物を含む金属材料用表面処理剤が記載されている。しかし、この技術に用いられているフェノール樹脂ではプレコート鋼板に求められる加工密着性を満足することができない。
【0015】
特許文献10には、特定の金属イオン、フルオロ酸、シランカップリング剤、カチオン性ウレタン樹脂を含有する表面処理剤が記載されている。しかし、この表面処理剤は一時防錆性に優れる一方、プレコート鋼板に求められる耐薬品性および耐食性において十分とは言えない。
【0016】
特許文献11には、Zn、Fe、Ni等の金属を含有する化合物、ケイ素化合物、リン化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、フェノール樹脂を含有する金属材料用表面処理剤が記載されている。この技術も特許文献9の場合と同様の理由によりプレコート鋼板に求められる加工密着性を満足できない。
【0017】
プレコート鋼板には折り曲げ加工のような厳しい後加工に耐え得る塗装密着性が要求される。一時防錆性付与用の処理液によって達成される密着性は、エリクセン押し出しレベルの加工密着性であり、折り曲げ試験を合格するレベルの加工密着性は達成されない。同様のことが、反応型表面処理剤、耐指紋性表面処理剤や潤滑用表面処理剤をプレコート鋼板の下地処理に転用した場合にも当てはまり、折り曲げ試験を合格するレベルの加工密着性は達成されない。このように、プレコート鋼板に要求される十分な塗装密着性と、十分な耐薬品性および耐食性をあわせ持つ表面処理剤は現在のところ実用化されておらず、早急な開発が望まれていた。
【0018】
【特許文献1】特開昭59−116381号公報
【特許文献2】特開平11−106945号公報
【特許文献3】特開平7−278410号公報
【特許文献4】特開平9−241576号公報
【特許文献5】特開2001−164195号公報
【特許文献6】特表平10−505636号公報
【特許文献7】特開2005−169765号公報
【特許文献8】特開2001−329379号公報
【特許文献9】特開平11−256096号公報
【特許文献10】特開2005−120469号公報
【特許文献11】国際公開第2002/061175号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明は、塗装密着性(塗膜の加工密着性)、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れるプレコート金属材料を得ることができるプレコート金属材料の製造方法およびプレコート金属材料の下地処理方法、ならびにそれに用いる貯蔵安定性に優れた水系表面処理剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、塗装密着性(塗膜の加工密着性)、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れるプレコート金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、プレコート金属材料の下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、ホウ素、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(B)とを含有する水系表面処理剤を提供する。
【0021】
ここで、前記アルコキシシリル基は、前記アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合しているのが好ましい。
また、前記化合物(B)は、テトラフルオロホウ酸、チタンフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸およびそれらの金属酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
また、更に、水分散性シリカおよびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種の珪素化合物(C)を含有するのが好ましい。
また、更に、バナジウム、タングステン、コバルト、アルミニウム、マンガン、セリウム、ニオブ、スズ、マグネシウム、イットリウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、クロムおよびモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(D)を含有するのが好ましい。
また、更に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂(E)を含有するのが好ましい。
【0022】
また、上記目的を達成するために、本発明は、金属材料の表面に、本発明の水系表面処理剤を塗布した後、水洗することなく乾燥して、0.01〜1g/m2の下地処理層を形成する、プレコート金属材料の下地処理方法を提供する。
【0023】
また、上記目的を達成するために、本発明は、金属材料の表面に、本発明のプレコート金属材料の下地処理方法により下地処理層を形成する下地処理工程と、前記下地処理層の上に、樹脂層を形成する塗装工程とを具備するプレコート金属材料の製造方法を提供する。
【0024】
また、上記目的を達成するために、本発明は、本発明のプレコート金属材料の製造方法によって得られるプレコート金属材料を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水系表面処理剤は貯蔵安定性に優れ、それを用いた本発明のプレコート金属材料の下地処理方法によれば、塗装密着性、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れるプレコート金属材料の下地処理層を形成することができる。
また、本発明のプレコート金属材料の製造方法によれば、塗装密着性、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れるプレコート金属材料を得ることができる。
また、本発明のプレコート金属材料は、塗装密着性、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明の水系表面処理剤は、プレコート金属材料の下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、ホウ素、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(B)とを含有する水系表面処理剤である。
【0027】
本発明に用いられる化合物(A)は、アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物である。化合物(A)は、単量体であってもよく、重合体であってもよい。
芳香環とフェノール性ヒドロキシ基とを有する化合物にアルコキシシリル基を導入することにより、本発明の処理液の塗膜密着性、耐食性および耐薬品性が大きく向上する。
また、化合物(A)がアミノ基を有していることにより、水溶性が高くなり、本発明の処理液の安定性が高くなり、更に、耐食性や塗膜密着性もより高くなる。
【0028】
前記アルコキシシリル基は、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基とを有する基であればよく、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基を少なくとも2つ有する基であるのが好ましく、ケイ素原子とケイ素原子に直接結合しているアルコキシ基を3つ有する基であるのがより好ましい。
前記アルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。
前記アルコキシ基以外の前記アルコキシシリル基が有する基は、特に限定されないが、例えば、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基等が好適に挙げられる。
前記アルコキシシリル基としては、具体的には、例えば、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、ジエチルエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0029】
化合物(A)のアルコキシシリル基は、アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合しているのが好ましい態様の1つである。このような態様の化合物(A)は、例えば、後述するように、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、ホルムアルデヒドとを反応させる方法(以下「第1の方法」という。)、または、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとを反応させる方法(以下「第2の方法」という。)により得ることができる。
【0030】
化合物(A)が重合体である場合(主鎖に繰り返し単位を有する場合)には、化合物(A)は、アルコキシシリル基を化合物(A)の繰り返し単位当たり0.01〜4個有するのが好ましく、0.05〜2個有するのがより好ましく、0.1〜1.5個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲でアルコキシシリル基を有する場合、塗膜密着性、耐食性および耐薬品性に優れる。
【0031】
また、化合物(A)は、1分子中にアルコキシシリル基を1〜4個有するのが好ましく、1〜3個有するのがより好ましく、1〜2個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲でアルコキシシリル基を有する場合、塗膜密着性、耐食性および耐薬品性に優れる。
【0032】
前記化合物(A)が有する芳香環は、特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環であるのが好ましい。
前記フェノール性ヒドロキシ基は、化合物(A)が有する芳香環に直接結合しているヒドロキシ基である。
【0033】
化合物(A)の水溶性を確保するために、化合物(A)はアミノ基や芳香環に直接結合していないヒドロキシ基等の極性基を有しているのが好ましい。化合物(A)は水溶性であるため、水系表面処理液に使用できる。
【0034】
化合物(A)は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ基を有するものである。中でも、第二級アミノ基、第三級アミノ基を有することがより好ましく、第三級アミノ基を有することが更に好ましい。化合物(A)がアミノ基を有する場合、化合物(A)の極性が高くなるため水溶化しやすくなる。更に、アミノ基の窒素原子上に存在する非共有電子対が鋼材あるいは上層塗膜との静電的相互作用の結果、密着性が向上する。また、第一級アミノ基および第二級アミノ基の場合、アミノ基が反応性官能基として作用する結果、密着性が向上する。
【0035】
化合物(A)は、前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有するのが好ましい。化合物(A)が前記フェノール性ヒドロキシ基以外にもヒドロキシ基を有している場合、化合物(A)の水溶性が高くなる。また、得られる表面処理液の塗膜密着性、耐食性および耐薬品性を向上できる。
【0036】
前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基は、前記アミノ基の窒素原子にアルキレン基を介して結合しているのが好ましい態様の1つである。このような態様の化合物(A)は、例えば、前記第2の方法により得ることができる。
【0037】
化合物(A)が重合体である場合(主鎖に繰り返し単位を有する場合)には、前記化合物(A)は、前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を化合物(A)の繰り返し単位当たり0.01〜4個有するのが好ましく、0.05〜2個有するのがより好ましく、0.1〜1.5個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲で前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有する場合、化合物(A)の水溶性および得られる表面処理液の塗膜密着性、耐食性および耐薬品性に優れる。
【0038】
また、化合物(A)は、1分子中に前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を1〜4個有するのが好ましく、1〜3個有するのがより好ましく、1〜2個有するのが更に好ましい。化合物(A)がこの範囲で前記芳香環に直接結合していないヒドロキシ基を有する場合、化合物(A)の水溶性および得られる表面処理液の塗膜密着性、耐食性および耐薬品性に優れる。
【0039】
化合物(A)は、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、ホルムアルデヒドとの反応(第1の方法)により得られる化合物であるのが好ましい態様の1つである。
【0040】
また、化合物(A)の他の好ましい態様としては、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物(a1)と、アミノシラン(a2)と、アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとの反応(第2の方法)により得られる化合物が好適に挙げられる。
【0041】
これらの態様の化合物(A)は、いわゆるマンニッヒ反応により、前記芳香族化合物(a1)が有する芳香環のヒドロキシ基のオルト位またはパラ位に、ホルムアルデヒド由来のメチレン基を介してアミノ基が結合した構造であると考えられる。
化合物(A)は、芳香環が置換基を有する位置は特に限定されないが、芳香環のヒドロキシ基のオルト位および/またはパラ位が置換されたものであることが好ましい。
【0042】
前記芳香族化合物(a1)は、少なくとも1つのヒドロキシ基が芳香環に直接結合している芳香族化合物である。具体的には、例えば、フェノール、ビスフェノールA、p−ビニルフェノール、ナフトール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が挙げられる。また、これらの重合体を用いることもできる。重合方法は特に限定されず、公知の重合方法、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、縮重合を採用することができる。
これらの他に、前記芳香族化合物(a1)として、フェノール−クレゾールノボラック共重合体、ビニルフェノール−スチレン共重合体等を用いることもできる。
また、上述した芳香族化合物(a1)を、エピクロルヒドリン等のハロエポキシド、酢酸等のカルボン酸類、エステル類、アミド類、トリメチルシリルクロリド等の有機シラン類、アルコール類、硫酸ジメチル等のアルキル化物等により変性したものを用いることもできる。
これらの芳香族化合物(a1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記芳香族化合物(a1)は、フェノール、ビスフェノールA、p−ビニルフェノール、ナフトール、ノボラック樹脂、ポリビスフェノールA、ポリp−ビニルフェノールおよびフェノール−ナフタレン重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、ノボラック樹脂、ポリビスフェノールA、ポリp−ビニルフェノールおよびフェノール−ナフタレン重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましく、ポリp−ビニルフェノールであるのが更に好ましい。
【0044】
ここで、本明細書において、前記ポリビスフェノールAは下記式で表される化合物を意味する。
【0045】
【化1】

【0046】
前記式中、sは1〜2000の整数であり、5〜1000の整数であるのが好ましい。
【0047】
また、前記ポリp−ビニルフェノールは、下記式で表される化合物を意味する。
前記ポリp−ビニルフェノールとして、ビニルフェノールを公知の重合方法により重合したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、丸善石油化学社製のマルカリンカーが挙げられる。
【0048】
【化2】

【0049】
前記式中、tは1〜4000の整数であり、10〜2000の整数であるのが好ましい。
【0050】
前記芳香族化合物(a1)の重量平均分子量は、特に限定されないが、200〜1,000,000であるのが好ましく、500〜500,000であるのがより好ましく、1,000〜200,000であるのが更に好ましい。
【0051】
前記アミノシラン(a2)は、第一級アミノ基および/または第二級アミノ基(イミノ基)と、アルコキシシリル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0052】
【化3】

【0053】
前記式(2)中、R3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ベンジル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、ジヒドロキシアルキル基、トリヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、アセチル基またはアルキルカルボニル基である。
前記アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基が挙げられる。
前記アルケニル基としては、炭素数1〜10のアルケニル基が好適に挙げられ、より好ましくはアリル基が挙げられる。
前記アルキニル基としては、炭素数1〜10のアルキニル基が好適に挙げられ、より好ましくはプロピニル基が挙げられる。
前記アリール基としては、炭素数1〜10のアリール基が好適に挙げられ、より好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が好適に挙げられ、より好ましくはフェニル基が挙げられる。
前記ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくは2−ヒドロキシエチル基が挙げられる。
前記ジヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のジヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはビス(ヒドロキシエチル)基が挙げられる。
前記トリヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のトリヒドロキシアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはトリス(ヒドロキシエチル)基が挙げられる。
前記アミノアルキル基としては、炭素数1〜10のアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはアミノエチル基が挙げられる。
前記アルキルアミノアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキルアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくは2−メチルアミノエチレンが挙げられる。
前記ジアルキルアミノアルキル基としては、炭素数1〜10のジアルキルアミノアルキル基が好適に挙げられ、より好ましくはジメチルアミノエチレンが挙げられる。
前記アルキルカルボニル基としては、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基が好適に挙げられ、より好ましくはアセチル基が挙げられる。
【0054】
前記式(2)中、R4およびR5は、それぞれ、アルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、メチル基、エチル基であるのがより好ましい。複数のR4およびR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
前記式(2)中、nは、1〜3の整数であり、2〜3の整数であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。
前記式(2)中、mは、1〜3の整数であるのが好ましく、2または3であるのがより好ましく、3であるのが更に好ましい。
【0055】
前記アミノシラン(a2)としては、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−プロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−プロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミノビニルトリメトキシシラン、N−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノ)−3−イソブチルジメチルメトキシシラン、n−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N−メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミン、ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジオクチル−N′−トリエトキシシリルプロピルウレア、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコナミド、(3−トリエトキシシリルプロピル)−t−ブチルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルカルバメート、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザン、トリメトキシシリルプロピル(ポリエチレンイミン)、3−(2,4−ジニトロフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリルプロピル)−p−ニトロベンザミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミンおよび3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のアミノシランが好ましい。
【0056】
第1の方法における前記アミノシラン(a2)の使用量は、前記芳香族化合物(a1)100質量部に対して1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
【0057】
第2の方法における前記アミノシラン(a2)の使用量は、前記芳香族化合物(a1)100質量部に対して1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
【0058】
前記アミン化合物(a3)は、第一級アミノ基および/または第二級アミノ基(イミノ基)を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
なお、前記アミン化合物(a3)は、前記アミノシラン(a2)と同一であってもよい。
【0059】
【化4】

【0060】
前記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ、前記式(2)のR3と同様であるが、R1およびR2は互いに結合してモルホリノ基を形成していてもよい。
【0061】
前記アミン化合物(a3)としては、具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、i−プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジi−プロピルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−メチルエタノールアミン、2−エチルエタノールアミン、N−メチルアミノ1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン等のアルカノールアミン、アニリン、p−メチルアニリン、N−メチルアニリン等の芳香族アミン、ビニルアミン、アリルアミン等の不飽和アミン、ピロール、ピロリジン、イミダゾール、インドール、モルホリン、ピペラジン等の複素環アミン、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、sym−ジメチルエチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも2−メチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−メチルアニリン、エチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、2−エチルアミノエタノール、エチレンジアミン、sym−ジメチルエチルアミンおよびモルホリンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物が好ましい。
【0062】
第2の方法における前記アミン化合物(a3)の使用量は、前記芳香族化合物(a1)100質量部に対して0.2〜360質量部が好ましく、0.4〜270質量部がより好ましく、0.6〜180質量部が更に好ましい。
【0063】
前記反応に用いられるホルムアルデヒドとしては、溶媒で希釈されているものを用いることもできる。
前記溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒;アセトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0064】
第1の方法における前記ホルムアルデヒドの使用量は、前記アミノシラン(a2)のアミノ基に対するホルムアルデヒドのモル比(ホルムアルデヒド/アミノ基)が1〜100であるのが好ましく、2〜50であるのがより好ましい。
【0065】
第2の方法における前記ホルムアルデヒドの使用量は、前記アミノシラン(a2)のアミノ基と前記アミン化合物(a3)のアミノ基との合計に対するホルムアルデヒドのモル比(ホルムアルデヒド/アミノ基)が1〜100であるのが好ましく、2〜50であるのがより好ましい。
【0066】
前記化合物(A)としては、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体が好ましい態様の1つである。
【0067】
【化5】

【0068】
前記式(3)中、R6は、前記式(2)のR3と同様である。
7は単結合またはアルキレン基であり、炭素数1〜10のアルキレン基であるのが好ましく、トリメチレン基(−(CH23−)であるのがより好ましい。R7が単結合である場合は、R7が存在せず窒素原子とケイ素原子が直接結合していることになる。
8およびR9は、それぞれ、アルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、メチル基、エチル基であるのがより好ましい。複数のR8およびR9はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
10およびR11は、それぞれ、前記式(2)のR3と同様であるが、R10およびR11は互いに結合してモルホリノ基を形成していてもよい。
pは1〜3の整数であり、2または3であるのが好ましく、3であるのがより好ましい。
【0069】
前記重合体は、前記式(3)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。前記重合体は、前記式(3)で表される繰り返し単位と、下記式(5)で表される繰り返し単位、下記式(6)で表される繰り返し単位、下記式(7)で表される繰り返し単位、下記式(8)で表される繰り返し単位および下記式(9)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位とからなる重合体であるのが好ましい態様の1つである。
前記重合体は、前記式(3)〜(9)のいずれかで表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0070】
【化6】

【0071】
前記式(5)〜(9)中、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびpは、それぞれ、前記式(3)のR6、R7、R8、R9、R10、R11およびpと同様である。
【0072】
前記重合体の製造方法は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノールと、前記アミノシラン(a2)と、前記アミン化合物(a3)と、ホルムアルデヒドとを反応させて前記重合体を得る方法が好適に挙げられる。
【0073】
前記重合体としては、具体的には、例えば、下記式(4)で表される繰り返し単位を含む重合体(以下「本発明の第1態様の化合物」という。)が好適に挙げられる。
【化7】

【0074】
本発明の第1態様の化合物は、前記式(4)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。本発明の化合物は、前記式(4)で表される繰り返し単位と、下記式(10)で表される繰り返し単位、下記式(11)で表される繰り返し単位、下記式(12)で表される繰り返し単位、下記式(13)で表される繰り返し単位および下記式(14)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位とからなる重合体であるのが好ましい態様の1つである。
本発明の第1態様の化合物は、前記式(4)および(10)〜(14)のいずれかで表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0075】
【化8】

【0076】
本発明の第1態様の化合物の製造方法は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノールと、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランと、2−メチルアミノエタノールと、ホルムアルデヒドとを反応させて前記重合体を得る方法が好適に挙げられる。
【0077】
化合物(A)の他の好ましい態様としては、例えば、ポリp−ビニルフェノールと、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミンおよび3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のアミノシランと、2−メチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−メチルアニリン、エチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、2−エチルアミノエタノール、エチレンジアミン、sym−ジメチルエチルアミンおよびモルホリンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物と、ホルムアルデヒドとを有機溶媒中で反応させて得られる化合物(以下「本発明の第2態様の化合物」という。)が挙げられる。
【0078】
本発明の第2態様の化合物の製造方法は、特に限定されないが、前記ポリp−ビニルフェノールと、前記アミノシランと、前記アミン化合物と、前記ホルムアルデヒドとを有機溶媒中で反応させて本発明の第2態様の化合物を得る方法が好適に挙げられる。
本発明の第2態様の化合物は、いわゆるマンニッヒ反応により、ポリp−ビニルフェノールが有する芳香環のヒドロキシ基のオルト位に、ホルムアルデヒド由来のメチレン基を介してアミノ基が結合した構造であると考えられる。
本発明の第2態様の化合物は、芳香環が置換基を有する位置は特に限定されないが、フェノール性ヒドロキシ基のオルト位が置換されたものであることが好ましい。
【0079】
また、前記反応における前記アミノシランの使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、1〜1200質量部が好ましく、2〜600質量部がより好ましく、3〜300質量部が更に好ましい。
前記反応における前記アミン化合物の使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0.2〜360質量部が好ましく、0.4〜270質量部がより好ましく、0.6〜180質量部が更に好ましい。
前記反応におけるホルムアルデヒドの使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0.3〜300質量部が好ましく、0.6〜200質量部がより好ましく、0.9〜150質量部が更に好ましい。
【0080】
前記有機溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒;アセトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0081】
前記有機溶媒の使用量は、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、0〜10,000質量部が好ましく、10〜5,000質量部がより好ましい。
【0082】
本発明の第2態様の化合物の製造方法においては、更に触媒を添加することにより、反応率を向上でき、反応時間を短縮することもできる。触媒としては、例えば、酸触媒、塩基触媒、ルイス酸触媒等が挙げられる。
前記酸触媒としては、具体的には、例えば、塩酸、塩化水素ガス、硫酸、発煙硫酸、硝酸、濃硝酸、リン酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ギ酸、酢酸等の有機酸等が挙げられる。
前記塩基触媒としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
前記ルイス酸触媒としては、具体的には、例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン、トリフルオロメタンスルホン酸ランタニウム、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、トリフルオロメタンスルホン酸イットリビウム等が挙げられる。
【0083】
前記触媒の添加量は、特に限定されないが、ポリp−ビニルフェノール100質量部に対して、1〜300質量部が好ましく、2〜150質量部がより好ましい。
【0084】
本発明の第2態様の化合物の製造方法における反応温度は、特に限定されないが、0〜150℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。
本発明の第2態様の化合物の製造方法においては上述したように触媒が反応効率に影響を与えるが、反応温度も反応効率に影響を与える。具体的には、低い反応温度であると比較的長い反応時間を要し、高い反応温度であると比較的短時間にて製造が可能である。ただし、反応温度が高すぎる場合、目的生成物に悪影響を与えたり、目的の反応以外の反応を促進させる場合がある。
【0085】
本発明の第2態様の化合物の製造方法における反応時間は、特に限定されないが、例えば、反応温度が80℃である場合は24時間程度が好ましい。また、反応温度が23℃である場合は7日間程度が好ましい。
【0086】
本発明の第2態様の化合物の製造方法について具体的に説明する。ただし、本発明の第2態様の化合物の製造方法はこの方法に限定されない。
まず、ポリp−ビニルフェノールと前記有機溶媒とを混合して十分に溶解させる。
次に、この混合液に、前記アミン化合物、前記アミノシラン、ホルムアルデヒドおよび必要に応じて前記触媒を室温にて順次撹拌しながら滴下して加える。この混合液を80℃に加温して24時間撹拌後、本発明の化合物を得ることができる。
ここで、前記アミノシラン、前記アミン化合物、ホルムアルデヒドおよび前記触媒を加える順序は、特に限定されないが、前記アミノシランおよび前記アミン化合物を加えた後にホルムアルデヒドを加えるのが好ましい。前記触媒はホルムアルデヒド添加後に加えるのが好ましい。
【0087】
前記の方法で得られた本発明の化合物は、公知の方法により精製することができる。例えば、不溶性の溶媒による沈降、常圧もしくは減圧による留去、または、クロマトグラフィーの使用により精製することができる。
【0088】
前記化合物(A)の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、200〜1,000,000であるのが好ましく、500〜500,000であるのがより好ましく、1,000〜200,000であるのが更に好ましい。化合物(A)の分子量が200未満の場合は分子量が小さすぎて充分に造膜できないばかりか、皮膜強度の低下等により加工密着性も低下する。また、1,000,000を超えると分子量に比例して1分子の鎖が長くなり極度に分子内における分子鎖間の相互作用および分子間相互作用が働き見かけの分子量が更に増大し安定性に悪影響を与える。ここでいう分子量とは一般に公知であるGPC法、光散乱法等により測定(計算)することができるものであり、本発明においてはGPC法を用いた。
【0089】
化合物(A)の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した本発明の第2態様の化合物の製造方法が好適に挙げられる。
【0090】
前記化合物(B)は、ホウ素、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物であれば特に限定されない。本発明の水系表面処理剤は、化合物(B)を含有するため、耐食性に効果を発揮するだけでなく耐アルカリ性や耐酸性等の耐薬品性および耐湿性等にも優れる。
【0091】
前記化合物(B)の形態は、特に限定されるものではないが、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ケイ素化合物等を用いることができる。中でも、後述するフッ化物、フルオロ酸(塩)であることが好ましい。
具体的には、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、塩基性炭酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、酸化ジルコニウム(IV)(ジルコニア)、酸化チタン(IV)(チタニア)、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硝酸チタン、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニル、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトナート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシステアレート、酢酸ジルコニル硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、硫酸チタニル、オキシリン酸ジルコニウム、ピロリン酸ジルコニウム、リン酸二水素ジルコニル、フッ化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム、酸化チタン、硫酸チタン、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸(H2TiF6)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、テトライソプロピルチタネート、テトラn‐ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラウレート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタニウムビスアセトン、チタニウムアセチルアセトネート、二酸化ケイ素(水分散性シリカを含む)、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-プロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-プロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)アミノビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3−(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等が挙げられる。これらは無水物であってもよいし水和物であってもよい。これらの化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0092】
前記化合物(B)は、フッ化物であることが好ましい。フッ化物は液中に遊離フッ素イオンまたは錯フッ素イオンを放出し、基材に対するエッチング剤としての役割を果たす。その結果、金属材料に対する密着性および耐食性を付与または向上させる。前記フッ化物である化合物(B)としては、テトラフルオロホウ酸、チタンフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸およびそれらの金属酸塩が特に性能向上に作用する。前記化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0093】
本発明の水系表面処理剤は、更に遊離フッ素イオンまたは錯フッ素イオンを放出する化合物を含有してもよい。例えば、遊離フッ素イオンを放出するものとしてフッ化水素酸、フッ化アンモニウム等が挙げられる。また、錯フッ素イオンを放出するものとして、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロケイ酸、ジルコニウムフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、チタンフッ化水素酸、チタンッ化アンモニウム、ケイフッ化水素酸、ハフニウムフッ化水素酸、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛、ヘキサフルオロケイ酸マンガン、ヘキサフルオロケイ酸マグネシウム、ヘキサフルオロケイ酸ニッケル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
前記化合物(B)の配合量は、化合物(B)と前記化合物(A)との固形分質量比((B)/(A))が1/100〜2/1であることが好ましく、2/100〜1/1であるのがより好ましく、4/100〜90/100であるのが更に好ましい。化合物(B)と化合物(A)の固形分質量比が1/100以上であると十分な耐食性および耐薬品性が得られ、2/1以下であると貯蔵安定性が良好となる。
【0095】
本発明の水系表面処理剤は、更に、水分散性シリカおよびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種の珪素化合物(C)を含有するのが好ましい。
水分散性シリカを含有する場合、シリカ粒子が鋼材表面に配向することによって微細な凹凸が形成されることおよび下地処理層の硬度を上げ、かつ密着性の向上に寄与する結果、密着性やコインスクラッチ性等が向上する。
水分散性シリカは水中において粒子として存在し、その大きさは一次粒子径として1nm〜1μmの大きさであることが好ましい。このような水分散体は、凝集により2次粒子、3次粒子となる場合もあるが、水に安定的に分散しているものであればよい。更に、気相シリカを強制的に水分散させたスラリー状であっても1次粒子径が1nm〜1μmの範囲内であればよい。水分散性シリカとしては、特に限定されないが、例えば、水分散性シリカ、シリカゾル、リチウムシリケート、1号ケイ酸Na、2号ケイ酸Na、3号ケイ酸Na、4号ケイ酸Na、ケイ酸K等の水ガラスが挙げられる。
【0096】
また、シランカップリング剤を含有する場合、鋼材表面やバルク内において他分子との相互作用あるいは強固な結合を形成し密着性が向上する。
シランカップリング剤は、その構造中に水に溶解できる極性官能基を有し、これら官能基の作用によって水溶性を持つものが好ましい。水溶性官能基として、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基およびその塩、ヒドロキシルル基、エーテル基等いずれの官能基を有することができる。シランカップリング剤は、水中で加水分解しシラノールを生成した後、そのシラノール基が鋼材表面に接触乾燥後にシロキサン結合(−O−Si−O−)を形成し密着性や耐食性、耐薬品性といったプレコート鋼板に求められる諸性能が向上する。
【0097】
水分散性シリカの市販品として、液相から合成した液相シリカ、気相から合成した気相シリカがある。特に限定するものではないが、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスNXS、スノーテックスOS、スノーテックスOUP、スノーテックスOL、スノーテックスPS−MO、スノーテックスPS−S、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(いずれも日産化学工業社製)、シリカドール−20、シリカドール−30、シリカドール−40、シリカドール−30S、シリカドール−20AL、シリカドール−20A、シリカドール−30S、シリカドール−20G、シリカドール−20GA、シリカドール−40G−80、シリカドール−20P、シリカドール−12S−4(いずれも日本化学工業社製)、AT−20、AT−30、AT−40、AT−50、AT−20A、AT−300(いずれもアデカ社製)等が挙げられる。気相シリカとしては、特に限定するものではないが、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(いずれも日本アエロジル社製)、AERODISP VP W7622、AERODISP W7520N(いずれもdegussa社製)、CAB-O-SPERSE 2017A、CAB-O-SPERSE GP32/12、CAB-O-SIL M5(CABOT CORPRATION社製)、NIPGEL AY200、NIPGEL AY220、NIPGEL AY420、NIPGEL AY451、NIPGEL AY460、NIPGEL AY401、NIPGEL AY601、NIPGEL AY603、NIPGEL AZ200、NIPGEL AZ201、NIPGEL AZ204、NIPGEL AZ260、NIPGEL AZ360、NIPGEL AZ400、NIPGEL AZ410、NIPGEL AZ600、NIPGEL BY200、NIPGEL BY400(いずれも日本シリカ工業社製)等が挙げられる。
【0098】
これら気相シリカは、水に分散させるため適宜濃度を調整してスラリーとすることができる。
これらの水分散性シリカに酸または塩基を適宜添加してもよい。酸または塩基を添加することによって、水分散性シリカの分散安定性が向上する場合がある。
酸として例えば、無機酸として塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸等が挙げられる。塩基として例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0099】
前記珪素化合物(C)の配合量は、化合物(C)と化合物(A)との固形分質量比((C)/(A))が1/100〜5/1であることが好ましく、2/100〜4/1であることがより好ましく、5/100〜3/1であることが更に好ましい。珪素化合物(C)と化合物(A)の固形分質量比が1/100以上であると粒子状物質のアンカー効果あるいは水溶性物質の密着性向上効果が十分となる結果、加工密着性が向上する。また、5/1以下であると、皮膜自体が脆くならない結果、加工密着性が向上し、更に貯蔵安定性も良好となる。
【0100】
本発明の水系表面処理剤は、更に、バナジウム、タングステン、コバルト、アルミニウム、マンガン、セリウム、ニオブ、スズ、マグネシウム、イットリウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、クロムおよびモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(D)を含有するのが好ましい。化合物(D)は、インヒビター(腐食抑制物質)として作用し、クロスカット部および端面部における耐食性を向上させる機能を有する。
化合物(D)による耐食性向上メカニズムは、明確でないが、化合物(D)が価数を幾つかとり得ることがポイントとなっているようである。また、価数変化のない場合でも、pHによってヘテロポリ酸としての形態をとり得る。このヘテロポリ酸が素材表面に吸着し耐食性向上に寄与すると考えられる。
化合物(D)としては、前記金属の炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化錯化合物、有機酸塩、有機錯化合物等が挙げられる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0101】
化合物(D)としては、具体的には、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジウム酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブリン酸アンモニウム、モリブドリン酸ナトリウム、メタタングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、塩化コバルト、クロロペンタアンミンコバルト塩化物、ヘキサアンミンコバルト塩化物、クロム酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、硝酸コバルト、酸化コバルト2アルミニウム、水酸化コバルト、リン酸コバルト、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、塩化ニッケル、ヘキサアンミンニッケル塩化物、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート、リン酸二水素亜鉛、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、リン酸二水素マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン(II)、(III) もしくは(IV)、フッ化マンガン(II) もしくは (III)、炭酸マンガン、酢酸マンガン(II) もしくは (III)、硫酸アンモニウムマンガン、マンガンアセチルアセトネート、ヨウ化マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、酸化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム(III) もしくは(IV)、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウム、塩化セリウム、五酸化ニオブ、ニオブ酸ナトリウム、フッ化ニオブ、ヘキサフルオロニオブ酸アンモニウム、酸化スズ(IV)、スズ酸ナトリウム、塩化スズ(II) 、塩化スズ(IV)、硝酸スズ(II)、硝酸スズ(IV)、ヘキサフルオロスズ酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酸化イットリウム、亜鉛金属単体、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、リン酸二水素亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、ビスマス金属単体、酸化ビスマス、バナジン酸ビスマス、リンバ等モリブデン酸、酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブリン酸アンモニウム、モリブドリン酸ナトリウム、ニッケル金属単体、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、リン酸ニッケル、塩化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、クロム金属単体、クロム酸、重クロム酸、炭酸クロム、塩化クロム、リン酸クロム、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、クロムアセチルアセトナート、クロム酸ストロンチウム、ジンククロメート等が挙げられる。
これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0102】
本発明の水系表面処理剤における化合物(D)の含有量は、化合物(D)と化合物(A)との固形分質量比((D)/(A))が1/100〜1/1であることが好ましく、2/100〜80/100であるのがより好ましく、5/100〜50/100であることが更に好ましい。化合物(D)と化合物(A)の固形分質量比が1/100以上であると十分な耐食性が得られる。また、1/1以下であると、貯蔵安定性が良好となり、耐食性および加工密着性も向上する。
【0103】
本発明の水系表面処理剤は、更に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂(E)を含有するのが好ましい。ただし、前記化合物(A)は、有機樹脂(E)に含まれない。有機樹脂(E)を配合することによって、形成される下地処理層に柔軟性または適度な弾性を付与することができる。その結果、厳しい条件の加工(冷間折り曲げ等)に対しても良好な加工密着性が得られる。
【0104】
前記アクリル樹脂は、アクリル酸、アクリル酸エステル類のラジカル重合またはカチオン重合、アニオン重合によって得られる。これら重合反応に用いられるモノマーとして、特に限定するものではないが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、2−ヒドロキシルエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、s−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート等が挙げられる。更にビニルトリメトキシシラン等を適宜組み込むことによって構造中にアルコキシシリル基を導入することも可能である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
前記ウレタン樹脂は、構成されるモノマー成分であるポリオールおよびポリイソシアナート成分および重合方法は特に限定されるものではない。例えば、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(H12MDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)等の脂肪族、脂環式または芳香族ジイソシアナ−トと、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の鎖中にアミノ基を導入したポリオールを従来公知の方法により重合させ、更に第三級アミノ基を有するポリオール類によって鎖延長される場合もある。アルキル硫酸等でアミンを一部四級化することによってウレタン樹脂を得ることができる。これによって得られたウレタン樹脂はカチオン性官能基を有し、カチオン性官能基として窒素上の置換基を水素、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシルアルキル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。ウレタン樹脂は1種単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0106】
前記エポキシ樹脂としては、特に限定するものではないが、例えば、フェノール、ビスフェノールA、o−、m−、p−クレゾール、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルまたはエステル類、ノボラックフェノール、ポリp−ビニルフェノール等ヒドロキシル芳香族化合物とエピクロロヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール等の脂肪族ポリオール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル類等を、更にアミン類を作用させることにより水溶性官能基を導入したものを用いることができる。これらエポキシ樹脂にシラノール基、アルコキシシリル基、リン酸基、リン酸エステル基を導入することもできる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0107】
前記ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化物であれば特に限定されない。
多塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の二塩基酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の三価以上の多塩基酸が用いられる。
多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタジオール、ネオペンチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族または脂環族の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン等の三価以上の多価アルコールとの反応によって得られるものを用いることができる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0108】
前記化合物(A)を除くフェノール樹脂として、ノボラックフェノール樹脂、ポリビニルフェノール、ポリビスフェノールA等骨格を特に限定するものではないが、その構造中にアルコキシシリル基を有していないものを使用することができる。
【0109】
前記アミド樹脂は、多塩基酸と多価アミンとのエステル化物であれば特に限定されない。
多塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の二塩基酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の三価以上の多塩基酸が用いられ、多価アルコールとしては特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチルトリアミン、へキシレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、テトラメチルエチレンジアミン等の二価アミン等の反応によって得られるものを用いることができる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0110】
前記有機樹脂(E)は、カチオン性またはノニオン性であることが好ましく、その水中での存在形態は、水溶性または水系エマルジョンであることが好ましい。これら有機樹脂(E)は、水への溶解または分散が自己溶解性または自己分散性に基づいて達成されてもよく、またカチオン性界面活性剤(例えばテトラアルキルアンモニウム等)および/またはノニオン性界面活性剤(例えばアルキルフェニルエーテル等)の存在により分散されてもよい。
【0111】
本発明の水系表面処理剤中の有機樹脂(E)の含有量は、有機樹脂(E)と化合物(A)との固形分質量比((E)/(A))が1/10〜10/1であることが好ましく、2/10〜5/1であることがより好ましく、4/10〜3/1であることが更に好ましい。有機樹脂(E)と化合物(A)の固形分質量比が1/10以上であると、これら樹脂の効果が皮膜性能に現れるため好ましい。10/1を以下であると、これら有機樹脂(E)の化合物(A)の効果とのバランスが良好となり、加工密着性、耐食性および耐薬品性がより高くなる。
【0112】
本発明の表面処理剤は、更に、被塗面に均一な皮膜を得るための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤、増粘剤、消泡剤、溶接性向上のための導電性物質、意匠性向上のため着色顔料等を、水系表面処理剤の液安定性や皮膜性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0113】
本発明の水系表面処理剤に用いる溶媒は、通常水であるが、皮膜の乾燥性の改善等の目的で少量(例えば水性媒体全体の10容量%以下)のアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤を併用してもよい。
【0114】
本発明の水系表面処理剤中のpHについては、2.5〜12の範囲であるのが好ましく、4〜7の範囲であるのがより好ましい。pHが2.5以上であると、エッチング過多とならず下地処理剤としての機能を十分に発揮でき、また処理剤の液安定性も良好となる。また、pHが12以下であると、金属材料の溶出を抑制でき、また処理剤の貯蔵安定性も良好となる。
pH調整の必要がある場合には、アンモニア、ジメチルアミンやトリエチルアミン等のアルカリ成分、または酢酸、リン酸等の酸性成分を添加することもできる。
【0115】
本発明の水系表面処理剤における合計固形分濃度の下限については、本発明の効果が達成しうる限り特に制限はないが、上限については本発明の水系表面処理剤の安定性の観点から40質量%以下であるのが好ましい。本発明の水系表面処理剤の合計固形分濃度は、0.1〜40質量%であるのがより好ましく、1〜30質量%であるのが更に好ましく、5〜25質量%であるのがより一層好ましい。
【0116】
次に、本発明のプレコート金属材料の下地処理方法について説明する。
本発明の下地処理方法は、金属材料の表面に、上述した本発明の水系表面処理剤を塗布した後、水洗することなく乾燥して、0.01〜1g/m2の下地処理層を形成する、プレコート金属材料の下地処理方法である。
【0117】
前記金属材料としては、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、アルミ−亜鉛合金化めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板、ニッケルメッキ板、スズメッキ板等一般に公知の金属材料およびめっき板が挙げられる。中でも、亜鉛を含有するめっき鋼板が好適に挙げられる。
【0118】
前記金属材料は、本発明の水系表面処理剤による処理に先立って前処理を行うことが好ましい。
前処理方法は、通常、本処理を行う前に被処理金属材料に付着した油分、汚れを取り除くために、アルカリ脱脂剤または酸性脱脂剤で洗浄するか、湯洗、溶剤洗浄等を行い、その後必要に応じて酸、アルカリ等による表面調整を行う。金属材料表面の洗浄においては洗浄剤が金属材料表面になるべく残留しないように洗浄後水洗することが好ましい。更に、Ni、Co、Ce、V、Mn、Zr、Ti等から選ばれる少なくとも1つの金属原子を含有する酸性またはアルカリ性の表面調整剤を用いて前処理することができる。
これら表面調整剤により、鋼材表面に各々の金属が置換される結果、微細な凹凸が生まれそのアンカー効果によって密着性がより向上する。
【0119】
本発明の水系表面処理剤による下地処理は、水系表面処理剤を塗布した後、水洗せずに、乾燥することにより行う。本発明の方法においては、乾燥前の水洗を行わないため、表面処理剤として構成された成分が全て残存するという利点がある。逆に、水洗を行なった後、乾燥を行なうと表面処理剤成分が鋼材と反応しないため皮膜成分が全て洗い流され鋼材上にほとんど残存しないという欠点がある。
【0120】
本発明の水系表面処理剤の塗布方法については、特に制限されず、例えば、ロールコート法、カーテンフローコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬法、バーコート法、刷毛塗り法等の通常の塗布方法を採用し得る。
水系表面処理剤の温度についても特に制限はないが、本発明の水系表面処理剤の溶媒は水が主体であるため、処理液温度は0〜60℃であるのが好ましく、5〜40℃であるのがより好ましい。
【0121】
本発明の水系表面処理剤を塗布した後の乾燥工程については、化合物(A)の硬化を促進する必要がなく付着水の除去だけを行う場合は必ずしも熱を必要とせず風乾またはエアーブロー等の物理的除去でも構わない。化合物(A)の硬化を促進しまたは軟化による被覆効果を高めるため、加熱乾燥するのが好ましい。この場合の乾燥温度は、50〜250℃であるのが好ましく、60〜220℃であるのがより好ましい。
【0122】
形成される下地処理層の付着量は、乾燥皮膜質量として0.01〜1g/m2であり、0.02〜0.5g/m2がより好ましく、0.03〜0.25g/m2が更に好ましい。乾燥皮膜質量が0.01g/m2未満である場合には十分な耐食性が得られず、1g/m2を超えると皮膜量過多のため凝集破壊が起こりやすくなり加工密着性が低下し、コスト面でも不利になる。
【0123】
なお、前記のようにして形成された下地処理層はプレコート金属材料のための下地処理層として通常用いられるが、接着性に優れていることから、耐指紋性や潤滑性等を付与した1〜3層の皮膜層を上層に有する高機能コーティングの下地としても使用することができる。また、導電鋼板用下地やラミネート鋼板用下地としても用いることができる。
【0124】
次に、本発明のプレコート金属材料の製造方法について説明する。
本発明のプレコート金属材料の製造方法は、金属材料の表面に、本発明のプレコート金属材料の下地処理方法により下地処理層を形成する下地処理工程と、前記下地処理層の上に、樹脂層を形成する塗装工程とを具備するプレコート金属材料の製造方法である。
【0125】
本発明のプレコート金属材料の製造方法における下地処理工程は、本発明のプレコート金属材料の下地処理方法で説明したのと同様に実施される。
【0126】
前記塗装工程は、下地処理層の上に樹脂層を形成できればよく、例えば、下地処理層の上にプライマーを塗布乾燥後、更にトップコートを塗布する塗装法や、プライマーを使用せずに直接トップコートを塗布する塗装法、ラミネートフィルムを貼付する方法等、プレコート鋼板に対して一般的に用いる塗装法を用いて行うことができる。
【0127】
クロムフリープライマーとしては、クロメート系の防錆顔料を配合していないプライマーであればいずれのプライマーでも使用できる。クロムフリープライマーは、通常樹脂および、必要に応じ着色顔料や防錆顔料等を含有する。樹脂としては水系、溶剤系、粉体系等のいずれの形態のものでもよい。樹脂の種類としては一般に公知のもので例えば、ポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブチラール系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂等をそのままあるいは組み合わせて使用することができる。
同時にクロム顔料を配合したクロムプライマーを使用することもできる。クロムプライマーの場合も必要に応じ着色顔料を配合することができる。樹脂としては、水系、溶剤系、粉体系等のいずれの形態のものでもよい。樹脂の種類としては一般に公知のものを使用でき、その具体例もクロムフリープライマーと同様のものを用いることができる。
【0128】
着色顔料としては、チタン白、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料や、ハンザエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料等の有機顔料等公知の着色顔料を用いることができる。防錆顔料としては一般に公知のもの、例えばリン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防衛顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、水分散性シリカ、フュームドシリカ等の微粒シリカ等も用いることができる。また、クロメート系防錆顔料としてストロンチウムクロメート、ジンクロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等が挙げられる。更に、消泡剤、分散補助剤、塗料粘度を下げるための希釈剤等の添加剤も適宜配合することができる。
【0129】
プライマーの塗布方法は特に制限されず、一般に使用される浸漬法、スプレー法、ロールコート法、エアスプレー法、エアレススプレー法等を使用することができる。プライマーの塗布膜厚は、乾燥膜厚として1〜30μmであることが好ましく、2〜20μmであるのがより好ましい。1μm未満では耐食性が低下し、また30μmを超えると加工時の密着性が低下する傾向にある。
【0130】
プライマーの焼き付け乾燥条件は、特に限定されないが、例えば、130〜250℃で、10秒〜5分とすることができる。また、トップコートを塗布した後に一時に加熱乾燥処理を行ってもよい。
【0131】
本発明のプレコート金属材料の製造方法に用いられるトップコートは、特に制限されず、通常の塗装用トップコートのいずれをも用いることができる。トップコートは樹脂および、必要に応じて、着色顔料や防錆顔料等を含有する。
樹脂、着色顔料、防錆顔料およびその他の添加物としては、プライマーで使用したものと同様のものを用いることができる。
トップコートの塗装方法や焼き付け乾燥条件はプライマーの場合と同様でよい。トップコートの塗布膜厚は、乾燥膜厚として、3〜50μmであることが好ましく、5〜40μmであるのがより好ましい。3μm未満では均一な着色外観が得られにくく、さらにプライマーを施さずにトップコートを塗布した場合に耐食性が低下する。また50μmを超えると密着性が低下する上、コスト面で不利になる。
【0132】
上述した本発明のプレコート金属材料の製造方法によって得られる本発明のプレコート金属材料は、塗装密着性、耐薬品性、耐食性および耐コインスクラッチ性および冷間折り曲げ密着性に優れる。
【実施例】
【0133】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0134】
1.化合物(A)の合成
(合成例A1〜A13)
攪拌機のついた反応装置(1Lセパラブルフラスコ)に下記表1に示す芳香族化合物またはその重合物を100重量部と、下記表1に示す量(質量部)の有機溶媒とを入れ、十分に溶解させた。この混合液に下記表1に示すアミン化合物、アミノシラン、36質量%ホルムアルデヒド液、触媒を室温にて順次滴下して加えた後、80℃にて48時間攪拌した。48時間攪拌後、亜硫酸ナトリウムを加えて系内に存在する未反応ホルムアルデヒドを滴定して反応率を求め、反応の進行が終了していることを確認した。
その後、水を加えポリマー成分のみを沈殿ろ過して精製を行い、前記化合物(A)に相当する合成例の各化合物を得た。
【0135】
【表1】

【0136】
表1中の記号の意味は以下のとおりである。
a1−1:ポリp−ビニルフェノール(マルカリンカー、丸善石油化学)
a1−2:ノボラック樹脂(スミライトレジンPR、住友ベークライト)
a1−3:ポリビスフェノールA(三井化学)
a1−4:フェノール−ナフタレン共重合物(新日鐵化学)
a2−1:γ−フェニルプロピルトリメトキシシラン
a2−2:γーアミノプロピルトリエトキシシラン
a2−3:N−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン
a2−4:テトラメトキシシラン
a3−1:2−メチルアミノエタノール
a3−2:ジエタノールアミン
a3−3:N−メチルグルカミン
a3−4:ジメチルエチレンジアミン
a3−5:クロロ硫酸
a4−1:1,4−ジオキサン
a4−2:2−ブトキシエタノール
a4−3:水
a5−1:p−トルエンスルホン酸
a5−2:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド
【0137】
2.水系表面処理剤の調製
下記表2〜5および10〜11に示す化合物(A)、用いる場合の化合物(B)、用いる場合の珪素化合物(C)、用いる場合の化合物(D)、用いる場合の有機樹脂(E)をこの順序で、脱イオン水に、表2〜5および10〜11に記載した固形分質量になるように加え、ついで十分に分散させるため各々の原料を配合後10分間攪拌した。固形分濃度を2%になるように脱イオン水で調整した。
なお、表2〜5および10〜11中、No.1〜38およびNo.65〜81は本発明の表面処理剤であり、No.39〜62およびNo.82〜90は本発明の範囲外である。
【0138】
3.プレコート金属板の作製
3.1 供試材
(i)電気亜鉛めっき鋼板(以下記号:EG)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり20g/m2(両面めっき)
(ii)溶融亜鉛めっき鋼板(以下記号:GI)
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当たり50g/m2(両面めっき)
(iii)アルミ−亜鉛合金めっき鋼板(以下記号:GL)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり50g/m2(両面めっき)
(iv)冷間圧延鋼板(以下記号:CR)
板厚0.8mm
【0139】
3.2 前処理
前記の供試材をアルカリ脱脂剤であるCL−N364S(日本パ−カライジング(株)製)を濃度20g/L、温度60℃の水溶液とし、これにEG材およびGL材を10秒間浸漬し、純水で水洗した後乾燥した。また、GI材については、CL−N364Sを用いた前記と同様の脱脂後、PL−4015(日本パーカライジング(株)製)を用いて100g/Lに建浴した温度50℃の水溶液中に浸漬し、Ni付着量が5mg/m2となる条件のもと表面調整を行った。表面調整後、市水にて水洗し温風乾燥を行った。
【0140】
3.3 下地処理
前処理後の供試材の表面(片面)に、上記で得られた水系表面処理剤を用いて、ロールコーターにて乾燥皮膜量が100mg/m2となるように塗布した後、水洗を行わないで、熱風乾燥炉で到達板温度が80℃となるように乾燥した。
【0141】
3.4 塗装
3.3で作製した各表面処理板の処理表面上に、ポリエステル樹脂をベースとするプライマー(Vニット#160、大日本塗料社製)を塗布し、210℃の乾燥・焼付けにより乾燥膜厚5μmプライマー層を塗装した。
次いで、ポリエステル樹脂をベースとする上塗り塗料(Vニット#5000、大日本塗料社製)を塗布し、220℃の乾燥・焼付けにより乾燥膜厚20μmのトップコートをプライマーに積層し、プレコート鋼板を得た。
【0142】
4.評価試験
作製した各プレコート鋼板から試験片を切り出し、評価対象の塗装面を外側に折り曲げ密着試験、コインスクラッチ試験、耐食試験、耐薬品試験、耐湿試験に供した。
結果を表6〜9および12〜13に示す。
なお、評価基準は、いずれも◎、○、□、△、×に表記した。各評価項目において合格基準を設けた。
【0143】
4.1 耐食性
作製した各試験板の塗膜に、金属素地に達する傷をカッターナイフで入れ、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施した。
判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。また、端面耐食性は、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。
<評価基準−カット部>
◎:2mm未満
○:2mm以上4mm未満
□:4mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
×:10mm以上
<評価基準−端面>
◎:3mm未満
○:3mm以上5mm未満
□:5mm以上8mm未満
△:8mm以上12mm未満
×:12mm以上
評価結果が□以上のものを合格とした。
【0144】
4.2 塗装密着性試験
4.2.1 一次塗装密着性試験(常温)
JIS−G3312の試験法に準じて各試験板について、内側間隔板を挟まない0T折り曲げ試験を20℃で行い、テープ剥離後の塗膜剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って塗装密着性の評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積5%未満
□:剥離面積20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
評価結果が○以上のものを合格とした。
【0145】
4.2.2 一次塗装密着性試験(冷間)
JIS−G3312の試験法に準じて各試験板について、予め−20℃の冷凍庫にて2時間冷却し内側間隔板を挟まない2T折り曲げ試験を冷凍庫から持ち出し直後に行い、テープ剥離後の塗膜剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って塗装密着性の評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離面積5%未満
○:剥離面積20%未満
□:剥離面積20%以上50%未満
△:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
評価結果が△以上のものを合格とした。
【0146】
4.2.3 二次折り曲げ密着性
試験板を沸水中に2時間浸漬した後、1日放置し一次塗装密着性試験と同様の折り曲げ試験を行った。判定基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積5%未満
□:剥離面積20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
評価結果が□以上のものを合格とした。
【0147】
4.3 コインスクラッチ性
10円硬貨を各試験板に対して45°の角度に設置し、塗膜を3kgの荷重、一定速度でこすり、塗膜の傷つき度を肉眼で観察し、下記判定基準に従ってコインスクラッチ性の評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離なし(プライマーの露出のみ)
○:剥離面積5%未満
□:剥離面積20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上80%未満
評価結果が□以上のものを合格とした。
【0148】
4.4 耐アルカリ性
試験板を5%の水酸化ナトリウム水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの発生数と発生密度の評価を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐アルカリ性の評価を行った。
<評価基準>
◎:1つのブリスターが0.2mm未満で且つ発生密度もFである。
○:1つのブリスターが0.2mm以上0.6mm未満で且つ発生密度もFである。
□:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1.0mm未満で且つ発生密度もFである。または、1つのブリスターの大きさが0.2mm以上0.4mm未満で且つ発生密度もMである。
△:1つのブリスターの大きさが1.0mm以上1.5mm未満で且つ発生密度もFである。または、1つのブリスターの大きさが0.4mm以上1.0mm未満で且つ発生密度もMである。または、1つのブリスターの大きさが0.2mm未満で且つ発生密度もMDである。
×:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上である。または、ブリスターの大きさが0.2mm以上で発生密度がMDである。または、ブリスターの大きさに関わらず発生密度もDである。
発生密度に関して使用した記号は以下の意味を有する。
F:ブリスター発生個数がごく僅かである。
M:ブリスター発生個数が少ない。
MD:ブリスター発生個数が多い。
D:ブリスター発生個数が非常に多い。
評価結果が□以上のものを合格とした。
【0149】
4.5 耐酸性
試験板を5%の硫酸水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの発生数と発生密度の評価を行った。判定基準は4.4と同様である。
<評価基準>
◎:1つのブリスターが0.2mm以下で且つ発生密度もFである。
○:1つのブリスターが0.2mm以上〜0.6mm未満で且つ発生密度もFである。
□:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上〜1.0mm程度で且つ発生密度もFである。または、1つのブリスターの大きさが0.2mm〜0.4mm程度で且つ発生密度もMである。
△:1つのブリスターの大きさが1.0mm〜1.5mm程度で且つ発生密度もFである。または、1つのブリスターの大きさが0.4mm〜1.0mm程度で且つ発生密度もMである。または、1つのブリスターの大きさが0.2mm以下で且つ発生密度もMDである。
×:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上である。または、ブリスターの大きさが0.2mm以上で発生密度がMDである。または、ブリスターの大きさに関わらず発生密度もDである。
評価結果が□以上のものを合格とした。
【0150】
4.6 耐湿性
試験板の塗膜に金属素地に達する傷をカッターで入れ、湿度98%、温度40℃の雰囲気の恒温恒湿機に1000時間放置した。判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。
<評価基準>
◎:1mm未満
○:1mm以上2mm未満
□:2mm以上4mm未満
△:4mm以上6mm未満
×:6mm以上
評価結果が○以上のものを合格とした。
【0151】
4.7 水系表面処理剤の貯蔵安定性
水系表面処理剤を40℃恒温装置に貯蔵した後のゲル化または沈殿が肉眼で観察できるまでの期間を、次の基準に従って貯蔵安定性を評価した。
<評価基準>
○:3ヶ月間変化無し
□:1ヶ月間変化なし
△:1ヶ月未満にて増粘
×:1ヶ月未満での沈殿発生あるいはゲル化
□以上のものを合格とした。
【0152】
【表2】

【0153】
【表3】

【0154】
【表4】

【0155】
【表5】

【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
【表8】

【0159】
【表9】

【0160】
【表10】

【0161】
【表11】

【0162】
【表12】

【0163】
【表13】

【0164】
表2〜5および10〜11中の各成分は下記のとおりである。
B1:テトラフルオロホウ酸
B2:チタンフッ化水素酸
B3:ジルコニウムフッ化水素酸
B4:ケイフッ化水素酸
B5:塩基性炭酸ジルコニウム
【0165】
C1:気相シリカ(CAB−O−SIL M5、CABOT CORPORATION製)
C2:コロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学社製)
C3:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学社製)
C4:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM−903、信越化学社製)
【0166】
D1:炭酸ニッケル
D2:バナジルアセチルアセトナート
D3:チタンアセチルアセトナート
【0167】
E1:ポリエステルポリオール系ウレタン樹脂(一工社製、SF600、カチオン)
E2:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ社製、デナコール EX821)
E3:スチレン系アクリル樹脂(昭和高分子社製、ポリゾールAP1350、カチオン)
【0168】
5.評価結果
表6〜8中の実施例1〜41および表12中の実施例42〜58は、本発明の水系表面処理剤(表2〜3のNo.1〜38および表10〜11のNo.65〜81)を塗布後乾燥して皮膜を形成させたEG、GI、GLおよびCRのいずれかの金属材料の塗装板性能であり、耐食性(×カットおよび端面耐食性)、一次塗装密着性(常温)、二次塗装密着性、コインスクラッチ性、耐薬品性および耐湿性の各性能が金属材料に関わらず何れも良好であり、また水系表面処理剤の貯蔵安定性も良好であり、比較例1〜22および比較例23〜31(表4〜5のNo.39〜62および表10〜11のNo.82〜90)より良好な性能を示した。
一方、本発明の範囲外である表8〜9中の比較例1〜22(表4〜5のNo.39〜62)および表13の比較例23〜31(表10〜11中No.82〜90)の水系表面処理剤は、耐食性(×カット部および端面耐食性)、一次塗装密着性(常温、冷間)、ニ次塗装密着性およびコインスクラッチ性、耐薬品性、耐湿性並びに水系表面処理剤の貯蔵安定性の少なくとも2つが劣っており性能のバランスがとれなかったか、または対応する実施例より劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート金属材料の下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、
アルコキシシリル基と、芳香環と、前記芳香環に直接結合しているヒドロキシ基と、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基および第四級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ基とを有する水溶性の化合物(A)と、
ホウ素、チタン、ジルコニウムおよびケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(B)とを含有する水系表面処理剤。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基が、前記アミノ基の窒素原子に直接またはアルキレン基を介して結合している請求項1に記載の水系表面処理剤。
【請求項3】
前記化合物(B)が、テトラフルオロホウ酸、チタンフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸およびそれらの金属酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の水系表面処理剤。
【請求項4】
更に、水分散性シリカおよびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種の珪素化合物(C)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の水系表面処理剤。
【請求項5】
更に、バナジウム、タングステン、コバルト、アルミニウム、マンガン、セリウム、ニオブ、スズ、マグネシウム、イットリウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、クロムおよびモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(D)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の水系表面処理剤。
【請求項6】
更に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂(E)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の水系表面処理剤。
【請求項7】
金属材料の表面に、請求項1〜6のいずれかに記載の水系表面処理剤を塗布した後、水洗することなく乾燥して、0.01〜1g/m2の下地処理層を形成する、プレコート金属材料の下地処理方法。
【請求項8】
金属材料の表面に、請求項7に記載のプレコート金属材料の下地処理方法により下地処理層を形成する下地処理工程と、
前記下地処理層の上に、樹脂層を形成する塗装工程とを具備するプレコート金属材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のプレコート金属材料の製造方法によって得られるプレコート金属材料。

【公開番号】特開2009−280889(P2009−280889A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137002(P2008−137002)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】